説明

表面改質溶接方法およびその装置

【課題】攪拌力を所定の周波数で所定の照準位置範囲に付与することにより、凝固方向が断続的に変化した微細な凝固組織を形成し、構造材料表面の耐食性を向上させ、応力腐食割れの発生を効率的に抑制する。
【解決手段】オーステナイト系金属または合金のアーク溶接の際に生成する溶融池に対して攪拌溶接をおこなう表面改質溶接方法において、コイル11から生じる1〜20Hzの磁束中心12を、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向の後方0〜15mm、かつアーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲14内の一点あるいは複数の点に入射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造材料の表面改質溶接方法およびその装置に関し、特に、攪拌溶接を用いた原子力発電プラント構造材料の表面改質溶接方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軽水炉発電プラントでは、炉心部の冷却・熱交換に水が用いられている。この冷却水は、炉心部における放射線分解のため溶存酸素を含んでいる上に、高温・高圧であるため、この炉心冷却水に接して使用される原子力プラントの配管、原子炉内構造物は、高い耐腐食性が要求される。そのため原子炉内で用いられる構造部品には、従来から、耐腐食性の高い材料が用いられてきた。
【0003】
例えば、原子炉圧力容器は、その炉水接液部が耐腐食性合金であるステンレス鋼やニッケル基合金の溶接金属によってクラッドされ、鉄基の低合金鋼である圧力容器本体の腐食が抑制されている。しかしながら、耐食合金であるステンレス鋼やニッケル基合金においても、耐腐食性に差異があることが知られており、き裂状の欠陥が生じた例が報告されている。
【0004】
これらのき裂状の欠陥の多くは応力腐食割れや疲労によることが多いことが知られており、これらの欠陥は、欠陥部を研削によって除去した後、除去部を溶接金属によって埋め、補修されることが多い。しかし、これらの補修工事には長い工期を要する場合が多く、その間原子力発電プラントは停止を余儀なくされるため、設備利用率を低下させる要因となる。
【0005】
そこで、き裂状の損傷の報告例が多いことが知られている溶接部の改質を行い、き裂状の損傷に対する耐性を高めることが求められている。き裂状の損傷のうち大半を占める応力腐食割れの場合、ニッケル基合金製の構造物では、溶接金属部のほうがき裂発生の感受性が高いことが知られている。そのため、溶接金属部にき裂が発生した場合においても、その進展速度を抑制する溶接部の改質をあらかじめ施しておくことで、部品としての寿命を担保する技術の開発が進められている。
【0006】
例えば、特許文献1には、溶接部の改質技術として摩擦攪拌接合技術を利用することが提案されている。この攪拌接合技術は、図8に示すように、金属基材1表面に耐食性材料4からなる回転治具2を接触させて回転させて摩擦攪拌を実施し、金属基材1表面に耐食性材料4からなる肉盛層3を形成することにより金属基材1表面の耐食性を向上させ、応力腐食割れの発生を抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−229721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した溶接部の改質技術として摩擦攪拌接合技術を用いた場合、環境によっては溶融金属が凝固する過程で凝固方向が一方向に偏り、また、凝固組織も粗いものとなって、応力腐食割れの発生を十分に抑制することができない場合があった。
【0009】
一方、溶接部の改質技術として磁気撹拌溶接を適用して、溶接金属組織をき裂進展抵抗性の高いものとする技術の開発が行われているが、溶接条件と付加する電磁気の条件によっては、十分な改質効果が得ることができない場合があり、溶接条件や付加電磁気条件についてより裕度のある施工技術の開発が望まれている。
【0010】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、改質部に対し電磁気または振動により撹拌力を効率的に付加することによって、構造材料表面の耐食性を向上させ、応力腐食割れの発生を効率的に抑制することができる溶接部の表面改質溶接方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の表面改質溶接方法は、オーステナイト系金属または合金のアーク溶接の際に生成する溶融池に対して攪拌溶接をおこなう表面改質溶接方法において、コイルから生じる1〜20Hzの磁束中心を、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向の後方0〜15mm、かつアーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に入射することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の表面改質溶接方法は、オーステナイト系金属または合金のアーク溶接の際に生成する溶融池に対して攪拌溶接をおこなう表面改質溶接方法において、周波数が1〜20Hzのパルスレーザを、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向の後方0〜15mm、かつアーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に入射することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の表面改質溶接方法は、オーステナイト系金属または合金のアーク溶接の際に生成する溶融池に対して攪拌溶接をおこなう表面改質溶接方法において、周波数が1〜20Hzの加振ヘッドを、被溶接面と同一面あるいはその裏面から、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向の後方5〜15mm、かつアーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に接触させることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の表面改質溶接方法は、オーステナイト系金属または合金の高周波加熱面に磁気攪拌溶接をおこなう表面改質溶接方法において、被改質面の表面温度を900℃以上に加熱した状態で、コイルから生じる1〜20Hzの磁束中心を、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向の後方0〜15mm、かつアーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に入射することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の表面改質溶接方法は、オーステナイト系金属または合金の高周波加熱面に攪拌溶接をおこなう表面改質溶接方法において、被改質面の表面温度を900℃以上に加熱した状態で、周波数が1〜20Hzのパルスレーザを、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向の後方0〜15mm、かつアーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に入射することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の表面改質溶接方法は、オーステナイト系金属または合金の高周波加熱面に攪拌溶接をおこなう表面改質溶接方法において、被改質面の表面温度を900℃以上に加熱した状態で、周波数が1〜20Hzの加振ヘッドを、被溶接面と同一面あるいはその裏面から、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向の後方5〜15mm、かつアーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に接触させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、攪拌力を所定の周波数で所定の照準位置範囲に付与することにより、凝固方向が断続的に変化した微細な凝固組織を形成することができるため、構造材料表面の耐食性を向上させ、応力腐食割れの発生を効率的に抑制することができる構造材料の表面改質溶接方法およびその装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係る磁束中心の照準位置範囲を示す図、(b)は表面改質溶接装置の全体構成図。
【図2】(a)は本発明の第2の実施形態に係るパルスレーザの照準位置範囲を示す図、(b)は表面改質溶接装置の全体構成図。
【図3】(a)は本発明の第3の実施形態に係る加振ヘッドの照準位置範囲を示す図、(b)は表面改質溶接装置の全体構成図。
【図4】(a)は本発明の第4の実施形態に係る表面改質溶接装置の全体構成図、(b)および(c)は攪拌電流とアーク電流のパターンの組合せ例を示す図。
【図5】本発明の第5の実施形態に係る表面改質溶接装置の全体構成図。
【図6】本発明の第6の実施形態に係る表面改質溶接装置の全体構成図。
【図7】本発明の第7の実施形態に係る表面改質溶接装置の全体構成図。
【図8】従来の摩擦撹拌接合の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1を用いて本発明の第1の実施形態を説明する。
【0020】
本第1の実施形態に係る表面改質溶接装置は、交流または交番直流駆動のコイル11、コイル支持金具13、電極15、ワイヤ自動供給装置16、ガスノズル17から構成されている。
【0021】
このように構成された表面改質溶接装置において、アーク溶接を行いながらコイル11からの撹拌力が所定の被溶接面に付与される。ここで、コイル11から生じる周波数が1〜20Hzの磁束中心12を、被溶接面と同一の面から、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向に後方0〜15mmでアーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲14(図1(a))内の一点あるいは複数の点に磁束中心12を入射させる。なお、複数の点に対して磁束中心12を入射させる場合には、磁束を生じさせるコイル11を複数備えたヘッドを用いればよい。
【0022】
この磁束中心の入射により溶接電流と磁束の相互作用によって磁束の及ぶ範囲においてアークの移動方向に対して直交方向のローレンツ力が生じる。このローレンツ力は、溶融部及び非溶融部双方に発生するため、アークによって加熱された溶融池を含む軟化部位はアーク移動方向に対し直交方向の攪拌力を受ける作用を受ける。
