説明

表面特性測定装置及びコンピュータプログラム

【課題】表面特性測定において対象物体に接触する可能性がなく、異なる方向から照明できる表面特性測定装置の提供。
【解決手段】対象物体を照明する光源と、前記対象物体からの反射光線を光電変換して光検出信号を出力する光検出器と、前記光源を所定位置に移動する駆動装置と、前記所定位置へ移動するための駆動量を前記駆動装置へ入力する駆動制御装置と、前記対象物体の鉛直位置に治具や光学機器が移動せずに前記光源を移動する手段と、前記対象物体と前記光源と前記光検出器のそれぞれの位置と前記対象物体の法線と前記光源と前記光検出器の姿勢を取得する手段と、前記照明方向と照明光強度と前記光検出方向と反射光線強度から反射率を計算する手段とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面特性測定装置、及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
任意の照明環境下における所望の方向からの物体を画像化するためには、物体の表面特性を把握する必要がある。ここで表面特性とは、物体表面の面の向きと、照明・観察方向に応じた反射率である反射特性である。反射特性は方向依存性があるため、対象物体や光学機器である光源や光検出器を異なる位置に移動することで照明・測定方向を変更し、反射率を測定する。表面特性を把握するために特許文献1や非特許文献1で示される装置がある。それらの装置では治具の先端に光学機器を設置し、駆動装置によって治具を移動・回転することで所定の位置からの照明や測定を実現している。
【0003】
デジタルアーカイブにおいて油彩画等の美術品の表面特性測定が行われている。貴重な美術品の測定では光学機器等の接触は許されない。国宝級の美術品では接近すら許されないこともある。しかしながら、特許文献1や非特許文献1では光学機器や治具が対象物体の周囲を球状に移動するため、対象物体の鉛直位置を通過する際に機器の脱落や駆動装置の脱力によって対象物体と接触し、対象物体を破損する可能性がある。
【0004】
美術品の色を正確に画像化するための照明には一般的にストロボが用いられる。これはストロボ光の分光放射輝度が撮影するカメラの感度の波長域において十分なエネルギーを有しているためである。しかしながら、ストロボは面発光体であり、ストロボ表面の各点から出射する光線の放射輝度分布、いわゆる配光分布の把握が困難である問題がある。一方、プロジェクタはレンズを用いているため、光源サイズを無視できる点発光体であると見なせる。そのため配光分布の把握は容易である。しかしながら、プロジェクタの光源として一般に使用されるLEDや高圧水銀ランプは波長域の一部に強いピークを持ち、色の正確な測定には適さない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4806738号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A Coaxial Optical Scanner for Synchronous Acquisition of 3D Geometry and Surface Reflectance、Michael Holroyd、Jason Lawrence、Todd Zickler、ACM SIGGRAPH2010、ACM Trans.Graph.29(July)、99:1−99:12
【非特許文献2】A flexible new technique for camera calibration、Z.Zhang、IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence 22、11、(2000)
【非特許文献3】Photometric Method for Determining Surface Orientation from Multiple Images」、 R.Woodham、Optical Engineering 19、1(January)、pp.139−144、(1980)
【非特許文献4】Development of goniophotometric imaging system for recording reflectance spectra of 3D objects」、K.Tonsho、Y.Akao、N. Tsumura、Y.Miyake、Proc.SPIE Vol.4663、pp.370−378、(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述の事情を鑑みてなされたもので、対象物体に接触する可能性がなく、異なる方向からの照明を行う表面特性測定装置、及びそのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する手段として、本発明の請求項1は、照明方向に応じた反射率と法線を表す物体の表面特性測定装置であって、
対象物体を照明する少なくとも1以上の光源と、
前記対象物体からの反射光線を光電変換して光検出信号を出力する光検出器と、
前記光源を所定位置に移動するためにXYZ方向への移動を行う移動機構と、
前記光源の向きを所定角度に調節するための角度調節機構と、
前記移動機構および前記角度調節機構を、それぞれ個別に駆動するための複数の駆動装置と、
前記所定位置へ移動するため、および前記所定角度に調節するための駆動量を前記駆動装置のそれぞれへ入力する駆動制御装置と、
前記対象物体と前記光源と前記光検出器のそれぞれの位置と前記対象物体の法線と前記光源と前記光検出器の姿勢を取得する手段と、
前記照明方向と照明光強度と前記光検出方向と反射光線強度から反射率を計算する手段とを備え、
前記光源とその取り付け部材、前記移動機構、前記角度調節機構が前記移動機構および前記角度調節機構により移動可能な範囲は、前記対象物体の置かれている領域およびその鉛直上の領域を含まないことを特徴とする表面特性測定装置である。
【0009】
また、請求項2は、光検出器の感度の波長域全てに十分なエネルギーを有する光源と、光源サイズが無視できる光源と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の表面特性測定装置である。
【0010】
また請求項3は、コンピュータ装置を制御して、請求項1または請求項2に記載の表面特性測定装置の各手段として機能させることを特徴とするコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面特性測定において対象物体に接触する可能性がなく、異なる方向から照明することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の表面特性測定装置の装置構成の概略を表す概略説明図である。
【図2】本発明の表面特性測定装置と対象物体の位置の一例を表す概略説明図である。
【図3】本発明の表面特性測定の処理手順の一例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(装置構成)
以下、本発明の一実施形態による装置を、図面を参照して説明する。図1は表面特性測定装置の構成の概略を示す概略説明図である。任意の位置からの照明を行うために、光学機器と、その直線移動、および回転機構について述べる。符号D1は対象物体からの反射光を取得するカメラである。符号D2はカメラD1の感度の波長域全てに十分なエネルギーを有するストロボである。符号D3は光源サイズを無視できるプロジェクタである。リニアガイドL11とL12はX軸方向への光源D2とD3の移動軸である。モーターM1の駆動によってリニアガイドの上に設置されている機器が移動する。
【0014】
同様に、リニアガイドL2とモーターM2はY軸方向、リニアガイドL31とL32とモーターM3はZ軸方向への移動に使用される。シャフトF1は光源D2とD3の鉛直面内の回転軸である。モーターM4の駆動によってベルトB1、およびシャフトF1が回転することにより、光源D2、D3の向きを所定角度に調節する。光源D2、D3は、初期状態では同じ方向を向くように取り付けられており、角度調節後も同じ角度を向くようになっている。リニアガイドL2はY軸方向への光源D2とD3の直線移動軸だけでなく、水平面内の回転軸でもある。モーターM5の駆動によってリニアガイドM2が回転する。符号C1は各モーターの制御装置である。任意位置へ光源D2とD3を移動するためにモーターを駆動させる。符号C2は対象物体からの反射光の放射輝度を保持するコンピュータである。処理部C3は、C31、C32、C33から成り、それぞれCPU、メモリ、データ記憶部である。符号C4は、ユーザからの入力を受け付けるキーボードやマウス等の入力部である。符号C5は、処理部である符号C3における処理内容や結果等を表示するディスプレイ装置から構成されている表示部である。
【0015】
(装置設置方法)
表面特性測定を行うための装置の設置方法を、図面を参照して説明する。図2は対象物体と装置の位置の一例を表す概略説明図である。説明を簡単にするために図1のYZ平面を図2で表す。符号O1は対象物体であり、符号Z1は対象物体O1の鉛直位置である。図2に示すように最も接近した治具(移動機構、角度調節機構)や機器(光源)が鉛直位置Z1にない位置に装置を設置するため、機器の脱落や駆動装置の脱力による対象物体O1への接触は発生しない。
具体的には、先端が対象物体O1に最も近くなるリニアガイドL31、L32について、その先端から測って所定長さより外側に、対象物体O1を配置する(符号Z1で表される領域を配置する)ようにすればよい。
【0016】
(表面反射特性測定)
以下、図3のフローチャートを参照して表面反射特性測定の処理手順について述べる。
【0017】
ステップS1におけるカメラD1の位置Pcameraと姿勢Rcameraを取得する手段に非特許文献2がある。ここで姿勢とは自由度2の方向ベクトルと方向ベクトルのアップベクトルで表される自由度3のベクトルである。所定のパターンが印刷された平面物体を異なる位置と姿勢においてカメラD1で撮影し、印刷パターンと、得られた画像内のパターンの特徴点の位置変化からカメラと平面物体のそれぞれの位置と姿勢を取得する。
【0018】
ステップS2においてカメラと同様に非特許文献2を用いてプロジェクタD3の位置と姿勢を取得する。カメラの位置と姿勢取得に使用した平面物体に異なる位置と姿勢でプロジェクタD3から所定のパターンを投影し、カメラD1で撮影する。投影パターンと、得られた画像内のパターンの特徴点の位置変化、ステップS1において取得したカメラと平面物体のそれぞれの位置と姿勢からプロジェクタD3の位置Pprojectorと姿勢Rprojectorを取得することができる。
【0019】
モーター駆動制御装置C1に入力する各モーターの駆動量とプロジェクタD3の位置Pprojectorと姿勢Rprojectorの関係をLとするとLは次式で表される。

【数1】

ただし、P、P、P、P、PはそれぞれモーターM1、M2、M3、M4、M5の駆動量である。複数の駆動量とそのときのプロジェクタの位置Pprojectorと姿勢Rprojectorの対応関係から解析的にLを求めることができる。
【0020】
ステップS3において対象物体体O1の位置と法線の取得手段として空間コード化法が知られている。対象物体O1にプロジェクタD3から所定のパターンを投影し、カメラD1で撮影する。得られた画像からプロジェクタD3とカメラD1のそれぞれの画素の対応関係がわかる。 カメラの位置Pcameraと姿勢Rcameraとプロジェクタの位置Pprojectorと姿勢Rprojectorから対応画素間の三角測量に基づいて対象物体O1表面上の座標Xの位置Pobject(X)を推定する。
【0021】
ステップS4において、ストロボD2はプロジェクタD3と隣接しているため、ストロボD2とプロジェクタD3間の相対位置からストロボD2の位置Pstrobeを取得する。
【0022】
ステップS6において対象物体O1の法線を求める手段として非特許文献3、反射特性を取得する手段として非特許文献4がある。様々な位置から排他的に各光源で対象物体O1を照明し、カメラD1で撮影した変角照明画像を取得する。ストロボD2の位置PstrobeとプロジェクタD3の位置Pprojectorと姿勢Rprojectorは撮影時のモーター駆動量とステップS3で取得した対応関係Lから取得することができる。非特許文献3によるフォトメトリックステレオ法によると、複数の光源位置と位置Pobject(X)、位置Pobject(X)への入出射光線の強度群から法線n(X)を推定することができる。
【0023】
対象物体O1の表面の位置Pobject(X)における照明方向と測定方向は各光源の位置、カメラ位置と法線n(X)から取得する。その方向における反射率は、各光源からの出射光線強度と撮影画像の画素値である反射光強度の比から計算する。ここで、拡散反射と鏡面反射はそれぞれ物体色と光源色であるため、二色性反射モデルを用いて反射光線強度を分離し、それぞれの反射率を推定する。本実施例では、拡散反射率の推定にはストロボD2照明時の撮影画像、鏡面反射率の推定にはプロジェクタD3照明時の撮影画像を用いる。
【0024】
任意方向からの照明を行うために、リニアガイドL11とL12は対象物体を周回する円周状でもよい。対象物体を周回するように装置を複数個設置してもよい。また、対象物体O1の向きを変えて測定を行ってもよい。
【0025】
図1における機能を実現するためのプログラムをコンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより表面特性測定を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、ハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0026】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0027】
また、前記プログラムは、このプログラムを記憶装置等から、伝送媒体を介して、ある
いは、伝送媒体中の伝送波により他の記憶装置等に伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、前記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能を記録媒体にすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0028】
B1・・・ベルト
C1・・・モーター制御装置
D1・・・カメラ
D2・・・ストロボ
D3・・・プロジェクタ
L11、L12、L2、L31、L32・・・リニアガイド
M1、M2、M3、M4、M5・・・モーター
O1・・・対象物体
F1・・・シャフト
Z1・・・対象物体鉛直位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明方向に応じた反射率と法線を表す物体の表面特性測定装置であって、
対象物体を照明する少なくとも1以上の光源と、
前記対象物体からの反射光線を光電変換して光検出信号を出力する光検出器と、
前記光源を所定位置に移動するためにXYZ方向への移動を行う移動機構と、
前記光源の向きを所定角度に調節するための角度調節機構と、
前記移動機構および前記角度調節機構を、それぞれ個別に駆動するための複数の駆動装置と、
前記所定位置へ移動するため、および前記所定角度に調節するための駆動量を前記駆動装置のそれぞれへ入力する駆動制御装置と、
前記対象物体と前記光源と前記光検出器のそれぞれの位置と前記対象物体の法線と前記光源と前記光検出器の姿勢を取得する手段と、
前記照明方向と照明光強度と前記光検出方向と反射光線強度から反射率を計算する手段とを備え、
前記光源とその取り付け部材、前記移動機構、前記角度調節機構が前記移動機構および前記角度調節機構により移動可能な範囲は、前記対象物体の置かれている領域およびその鉛直上の領域を含まないことを特徴とする表面特性測定装置。
【請求項2】
光検出器の感度の波長域全てに十分なエネルギーを有する光源と、
光源サイズが無視できる光源と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の表面特性測定装置。
【請求項3】
コンピュータ装置を制御して、請求項1または請求項2に記載の表面特性測定装置の各手段として機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−96784(P2013−96784A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238521(P2011−238521)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】