説明

表面−固定化生物学的分子の活性増大のための化学的表面ナノパターン

本発明は、表面不動化された生物学的分子の活性及び生物学的認識特性を改善する目的で、生物学的分子のナノパターン化において起こり得る問題を解決する為に達成された。本発明の一側面に従った生物学的検出の為の構造は、該構造の均質表面に作成されるファウリング及び非ファウリング領域の大規模な化学的ナノパターン;及びファウリング領域に封じ込めされた生物学的分子を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生物学的認識表面のための技術に関するものである。
【0002】
この出願は、先行する米国仮出願である、2007年5月18日に提出された第60/938,782号に基づき、かつ優先権の利益を主張するものであり、その内容の全てが引用によってこの明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
生物学的分子を小型の生物学的―電子的装置に組み入れるため、また、特には生物学的分子の検出に関して、高度な並列的検出能を有する複合的な生物機能性のインターフェイスを作成することをねらいとして、抗体類、ヌクレオチド類、DNA断片等の生物学的分子のパターン形成については長年興味が持たれてきた(例えば、A.S.Blawas & W.M.Reichert, Biomaterial, Vol. 19, pp. 595−609, 1998及びcを参照)。
【0004】
利用可能なパターン化技術のうち、サブミクロンにおける生物学的分子のパターン化、すなわち“ナノパターン化”は、微生物、細胞、タンパク質、およびヌクレオチド等の天然の生物学的系の尺度に合致する構造及び長さの尺度を有する複合的生物官能性のインターフェイスを創生する可能性を提供する。従って、細胞及び微生物の成長、組織工学、移植技術等の複合的生物工学的展開におけるナノパターン化による効果の視点、並びにアレイ・フォーマットにおける多重的生物学的検出に関して高い期待が生じた(例えば、K.L.Christman et al., Soft Matter, Vol.2, pp.928―939,2006及びその参照文献;P.Mendes et al.,Namoscale Research Letters,Vol.2,pp.373−384,2007及びその参照文献を参照)。
【0005】
高い構造密度が達成可能であることに加えて、ナノパターン化は、表面固定化されるべき生物学的分子と同様な寸法、又はその数倍のパターンを創生するという優位性を提供する。従って、このような手段によって生物学的分子の吸着反応、配向、及び活性に対して作用させるべく試みがなされてきた。次に、本発明に最も関連する分野の研究を要約する。
【0006】
Velsesia等(Langmuir,Vol.22、pp。1763−1767,2006)は、ヘキサデカンチオール(HDT)マトリクスに埋設された100nm程度の直径のメルカプトヘキサデカン酸(MHA)の自己会合した単分子層(SAMs)の円形パッチからなるナノパターンを調製した。該パターンは、自己会合したポリスチレンマイクロ粒子をマスクとして使用し、下層の均質MHA SAMを構築して生成された。これらの表面から得られた酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)測定が、非構造化同等物のシグナルに比して4倍高いシグナルを与えることが示された。著者らは、原子間力顕微鏡(AFM)測定により導かれる高さ分布から、BSAがMHAパッチにより好ましく吸着されるものと結論付けた。著者らは、更にBSAが楕円体様分子であることを示したが、その一方で、パッチの内と外で分子配向に差異があることに起因する観察された高さの分布を説明するに際して、この事実を考慮することを怠った。
【0007】
Cai等(Y.Cai及びB.M.Ocko,Langmuir,Vol.21,pp.9274−9279,2005)は、シリコン表面上のポリ(エチレングリコール)(PEG)マトリクスにおけるカルボン酸末端化SAMの直径60nm以下又は120nm以下程度のパッチからなるパターン化自己会合単層を形成する為に、マスクとして直径300nmの自己会合ポリスチレンコロイドビーズを使用した。著者らは、リゾチームが−COOH含有領域内に選択的に吸着することを示した。ポリクローナルリゾチーム抗体を使用することにより、著者らはナノパターン化リゾチームが生物学的活性を維持していることを見出した。しかしながら、著者らは非パターン化試料に対比してパターン化に起因する生物学的活性の増大については報告していない。
【0008】
Agheli等(Nano Lett.,Vol.6,pp.1165−1171,2006)は、コロイドリソグラフィーの方法により、シリコン表面上に金ナノドームを調製した。彼らは、100nmのポリスチレンコロイド状ビーズを、シリコンウエハー上にランダムな様式にて吸着させ、アルゴンイオンフライス削りによって基本的な金層を構造化した。次いでポリL−リジン−g−ポリエチレングリコール(PLL−g−PEG)層を、この複合表面に吸着させた。著者等は、金ドーム上のPLL−g−PEGの厚さが、そのままの酸化ケイ素表面の約80%であることを報告している。次いで、ラミニンタンパク質を該表面に吸着させ、これはPLL−g−PEGのドームに対するより弱い結合性のために、金のドームに優先的に吸着された。著者等は、金のドーム上で、PLL−g−PEG層が吸着したラミニンにより完全に置き換えられたものと推定している。しかしながらこの仮説は、該文献においては証明されることなく残されている。次いで、ラミニンの生物学的活性が、ポリクローナル及びモノクローナル抗−ラミニン抗体の手段により試験された。ラミニンのIKVAV部位に特異性を持たされたモノクローナル抗体が、弱いシグナルを示すに過ぎなかった一方、ポリクローナル抗体はナノパターン化ラミニンに対しての優位な結合を示した。著者等は、この系の研究のために、AFM及びクォーツ結晶微量天秤(QCM)測定を使用した。QCM測定の手段により、彼らは、ポリクローナル抗体の結合性に関して、非パターン化金被覆シリコンウエハー上に吸着したラミニンに比較してナノパターン化ラミニンのより高い生物学的活性を観測している。著者等はこのより高い活性を、タンパク質排除性のPLL−g−PEG層からのタンパク質のあふれだしを許容し、しかして特異的結合を妨害するであろう立体効果の低減を許す金ドームの三次元的な特性として説明している。
【0009】
Valsesia等(Advanced Functional Materials,Vol.16,pp.1242−1246,2006)は、コロイド状ビーズの自己会合をプラズマ−蒸着技術と組み合わせることにより、ポリエチレングリコールのマトリクスにおいてポリアクリル酸(PAA)のドーム形成を示した。更に著者等は、蛍光性タンパク質の化学吸着がPAA構造物に優先的に起こることを示すべく、共焦点顕微鏡分析を使用した。このようなパターン化タンパク質の活性に関する実験は、遂行されていない。
【0010】
Wadu−Mesthrige等(K.Wadu−Mesthrige等.,Biophysical Journal,Vol.80,pp.1891−1899,2001)は、自己会合単分子膜技術とAFM−ベースのナノリソグラフィーとを組み合わせることによりタンパク質−及び抗体ナノパターンを調製した。AFMは、液体条件下にて予め均質的とした自己会合単分子膜中にナノ・ホールを作成するために使用されたが、ここにおいて液体は第2部位を含んでおり、これは、次いでAFMチップにより表面を引っかくことにより形成されたナノ・ホールに直ちに吸着した。第2部位は、更にタンパク質又は抗体を選択的に固定化することを許容する尾部末端基を含んでいた。本発明とは対照的に、著者等は、形成されたナノパッチのみならず、全表面へのタンパク質、とりわけ抗体の固定化を観察した。従って、彼らは物理吸着した分子をマトリクスから除去する洗浄工程を導入し、同時にナノパッチに化学吸着した抗体は残留させた(前記文献の1892頁参照)。本発明とのこの差異により、著者等は、本発明における知見に対比して、封じ込めの欠落のためにナノパッチ上の抗体/抗原複合体のより低い密度及びとりわけより低い高さとを観察した(例えば、前期文献の図5及び本発明の図4を参照)。
【0011】
PEG誘導体のタンパク質吸着への抵抗能力は、研究において熱を注がれる分野であった(J.M.Harris,編“Poly(ethylene glycol)chemistry:biotechnical and biomedical applications”,Plenum Press:New York,1992,pp,199−220).
