説明

表面処理油及びガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ

【課題】ソリッドワイヤの送給性及び耐錆性を向上させることのできる表面処理油及び前記表面処理油を塗布したガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤを提供する。
【解決手段】ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤとして使用される鋼ワイヤの表面に,ナトリウム(Na),カリウム(K),カルシウム(Ca)及び亜鉛(Zn)からなる金属塩と非金属リン(P),そして,エステル基,カルボン酸基,アルカン基の中から選ばれた2種以上の作用基を有する炭化水素化合物を含有する表面処理油(oil)を付着させる。
本発明によると,特定の液状表面処理剤をソリッドワイヤに塗油することにより,従来のソリッドワイヤに比べて特に耐錆性及び送給性に優れたガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤに使用する表面処理油及びガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤに関し,より詳しくはワイヤの表面に付着させることで,ワイヤに優れた耐錆性及び送給性を発揮させる表面処理油,及び前記表面処理油を塗布したガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係るガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは,製品への巻取単位が少量のスプール(Spool)から大容量のペールパック(Pail pack)に至るまでの様々な形態で使用されている。このような製品は,製造者の生産から需要者の使用に至る期間が長時間所要されるため,錆の発生に鈍感な,即ち耐錆性に優れた特性が求められる。
【0003】
また,高能率,ロボット(Robot)溶接等に主に使用されているガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤの場合,円滑な送給性が求められる。特に,過酷な溶接条件,即ち高電流及び高電圧の条件で,溶接用ケーブルが長く屈曲の激しい場合には,さらに優れた送給性が求められる。
【0004】
ところが,本発明に係るガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは,製造方式によって大きく2つに分かれる。
【0005】
第1の方式は,銅メッキソリッドワイヤである。銅メッキソリッドワイヤの場合,溶接用ワイヤの素地表面に銅メッキ層を形成させ,通電性,耐錆性,そして送給性を確保する。このような銅メッキ層を形成する場合,均一で緻密なメッキ層を形成することにより,通電性,耐錆性,そして送給性の確保が可能である。
【0006】
しかし,実験室で実施するメッキ槽の条件ではない,インライン(in-line)の多量生産体制においてこのような完璧なメッキ層を得ることは,事実上不可能である。
【0007】
特に,銅メッキ層が不均一である場合,実際の溶接時に溶接用ケーブルの内でメッキ層が剥離する現象(Cu flaking)が発生し,また剥離したメッキ層はケーブルの内に集積され,送給を妨害する。さらに,不均一なメッキ層は耐錆性を劣化させ,錆が発生する原因になることもある。
【0008】
第2の方式は,無メッキソリッドワイヤである。
【0009】
無メッキソリッドワイヤの場合,銅メッキ層の有する役割に代わるために,ワイヤの表面に安定した表面コーティング層が必要になる。このような表面コーティング層は,銅メッキ層の有する耐錆性,送給性の役割に代わることになる。
【0010】
しかし,無メッキワイヤの場合は,鉄素地層が大気に露出されているため,表面層が錆に敏感と成らざるを得ない。特に,無メッキワイヤの不均一な表面コーティング層は,錆の発生に敏感であるだけでなく,実際の溶接時に溶接用ケーブル内で摩擦による送給負荷を増加させる。
【0011】
以上のような銅メッキ及び無メッキワイヤの問題点を解消するために,ワイヤの表面に対する研究及び表面処理剤の開発に多くの進展があった。
【0012】
このような研究に対する従来の技術は,次の通りである。
【0013】
第一,ソリッドワイヤに対する表面処理剤に関しては,特開平11-147194号公報(特許文献1),特開平11-147195号公報(特許文献2)などで,溶接時におけるワイヤの送給性向上のために,表面に炭素数5〜12個の炭化水素化合物からなる潤滑油を存在させ,この潤滑油と潤滑性粒子が化学的に結合した形態を開示している。
【0014】
そして,特開平6-262389号公報(特許文献3)には,送給性向上のために潤滑油を基油(Base oil)にし,5〜30%の有機モリブデン化合物を含有させた防錆潤滑剤をワイヤの表面に塗布することを開示している。
【0015】
特開平8-281471号公報(特許文献4)には,送給性向上のために潤滑油を基油(Base oil)にし,2〜40%のクロロカーボンを含有させた潤滑剤をワイヤの表面に塗布することを開示している。
【0016】
第二,銅メッキソリッドワイヤに対する表面処理剤に関し,特開平1-166899号公報(特許文献5)には,高級脂肪酸金属塩,或いは高級脂肪酸金属塩と高級脂肪酸との混合物を鉱物油中に分散させた潤滑剤を塗布することにより,送給性を確保する技術が開示されている。
【0017】
そして,特開平2-284792号公報(特許文献6)は,ワイヤの表面にカルボン酸カリウム塩またはカルボン酸ナトリウム塩を含有する油性潤滑剤をワイヤに付着させることにより,送給性,耐錆性を向上させる技術を開示している。
【0018】
第三,無メッキソリッドワイヤに対する表面処理剤に関しては,特開昭55-141395号公報(特許文献7)に,耐錆性向上のためにワイヤの表面に粉末状の硫黄と,MoS2とグラファイトの混合物を塗布する技術を開示している。