【0023】
この結果、凝固過程にある溶融金属の凝固・成長方向が無磁束の場合に比べて変化し、これを交流磁場あるいは交番直流磁場として与えた場合、凝固方向が断続的に変化した微細な凝固組織が形成される。
【0024】
このように、本第1の実施形態によれば、周波数および磁束中心の照準位置範囲を上記のように設定したことにより、凝固方向が断続的に変化した微細な凝固組織を形成することができるため、構造材料表面の耐食性を向上させ、応力腐食割れの発生を効率的に抑制することができる原子力発電プラント、火力発電プラント、化学プラント等の各種プラントに使用される構造材料の表面改質溶接方法およびその装置を提供することができる。
【0025】
なお、上記周波数および照準位置範囲14は種々の実証試験を経て求められたもので、この数値範囲で撹拌力を付与すれば凝固方向が断続的に変化した微細な凝固組織を形成できることを実験的に知見し、それによって、構造材料表面の耐食性を向上させ、応力腐食割れの発生を効率的に抑制することができるという作用効果を確認したものである。
【0026】
また、周波数および照準位置範囲の求め方は以下に記述する第2の実施形態から第7の実施形態に共通するものである。
【0027】
(第2の実施形態)
図2を用いて、本発明の第2の実施形態を説明する。
本第2の実施形態に係る表面改質溶接装置は、パルスレーザ照射ヘッド21、パルスレーザ22、レーザヘッド支持金具23、電極15、ワイヤ自動供給装置16、ガスノズル17から構成される。
【0028】
このように構成された表面改質溶接装置において、第1の実施形態と同様に、アーク溶接を行いながら周波数が1〜20Hzのパルスレーザ22を、被溶接面と同一の面から、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向に後方0〜15mm、アーク移動方向の接線に対して±30°の範囲にあるレーザ照射の照準位置範囲24(図2(a))内の一点あるいは複数の点に入射する。複数の点に対してパルスレーザを入射させる場合には、レーザ照射ヘッドを複数備えればよい。このパルス状レーザの入射により被溶接面に振動が発生する。
【0029】
この結果、凝固過程にある溶融金属の凝固が振動によって断続的となり、無振動の場合に比べて、凝固方向への凝固組織の成長量が微細な凝固組織を形成することができる。
【0030】
このように、本第2の実施形態によれば、パルスレーザの周波数および照射照準位置範囲を上記のように設定したことにより、微細な凝固組織を形成することができるため、構造材料表面の耐食性を向上させ、応力腐食割れの発生を効率的に抑制することができる原子力発電プラント等の各種プラントに使用される構造材料の表面改質溶接方法およびその装置を提供することができる。
【0031】
(第3の実施形態)
図3を用いて、本発明の第3の実施形態を説明する。
本第3の実施形態に係る表面改質溶接装置は、加振シリンダ31、加振ヘッド32、加振ヘッド支持金具33、電極15、ワイヤ自動供給装置16、ガスノズル17から構成される。
【0032】
このように構成された表面改質溶接装置において、アーク溶接を行いながら加振ヘッドを、被溶接面と同一の面から、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向に後方5〜15mm、アーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲34(図3(a))内の一点あるいは複数の点に接触させる。このときの加振ヘッドの振動周波数は1〜20Hzに設定される。この加振ヘッドの接触により被溶接面に振動が発生する。なお、複数の点に対して加振する場合には、振動を生じさせる加振ヘッドを複数備えればよい。
【0033】
この結果、凝固過程にある溶融金属の凝固・成長が振動によって断続的となり、無振動の場合に比べて、凝固方向への凝固組織の成長量が微細となる凝固組織を形成することができる。
【0034】
このように、本第3の実施形態によれば、加振ヘッドの周波数および接触照準位置範囲を上記のように設定したことにより、微細な凝固組織を形成することができるため、構造材料表面の耐食性を向上させ、応力腐食割れの発生を効率的に抑制することができる原子力発電プラント等の各種プラントに使用される構造材料の表面改質溶接方法およびその装置を提供することができる。
【0035】
(第4の実施形態)
図4を用いて、本発明の第4の実施形態を説明する。
本第4の実施形態に係る表面改質溶接装置は、第1の実施形態と同様であるが、図4(b)及び(c)に示すように、アーク電流と励磁電流の組み合わせについて、連続アーク+連続励磁の組み合わせ例43、連続アーク+パルス励磁の組み合わせ例44、パルスアーク+連続励磁の組み合わせ例45、パルスアーク+パルス励磁の組み合わせ例46を用いることに特徴がある。なお、図4(b)及び(c)において実線41はアーク電流を示し、点線42は励磁電流を示している。
【0036】
本実施形態は、アーク電流41を励磁電流42との組み合わせについて説明したものであり、コイルの励磁電流42は、パルスレーザの照射時間あるいは加振ヘッドの駆動時間と読み替えても良い。
【0037】