【0012】
例えば本発明において使用されるように、ナノパターン化の応用に対する特定の興味は、好適な基材上に自己会合単分子膜(PEG−SAMs)を形成する潜在能力を有するPEG誘導体にあった(C.Pale−Grosdemange,J.Am.Chem.Soc.,Vol.113,pp.12−90,1991;Kingshott,P.;Griesser,H.J.Curr.Opin.Solid State Mater.Sci.1999,4,403−412;Morra,M.J.Biomater.Sci−Polym.Ed.1999,10,1125−1147;Morra,M.J.Biomater.Sci−Polym.Ed.2000,11,547−569;J.C.Love等,Chemcal Review,Vol.105,1103−1169,2005及びそれらの参照文献)。
【0013】
それらの高いタンパク質−及び細胞−抵抗性のために、PEG−SAMsは、表面上のタンパク質、抗体、細胞、及び微生物のパターン形成に成功裏に適用されてきた(G.P.Lopez等,J.Am.Chem.Soc.,Vol.115,pp.10774−10781,1993;R.S.Kane等,Biomaterials,Vol.20,pp.2363−2376,1999;S.W.Howell等,Langmuir, Vol.19,pp.436−439,2003;Mrksich等,Exp.Cell Research,Vol.235,pp.305−313,1997;B.Rowan等,Langmuir,Vol.18,pp.9914−9917,2002;S.Rozhok等,Langmuir,Vol.22.pp.11251−11254,2006)。Howell等は、基材の非官能化領域に対するより、相補的な抗体パターンに対して、標的バクテリアがより高い結合選択性を有することを報告している。しかしながら、同様な相補的抗体により修飾された非パターン化表面との比較は行われていない。結局のところ、パターンのファウリング・パッチと同様な化学的特性の非パターン化表面にて観察されるものを越える表面不動化された生物学的分子、細胞又は微生物のパターン化による活性の増大は、文献的にはこれまで報告されていない。
【発明の開示】
【0014】
本発明は、上述した関連技術において起こり得る問題を解決する為に達成された。
【0015】
本発明の一側面に従った生物学的検出のための構造は:ファウリングの大規模な化学的ナノパターン及び該構造の均質的表面に形成された非ファウリング領域;並びに該ファウリング領域に封じ込めされた生物学的分子を含んでなる。
【0016】
本発明の一側面に従った生物学的検出のための構造は:ファウリングの化学的ナノパターン及び該構造の均質的表面に形成された非ファウリング領域;並びに該ファウリング領域に封じ込めされた抗体を含んでなる。
【0017】
本発明の一側面に従った生物学的検出のための構造は:ファウリングの大規模な化学的ナノパターン及び該構造の均質的金属表面に形成された非ファウリング領域;並びに該ファウリング領域に封じ込めされた生物学的分子を含んでなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、広い領域に亘り均質な大規模ナノパターンの調製方法を示している。
【0019】
【図2】図2は、(a)本発明によるナノパターン化を保有するオンチップバイオセンサ基材;及び(b)本発明によるナノパターンを含むマイクロパターン化領域(8)を保有するオンチップ多重化バイオセンサ基材を示している。
【0020】
【図3】図3は、(a)本発明の図1の工程(d)に従って金基材上に沈積されたコロイド状マスクの走査電子顕微鏡(SEM)画像;並びに(b−d)反応性イオンエッチング(RIE)(図1の工程(e)による)及び引続くコロイド状マスクの除去の後に清浄な金表面上に形成されたMHAナノパターンのAFM摩擦力画像を示している。
【0021】
【図4】図4は、生物学的分子吸着の前後におけるナノパターンのAFMタッピングモード(TM)及び摩擦力(FF)画像を示し;a)生物学的分子吸着に先立ったPEG−SH−SAMに埋設されたMHAパッチのTM画像;b)生物学的分子の配列(α−MIgG−BSA−MIgG)に暴露された後の(a)に示す表面のTM画像;c)生物学的分子吸着に先立ったCH−SAM中に埋設されたMHAパッチのFF画像;d)(b)におけるものと同様な生物学的分子の配列に暴露された後の(c)に示す表面のTM画像;下段は対応する画像(a)、(b)及び(c)に示された直線的走査の高さ分布(a’)、(b’)及び(d’)をそれぞれ示す。
【0022】
【図5】図5は、説明文に示すように(上側半分)C1S及びO1s領域を示すXPSスペクトル及び(下側半分)均質的かつナノパターン化されたSAMのCH及びCOC伸長領域を示す赤外反射吸収分光(IRRAS)のデータを示す。RIE30/60s+PEGとして示される試料は、最初にMHAにより被覆され、次いでRIEプラズマ中にてそれぞれ30秒間及び60秒間処理され、続いてPEG溶液中に浸漬された。
【0023】
【図6】図6は、表面プラズモン共鳴(SPR)の技術を使用した表面での結合事象の検出原理を示す概略図である。
【0024】
【図7】図7は、物理吸着及び化学吸着のプロトコルを介しての表面への抗体吸着を示す概略図である。
【0025】
【図8】図8は、(I)抗−マウスIgG、(II)BSA及び(III)マウスIgGの添加に対応する応答を示すPEG及びMHA参照チップのビアコア(Biacore)のセンサ記録の図である。PEG参照チップのセンサ記録は、何らかの応答を全く欠くことにより示されるように、優れたタンパク質抵抗性を示している。
【0026】
【図9】図9は、異なった均質的かつナノパターン化されたAu表面上で行った免疫反応実験の3つの連続する工程に対応するSPR応答を示す。曲線は、それぞれの表面により名前を付されている(パターンの命名法は、“ナノパッチ/マトリクス”であり、例えば、MHA/HDTは、HDT−SAMマトリクス中に埋設されたMHA−SAMナノパッチを意味し、パターンの他のタイプについてもこれに従う。)
【0027】
【図10】図10は、均質的かつナノパターン化SAMの抗原結合能(ABC)を比較する棒グラフである。棒線は、試料ごとの統計的誤差を示す。総数26の実験の結果が示されている。
【0028】
【図11】図11は、エッチング用マスクとして200nmの公称直径を有するコロイド状ビーズを使用した実験の分析であり;(a)抗−マウスIgG吸着、BSA不動態化(1%)及びマウスIgGの抗−マウスIgGに対する特異的結合の3つの連続する工程に対するSPR応答;(b/c)抗体/抗原複合体の吸着に(a)先行する及び(b)その後のSPRチップ上に形成されたMHA/PEG−SH SAMナノパターンのAFM地形画像を示し、各画像の下段の直線的走査は、画像中に示した破線に沿っての高さの断面である。
【0029】
【図12】図12は、MHA、PEG参照試料及び無作為に混合したMHA/PEG SAMのIRRAスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に関する具体的な態様を、添付の図面を参照しつつ以下に詳細に説明する。
【0031】
用語の定義
ナノパターン: ナノパターンは、1μmを下回る構造を構成する個々の特性の大きさを持った構造体である。ナノパターンは、その特徴的大きさおよびその総体としての水平的伸展の大きさにより特徴づけられる。特徴的大きさ及び水平的伸展の両者は、一般的にナノパターンの製作方法に依存する。
【0032】
大規模ナノパターン: 顕微鏡的解像度、即ちナノパターンの特徴的大きさと同じ次元の解像度を持たない分析的方法によるナノパターンの研究を許容するに十分大きい総体的伸展を有するナノパターンである。そのような非顕微鏡的方法は、限定されるものではないが、表面プラズモン共鳴、クォーツ微量天秤、音響波センサ、偏光解析法、反射率測定法、赤外分光法、非線形光学分光法、X線光電子分光法、インピーダンス分光法、表面ポテンシャル測定、接触角測定法、電気化学的表面測定法、及び他の表面分析的な手段であり得る。それぞれの非顕微鏡的方法の足跡に合致するに十分に大きいことに加えて、大規模ナノパターンは、その伸展に亘って十分な均質性を示さねばならない。従って、“十分な均質性”とは、構造における僅かな変動が、例えばそれらの密度に関して、適用される方法の水平的分解能の限界を下回る長さのスケールであるべきことを意味する。よって、該方法は、ナノパターンの設定面積に亘る平均値を単に測定することになろう。
【0033】
ファウリング及び非ファウリング表面: ファウリング表面は、自然な状態に近い条件下、例えば生理学的条件下において、生物学的分子が含有する溶液に曝された場合に、生物学的分子の吸着を示す表面である。一方で、非ファウリング表面は、これらの条件下でこのような吸着を阻害する。ほとんどの場合において、ファウリング表面を非ファウリングの表面とするために、表面被覆が用いられる。このような表面被覆は、他の生物学的分子のさらなる吸着を阻害するBSA等の生物学的分子又は生物学的高分子、又はポリ(エチレングリコール)等の有機材料の何れであってもよい。しかして、ファウリングの阻害の程度は、被覆無しの場合に対する被覆を有する場合に吸着する生物学的分子の良否を測定することにより定量化されうる。従って、被覆(又は被覆表面)は、非被覆表面に比較して吸着する生物学的分子の量が90%を超えて低減される場合に、しばしば“非ファウリング”と称される。
【0034】
均質な基材: 均質な基材とは、単一の物質からなるか、あるいはナノスケールの特性の尺度まで均質である基材のいずれかである。例えば、異なる2種の金属晶子の混合物からなる多結晶金属合金は、異質性の長さの尺度が基材表面に構築されるナノパターンの尺度より小さい限り、均質な基材である。典型的には、そのような合金の晶子は、直径において数ナノメートルであり、ランダムに混合しており、一般的にはこの条件を満たすであろう。基材は、ナノパターンを有する最上部の層を持った材料の層からなるものでもよい。しかして、最上部の層、例えば金属薄膜が、先に定義した意味において均質である限り、基材は均質であるといわれる。
【0035】
化学的パターン: 化学的パターンは、基材の表面の物理化学的性質が修飾されることにより形成されるパターンである。そのような修飾は、限定されるものではないが、表面のぬれ特性、表面の極性についての変化、化学反応性、電気的導性及び抵抗性、並びに/又は表面の光学的性質の局部的変化であり得る。例えば、有機分子が均質な基材の表面に吸着されうる。異なった分子が、表面の異なった領域に置かれ、もってそれら自体の特性に従ってその領域の表面化学を変化させる。ファウリング及び非ファウリング特性を有する有機分子の化学的パターンは、均質的基材の表面にファウリング/非ファウリングパターンを調製する為に使用されうる。
【0036】
連続的金属表面: 連続的金属表面は、閉じた表面、即ち直径において数ナノメートルのピンホール欠落のみを呈する表面である。特に、連続的金属表面は導電性であり、(原理的には)表面プラズモンの励起を許容し、即ち、そのような励起を許容するべき条件下で使用された場合に表面プラズモンの励起を許容する。
【0037】
