説明

表面処理ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム

【課題】 ポリイミドベンゾオキサゾールの表面接着性を改善する。

【解決手段】 イオンビーム表面処理したポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面エネルギーをE1(mN/m)とし、イオンビーム表面処理後、温度23℃、湿度50%RHの環境下に480時間放置した後のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面エネルギーをE2(mN/m)としたとき、E1>60及びE1−E2<5 の関係を満たす表面処理ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム及び前記表面処理ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを、さらに、温度120℃、100%RH、2気圧の環境下に96時間放置した後のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面エネルギーをE3(mN/m)としたとき、E2>60及び(E2−E3)<5の関係を満たす表面処理ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質されたポリイミドベンゾオキサゾールフィルムに関し、詳しくは、表面エネルギーが高く、かつその状態が長期間維持できるように表面改質されたポリイミドベンゾオキサゾールフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、機械的特性などが他のポリイミドフィルムより優れているが(例えば、特許文献1、2)、一般的なポリイミドフィルムと同様に、金属に対する密着性が乏しいという問題があった。ポリイミドフィルムの表面改質による接着性の改良が種々提案されている。例えば、ポリイミドフィルムをアルカリ処理して表面改質する方法(例えば、特許文献3)、ポリイミドフィルムの表面をプラズマ処理する方法(例えば、特許文献4)、コロナ放電処理する方法(例えば、特許文献5)などが提案されている。
【0003】
しかしながら、アルカリによる表面処理では、薬品に浸漬させるために、工程が複雑になることや、フィルムの強度が低下するなどという問題点がある。また、プラズマ処理やコロナ処理は、処理の初期にはそれなりの効果が認められるものの、経時的に効果が低下することが問題視されている。
以上のように、ポリイミドフィルムの表面改質技術については多くの検討がなされているが、ポリイミドフィルムより機械的特性などが優れているため、より表面改質が困難なポリイミドベンゾオキサゾールフィルムについての提案は少ないのが現状である。
一方、真空下でポリマーフィルムにエネルギー化されたイオン粒子を照射することによって均一な大きさ及び形状を有する微細気孔を形成させるとともに、ポリマー表面を親水性化する技術が知られている(特許文献6)。
【0004】
【特許文献1】特表平6−56992号公報
【特許文献2】特表平10−508059号公報
【特許文献3】特開平7−3055号公報
【特許文献4】特開2004−51712号公報
【特許文献5】特開平7−149929号公報
【特許文献6】特表2001−523548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。
すなわち、本発明者らは、ポリイミドベンゾオキサゾールは、一旦、表面エネルギーを高くすると、常温、常圧、一定の湿度のもと長期保存した後も、接着性の指標となる表面エネルギーを高く維持できるだけでなく、高温、高圧、高湿度環境保存後も、同様に高い表面エネルギーを維持することができることの知見を有しており、この特性を活用できれば、金属層や接着剤に対し優れた接着性を示すポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの提供が可能になるものと期待できることに鑑みなされたものである。
特許文献4に開示された技術をもとに、種々気体のイオンを用いたイオンビームをポリイミドベンゾオキサゾールに照射し、かつその際処理フィルムの近傍に酸素を導入するなどして、表面エネルギーが特定のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムが得られたのである。
【課題を解決するための手段】
【0006】

すなわち、本発明は以下の構成になる。
1. イオンビーム表面処理したポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面エネルギーをE1(mN/m)とし、イオンビーム表面処理後、温度23℃、湿度50%RHの環境下に480時間放置した後のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面エネルギーをE2(mN/m)としたとき、E1>60(mN/m)及びE1−E2<5(mN/m) の関係を満たすことを特徴とする表面処理ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
2. 前記1記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを、さらに、温度120℃、100%RH、2気圧の環境下に96時間放置した後のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面エネルギーをE3(mN/m)としたとき、E2>60(mN/m)及び(E2−E3)<5(mN/m)の関係を満たすことを特徴とする表面処理ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明の表面処理ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、本来のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムが保有する機械的特性などを維持するとともに、フィルムの表面エネルギーは、表面処理直後のみならず、常温、常圧、一定湿度のもと長期保存した後も、更には高温高圧高湿度環境保存後も、接着性の指標となる高い表面エネルギーを維持することができる。その結果、接着剤や金属層との接着性が高いので、高い信頼性が要求されるプリント配線板(PWB)、FPC、TABテープ等の電子部品へ好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳述する。
本発明においてフィルムを形成するポリイミドベンゾオキサゾールとは、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを縮重合して得ることができる。
本発明におけるポリイミドベンゾオキサゾールに含まれるポリイミド結合は、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸無水物類とを反応させることによって形成される。この「反応」は、まず、溶媒中でジアミン類とテトラカルボン酸無水物類とを開環重付加反応に供してポリアミド酸溶液を得て、次いで、このポリアミド酸溶液から前駆体フィルム(グリーンフィルム)などを成形した後に脱水縮合(イミド化)させることにより得られる。
本発明で用いるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類は、ベンゾオキサゾール構造を有すれば分子構造は特に限定されるものではないが、具体的には以下のものが挙げられる。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

