説明

表面多孔化繊維及び繊維シート

【課題】 繊維が本来有する繊維強度などの物性を保持したまま、繊維表面が半球状の細孔によって多孔化されており、その多孔化による拭き取り効果、塵埃や液体の保持効果、あるいは、染料の定着効果などの優れた機能を有した表面多孔化繊維及び繊維シートの製造方法、並びに表面多孔化繊維及び繊維シートを提供することを課題とする。
【解決手段】 少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維の表面のみに、細孔が形成されている表面多孔化繊維であって、前記熱可塑性樹脂はポリオレフィンまたはポリアミドを含む1種類以上の熱可塑性樹脂からなる表面多孔化繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面のみに多数の細孔を有する繊維及び繊維シートに関し、ワイパー叉はフィルター材などの用途に好適に使用することのできる、表面多孔化繊維及び繊維シートの製造方法、並びに表面多孔化繊維及び繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
表面に細孔を有する繊維としては、例えば特開平5−125667号公報(特許文献1)に、メルトフローレートが0.5〜9g/10分のポリプロピレン系樹脂からなる繊維本体と、前記ポリプロピレン系樹脂と溶融下でパラフィンワックスを混合し、ドラフト率400以下で押出機で溶融紡糸して、延伸、熱処理後に前記パラフィンワックスを除去することにより形成される多数の細孔とからなり、前記繊維本体の比表面積が20m/g以上で、前記繊維本体に対する前記細孔の比率が20%以上で、前記繊維本体のデニールが50以下であるポリプロピレン系多孔質繊維が記載されている。しかし、この多孔質繊維は、熱延伸によってラメラ晶がジグザグに変形し、これらの結晶間に形成されたパラフィンワックスの層が抽出除去されるため、細孔は繊維断面において広くなったり狭くなったりを繰り返しながら、あたかもへちまの孔のような形態で表面から内部まで連なった細孔を形成している。このように、繊維の表面のみならず、繊維の内部が多孔質であるので、繊維全体の強度が弱くなるという問題があった。また、繊維の内部には、パラフィンワックスが残留したり、抽出液が残留するという問題があった。また、パラフィンワックスや抽出液が残留しないようにするには、手間や時間がかかり過ぎるので生産コストの上昇をまねくという問題があった。
【0003】
また、特開昭64−6114号公報(特許文献2)には、表面に凹凸形状構造を有するナイロン繊維において、その凹凸形状が、繊維の長手方向に対し直角な方向の外周に沿って、谷の底とそれに隣り合った谷の底との間隔が約3〜30μmで、山の頂点と谷の底との垂直距離が約0.2〜2μmであり、その外周に沿って10μm当たり、約0.2〜3個の山が存在するような凹凸形状である、表面に凹凸形状構造を有する合成繊維が記載されている。この合成繊維は、溶融紡糸に際して、紡出単繊維を30℃以上の温水浴中で所定の時間をもって冷却する方法によって得られる。また、この公報には、温水中で部分的に表面にある半溶融状のナイロン分子が再結晶化又は再凝集化の際、小さな球状のものが形成されて表面が凹凸模様になることが推測されている。また、この合成繊維を更に延伸することにより、その凹凸模様が延伸方向に伸びた細長い山及び谷に変化された皺状の合成繊維となることが記載されている。
【0004】
このように、この合成繊維の表面は、球状の突起が多数集まってできた形状をしているので、例えばワイパーなどの用途にこの繊維を用いた場合、拭き取る対象物との間で点接触となって抵抗が少なくなるという問題があった。また、凹部は半球状の細孔となっていないので拭き取った塵埃や液体などを保持し難くなっており、充分な拭き取り効果が得られないという問題があった。また、フィルターなどの用途にこの繊維を用いた場合、繊維表面に塵埃などを保持し難くなっており、塵埃の保持能力を向上する効果が充分に得られないという問題があった。また、この合成繊維は、球状の突起を多数設けようとすると延伸が不充分となり、繊維の強度を高くできないという問題があった。これに対して、繊維の強度を高くしよようとして延伸すると、繊維の強度は高くなるものの、球状の突起が延伸方向に伸びた細長い山及び谷に変化して皺状となってしまう。このため、繊維表面に細孔が多数集まってできた構造、すなわち多孔を有する構造とならず、多孔構造による効果も生じないという問題があった。
【0005】
また、特開平5−15803号公報(特許文献3)には、繊維表面が粗面化されたポリエステル系繊維で構成された人工毛髪であって、この繊維は、平均繊度Xが30〜70デニールの範囲に入る繊維であり、さらに繊維表面には、凹部と隣り合う凹部との平均ピッチが0.1〜1.5μmで密度が平均距離10μm当り5〜100ケの凹凸が存在することが記載されている。この人工毛髪は、ポリエステル系ポリマー重合時もしくは紡糸時に平均粒子径が1μm以下でかつ屈折率が1.8以下の無機粒子を混在せしめ、その粒子混入ポリマーを紡糸延伸し、その延伸後の繊維を、その総繊度が10デニール以上になるように収束させた状態でアルカリ処理によりエッチングを行うことによって得られる。また、この人工毛髪は、従来のポリエステル系の人工毛髪の光沢及び風合いを、天然毛髪に近いものにすると共に、耐光堅牢性に優れ、色変化のないものを得ることを目的としたものであり、添加する微粒子も製糸後表面粗面化と染色後の光沢質感に重要な働きをなすものであることが記載されている。
【0006】
このように、この人工毛髪の表面には、アルカリ処理によるエッチングによって形成される凹凸が存在するものの、細孔が形成されておらず、この凹凸は、光沢に影響する程度の効果はあるが、凹部として半球状の細孔が形成しているわけではないので、このような半球状の細孔が形成した多孔構造による効果は有しないものであった。例えば、この繊維を利用してワイパーにした場合、拭き取った塵埃や液体などを保持するような効果はなく、また、フィルターとした場合、繊維表面に塵埃などを保持して、塵埃の保持能力を向上する効果は得られないものであった。
【0007】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【0008】
【特許文献1】特開平5−125667号公報
【特許文献2】特開昭64−6114号公報