表面の抗原結合能: 表面の抗原結合能は次のように表わされる:
(数1)
抗原結合能=抗原応答/抗体応答 X 100 (%)
【0038】
略号
ABC − 抗原結合能
SAM − 自己会合単分子膜(有機分子のもの)
MHA − メルカプトヘキサデカン酸
HDT − ヘキサデカンチオール
PEG − ポリエチレングリコール
PEG−SH − メルカプトポリエチレングリコール
MHA/PEG − PEGマトリクス中にMHA孤立斑を有するパターン化表面
MHA/HDT − HDTマトリクス中にMHA孤立斑を有するパターン化表面
EDC − 1−エチル 3−(3−(ジメチルアミノ)プロピル)カルボジイミド
NHS − N−ヒドロキシスクシンイミド
PS − ポリスチレン
RIE − 反応性イオンエッチング
AFM − 原子間力顕微鏡
SEM − 走査電子顕微鏡
IRRAS − 赤外反射吸収分校法
XPS − X線光電子分光法
NSL − ナノ球体リソグラフィー
【0039】
基本概念
生物学的検出のために使用される標識非含有技術のさらなる発展における鍵となる目標の一つは、所望の分析対象物を標的とするべく使用される生物学的プローブの活性を至適化することである。ほとんどの技術が特異的認識事象と物理的変換機構との間を結合する表面へのプローブの固定化に依存するため、このことが主要な課題である。しかしながらこのプローブの封じ込めは、活性部位の機能低下又はブロックを招く低減された接近可能性、立体障害、プローブ表面相互作用など、多くの制限のため、液体中の自然な状態に比較して、その活性を制限する(S.V.Rao等、Mikrochim.Acta,128,127,1998)。従って、天然状態に近いようにしてプローブを固定化する戦術が、この10年間、集中的に探索されてきた(S.Chen等、Langmuir,19,2859,2003)。封じ込め表面に関して活性部位の至適配向を保証する方向付けされたプローブの吸着に関する種々の試みに加えて、ナノパターン化は、その間近な環境を好適にあつらえることにより、プローブの接近可能性及び機能を増大させることに寄与する。そのようなあつらえは、作成されるパターンがプローブの次数の規模であり、それによって関連する尺度における構造及び地形の精細な調節が許容される場合に、有望であることが証明される。
【0040】
その重要性にもかかわらず、プローブ活性に対するナノパターン化の効果に関する研究は簡単な仕事ではない。ナノパターン化基材と非パターン化対応物との既存の生物学的検出技術を使用する直接対比は、ナノパターンが、適当な均質性と統合性を持って広い領域に展開していることを要求する。このことは、典型的には数百ミクロンから数ミリメートルの感知範囲を持った技術状況のシステムを使用するそれらの研究を可能とするであろう。要求されるナノメートルの尺度において水平方向の解像度を与える走査プローブ顕微鏡等の顕微鏡技術は、液体にて実施される場合を除いて、主として形態学的及び弾性等の表面結合分子種の機械的性質について説明する。従って、固定化された生物学的分子の構造及び状態に関する情報は、それらのデータからは取出し難い。
【0041】
従って、我々は、大規模ナノパターンの可能性を利用し、このことは表面の広い領域からの平均的情報を生み出す表面分析のための道具を用いた分析を可能とする。この目的のために、我々はナノ球体リソグラフィー(NSL)を利用するが、これは該方法が、例えば電子ビームリソグラフィー又は走査プローブ−関連リソグラフィー等の他のナノパターン化技術に比べて安価であり、かつ極めて単純な手法を含むことから、近年ではパターン化技術として広く使われる道具となっている。NSLは、また、有機および無機材料の広範囲にわたって適用されうる。自己会合単分子膜(SAM類)の選択的蒸着と組み合わせた場合、NSLは基材の生物学的官能化のための相応な道具を与えて、次世代のバイオセンサ又は生物学的模倣道具を創生する。
【0042】
本実施態様に従った構造の新規な特徴は、表面プラズモン共鳴、クォーツ微量天秤、表面音響波、偏光解析法、蛍光標識、ELISA又はその他の好適な方法を介して、生物学的検出のための構造として表わされ得、ここにおいて該構造は、構造表面上に作成されたファウリング領域および非ファウリング領域のナノパターン及びファウリング領域に封じ込めされた抗体を含む。例えば、非ファウリング領域は非ファウリングマトリクスであり、ファウリング領域は非ファウリングマトリクスに組み込まれたファウリングパッチであり、また抗体はファウリングパッチ中に封じ込めされている。該ファウリング領域および非ファウリング領域が、ナノパターンを形成する。驚くべきことに、発明者等は、この構造に従えば抗体活性が、ファウリング領域のみからなる非パターン化表面を有する構造に比べて増大することを見出した。例えば、該構造、ファウリング領域及び非ファウリング領域は、図1において後にそれぞれ説明するように、シリコン又はガラス基材1、ファウリングSAMのパッチ(MHA3)及び非ファウリングマトリクス(PEG−SH SAM5)に対応する。
【0043】
本実施態様に従った構造の新規な特徴は、異なる形で、即ち金属表面を有する構造、及び該金属表面に形成されたファウリング領域と非ファウリング領域の大規模ナノパターン、並びに該ファウリング領域に封じ込めされた生物学的分子として表現されうる。例えば、金属表面は連続的表面(例えば薄い金属フィルム)であり、パターンは、コロイド状粒子の自己会合により形成される大規模パターンである。連続的金属フィルム上の生物学的分子のこのような大規模パターンの形成は、該パターンの検出及び分析のための高感度な標識非含有の方法の適用を許容する。適用可能な方法の高い感度のため、非パターン化表面を有する構造と比較して増大した抗体活性が測定可能となる。
【0044】
発明者は、改善された感度を有するバイオセンサ表面の研究においてこの発明をなしたのであるが、この発明は、均質表面上に作成されたファウリング領域及び非ファウリング領域のナノパターンの、ファウリング領域に封じ込めされた生物学的分子の改善された生物学的認識特性に関連する実施態様についてより広い範囲を包含する。この改善された生物学的認識のために、本発明における他の有用な実施態様は、細胞増殖及び細胞培養の応用、組織工学、並びに移植の生物学的適合性の改善等に関する。このことは以下のように知ることができる。
【0045】
ほとんどの細胞は、in vivoにおいて自由に懸濁されているのではなく、いわゆる細胞外マトリクス(ECM)に付着しており、これは適切に機能するため、即ち通常の代謝、増殖及び分化(N.Boudreau及びM.Bissel, Curent Opinion in Cell Biology, Vol.10,pp.640−646,1998)の為に、不溶性タンパク質及びグリコアミノグリカンの集合から形成されるナノ尺度を持った階層的に組織された三次元有機ネットワーク(P.P.Girard等、Soft Matter,Vol.3,pp307−326,2007及びその参照文献)である。組織体及び組織の機械的特性を維持することに加えて、ECMは、環境的な要求に対する細胞機能及び細胞応答を維持する為に重要な特異的細胞刺激の発生に対しても責任を担い、これは、ペプチド及びECMの炭化水素リガンドによって引金をひかれ、次いで細胞受容体によって認識されうる。従って、組織工学、ニューロン誘導及び完全に生物学的適合性を持った移植の開発への応用の為に、人工的表面における細胞増殖を促進するべく、ECMの構造及び機能を模倣することは、生物学的ナノテクノロジーの最先端研究の主要な目的の一つである。十分に研究された戦略は、細胞の自然な宿主環境を模倣する為のECM分子による人工的表面の被覆を含む。例えば、ECM糖タンパク質であるフィブロネクチンは、RDGペプチド配列を含み、これは例えば哺乳動物細胞の膜中に存在するインテグリン受容体に特異的に結合する(R.D,Bowditch等、J.Biolog. Chem.,Vol.269,pp.10856−10863)。次いでインテグリンは、限局的粘着点を形成することでよく知られており、これはECMに対する細胞シグナル及び細胞粘着において重要な役割を演じる(F.G.Giancotti及びRuoslahti,Science,Vol.285,pp.1028−1032, 1999)。従って、フィブロネクチン−被覆人工的表面は、上皮細胞等の哺乳動物細胞に結合することが報告されている(例えば、M.Mrksich等、Exp,,CellRes.,Vol.235,pp.305−313,1997参照)。
【0046】
しかしながら、Mrksichにより指摘されているように(M.Mrksich,Chemical Society Review,Vol.29,pp267−273,2000)、人工的表面と細胞との間の界面として使用されるタンパク質、糖タンパク質又は他のECMマトリクス分子は、表面吸着過程において構造的変化を受け、しかしてそれらの本来の機能を失うため、この概念には限界がある。更に、表面上の機能的受容体の密度は、細胞受容体を標的とするリガンドのいくらかが、表面との相互作用又は表面に強く制限された環境における立体障害の為、不活性化されうることから、不十分な調節可能性を持ってとどまる。Garcia及び共同研究者らにより報告されているように、この種の効果は、同じ細胞粘着分子を使用した場合にさえも異なった細胞の挙動を起こし得、彼らはフィブロネクチンを、異なった種類のポリスチレン基材に対する細胞粘着表面被覆として使用した場合に、顕著な基材効果を見出した(A.J.Garcia等、Mol.Biol.Cell,Vol.10,pp.785−798,1999)。より最近になって、Spatz及び共同研究者らは、ナノメートル尺度におけるインテグリンリガンドの密度についての僅かな変化が、対応する表面において細胞が粘着するか、あるいは移動を続けるかについて決定的であることを示した(M.Arnold等、Chem.Phys.Chem.,Vol.5,pp.383−388,2004;E.A.Cavalcani−Adam等、European Journal of Cell Biology, Vol.85,pp.219−224,2006)。
【0047】