【0014】
【化6】

【0015】
【化7】

【0016】
【化8】

【0017】
【化9】

【0018】
【化10】

【0019】
【化11】

【0020】
【化12】

【0021】
【化13】

【0022】
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましく、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾールがより好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である(例;上記「化1」〜「化4」に記載の各化合物)。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明においては、全ジアミンの30モル%以下であれば下記に例示されるベンゾオキサゾール構造を有しないジアミン類を一種または二種以上を併用しても構わない。そのようなジアミン類としては、例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、
m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,
4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘ
キサフルオロプロパン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノ
フェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリルおよび上記芳香族ジアミンの芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0024】
本発明で用いられるテトラカルボン酸無水物は、芳香族テトラカルボン酸無水物類である。芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、具体的には、以下のものが挙げられる。
【0025】
【化14】

【0026】
【化15】

【0027】
【化16】

【0028】
【化17】

【0029】
【化18】

【0030】
【化19】

【0031】
これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明においては、全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以下であれば下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種または二種以上を併用しても構わない。そのようなテトラカルボン酸無水物としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0033】
ジアミン類とテトラカルボン酸無水物類とを重合してポリアミド酸を得るときに用いる溶媒としては、原料となるモノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられる。これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの質量が、通常5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるような量が挙げられる。
【0034】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌および/または混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の質量は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは10〜2000Pa・sであり、より好ましくは100〜1000Pa・sである。
【0035】
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸溶液を製造するのに有効である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合の使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
重合反応により得られるポリアミド酸溶液から、ポリイミドフィルムを形成するためには、ポリアミド酸溶液を支持体上に塗布して乾燥することによりグリーンフィルム(自己支持性の前駆体フィルムを得て、次いで、グリーンフィルムを熱処理に供することでイミド化反応させる方法が挙げられる。
支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し等を含むが、これらに限られず、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
【0036】
支持体上に塗布したポリアミド酸を乾燥してグリーンフィルムを得る条件は特に限定はなく、温度としては70〜150℃が例示され、乾燥時間としては、5〜180分間が例示される。そのような条件を達する乾燥装置も従来公知のものを適用でき、熱風、熱窒素、遠赤外線、高周波誘導加熱などを挙げることができる。次いで、得られたグリーンフィルムから目的のポリイミドフィルムを得るために、イミド化反応を行わせる。その具体的な方法としては、従来公知のイミド化反応を適宜用いることが可能である。例えば、閉環触媒や脱水剤を含まないポリアミド酸溶液を用いて、必要により延伸処理を施した後に、加熱処理に供することでイミド化反応を進行させる方法(所謂、熱閉環法)が挙げられる。この場合の加熱温度は100〜500℃が例示され、フィルム物性の点から、より好ましくは、150〜250℃で3〜20分間処理した後に350〜500℃で3〜20分間処理する2段階熱処理が挙げられる。
【0037】
別のイミド化反応の例として、ポリアミド酸溶液に閉環触媒および脱水剤を含有させておいて、上記閉環触媒および脱水剤の作用によってイミド化反応を行わせる、化学閉環法を挙げることもできる。この方法では、ポリアミド酸溶液を支持体に塗布した後、イミド化反応を一部進行させて自己支持性を有するフィルムを形成した後に、加熱によってイミド化を完全に行わせることができる。この場合、イミド化反応を一部進行させる条件としては、好ましくは100〜200℃による3〜20分間の熱処理であり、イミド化反応を完全に行わせるための条件は、好ましくは200〜400℃による3〜20分間の熱処理である。
【0038】
閉環触媒をポリアミド酸溶液に加えるタイミングは特に限定はなく、ポリアミド酸を得るための重合反応を行う前に予め加えておいてもよい。閉環触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどといった脂肪族第3級アミンや、イソキノリン、ピリジン、ベータピコリンなどといった複素環式第3級アミンなどが挙げられ、中でも、複素環式第3級アミンから選ばれる少なくとも一種のアミンが好ましい。ポリアミド酸1モルに対する閉環触媒の使用量は特に限定はないが、好ましくは0.5〜8モルである。熱閉環法であっても、化学閉環法であっても、支持体に形成されたポリイミドフィルムの前駆体(グリーンシート、フィルム)を完全にイミド化する前に支持体から剥離してもよいし、イミド化後に剥離してもよい。
以上のようにして得られるポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの厚さは特に限定はないが、好ましくは3〜200μmである。

得られたポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、フィルム表面にイオンビーム処理が施される。
【0039】
本発明におけるイオンビーム処理としては、特表2001−523548号公報や下記論文などに開示された方法を採用することができる。
真空チャンバに、上記で得られたフィルムを投入し、ついで、フィルム表面にイオン銃を使用して照射する。前記イオン銃はイオンビームの電流を変化させて照射に使用されるエネルギー化されたイオン粒子を生成するためのガスを注入して製造される。イオン粒子を生成し得るものならいかなるガスでもイオン銃に使用されることができるが、電子、水素、ヘリウム、酸素、窒素、空気、ネオン、アルゴン、クリプトンまたはN2Oおよびこれらの混合化合物が適当である。この中で、特に酸素が最も好ましく用いられる。
【0040】
イオンビーム照射と共に、またはイオンビーム照射工程ののちに反応性ガスを注入することが好ましい。注入される反応性ガスの種類に応じてフィルムの親水性を決定することができる。親水性を有するフィルムを製造するために、ヘリウム、水素、酸素、窒素、空気、N2O、アンモニア、一酸化炭素、二酸化炭素、メタンまたはこれらの混合物を使用することが好ましい。
【0041】
上記のイオンビーム処理によりポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面エネルギーを向上させることができる。
このような条件でのフィルム処理により、効率的にポリイミドベンゾオキサゾールフィルム表面に酸素原子を含む官能基を導入することができ、その結果、処理直後のみならず、常温、常圧、一定湿度のもと長期保存した後も、更には高温高圧高湿度環境保存後も、高い表面エネルギーを維持することができる。
論文:”ENHANCEMENT OF ADHESION BETWEEN CU THIN FILM AND POLYIMIDE MODIFIED BY ION ASSISTED REACTION”
Choi, S C; Kim, KH; Jung, H-J; Whang, C N; Koh, S K
USACF: Atomistic Mechanisms in Beam Synthesis and Irradiation of Materials:
a Materials Research Society Symposium; Boston, MA; USA; 1-2 Dec. 1997. pp. 437-442. 1999
【0042】
上記した本発明の表面処理ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムにおいては、イオンビーム処理を与えた面に、銅層をはじめとする金属層を設けてもよい。銅層はポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの上記面上に直接的に形成されていてもよいし、接着剤層、下地金属層などを介して形成されていてもよい。上記面上に形成する銅層の材質およびその形成手段は、従来公知の金属および積層手段を適宜取り入れることができる。銅層の形成手段には、乾式めっき、湿式めっき(無電解銅めっき、無電解ニッケルめっき、無電解金めっき等)等が挙げられる。乾式めっきの具体例としては真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等が挙げられる。銅張ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムが有する銅層の厚さは特に限定はなく、好ましくは0.1〜50μmである。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明で採用した測定方法、実験方法は以下のとおりである。
【0044】
<イオンビーム処理方法>
真空状態を維持しながら、20cm×30cmのサイズのポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの周辺に反応性ガスとして酸素を導入し、エネルギーを付与された種々気体のイオンをポリイミドベンゾオキサゾールフィルム表面から約90cm離れた地点から照射した。酸素導入量は8ml/min.(sccm)、気体のイオンは、中空カソードタイプのイオンガンにより供給され、電位差は1kV、イオン照射量は1×1016ion/cmとした。このとき、フィルム周辺の真空度は7×10Paとした。
<表面エネルギー測定方法>
特開2000-117900号公報に記載された原理により、協和界面科学社製の接触角計CA−Xを用い、画像処理を取り入れた液滴法にて水、およびヨウ化メチレンの接触角をそれぞれ5回測定し、その平均値を用いて表面エネルギーを算出した。
【0045】
<常温、常圧処理後のフィルム保存方法>
ナガノ科学機械製作所社製 恒温恒湿槽LH21−14P内において、5cm×10cmのサイズのフィルムサンプルを温度23℃、湿度50%RHの条件下、480時間保存したのち、取り出して1時間以内に接触角を測定した。
【0046】
<高温、高湿、高圧処理:PCT(pressure cooker test)処理>
東洋紡績社製の密封型加熱・加湿容器内において、温度121℃、湿度100%RH、2atmの環境下に5cm×10cmサイズのフィルムサンプルを96時間保存し、降温減圧後に取り出して1時間以内に、表面エネルギー評価方法により評価した。
【0047】
<実施例1>
ビーム源としてOイオン、反応性ガスとして酸素を用いてイオンビーム処理を行い、その接触角測定から表面エネルギーを算出した。またこの処理フィルムを48時間、480時間、23℃×50%RH環境下で保存した後の表面エネルギーを測定し、48時間経過後の表面エネルギーをE1、480時間経過後の表面エネルギーをE2とした。E2をもってPCT(pressure cooker test)処理前のフィルムの表面エネルギーとした。
さらに、この処理フィルムを、PCT処理として、121℃×100%RH×2atmにて96時間保存した後、表面エネルギーE3を同様に算出した。結果を表1に示す。
【0048】
<実施例2>
ビーム源としてOイオン、反応性ガスを用いずにイオンビーム処理を行い、実施例1と同様にして各表面エネルギーを算出した。結果を表1に示す。
【0049】
<実施例3>
ビーム源としてArイオン、反応性ガスとして酸素を用いてイオンビーム処理を行い、実施例1と同様にして各表面エネルギーを算出した。結果を表1に示す。
【0050】
<実施例4>
ビーム源としてHイオン、反応性ガスとして酸素を用いてイオンビーム処理を行い、実施例1と同様にして各表面エネルギーを算出した。結果を表1に示す。
【0051】
<比較例1>
ビーム源としてArイオン、反応性ガスとして二酸化炭素を用いてイオンビーム処理を行い、実施例1と同様にして各表面エネルギーを算出した。結果を表1に示す。
【0052】
<比較例2>
ビーム源としてArイオン、反応性ガスとして窒素を用いてイオンビーム処理を行い、実施例1と同様にして各表面エネルギーを算出した。結果を表1に示す。
【0053】
<比較例3>
ビーム源としてArイオン、反応性ガスを用いずにイオンビーム処理を行い、実施例1と同様にして各表面エネルギーを算出した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

以上の結果から、イオンビーム源、もしくはフィルム近傍に導入する反応性ガスとして酸素を用いることで、より効率的にポリイミドベンゾオキサゾールに酸素原子を含む官能基を導入することができ、その結果、処理直後のみならず、常温、常圧、一定湿度のもと長期保存した後も、更には高温高圧高湿度環境保存後も、高い表面エネルギーを維持することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のイオンビ−ム処理されたポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、処理直後のみならず、常温、常圧、一定湿度のもと長期保存した後も、更には高温高圧高湿度環境保存後も、高い表面エネルギーを維持することができ、ポリイミドベンゾオキサゾールの表面接着性を改善するため、信頼性の高いプリント配線板(PWB)、FPC、TABテープ等の電子部品へのポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビーム表面処理したポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面エネルギーをE1(mN/m)とし、イオンビーム表面処理後、温度23℃、湿度50%RHの環境下に480時間放置した後のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面エネルギーをE2(mN/m)としたとき、E1>60(mN/m)及びE1−E2<5(mN/m) の関係を満たすことを特徴とする表面処理ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項2】
請求項1記載の表面処理ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを、さらに、温度120℃、100%RH、2気圧の環境下に96時間放置した後のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面エネルギーをE3(mN/m)としたとき、E2>60(mN/m)及び(E2−E3)<5(mN/m)の関係を満たすことを特徴とする表面処理ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。