このように構成された表面改質溶接装置において、アーク溶接を行いながらコイル11からの撹拌力が被溶接面に付与される。ここで、第1の実施形態と同様に、コイル11から生じる1〜20Hzの磁束中心12を、第1の実施形態と同様な照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に入射させる。なお、複数の点に対して磁束中心12を入射させる場合には、磁束を生じさせるコイル11を複数備えたヘッドを用いればよい。
【0038】
この磁束中心の入射により溶接電流と磁束の相互作用によって磁束の及ぶ範囲においてアークの移動方向に対して直交方向のローレンツ力が生じる。このローレンツ力は、溶融部及び非溶融部双方に発生するため、アークによって加熱された溶融池を含む軟化部位はアーク移動方向に対し直交方向の攪拌力を受ける作用を受ける。
【0039】
このとき、図4(b)の組み合わせ例43に示すように溶接アーク電流を連続とし励磁を連続的に行う例、同じく組み合わせ例44に示すようにアーク電流を連続とし励磁をパルス状に行う例、図4(c)の組み合わせ例45に示すようにアーク電流をパルス電流とし励磁を連続で行う例、同じく組み合わせ例46に示すようにアーク電流をパルス電流とし励磁をパルスで行う例、の種々の実施形態が考えられる。各実施形態は、被溶接材料と溶接金属の組み合わせにおける溶接試験によって定められる。
この結果、撹拌電流とアーク電流のパターンを種々変化させることにより、凝固方向が断続的に変化したより微細な凝固組織が形成される。
【0040】
このように、本第4の実施形態によれば、周波数および磁束中心の照準位置範囲を上記のように設定し、かつ、被溶接材料と溶接金属の組み合わせに応じて撹拌電流とアーク電流のパターンを種々変化させることにより、凝固方向が断続的に変化したより微細な凝固組織を形成することができるため、構造材料表面の耐食性を向上させ、応力腐食割れの発生を効率的に抑制することができる原子力発電プラント等の各種プラントに使用される構造材料の表面改質溶接方法およびその装置を提供することができる。
【0041】
(第5の実施形態)
図5を用いて、本発明の第5の実施形態を説明する。
本第5の実施形態に係る表面改質溶接装置は、交流または交番直流コイル11、コイル支持金具13、高周波加熱用コイル55から構成されている。磁束中心12の照準位置範囲14(図1(a))は、第1の実施形態と同様に、被改質部の中心から、被加熱面における加熱面中心に対し加熱部移動方向に対して後方0〜15mm、加熱ヘッド移動方向の接線に対して±30°の範囲である。
【0042】
このように構成された表面改質溶接装置において、加熱用の高周波を被改質面に照射して被改質面の表面温度が被改質金属において900℃以上に加熱した状態で、その加熱範囲に対して、撹拌力を与えるコイルから生じる1〜20Hzの交番磁束の中心を上記照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に入射させる。
【0043】
この磁束の入射により高周波加熱により励起された誘導電流と磁束の相互作用によって磁束の及ぶ範囲において加熱コイルの移動方向に対して直交方向のローレンツ力が生じる。このローレンツ力は、溶融部、非溶融部双方に発生するため、900℃以上に加熱された軟化部は攪拌力によって変形を受ける作用を受ける。
【0044】
この結果、再結晶過程にある被加熱部の結晶方位が無磁束の場合に比べて変化し、交流磁場あるいは交番直流磁場を与えた場合、凝固方向が断続的に変化した微細な凝固組織を形成する効果を得る。
【0045】
このように、本第5の実施形態によれば、周波数および磁束中心の照準位置範囲を上記のように設定したことにより、凝固方向が断続的に変化した微細な凝固組織を形成することができるため、構造材料表面の耐食性を向上させ、応力腐食割れの発生を効率的に抑制することができる。
【0046】
(第6の実施形態)
図6を用いて、本発明の第6の実施形態を説明する。
本第6の実施形態に係る表面改質溶接装置は、パルスレーザ照射ヘッド21、レーザヘッド支持金具23、高周波加熱用コイル55から構成される。パルスレーザ22の照準位置範囲24(図2(a))は、第2の実施形態と同様に、被改質部の中心から、被加熱面における加熱面中心に対し加熱部移動方向に対して後方0〜15mm、加熱ヘッド移動方向の接線に対して±30°の範囲である。
【0047】
このように構成された表面改質溶接装置において、加熱用の高周波を被改質面に照射して被改質面の表面温度が被改質金属において900℃以上に加熱した状態で、上記照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に周波数1〜20Hzのパルス状のレーザによる衝撃波を入射する。
この結果、再結晶過程にある被加熱部の結晶方位が無磁束の場合に比べて変化し、パルスレーザ照射した場合、凝固方向が断続的に変化した微細な凝固組織を形成する効果を得る。
【0048】
このように、本第6の実施形態によれば、パルスレーザの周波数および照射照準位置範囲を上記のように設定したことにより、微細な凝固組織を形成することができるため、構造材料表面の耐食性を向上させ、応力腐食割れの発生を効率的に抑制することができる。
【0049】
(第7の実施形態)
図7を用いて、本発明の第7の実施形態を説明する。
本第7の実施形態に係る表面改質溶接装置は、加振シリンダ31、加振ヘッド32、加振ヘッド支持金具33、高周波加熱用コイル55から構成される。
【0050】
加振ヘッド32の照準位置範囲34(図3(a))は、第3の実施形態と同様に、被改質面と同一の面から、被改質面における改質部に対し移動方向に後方5〜15mm、アーク移動方向の接線に対して±30°の範囲である。