従って、幹細胞の発達及び増殖に対する外部刺激の影響に関する幹細胞研究等、組織工学、移植技術及び基礎研究における応用の為に、細胞の接着、成長、増殖及び機能の促進、制御及びプラグラム化が可能な複合的生物−有機表面の将来的発展は、細胞受容体リガンドの所望の密度、機能性及び活性を持った表面を創生する能力に強く依存する。ナノパターン化が表面結合抗体の活性、より一般的には表面の生物学的分子の活性を改善するという本発明にかかる驚くべき観察は、しかして細胞−表面相互作用の改善に直接的に適用されうる。例えば、特定のインテグリン又は特定のインテグリンサブユニットを標的とする種々の抗体が、商業的に入手可能である(例えば、Millipore社、Billerica,USAは、それぞれ異なる種のインテグリン又はインテグリンサブユニットに特異的な150種を超える抗−インテグリン抗体を提供している。)。従って、本発明の方法によって、活性インテグリンリガンドの高密度を持ったナノパターンが作成され得、これにおいて各リガンドは高い特異性の様式を以って標的細胞に向けられうる。しかして、リガンドの密度及び性質、並びにそれらの表面上の組成の、細胞接着、増殖及び機能に対する影響は、容易に研究可能となる。この背景における抗体の使用は、RDG配列(線形又は環状)が、それらが結合する可能性を持った標的の数と、それらに対する親和性とにおいて限定されることからして(M.C.Beckerle編、“Cell Adhesion”,B.D.Hames,D.M.Gloverシリーズ編、“Frontiers in Molecular Biology”,Oxford University Press, Oxford, UK,pp.100ff,2001;M.Kato & M.Mrksich, Biocheistry,Vol.43,pp.2699−2707,2004及びそれらの参照文献)、最先端研究において使用される環状RDG配列の使用(例えば、M.Arnold等、E.A.Cavalcanti等参照)に対して優位性が約束されることに注意しなければならない。しかしながら、抗体類は、より高い特異性及び選択性(例えば、インテグリン又はRDGに結合しないようなインテグリンとは異なった細胞表面/膜貫通タンパク質も含む)を有する、及び細かく調整可能な親和性(例えば、それらの相補性決定領域(CDR類)の変化による)を有するより多くの標的に向けられた、広範囲のものが入手可能である。従って、本発明に関連して、細胞接着、成長、増殖及び機能の刺激、制御及びプログラム化の為の抗体の使用は、より複雑で、より特異的、かつより細かく調整される細胞刺激を生じさせることを約束し、しかして最先端技術で達成可能なものよりもはるかに高度に複雑な生物学的有機表面の発展への道を開く。
【0048】
以下の例においては、調製及び大規模化の容易性のみの為、ナノパターン生成の為にナノ球体リソグラフィーが使用され、その上にてパターンが再現性を持って作成され得る。後者は、X線光電子分光法(XPS)、赤外反射吸収分光法(IRRAS)、及び表面プラズモン共鳴法(SPR)等の巨視的な分光学的方法を用いて、主として得られた構造の適切な特徴づけをするために重要であった。しかしながら、本発明において開示される知見は、ナノパターン化の他の方法、例えば光リソグラフィー(UV、深紫外、X線)、粒子ビームリソグラフィー(電子、原子)、走査プローブリソグラフィー(ディップペンリソグラフィー、AFM−ベースリソグラフィー)、ナノ接合、ミクロ/ナノ印刷、及び他の方法に相性が良い(例えば、Chrisman等、Soft Matter,Vol.2,928−939,2006;Mendes等、Nanscale Res.Lett.,Vol.2,pp373−384,2007及びそれらの参照文献を参照)。
【0049】
使用される材料
基材: 前記に定義されるように、その均質性を除くと基材に関しては取り立てての要求がない。当然ながら、それは(大規模)ナノパターン化の選択される方法に対して適合しなければならず、また−検出への応用について−ナノパターン上での特異的結合事象のような生物学的分子事象の検出に使用される方法と相性が良いものでなければならない。例えば、表面プラズモン共鳴センサを使用する場合には、基材はセンサの稼働波長に対して透明でなければならず、また薄い金属フィルム、例えば金フィルムを表面に保持しなければならない。クォーツ微量天秤を使用する場合には、基材はクォーツ結晶を含むものであり得、FETトランジスターを使用する場合にはそれはFETのゲートの材料であり得る等々となる。
【0050】
更に、基材は(大規模)ナノ加工に選択される手法に適合するよう選択され得る。コロイド状粒子のナノ球体リソグラフィーを使用する場合には、例えば、高度に親水性を与えられたような基材は、親水性が低い欠落密度をもったコロイド状マスクの形成を助けることから有利である。
【0051】
基材選択の別の方法は、基材表面上のファウリング及び非ファウリング領域の化学的パターンに関連する。基材は、ナノパターン化された場合にもファウリング及び非ファウリング領域について十分な粘着を与えなければならず、更に粘着及びナノパターン化工程の化学処理に対して適合するものでなければならない。
【0052】
ナノパターンの形成: 一般的に、表面のナノパターンは、2つの異なる方法を使用して形成され得、その一つは、自己会合的方法を使用する表面の大きい領域に広がる特性の同時的形成を許容し、あるいは、所望の数のナノ尺度の特性を、表面の正確に選択された領域に正確な次元をもって形成することを可能とする形成連続的方法を使用する。
【0053】
形成の自己会合手段は、コロイド状ビーズ(無作為に又は規則的に吸着される)、相分離薄膜フィルムのブロック共重合体自己会合物の使用、又は表面上に沈積されたブロック共重合体ミセルを使用するか、あるいはデンドリマーの使用によるか若しくはポリマーブレンドの相分離(ポリマー分離)を介して液相からの共重合体の吸着により形成される表面ミセルの使用を含む。
【0054】
特性の大規模同時形成は、自己会合方法を使用することなく達成することもできるが、レーザー干渉分光法、X線干渉リソグラフィー及びDUVリソグラフィー等のむしろ高価な道具使用を介することとなる。これら後者の方法は、ナノ接触印刷又はナノ押印リソグラフィー(例えば、Christman等、Soft Matter,Vol.2,pp.928−939,2006及びその参照文献を参照)と組み合わせてもよく、原盤からのパターンの迅速な再現を許容し、もって全体的なパターンの製作のコストを低減する。
【0055】
上述した同時形成方法は、表面上の正確な位置決めが目標ではなく、広い領域に亘る均質なナノパターン化が最優先である場合には、最適に選択される。
【0056】
ナノパターン化の為の連続的技術は、E−ビームリソグラフィー、集束イオンビームリソグラフィー、ディップペンリソグラフィー、ナノスポッターとしてAFMチップを使用するナノ尺度分配(NADIS)、並びにナノシェイビング及び場増強酸化等の技術を含むSPMリソグラフィーなどの技術を使用してもよい(K.L.Christman等、Soft Matter及びP.Mendes等、Nanoscale Research Lettersも参照)。
【0057】
ファウリング材料: ファウリング材料、即ち生理学的溶液等のそれらの自然な状態に近い状態で生物学的分子を吸着する材料は、見出すことが原理的には困難ではなく、何故ならばSAM、ポリマー又はポリマーの混合物(例えば、表面へスピンコートされるもの)、コロイド、液晶等々、ナノパターンの形成に使用され得るほとんどの有機化合物は、ある程度にはファウリングを示すからである。このことの理由は、例えばタンパク質等の生物学的分子は、基本的にすべての非天然表面に吸着することにある(M.Mrksich,Chem.Soc.Rev.,Vol.29,267−273)。従って、事実として問題となるのは、生物学的分子の吸着を可能な限り抑制する非ファウリング材料を見出すことである。使用すべきファウリング材料を選択することは、他の制約、例えばセンサ応用の場合において感知の為に使用される方法との適合性、ファウリング領域への生物学的分子との結合方法(例えば、特定の化学的結合基を介するか又は静電的に行う等)等に基づいて単純になされる。また、大規模パターン化又は化学的パターンの形成に使用される工程との適合性も、選択される材料により決定され得る。
【0058】
非ファウリング材料: 本発明の非ファウリングマトリクスとして適用する為に使用され得る非ファウリング材料は、ファウリング材料よりも特定することが困難である。一般的に、表面をタンパク質抵抗性とするためには、表面のファウリング領域上に吸着する天然のタンパク質又は異なった生物学的ポリマーを用いて被覆され得、よって基本的には自然な環境を模倣することによりさらなる生物学的分子の吸着を阻止する。
【0059】
もう一つの戦略は、表面への生物学的分子の吸着を阻害するような特定的に設計されたポリマー等の化学物質の使用に関する。この点で、主としてポリ(エチレングリコール)(PEG)及びオリゴ(エチレングリコール)(OEG)誘導体が重要な役割を演じてきた(J.M.Harris編、Poly(ethyleneglycol)chemistry:biotechnical and biomedical applications;Plenum Press,New York,1992)。それらの非ファウリング分子は、基材表面への分子の吸着を促進する為のある種のリンカー基を含みうる。例えば、金表面の場合、該分子はチオール基を含んでよい(K.L.Prime,G.M.Whitesides,J.Am.Chem.Soc.,Vol.115,pp.10714−10721,1993;S.Tokumitsu等、Langmuir,Vol.18,pp.8862−8870,2002)。半導体酸化物又は金属酸化物表面の場合には、基材表面に吸着を許容する為に、該分子はシラン又はシロキサン又はリン酸基を含んでよい。
【0060】
Jeon等(J.Colloid.Interface Sci.,Vol.142,pp149−158,1991)は、PEG誘導体のタンパク質抵抗性の程度が、それらの密度の関数であることを示した。従って、表面が非ファウリングとされる程度は、使用される分子と表面との両者に依存し、かつ分子が表面に密な層を形成する能力に依存する。極めて高い充填密度を示し、よって生物学的分子の吸着に高い抵抗性を示す系が、例えばTokumitsu等(上記参照)及びHerrwerth等(S.Herrwerth,Langmuir,Vol.19,pp1880−1887,2003)に記述されている。この系は、金属表面にのみ適用可能である。金属表面及び半導体表面のPEG誘導体の例は、例えばJ.M.Harrisの書籍(上記参照)及びLeckband等(D.Leckband等、J.Biomatter.Sci.Polym.Ed.,Vol.10,pp.1125−1147,1999)の文献に与えられている。
【0061】
基材表面の非ファウリング分子により形成される相の密度及び構造における僅かな差異によって、生物学的分子吸着の抑制の程度は、用語の定義に与えた記述に従って変化しうる。上述したように、非ファウリング分子により被覆された表面は、基材の非被覆表面に見出される生物学的分子吸着の少なくとも90%を抑制する場合に、“非ファウリング表面”と称される。
【0062】
生物学的機能化:
表面の生物学的官能化は、表面へのプローブ分子の固定化の為の物理吸着及び/又は化学吸着のプロトコルを含んでよい。物理吸着のプロトコルは、反対電荷の引力、疎水性相互作用、水素結合等の非共有的相互作用、あるいはアビジンとビオチン間のような特異的相互作用の使用に依存する。物理吸着手段は、表面に吸着するタンパク質の量の制御手段について極めて有用な手段を提供し、それらに配向を与える。生物学的分子の物理吸着は、直接的に行われてもよく、あるいは固定化工程を介して表面に予め結合される分子の単層を介して行われてもよい。そのような媒介分子の単層は、例えば、自己会合単層(SAM)、又はポリ(リジン)のような多電解物等の極薄ポリマーフィルムであり得る。表面に向けて配向されたFc断片を用いた抗体の固定化は、抗体のFc断片に対して高い親和性を呈するプロテインA、プロテインG、又は組換えプロテインA−G等の媒介タンパク質の先行する固定化を介して行われ得る。従って、興味ある生物学的分子を、かつ興味ある応用に対して興味ある形態(活性、配向等々)を持たせて固定化する為に行うことができる、異なった物理吸着のプロトコルの組み合わせがあり得る。別法として、表面に分子を共有的に固定化する為の化学吸着のプロトコルが使用される。これらのプロトコルは、それらの一端部で表面と堅い結合(例えばAu上のチオール)を形成し、有用な官能基(−COOH又は−NH)を含む他端部を表面に曝す媒介分子をしばしば使用する。例えば、−COOHの頭部基をもったSAMからなる表面は、NHS/EDC試薬により活性化され得て活性化表面を形成し、これはタンパク質分子とのインキュベートにより容易にタンパク質の−NH官能基縮合反応を起こしてペプチド結合を生じる。アミンカップリングとして知られるこのプロトコルは、生物学的分子を表面に結合させるために広く使用される。次いで、生物学的分子は、内在するSAMの末端官能基に係る適切な反応によって、表面に共有的に結合され得る。光活性的官能基を表面に導入させることができ、これは興味ある生物学的分子を適切な波長の光照射によって補足することを可能とする。全体的に抗体分子を正しく方向づけることに伴う困難を回避するために、研究者らは酵素的消化方法を用いて分子を切断し、F(ab)断片を単離した。切断の性質から、Fab断片はその一端部に−SH基を有し、これは金表面への化学吸着を、結合部位が表面に曝される配向をもって可能とする。
【0063】
実施態様
オンチップバイオセンサ
本発明の実施態様は、分析対象物の検出に関連する。図2aに示されるように、ファウリング(3)及び非ファウリング(4)領域のナノパターンを有する表面(2)を持った基材(1)は、プローブ分子(5)をファウリングパッチに封じ込めする為に用いられる。プローブ分子は、所望の分析対象物(6)を特異的に結合する為に使用される。該実施態様の一つの変更態様において、基材が、結合事象の標識不在的検知の為の変換機構を含む。
【0064】
多重的生物学的検出の為のマイクロ−ナノアレイ: 本発明の他の一つの態様は、異なる分析対象物の多重的な同時検出に関連する(図2b)。これを達成する為に、上述したオンチップバイオセンサの基材(1)の表面は、各領域がファウリング(3)及び非ファウリング(4)領域を有するようにマイクロメートルからミリメートルにて領域(8)に分割され、プローブ分子(5)がファウリング領域に封じ込めされる。しかして異なった分析対象物の複数は、異なる区域のファウリング領域を異なったプローブ分子(5’)により修飾することによって同時的に検出され得る。
【0065】
細胞接着/細胞培養: 本発明の一実施態様は、ナノパターン上への細胞の制御された接着及びそれらの培養に関連する。ファウリング領域への細胞接着に影響を与える生物学的分子を封じ込めするファウリング及び非ファウリング領域を有してなるナノパターンは、全体の細胞の接着を支持する為に十分な大きさを持つ。その生物学的官能性に加えてナノパターンの構造は、接着する細胞の所望の性質の展開を促進するように作成される。
【0066】
組織工学: 本発明の他の一つの態様において、細胞接着/培養について記述したナノパターンは、例えばパターンに接着する幹細胞にそれらが所望の組織へと展開するような影響を与えるように、所望の組織の増殖を促進するように作成される。
【0067】
移植技術: 本発明の他の一つの実施態様は、上述の実施態様の一つに記述されるナノパターンを移植組織の生物学的適合性被覆として使用する。これは、生物学的分子がファウリング領域に封じ込めされたファウリング及び非ファウリング領域のナノパターンを、移植組織の生物学的適合性が向上するような方法で修飾することにより達成され得る。例えば、ナノパターンは、移植組織上の内生生物学的分子の吸着及び/又は増殖を促進してもよく、これによって生物学的適合性を付与する。
【0068】
実施例
実施例1:金被覆基材上の抗体ナノパターン化
材料
【0069】
化学薬品: 16−メルカプトヘキサデカン酸(MHA、COOH−SAM)及びヘキサデカンチオール(HDT、CH−SAM)は、日本国、東京のシグマ−アルドリッチ ジャパンK.K.から入手した。約2000g/モルの分子量を有するメルカプトポリエチレングリコール(PEG)は、ポーランドのProchimia社にて特別注文により合成された。クロロホルム及びエタノール(共にp.a.級)は、日本国、大阪の和光純薬工業から購入した。 平均直径0.454μmのポリビーズカルボキシル化ポリスチレン(PS)マイクロ粒子は、PA、ウォリントンのPolysciences社から入手した。N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)及び1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩、及びエタノールアミン塩酸塩、1Mは、アミンカップリングキットの部品として、日本国、東京のビアコアK.K.から入手した。リン酸緩衝食塩水(PBS)は、MPバイオメディカル社から錠剤の形態で入手した。各錠剤は、100mLのミリポア水に溶解して7.2のpHが得られる。ヒトα−フェトプロテインに対するモノクローナル抗−マウスIgG(MIgG;“抗原”)及びポリクローナルヤギ抗−マウスIgG(α−MIgG;“抗体”)は、内部にて調製し、ウシ血清アルブミン(BSA)は和光から得た。
【0070】
基材: <100>配向を有する4’Siウエハーは、日本国、宮崎のコマツシリコンから入手し、必要な寸法の小片に切った。IRRASに使用される金被覆は、1.8x1.8cmの寸法の正方形Siチップ上に、5nmのCr(Megatech社、Huntington,英国)を蒸着し、次いで30nmのAu(99.99%;フルウチ化学K.K.、東京、日本)を蒸着することにより調製した。SPR測定に使用する為の金被覆ガラスチップは、AuSIAキットの部品としてビアコア社から入手した。
【0071】
方法
化学的ナノパターンの調製: 均質的大規模ナノパターンの調製方法は、図1に示される。最初の工程(a)において、シリコン又はガラス基材1が調製される。次いで、基材1は、Crを粘着促進剤として使用して、30−50nmの厚さの金フィルム2により被覆される(工程(b))。金2は、MHA3によって化学的に官能化され(工程(c))、次いでコロイド状マスク4が文献に記載されるようにして沈着される(工程(d))。コロイド状ビーズ4は、MHA−被覆基材1との約200nmの直径を有する接触点を形成する。非被覆MHA3は、RIEの手段によって金表面2から除去される(工程(e))。最終的に、コロイド状マスク4が除去され、遊離した金領域が、タンパク質−抵抗性マトリクスの導入の為にPEG−SH SAM5により被覆される(工程(f))。
【0072】
ナノパターンの特性分析: IRRAスペクトルを、高角度反射ユニット(80入射)及び乾燥空気排気システムを備えたJEOL FTIR600プラス分光計を用いて得た。スペクトルを、過重水素置換アルカンチオールにて被覆した由来が同一な金基材に対して対照した。XPスペクトルを、JEOL SP−9200表面分析システムを用い、基底圧5x10−7Paにて得た。非単色MgKα線を、100Wの放射強度にて稼働させた。半球電子分析器を、広角については50eV、精密走査については10eVのパスエネルギーとなるよう設定した。該システムを、約3mmの直径の試料表面の電子分析機入口開口部の設置面積巨視的検出モードにて稼働させた。SEM画像を、日本国、東京の日立製Hitachi S−4200により収集した。走査プローブ画像は、Digital Instruments Dimension 3100,Nanoscope IV(Veeco Instr.東京、日本)又はJEOL JSPM−5200(JEOL,東京、日本)を用い、スペイン、マドリードのMikromasch S.L.製の極めて鋭利な窒化ケイ素被覆Siカンチレバーを0.12N/mの力定数にて使用して得た。
【0073】
in−situでの抗体/抗原吸着: パターン化基材への抗体吸着及び引続く抗原の結合の動力学は、ビアコア−X SPRシステム(Biacore)の手段にてその場で監視した。pH7.2の脱気リン酸緩衝食塩水(PBS)溶液を流動緩衝液として使用した。試料を同じ緩衝液中に調製し、流動緩衝液の安定した流れを確認した後に注入した。流速20μl/分及び60μlの試料量を各回に使用し、実験を25℃にて行った。実験は、PEG、MHA及びPEG/MHAパターンのSAMからなるビアコアチップにて行った。次の3種の結果としてのパルスへのSPR応答を監視した:(1)α−MIgGの37μg/mL溶液、(2)1%のBSA、及び(3)50μg/mL濃度のMIgG。
【0074】
結果及び検討
ナノパターンを、AU表面上のω−置換アルカンチオールのSAMにより、表面への抗体の吸着を好むかあるいは抑制する末端官能基を持たせて形成させた。一方は抗体分子の封じ込めをもたらし、他方はもたらさない2種類の異なる型のナノパターンを比較した。封じ込めを誘導するパターンは、非ファウリングの背景に、ファウリングナノパッチを与えた。これらのパターンは、PEG−SH SAM(COOH/PEG又はCH−SAM)のマトリクスに埋設されたCOOH−又はCH−SAMのいずれかの約200nmの円形領域からなる。ナノパターンの第2の型は、CH−SAMマトリクス中のCOOH−SAMパッチからなり、非封じ込めを生じるものと期待されるファウリング背景にファウリングパッチを提供する。
【0075】
先に詳述したように(図1参照)、2成分パターンは、分子自己会合、ナノ球体リソグラフィー、及びRIEの組み合わせを、500nmのPSミクロ球体をエッチングマスクとして使用して作成された。パターンの特徴づけは、SEM及びAFMを使用してナノ尺度の特徴の次元を評価することにより実施された。図3のSEM映像に示されるように、コロイド状エッチングマスクは、メルカプトヘキサデカン酸(MHA,COOH−SAM)又はヘキサデカンチオール(HDT,CH−SAM)の何れかにより予め官能化された金表面の約54%表面被覆率を以って(M.Himmelhaus and H.Takei,Phys.Chem.Chem.Phys.,Vol.4,pp.496−506,2002)、無作為の密に充填された単層を形成した。RIE工程及び引続くコロイド状マスクの除去の後、残留するSAMの特徴は、図3b−d(MHAについて)及び図4c(DHTについて)に示されるように、摩擦力モードのAFMにより円形パッチとして明確に識別される。密に隣接する特徴の大きさ及び距離は、MHAパッチについて図3b−dに例示されるようにRIE工程のエッチング時間に依存する。使用した試験条件下では、15秒のRIEが未だ相互に連接するパッチを生じる一方で、60秒のRIEは、約200nmの直径の孤立したパッチを生じた。従って、全ての実験において60秒間のRIEを採用した。チオール末端ポリエチレングリコール(PEG)を用いた表面の埋め戻しの後、SAMパッチは、MHAについて図4aに幾何学的AFM映像を示すように、約8nmの深さの窪みとして表れた。この観察は、PEG−SH SAMが10nmの厚さであり、またCOOH−SAMが約2nmであることからして、期待されたことと一致している。ランベルト・ベールの法則及び光電子の285eVにおける35.0Åの減衰長を使用し、AU4f7/2ピークの減衰を介したX線光電子分光(XPS)によるフィルム厚の独立した決定は、COOH−SAMについて2.1nmのフィルム厚及びPEG−SH SAMについて9.6nmの良好な一致を与えた。XPSを、表面の元素組成の試験の為、及びナノ尺度MHAパッチの表面被覆率の決定の為に更に使用した。図5(上側半分)は、異なった表面処理の後のO1s及びC1s領域を表わしている。Shirleyの背景補正を行った後のスペクトルに対するVoigtプロフィールのフィッティングにより決定されるピーク位置は、それらの各文献値に一致する(例えば、D.A.Hutt & J.Leggett,Langmuir, Vol.13,pp.2740−2748,1997参照)。C1s領域は、脂肪族及びカルボキシル分子種の異なった化学シフトを明らかにしている。MHAが、主として284.8eVにおける脂肪族のシグナルを示す一方で、均質PEGフィルムは286.8eVに強いエーテルピークを示す。しかしながら、ナノパターンは、エーテルピークにおいて285.3eVに明確に観察可能な脂肪族ショルダーを示す。該O1s領域において、MHAのカルボニル基は、ヒドロキシル及びカルボニルの酸素について532.2eV及び533.8eVの2つのピークをそれぞれ示す。PEGのO1sエーテルピークは、533.0eVに見出される。60秒間のRIEの後、MHA/PEGのエーテルピークにおける均質PEGフィルムに比べての、強度のほんのわずかの減少は、ナノパターン化工程の成功を明確に示している。
【0076】
強度における後者の低下を、IPEGが非パターン化PEG試料のエーテルピークの強度であり、IPEGがパターン化PEG/MHA試料のそのピーク強度であり、IMHAがMHA参照試料のものである場合のMHA表面割合の関係式、χMHA=(IPEG−IPEG)/(IPEG−IMHA)に従って、均質に被覆されたPEG表面に比較してのナノパターン上のMHA被覆の相対的表面被覆率を計算する為に使用した。典型的には、こうして得られたMHAパッチの相対的被覆率は、8−10%であり、54%のコロイド状マスクの重点密度、及びAFMにより測定された約200nmの接触点直径を仮定した理論的評価値とよく一致する。
【0077】
非ファウリングマトリクスに埋設されたファウリングパッチのナノ加工に関連する他の重要な点は、パターン化が構造に影響を与えず、従って潜在的に非ファウリング挙動、さもなければ非ファウリングマトリクスであることの証明にある。我々は、構造の対比の為に、図5(下側半分)に示すように、COC及びCH伸縮領域によって、パターン化及び非パターン化表面のIRRASを選択した。同様なPEGシステムについて示されているように(S.Tokumitsu等、Langmuir,Vol.18,pp.8862−8870,2002)、1118cm−1の共鳴は、分子主軸方向の遷移二重極のCOC伸縮モードに帰属され、一方で1152cm−1のモードは、垂直方向に配向される。従って、分子遷移二重極モメントがその配向が金属表面に平行でない場合にのみ観測可能である(誘電体/金属界面に適用される反射のフレズネル則から直ちに導かれる)ことを述べているIRRAS選択則に基づいて、これら2つのモードの強度比は、形成されるPEGフィルムの構造の定量的解釈に使用され得る。無定形構造の場合、強度比は1に近くなければならず、表面に対して垂直な分子の好ましい配向を持ったより規則的な構造の場合には、1118cm−1モードが支配的でなければならない。それぞれ2891−1及び2861cm−1におけるEG CHの対称的伸縮モードについてもこの考察が成り立ち、ただし、それらの解釈はこの領域における他のモードの存在の為に幾分妨害される(S.Tokumitsu等)。やはりPEG分子軸に平行である2740cm−1のEG結合振動のみが、他の全てのモードから明確に分離され得、従って、表面法線に沿った分子の好ましい配向を示す、最も適したCH伸縮モードである。ナノパッチ形成の為のRIE暴露持続時間は(図1の工程(e)参照)、非保護領域におけるMHA分子の除去が完全となり、そのような処理表面がPEGチオールによる埋め戻しに適するように至適化されなければならない。RIE処理の持続時間は、均質MHA表面の酸素プラズマへの暴露、次いでPEGチオールによる埋め戻し、及び形成されるPEG層の構造及び組成に関するIRRAS及びXPスペクトルの監視により至適化された。図5に示すように、結果は、未使用の金表面の吸着されるPEGフィルムのものと同様な構造を達成するためには、(所定の出力及び酸素分圧の下で)60秒間のRIE暴露が必要であることを示し、一方で、30秒間の暴露は、COOH−SAM残基の不完全な除去の為と思われる不定形マトリクスを生じた。このことは、表面上のカルボキシル及び脂肪族分子種の予期しなかった存在をそれぞれ示す30秒間の試料のO1s及びC1sのXPスペクトルから、特に明らかとなった(図5、上側半分を参照)。要約すると、表面分析はナノパターン化工程の適切な条件が選択された場合に、パターン化試料のPEGマトリクスの構造はMHAパッチの存在に影響されないことを示した。
【0078】
こうして調製された表面にて起きる生物学的分子の結合事象を、図6に描いたようにBiacoreAGの商業的表面プラズモン共鳴装置セットアップ(Biacore X)を使用して監視した(M.Malmqvist,Biochem.Soc.Trans.,Vol.27,pp.335f,1999)。SPRシステムは、金表面と接近している、典型的には数百ナノメートルの距離内の屈折率の変化を測定する。従って、SPR検出図は、RU、即ち屈折率単位にて表わされ、これは有機物質については式:1000RU=1ng/mmに従って表面の物質密度の変化におおよそ変換され得る。
【0079】
モノクローナルマウスIgG(MIgG)及びポリクローナル抗−マウスIgG(α−MIgG)を、モデル抗原−抗体対として使用した。検出図は、操作用緩衝液としてのPBS(pH7.2)の20μl/分の流速において、一定流速に対して記録した。全てのタンパク質溶液を、PBS中に調製した。典型的な実験では、α−MIgG(37μg/mL)を最初に表面に対して物理吸着又は化学吸着手法により固定化し、次いでBSA(10mg/mL)により暴露領域を表面安定化し、次いでMIgG(50μg/mL)に暴露した。物理吸着と化学吸着手法の間の差異を、図7に概略的に描いた。化学吸着手法が使用される場合、α−MIgG溶液を流す前に、表面は先ず新たに調製されたNHS/EDC混合物に対して12分間の持続時間を以って暴露させた。未反応エステルを、エタノールアミン塩酸塩溶液を用いて破壊し、次いでBSA表面安定化工程を実施した。同質又は異質二官能性クロスリンカーの使用は、抗体を表面に対して共有的に結合する。我々の場合、COOH末端化SAMをNHS/EDC、次いで抗体にて処理した(アミン結合)。パルスのそれぞれに対する応答は、注入前及び注入後100秒の安定したベースラインのRU値の変化(ΔRU)から推測された。表面の抗原結合許容量(ABC)は、抗体応答に対する抗原応答の比から計算した。表面を、α−MIgGの面密度及びABC値について比較した。図8は、MHA上(下側半分)及びPEG−SH SAM(上側半分)の物理吸着についての実験の3回の連続した工程に対応する個々のプロットを示す。後者は、3工程すべてに対してゼロ応答を示して、タンパク質吸着に対する優れた抵抗性を示し、一方でMHA表面では、明らかに連続する工程が表面被覆率の増大をもたらしたことを示している。PEG−SH SAMの優れたタンパク質抵抗性は、これらのSAMのXP及びIRRAスペクトルから確認されるように、配向した高密度のPEGブラシに期待されるところと一致する(図5参照)。PEG−SH SAMのSPR検出図における階段様の急上昇は、バルク溶液の屈折率変化に関連することに注意されたい。PBSによるすすぎの後も、信号は開始値に対して変わることなく維持されている。
【0080】
同じプロトコルに従って、多くの異なったナノパターン化された表面、及び非ナノパターン化(均質)表面を、その抗原結合許容量(ABC)に関して分析した。対応する検出図を図9に示す。均質的CH−SAM及びCOOH−SAMは、親水性のCOOH−SAMよりも高い応答を示す疎水性CH−SAMと共に顕著なα−MIgG吸着を示す。興味深いことに、COOH/CHナノパターンは、均質的CH3表面と基本的に同じ応答を生じ、しかしてこのパターンの非封じ込め的特性に関する最初の証拠を与える。対照的に、PEGマトリクスに埋設されたパッチを有する2種のナノパターンは、均質表面に対して約30%の相当に弱い応答を示し、これによってファウリングパッチのみへのAb吸着を示している。最初の工程における異なった表面負荷は、BSA不動化である引続く工程によく反映される(図9b参照)。ここにおいて、CH−SAM及びCOOH/CHナノパターンは、それらの高いα−MIgGによる予めの負荷の為に、最初の吸着工程の約11.5%の最も弱い応答を生じ、一方で、均質COOH表面は、最初のα−MIgG吸着の約52.4%を与え、これによって最初の吸着工程の後の表面における高い空間密度が示される。PEGをマトリクスとして使用する2種のナノパターンは、COOH/PEGパターンにについて63.7%、CH/PEGについて46.4%を生じ、COOH−SAMに比べて均質CH表面において見出される低い吸着と一致する。
【0081】
最後に、図9cに示されるように抗原結合工程は、表面固定化α−MIgGが均質的及びナノパターン化表面において活性であることを示している。明らかに、COOH/PEG及びCH/PEGナノパターン化表面は、対応する均質COOH−及びCH−SAM表面に比較して、低い応答を示す。このことは、抗体がパッチに封じ込めされ、パッチの表面被覆率が全領域に対して僅かに約9%である場合に期待され得る。しかしながら、COOH/CHナノパターン化表面は、最初の工程におけるα−MIgGの高い負荷に対応して均質CH−SAM表面と同様な高い応答を示し、しかしてこのパターンの非封じ込め的特性を表わすものである。ナノパターン化表面の固定化α−MIgGの活性の比較(図10)は、封じ込めを誘導するCOOH/PEG及びCH/PEGナノパターンが、均質的に被覆されたCOOH及びCH表面との比較においてABCについて高い値を生じることを明らかにする。対応する均質表面上のα−MIgGの高い負荷に一致して、COOHナノパッチへのα−MIgGの物理吸着は、(47±15.1)%の増大をもたらし、一方でCHナノパッチへの物理吸着は、(56±12.3)%の増大を与える(図9a参照)。対照的に、非封じ込め的COOH/CHナノパターン上の(6±12.5)%の増大は、実験誤差の範囲内であり、非封じ込め的ナノパターンが抗体活性の増加を生じることがなく、またそれらの非パターン化対応物と同様の性能を与えることの証拠を与える。更に、COOHナノパッチへのα−MIgGの化学的吸着手法は、活性において(121±22.6)%の増大を生じる均質COOH表面に比べて、COOH/PEGナノパターンのABC値におけるより顕著な増大を生じる。上述した全ての実験は、ABC値に影響を与え得るポリクローナル混合物の組成において起こり得るロット間差を排除する為に、α−MIgG抗体の同じロットを用いて実施したことに注意されたい。