説明

表面平坦化方法

【課題】光学素子の表面粗さを更に低減可能となり、光学素子の表面形状に依存することなくその表面を平坦化させるのに好適な表面平坦化方法を提供する。
【解決手段】光学素子構造体3表面に形成された凸部51を平坦化する表面平坦化方法において、塩素系ガスが導入されてなるチャンバ11内に上記光学素子構造体3を配置し、上記塩素系ガスのガス分子の吸収端波長よりも長波長からなる光を上記光学素子構造体3に照射することによって、当該光学素子構造体3表面の凸部51の局所領域に近接場光を発生させ、上記凸部51の局所領域に発生した近接場光に基づき、上記塩素系ガスを解離させて活性種を生成させ、当該生成された活性種と上記凸部とを化学反応させて反応生成物を生成させることによって、上記凸部51をエッチングすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の表面を平坦化するのに好適な表面平坦化方法並びにこれを用いた光学素子の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、合成石英、BK7(ホウケイ酸塩クラウンガラス)等を用いたレンズ、反射鏡、窓板、偏光素子等の光学素子の平坦化方法としては、例えば、特許文献1に示されるような研磨方法が提案されている。この研磨方法においては、固定砥粒工具とレンズホルダーとを少なくとも有する加工装置を用いており、このレンズホルダーに光学素子であるレンズを保持させ、保持させたレンズを固定砥粒工具の加工面に当接させたまま、固定砥粒工具を回転モーターによって所定の回転数をもって回転駆動させ、レンズを固定砥粒工具の加工面上を円弧状に揺動させながら、レンズ表面の研磨を行っている。この場合において、通常、レンズと固定砥粒工具との間には、適宜研磨液がノズル等を介して導入されることになる。
【特許文献1】特開2001−198784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年においては、核融合用レーザー等の超高出力レーザーの需要が増大している。このような超高出力レーザー装置内においても、レンズ、反射鏡等の光学素子が使用されている。これら超高出力レーザー装置内において使用される光学素子は、その表面や内部を通過するレーザー光の強力な電界によって、光学素子を構成する物質が破壊され易い。特に、このような超高出力レーザー光によってレーザー損傷が一反発生してしまうと、この損傷箇所から更にレーザー損傷が拡大することになる。このため、今後その需要の増大が望まれる超高出力レーザー装置を実用可能なものとするためには、優れたレーザー耐性を備えた光学素子が要求される。そして、このような光学素子のレーザー耐性は、光学素子の表面粗さが影響していると考えられている。
【0004】
ここで、上述の特許文献1に示すような、現在提案されている光学素子の表面平坦化方法は、レンズ表面を固定砥粒工具や研磨液等を用いて物理的に研磨することによってその表面を平坦化しているため、固定砥粒工具表面や研磨液の物理的な寸法より小さな凹凸までの研磨を施すことができなかった。また、上述のような研磨液を導入することによって行なわれる研磨では、研磨工程の進行に伴い、研磨液が凝集、固体化等されてしまい粗大粒子を形成し、これによって光学素子表面に引っ掻き疵(スクラッチ)を形成し、微細な凹凸が光学素子表面に残存してしまっていた。また、物理的な研磨を用いて平坦化を行う場合、研磨の対象となる材料や板厚に応じて最適な研磨条件に条件だしをする必要があるが、現実的には凹凸が最小となる条件を探すことが不可能であり、加工の条件出しが非常に困難であった。
【0005】
このため、従来において提案されている物理的な研磨による表面平坦化方法によっては、優れたレーザー耐性を有する光学素子が得られにくくなっているため、物理的な研磨以外に方法によって光学素子の表面に平坦化を施すことを可能とする平坦化方法の提案が望まれていた。
【0006】
特に、現在において提案されている表面平坦化方法では、光学素子の形状によっては、光学素子の表面に対して研磨を施すこと自体が困難な場合が多くあり、光学素子の表面形状にとらわれることなく、その表面を平坦化可能とする技術が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されてものであり、その目的とするところは、従来から提案されている光学素子の表面平坦化方法と比較して表面粗さを更に低減可能となり、光学素子の表面形状に依存することなくその表面を平坦化させるのに好適に用いられる表面平坦化方法を提供することを目的とする。また、本発明が目的とするところは、レーザー耐性に優れた光学素子を作製可能な光学素子の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述した課題を解決するために、塩素系ガスが導入されてなるチャンバ内に上記光学素子を配置し、上記塩素系ガスのガス分子の吸収端波長よりも長波長からなる光を上記凸部に照射することによって、当該凸部の局所領域に近接場光を発生させ、上記凸部の局所領域に発生した近接場光に基づき、非共鳴過程を経て上記塩素系ガスを解離させて活性種を生成させ、当該生成された活性種と上記凸部とを化学反応させて反応生成物を生成させることによって、上記凸部をエッチングすることを特徴とする表面平坦化方法を発明した。
【0009】
即ち、本願請求項1に係る発明は、光学素子構造体表面に形成された凸部を平坦化する表面平坦化方法において、塩素系ガスが導入されてなるチャンバ内に上記光学素子構造体を配置し、上記塩素系ガスのガス分子の吸収端波長よりも長波長からなる光を上記光学素子構造体に照射することによって、当該光学素子構造体表面の凸部の局所領域に近接場光を発生させ、上記凸部の局所領域に発生した近接場光に基づき、上記塩素系ガスを解離させて活性種を生成させ、当該生成された活性種と上記凸部とを化学反応させて反応生成物を生成させることによって、上記凸部をエッチングすることを特徴とする。
【0010】
本願請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、上記チャンバ内の塩素系ガスのガス分子の分圧を1×10−5Pa以上とすることを特徴とする。
【0011】
本願請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、上記照射される光のエネルギー密度が1μJ/cm以上であることを特徴とする。
【0012】
本願請求項4に係る発明は、光学素子構造体表面に形成された凸部を平坦化する工程を有する光学素子の作製方法において、塩素系ガスが導入されてなるチャンバ内に上記光学素子構造体を配置し、上記塩素系ガスのガス分子の吸収端波長よりも長波長からなる光を上記光学素子構造体に照射することによって、当該光学素子構造体表面の凸部の局所領域に近接場光を発生させ、上記凸部の局所領域に発生した近接場光に基づき、非共鳴過程を経て上記塩素系ガスを解離させて活性種を生成させ、当該生成された活性種と上記凸部とを化学反応させて反応生成物を生成させることによって、上記凸部を除去することを特徴とする光学素子の作製方法である。
【0013】
本願請求項5に係る発明は、請求項4に係る発明において、上記チャンバ内の塩素系ガスのガス分子の分圧を1×10−5Pa以上とすることを特徴とする。
【0014】
本願請求項6に係る発明は、請求項4又は5に係る発明において、上記照射される光のエネルギー密度が1μJ/cm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本願請求項1に係る発明によれば、物理研磨によって取り除くことが困難であったサイズの凸部を、装置内にガスを導入し、光を照射すると言う簡単な工程によって平坦化することが可能となっている。特に、ガスの導入、光の照射のみによって、反応が自動的に進行するため、平坦化を施そうとする光学素子構造体の表面形状によって装置内の各種要素の特別の制御をする必要無く、その表面を平坦化することが可能となる。また、本願請求項1に係る発明によって、光学素子構造体の表面の表面粗さを光の照射範囲全体で均一にしつつ、更に表面粗さを低減させる平坦化を施すことが可能となる。
【0016】
本願請求項4に係る発明によれば、物理研磨によって取り除くことが困難であったサイズの凸部を平坦化することが可能となっており、物理研磨することによって得られた光学素子と比較してその表面粗さが低減されていることから、従来から提案されている光学素子と比較して優れたレーザー耐性を有する光学素子を得ることが可能となっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
まず、本発明を適用した表面平坦化方法の対象となる光学素子について説明する。
【0019】
本発明の対象となる光学素子は、例えば、レンズ、ミラー、プリズム、基板、ビームスプリッタ、偏光素子として用いられるものである。
【0020】
本発明における光学素子は、例えば、図1に模式的に示す形状のような、光学素子構造体3A〜3Eによって具体化される。光学素子構造体3Aは、図1(a)、(b)に示されるように、その表面31、裏面32ともに平坦な形状から構成される、いわゆる平行平面基板とよばれる光学素子である。光学素子構造体3B、3Cは、図1(c)〜(f)に示すように、その表面に凹曲面33や凸曲面34を有するレンズであり、裏面32は平坦な形状から構成される。このように、本発明の対象となる光学素子は、その表面が平坦な形状からなる光学素子構造体3Aや、その表面が所定の曲率をもって湾曲してなる光学素子構造体3B、C等が含まれるものであるが、図示される形状に限定されるものではない。また、本発明の対象となる光学素子構造体は、その大きさに限定されるものではない。
【0021】
光学素子構造体3の材質は、例えば、BK7等のクラウンガラス、F2等のフリントガラスのような光学ガラスであったり、合成石英、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、フッ化バリウム、岩塩(NaCl)、ゲルマニウム(Ge)、サファイア、ジンクセレン(ZnSe)のような光学結晶等によって具体化される。
【0022】
これらの光学素子構造体3には、図2に模式的に示すような凸部51がその表面に形成されている。この凸部51は、物理研磨等を施した後に、光学素子構造体3表面に残存しているものであって、数nm〜数μmの大きさから構成されている。
【0023】
次に、本発明を適用した表面平坦化方法において用いられる表面平坦化装置1について説明する。
【0024】
表面平坦化装置1は、図3に概略的に示すような構成からなる。この表面平坦化装置1は、チャンバ11と、チャンバ11内のステージ13と、チャンバ11内にガスを供給するためのガス供給部17と、チャンバ11内に光を照射するための光源14とを備えている。また、この表面平坦化装置1は、光の形状や偏光方向を制御可能とする照明光学系16と、光源14から射出される光を照明光学系16に反射する反射ミラー15と、チャンバ11内に光を導入するための開口窓18と、チャンバ11内のガス等を排気する排気口19とを備えている。
【0025】
チャンバ11内には、ガス供給部17から塩素系ガスと不活性ガスとを混合してなる混合ガスが、所定の圧力となるように随時供給されている。この塩素系ガスは、凸部51を有する光学素子構造体3を平坦化するためにチャンバ11内に導入されるものであり、例えば、Cl(塩素)、BCl(三塩化ホウ素)、CCl(四塩化炭素)等によって具体化される。また、不活性ガスは、N2,He,Ar,Kr,Xe等の何れか一種または二種以上を混合してなるガスによって具体化される。なお、塩素系ガスを適用した理由は、塩素系ガスのガス分子の長波側の吸収端波長が可視広域の帯域にあり、後述するように光源からこの吸収端波長より長波長からなる光を照射する際に、光源14として安価な可視光域のランプや白色光源を用いることができるためである。
【0026】
ステージ13は、光学素子構造体3を載置するための図示しない載置部や、光学素子構造体3を加熱するための図示しない加熱機構が設けられており、これによって、光学素子構造体3上で塩素系ガスをエッチングさせる場合において、エッチング反応速度をコントロールできる。なお、ステージ13は、光学素子構造体3の位置を高精度に調整するための図示しない高精度ステージ機構等が設けられていてもよい。
【0027】
光源14は、図示しない駆動電源による制御に基づき、所定の波長を有する光を射出するものである。この光源14からは、以下に詳細に説明するように、塩素系ガスのガス分子の吸収端波長よりも長波長からなる光が射出される。この光源1は、例えば、レーザーダイオード等によって具体化される。
【0028】
照明光学系16は、図示しない偏光レンズや集束レンズ等を備えて具体化される。これによって、光学素子構造体3の表面の凸部51の位置、大きさ、範囲等に応じて、ビーム径やビーム形状を制御し、光を照射する範囲を絞ることができる。
【0029】
次に、本発明を適用した平坦化方法における各種条件について説明する。
【0030】
まず、上述した表面平坦化装置1の光源14から出射される光の波長について説明する。
【0031】
図4は、チャンバ11内に導入された塩素系ガスのガス分子の原子核間距離に対するポテンシャルエネルギーの関係について示している。通常、チャンバ11内に導入された塩素系ガスのガス分子に対して、基底準位と励起準位とのエネルギー差Ea以上の光子エネルギーをもつ光、即ち、ガス分子の吸収端波長よりも短波長からなる光(以下、この光を共鳴光という。)を照射すると、このガス分子は、励起準位へ直接励起される。この励起準位は、解離エネルギーEbを超えているため、矢印で示される方向へガス分子を光解離させて活性種が生成される。
【0032】
本発明においては、上述のようなガス分子に対して共鳴光を照射して、ガス分子を励起準位にまで直接的に励起させてから解離させる共鳴過程ではなく、ガス分子の吸収端波長よりも長波長である光(以下、この光を非共鳴光という。)を、近接場光として当該ガス分子に対して照射した場合に発生する非共鳴過程を利用して、基板表面の平坦化を行なう。
【0033】
伝搬光である非共鳴光を照射した場合、通常、ガス分子は励起準位へ励起されないが、近接場光である非共鳴光を照射した場合、このガス分子は、非共鳴過程を経て活性種等へと解離可能となる。この非共鳴過程とは、図5に示すような、過程T1、過程T2、過程T3に分類される。過程T1は、ガス分子が複数の分子振動準位を介して励起され(多段階遷移)、その結果、励起準位にまで励起された後に、活性種等に解離される過程のことをいう。また、過程T2は、ガス分子の解離エネルギーEb以上の光エネルギーをもつ光(以下、S1モードという)を照射した場合に、ガス分子が解離エネルギー以上のエネルギー準位の分子振動準位にまで励起され、その結果、活性種等に直接的に解離される過程のことをいう。また、過程T3は、ガス分子のEb以下の光エネルギーを持つ光(以下、S2モードという)を照射した場合に、ガス分子が複数の分子軌道準位を介して励起され(多段階遷移)、Ea未満Eb以上の分子振動準位にまで励起された後に、活性種等に解離される過程のことをいう。
【0034】
このように、近接場光である非共鳴光を照射した場合に、非共鳴過程が発生するのは、近接場光をガス分子に対して照射した場合に、ガス分子を分子振動準位にまで直接的に励起可能となることによる。
【0035】
即ち、伝搬光を使った通常の光解離では、伝搬光の電場強度が分子サイズの空間内において均一な分布であるため、ガス分子を構成する原子核や電子のうち軽い電子のみが光に対して反応するが、原子核間距離を変化させることができない。これに対して、近接場光を使った光解離では、近接場光の電場強度が分子サイズの空間内において変位が激しく、不均一な分布となっている。このため、近接場光を使った場合は、ガス分子の電子のみならず、原子核も反応し、原子核間距離を周期的に変化させることが可能となり、分子の振動準位への直接的な励起を生じさせることが可能となる(非断熱化学反応)。
【0036】
なお、ここでいう近接場光とは、約1μm以下の大きさからなる物体の表面に伝搬光を照射した場合に、その物体の表面にまとわりついて局在する非伝搬光のことをいう。この近接場光は、非常に強い電場成分を有しているが、物体の表面から遠ざかるにつれてその電場成分が急激に減少する性質をもっている。この非常に強い電場成分が見られる物体表面からの厚みは、その物体の寸法に依存しており、その物体の寸法と同程度の厚みからなる。本発明における局所領域とは、このような非常に強い電場成分が見られる物体表面の局所的な領域のことをいうものとし、例えば、図2における光学素子構造体3表面の微小な凸部51先端のエッジ部分のことをいう。
【0037】
また、本発明において、光源14から光学素子構造体3に照射される光の波長は、10μm以下とするのが好ましい。この光の波長が10μm超であると、ガス分子の振動準位への直接的な励起が生じにくく、近接場光によるエッチングレートが低減するためである。
【0038】
また、本発明において、チャンバ11内に導入される塩素系ガスのガス分子の分圧は、少なくとも1×10−5Pa以上とするのが望ましい。チャンバ11内の塩素系ガスのガス分子の分圧が1×10−5Pa未満であると、光学素子構造体3表面の凸部51近傍の空間内に、エッチング反応を起こすために必要となる塩素系ガスのガス分子が行き届かず、これによって、凸部51に近接場光が発生したとしてもエッチング反応が進行しにくくなるためである。なお、チャンバ11内に導入される塩素系ガスのガス分子の分圧は、あまりに低すぎるとエッチングレートが低くなり、平坦化の完了までに多大な時間を要することになるので、100Pa以上とするのが一層望ましい。これによって、光学素子構造体3表面の凸部51近傍の空間内に、エッチング反応を起こすために必要となる塩素系ガスのガス分子が十分量行き届き、短時間で平坦化工程を完了することが可能となる。なお、塩素系ガスのガス分子の分圧の測定は、図示しないマスフィルタのような分圧計を利用して行うことになるが、特にその測定装置を限定するものではない。
【0039】
また、本発明においては、光学素子構造体3に対して照射される光のエネルギー密度を少なくとも1μJ/cm以上とすること望ましい。これは、エネルギー密度が1μ未満であると、近接場光によるエッチング反応が進行しにくくなり、十分に光学素子構造体3表面の平坦化を進行させにくくなるためである。なお、照射される光のエネルギー密度は、あまりに低すぎるとエッチングレートが低くなり、平坦化の完了までに多大な時間を要することになるため、100J/cmとすることが一層望ましい。
【0040】
なお、チャンバ11内に導入されるガス分子の圧力や、照射する光のエネルギー密度を増加させるにつれて、光の照射時間を低減可能となり、光学素子構造体の平坦化に要する作業時間を低減させることが可能となる。
【0041】
次に本発明を適用した表面平坦化方法を含む光学素子の作製方法の工程について説明する。
【0042】
まずは、表面平坦化を施そうとする光学素子構造体3を準備する。この場合、プレスモールド成形、射出圧縮成形等の種々の成形法によって得られた光学素子構造体3に対して、いわゆる荒ずり工程、砂かけ工程、研磨工程を施し、その後に本発明の表面平坦化方法を施すようにしてもよい。また、この他にも、新規に作製された光学素子構造体3ではなく、既存の光学素子構造体3に対して平坦化を施すようにしてもよい。
【0043】
次に、図3に示すように、チャンバ11内のステージ13上に光学素子構造体3を配置する。この場合において、チャンバ11内にガス供給部17から予め塩素系ガスが導入されていてもよいし、光学素子構造体3の配置後に塩素系ガスを導入してもよい。
【0044】
次に、図6(a)に示すように、光源14から、反射ミラー15等を介して光学素子構造体3に対して光を照射する。これによって、凸部51の局所領域において、近接場光が発生する。この場合、照射する光が非共鳴光であるため、塩素系ガスは、近接場光の発生しない光学素子構造体3表面の平坦な箇所では反応せず、また、凸部51先端の近接場領域に対して比較的弱い近接場領域が発生する各凸部51間の凹部においても、反応が進行しにくく、近接場光の発生している凸部51の局所領域においてのみ反応が進行することになる。
【0045】
この場合、図7に示すように、塩素系ガスG10は、上述したような非共鳴過程を経て解離されて、活性種G11を生成し、この活性種G11と凸部51の原子、分子21aとが化学反応し、これによって、揮発性を有する反応生成物G12が生成される。この反応生成物G12は、排気口19に接続された、図示しない真空ポンプによってチャンバ11外に排出される。
【0046】
反応の進行に伴って凸部51は、その寸法が徐々に微細化される。これによって、図6(b)に示すように、光学素子構造体3は、平坦化を施す前より、表面粗さが低減されることになる。このエッチング反応は、凸部51が、その周囲の光学素子構造体3表面の他の原子層と略同一レベルになった時点、即ち、凸部51がほぼ完全に除去された時点で、近接場光の発生する領域も消滅し、これによって、自己組織的に平坦化工程が終了することになる。しかし、照射している光の出力密度によっては、反応が完了するまでに多大な時間を要する場合もあるので、この場合は、所望の表面粗さが得られた時点で、適宜表面平坦化の工程を終了することになる。
【0047】
このように、本発明を適用した表面平坦化方法によれば、物理研磨によって取り除くことが困難であったサイズの凸部を、装置内にガスを導入し、光を照射するという簡単な工程によって平坦化することが可能となっている。特に、ガスの導入、光の照射のみによって、反応が自動的に進行するため、平坦化を施そうとする光学素子構造体の表面形状によって装置内の各種要素の特別の制御をする必要なく、その表面を平坦化することが可能となる。このため、従来において物理研磨を精度よく施すことが困難であった、光学素子構造体3Bや3Cのような、表面が湾曲した形状の凹曲面33や凸曲面34に対しても、塩素系ガス雰囲気中でこれら曲面等に光を照射するのみという簡単な工程によって、特別の制御することなく平坦化が可能となる。
【0048】
なお、この表面平坦化装置1は、例えば、光CVD(Chemical Vapor Deposition)装置、スパッタリング装置、光励起エッチング装置、反応性イオンエッチング装置、誘導結合プラズマエッチング装置等に用いられているガス供給部17や、光源14、チャンバ11等をそのまま利用することによって具体化されていてもよい。この場合、光CVD装置の光源の波長のみを変化させるのみによって本発明を適用した表面平坦化方法を実現可能となる。なお、光源の波長を変化させる場合、光源から白色光を射出させ、開口窓18等においてカラーフィルターを通過させるようにして、単色光を照射するようにしてもよい。
【0049】
また、凸部51は、その大きさが1mm以上である等、あまりに大きすぎる場合は、反応に要する時間が膨大になる。このため、この場合は、予め物理研磨を施しておき、ある程度光学素子構造体3表面を研磨しておき、この後の仕上げ加工として、本発明を適用するようにしてもよい。
【実施例1】
【0050】
予め酸化セリウム等を含有する研磨剤によって物理研磨が施された合成石英からなる光学素子構造体3Aをチャンバ11内のステージ13上に配置し、光学素子構造体3Aに対して、光源14から波長532nmの光を出力密度20mW/cm2となるように照射した。ガス供給部17からチャンバ11内に塩素ガスを供給し、チャンバ11内の塩素ガスのガス分子の分圧が100Paとなるようにした。所定の時間に亘って光を照射した後、光学素子構造体3Aに対して周波数40kHz、洗浄時間5minで超音波洗浄を施した後、光学素子構造体3A表面の形状を原子間力顕微鏡により数点に亘って観察した。得られた光学素子構造体3Aの表面形状について、JIS B 0601に基づき評価し、これを表面粗さRaとした。
【0051】
図8〜図10は、それぞれ光の照射時間を60min、90min、120minと変化させた場合に得られた、各測定領域ごとの表面粗さを示している。四角形記号で示される値が平坦化を施す前の表面粗さ、円形記号で示される値が平坦化を施した後の表面粗さを示している。
【0052】
光の照射時間を60minとした場合、平坦化を施す前の表面粗さの各測定領域での平均値は2.391Åで、平坦化を施した後の表面粗さの各測定領域での平均値は2.229Åであり、0.246Åの表面粗さの低減が確認された。
【0053】
光の照射時間を90minとした場合、平坦化を施す前の表面粗さの各測定領域での平均値は3.131Åで、平坦化を施した後の表面粗さの各測定領域での平均値は2.391Åであり、0.740Åの表面粗さの低減が確認された。
【0054】
光の照射時間を120minとした場合、平坦化を施す前の表面粗さの各測定領域での平均値は2.719Åで、平坦化を施した後の表面粗さの各測定領域での平均値は2.374Åであり、0.345Åの表面粗さの低減が確認された。
【0055】
特に、何れの場合においても、平坦化を施す前には、測定領域によっては表面粗さのばらつきがみられていたが、平坦化を施した後には、このばらつきが解消されることとなった。即ち、本発明を適用することにより、光学素子構造体3の表面の表面粗さを光の照射範囲全体で均一にしつつ、更に表面粗さを低減させる平坦化を施すことが可能となることが確認された。
【0056】
なお、図8〜図10に示される実験条件のうち、チャンバ内の塩素ガスのガス分子の分圧のみを2Paに変化させ、光の照射時間を60分として試験を行ったところ、1×10−1Å程度の表面粗さの低減は確認されなかったが、光の照射時間を更に長くすれば原理的には1×10−1Å程度の表面粗さを低減可能になるものと考えられる。
【0057】
図11は、波長、出力密度、ガス圧力、雰囲気ガスの種類を上記と同様の条件としたうえで、光の照射時間を変化させてエネルギー密度を変化させ、異なるエネルギー密度ごとに得られた表面粗さ低減量の値を示している。なお、ここでいう表面粗さ低減量とは、本発明を適用した表面平坦化方法を施す前の光学素子構造体の表面粗さの値から、表面平坦化方法を施した後の光学素子構造体の表面粗さの値を減じたものをいう。
【0058】
図11に示されるように、エネルギー密度の増加に伴い、表面粗さがより低減されており、更にエネルギー密度が100J/cm以上の場合には、確実に光学素子構造体の表面粗さが低減されていることが確認される。エネルギー密度の増大に伴い、表面粗さがより低減される傾向にあることから、例えばエネルギー密度700J/cmとなるように光源から光を照射した場合、表面粗さ低減量が2Å前後になるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の適用の対象となる光学素子について説明するための図であり、(a)は光学素子構造体3Aの平面図、(b)はそのA−A線断面図、(c)は光学素子構造体3Bの平面図、(d)はそのB−B線断面図、(e)は光学素子構造体3Cの平面図、(f)はそのC−C線断面図である。
【図2】光学素子構造体の表面の形状について説明するための図である。
【図3】本発明を実現するために用いられる表面平坦化装置の構成を示す概略構成図である。
【図4】共鳴光及び非共鳴光について説明するための図である。
【図5】非共鳴過程について説明するための図である。
【図6】光学素子構造体の表面を平坦化する工程について説明するための図である。
【図7】凸部の局所領域で発生する反応について説明するための図である。
【図8】本発明を適用した表面平坦化方法によって、照射時間を60minとして平坦化された光学素子構造体の表面粗さについて示す図である。
【図9】本発明を適用した表面平坦化方法によって、照射時間を90minとして平坦化された光学素子構造体の表面粗さについて示す図である。
【図10】本発明を適用した表面平坦化方法によって、照射時間を120minとして平坦化された光学素子構造体の表面粗さについて示す図である。
【図11】エネルギー密度に対する表面粗さ低減量の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 表面平坦化装置
3 光学素子構造体
11 チャンバ
13 ステージ
14 光源
15 反射ミラー
16 照明光学系
17 ガス供給部
18 開口窓
19 排気口
51 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子構造体表面に形成された凸部を平坦化する表面平坦化方法において、
塩素系ガスが導入されてなるチャンバ内に上記光学素子構造体を配置し、
上記塩素系ガスのガス分子の吸収端波長よりも長波長からなる光を上記光学素子構造体に照射することによって、当該光学素子構造体表面の凸部の局所領域に近接場光を発生させ、
上記凸部の局所領域に発生した近接場光に基づき、上記塩素系ガスを解離させて活性種を生成させ、
当該生成された活性種と上記凸部とを化学反応させて反応生成物を生成させることによって、上記凸部をエッチングすること
を特徴とする表面平坦化方法。
【請求項2】
上記チャンバ内の塩素系ガスのガス分子の分圧を1×10−5Pa以上とすること
を特徴とする請求項1記載の表面平坦化方法。
【請求項3】
上記照射される光のエネルギー密度が1μJ/cm以上であること
を特徴とする請求項1又は2記載の表面平坦化方法。
【請求項4】
光学素子構造体表面に形成された凸部を平坦化する工程を有する光学素子の作製方法において、
塩素系ガスが導入されてなるチャンバ内に上記光学素子構造体を配置し、
上記塩素系ガスのガス分子の吸収端波長よりも長波長からなる光を上記光学素子構造体に照射することによって、当該光学素子構造体表面の凸部の局所領域に近接場光を発生させ、
上記凸部の局所領域に発生した近接場光に基づき、上記塩素系ガスを解離させて活性種を生成させ、
当該生成された活性種と上記凸部とを化学反応させて反応生成物を生成させることによって、上記凸部を除去すること
を特徴とする光学素子の作製方法。
【請求項5】
上記チャンバ内の塩素系ガスのガス分子の分圧を1×10−5Pa以上とすること
を特徴とする請求項4記載の光学素子の作製方法。
【請求項6】
上記照射される光のエネルギー密度が1μJ/cm以上であること
を特徴とする請求項4又は5記載の光学素子の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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