【特許文献3】特開平5−15803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来技術に対して、従来技術の問題点を解決しようとするものであり、繊維が本来有する繊維強度などの物性を保持したまま、繊維表面が半球状の細孔によって多孔化されており、その多孔化による拭き取り効果、塵埃や液体の保持効果、あるいは、染料の定着効果などの優れた機能を有した表面多孔化繊維及び繊維シートの製造方法、並びに表面多孔化繊維及び繊維シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段は、請求項1の発明では、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維の表面のみに、細孔が形成されている表面多孔化繊維であって、前記熱可塑性樹脂はポリオレフィンまたはポリアミドを含む1種類以上の熱可塑性樹脂からなることを特徴とする表面多孔化繊維である。
【0011】
請求項2の発明では、前記細孔の開孔部の形状が略円形であるか又は略多角形であり、前記開孔部の平均径が0.1〜10μmである、請求項1に記載の表面多孔化繊維である。
【0012】
請求項3の発明では、前記細孔の平均深さが0.1〜10μmである、請求項1又は2に記載の表面多孔化繊維である。
【0013】
請求項4の発明では、前記細孔の個数が繊維の表面100μmあたり10〜1000個である、請求項1〜3の何れかに記載の表面多孔化繊維である。
【0014】
請求項5の発明では、請求項1〜4の何れかに記載の表面多孔化繊維を含む、表面多孔化繊維シートである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、繊維の繊維表面叉は繊維シートを構成する繊維の繊維表面のみに、固体粒子が固着され、その後、その固体粒子が除去されるので、繊維が本来有する繊維強度などの物性を保持したまま、繊維表面のみを細孔によって確実に多孔化することができる。また、固体粒子の形状に応じた要求どおりの大きさの細孔を形成することができるので、その多孔化による拭き取り効果、塵埃や液体の保持効果、あるいは、染料の定着効果など、要求に応じた、優れた機能を発揮することができる。また、本発明の製造方法によれば、このような表面多孔化繊維又は表面多孔化繊維を含む表面多孔化繊維シートを容易に得ることができる。
また、本発明の表面多孔化繊維及び表面多孔化繊維シートは、繊維が本来有する繊維強度などの物性を保持したまま、繊維表面が半球状の細孔によって多孔化されており、その多孔化による拭き取り効果、塵埃や液体の保持効果、あるいは、染料の定着効果などの優れた機能を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[1]本発明による表面多孔化繊維又は表面多孔化繊維シートの製造方法
本発明による、表面多孔化繊維の製造方法によれば、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維の表面に、細孔を有する繊維を製造することができる。本発明の表面多孔化繊維の製造方法では、前記繊維表面に、前記繊維表面の融着により、前記熱可塑性樹脂の融点より高い融点又は分解温度を有する固体粒子を固着させて、固体粒子固着繊維を形成し、その後、固体粒子固着繊維の固体粒子を除去する。
【0017】
また、本発明による、表面多孔化繊維シートの製造方法によれば、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維を含む繊維シートの前記繊維の表面に、細孔を有する繊維シートを製造することができる。本発明の表面多孔化繊維シートの製造方法では、前記繊維表面に、前記繊維表面の融着により、前記熱可塑性樹脂の融点より高い融点又は分解温度を有する固体粒子を固着させて、固体粒子固着繊維を形成し、その後、固体粒子固着繊維の固体粒子を除去する。
【0018】
本発明の表面多孔化繊維の製造方法で用いる前記繊維、あるいは、本発明の表面多孔化繊維シートの製造方法で用いる繊維シートに含まれる前記繊維は、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維であり、繊維表面が加熱(例えば、50℃以上の加熱、好ましくは80℃以上の加熱)により溶融する繊維であれば、繊維の種類は問わず適宜選択することができる。このような繊維としては、例えば、従来の繊維の製法である溶融紡糸による合成繊維、従来の不織布の製法であるスパンボンド法、メルトブロー法、若しくはフラッシュ紡糸法などによって得られる繊維、又は芯部分が天然繊維、若しくは無機繊維からなる繊維などから適宜選択することができる。
【0019】
前記合成繊維又は不織布の製法によって得られる前記繊維としては、例えば、熱可塑性樹脂(例えば、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、又はポリアミド繊維など)からなる合成繊維を挙げることができ、前記合成繊維は、1種類の熱可塑性樹脂からなる合成繊維であっても、異なる2種類以上の樹脂が複合された複合繊維であっても適宜選択して使用することができる。このような複合繊維としては、融点の異なる2種類以上の樹脂が複合された複合繊維を挙げることができ、例えば、共重合ポリエステル/ポリエステル、共重合ポリプロピレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリアミド、ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリエステル、又はポリエチレン/ポリエステルなどの樹脂の組み合わせからなる複合繊維を挙げることができる。また、複合繊維が、芯に高融点樹脂を有し、鞘に低融点樹脂を有する芯鞘型複合繊維である場合には、固体粒子が繊維表面に固着される際に、繊維の収縮や糸切れが更に生じにくくなるので好ましい。
【0020】
また、前記繊維は、繊維全体が実質的に繊維形成性の樹脂のみからなる繊維であることが好ましいが、芯部分が融点を有せずに分解温度を有するような繊維、例えば、レーヨン繊維、アセテート繊維、羊毛繊維、又は炭素繊維などの繊維の表面に、鞘部分として、熱可塑性樹脂が、例えば、コーティングなどにより塗布されてなる繊維であることもできる。また、前記繊維は、芯部分が無機繊維であり、高融点を有するような繊維、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、又は金属繊維などの繊維の表面に鞘部分として、熱可塑性樹脂が、例えば、コーティングなどにより塗布されてなる繊維であることもできる。
【0021】