更にここにおいて、ABC値は、表面に固定された抗体の量に依存するものでなく、また固定化抗体の活性の定性的な指標であるという事実を指摘する。この様な増強が観察され得る唯一の他の手段は、表面に対する抗原(MIgG)の非特異的結合を介してであり、このことは、PEG層が十分にタンパク質抵抗性であること、また、抗原暴露に先行して、表面の非特異的結合部位がすでに占有されるであろう2つのタンパク質暴露工程(α−MIgG、BSA)が存在するという事実から排除することを可能とした。COOH/PEGパターンのMHAパッチへの期待される抗体の封じ込めの更なる証拠として、AFMタッピングモード画像を、ビアコアチップ上にてSPR装置から取り外した後、即ちα−MIgG、BSA及びMIgG分子の全配列を沈積した後にとった。明らかに、図4bに示すように、図4aにおいて約8nmの深さの窪みに見えたMHAパッチは、ここで生物学的分子によって埋め戻された。図4の下部の線の外形(b’)は、PEGマトリクスの上方に最大22−24nmを有するパッチ内の高さの分布を示す。PEG上への生物学的分子の吸着についての証拠がないことから、MHAパッチ上に形成されたこれらの“生物学的分子ピラー”の全体の高さは、28−30nmに至る。主対称軸の方向のIgG抗体の最大長さは、約14nmである(V.R.Sarma等、J.Biol.Chem.,Vol.246,pp.3753−3759,1971)。従って、パッチ内にて観測された最大高さは、α−MIgG及びMIgGの両者が、表面に対して垂直なそれらの主対称軸を以って配向する状況と一致する。使用したα−MIgGがポリクローナルであるため、第2層(MIgG)が、異なる配向にて特異的に吸着され得ることに注意しなければならない。このことは、従ってAFMにより観察されるようにパッチ内の高さの分布を生じさせうる。対照的に、COOH/CHナノパターンは、図4c/dに示すように生物学的分子吸着の前において、及び後においてそれぞれ何らの封じ込めも示さない。ある種の球体的な特徴は、COOHパッチ上のAb/Ag複合体の存在を示すように見えるが、生物学的分子は、異なる大きさの塊にて表面に亘って無作為に分布していた。BSAのみがCH3マトリクスに吸着するという起こりそうにない状況は、図9aに示すようにこの表面のα−MIgGによる高い負荷ゆえに排除され得る。結局のところ、この封じ込めの完全な欠落の追加的証拠として、図4dに示された線形走査(d’)及び線形走査(b’)に沿って示されたものは、表面へのAb/Ag複合体の無作為的沈積について予想されるように、封じ込め的ナノパターンから得られるものに比べてより小さい高さの変形を示す。
【0082】
相補性決定領域の露出がこのような場合好ましいことから、封じ込め的ナノパターンの場合に表面に垂直なα−MIgGの好ましい配列の観測は、そのようなパターンにて見出される観測されたより高いABC値を説明することができる。我々は更にMHAパッチ上の改善された抗体密度は、PEG領域に達する分子が経験する再配向についての自由度、取り巻いているPEG被覆領域からの拡散によるファウリングパッチへの分子の向上した水平の流れ、又はパッチ内の変性分子の比率減少をもたらす‘装填効果’にその原因があり得ることを仮説として持つ。
【0083】
実施例2:活性増強に対するナノパッチの大きさの影響
実施例1に記述したと同様な実験を、異なったビーズの大きさを以って実施した(他のすべての材料、装置、及び方法は実施例1と同じ)。公称直径が200nmのPSビーズを、上述したようにEDC媒介吸着の手段にてMHA−被覆金フィルム上に吸着させた。無作為−密充填単層を達成する為に、EDCの量を若干調節しなければならなかったが、その他については同じプロトコルに従った。非ファウリングマトリクス(PEG−SH SAM)についてパターン化及びマスクの埋め戻しの後、ポリクローナル抗−マウスIgG(37μg/ml)、非特異的吸着部位のブロックの為の1%BSA、及び抗原としてのモノクローナルマウスIgG(50μg/ml)を含めて、先に詳述したと同様のAb/Ag相互作用実験を実施した。図11(a)は、2つの独立して調製されたビアコアチップについての検出図を示し、実験のすべての3工程、即ち抗体物理吸着(I)、BSA不動化(II)及び抗原結合(III)を示している。得られたABC値は、平均で0.28及び0.26±0.015に至り、しかして平均で0.25±0.013を与え、500nmビーズを用い、他は同じ条件下で達成される値よりなおも高い(図10、MHA/PEGパターンへの物理吸着についての結果参照)。AFMにより、500nmビーズを用いて得られる約200nm(図4参照)に比べて、200nmビーズをコロイド状マスクとして得られたファウリングパッチの大きさは約100nmであることが証明された(図11(b、c))。AFMの手段により更に確認されるように(図11(d、e)、実験実施後においてAb/Ag複合体は、これらの小さいパッチ内に封じ込めされている。パッチの大きさの減少は、パッチの面積に対する外周の比率を増大させ、これによって、より高い運動性、ひいてはパッチの外周近傍に位置する抗体の再整列についてのより高い可能性によって、パッチ内の物理吸着した抗体の秩序及び配向を改善する可能性がある。ここに示した実施例は、しかしてパッチの大きさの減少が、表面固定化抗体の更なる改善をもたらすであろうことの最初の示唆を与える。
【0084】
実施例3:MHA/PEGの無作為混合層の挙動
ナノパターン化の効果を、表面の2種類の異なる分子の無作為的混合の効果から区別する為に、以下の対照実験を実施した。MHA及びPEG(MW〜2900Da、カナダ、モントリオールのPolymer Source社;他のすべての材料、装置及び方法は実施例1と同様)分子の無作為混合された単層を、UV−オゾン洗浄した金基材をPEG及びMHAのそれぞれの50μMエタノール性溶液の混合物に3時間浸漬することによって調製した。2種類の混合比を選択した:実施例1のナノパターンの組成を模倣する為の(i)80%PEG溶液/20%MHA溶液、及び(ii)95%PEG/5%MHAであって、これは約10%のMHAナノパッチの割合を持たせるために決定された。結局のところ、これらの割合は、無作為的な混合層のMHA比率について安全な下限であることが分かった。独立した実験において、金ウエハー断片を最初にPEG溶液中に10−30分間、次いでMHA溶液に3時間まで浸漬した。同様な系に関する研究から、PEGは最初に表面にコイル状の低密度状態を形成し(Tokumitsu等、Langmuir,Vol.18,pp.8862−8870,2002)、次いでこれは第2の分子により埋め戻され得る。しかしながら、引続いてPEG−被覆試料をMHA溶液に3時間まで浸漬した場合、先に吸着させたPEGがMHA吸着工程の間に表面から全て除去されることがIRRASによって観察された。従って、混合溶液からの吸着を、PEGの再吸着に好適なように2種の分子間の競合を改善すべく選択した。しかしながら、このような条件下では、表面上の2種の分子の混合比が溶液中のものと共通することは期待できず、その代わりに下記に示すように、表面上のMHAの割合が溶液での比よりも高い。溶液混合物からの逸脱を最小化する為に、浸漬時間をできる限り短く保つことが推奨されると考えられた。従って、実施例1にて適用された一夜の浸漬と同程度に抗体を固定化する均質MHA表面の能力(独立した実験により試験された)と、PEGがある程度の量を以って表面に残留する実験的な観測との交換条件として、3時間が選択された。
【0085】
混合フィルムの形成の実験的証明は、IRRASを用いて実施された。図12は、各溶液に一夜浸漬されたMHA(1)及びPEG(5)対照試料、30分間のみ溶液に浸漬されたPEG試料(2)、並びに2種類の混合SAM(溶液において80/20(3);95/05(4)のPEG/MHA比)のもののIRRAスペクトルを示す。示されるのは、両方の分子に特徴的なCH伸縮振動(a)の領域、MHAに特徴的なC=O伸縮領域、及びPEGの指紋であるC−O−C伸縮領域(c)である。MHAの非対称的メチレン伸縮に割り当てられる2種類の混合SAMのスペクトルにおける2919cm−1の明らかなピーク(図12(a))は、混合物中のMHAの存在を確認するもので、特にはこの領域にはそのような明らかなピークを示さない30分間のPEG対照試料のスペクトルとの対比において確認される。同様に、2869cm−1のピークは、CH伸縮振動に特徴的で、しかして混合SAM中のPEGの存在を確認する。これらの知見は、他の2つの領域のスペクトルにより裏付けられる。C=O伸縮振動は、MHA対照及び混合SAMのスペクトルにおいてのみ表れる。これらのスペクトルは、表面上のCOOH基の数の小さいことのみならず、領域が水の吸収帯内に位置することの為、測定におけるノイズレベルに近いことに注意せねばならず、これは除去することが困難である。収集の間、この為に30分間のPEG試料のスペクトルは若干オーバーサンプリングされ、水の帯域はそのスペクトルにおいて負のピークとして表れ、この領域における他の特徴からそれらを識別することを許容している。C−O−C伸縮振動領域のスペクトルは、最終的に混合SAMの無定形状態のPEGの存在を確認している。実施例1並びに文献(Tokumitsu等)に詳述されるように、1118−1及び1152−1における2つのピークのそれぞれの強度の高い非対称性は、一夜浸漬されたPEG対照試料により達成される分子の高度に秩序付けられたブラシ様状態を示している。対照的に、30分間PEG対照は、コイル状の無定形状態にとどまり、これらの系のSAM形成の初期状態の典型を示す(Tokumitsu等)。PEGの結晶様状態は、PEGが非ファウリングマトリクスとして作用する(実施例1)ナノパターン化試料において達成されることに注意されたい。しかしながら、ここにおいて研究される混合SAMでは、PEGは、低い被覆率の無定形状態にとどまり、このことはPEG分子がそれらの鎖の相互作用によりコイルからブラシへの遷移を起こすには互いに離れすぎていることを示している。従って、混合SAMが、MHAにより満たされる分子間に間隙を持ったPEGの希薄な層からなるものと結論付け得る。このことは、ナノパターン化SAMとの対比について意図したことである。
【0086】
抗体の固定化及び抗体活性についてこれらの混合SAMの挙動を調査する為に、SPRチップ(ビアコアSIAキット)を、IRRAS研究の為に使用した金被覆シリコンウエハー断片と同様な方法で、各チップを80/20及び95/5混合溶液にそれぞれ3時間浸漬することにより調製した。次いで、チップを、実施例1に詳細を述べたように、即ち最初にα−MIgGの吸着、引続き1%BSAによる非特異的吸着の不動態化、及び最後にこうして調製した表面のMIgGへの暴露を行い、生物学的分子の同様な配列に対して曝した。実験の遂行と評価とは、実施例1にて使用したのと同等であった。対照として、1つのSPRチップを純粋なMHA中に3時間浸漬した。表1は、抗体固定化、BSA不動化及び抗原暴露の3つの連続工程について、混合SAMを保有する合わせて4つのSPRチップの結果を示している。表1において、数値は、均質MHA表面上の各生物学的分子の吸着に対して標準化されている。4個のチップのそれぞれに対して、2つの流体経路を測定し、合わせて8つの実験を与えた。各工程の後、SPR屈折率単位(RU)の変化を測定し、MHA対照チップの各行等に対して標準化した。驚くべきことに、図12のIRRAスペクトルに示すように、PEGによる低い被覆率にもかかわらず、全ての表面は表面に不動化される生物学的分子の量について顕著な低下を示している。ほとんどの試料は、吸着した生物学的分子の量が、対照表面での量の10%未満であるという意味で、むしろ非ファウリング挙動を示している。吸着タンパク質の総量の変動は、表面上の異なる局部での組成に従って変動するであろう混合フィルムの無作為的性質を反映している。しかしながら、95/5混合溶液から調製されたチップがより優れた非ファウリング挙動を示すという、表面上のPEGのより多い量に明らかに起因している観察可能な傾向がある(図12参照)。
【0087】
若干の場合において、吸着の代わりに脱着が観察され、これは入ってくる生物学的分子との相互作用により除去されるいくらかの緩く結合するPEG分子に起因するであろう。何れの場合においても、実験はMHA/PEGの無作為混合物が低いPEG密度であってさえも高度にタンパク質抵抗性の被覆として機能することを示す。従って、とりわけナノパターンにより達成されるPEGマトリクスの高密度ブラシ様状態を考慮すると、実施例1にて得られた結果においてアルカンチオレートのSAMにて起こり得るピンホール欠落のいずれの影響(Edinger等、Langmuir,Vol.9,p4−8,1993)も、排除され得る。本研究においてさえ、即ちPEG分子の低い水平密度をもってさえ、得られるSPR応答は、ナノパターンを用いて観測されるよりも強度において1次数を超えて低く、しかして実施例1の知見に基づくPEGマトリクスの欠落の何らかの影響は、場合によって低密度のPEGマトリクスがナノパターンの一つに形成した好ましくない状況の下でも無視しうる。最も重要なこととして、本研究は実施例1にて調製されたナノパターンが、優れた性質を有し、特には表面上の生物学的活性の状況に関して表面上の分子の無作為混合物は同様な性能を達成しないことを表わしている。
【0088】
【表1】

【0089】
比較例1: ファウリング及び非ファウリングマトリクスにそれぞれ埋設されたナノパッチの比較
Valsesia等(Langmuir 2006,22(4),1763−1767)は、著者らの実験において、表面吸着抗体の生物学的活性を研究する為にMHA/HDTのナノパターンを使用し、それぞれの非パターン化表面の約4倍の抗体活性の増大を報告している。該文献は実験欄を欠いており、使用した手順は曖昧にのみ知られる。しかしながら、本発明の研究との最も重要な差異は、MHA/HDTナノパターンの場合において、抗体がMHAナノパッチに封じ込めされることなく全表面に吸着することである。このことは、該文献自体、並びに文献中に見出され得るファウリング/非ファウリング表面に係る複数の研究から明らかとなる。Valsesia等の文献の1766頁の図3は、表面上の活性な抗体の量を測定する為に行われたELISA実験が、HDT−及びMHA−被覆表面のそれぞれについて基本的に同様な応答を生じることを明確に示している。従って、表面上の活性抗体の量は、両方の場合において同じである。吸着した抗体の全体量における主な差異は、(i)2種の表面上のタンパク質吸着について文献にて知られること、(ii)我々自身の知見、及び(iii)Valsesia等の文献の1767頁の図4のAFM画像からして起こりそうもないことである。MHA−被覆表面の画像における少なくとも0.23nmの高さ(図の説明文に示されるz−寸法)を持った塊の高い密度は別として、後者に関していえば、2つの画像はどちらかといえば同じように見え、抗体の全量に関する大きな差異は期待されない。
【0090】
実際に、文献からは、水との高い接触角(典型的には100度を超える)を持った高度に非極性の分子としてのHDTは、ファウリング表面、即ちタンパク質の非特異的吸着を促進する表面を与えることがよく知られている。非ファウリング表面の開発に係る多くの研究において、HDT又は同様なメチル−末端化脂肪族SAMは、潜在的タンパク質吸着の上限を与える対照系として役立っている。HDT及び関連分子のこれらのファウリング特性は、文献中において広く議論されてきている(Kingshot,P.;Griesser,H.J. Curr.Opin.Solid State Mater.Sci.1999,4,403−412;Morra,M. J.Biomater.Sci−Polym.Ed.2000,11,547−569;Leckband,D.;Sheth,S.;Halperin,A.J.Biomater.Sci.−Polym.Ed.1999,10,1125−1147)。Wadu−Mesthrige等(K.Wadu−Mesthrige等、Biophysical Journal,Vol.80,pp.1891−1899,2001)は、抗体ナノパターンを、AFMリソグラフィーの手段により作成し、彼らが埋設するドデカンチオレートマトリクスから吸着した抗体を洗浄除去して−CHO−末端化表面領域のみの抗体ナノパッチを得たことを明らかに報告している(前記文献の1896頁)。更に、我々自身のSPR研究は、HDT−及びMHA−被覆表面の同様な挙動についての直接的証拠をあたえる。図9及び10参照。図9aにおいて、均質的HDTフィルムは、抗体吸着パッチとして使用されるMHA表面よりも多くのα−MIgGを吸着している。図9から容易にわかるように、均質PEG−SAMは、生物学的分子吸着(両抗体、即ちα−MIgG及びMIgG、並びにBSA1%について)に対して抵抗性を示す唯一の表面である。
【0091】
結局のところ、HDT−及びMHA−末端化表面が、表面に吸着される抗体の総量並びにそれらの活性分画に関してむしろ同様に挙動することが明らかとなる。従って、これらの表面の一つがナノパッチとして機能し、第2のものがマトリクスとなるナノパターンは、この基本的な挙動において何らかを変化させることはむしろあり得ない。実際に、図9及び10に示すように、MHD/HDT−ナノパターンは、その均質な対応物と同程度の量の生物学的分子の吸着をもたらし、また表面に活性抗体の同様な分画を与えた(図10)。生物学的分子の吸着後のこれらのパターンのAFM分析は、表面上の抗体/抗原複合体の無作為的分布を示し(図4)、更に、ファウリングマトリクスに埋設されたそのようなファウリングナノパターンが、抗体を封じ込めすることが出来ず、しかしてそれらの配向を改善し、表面におけるそれらの活性を改善することはできない。
【0092】
従って、Valsesia等のMHD/HDTパッチ上の抗体活性増強の観察は、我々の知見とは矛盾する。一つの可能性ある説明としては、ELISA実験において、溶液が一般的に脱気されなかったことであり得る。高度に疎水性のHDTマトリクスに埋設され、六方形に密充填されたMHAパターンの場合には、このことは非湿潤現象、即ち液体が親水性パッチのみに接触し、一方で疎水性マトリクスは、非極性表面との好ましからぬ相互作用から水性溶液を排除する空気の薄層により、液体から分離される現象をもたらすであろう(例えば、Steitz等、“Nanobubbles and Their Precursor Layer at the Interface of Water Against a Hydrophobic Substrate”,Langmuir,2003;19(6);2409−2418参照)。そのような場合、生物学的分子は、疎水性パッチに選択的に吸着するが、これは表面の本来的性質の為ではなく、構造の一部のみが選択的に濡れることによる。これは興味深い現象ではあるが、本発明の主題ではない(本発明のSPR実験において使用された溶液は、そのような混乱を回避すべく、使用に先立って全て良く脱気された。)
【0093】
これまで、この発明は上記実施態様を参照して説明されている。しかしながら、さまざ
まな変更および改善をこれらの実施態様へ適用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造の表面に作成されたファウリング領域及び非ファウリング領域;並びに該ファウリング領域及び/又は非ファウリング領域に配置された抗体を有してなる、生物学的検出の為の構造。
【請求項2】
該非ファウリング領域が非ファウリングマトリクスであり、
該ファウリング領域が該非ファウリングマトリクスに埋設されたファウリングパッチであり、
該抗体が該ファウリングパッチに封じ込めされてなる、
請求項1に記載の構造。
【請求項3】
該ファウリング領域及び非ファウリング領域がナノパターンを形成する、
請求項1に記載の構造。
【請求項4】
金属表面;及び
該金属表面上に形成された生物学的分子の小パターンを有してなる、
生物学的検出の為の構造。
【請求項5】
該金属表面が連続的金属表面である、請求項4に記載の構造。
【請求項6】
該小パターンが、大規模ナノパターンである、請求項4に記載の構造。
【請求項7】
該大規模ナノパターンが、自己会合法により形成される、請求項6に記載の構造。
【請求項8】
構造の表面に作成されたファウリング領域及び非ファウリング領域;並びに該ファウリング領域に封じ込めされた抗体を有してなる、抗体の活性増強の為の構造。
【請求項9】
金属表面;
該金属表面上に形成されたファウリング及び非ファウリング領域の大規模ナノパターン;及び
該ファウリング領域に封じ込めされた生物学的分子を有してなる、
生物学的分子の活性増強の為の構造。
【請求項10】
該構造のナノパターン化表面が、バイオセンサの検出表面を含んでなる、請求項8または9のいずれかに記載の構造。
【請求項11】
該構造のナノパターン化表面が、ミクロン又はミリメートル範囲の寸法を以って領域に分割されている、請求項8または9のいずれかに記載の構造。
【請求項12】
ミリ/マイクロパターン化されたナノパターンの異なる領域が、異なる生物学的分子を保持する、請求項11に記載の構造。
【請求項13】
ミリ/マイクロパターン化されたナノパターンが、多重的生物学的検出に使用される、請求項12に記載の構造。
【請求項14】
該構造のナノパターン化表面が、細胞接着及び細胞増殖の促進に使用される、請求項8、9、11及び12に記載の構造。
【請求項15】
該構造のナノパターン化表面が、生物学的組織の増殖の促進に使用される、請求項8、9、11及び12に記載の構造。
【請求項16】
該構造のナノパターン化表面が、移植組織の表面被覆に使用される、請求項8、9、11及び12に記載の構造。
【請求項17】
該構造のナノパターン化表面が、移植組織の生物学的適合性の向上に使用される、請求項16に記載の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−528257(P2010−528257A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547481(P2009−547481)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【国際出願番号】PCT/JP2008/059596
【国際公開番号】WO2008/143351
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(306008724)富士レビオ株式会社 (55)
【Fターム(参考)】