説明

表面処理アルミニウム材及びその製造方法並びにアルミニウム材の表面処理方法

【課題】低発塵性の表面処理アルミニウム材、その製造方法、及びアルミニウム材の表面処理方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム材の表面の少なくとも一部又は全部が50重量%以上100重量%未満のリン酸及び0.001重量%以上5重量%以下の溶存アルミニウムを含んだ表面平滑化処理液で処理され、超音波洗浄して表面処理されたことを特徴とする表面処理アルミニウム材であり、また、このような方法を用いた表面処理アルミニウム材の製造方法であり、更にはアルミニウム材の表面処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表面処理アルミニウム材及びその製造方法並びにアルミニウム材の表面処理方法に関し、詳しくは低発塵性の表面処理アルミニウム材及びこれを得ることができる表面処理アルミニウム材の製造方法に関し、また、アルミニウム材の表面に存在する第二相化合物の離脱による発塵を抑制することができるアルミニウム材の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピューターをはじめ、近年では種々の携帯機器にハードディスクドライブが搭載されるようになり、ハードディスクドライブの性能向上がますます要求されている。通常、ハードディスクドライブは、大気中の塵や埃からディスク(磁気ディスク)を保護するためにカバーケースによって覆われるが、このカバーケースには、ハードディスクドライブの小型化や軽量化の要請を受けて、軽量であると共に機械的強度に優れ、かつ、加工性及びコスト性等に優れるアルミニウム材が主に用いられている。また、ディスクに記録したり、ディスクから再生したりするための磁気ヘッドは、通常、アクチュエータアーム(スイングアーム)によって位置制御されるが、アクチュエータアーム自体が高速で、かつ、高精度で駆動する必要があることから、同様に、軽量かつ機械的強度に優れたアルミニウム材が使用されている。
【0003】
一方、ハードディスクドライブの高性能化の要請が高まるにつれ、塵や埃等の微粒子による影響について検討されるようになっている。特にカバーケースやアクチュエータアーム等に使用されるアルミニウム材自体が発塵すると、ハードディスクドライブや周辺の他の精密機器で誤動作が生じるおそれがある。そこで、成形加工したアクチュエータアームの表面に無電解NiPめっきで処理して被膜を形成する方法(マグネシウム系合金からなるアクチュエータアームの例ではあるが、例えば特許文献1参照)や、カバーケースの外側にあたるアルミニウム材の表面に樹脂皮膜を設けたハードディスクドライブケース用樹脂被覆アルミニウム材等が提案されている(例えば特許文献2及び3参照)。また、グラファイトやニッケル等の粉末を含有した樹脂被膜を形成して導電性や放熱性を備えた樹脂被膜アルミニウム材(例えば特許文献4及び5参照)や、所定のガラス転移温度を有した潤滑剤を含む樹脂皮膜を形成して連続成形における加工キズが付き難いアルミニウム材(例えば特許文献6参照)なども提案されている。
【0004】
しかしながら、無電解NiPめっき処理は、発塵を抑制する効果では優れるものの、使用する無電解NiPめっき液のコストがハードディスクカバーケースの製造原価のおよそ半分を占め、また、前処理としてアルミニウム材の表面を亜鉛に置換するジンケート処理を、通常、酸洗を繰り返しながら複数回行う必要があり、処理工程数も多くコストがかかるといった問題がある。更には、無電解NiPめっきを施した後には、めっき皮膜を安定化させるためにクロメート処理を行う方法も試みられているが、このような処理は環境に影響を及ぼすおそれもある。一方、上記の樹脂被覆アルミニウム材では、ディスクを格納した際にディスク側にあたるアルミニウム材の表面には樹脂皮膜が設けられないことになることから、例えば外部からの衝撃によってディスク側のアルミニウム材の表面で発塵するおそれがある。また、樹脂皮膜は、通常、板材の状態において形成されるが、ハードディスクカバーケース等の形状に加工するには、樹脂被膜アルミニウム材を所定の大きさに切断し、プレス加工等を行う必要があるため、切断面は樹脂で被覆されずにむき出しの状態になる。
【0005】
このような状況において、本発明者等は、ハードディスクドライブ等のような精密機器のカバーケースやアクチュエータアーム等のような精密機器部品の材料として好適な新たな低発塵性の表面処理アルミニウム材を提案している(特許文献7参照)。本発明者等は、先ず、アルミニウム材の表面状態を詳細に観察し、アルミニウム材の表面に存在する第二相化合物が発塵源となり得ることを突き止めた。アルミニウム材に存在する第二相化合物とは、素材金属のアルミニウム(Al)以外の物質(Fe, Si, Cu, Mg, Znその他の不純物)によって相を形成している物質であり、例えばAl3Fe、αAlFeSi、Al3Mg2、Mg2Si、及びAl-Mg-Zn化合物等の化合物である。アルミニウム材の表面に存在するこれらの第二相化合物については、走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像を利用してその大きさや分布状態を調べることができ、また、X線回折によってその物質を同定することもできる。そして、本発明者等は、アルミニウム材を特定元素のオキソ酸からなるオキソ酸処理液で処理することで、アルミニウム材の表面からの第二相化合物の離脱を防止する皮膜を形成して、低発塵性の表面処理アルミニウム材を得ることに成功している。ところが、ハードディスクカバーケースやアクチュエータアーム等の形状がより複雑になる場合には、発塵抑制の効果について更なる改良の余地があることが分った。
【0006】
ところで、アクチュエータアームの加工時にコーナー部に生じたバリが、ディスクに組み込まれた後に微細な金属片として剥がれ落ち、読み取り障害等を引き起こす問題に対処すべく、アクチュエータアームをリン酸及び硝酸を含む混合水溶液で化学研磨する表面処理方法が提案されている(特許文献8及び9参照)。しかしながら、この表面処理方法は、比較的低濃度のリン酸に硝酸を加えた混合水溶液で化学研磨液することによって、切削やプレスのような加工によって発生した数十μm程度のバリをコーナー部から除去するものであり、第二相化合物の離脱に起因するようなアルミニウム材の発塵を抑制するための技術とは異なる。また、同様にしてアクチュエータアームからバリを取り除いた後、フッ化物イオンを含んだ酸性水溶液に浸漬させることで、アクチュエータアームを形成するアルミニウム材に含まれたシリコン酸化物等を除去する方法(特許文献10参照)が提案されているが、この方法は、リン酸と硝酸との混合水溶液による化学研磨では処理できずに残存するシリコン酸化物等を別途酸性水溶液で取り除くものであるが、フッ化物イオンを含んだ酸性水溶液にアルミニウム材を浸漬させて処理することから、素地のアルミニウムも同時に溶解する可能性があり、新たな第二相化合物が表面に露出する可能性がある。
【特許文献1】特開2004−27304号公報
【特許文献2】特開平10−249994号公報
【特許文献3】特開平11−25653号公報
【特許文献4】特開2008−149600号公報
【特許文献5】特開2007−181984号公報
【特許文献6】特開2005−297290号公報
【特許文献7】特開2005−336605号公報
【特許文献8】特開2004−131757号公報
【特許文献9】特開2004−216480号公報
【特許文献10】特開2006−342413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そして、本発明者等は、先に報告した低発塵性の表面処理アルミニウム材を得るアルミニウム材の表面処理方法とハードディスクカバーケースやアクチュエータアーム等の形状に由来するアルミニウム材の発塵量との関係について更に詳細に検討を加えた結果、切断、切削、プレス、穴あけ、打抜き等のような加工により形成されたアルミニウム材の切断面には、図1に示すようなSEM観察で確認できる微細な表面凹凸を有した破断面が含まれ、このような表面凹凸を有した破断面では、破断面を有さないその他の場所に比べて第二相化合物の離脱が生じ易くなるという新たな知見を得た。すなわち、所定の加工により破断面が多くなるにつれ、アルミニウム材は、破断面に存在する第二相化合物による発塵が増すことになる。尚、図1(a)のSEM写真では、左側の領域(I)が破断面であり、右側の領域(II)がせん断面である。また、図1(b)は破断面を拡大したものである。
【0008】
そこで、本発明者等は、低発塵性が要求される精密機器のカバーケースや精密機器部品等の材料として好適な表面処理アルミニウム材を得る方法について鋭意検討した結果、リン酸を所定の濃度で含んだ表面平滑化処理液を用いて、破断面に現れた微細な表面凹凸を均一に取り除いて破断面のはだ荒れを処理し、更に超音波洗浄を行うことで、破断面からの第二相化合物の離脱を可及的に防止し、発塵抑制効果をより一層向上させることができることを見い出し、本発明を完成した。
【0009】
したがって、本発明の目的は、例えば無電解NiPめっき処理したアルミニウム材と同等又はそれ以上の低発塵性能を備えた表面処理アルミニウム材、及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の別の目的は、第二相化合物の離脱による発塵を抑制して、例えば無電解NiPめっき処理したアルミニウム材と同等又はそれ以上の低発塵性能を備えた表面処理アルミニウム材を得ることができるアルミニウム材の表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、アルミニウム材の表面の少なくとも一部又は全部が50重量%以上100重量%未満のリン酸及び0.001重量%以上5重量%以下の溶存アルミニウムを含んだ表面平滑化処理液で処理され、超音波洗浄して表面処理されたことを特徴とする表面処理アルミニウム材である。
【0012】
また、本発明は、アルミニウム材の表面の少なくとも一部又は全部を50重量%以上100重量%未満のリン酸及び0.001重量%以上5重量%以下の溶存アルミニウムを含んだ表面平滑化処理液で処理し、超音波洗浄して表面処理することを特徴とする表面処理アルミニウム材の製造方法である。
【0013】
更に、本発明は、アルミニウム材の表面の少なくとも一部又は全部を50重量%以上100重量%未満のリン酸及び0.001重量%以上5重量%以下の溶存アルミニウムを含んだ表面平滑化処理液で処理し、超音波洗浄して表面処理することを特徴とするアルミニウム材の表面処理方法である。
【0014】
本発明では、先ず、リン酸を主成分として含む表面平滑化処理液でアルミニウム材の表面を化学的に平滑化する。アルミニウム材の表面には、素材金属のアルミニウム(Al)以外の物質(Fe, Si, Cu, Mg, Znその他の不純物)によって相を形成した第二相化合物が存在し(例えばAl3Fe、αAlFeSi、Al3Mg2、Mg2Si、及びAl-Mg-Zn化合物等の化合物)、この第二相化合物が発塵源となり得る。特に、切断、切削、プレス、穴あけ、打抜き等の加工によって形成されたアルミニウム材の切断面には、図1に示したように、SEM観察で確認できるようなはだ荒れ(微細な表面凹凸)を有した破断面が含まれ、この表面凹凸からは第二相化合物の離脱が生じ易くなってしまう。そのため、リン酸を主成分とした表面平滑化処理液で処理することで、アルミニウム材の発塵源を除去するようにする。そして、アルミニウム材が破断面を有する場合でも、このような表面平滑化処理液を用いた表面平滑化処理により、微細な表面凹凸を平滑化して第二相化合物の離脱を効果的に防止し、かつ微細な表面凹凸(破断面)自身が発塵源となり得ることを防ぐ。
【0015】
表面平滑化処理液のリン酸濃度については、50重量%以上100重量%未満であり、好ましくは70〜90重量%である。リン酸の含有量が50重量%より少ないと、下記式(1)で示されるように、平滑化に寄与するリン酸量が少なくなるため破断面の微細な凹凸が十分に平滑化されないおそれがある。さらに表面平滑化処理液の粘性も低くなるため、破断面の微細な表面凹凸において表面平滑化処理液が均一に拡散するため、破断面の表面凹凸がその凹凸を有したまま均一に溶解してしまい、破断面が平滑化されないおそれもある。50重量%以上であれば、平滑化に寄与するリン酸量が十分確保され、さらにリン酸由来の粘性によって表面平滑化処理液の破断面の凹部での拡散が遅くなり、凸部の溶解が優先的に進行するため破断面の微細な凹凸が平滑化される。なお、リン酸濃度の上限については、市販のリン酸溶液(85重量%)中の水分を蒸発させ濃縮すれば、理論上リン酸100重量%は可能であるが、アルミニウム材の破断面の表面凹凸からの溶解により液中のアルミニウム成分量が増加するためリン酸100重量%は建浴時以外には実現しない点、また建浴時においても下記式(2)に示されるようにリン酸の分子内脱水反応による水の生成によりリン酸100重量%は実現しない点から、リン酸濃度の上限は100重量%未満である。ただし、上記記載のリン酸の濃縮には時間がかかるため実用上好ましくは90重量%以下である。
2Al + 6H3PO4 → 2Al(H2PO4)3 +3H2 ……(1)
2H3PO4 → H4P2O7 +H2O ……(2)
【0016】
また、本発明では、表面平滑化処理液が溶存アルミニウムを含んだ状態でアルミニウム材を表面平滑化処理するようにする。この理由については次のとおりである。アルミニウム材を表面平滑化処理液で処理すると、上記式(1)に示したように、直ちにアルミニウムの溶解反応が始まり破断面の微細な凹凸の平滑化が進むが、同時に、破断面以外のアルミニウムの溶解も進行してしまうことからアルミニウム材の寸法精度を保つことが困難になる。特に、アクチュエータアーム等のハードディスク部品や精密機器部品といったミクロンオーダーやサブミクロンオーダーの寸法精度が要求されるような場合には大きな問題になる。そこで、溶存アルミニウムを含んだ表面平滑化処理液を用いてアルミニウム材を処理することにより、アルミニウム材の過度の溶解反応を抑制して、選択的に破断面の微細な凹凸の平滑化が進行するように反応を制御する。また、溶存アルミニウムの存在によって表面平滑化処理液の粘度が増加することから、破断面に生じた凸部分が優先的に溶解して破断面の平滑化反応が効率的に進むといった効果も望める。
【0017】
ここで、アルミニウム材を処理する表面平滑化処理液の溶存アルミニウムの濃度については0.001重量%以上5重量%以下、好ましくは0.01重量%以上3重量%以下、より好ましくは0.1重量%以上3重量%以下となるようにする。表面平滑化処理液に含まれる溶存アルミニウムの濃度が0.001重量%より少ないと、上述したようなアルミニウムの溶解反応を制御する効果は十分には望めず、処理するアルミニウム材の寸法精度を維持することが困難になる。反対に溶存アルミニウムが5重量%を超えて含まれていると、アルミニウム材の破断面の微細な凹凸を平滑化するための反応が十分に進行しなくなるおそれがある。表面平滑化処理液の浴管理の観点から、上記溶存アルミニウム濃度の下限値は0.01重量%であるのが好ましく、そのコスト性等を考慮すると下限値は0.1重量%であるのがより好ましい。また、破断面の微細な凹凸の平滑化反応を効率的に進行させる観点から、上記溶存アルミニウム濃度の上限値は3重量%以下であるのが好ましい。表面平滑化処理液に予めアルミニウムを溶存させておく手段については特に制限はなく、例えばアルミニウム板等を別途用意して表面平滑化処理液に浸漬させて、所定の溶存アルミニウム濃度になるように溶解させるようにする方法等が例示できる。この場合、本発明の表面処理を実際に行う対象のアルミニウム材と同じ材質のアルミニウム板等を用意し、溶解させるようにするのが望ましい。
【0018】
本発明における表面平滑化処理液において、鏡面のような光沢を持ったアルミニウム材に仕上げたい場合には、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸、蓚酸、硼酸、フッ酸等の他の酸を含有させるようにしてもよいが、その際には、これらの酸は合計で1〜30重量%となるようにするのがよい。なかでも硝酸を含むと硝酸性ガス(NOx)が発生するおそれがあることから、表面平滑化処理液に硝酸を添加する場合には更に尿素を0.2〜10重量%含有させるようにするのがよい。すなわち、リン酸と硝酸とを含む表面平滑化処理液でアルミニウム材を処理すると、下記式(3)で表されるようにNOxが発生するが、尿素の存在により、下記式(4)のようにNOxの発生を抑制することができる。そのため、硝酸濃度が1重量%以上になる場合を目安に、尿素を含有させるようにするのがよい。
7Al+7H3PO4+5HNO3 → 7AlPO4+2N2+NO2+13H2O ……(3)
10Al+10H3PO4+6HNO3 → 10AlPO4+3N2+18H2O ……(4)
【0019】
表面平滑化処理液を用いてアルミニウム材を処理する具体的な手段については特に制限されず、アルミニウム材を処理液に浸漬させる浸漬処理や処理液を噴霧する噴霧処理等の手段が例示できるが、浸漬処理の場合、温度60〜110℃、好ましくは65〜105℃の表面平滑化処理液中に、処理時間10秒〜20分間、好ましくは30秒〜5分間アルミニウム材を浸漬させるようにするのがよい。表面平滑化処理液の温度が60℃より低いと反応速度が遅くなり処理時間が長くなってしまい非効率的であり、反対に110℃を超えると表面平滑化処理液中の水分の蒸発量が多くなり、特に硝酸や硫酸等を含んだ場合にはそれらの蒸発量も多くなるため浴組成の管理が困難になる。なお、破断面の微細な表面凹凸を平滑にするためには、反応速度が一定であることが望ましく、浴温度は一定であるのが望ましい。一方、処理時間が10秒より短いとアルミニウム材の表面がほとんど平滑化されないため、破断面の微細な表面凹凸の除去が困難になる。反対に20分を超えると溶解量が多くなり過ぎてアルミニウム材の寸法精度の維持が難しくなる。
【0020】
表面平滑化処理液を用いた表面平滑化処理後のアルミニウム材については、超音波洗浄を行うようにする。表面平滑化処理液による処理後のアルミニウム材の表面には、除去しきれなかった微細な表面凹凸の一部や、第二相化合物が残存するおそれがあるため、超音波洗浄によってこれらのものを物理的に除去するようにする。また、アルミニウム材の表面に表面平滑化処理液が残存していると、後にアルミニウム材が腐食するおそれがあるため、この超音波洗浄による表面平滑化処理液の除去が耐食性の向上により貢献するという効果も相乗される。
【0021】
この超音波洗浄について、上記のような目的でアルミニウム材の表面をより均一に洗浄する観点から、使用する超音波の周波数としては、一般には100kHz〜1MHzの高周波から適宜選択するようにするのがよいが、洗浄対象であるアルミニウム材を揺動させて均一に超音波を照射することができれば、例えば40kHz程度の低周波であっても差し支えない。また、超音波洗浄の一般的な方法として、純水等にアルミニウム材を浸漬させて超音波を照射する超音波水洗を行う場合、100kHz〜1MHzの高周波を使用するのであれば3〜5分間程度を目安に行えばよく、40kHz、出力100Wであれば1〜3分間程度を目安に行えばよい。更には、同一又は異なる周波数で洗浄処理を2回以上繰り返すようにしてもよい。なお、表面平滑化処理後のアルミニウム材は速やか超音波洗浄するのが望ましい。超音波洗浄までの間にアルミニウム材の表面に付着した残渣(スマット)が酸化してしまうと、取り除くことが困難になるためである。この場合、超音波洗浄の前に、スマットを除去する目的で、硝酸、硫酸、塩酸等の酸性水溶液による処理でデスマット処理を行ってもよい。また、表面平滑化処理後のアルミニウム材を水洗し、余分な表面平滑化処理液を除去してから超音波洗浄を行うようにしてもよい。
【0022】
本発明においては、表面平滑化処理液で処理し、超音波洗浄した表面処理面を、更にリン、珪素、及びクロムからなる群から選ばれた1種以上のオキソ酸構成元素からなるオキソ酸を含有したオキソ酸処理液で処理し、加熱処理してアルミニウム材の表面に皮膜を形成するようにしてもよい。表面平滑化処理液による化学的な処理と超音波洗浄による物理的な処理とにより、アルミニウム材の表面の第二相化合物は可及的に取り除かれるが、仮に除去できない第二相化合物が存在したとしても、所定のオキソ酸処理液による処理と加熱処理とによって、アルミニウム材の表面に強固な皮膜(オキソ酸アルミニウム皮膜)を形成して、第二相化合物の離脱を防ぐことができる。また、このような皮膜を形成することによって、同時にアルミニウム材に耐食性を付与せしめることができる。
【0023】
オキソ酸処理液については、リン、珪素、及びクロムからなる群から選ばれた1種以上のオキソ酸構成元素からなるオキソ酸を含んだ水溶液であればよく、具体的にはホスフィン酸(HPH2O2)、亜リン酸(H3PO3)、ホスホン酸(H2PHO3)、リン酸(H3PO4)、二リン酸(H4P2O7)、メタリン酸〔(HPO3)n〕、次リン酸〔(HO)2OP-PO(OH)2〕、オルトケイ酸(H4SiO4)、メタケイ酸〔(H2SiO3)n〕、メタ二ケイ酸(H2Si2O5)、クロム酸(H2CrO4)、及び二クロム酸(H2Cr2O7)等の水溶液を例示することができ、好ましくはホスフィン酸、亜リン酸、ホスホン酸、リン酸、二リン酸、メタリン酸、及び次リン酸の水溶液であるのがよい。そして、これらリン酸系水溶液で処理することで、表面にリン酸アルミニウム、リン酸一水素アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム等からなるリン酸アルミニウム皮膜が形成される。なお、オキソ酸はいずれか1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
オキソ酸処理液中のオキソ酸構成元素の含有量については、その総量が10〜10000ppm、好ましくは25〜500ppmであるのがよい。10ppmより少ないと皮膜形成が不十分となるおそれがあり、反対に10000ppmを超えると未反応のオキソ酸がアルミニウム材の表面に残存して、酸による腐食が引き起こされるおそれがある。なお、オキソ酸構成元素の含有量が10ppm以上であれば、第二相化合物の離脱を防止できる皮膜を形成することが可能であり、25ppm以上であればより効果的であるが、コスト面を考慮すると500ppm以下であるのがよい。
【0025】
また、オキソ酸処理液は、上記オキソ酸構成元素からなるオキソ酸以外の他のオキソ酸や、オキソ酸構成元素からなるオキソ酸の金属塩を実質的に含まないようにするのがよい。ここで、他のオキソ酸とは、リン、珪素及びクロム以外の元素を含むオキソ酸であり、また、オキソ酸構成元素からなるオキソ酸の金属塩とは、例えばリン酸亜鉛、リン酸ジルコニウム、リン酸クロム等のオキソ酸塩を挙げることができる。
【0026】
オキソ酸処理液がオキソ酸構成元素からなるオキソ酸の金属塩を含むと、アルミニウム材の表面にリン酸亜鉛やリン酸ジルコニウムの皮膜を形成してしまい、これらの皮膜は素地のアルミニウム材との結合力が弱いため第二相化合物の離脱を十分に防ぐことができず、また、アルミニウム材の表面に析出して皮膜自身が発塵源となってしまう。同様に、特定のオキソ酸構成元素からなるオキソ酸以外の他のオキソ酸を含むと、素地となるアルミニウム材と強い結合を形成することがないため、処理したアルミニウム材の表面に析出して発塵源となってしまう。そのため、オキソ酸処理液については、オキソ酸構成元素からなるオキソ酸以外の他のオキソ酸、又はオキソ酸構成元素からなるオキソ酸の金属塩を実質的に含まないようにするのがよく、好ましくは、他のオキソ酸及びオキソ酸構成元素からなるオキソ酸の金属塩をいずれも実質的に含まないようにするのがよい。これらと同様の理由から、オキソ酸処理液にはフッ化水素アンモニウム、フッ化カリウム等のフッ化物、ジルコニウム、チタン、亜鉛、ニッケル等の3〜12族の金属及びこれらの塩、アルカリ金属やアルカリ土類金属及びこれらの塩、フッ化水素酸等が実質的に含まれないようにするのがよい。なお、実質的に含まれてはいけない上記の各物質であっても、例えばICP発光分析法、原子吸光光度法、又はイオンクロマトグラフ法による金属元素、非金属元素、陰イオン物質の測定で検出されない1ppm以下の物質については本発明におけるオキソ酸処理液に含まれていても特段支障はない。
【0027】
オキソ酸処理液によってアルミニウム材の表面処理面を処理する手段については、例えば浸漬処理、スプレー処理、刷毛等を用いた塗布等を用いることができるが、好ましくはオキソ酸処理液中にアルミニウム材を浸漬させる浸漬処理であるのがよい。浸漬処理での具体的な処理条件については、温度10〜100℃、好ましくは25〜80℃のオキソ酸処理液中に10秒〜30分、好ましくは1分〜15分の間アルミニウム材を浸漬させるようにするのがよい。オキソ酸処理液の温度が10℃より低いとオキソ酸とアルミニウム材との反応が起こり難く、反対に100℃より高くなるとアルミニウム材の溶解量が多くなってしまう。浸漬時間が10秒より短いとアルミニウム材の表面のオキソ酸付着量が不十分となり、加熱処理後の皮膜形成が不十分となって第二相化合物の離脱が起こるおそれがあり、反対に30分より長くなるとアルミニウム材の溶解量が多くなってしまい、寸法精度の維持が難しくなる。
【0028】
オキソ酸処理液での処理の後に行う加熱処理については、温度80〜400℃、好ましくは100〜300℃で行うようにする。加熱処理の温度が80℃より低いとオキソ酸処理液によって処理したアルミニウム材の表面に皮膜が十分に形成されないおそれがあり、反対に400℃より高くなると基材となるアルミニウム材が軟化して強度が低下するおそれがある。加熱処理の時間については0.5〜120分、好ましくは3〜60分であるのがよい。加熱処理の時間が0.5分より短いとアルミニウム材の表面の皮膜形成が不十分となって第二相化合物の離脱が起きるおそれがあり、反対に120分より長くなると表面処理アルミニウム材としての材料強度が低下するおそれがある。なお、加熱処理の雰囲気については大気中で行うことができる。
【0029】
また、オキソ酸処理液には、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤を添加してもよい。これら溶剤の添加によって、オキソ酸処理液中の溶媒成分の蒸発が促進され、加熱処理時に発生するおそれのある外観不良の一種のシミを防ぐことができる。さらに、これら溶剤は表面に残存するコンタミの一部を溶解し、その後コンタミを含有したまま蒸発するため、表面の清浄度が上がり、より低発塵性な表面とすることが可能となる。これらと同様の効果を得るために、加熱処理後のアルミニウム材の表面をエタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、もしくはアセトンやトルエン等の炭化水素系溶剤で洗浄するようにしてもよい。
【0030】
加熱処理の後には、更に超音波洗浄を行うようにしてもよい。すなわち、一連の表面処理において、外部からの埃や各種処理液に含まれたコンタミ等がアルミニウム材に付着したり、アルミニウム材の表面に酸化物が生成したりすることも考えられ、これらを取り除く目的で再度の超音波洗浄を行うようにしてもよい。この場合の洗浄条件については、先に述べた表面平滑化処理液による処理後の超音波洗浄と同様に行うことができる。
【0031】
本発明において、表面処理を行うアルミニウム材については、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものであればよく、その大きさや形状等については特に制限されず、用途に応じて適宜選択することができる。例えば高純度アルミニウム(JIS H4170; 1N99)のほか、A1100、A5052、A6063等の種々のアルミニウム合金からなるアルミニウム材を用いることができ、また、押出成形により形成された押出型材、圧延加工あるいは射出成形により形成された厚肉又は薄肉の板材、これらの板材を適宜折曲加工して得られた曲げ加工材等であってもよい。
【0032】
また、本発明における表面処理は、基材となるアルミニウム材の表面全面について表面平滑化処理をはじめとした各処理を行うようにしてもよく、あるいはコスト性を考慮してアルミニウム材の表面を適宜選択して処理するようにしてもよい。処理する部分を選択するに際しては、アルミニウム材の表面を観察して、少なくとも切断、切削、プレス、穴あけ、打抜き等のような加工により形成された切断面を処理するようにするのが好ましい。切断面以外については、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等の樹脂皮膜、Ni−Pメッキ皮膜、Ni-Bメッキ皮膜等のめっき皮膜、あるいは陽極酸化皮膜を備えるようにしてもよい。すなわち、第二相化合物の離脱による発塵性が最も懸念される切断面に対しては表面平滑化処理液等を用いた本発明の表面処理を適用し、切断面以外の表面には樹脂皮膜、めっき皮膜又は陽極酸化皮膜を備えて表面処理アルミニウム材としてもよい。なお、本発明における表面処理は、樹脂皮膜、めっき皮膜又は陽極酸化皮膜を予め備えたアルミニウム材(いわゆるプレコート材)に対して適用してもよく、或いは本発明の表面処理を適用した後、樹脂皮膜、めっき皮膜又は陽極酸化皮膜を形成するようにしてもよい(ポストコート)。
【0033】
表面処理前に予め形成される、或いは表面処理後に形成される樹脂皮膜、めっき皮膜又は陽極酸化皮膜については、表面処理アルミニウム材の用途や施される加工・処理等に応じて選択するのがよい。例えば、表面処理アルミニウム材が他の部材と接合加工等されるために加工傷が付くおそれがある場合や、接合加工後に長時間の超音波水洗が行われるなど表面荒れが発生するおそれがある場合には、アルミニウム材の表面を予め樹脂皮膜等で保護しておくようにするのがよい。また、得られる表面処理アルミニウム材に導電性を付与するために、樹脂皮膜中に金属微粒子又はカーボン微粒子を添加するようにしてもよい。微細な微粒子による発塵が問題となる分野では、例えば静電気等が内部で発生すると、微細な微粒子は静電気によって凝集しそれらがコンタミとなって機械の正常な動作を妨げる原因になる。そのため、静電気除去対策として、金属微粒子やカーボン微粒子を添加するようにしてもよい。ただしこの場合、添加する粒子の最大粒径が樹脂皮膜の厚さの2倍を超えないようにするのが好ましい。金属微粒子やカーボン微粒子の粒径が樹脂皮膜の厚さの2倍以上になると、添加した粒子自身が発塵源となるおそればかりではなく、脱落した粒子がハードディスクドライブのディスク等の表面を傷付けて、装置の正常な動作を妨げるおそれがある。なお、添加する粒子の最大径が樹脂皮膜の2倍を超えなければ、仮に超音波洗浄を施しても粒子の脱落を防ぐことができる。
【0034】
更に、本発明においては、表面平滑化処理液を用いた表面平滑化処理に先駆けて、表面処理面を脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理又は電解研磨処理のいずれか1種又は2種以上を行うようにしてもよい。このうち、脱脂処理については、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、界面活性剤等からなる通常の脱脂浴を用いて行うことができ、処理条件としては、通常、浸漬温度が15〜55℃、好ましくは25〜40℃であって、浸漬時間が1〜10分、好ましくは3〜6分であるのがよい。また、エッチング処理については、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液を用い、その濃度は20〜200g/L、好ましくは50〜150g/Lであって、処理条件としては、浸漬温度が30〜70℃、好ましくは40〜60℃であって、浸漬時間が0.5〜5分、好ましくは1〜3分であるのがよい。また、硫酸や硝酸といった酸水溶液を用いてエッチング処理を行ってもよい。なお、上記のようなエッチング処理を予め行っておけば、表面の凹凸がエッチングによって緩和されるため、表面平滑化処理液による平滑化がより短時間で実施されるという利点がある。
【0035】
デスマット処理については、例えば1〜30%硝酸からなるデスマット浴を用いて行うことができ、処理条件としては、通常、浸漬温度が15〜55℃、好ましくは25〜40℃であって、浸漬時間が1〜10分、好ましくは3〜6分であるのがよい。また、電解研磨処理については、例えば過塩素酸20重量%とエタノール80重量%からなる混合処理液を用いて行うことができ、処理条件としては、電流密度1〜10A/dm2、浴電圧20〜30Vで1〜5分間の処理でおこなうようにするのがよい。
【0036】
本発明によって得られた表面処理アルミニウム材は、所定の表面平滑化処理液による処理と超音波洗浄とによって発塵源となる第二相化合物が可及的に取り除かれ、極めて清浄な処理表面を有することから、発塵のおそれが可及的に排除された材料である。そして、純水中に浸漬させて周波数120kHzの超音波を1分間照射した場合に発生する粒子径0.5μm以上の粒子数は、液中パーティクルカウンターで測定すると、表面処理アルミニウム材の単位面積換算で1000個/cm2以下、より好ましくは500個/cm2以下である。
【発明の効果】
【0037】
本発明における表面処理によれば、切断、切削、プレス、穴あけ、打抜き等の加工によって形成された破断面を有するようなアルミニウム材であっても、所定の表面平滑化処理液を用いた表面平滑化処理により破断面の微細な表面凹凸を除去することができることから、発塵源となる第二相化合物の離脱を未然に防ぐことができる。また、本発明における表面処理によれば、上記のような表面処理アルミニウム材を寸法精度良く得ることができる。更に、本発明における表面処理は、樹脂皮膜等を予め備えたアルミニウム材が加工されて切断面が形成された後に適用することもでき、材料や用途に応じながら最適な低発塵性の表面処理アルミニウム材を得ることが可能になる。
【0038】
また、本発明によって得られた表面処理アルミニウム材は、無電解NiPめっき処理したアルミニウム材と同等又はそれ以上のレベルの低発塵性を備えるため、作業性やコストの面でも有利であり、更には、得られた表面処理アルミニウム材は耐食性にも優れることから、様々な用途に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、実施例及び比較例等に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0040】
[実施例1]
<試験用表面処理アルミニウム材の作製>
市販のA5052アルミニウム材(板厚1.0mm)の四方をシャーリングによって縦100mm、横70mmに切り出し、破断面を有したアルミニウム材を用意した。そして、リン酸80重量%、溶存アルミニウム(溶存Al)1重量%及び水19重量%からなる表面平滑化処理液に上記で用意したアルミニウム材の全体を浸漬させ、表面平滑化処理液の温度90℃で浸漬時間2分の表面平滑化処理を行った。尚、この表面平滑化処理液は、本実施例で使用したアルミニウム材と同じ材質からなるアルミニウム板をリン酸水溶液中に浸漬して溶解させ、所定の溶存アルミニウム濃度となるように準備した。
【0041】
次いで、純水を入れた洗浄容器に表面平滑化処理後のアルミニウム材を入れ、周波数40kHz及び出力100Wでの超音波水洗を3分間行った(第1の超音波水洗)。超音波水洗後、アルミニウム材を取り出して試験用の表面処理アルミニウム材を得た。
【0042】
<発塵性の評価>
上記で得られた試験用表面処理アルミニウム材の発塵性について、以下のようにして評価した。試験液として600mlの超純水を市販のホウケイ酸ガラス製ビーカー(1L)に入れ、試験用表面処理アルミニウム材を容器に接触しないように糸を用いて宙吊り状態で超純水中に浸漬した。そして、洗浄槽の下部側に超音波発信源を備えた超音波洗浄機に上記ガラス製ビーカーが収容され、洗浄槽に水が入れられて表面処理アルミニウム材に超音波が照射されるようにした状態で、周波数120kHz、出力100Wの超音波を発生させて超純水中の試験用表面処理アルミニウム材に1分間照射した。その後、試験液中に存在する粒子径0.5μm以上の粒子数を液中パーティクルカウンター(日本電色工業社製NP 500T)を用いて測定し、超純水中の粒子の増加数から、試験用表面処理アルミニウム材の単位面積あたりの発塵量を求めた。結果を表1に示す。ここで、単位面積あたりの発塵量が1000個/cm2以下の場合を○とし、1000個/cm2を超える場合を×として評価した。なお、試験用表面処理アルミニウム材を浸漬する前の試験液(超純水)中の粒子数については、予め上記と同様に液中パーティクルカウンターを用いて測定しておいた。
【0043】
<耐食性の評価>
上記試験用表面処理アルミニウム材を温度85℃及び湿度90%の環境下に500時間放置して耐食性試験を行い、試験用表面処理アルミニウム材の表面における変色の様子を評価した。特に変化がない場合を○、わずかに変化がある場合を△、著しく変化ある場合を×として、3段階で評価した。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2〜4]
表1に示す液組成の表面平滑化処理液を用いた以外は実施例1と同様にして、試験用表面処理アルミニウム材を得た(実施例2、3)。また、表面平滑化処理における処理液の温度を70℃にして行った以外は実施例1と同様にして、試験用表面処理アルミニウム材を得た(実施例4)。得られた表面処理アルミニウム材について、実施例1と同様にして、それぞれ発塵性及び耐食性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例5]
実施例1と同様にして表面平滑化処理及び第1の超音波水洗を行った後、更に、リン酸0.2g/L(Pの含有量63ppm)を含んだ25℃の水溶液(オキソ酸処理液)にアルミニウム材を5分間浸漬させてオキソ酸処理を行った。そして、オキソ酸処理液から取り出したアルミニウム材を200℃の空気中で5分間加熱保持して加熱処理を行い、試験用表面処理アルミニウム材を得た。得られた表面処理アルミニウム材について、実施例1と同様にして発塵性及び耐食性を評価した。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例6〜8]
表1に示す液組成の表面平滑化処理液を用いた以外は実施例5と同様にして、試験用表面処理アルミニウム材を得た(実施例6、7)。また、表面平滑化処理における処理液の温度を70℃にして行った以外は実施例5と同様にして、試験用表面処理アルミニウム材を得た(実施例8)。得られた表面処理アルミニウム材について、実施例1と同様にして、それぞれ発塵性及び耐食性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例9]
実施例5と同様にして加熱処理まで行った後、純水を入れた洗浄容器にアルミニウム材を入れ、周波数40kHz及び出力100Wでの超音波水洗を3分間行った(第2の超音波水洗)。超音波水洗後、アルミニウム材を取り出して試験用の表面処理アルミニウム材を得た。得られた表面処理アルミニウム材について、実施例1と同様にして発塵性及び耐食性を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例10〜13]
表1に示す液組成の表面平滑化処理液を用いた以外は実施例9と同様にして、試験用表面処理アルミニウム材を得た(実施例10、11、13)。また、表面平滑化処理における処理液の温度を70℃にして行った以外は実施例9と同様にして、試験用表面処理アルミニウム材を得た(実施例12)。得られた表面処理アルミニウム材について、実施例1と同様にして、それぞれ発塵性及び耐食性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例14]
大日本塗料社製のエポキシ系塗料CFプライマー#1100を予め5μm塗布した市販のA5052アルミニウム材(板厚1.0mm)を用意し、その四方をシャーリングによって縦100mm×横70mmに切り出して、破断面を有した樹脂皮膜被覆アルミニウム材を用意した。これ以外は実施例1と同様にして、試験用表面処理アルミニウム材を得た。得られた表面処理アルミニウム材を実施例1と同様にして発塵性及び耐食性を評価した。結果を表1に示す。
【0050】
[比較例1〜5]
表1に示す液組成の表面平滑化処理液を用いた以外は実施例1と同様にした場合(比較例1、2)、実施例1と同様に表面平滑化処理をした後に第1の超音波水洗を行なわなかった場合(比較例3)、及び表1に示す液組成の表面平滑化処理液を用いた以外は実施例9と同様にした場合(比較例4、5)について、それぞれ試験用表面処理アルミニウム材を得た。得られた試験用表面処理アルミニウム材の発塵性及び耐食性を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0051】
[参考例1及び2]
実施例1で使用したアルミニウム材を無処理のまま、実施例1と同様に発塵性及び耐食性を評価した(参考例1)。また、実施例1で使用したアルミニウム材の表面に、メルテックス株式会社製メルプレートNI−871からなるめっき浴を使用して温度90度で15分間無電解めっき処理を行い、5μmのNiPめっきを有したアルミニウム材を得た。このNiPめっき処理したアルミニウム材について、実施例1と同様に発塵性及び耐食性を評価した(参考例2)。結果をそれぞれ表1に示す。
【0052】
上記実施例1〜13で得られた試験用表面処理アルミニウム材は、いずれも無電解NiPめっき処理したアルミニウム材(参考例2)と同等の低発塵性を備えると共に、耐食性に優れることが確認された。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によって得られる表面処理アルミニウム材は、優れた低発塵性能性及び耐食性を備えるため、コンピューターやワープロ等に記憶装置として搭載されるハードディスクドライブのカバーケースや、アクチュエータアーム等のハードディスクドライブ材料をはじめ、コンピューター関連装置、半導体製造装置、計測・分析器、電子・電気装置、光学装置、医療用装置などの各種精密機器のカバーケース、精密機器用筐体、精密機器部品等の材料として好適に利用することができる。その他、塵や埃を嫌う環境下で使用される機器や部品等の材料やクリーンルーム等で使用される建材としても利用可能である。本発明におけるアルミニウム材の表面処理方法は、特に他の制限がない限り、アルミニウム材を使用するものであれば処理対象にすることができることから、例えば既存の機器や部品等に使われているアルミニウム材に対しても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1(a)は、アルミニウム材の破断面(I)とせん断面(II)の様子を示すSEM写真であり、(b)は破断面の一部を拡大したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材の表面の少なくとも一部又は全部が50重量%以上100重量%未満のリン酸及び0.001重量%以上5重量%以下の溶存アルミニウムを含んだ表面平滑化処理液で処理され、超音波洗浄して表面処理されたことを特徴とする表面処理アルミニウム材。
【請求項2】
アルミニウム材が端部に切断して形成された切断面を有し、この切断面が表面処理される請求項1に記載の表面処理アルミニウム材。
【請求項3】
アルミニウム材の切断面以外の表面に樹脂皮膜、めっき皮膜又は陽極酸化皮膜を備える請求項2に記載の表面処理アルミニウム材。
【請求項4】
表面平滑化処理液による処理が、60〜110℃の表面平滑化処理液にアルミニウム材を10秒〜20分間浸漬する処理である請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理アルミニウム材。
【請求項5】
超音波洗浄後、表面処理面がリン、珪素、及びクロムからなる群から選ばれた1種以上のオキソ酸構成元素からなるオキソ酸を含んだオキソ酸処理液で処理され、更に80〜400℃の温度で加熱処理される請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理アルミニウム材。
【請求項6】
オキソ酸処理液が、ホスフィン酸、亜リン酸、ホスホン酸、リン酸、二リン酸、メタリン酸、次リン酸、オルトケイ酸、メタケイ酸、メタ二ケイ酸、クロム酸、及び二クロム酸からなる群から選ばれた1種又は2種以上を含む水溶液からなる請求項5に記載の表面処理アルミニウム材。
【請求項7】
オキソ酸処理液中のオキソ酸構成元素の総含有量が10〜10000ppmである請求項5又は6に記載の表面処理アルミニウム材。
【請求項8】
表面処理面が、リン酸アルミニウム、リン酸一水素アルミニウム、及びリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれた1種以上のリン酸アルミニウム皮膜を備える請求項5〜7のいずれかに記載の表面処理アルミニウム材。
【請求項9】
加熱処理後、更に超音波洗浄して得られる請求項5〜8のいずれかに記載の表面処理アルミニウム材。
【請求項10】
表面平滑化処理液での処理に先駆けて、表面処理面が脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理又は電解研磨処理されている請求項1〜9のいずれかに記載の表面処理アルミニウム材。
【請求項11】
純水中に浸漬させて周波数120kHzの超音波を1分間照射して発生する粒子径0.5μm以上の粒子数が、液中パーティクルカウンターにて測定して1000個/cm2以下である請求項1〜10のいずれかに記載の表面処理アルミニウム材。
【請求項12】
アルミニウム材の表面の少なくとも一部又は全部を50重量%以上100重量%未満のリン酸及び0.001重量%以上5重量%以下の溶存アルミニウムを含んだ表面平滑化処理液で処理し、超音波洗浄して表面処理することを特徴とする表面処理アルミニウム材の製造方法。
【請求項13】
アルミニウム材が端部に切断して形成された切断面を有し、この切断面を表面処理する請求項12に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
【請求項14】
アルミニウム材の切断面以外の表面に樹脂皮膜、めっき皮膜又は陽極酸化皮膜を備える請求項13に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
【請求項15】
表面平滑化処理液による処理が、60〜110℃の表面平滑化処理液にアルミニウム材を10秒〜20分間浸漬する処理である請求項12〜14のいずれかに記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
【請求項16】
超音波洗浄後、表面処理面をリン、珪素、及びクロムからなる群から選ばれた1種以上のオキソ酸構成元素からなるオキソ酸を含んだオキソ酸処理液で処理し、更に80〜400℃の温度で加熱処理する請求項12〜14のいずれかに記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
【請求項17】
オキソ酸処理液が、ホスフィン酸、亜リン酸、ホスホン酸、リン酸、二リン酸、メタリン酸、次リン酸、オルトケイ酸、メタケイ酸、メタ二ケイ酸、クロム酸、及び二クロム酸からなる群から選ばれた1種又は2種以上を含む水溶液からなる請求項16に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
【請求項18】
オキソ酸処理液中のオキソ酸構成元素の総含有量が10〜10000ppmである請求項16又は17に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
【請求項19】
表面処理面には、リン酸アルミニウム、リン酸一水素アルミニウム、及びリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれた1種以上のリン酸アルミニウム皮膜が形成される請求項16〜18のいずれかに記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
【請求項20】
加熱処理後、更に超音波洗浄を行う請求項16〜19のいずれかに記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
【請求項21】
表面平滑化処理液での処理に先駆けて、表面処理面を脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理又は電解研磨処理する請求項12〜20のいずれかに記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
【請求項22】
アルミニウム材の表面の少なくとも一部又は全部を50重量%以上100重量%未満のリン酸及び0.001重量%以上5重量%以下の溶存アルミニウムを含んだ表面平滑化処理液で処理し、超音波洗浄して表面処理することを特徴とするアルミニウム材の表面処理方法。
【請求項23】
アルミニウム材が端部に切断して形成された切断面を有し、この切断面を表面処理する請求項22に記載のアルミニウム材の表面処理方法。
【請求項24】
表面平滑化処理液による処理が、60〜110℃の表面平滑化処理液にアルミニウム材を10秒〜20分間浸漬する処理である請求項22又は23に記載のアルミニウム材の表面処理方法。
【請求項25】
超音波洗浄後、表面処理面をリン、珪素、及びクロムからなる群から選ばれた1種以上のオキソ酸構成元素からなるオキソ酸を含んだオキソ酸処理液で処理し、更に80〜400℃の温度で加熱処理する請求項22〜24のいずれかに記載のアルミニウム材の表面処理方法。
【請求項26】
オキソ酸処理液が、ホスフィン酸、亜リン酸、ホスホン酸、リン酸、二リン酸、メタリン酸、次リン酸、オルトケイ酸、メタケイ酸、メタ二ケイ酸、クロム酸、及び二クロム酸からなる群から選ばれた1種又は2種以上を含む水溶液からなる請求項25に記載のアルミニウム材の表面処理方法。
【請求項27】
オキソ酸処理液中のオキソ酸構成元素の総含有量が10〜10000ppmである請求項25又は26に記載のアルミニウム材の表面処理方法。
【請求項28】
加熱処理後、更に超音波洗浄を行う請求項25〜27のいずれかに記載のアルミニウム材の表面処理方法。
【請求項29】
表面平滑化処理液での処理に先駆けて、表面処理面を脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理又は電解研磨処理する請求項22〜28のいずれかに記載のアルミニウム材の表面処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−293122(P2009−293122A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262622(P2008−262622)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】