少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維としては、例えば、少なくとも表面が1又はそれ以上の熱可塑性樹脂からなる繊維、少なくとも表面が1又はそれ以上の熱可塑性樹脂から実質的になる繊維、あるいは、少なくとも表面が1又はそれ以上の熱可塑性樹脂から主としてなる繊維を挙げることができ、少なくとも表面が1又はそれ以上の熱可塑性樹脂からなる繊維、あるいは、少なくとも表面が1又はそれ以上の熱可塑性樹脂から実質的になる繊維が好ましい。本明細書において「から主としてなる」とは、対象となる熱可塑性樹脂が繊維表面に占める面積が、繊維の表面積に対して、50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは90%以上)であることを意味する。また、繊維の断面形状又は表面形状は、任意の形状とすることができる。例えば、熱可塑性樹脂からなる複合繊維が、水流などの機械的応力によって分割された断面形状が菊花状の繊維、あるいは、フィブリル状に分割された繊維とすることができる。
【0022】
前記繊維の平均径及び長さは、例えば、従来の繊維の製法である溶融紡糸による合成繊維、従来の不織布の製法であるスパンボンド法、メルトブロー法、若しくはフラッシュ紡糸法などによって得られる繊維、又は芯部分が天然繊維若しくは無機繊維からなる繊維などの繊維の平均径及び長さのものを適宜選択することができる。例えば、繊維の平均径は、0.1μm〜3mmの範囲の広範囲の平均径とすることができる。また、繊維の平均径は、好ましくは0.1μm〜500μmの範囲であり、更に好ましくは0.1μm〜100μmの範囲である。ここで、繊維の平均径とは、繊維の断面形状が円以外の場合には、繊維の断面積と同じ面積の円の直径とし、繊維の任意の500個所以上からのサンプリングによる数平均繊維径とする。
【0023】
また、繊維の断面積の測定が困難な場合は、繊維の側面を走査型電子顕微鏡等で拡大して撮影し、その繊維の映像で確認しうる繊維径について、繊維の任意の500箇所以上からのサンプリングによる数平均繊維径を、繊維の繊維径とすることができる。
また、市販されている繊維の場合、カタログや仕様書に数平均繊維径が明示されている場合はその値を繊維の平均径としてもよい。更に、カタログや仕様書にデニールもしくはデシテックスの単位で繊維径が明示されている場合、その値を長さの単位に換算して繊維の平均径としてもよい。
【0024】
本発明の表面多孔化繊維シートの製造方法で用いる繊維シートは、繊維シート中に、前記繊維、すなわち、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維を有する繊維シートである限り、特に限定されるものではなく、この繊維シートは、前記繊維のみを含むことができるし、あるいは、前記繊維以外の繊維を含むことができる。前記繊維(すなわち、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維)以外の繊維としては、特に限定されず、表面が熱可塑性樹脂でない繊維、例えば、無機繊維、あるいは、融点を有さず、分解温度を有する繊維などを用いることができる。
【0025】
繊維シートの構造としては、例えば、織物、編物、若しくは不織布、又はそれらの組合せなどを挙げることができる。織物又は編物の場合には、例えば、前記繊維を織機又は編機により加工することによって得られる。また、不織布の場合には、例えば、従来の不織布の製法である、乾式法、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法、又は湿式法などによって繊維シートとすることができる。また、これらの製法によって形成される繊維ウエブに、接着性繊維及び/又は融点の異なる2種類以上の樹脂が複合された複合繊維などを予め混入させてから、加熱処理することにより、繊維間が接合された繊維シートとすることができる。また、前記繊維ウエブ間を機械的絡合処理(例えば、水流絡合又はニードルパンチなど)によって絡合させた繊維シートとすることもできる。また、前記繊維ウエブを、加熱した平滑なロールと加熱した凹凸のあるロールとの間に通して、部分的に結合された繊維シートとすることもできる。また、種類の異なる前記繊維シートを複数積層して更に一体化してなる繊維シートとすることもできる。
【0026】
また、繊維シートの形状も特に限定されるものではなく、例えば、長尺状繊維シート(例えば、ロールに巻回した繊維シート)、又は非長尺状繊維シート(すなわち、前記長尺状繊維シートを切断して得ることのできる繊維シート)等を挙げることができる。
【0027】
本発明による表面多孔化繊維の製造方法又は表面多孔化繊維シートの製造方法で用いる固体粒子は、固体粒子を固着させるのに使用する前記繊維の表面を構成する熱可塑性樹脂の融点より高い融点又は分解温度を有する固体粒子である限り、また、繊維表面に固体粒子を固着させた後、その固体粒子を除去することができる固体粒子である限り、無機質又は有機質のいずれであることもでき、固体状の粒子であればこのような粒子の一種以上を適宜選択することができる。このような、固体粒子を除去することができる固体粒子としては、例えば、固体粒子を固着させるのに使用する前記繊維の表面を構成する熱可塑性樹脂を実質的に溶解しない溶媒(例えば、水、水溶液、酸、アルカリ性水溶液など)に対して溶解する固体粒子(例えば、水溶性無機物、金属塩、水溶性樹脂、金属など)がある。このような固体粒子であれば、前記繊維表面に固体粒子を固着させた後、前記溶媒を用いて抽出によって、その固体粒子を容易に除去することができる。また、例えば、抽出以外にも、振動、超音波洗浄、繊維の収縮、若しくは繊維表面の剥離性向上加工などによって、その固体粒子を除去することができる固体粒子を挙げることができる。また、本発明の製造方法で用いる固体粒子の材質としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、その他各種金属塩、水溶性樹脂、金属粒子、セラミックス、ゼオライト、その他各種無機物など、種々の材質とすることができる。
【0028】
前記固体粒子の融点又は分解温度は、前記繊維表面を構成する樹脂の内、最も低い融点を有する樹脂の融点より高いことが必要であり、もし、固体粒子の融点又は分解温度が前記樹脂の融点より低い場合は、加熱した固体粒子の熱により繊維表面が溶けず、固体粒子が繊維表面に固着された形態にはならない。すなわち、繊維表面に固体粒子が固着されないか、あるいは、繊維表面に固体粒子が固着されたとしても、その形態は、固体粒子が繊維表面よりも先に溶けて固体粒子が凝集体となったり、固体粒子と繊維表面とが広い面積で融着してしまう形態となる。したがって、その後、この固着した固体粒子を除去しても細孔を充分に形成することができなくなってしまう。
【0029】
前記固体粒子の平均粒子径は、前記繊維径以下であることが望ましい。固体粒子の平均粒子径が繊維径を超えると、固体粒子が繊維表面に対して大きくなり過ぎて、繊維表面に多孔を形成し難くなることがある。また、固体粒子の平均粒子径は、0.1〜10μmが好ましく、0.1〜5μmがより好ましい。
【0030】
なお、固体粒子の平均粒子径とは、固体粒子の数平均粒子径を表すものとする。また、数平均粒子径の算出方法としては、粒子を走査型電子顕微鏡等で拡大して撮影し、任意の500個以上の粒子の粒子径を測定し、測定した個数で除することにより算出する。この際に粒子が球形でない場合は、撮影した粒子の映像で確認しうる個々の粒子の外接円の直径を個々の粒子の粒子径とする。
また、市販されている粒子の場合、カタログや仕様書に数平均粒子径が明示されている場合はその値を固体粒子の平均粒子径としてもよい。
【0031】
本発明による表面多孔化繊維の製造方法又は表面多孔化繊維シートの製造方法では、前記繊維表面に、前記繊維表面の融着により固体粒子を固着させて固体粒子固着繊維を形成する。前記繊維表面の融着により固体粒子を固着させる方法としては、例えば、前記熱可塑性樹脂の融点より高い融点又は分解温度を有する固体粒子を、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱し(但し、前記固体粒子の融点又は分解温度未満の温度であり、固体としての形状を保持する範囲の温度で)、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に維持された状態で加熱固体粒子を前記繊維又は繊維シートと接触させて、前記繊維表面の融着により固着させる方法がある。また、例えば、前記繊維表面を、前記熱可塑性樹脂の融点以上の高い温度に加熱して、その温度に維持された状態で、前記熱可塑性樹脂の融点より高い融点又は分解温度を有する固体粒子を、前記繊維又は繊維シートと接触させて、前記繊維表面の融着により固体粒子を固着させる方法がある。この両者の方法を比較すると、前者の方法である、固体粒子を、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱し、前記繊維又は繊維シートと接触させる方法がより好ましい。
【0032】
すなわち、前者の方法によれば、加熱した固体粒子を繊維表面に接触させることで、繊維表面に固体粒子が接触した部分のみが溶融して固体粒子が固着される。そのため、繊維表面の樹脂全体が溶融して流動化することにより、固体粒子が埋没してしまうことは実質的に生じない。また、場合によっては、均一な、実質的に固体粒子1個分の厚さの層からなる一層叉は単層の固着も可能である。このような、単層の固着は図3の走査型電子顕微鏡による写真に例示することができる。
【0033】
そこで、このようにして固着した固体粒子を、その後、除去することによって、繊維表面に、実質的に固体粒子1個分の厚さの層からなる一層叉は単層に応じた均一な細孔の層を形成することができる。また、例えば、図4(a)(b)に示すように、繊維100の表面102に明瞭な半円球状の細孔101を形成することができる。なお、ここでいう半円球状とは、略半円球、略楕円球叉は多面体である形状を含み、更に略半円球、略楕円球叉は多面体を形成する面に凹凸を有する形状も含むものとする。また、固体粒子の体積の1割〜9割、好ましくは3割〜7割が繊維の表面に固着した状態となっている固体粒子がその繊維の表面から抜けたときに形成されるような窪み叉は細孔の形状も含むものとする。また、このような半円球状の細孔は、図2の走査型電子顕微鏡による写真に例示することができる。また、前者の方法によれば、固体粒子が繊維表面のみを溶融するので、繊維が単一の樹脂成分からなる繊維であっても、接触処理時又は固着処理時に繊維が収縮したり、繊維全体が溶融して糸切れが生じて問題となることはない。
【0034】
前記繊維表面の融着により固体粒子を固着させるに際して、前記繊維表面に固体粒子を接触させる方法としては、その繊維表面に固体粒子を固着させることができる限り、特に限定されるものではなく、例えば、
(1)固体粒子を含有する気流を繊維又は繊維シート表面に吹き付ける方法、;(2)固体粒子を繊維又は繊維シートに対して自然落下させる方法;
(3)固体粒子と繊維又は繊維シートとを装入した耐熱性容器を振盪する方法;(4)固体粒子の中に繊維又は繊維シートを浸漬する方法;あるいは、
(5)固体粒子の流動層中に繊維又は繊維シートを曝す方法、
などを挙げることができる。なお、先述の、固体粒子を、前記熱可塑性樹脂の熱可塑性樹脂より高い温度に加熱し、前記繊維又は繊維シートと接触させる好ましい方法による場合には、(1)〜(5)の方法において、固体粒子として加熱した固体粒子を適用すればよい。
【0035】
例えば、前記(1)の方法において、固体粒子として加熱した固体粒子を適用した方法は、(1’)加熱固体粒子を含有する気流を繊維又は繊維シート表面に吹き付ける方法である。この方法による場合は、前記加熱固体粒子含有気流として、繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の内、最も低い融点を有する熱可塑性樹脂の融点以上に加熱した固体粒子と、気流とが混合された混合気流を用いる。
【0036】
このような混合気流を調整するには、例えば、
(a)気流の中に、熱可塑性樹脂の融点以上に加熱した固体粒子を供給する方法;
(b)熱可塑性樹脂の融点以上に加熱した気流の中に、固体粒子を供給する方法;あるいは、
(c)気流の中に固体粒子を供給したものを、熱可塑性樹脂の融点以上に加熱する方法
などを挙げることができる。この内、混合気流調整方法(b)又は(c)によれば、熱可塑性樹脂の融点以上に加熱された気流を介して固体粒子が熱可塑性樹脂の融点以上に加熱される。
【0037】
前記(1’)加熱固体粒子を含有する気流を繊維又は繊維シート表面に吹き付ける方法では、例えば、図1に例示する装置を用いることができる。図1は、本発明の表面多孔化繊維叉は表面多孔化繊維シートの製造方法に用いる装置の一態様を模式的に示す概略図である。図1では、固体粒子29と気流Aとを混合する粒子混合手段30がエジェクターとなっており、気流発生手段としてのブロワー11及び加熱管12で生じた気流Aを粒子混合手段30に送り、粒子混合手段30には、粒子供給手段としてのロート状の供給容器21と回転式の供給制御ロータ22と供給管23とを連絡させておき、気流Aによって生じる吸引力によって、粒子供給手段21から供給する固体粒子29を吸引して、気流Aの中に固体粒子29を供給する。このようにして得られた混合気流(すなわち、繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の内、最も低い融点を有する熱可塑性樹脂の融点以上に加熱された固体粒子を含む混合気流)を、噴出手段としてのノズル41から噴出させると、固体粒子29は、噴出時に与えられた運動エネルギーによる慣性力により繊維表面に衝突する。ノズル41の先方には、繊維80又は繊維シート80’を支持する支持手段である回転ロール70又は70’に、繊維80又は繊維シート80’が支持されながら移動しており、この繊維80又は繊維シート80’に固体粒子29が吹き付けられるようになっている。また、図1では、気流で吹き飛ばす方式の粒子回収手段93を備えることによって、繊維80又は繊維シート80’に固着しなかった余剰の固体粒子を除去して回収するようになっている。
【0038】
前記繊維表面の融着により固体粒子を固着させるに際して、前記繊維表面に固体粒子を接触させる方法として、前記(2)〜(5)の方法において、固体粒子として加熱した固体粒子を適用した、それぞれ(2’)〜(5’)の方法のいずれかを用いる場合には、固体粒子を予め加熱してから、種々の接触方法により、繊維又は繊維シートに含まれる繊維と接触させる。
【0039】
前記接触方法(2’)、すなわち、加熱固体粒子を繊維又は繊維シートに対して自然落下させる方法では、例えば、繊維又は繊維シートを移動する耐熱性のコンベアー上に載せ、次に、コンベアーの上部より加熱した固体粒子を、例えば、散布することにより、繊維表面に加熱した固体粒子が接触すると同時に、加熱した固体粒子が繊維表面の熱可塑性樹脂を接触点のみ溶かした状態で保持されるようにする。次に、室温に放置するか、あるいは、必要に応じて適当な冷却手段、例えば、コンベアー上部より冷却空気を吹き付け、繊維又は繊維シートと固体粒子とを冷却して、固体粒子を繊維表面に固着させる。次に、固体粒子固着繊維に固着しなかった固体粒子を、適当な固体粒子除去手段、例えば、コンベアーを傾斜させ、振動により落下させたり、気流で吹き飛ばす等の方法によって除去する。
【0040】
また、前記接触方法(3’)、すなわち、加熱固体粒子と繊維又は繊維シートとを装入した耐熱性容器を振盪する方法では、例えば、繊維又は繊維シートを耐熱性の容器の中に入れ、更に、加熱した固体粒子を容器の中に入れ、容器の蓋を閉め、容器全体を振盪して、繊維表面に加熱した固体粒子が接触すると同時に、加熱した固体粒子が繊維表面の熱可塑性樹脂を接触点のみ溶かした状態で保持されるようにする。次に、容器より素早く繊維又は繊維シートを取り出し、繊維又は繊維シートを冷却して、固体粒子を繊維表面に固着させる。次に固体粒子固着繊維に固着しなかった固体粒子を、適当な除去手段、例えば、水洗により除去する。
【0041】
本発明による表面多孔化繊維の製造方法又は表面多孔化繊維シートの製造方法では、前記繊維表面に、固体粒子を固着させて、固体粒子固着繊維を形成し、その後、固体粒子固着繊維の固体粒子を除去する。固体粒子固着繊維の固体粒子を除去する方法としては、固体粒子固着繊維の固体粒子を除去することができる限り、特に限定されず、例えば、固体粒子を固着させるのに使用する前記繊維の表面を構成する熱可塑性樹脂を実質的に溶解しない溶媒に対して溶解する固体粒子を、前記繊維表面に固着させた後、前記溶媒を用いて抽出によって、その固体粒子を除去する方法がある。この方法では、前記溶媒として、例えば、水、水溶液、酸、アルカリ性水溶液などを用いる一方、前記固体粒子として、例えば、水溶性無機物、金属塩、水溶性樹脂、金属などを用いる方法がある。特に前記溶媒として水を用いる一方、前記固体粒子として、金属塩又は水溶性樹脂を用いる方法が、生産コストの負担も少なく好適である。このような金属塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどがある。また、このような水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸などがある。
【0042】
また、固体粒子固着繊維の固体粒子を除去する他の方法としては、例えば、固体粒子固着繊維を振動させ、固体粒子を繊維表面より剥離させる方法がある。また、固体粒子固着繊維を超音波洗浄の方法によって、固体粒子を繊維表面より剥離させる方法がある。また、固体粒子固着繊維の繊維を伸長又は収縮させて、固体粒子を繊維表面より剥離させる方法がある。また、繊維表面に、例えば撥水加工又は撥油加工などにより、繊維表面の剥離性を向上させる加工を予め施してから、固体粒子を固着させておき、固体粒子を繊維表面より剥離させる方法がある。
【0043】
なお、表面多孔化繊維シートの製造方法では、前記の方法以外にも、すなわち、繊維シートに含まれる繊維を表面多孔化繊維とする方法以外にも、表面多孔化繊維を予め形成しておき、この表面多孔化繊維を含む繊維を用いてシートを形成する方法も可能である。
【0044】
本発明の製造方法(本発明による表面多孔化繊維の製造方法及び本発明による表面多孔化繊維シートの製造方法の両方を含む)によれば、繊維表面のみに、固体粒子が固着され、その後、その固体粒子が除去されるので、繊維が本来有する繊維強度などの物性を保持したまま、繊維表面のみを細孔によって確実に多孔化することができる。また、固体粒子の形状に応じた要求どおりの大きさの細孔を形成することができるので、その多孔化による拭き取り効果、塵埃や液体の保持効果、あるいは、染料の定着効果など、要求に応じた、優れた機能を発揮することができる。また、本発明の製造方法によれば、このような表面多孔化繊維又は表面多孔化繊維を含む表面多孔化繊維シートを容易に得ることができる。
【0045】
[2]本発明の表面多孔化繊維及び表面多孔化繊維シート
本発明の表面多孔化繊維は、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維の表面のみに、細孔が形成されている。
本発明の表面多孔化繊維は、例えば、本発明による、表面多孔化繊維の製造方法により製造することができる。
【0046】
本発明の表面多孔化繊維は、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維の表面のみに、細孔が形成されている繊維である。この「少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維」については、本発明の製造方法において先述した「少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維」に関する説明がそのまま当てはまる。すなわち、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維であり、繊維表面が加熱(例えば、50℃以上の加熱、好ましくは80℃以上の加熱)により溶融する繊維であれば、繊維の種類は問わず適宜選択することができる。このような繊維としては、例えば、従来の繊維の製法である溶融紡糸による合成繊維、従来の不織布の製法であるスパンボンド法、メルトブロー法、若しくはフラッシュ紡糸法などによって得られる繊維、又は芯部分が天然繊維若しくは無機繊維からなる繊維などから適宜選択することができる。
【0047】
本発明の表面多孔化繊維は、例えば、図4(a)(b)に示すように、繊維100の表面102のみに、細孔101が形成されている。ここで、「繊維の表面のみに」とは、実質的に、表面から見える(例えば、走査型電子顕微鏡で繊維の表面を撮影した映像で見える)細孔のみが、繊維の表面に形成されていることを意味する。したがって、例えば、繊維形成性熱可塑性樹脂に、ある溶媒で抽出可能な粒子状物質を混入させてから、繊維を紡糸した後で、その溶剤を用いて粒子状物質を抽出して形成されるような細孔は含まない。このような細孔は、繊維表面に開孔を有しているものの、細孔の内部には、表面から見えない空隙となっている部分が多数存在しているので、本発明の表面多孔化繊維が有する細孔とは異なっている。
【0048】
前記細孔の形状は、細孔の概念から外れない限り(細孔の概念から外れるものとしては、例えば、筋状、線状、帯状、山脈状、溝状、又は皺状などがある)、特に限定されるものではなく、半円球状であることが好ましい。この「半円球状」については、本発明の製造方法において先述した「半円球状」に関する説明がそのまま当てはまる。また、前記細孔の繊維表面上における開孔部の形状は、略円形であるか又は略多角形であることが好ましい。ここで、開孔部103とは、図4(a)(b)に例示する細孔の図に示すように、繊維表面102に形成されている細孔101の開孔によって形成されている輪郭を指す。前記細孔の形状が半円球状であることによって、あるいは、前記開孔部の形状が略円形であるか又は略多角形であることによって、その細孔による拭き取り効果、塵埃や液体の保持効果、あるいは、染料の定着効果などの優れた機能をより有効に発揮することができる。
【0049】
前記開孔部の平均径は0.1〜10μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることがより好ましく、0.1〜3μmであることがより好ましい。前記開孔部の平均径が0.1〜10μmであることによって、その細孔による拭き取り効果、塵埃や液体の保持効果、あるいは、染料の定着効果などの優れた機能をより有効に発揮することができる。ここで、「開孔部の平均径」とは、繊維の側面を走査型電子顕微鏡等で拡大して撮影し、その繊維の映像で確認しうる開孔部の外接円の直径について、繊維側面の任意の500箇所以上からのサンプリングによる数平均開孔部径を指す。
【0050】
また、前記開孔部の長径は短径の5倍以下であることが好ましく、3倍以下であることがより好ましく、2倍以下であることが更に好ましい。ここで、「開孔部の長径」とは、繊維側面の走査型電子顕微鏡等による映像上に現れる細孔において、開孔部の輪郭上の任意の2点間を結ぶ直線のうち最も長い直線の長さを指し、「開孔部の短径」とは、前記開孔部の長径に直交する直線と開孔部の輪郭とが交わる2点を結ぶ任意の直線のうち最も長い直線の長さを指す。なお、前記開孔部の長径に直交する一つの直線に対して、開孔部の輪郭とが交わる点が3点以上存在する場合は、それらの点のうち任意の2点を結ぶ直線のうち最も長い直線を、前記2点を結ぶ直線とする。また、前記開孔部の長径と短径との比較値は、任意の500箇所以上の細孔からのサンプリングによる数平均比較値とする。
【0051】
前記細孔の深さは、繊維の表面のみに細孔が形成されている限り特に限定されるものではなく、前記細孔の平均深さは、好ましくは、0.1〜10μmであり、より好ましくは、0.1〜5μmであり、更に好ましくは、0.1〜3μmである。ここで、細孔の平均深さとは、繊維の断面をレーザー顕微鏡(例えば、レーザーテック(株)製の高精細コンフォーカル顕微鏡などがある)等で拡大して撮影し、その繊維の映像で確認しうる各細孔の最も深い部分の深さについて、繊維断面の任意の500箇所以上の細孔からのサンプリングによる数平均細孔深さを、細孔の平均深さとすることができる。ここで、「各細孔の最も深い部分の深さ」とは、図4(a)、(b)に示すように、繊維断面の映像上に現れる繊維表面を表す直線102に対して垂線を引いたときに、この垂線と細孔の内壁が交わる交点と、この垂線と繊維表面を表す直線102が交わる交点とを結ぶ直線のうち最も長い直線の長さ(図4(a)、(b)におけるbの長さ)を指す。
【0052】
また、繊維軸方向の繊維断面の走査型電子顕微鏡等による映像上に現れる細孔において、細孔の長さは、開孔巾の0.6〜3倍が好ましく、0.7〜2倍がより好ましい。ここで、「細孔の長さ」とは、図4(c)、(d)に示すように、開孔部の輪郭を表す両端の点A、Bのうち片方の点Aから、細孔の壁を表す線に沿って、他の点Bへ至る道のりの長さの半分の長さを指し、「開孔巾」とは、前記開孔部の輪郭を表す両端の点A、Bを結ぶ直線の長さaを指す。なお、細孔の長さと開孔巾との比較値は、任意の500箇所以上の細孔からのサンプリングによる数平均比較値とする。
【0053】
また、前記細孔の個数は、繊維の表面100μmあたり10〜1000個であることが好ましく、20〜500個であることがより好ましく、20〜200個であることが更に好ましい。前記細孔の個数が、繊維の表面100μmあたり10〜1000個であることによって、その細孔による拭き取り効果、塵埃や液体の保持効果、あるいは、染料の定着効果などの優れた機能をより有効に発揮することができる。
【0054】
前記細孔は、繊維の表面に固着した固体粒子が繊維の表面より除去されることによって生じた細孔であることが好ましい。前記細孔を、繊維の表面に固着した固体粒子が繊維の表面より除去されることによって生じた細孔とする方法は、例えば、本発明による、表面多孔化繊維の製造方法、あるいは、本発明による、表面多孔化繊維シートの製造方法により製造することができる。固体粒子が繊維の表面より除去されることによって生じた細孔であることによって、繊維が本来有する繊維強度などの物性を保持したまま、繊維表面のみが細孔によって確実に多孔化されている。また、固体粒子の形状に応じた要求どおりの大きさの細孔が形成されているので、その多孔化による拭き取り効果、塵埃や液体の保持効果、あるいは、染料の定着効果など、要求に応じた、優れた機能を発揮することができる。
【0055】
本発明の表面多孔化繊維シートは、その繊維シート中に、本発明の表面多孔化繊維を少なくとも含む限り、特に限定されるものではなく、本発明の表面多孔化繊維のみを含むこともできるし、あるいは、本発明の表面多孔化繊維以外の繊維を含むこともできる。表面多孔化繊維以外の繊維としては、特に限定されず、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維であっても、あるいは、表面が熱可塑性樹脂でない繊維、例えば、無機繊維、あるいは、融点を有せず分解温度を有する繊維などであることもできる。
【0056】
繊維シートの構造としては、例えば、織物、編物、若しくは不織布、又はそれらの組合せを挙げることができる。織物又は編物の場合には、例えば、前記繊維を織機又は編機により加工することによって得られる。また、不織布の場合には、例えば、従来の不織布の製法である、乾式法、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法、又は湿式法などによって繊維シートとすることができる。また、これらの製法によって形成される繊維ウエブに、接着性繊維及び/又は融点の異なる2種類以上の樹脂が複合された複合繊維などを予め混入させてから、加熱処理することにより、繊維間が接合された繊維シートとすることができる。また、前記繊維ウエブ間を機械的絡合処理(例えば、水流絡合又はニードルパンチなど)によって絡合させた繊維シートとすることもできる。また、前記繊維ウエブを、加熱した平滑なロールと加熱した凹凸のあるロールとの間に通して、部分的に結合された繊維シートとすることもできる。また、種類の異なる前記繊維シートを複数積層して更に一体化してなる繊維シートとすることもできる。
【0057】
本発明の表面多孔化繊維シートを得る方法としては、例えば、本発明の表面多孔化繊維を含んだシートを前記のようにして形成することによって得る方法、あるいは、表面多孔化繊維を含まない繊維シートを予め形成してから、本発明による表面多孔化繊維シートの製造方法を用いて、多孔を形成する方法等を挙げることができる。このように、本発明の表面多孔化繊維シートは、繊維シート中に表面多孔化繊維を有しているので、この繊維シートをワイパー叉はフィルター材等の様々な用途に適した形態とすることにより、表面多孔化繊維の有している細孔による効果を更に有効に発揮することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0059】
(実施例1)
抄造装置により、芯成分がポリプロピレン樹脂であり、鞘成分が高密度ポリエチレン樹脂(融点=132℃)からなる芯鞘型の複合繊維(繊度=0.8デシテックス、繊維長=10mm、繊維強度4.2g/デシテックス)100%からなる抄造シートを作製した。次に、この抄造シートを金網のコンベアーベルトの上に載置して、エアースルー型のドライヤーの中で、複合繊維の接着成分である高密度ポリエチレン繊維が溶融するように、140℃の温度で熱接着処理を行ない、湿式法不織布を得た。この湿式法不織布は面密度が45g/mであった。
【0060】
次に、和光純薬製塩化ナトリウムを、粉砕機にかけて粉砕して、一次粒子の平均粒子径が2.5μmである塩化ナトリウム微粒子を得た。次に、図1に示す装置を用いて、前記湿式法不織布を金網のコンベアーベルトの上に載置して、コンベアーベルトを移動させた。次に、図1に示す装置を用いて、170℃に加熱された前記塩化ナトリウム微粒子と空気が混合された混合気流を準備して、この湿式法不織布の上から、この混合気流を、この湿式法不織布の表面全体に均一になるように吹き付けて、塩化ナトリウム微粒子が、この湿式法不織布の主として片面に固着した繊維シートを得た。次に、この繊維シートを反転させて、金網のコンベアーベルトの上に載置して、この繊維シートの反対面も同様にして、混合気流を吹き付けて、塩化ナトリウム微粒子が、この湿式法不織布の両面に固着した繊維シートを得た。この固体粒子固着シートは、面密度が80g/mであった。また、この固体粒子固着シートに含まれる固体粒子固着繊維は、繊維の表面全体が塩化ナトリウム微粒子の粒子1個分の厚さの層で覆われていた。得られた固体粒子固着繊維を走査型電子顕微鏡で2000倍に拡大した映像による写真を図3に示す。
【0061】
次に、前記固体粒子固着シートを水中に投入して、この固体粒子固着シートに固着した塩化ナトリウム微粒子を水に溶解させて、この固体粒子固着シートから塩化ナトリウム微粒子を除去して、繊維の表面のみに、細孔が形成された表面多孔化繊維からなる表面多孔化繊維シートを得た。この表面多孔化繊維シートの面密度は45g/mであった。また、この表面多孔化繊維シートに含まれる表面多孔化繊維は、繊維の表面全体に繊維の表面100μmあたり100個の半円球状の細孔を有しており、その細孔の平均径は、2.5μmであり、固着していた塩化ナトリウム微粒子の平均径に対応するものであった。また、その細孔の深さは、先述の、塩化ナトリウム微粒子の粒子1個分の厚さの層に対応する深さであった。また、この表面多孔化繊維の繊維強度を測定すると4.2g/デシテックスであった。得られた表面多孔化繊維を走査型電子顕微鏡で2000倍に拡大した映像による写真を図2に示す。
【0062】
(実施例2)
抄造装置により、ポリプロピレン樹脂(融点=160℃)からなるポリプロピレン繊維(繊度=1.9デシテックス、繊維長=51mm、繊維強度6.5g/デシテックス)100%からなる繊維ウエブをカード機により作製した。続いて水流絡合法により繊維ウエブを絡合させた水流絡合不織布を作製した。この水流絡合不織布は面密度が40g/mであった。
【0063】
次に、実施例1において、湿式法不織布の代わりに前記水流絡合不織布を用いたこと、及び200℃に加熱された前記塩化ナトリウム微粒子と空気が混合された混合気流を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、塩化ナトリウム微粒子が固着した固体粒子固着シートを得た。この固体粒子固着シートは、面密度が55g/mであった。また、この固体粒子固着シートに含まれる固体粒子固着繊維は、繊維の表面全体が塩化ナトリウム微粒子の粒子1個分の厚さの層で覆われていた。
【0064】
次に、実施例1と同様にして、前記固体粒子固着シートを水中に投入して、この固体粒子固着シートに固着した塩化ナトリウム微粒子を水に溶解させて、この固体粒子固着シートから塩化ナトリウム微粒子を除去して、繊維の表面のみに、細孔が形成された表面多孔化繊維からなる表面多孔化繊維シートを得た。この表面多孔化繊維シートの面密度は40g/mであった。また、この表面多孔化繊維シートに含まれる表面多孔化繊維は、繊維の表面全体に繊維の表面100μmあたり80個の半円球状の細孔を有しており、その細孔の平均径は、2.5μmであり、固着していた塩化ナトリウム微粒子の平均径に対応するものであった。また、その細孔の深さは、先述の、塩化ナトリウム微粒子の粒子1個分の厚さの層に対応する深さであった。また、この表面多孔化繊維の繊維強度を測定すると6.5g/デシテックスであった。
【0065】
(実施例3)
ポリプロピレン樹脂(融点=160℃)からなるフィラメント状のポリプロピレン繊維(繊度=1.9デシテックス、繊維強度6.5g/デシテックス)を準備した。
次に、和光純薬製塩化ナトリウムを、粉砕機にかけて粉砕して、一次粒子の平均粒子径が2.5μmである塩化ナトリウム微粒子を得た。次に、図1に示す装置を用いて、前記フィラメントをロール支持体の上に載置して、ロール支持体を回転させ、フィラメントを移動させた。次に、図1に示す装置を用いて、200℃に加熱された前記塩化ナトリウム微粒子と空気が混合された混合気流を準備して、このフィラメントの上から、この混合気流を、このフィラメントの表面全体に均一になるように吹き付けて、塩化ナトリウム微粒子が、このフィラメントの表面全体に固着した繊維を得た。次に、この繊維に固着しなかった塩化ナトリウム微粒子を室温の気流で吹き飛ばして除き、塩化ナトリウム微粒子が固着した固体粒子固着繊維を得た。この固体粒子固着繊維に固着している塩化ナトリウム微粒子の質量は繊維の単位長さ当り0.05mg/mであった。また、この固体粒子固着繊維は、繊維の表面全体が塩化ナトリウム微粒子の粒子1個分の厚さの層で覆われていた。
【0066】
次に、前記固体粒子固着繊維を水中に投入して、この固体粒子固着繊維に固着した塩化ナトリウム微粒子を水に溶解させて、この固体粒子固着繊維から塩化ナトリウム微粒子を除去して、繊維の表面のみに、細孔が形成された表面多孔化繊維からなる表面多孔化繊維を得た。この表面多孔化繊維の繊度は1.9デシテックスであった。また、この表面多孔化繊維は、繊維の表面全体に繊維の表面100μmあたり50個の半円球状の細孔を有しており、その細孔の平均径は、2.5μmであり、固着していた塩化ナトリウム微粒子の平均径に対応するものであった。また、その細孔の深さは、先述の、塩化ナトリウム微粒子の粒子1個分の厚さの層に対応する深さであった。また、この表面多孔化繊維の繊維強度を測定すると6.5g/デシテックスであった。
また、この表面多孔化繊維に捲縮処理を行い、長さ51mmにカットしたステープル繊維を作製して、カード機にかけて開繊処理を行い、繊維ウエブを形成したところ、繊維の糸切れは実質的に生ぜず良好な繊維ウエブからなる繊維シートを得ることができた。
【0067】
(比較例1)
特開平5−125667号公報(引用文献1)に記載のポリプロピレン系多孔質繊維の製造方法に準じて、ポリプロピレン樹脂(融点=160℃)と、パラフィンワックスとを溶融下で混合し、この混合物を押出機に投入して溶融紡糸して未延伸繊維を得、次いで、この未延伸繊維を延伸し、次いで、熱処理を施した後、パラフィンワックスを抽出除去することにより、フィラメント状のポリプロピレン系多孔質繊維(繊度=4.2デシテックス)を得た。
このフィラメント状のポリプロピレン系多孔質繊維は、細孔が繊維断面において広くなったり狭くなったりを繰り返しながら、あたかもへちまの孔のような形態で表面から内部まで連なった細孔を形成していた。また、この多孔質繊維の繊維強度を測定すると1.5g/デシテックスであった。
次に、このフィラメント状のポリプロピレン系多孔質繊維に捲縮処理を行い、長さ51mmにカットしたステープル繊維を作製して、カード機にかけて開繊処理を行い、繊維ウエブを形成しようとしたところ、繊維の糸切れが激しくて、カードに詰まったり、あるいは、ほとんどカードを通過することができず、繊維ウエブを形成することが困難であった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の表面多孔化繊維叉は表面多孔化繊維シートの製造方法に用いる装置の一態様を模式的に示す概略図である。
【図2】本発明の一実施例による表面多孔化繊維の走査型電子顕微鏡による写真である。(拡大倍率=2000倍)
【図3】図2の表面多孔化繊維を得る前の中間作製物である、固体粒子担持繊維の走査型電子顕微鏡による写真である。(拡大倍率=2000倍)
【図4】本発明の表面多孔化繊維が有する細孔の一態様を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
11・・・ブロワー;12・・・加熱管;
21・・・供給容器;22・・・供給制御ロータ;23・・・供給管;
29・・・固体粒子;
30・・・粒子混合手段;41・・・ノズル;
50、51、52・・・加熱手段;
60、61、62・・・補助加熱手段;
70・・・ロール叉は繊維支持手段;
70’・・・ロール叉は繊維シート支持手段;
80・・・繊維;80’繊維シート;
90・・・固着処理室;91・・・室内加熱手段
92・・・粒子回収ボックス;
93・・・空気を吹き飛ばす方式の粒子回収手段
100・・・繊維
101・・・細孔
102・・・繊維表面
103・・・開孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維の表面のみに、細孔が形成されている表面多孔化繊維であって、前記熱可塑性樹脂はポリオレフィンまたはポリアミドを含む1種類以上の熱可塑性樹脂からなることを特徴とする表面多孔化繊維。
【請求項2】
前記細孔の開孔部の形状が略円形であるか又は略多角形であり、前記開孔部の平均径が0.1〜10μmである、請求項1に記載の表面多孔化繊維。
【請求項3】
前記細孔の平均深さが0.1〜10μmである、請求項1又は2に記載の表面多孔化繊維。
【請求項4】
前記細孔の個数が繊維の表面100μmあたり10〜1000個である、請求項1〜3の何れかに記載の表面多孔化繊維。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の表面多孔化繊維を含む、表面多孔化繊維シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−121265(P2010−121265A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21135(P2010−21135)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【分割の表示】特願2008−31562(P2008−31562)の分割
【原出願日】平成14年9月26日(2002.9.26)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】