【0019】
また,特開平11-147174号公報(特許文献8)は,送給性向上のためにワイヤの表面にMoS2を付着する技術を開示している。
【0020】
そして,特開昭58-090397号公報(特許文献9)では,パラフィン薄膜を被覆させて耐錆性及び送給性を確保している。
【0021】
この他にも,特開昭58-135795号公報(特許文献10),特開昭58-184095号公報(特許文献11)などが,固体表面処理剤のグラファイト,MoS2などを使用して送給性を向上させる技術を開示している。
【0022】
また,特開2001-252786号公報(特許文献12)には,液体表面処理剤に上記の固体表面処理剤を混合した形態を開示している。
【0023】
以上のような従来の表面処理剤等は,一例として潤滑油形態の基油に潤滑性粒子または固体潤滑剤を含有させた形態を開示している。
【0024】
また別の一例としては,MoS2,グラファイトなどの固体潤滑剤を使用したり,このような固体潤滑剤を液体潤滑剤の中に混合した形態を開示している。
【0025】
しかし,固体潤滑剤を含有する表面処理剤の場合,次のような4つの問題点を有している。
【0026】
(1) 長時間のワイヤ送給の際,溶接ケーブル(conduit cable)内に固体潤滑剤が集積され,ワイヤの送給不良を起こす。
(2) 液体潤滑剤に比べて耐錆性に劣る。
(3) ワイヤの外周面に塗布された固体潤滑剤が空気中の水分を吸湿し,溶接時に溶接金属中の水素量を多少増加させる。
(4) 固体潤滑剤が炭素系の潤滑剤である場合は,ヒューム(fume)量を増加させる。
【0027】
この発明の先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開平11−147194号公報
【特許文献2】特開平11−147195号公報
【特許文献3】特開平 6−262389号公報
【特許文献4】特開平 8−281471号公報
【特許文献5】特開平 1−166899号公報
【特許文献6】特開平 2−284792号公報
【特許文献7】特開昭55−141395号公報
【特許文献8】特開平11−147174号公報
【特許文献9】特開昭58−090397号公報
【特許文献10】特開昭58−135795号公報
【特許文献11】特開昭58−184095号公報
【特許文献12】特開2001−252786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
従って,本発明はこのような事項に注目し,溶接性を害することなく,良好な耐錆性及び送給性を有することができる,ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤに適合する液体表面処理剤を開発しようとした。
【0029】
そこで,本発明者は優れた防錆特性と潤滑特性を有する金属塩及び非金属リン(P)を炭化水素化合物に含有させ,均質な(homogenous)液状表面処理剤を開発するに至った。
【0030】
このような均質な液状表面処理剤を溶接用ワイヤに特定の範囲内に付着させることにより,耐錆性及び送給性の良好なガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤを提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の第1発明は,
ガスシールドアーク溶接用のソリッドワイヤ(鋼ワイヤ)に使用する表面処理油において,
ナトリウム(Na),カリウム(K),カルシウム(Ca)及び亜鉛(Zn)を含む金属塩と,非金属リン(P),及び,エステル基,カルボン酸基,及びアルカン基の中から選ばれた2種以上の作用基を有する炭化水素化合物とを含有する表面処理油(oil)を提供する。
【0032】
本発明の第2発明は,
第1発明の表面処理油(oil)が,その全体重量に対し,金属成分の換算値でNa+Ca 0.05〜0.85wt%,K 0.05〜0.70wt%,及びZn 0.02〜0.55wt%を含む金属塩と,P 0.10〜0.80wt%,及び,
前記炭化水素化合物97.10〜99.78wt%からなることを特徴とする表面処理油を提供する。
【0033】
本発明の第3発明は,
第1発明または第2発明の表面処理油(oil)を,溶接用ワイヤ1kg当り0.03〜0.60gになるようにワイヤの表面に付着させたことを特徴とする,ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤを提供する。
【発明の効果】
【0034】
上記のような組成成分によって構成された本発明の表面処理油は,均質な液状を成し,これをガスシールドアーク溶接用のソリッドワイヤに塗布することで,ソリッドワイヤの送給性と防錆性を向上させることができた。
【0035】
特に,本発明の表面処理油を本発明の範囲内で塗油して得たガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは,従来のソリッドワイヤに比べて耐錆性及び送給性が大幅に向上したものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の表面処理油を構成する各成分の機能と添加方法について見ると,以下の通りである。
【0037】
本発明に使用されるNa塩は,ワイヤの表面に堅固に吸着されて防錆膜を形成することにより,ワイヤの表面に錆の発生を防止する役割を果たす。Na塩は分子式で[RSO3]Naで表記されるNaスルフォネート(Na sulfonate)を使用するのが好ましい。
【0038】
本発明に使用されるK塩は,溶接時に電離電圧を下げる役割を果たすことによりアークを安定化させ,円滑な送給を可能にする。K塩は分子式C7H15COOKで表記されるカルボン酸カリウム塩(potassium carboxylate)を使用するのが好ましい。
【0039】
本発明に使用されるCa塩もまたNa塩と同様に,ワイヤの表面に堅固に吸着されて防錆膜を形成することにより,ワイヤの表面に錆の発生を防止する役割をする。Ca塩は分子式 [RSO3]2Caで表記されるCaスルフォネート(Ca sulfonate)を使用するのが好ましい。
【0040】
本発明に使用されるZn塩は,溶接用ワイヤの表面上に保護膜を形成し,溶接時にワイヤが溶接ケーブルを通過するとき,ワイヤの表面に傷が発生することを防止することにより,円滑な送給を可能にする。亜鉛(Zn)塩は分子式RO4[P2S4]Znで表記されるZnフォスフェート(zinc phosphate)を使用するのが好ましい。
【0041】
本発明に使用される非金属リン(P)は,リン酸エステル(Phosphate ester)の形態で使用するのが好ましい。このようなリン酸エステルは,金属表面に吸着して金属間に低い摩擦係数を付与する特性を有する。従って,溶接時にワイヤに送給性能を付与する役割をする。
【0042】
そして,本発明に使用される炭化水素化合物は,エステル基(Ester group),カルボン酸基(Carboxylic acid group),アルカン基(Alkane group)の中から選ばれた2種以上(実施例では2種)の作用基から構成されることにより,ワイヤの表面に吸着して表面エネルギーを著しく低下させ,低い摩擦係数を付与する特性を有する。また,ワイヤの表面に均質な液状皮膜を形成させ,防錆特性と潤滑特性を向上させる。
【0043】
このような炭化水素化合物には羊毛脂(wool fat),羊毛(Wool)ワックス,ラノリン,ステアリン酸,オレイン酸,ダイマー酸,アジピン酸,ジカルボン酸エステル,ポリオールエステル,コンプレックスエステル,フォスフェートエステル,スラックワックス(Slack wax),スケール(Scale)ワックス,半精製パラフィンワックス,マイクロ(microcrystalline)ワックスからなる群から少なくとも1種以上を選ぶことができる。
【0044】
以下に,第2の発明の表面処理油を構成する各成分の範囲を限定した理由を説明する。成分の範囲は,表面処理油の全体重量に対する比率で表記する。
【0045】
(1) Na+Ca:0.05〜0.85wt%
Na及びCaは,それぞれ好ましくはNaスルフォネート,Caスルフォネートの形態で添加され,金属成分に換算した添加量が,2つの成分を合わせた値で0.05wt%未満であると,溶接用ワイヤの耐錆性が劣るようになる。そして,2つの成分を合わせた値が0.85wt%を超えると,ワイヤの表面に対する吸着性が劣るようになり,耐錆性を確保することができない。
【0046】
(2) K:0.05〜0.70wt%
Kは,好ましくはカルボン酸カリウム塩の形態で添加され,金属成分に換算した添加量が0.05wt%未満であると,溶接時に電離電圧を下げる役割を果たすことができずアークが不安定になり,これは送給性の低下に繋がる。そして,0.70wt%を超えると,アークの安定化に寄与することができず,送給に役に立たない。
【0047】
(3) Zn:0.02〜0.55wt%
Znは,好ましくはZnフォスフェートの形態で添加され,金属成分に換算した添加量が0.02wt%未満であると,ワイヤの表面上に円滑な保護膜を形成し難く,これは溶接時にワイヤの表面に傷を発生させる。また,0.55wt%を超えると,表面処理油の粘度を上昇させて均質な液体皮膜を得ることが困難になる。
【0048】
(4) P:0.10〜0.80wt%
Pは,好ましくはリン酸エステルの形態で添加され,P成分に換算した添加量が,0.10wt%未満であると,表面処理油がワイヤの表面に吸着する性質に劣るようになり,これは送給性の向上に役に立たない。また,0.80wt%を超えると,表面処理油の粘度を急激に上昇させて均質な液体皮膜を得ることが困難になる。従って,送給性の向上に役に立たない。
【0049】
(5) 炭化水素化合物:97.10〜99.78wt%
本発明に使用される炭化水素化合物は,エステル基,カルボン酸基,アルカン基の中から選ばれた2種以上の作用基を有する化合物であって,表面処理油内の金属塩等を溶解させ,ワイヤの表面に堅固な防錆膜と均質な液状皮膜を形成させることが主な役割である。その含量は,97.10〜99.78wt%の範囲内で使用され,ワイヤの耐錆性と送給性の向上に寄与する。
【実施例】
【0050】
次いで,本発明の構成成分に対する分析方法について説明する。
【0051】
本発明の成分であるNa,Ca,K,Zn,Pに対する含量分析は,次の通りである。
1. 試料0.05〜0.1gを250mlのビーカーに入れて硫酸10mlを添加する。
2. 350℃以上の加熱板(hot plate)で加熱分解(pyrolysis)の後,常温まで放冷させる。
3. 放冷後,塩酸:硝酸=3:1の比率で10ml添加し,加熱板で再び加熱分解した後,放冷させる。
4. 高純度定量濾過紙(No.5B)でろ過し,濾液は100mlメスフラスコに詰めて,測定用試料とする。
5. ICP-AESで定量分析する。
【0052】
ここで,誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometer, ICP-AES)として,サーモエレメンタル(Thermo Elemental)社のIRIS Advantage装置を使用して測定した。
【0053】
また,本発明の成分である炭化水素化合物の作用基は,赤外線分光分析法(Infrared spectrophotometer)で分析が可能である。
【0054】
本発明の表面処理油を溶接用ワイヤに塗油する方法は,次の通りである。
【0055】
一例として適用した溶接用ワイヤの組成は表1の通りであり,JIS Z3312に規定されたYGW11,YGW12の銅メッキ及び無メッキソリッドワイヤを1.2mmに製造した後,本発明の表面処理油を塗油した。表1の残部は,Fe及び不可避な不純物から構成されている。
【0056】
塗油方法は,フェルト(felt)を利用した塗油方式,浸漬してから適当量を除去する方式,静電塗油方式などがあり,いずれも使用できる。
【0057】
【表1】

【0058】
以下では,本発明の塗油量に対する範囲を限定した理由を説明する。
【0059】
塗油量がワイヤ1kg当り0.03g未満では,塗油量が少なすぎて溶接時に送給ケーブル内でワイヤの送給負荷が増加する。
【0060】
また,塗油量がワイヤ1kg当り0.60gを超える場合,塗油量が多すぎてワイヤの供給器(送給機)でスリップが発生し,円滑な送給性の確保が難しくなる。
【0061】
本発明で塗油量の測定方法は,次の通りである。
1. ワイヤを4〜6cmの長さに切り,50〜80g程度になるように用意する。
2. 用意されたワイヤを,1g/10000天秤で脱脂前の重量(Wb)を測定する(小数点以下4桁)。
3. 250mlのビーカーに四塩化炭素(CCl4) 150mlを用意する。
4. 用意されたワイヤを四塩化炭素の入っているビーカーに入れて,10分間超音波脱脂を行う。
5. 脱脂したワイヤをドライオーブンに入れて10分間乾燥し,デシケーターで常温に冷却させる。
6. ワイヤが乾燥した後,1g/10000の天秤で脱脂後の重量(Wa)を測定する(小数点以下4桁)。
7. 測定されたWb値とWa値に基づき,次のように表面処理油の塗油量を計算する。
〔数式1〕 表面処理油の塗油量(g/w・kg)={(Wb−Wa)/Wa}×1000
【0062】
一方,上記表1のワイヤを使用し,表面処理油に対して本発明の実施例と比較例を適用した。
【0063】
以下,本発明の効果である耐錆性,送給性に対する測定方法について説明する。
【0064】
(1) 耐錆性
塩水噴霧試験の条件を表2のように設定し,60分経過時の錆発生の有無を観察した。錆が発生すると耐錆性を×と表記し,錆の発生がないと○と表記した。
【0065】
【表2】

【0066】
(2) 送給性
送給性試験の条件を表3のように設定し,送給程度に対するレベルを評価した。100秒未満で送給が中断されアークが切れると×,100秒以上持続的な溶接が可能であると○と表記した。
【0067】
使用されたワイヤは,上記の通り1.2mm直径を使用した。
【0068】
【表3】

【0069】
【表4a】

【0070】
【表4b】

【0071】
【表4c】

【0072】
【表4d】

【0073】
以下には,適用例に対して表4の実施例及び比較例を中心に,耐錆性と送給性について説明する。
【0074】
比較例1〜3は,金属塩の換算値とP値が共に本発明の範囲内に含まれている。しかし,炭化水素化合物の作用基が1種のみから構成されており,耐錆性及び送給性が共に不良であった。
【0075】
比較例4〜9は,金属塩の換算値のうちNa+Ca値が本発明の範囲から外れており,耐錆性が良くなかった。しかし,K,Zn,Pなどの成分が本発明の範囲内にあり,炭化水素化合物の作用基が2種から構成されており,送給性は良好であった。
【0076】
比較例10〜15は,金属塩の換算値のうちK値が本発明の範囲から外れており,送給性が良くなかった。しかし,Na+Ca,Zn,Pなどの成分が本発明の範囲内にあり,炭化水素化合物の作用基が2種から構成されており,耐錆性は良好であった。
【0077】
比較例16〜21は,金属塩の換算値のうちZn値が本発明の範囲から外れており,送給性が良くなかった。しかし,Na+Ca,K,Pなどの成分が本発明の範囲内にあり,炭化水素化合物の作用基が2種から構成されており,耐錆性は良好であった。
【0078】
比較例22〜27は,P値が本発明の範囲から外れており,送給性が良くなかった。しかし,金属塩の換算値であるNa+Ca,K,Znなどの成分が本発明の範囲内にあり,炭化水素化合物の作用基が2種から構成されており,耐錆性は良好であった。
【0079】
比較例28〜31は,金属塩の換算値であるNa+Ca,K,Zn及びP値が共に本発明の範囲内にあり,炭化水素化合物の作用基が2種から構成されており,耐錆性は良好であった。しかし,表面処理剤の塗油量が本発明の範囲から外れており,送給性は不良であった。
【0080】
特に,比較例28,30は塗油量が多すぎてワイヤの供給器(送給機)でスリップが発生した。また,比較例29,31は塗油量が少なすぎて送給ケーブルの内でワイヤの摩擦が増加し,送給性が良くなかった。
【0081】
一方,本発明の実施例1〜31は,金属塩の換算値であるNa+Ca,K,Zn及びP値が本発明の範囲内にあり,炭化水素化合物の作用基が2種から構成されており,本発明の範囲内に属する。また,表面処理剤の塗油量も本発明の範囲内にあり,耐錆性及び送給性も共に良好な結果を表した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスシールドアーク溶接用のソリッドワイヤに使用する表面処理油において,
ナトリウム(Na),カリウム(K),カルシウム(Ca)及び亜鉛(Zn)を含む金属塩と,非金属リン(P),及び,エステル基,カルボン酸基,アルカン基の中から選ばれた2種以上の作用基を有する炭化水素化合物とを含有する表面処理油。
【請求項2】
全体重量に対し,金属成分の換算値でNa+Ca 0.05〜0.85wt%,K 0.05〜0.70wt%,及びZn 0.02〜0.55wt%を含む金属塩と,P 0.10〜0.80wt%,及び,
前記炭化水素化合物97.10〜99.78wt%からなることを特徴とする請求項1記載の表面処理油。
【請求項3】
請求項1又は2記載の表面処理油を,溶接用ワイヤ1kg当り0.03〜0.60gになるようにワイヤの表面に付着させたことを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。