【0051】
このように構成された表面改質溶接装置において、加熱用の高周波を被改質面に照射して被改質面の表面温度が被改質金属において900℃以上に加熱した状態で、加振ヘッドを、上記照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に接触させる。この加振ヘッドの接触により被溶接面に振動を発生させる。このときの加振ヘッドの振動周波数は1〜20Hzに設定される。
この結果、再結晶過程にある被加熱部の結晶方位が無磁束の場合に比べて変化し、加振した場合、凝固方向が断続的に変化した微細な凝固組織を形成する効果を得る。
【0052】
このように、本第7の実施形態によれば、加振ヘッドの周波数および接触照準位置範囲を上記のように設定したことにより、微細な凝固組織を形成することができるため、構造材料表面の耐食性を向上させ、応力腐食割れの発生を効率的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0053】
11…コイル、12…磁束中心、13…コイル支持金具、14…照準位置範囲、15…電極、16…ワイヤ自動供給装置、17…ガスノズル、21…パルスレーザ照射ヘッド、22…パルスレーザ、23…レーザヘッド支持金具、24…照準位置範囲、31…加振シリンダ、32…加振ヘッド、33…加振ヘッド支持金具、34…照準位置範囲、41…アーク電流、42…励磁電流、43…連続アーク+連続励磁の組み合わせ例、44…連続アーク+パルス励磁の組み合わせ例、45…パルスアーク+連続励磁の組み合わせ例、46…パルスアーク+パルス励磁の組み合わせ例、51…高周波加熱用コイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト系金属または合金のアーク溶接の際に生成する溶融池に対して攪拌溶接をおこなう表面改質溶接方法において、
コイルから生じる1〜20Hzの磁束中心を、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向の後方0〜15mm、かつアーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に入射することを特徴とする表面改質溶接方法。
【請求項2】
オーステナイト系金属または合金のアーク溶接の際に生成する溶融池に対して攪拌溶接をおこなう表面改質溶接方法において、
周波数が1〜20Hzのパルスレーザを、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向の後方0〜15mm、かつアーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に入射することを特徴とする表面改質溶接方法。
【請求項3】
オーステナイト系金属または合金のアーク溶接の際に生成する溶融池に対して攪拌溶接をおこなう表面改質溶接方法において、
周波数が1〜20Hzの加振ヘッドを、被溶接面と同一面あるいはその裏面から、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向の後方5〜15mm、かつアーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に接触させることを特徴とする表面改質溶接方法。
【請求項4】
パルス状または連続的にアーク溶接をおこなうとともに、前記攪拌溶接をパルス状または連続的におこなうことを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載の表面改質溶接方法。
【請求項5】
オーステナイト系金属または合金の高周波加熱面に磁気攪拌溶接をおこなう表面改質溶接方法において、
被改質面の表面温度を900℃以上に加熱した状態で、コイルから生じる1〜20Hzの磁束中心を、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向の後方0〜15mm、かつアーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に入射することを特徴とする表面改質溶接方法。
【請求項6】
オーステナイト系金属または合金の高周波加熱面に攪拌溶接をおこなう表面改質溶接方法において、
被改質面の表面温度を900℃以上に加熱した状態で、周波数が1〜20Hzのパルスレーザを、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向の後方0〜15mm、かつアーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に入射することを特徴とする表面改質溶接方法。
【請求項7】
オーステナイト系金属または合金の高周波加熱面に攪拌溶接をおこなう表面改質溶接方法において、
被改質面の表面温度を900℃以上に加熱した状態で、周波数が1〜20Hzの加振ヘッドを、被溶接面と同一面あるいはその裏面から、被溶接面におけるアーク中心に対しアーク移動方向の後方5〜15mm、かつアーク移動方向の接線に対して±30°の照準位置範囲内の一点あるいは複数の点に接触させることを特徴とする表面改質溶接方法。
【請求項8】
請求項1ないし7いずれかに記載の表面改質溶接方法を実施するための表面改質溶接装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate