説明

表面に凹凸が形成されたガラス、及び、その製造方法

【課題】所望の凹凸形状を再現性よく形成することが容易なガラスの製造方法等を提供する。
【解決手段】ガラス10の表面10aに網20を接触させた状態で、ガラス10の表面10aをエッチング液によりエッチングする工程を備える、表面に凹凸10bが形成されたガラス10の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に凹凸が形成されたガラス、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガラスの表面に微細な凹凸を形成することによりガラスの表面における光の反射挙動を平滑な表面とは異ならせることが行なわれている。この工程は、ガラス表面のマット処理や、フロスト加工とも言われる(例えば、特許文献参照)。
【0003】
そして、ガラスの表面に微細な凹凸を形成する方法として、例えば、65%フッ酸及び98%硫酸を希釈することなく混合し、さらに、ガラス材料(ホウ砂、ケイ砂等)を溶かしたエッチング液をガラスの表面に接触させる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO00/64828号パンフレット
【特許文献2】特開2002−249344号公報
【特許文献3】特開2003−73145号公報
【特許文献4】特開2008−24543号公報
【特許文献5】特開平2−80351号公報
【特許文献6】国際公開WO2002/053508号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、ガラス表面に形成される凹凸形状自体が、エッチング液における酸やガラス材料の濃度や、エッチング液の温度や、エッチング液との接触時間等の種々の条件の影響をきわめて強く受け、よほどの熟練をつまないかぎり凹凸形状を再現性よく形成することが困難であった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、凹凸形状を再現性よく形成することが容易なガラスの製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る製造方法は、ガラスの表面に網を接触させた状態で、このガラスの表面をエッチング液によりエッチングする工程を備える、表面に凹凸が形成されたガラスの製造方法である。
【0008】
本発明によれば、ガラスの表面に網が接触した状態でガラスの表面がエッチングされるため、ガラスの表面に、網の形態に対応する微細な凹凸を再現性よく容易に形成することができる。また、網を用いるために、フッ酸や硫酸等を高濃度に含むエッチング液を用いなくても、再現性よく微細な凹凸を形成可能である。さらに、網を構成する糸の配置や、網の目の大きさを変えることにより、凹凸形状の制御が容易である。さらに、網は、エッチング工程後にガラス表面から除去することが容易であり、網の再利用も容易である。
【0009】
ここで、網のメッシュ数が50〜350(糸の径は12〜70μm、目開きは20〜250μm)であることが好ましい。
【0010】
これにより、特にガラスの表面での可視光の反射防止効果が高くなる。
また、エッチング液は、フッ化水素塩、及び、酸を含む水溶液であることが好ましい。
【0011】
この液は、取り扱いが容易であり、廃液処理負荷も小さく好適である。
【0012】
本発明に係るガラスは、表面に網の形状に基づく凹凸が形成されたガラスである。このガラスは、上述の製造方法により容易に製造される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、凹凸形状を再現性よく形成することが容易なガラスの製造方法等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態にかかる製造方法を(a),(b),(c)の順に説明する概略断面図である。
【図2】実施例により製造された網の形状に基づく凹凸が形成されたガラス板である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を場合により図面を参照しながら詳細に説明する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0016】
まず、図1(a)に示す、ガラス10、網20、及び、図示しないエッチング液を用意する。
【0017】
(ガラス)
本発明に用いられるガラスは特に限定されない。たとえ、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、パイレックスガラス、石英、水晶ガラス、シリコン、サファイアなどを例示できる。
【0018】
また、ガラス10の形状も特に限定されず、板状、レンズ状、曲面状等種々の形状のものに適用可能である。なお、図1では、一例としてガラス板を示している。ガラス10における、エッチングが行なわれる表面10aは予め、アルカリ水溶液や、ガス噴きつけ等により洗浄され、十分に乾燥されていることが好ましい。また、裏面10cをエッチングしない場合には、裏面10cを、エッチング液によりエッチングされにくい材料、例えば、樹脂フィルム、レジスト等からなるマスクにより保護しておくことが好ましい。なお、表面10aの一部のみに凹凸を設けたい場合には、同様にその部分のみが露出するマスクをガラス表面に形成すればよい。
【0019】
(網)
本実施形態に用いられる網20も特に限定されず、一の方向に延びる複数の糸(例えば縦糸20a)と、他の方向に延びる複数の糸(例えば横糸20b)とを組み合わせることにより形成されたものであればよい。縦糸20aと横糸20bとを、例えば、平織、綾織等により編みこんだものが好ましいが、縦糸と横糸とを一体に形成(押出成形)したものでも実施は可能である。また、網20は、3軸織、4軸織でも構わない。
【0020】
網20の各糸20a、20bの径や、糸20a間、20b間の開口幅である目開きは、形成したい凹凸の形状に合わせて適宜設定すればよい。例えば、可視光の反射防止のための凹凸を形成したい場合、メッシュ数が50〜350程度(糸の径が12〜70μm、目開きが20〜250μm程度)の網を用いることが好ましい。
【0021】
網20の各糸20a,20bの材料も特に限定されないが、エッチング液によりエッチングされにくい材料が好ましい。好ましい材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル(PET等)、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))等の樹脂である。ステンレス等の金属糸でも実施は可能であり、この場合には表面に樹脂をコーティングすることが好ましい。
【0022】
また、網20は、ガラス10の表面10aよりも大きな径の枠(不図示、例えば、円形、矩形等)に四方を固定して縦方向及び横方向にそれぞれ張力をかけ、シワが生じないようにして平面性を高めることが好ましい。枠の材料は特に限定されないが、例えば、網と同様の樹脂や、ステンレス、鋳物、アルミ等の金属材料が挙げられる。なお、枠に金属材料を使用する場合には、その表面を樹脂等によりコーティングすることが好ましい。
【0023】
(エッチング液)
エッチング液はガラスの表面をエッチングできるものであれば特に限定されない。例えば、フッ化水素を含む水溶液や、フッ化水素塩を含む水溶液が挙げられる。
【0024】
特に、エッチング液として、フッ化水素塩、及び、酸を含む水溶液(以下、フッ化水素塩−酸水溶液と呼ぶことがある)が好ましい。このようなフッ化水素塩−酸水溶液は、酸性ガスの発生が少なく取り扱いが容易であると共に、廃液処理も低コストで行なえて好ましい。
【0025】
フッ化水素塩としては、フッ化水素アンモニウム(酸性フッ化アンモニウム)、フッ化水素カリウム(酸性フッ化カリウム)、フッ化水素ナトリウム等が挙げられる。フッ化水素塩の濃度は1〜4質量%が好適である。
【0026】
また、酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、カルボン酸等が挙げられる。酸の濃度は、3〜60質量%が好適である。
【0027】
さらに、フッ化水素塩−酸水溶液は、種々の添加剤、例えば、水混和性の有機溶媒等のレベリング剤、pH調整効果を発揮するフッ化アンモニウム等の中性塩、洗浄効果を発揮するカチオン性、非イオン性、両性等の界面活性剤等を、必要に応じて、好ましくは3質量%以下、より好ましくは0.5〜3質量%以下添加してもよい。
【0028】
水としては、純水、イオン交換水、軟水等を利用できる。水は、例えば、38〜70質量%とすることができる。
【0029】
上述のフッ化水素塩−酸水溶液は、pHを例えば4〜6程度とすることができる。pHは、フッ化アンモニウム等により調節できる。
【0030】
続いて、図1(a)に示すように、ガラス10の表面10aに網20を接触させ、この状態で、ガラス10の表面10aに上述のエッチング液を接触させる。具体的な接触方法は特に限定されない。例えば、エッチング溶液を貯留する容器内に、網20を接触させたガラス10を沈めてもよいし、網20を接触させたガラスに対してエッチング液を上から注いでもよい。
【0031】
これにより、図1(b)に示すように、ガラス10の表面10aがエッチングされる。具体的には、表面10aのうち網20の糸20a,20bと接触している部分はエッチングされにくいのに対し、表面10aのうち網20の糸20a,20bと接触していない部分はエッチングされやすく、特に、表面10aのうち糸20a,20bから離れているところほどエッチングがされやすい。これにより、ガラス10の表面10aに、網20の表面の凹凸に応じた凹凸が形成される。
【0032】
ガラス10とエッチング液との接触時間は例えば、30秒〜5分とすることができ、エッチング液の温度は10〜35℃程度とすることができる。このとき、ガラス10とエッチング液とを接触させる時間、及び、エッチング液の温度等は、エッチングの深さに応じて任意好適に調整すればよい。これにより、0.1〜5μmの深さのエッチングを、数分で処理することも可能である。
【0033】
その後、ガラス10とエッチング液との接触を終了させ、ガラス10の表面10aから網20を除去し、ガラスの表面10aを十分洗浄することにより、図1(c)に示すような、表面10aに網20の形状に基づく凹凸10bが形成されたガラス10が得られる。
【0034】
本発明によれば、ガラス10の表面に網20を接触させた状態で、エッチング液によりガラス10の表面10aをエッチングするので、網20の表面形状に対応する凹凸がガラス10の表面10aに再現性よく形成される。しかも、従来のように、フッ酸及び硫酸を高濃度に含むエッチング液を使用する必要がなく、作業も簡単となる。
【0035】
また、網20を替えることにより、容易に種々の形態の凹凸10bを形成できる。さらに、網20はガラスと接触させること及びガラスから除去することが容易であり、再利用も容易である。したがって、十分な低コスト化が可能となる。
【0036】
また、網20により形成された凹凸10bを有するガラス10の表面10aは、光の反射挙動が、凹凸形成前の平滑な表面とは異なることとなる。
これにより、例えば、メッシュ数が200〜350、(糸の径が12〜30μm、目開きが20〜50μm)程度の目の比較的細かい網を用いた場合には、ガラス表面に例えば深さ5〜500μm程度)の周期的な凹凸構造をガラス表面に形成でき、これにより光の反射を抑制する(ノングレア処理)ことが可能である。そしてこのようなガラスは、液晶ディスプレイやタッチパネルのガラス、建材ガラス等の光を透過させつつ反射防止性能が求められるガラスとして使用可能である。この場合、透過率は平滑な表面に比べそれほど下がることはなく、逆に上がることもある。
また、網内の各単位格子は完全に同一のサイズの繰り返しではなく、微細なズレがあるので、同一の網を用いて凹凸を形成したガラスを重ね合わせても、モアレがでにくい。したがって、液晶ディスプレイやタッチパネルに好適である。
【0037】
一方、メッシュ数が50〜200、(糸の径が30〜70μm、目開きが50〜250μm)程度の比較的目の粗い網を用いた場合には、乱反射により表面での反射率を上げることができ、曇りガラスや、スリガラスとして利用することも可能である。いずれにしろ、反射率や透過率は、網の形状やエッチング量により適宜調節できる。
【0038】
本発明は、上記実施形態に限定されず種々の変形態様が可能である。ガラス表面への装飾デザインの作成も可能である。
【実施例】
【0039】
ガラスとして、ソーダガラスを用意した。波長550nmの光の光反射率は6%、光透過率は94%であった。
【0040】
エッチング液として、フッ化水素アンモニウムを7質量%、硫酸を14質量%含む液を用意した。
【0041】
網として、ポリエステル繊維製で、繊維径35μm、目開き120μmの平織りの網を用意した。
【0042】
そして、ガラスの表面に網を密着させた状態で、エッチング液を25℃、5分接触させ、その後、ガラス表面からの網の除去、洗浄、乾燥を行った。このようにして得られたガラスの表面の顕微鏡写真を図2に示す。図2に示すように、ガラスの表面に、網の形状に基づく、凹凸が形成された。このガラスの550nmの光の反射率は8%、光透過率は92%であった。
【符号の説明】
【0043】
10…ガラス、10a…表面、10b…凹凸、20…網。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスの表面に網を接触させた状態で、前記ガラスの表面をエッチング液によりエッチングする工程を備える、表面に凹凸が形成されたガラスの製造方法。
【請求項2】
前記網の糸の径が12〜70μm、目開きが20〜250μmである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記エッチング液は、フッ化水素塩、及び、酸を含む水溶液である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
表面に網の形状に基づく凹凸が形成されたガラス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−63490(P2011−63490A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217028(P2009−217028)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】