説明

表面硬化処理装置及び表面硬化処理方法

【課題】処理炉内の雰囲気を参照して処理炉内の雰囲気を制御することが可能な、表面硬化処理装置及び表面硬化処理方法を提供する。
【解決手段】処理炉2内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段4と、水素濃度検出手段4が検出した水素濃度に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する炉内ガス組成演算手段24と、炉内ガス組成演算手段24が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への合計導入量を制御する、または、炉内導入ガス流量比率が変化するように複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御するガス導入量制御手段26を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、窒化、軟窒化、浸炭、浸炭窒化等、金属製の被処理品に対する表面硬化処理を行う、表面硬化処理装置及び表面硬化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属製の被処理品、特に、鋼部品や金型に対する表面硬化処理として、窒化処理や軟窒化処理が適用されている。この窒化処理や軟窒化処理は、後述する浸炭処理や浸炭窒化処理と比較して、処理温度が低く、また、歪みの少ない処理法である。
このような窒化処理や軟窒化処理の方法としては、ガス法、塩浴法、プラズマ法等がある。そして、これらの方法の中では、ガス法が、品質、環境性、量産性等を考慮した場合に、総合的に優れている。
【0003】
ところで、ガス法による窒化処理(ガス窒化処理)は、被処理品に対し、窒素のみを浸透拡散させて、表面を硬化させるプロセスを有する。また、ガス窒化処理では、アンモニアガス、アンモニアガスと窒素ガスとの混合ガス、アンモニアガスとアンモニア分解ガス(75%H,25%N)との混合ガスを処理炉内へ導入して、表面硬化処理を行う。
一方、ガス法による軟窒化処理(ガス軟窒化処理)は、被処理品に対し、窒素とともに炭素を副次的に浸透拡散させて、表面を硬化させるプロセスを有する。また、ガス軟窒化処理では、アンモニアガスとRXガス(CO,H,Nを主成分とする吸熱型変成ガス)との混合ガス、アンモニアガスと窒素ガスとCOとの混合ガス等、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスを処理炉内へ導入して、表面硬化処理を行う。
【0004】
以上のようなガス窒化処理及びガス軟窒化処理では、内部に被処理品を配置した処理炉内の雰囲気を管理するために、例えば、非特許文献1に記載されているような測定方法を用いて、炉内ガスのアンモニア濃度や水素濃度を測定する場合がある。
具体的に、非特許文献1には、処理炉内に存在している炉内ガスのアンモニア濃度を測定する方法として、手動ガラス管アンモニア分析計を用いて、不連続に炉内ガスのアンモニア濃度を測定する方法と、赤外線アンモニア分析計を用いて、連続的に炉内ガスのアンモニア濃度を測定する方法が記載されている。
【0005】
また、非特許文献1には、炉内ガスの水素濃度を測定する方法として、炉内ガスの熱伝導度を利用した熱伝導度センサを用いて、連続的に炉内ガスの水素濃度を測定する方法が記載されている。なお、上記の熱伝導度センサは、処理炉の炉体に直接装着することが可能な構成であり、炉内ガスの熱伝導度に基づいて、炉内ガスの水素濃度を検出可能な構成である。
また、被処理品に対する表面硬化処理としては、上述した窒化処理や軟窒化処理の他に、浸炭処理や浸炭窒化処理がある。浸炭処理や浸炭窒化処理は、窒化処理や軟窒化処理と比較して、処理温度が高く、また、歪みが大きいものの、深い硬化層を形成可能な処理法である。
【0006】
このような浸炭処理や浸炭窒化処理の方法としては、ガス法、塩浴法、プラズマ法、真空法(減圧法)等がある。そして、これらの方法の中では、真空法が、他の方法と比較して、環境性が良好である、浸炭速度が速い、表面異常層が発生しない等の利点を有している。
ところで、真空法による浸炭処理(真空浸炭処理)は、被処理品に対し、炭素のみを浸透拡散させて、表面を硬化させるプロセスを有する。また、真空浸炭処理では、アセチレンガス、プロパンガス、エチレンガス等の炭化水素を、単独または複数同時に処理炉内に導入する場合や、炭化水素と窒素ガスとを混合した混合ガスを処理炉内へ導入して、表面硬化処理を行う。
【0007】
一方、真空法による浸炭窒化処理(真空浸炭窒化処理)は、被処理品に対し、炭素とともに窒素を副次的に浸透拡散させて、表面を硬化させるプロセスを有する。そして、真空浸炭窒化処理では、真空浸炭を行った後に、アンモニアガスを単独で、または、アンモニアガスと窒素ガスを混合した混合ガスを処理炉内へ導入して、表面硬化処理を行う。
以上のような浸炭処理や浸炭窒化処理では、処理炉内の雰囲気を管理するために、例えば、非特許文献2及び3に記載されているような熱伝導度センサを用いて、炉内ガスの水素濃度を測定する場合がある。なお、非特許文献2及び3に記載されている熱伝導度センサは、非特許文献1に記載されている熱伝導度センサと同様、炉内ガスの熱伝導度に基づいて、炉内ガスの水素濃度を検出するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】河田一喜、「窒化ポテンシャル制御システム付きガス軟窒化炉」、熱処理、49巻2号、2009、P.64〜68
【非特許文献2】河田一喜、「浸炭処理および窒化処理」、機械設計、51巻7号、2007、P.54〜59
【非特許文献3】河田一喜、「雰囲気制御付き真空浸炭炉の実用化」、熱処理、44巻5号、2004、P.289〜295
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されている手動ガラス管アンモニア分析計は、手動操作により測定を行う構成であるため、炉内ガスのアンモニア濃度を連続的に測定することが不可能であり、処理炉内の雰囲気に対する、連続自動制御に適用できない。
また、特許文献1に記載されている赤外線アンモニア分析計は、炉内ガスのアンモニア濃度を連続的に測定可能であるため、処理炉内の雰囲気に対する連続自動制御に適用することは可能であるが、炉内ガスを、サンプリングポンプにより赤外線アンモニア分析計に導入する必要がある。このため、ガス軟窒化処理においては、炭酸アンモニウムの析出により、サンプリング経路の詰りが発生しやすく、定期的にフィルター清掃等のメンテナンスを行う必要があるため、表面硬化処理の作業効率が低下するという問題が発生するおそれがある。
【0010】
また、特許文献1に記載されている赤外線アンモニア分析計は、手動ガラス管アンモニア分析計や熱伝導度センサと比較して高価であるため、コスト面等から採用が困難であるという問題がある。
これに対し、特許文献1から3に記載されている熱伝導度センサは、赤外線アンモニア分析計と異なり、低価格であり、且つ、処理炉の炉体に直接装着することが可能であり、また、炉内ガスの水素濃度を連続的に測定可能であるため、処理炉内の雰囲気に対する連続自動制御に適用可能である。
【0011】
したがって、上述したガス窒化処理等、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスを処理炉内に導入して行う表面硬化処理では、特許文献1から3に記載されているような熱伝導度センサを用いて、処理炉内の雰囲気制御を行うことが、コスト面等の観点から好適である。
また、熱伝導度センサは、赤外線アンモニア分析計と異なり、処理炉の炉体へ直接装着することが可能であり、さらに、処理炉内の水素濃度を連続的に測定可能であるため、処理炉内の雰囲気に対する連続自動制御に適用可能である。
【0012】
しかしながら、熱伝導度センサには、以下に示すような問題点がある。
熱伝導度センサを、単に炉体へ装着しただけでは、炉内ガスが熱伝導度センサのセンサ部に流入するまでに時間を要するという問題が発生するおそれがある。また、熱伝導度センサの装着位置によっては、炉内ガスの偏った成分のみがセンサ部に流入し、炉内ガス全体の水素濃度を正確に反映することが困難となるという問題が発生するおそれがある。
【0013】
また、熱伝導度センサを常に炉体へ装着している状態では、実際に被処理品を量産処理する場合、被処理品が処理炉内に配置し、昇温中において初期に発生する、被処理品に付着していた油分や汚れがガス化してセンサ部を汚染し、熱伝導度センサの精度維持が、早期に困難となるという問題が発生するおそれがある。
また、ガス軟窒化処理においては、センサ部と炉体とを連通する配管内に、炭酸アンモニウムの析出が発生するという問題が発生するおそれがある。また、処理炉内において塩化水素が発生するようなプロセスを有する場合、センサ部や配管内に、塩化アンモニウムの析出が発生することにより、熱伝導度センサの精度維持が困難となるという問題が発生するおそれがある。
【0014】
また、真空浸炭や浸炭窒化処理においても、煤やタールがセンサ部に付着して、熱伝導度センサの精度維持が困難となるという問題が発生するおそれがある。
しかしながら、従来では、熱伝導度センサの精度を、長期間安定して維持することが可能な手段や対策が、開示されていない。
また、従来では、熱伝導度センサを用いた処理炉内の雰囲気制御に関して、具体的な制御方法が開示されていない。
【0015】
このため、混合ガスを用いる表面硬化処理では、複数種類の炉内導入ガスの消費量を一定の比率とする等、処理炉内の雰囲気を参照せずに表面硬化処理を行うこととなる。これにより、炉内導入ガスの消費量が、表面硬化処理に適切な量よりも増加して、表面硬化処理に要するランニングコストが増加するという問題が発生するおそれがある。また、処理炉内の雰囲気を参照せずに表面硬化処理を行うと、表面硬化処理に使用されずに処理炉内から排気される炉内ガスの量が増加して、大気中へのガス排出量が増加し、環境に悪影響を与えるという問題が発生するおそれがある。
【0016】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、炉内ガスの熱伝導度に基づいて処理炉内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して処理炉内の雰囲気を制御することが可能な、表面硬化処理装置及び表面硬化処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、処理炉内で水素を発生する少なくとも一種類の炉内導入ガスを含む複数種類の炉内導入ガスを前記処理炉内へ導入して、前記処理炉内に配置した被処理品の表面硬化処理を行う表面硬化処理装置であって、
前記処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、前記炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段と、
前記水素濃度検出手段が検出した水素濃度に基づいて、前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する炉内ガス組成演算手段と、
前記炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で、複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する、または、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御するガス導入量制御手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0018】
本発明によると、水素濃度検出手段が、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、処理炉内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。そして、この演算値に基づいて、炉内ガス組成演算手段が、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。
このため、演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、処理炉内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して、ガス導入量制御手段が、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御することが可能となる。
なお、複数種類の炉内導入ガスを処理炉内へ導入する際には、例えば、複数種類の炉内導入ガスを混合した状態で処理炉内へ導入する、または、複数種類の炉内導入ガスを個別に処理炉内へ導入し、これらの導入した炉内導入ガスを処理炉内で混合する。
【0019】
次に、本発明のうち、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明であって、
前記処理炉と前記水素濃度検出手段との間に介装し、前記処理炉と前記水素濃度検出手段とを連通させる連通状態と、前記処理炉と前記水素濃度検出手段との間を閉鎖する閉鎖状態と、を切換可能な開閉弁と、
前記ガス導入量制御手段の動作状態に応じて前記開閉弁を前記連通状態または前記閉鎖状態に切り換える開閉弁切換え制御手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0020】
本発明によると、開閉弁切換え制御手段が、ガス導入量制御手段の動作状態に応じて、開閉弁を連通状態または閉鎖状態に切り換える。
このため、ガス導入量制御手段が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態において、炉内ガスが含む汚染成分が、水素濃度検出手段へ接触することを抑制可能となり、水素濃度検出手段の検出精度が低下することを、長期間に亘り抑制することが可能となる。
【0021】
なお、開閉弁切換え制御手段が、開閉弁を連通状態または閉鎖状態に切り換える際には、例えば、ガス導入量制御手段が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、開閉弁を連通状態に切り換えて、処理炉と水素濃度検出手段とを連通させる。一方、開閉弁切換え制御手段が、ガス導入量制御手段が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、開閉弁を閉鎖状態に切り換えて、処理炉と水素濃度検出手段との間を閉鎖する。
また、処理炉と水素濃度検出手段とを連通させる経路は、例えば、配管により形成する。また、この配管は、処理炉と水素濃度検出手段とを直接連通させる単線の経路であってもよく、処理炉と水素濃度検出手段との間で複数の経路に分岐する複線の経路であってもよい。
【0022】
次に、本発明のうち、請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明であって、前記処理炉と前記水素濃度検出手段とを連通する水素濃度検出配管と、
前記水素濃度検出配管の温度を制御する配管温度制御手段と、を備え、
前記配管温度制御手段は、前記水素濃度検出配管内で前記炉内ガスが固体として析出しないように、前記炉内導入ガスの種類に応じて前記水素濃度検出配管の温度を25〜450℃の範囲内に制御することを特徴とするものである。
【0023】
本発明によると、配管温度制御手段が、炉内導入ガスの種類に応じて、水素濃度検出配管の温度を25〜450℃の範囲内に制御することにより、炉内ガスが水素濃度検出配管内で固体として析出することを抑制する。
このため、ガス窒化処理やガス軟窒化処理等、塩化アンモニウムや炭酸アンモニウムが水素濃度検出配管内で析出するおそれのある表面硬化処理において、水素濃度検出配管内における塩化アンモニウムや炭酸アンモニウムの析出を抑制することが可能となる。
【0024】
なお、配管温度制御手段が水素濃度検出配管の温度を制御する際には、表面硬化処理が、処理炉内で塩化水素ガスが発生するようなガス窒化処理である場合は、水素濃度検出配管の温度を340〜450℃の範囲内に制御することが好適である。また、表面硬化処理がガス軟窒化処理である場合は、水素濃度検出配管の温度を60〜100℃の範囲内に制御することが好適である。
【0025】
次に、本発明のうち、請求項4に記載した発明は、処理炉内で水素を発生する少なくとも一種類の炉内導入ガスを含む複数種類の炉内導入ガスを前記処理炉内へ導入して、前記処理炉内に配置した被処理品の表面硬化処理を行う表面硬化処理方法であって、
前記処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、前記炉内ガスの水素濃度を検出し、
前記検出した水素濃度に基づいて、前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算し、
前記演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で、前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する、または、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御することを特徴とするものである。
【0026】
本発明によると、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、処理炉内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。そして、この演算値に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。
このため、演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、処理炉内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、炉内ガスの組成である炉内ガス組成と、予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、処理炉内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して、処理炉内の雰囲気を制御することが可能となる。
これにより、表面硬化処理に要するランニングコストを減少させることが可能となる。また、大気中へのガス排出量を減少させることが可能となるため、環境の悪化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第一実施形態の表面硬化処理装置の構成を示す図である。
【図2】第一実施形態の変形例の構成を示す図である。
【図3】第二実施形態の表面硬化処理装置の構成を示す図である。
【図4】比較例の表面硬化処理装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(表面硬化処理の基礎的事項)
本実施形態を説明する前に、説明の前提となる事項として、被処理品の表面硬化処理に関する基礎的な事項について説明する。
【0030】
以下、表面硬化処理のうち、ガス窒化処理及びガス軟窒化処理について説明する。
ガス窒化処理及びガス軟窒化処理では、被処理品を配置する処理炉(ガス窒化炉)内において、以下の式(1)で表される窒化反応が発生する。この場合、窒化反応における窒化ポテンシャルKは、以下の式(2)で表される。
NH → (N)+3/2H … (1)
=PNH3/PH23/2 … (2)
【0031】
なお、上記の式(2)では、窒化ポテンシャルをKで示し、NH(アンモニアガス)の分圧をPNH3で示し、H(水素ガス)の分圧をPH2で示す。
ここで、窒化ポテンシャルKは、公知の要素であり、上記の式(2)のように、アンモニアガスと水素ガスの分圧比率を表し、ガス窒化炉内の雰囲気が有する窒化強度または窒化能力を表す指標である。
【0032】
次に、表面硬化処理のうち、真空浸炭処理及び真空浸炭窒化処理について説明する。
一例として、浸炭ガスとしてアセチレンガスを用いた真空浸炭処理及び真空浸炭窒化処理では、被処理品を配置する処理炉(真空浸炭炉)内において、以下の式(3)で表される浸炭反応が発生する。この場合、浸炭反応における浸炭ポテンシャルKは、以下の式(4)で表される。
1/2C → (C)+1/2H … (3)
=PC2H21/2/PH21/2 … (4)
【0033】
なお、上記の式(4)では、浸炭ポテンシャルをKで示し、C(アセチレンガス)の分圧をPC2H2で示し、H(水素ガス)の分圧をPH2で示す。
ここで、浸炭ポテンシャルKは、公知の要素であり、上記の式(4)のように、分解前の浸炭ガス(アセチレンガス)と分解後に生成したガスとの分圧比率を表し、真空浸炭炉内の雰囲気が有する浸炭強度または浸炭能力を表す指標である。
【0034】
(表面硬化処理の問題点)
次に、上述した各種の表面硬化処理に共通の問題点について説明する。
ガス窒化処理及びガス軟窒化処理のうち、ガス窒化処理において、アンモニアガスのみをガス窒化炉内に導入して表面硬化処理を行う場合、ガス窒化炉内の雰囲気を所望の窒化ポテンシャルとするためには、熱伝導度センサを用いて、ガス窒化炉内に存在している炉内ガスの水素濃度を検出する。そして、この検出した水素濃度に応じて、ガス窒化炉内へのアンモニアガスの導入量を制御する。
【0035】
このように、一種類の炉内導入ガスのみをガス窒化炉内に導入して表面硬化処理を行う場合は、熱伝導度センサを用いて炉内ガスの水素濃度を検出することにより、検出した水素濃度を用いた計算によって、炉内ガスのアンモニア濃度を検出することが可能となる。したがって、上記の式(2)により窒化ポテンシャルを計算して、ガス窒化炉内の雰囲気を、所望の窒化ポテンシャルに制御することが可能となる。
【0036】
しかしながら、例えば、アンモニアガスと窒素ガス等、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスをガス窒化炉内へ導入して、表面硬化処理を行う場合、ガス窒化炉内へのアンモニアガスの導入量のみ、あるいは、ガス窒化炉内への窒素ガスの導入量のみを制御しても、ガス窒化炉内の雰囲気を所望の窒化ポテンシャルに制御することが不可能であるという問題を有する。
これは、表面硬化処理の状況等により、混合ガスの混合比率が変化すると、炉内ガスの組成である炉内ガス組成が把握できなくなるため、熱伝導度センサを用いて炉内ガスの水素濃度のみを検出しても、炉内ガスのアンモニア濃度を検出することが不可能となるためである。
【0037】
ところで、真空浸炭処理及び真空浸炭窒化処理においても、上述したガス窒化処理及びガス軟窒化処理と同様、例えば、アセチレンガスと窒素ガス等、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスをガス窒化炉内へ導入して、表面硬化処理を行う場合、真空浸炭炉内へのアセチレンガスの導入量のみ、あるいは、真空浸炭炉内への窒素ガスの導入量のみを制御しても、真空浸炭炉内の雰囲気を、所望の浸炭ポテンシャルに制御することが不可能であるという問題を有する。
【0038】
これは、上述したガス窒化処理及びガス軟窒化処理と同様、混合ガスの混合比率が変化すると、炉内ガスの組成である炉内ガス組成が把握できなくなるため、熱伝導度センサを用いて炉内ガスの水素濃度のみを検出しても、炉内ガスのアセチレン濃度を検出することが不可能となるためである。
また、真空浸炭窒化処理や真空窒化処理においても、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスをガス窒化炉内へ導入して、表面硬化処理を行う場合、熱伝導度センサを用いて炉内ガスの水素濃度のみを検出しても、炉内ガスのアセチレンやアンモニアの濃度を検出することが不可能となるため、真空浸炭炉内の雰囲気を、所望の浸炭ポテンシャルや窒化ポテンシャルに制御することが不可能であるという問題を有する。
【0039】
(構成)
次に、図1を用いて、本実施形態の表面硬化処理装置1の構成を説明する。
図1は、本実施形態の表面硬化処理装置1の構成を示す図である。
本実施形態の表面硬化処理装置1は、鋼部品や金型等、金属製の被処理品Sを配置した処理炉2内に、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスを導入して、被処理品Sの表面硬化処理を行う装置である。なお、複数種類の炉内導入ガスは、処理炉2内へ個別に導入し、処理炉2内で混合してもよい。
【0040】
ここで、複数種類の炉内導入ガスのうち少なくとも一種類の炉内導入ガスは、アンモニアガス(NH)等、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスとする。すなわち、複数種類の炉内導入ガスは、処理炉2内で水素を発生する少なくとも一種類の炉内導入ガスを含む。
なお、本実施形態では、複数種類の炉内導入ガスを、アンモニアガス(NH)と窒素ガス(N)の、二種類の炉内導入ガスとした場合を例に挙げて説明する。また、本実施形態では、表面硬化処理を、ガス窒化処理とした場合を例に挙げて説明する。
【0041】
また、本実施形態では、表面硬化処理を、ガス窒化処理とした場合を説明するため、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスを、アンモニアガス(NH)とし、その他の炉内導入ガスを、窒素ガス(N)とする。
また、本実施形態では、一例として、表面硬化処理を行う条件を、処理炉2内の温度(処理温度)を300〜1100℃の範囲内とし、処理炉2内の圧力(処理圧力)を13〜133000Paの範囲内とする。
【0042】
以下、表面硬化処理装置1の具体的な構成を説明する。
図1中に示すように、表面硬化処理装置1は、処理炉2と、水素濃度検出手段4と、調節計6と、記録計8と、開閉弁10と、開閉弁切換え制御手段12と、炉内導入ガス供給部14を備えている。
処理炉2は、アンモニアガス(NH)及び窒素ガス(N)を導入可能であり、且つ被処理品Sを配置可能に形成されており、攪拌ファン16と、攪拌ファン駆動モータ18と、炉内温度計測手段20を備えている。
【0043】
攪拌ファン16は、処理炉2内に配置されており、処理炉2内で回転することにより、処理炉2内の雰囲気を攪拌する。
攪拌ファン駆動モータ18は、攪拌ファン16に連結されており、攪拌ファン16を任意の回転速度で回転させる。
炉内温度計測手段20は、熱電対を備えており、処理炉2内に存在している炉内ガスの温度を計測可能に構成されている。
【0044】
また、炉内温度計測手段20は、炉内ガスの温度を計測すると、この計測した温度を含む情報信号(炉内温度信号)を、調節計6及び記録計8へ出力する。
水素濃度検出手段4は、炉内ガスの水素濃度を検出可能な構成の熱伝導度センサにより形成されており、水素濃度を検出するためのセンサ部は、水素濃度検出配管22を介して処理炉2の内部と連通している。なお、炉内ガスの水素濃度は、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出する。
【0045】
また、水素濃度検出手段4は、炉内ガスの水素濃度を検出すると、この検出した水素濃度を含む情報信号(水素濃度信号)を、調節計6及び記録計8へ出力する。
水素濃度検出配管22は、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通する配管である。なお、本実施形態では、水素濃度検出配管22を、処理炉2と水素濃度検出手段4とを直接連通させる単線の経路で形成する。
【0046】
調節計6は、CPU(CENTRAL PROCESSING UNIT)等を備えて構成されており、炉内ガス組成演算手段24と、ガス導入量制御手段26を備えている。
炉内ガス組成演算手段24は、水素濃度検出手段4が検出した水素濃度に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。そして、この演算した炉内ガス組成を含む情報信号(炉内ガス組成信号)をガス導入量制御手段26へ出力する。
具体的には、炉内ガス組成演算手段24は、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。
【0047】
そして、炉内ガス組成演算手段24は、上記の測定及び演算による各ガス分圧に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。これにより、本実施形態のように、表面硬化処理を、ガス窒化処理とした場合では、炉内ガスの水素濃度に基づいて、炉内ガスのアンモニア濃度を演算して求める。この測定した炉内ガスの水素濃度及びアンモニア濃度は、処理炉2内の雰囲気を反映する要素であるため、炉内ガスの水素濃度及びアンモニア濃度に基づいて、処理炉2内の窒化ポテンシャルを検出することが可能となる。
【0048】
なお、表面硬化処理が、真空浸炭処理や真空浸炭窒化処理である場合は、炉内ガスの水素濃度に基づいて、炉内ガスのアセチレン濃度を演算して求める。
ガス導入量制御手段26は、炉内ガス組成演算手段24が演算した炉内ガス組成と、予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への導入量を制御する。なお、設定炉内ガス混合比率は、表面硬化処理の種類及び複数種類の炉内導入ガスに応じて設定する値であり、予め、ガス導入量制御手段26に記憶しておく。また、ガス導入量制御手段26が行う制御については、後述する。
【0049】
また、ガス導入量制御手段26は、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への導入量を制御している状態では、その作動状態を示す情報信号(制御実施信号)を、開閉弁切換え制御手段12及び炉内導入ガス供給部14へ出力する。
記録計8は、CPU等やメモリ等の記憶媒体を備えて形成されている。
また、記録計8は、炉内温度計測手段20及び水素濃度検出手段4が出力した情報信号に基づいて、処理炉2内の温度と炉内ガスの水素濃度を、例えば、表面硬化処理を行った日時と対応させて記憶する。
開閉弁10は、水素濃度検出配管22に取り付けられて、処理炉2と水素濃度検出手段4との間に介装された弁である。
【0050】
また、開閉弁10は、開閉弁切換え制御手段12が出力する制御信号(開閉制御信号)に応じて、連通状態と閉鎖状態を切換可能に形成されている。
ここで、連通状態とは、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通させる状態であり、閉鎖状態とは、処理炉2と水素濃度検出手段4との間を閉鎖する状態である。
開閉弁切換え制御手段12は、ガス導入量制御手段26の動作状態に応じて、開閉弁10を連通状態または閉鎖状態に切り換える。なお、ガス導入量制御手段26の動作状態は、ガス導入量制御手段26が出力する情報信号(制御実施信号)に基づいて検出する。
【0051】
なお、本実施形態では、具体例として、以下に示す条件により、開閉弁切換え制御手段12が、開閉弁10を連通状態または閉鎖状態に切り換える場合を説明する。
具体的に、開閉弁切換え制御手段12は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、開閉弁10を連通状態に切り換える。一方、開閉弁切換え制御手段12は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、開閉弁10を閉鎖状態に切り換える。
【0052】
炉内導入ガス供給部14は、第一炉内導入ガス供給部28と、第一炉内導入ガス供給量制御部30と、第一供給弁32と、第一炉内導入ガス流量計34と、第二炉内導入ガス供給部36と、第二炉内導入ガス供給量制御部38と、第二供給弁40と、第二炉内導入ガス流量計42と、炉内導入ガス導入配管44を備えている。
第一炉内導入ガス供給部28は、第一炉内導入ガスを充填したタンクにより形成されている。なお、本実施形態では、第一炉内導入ガスを、アンモニアガス(NH)とした場合について説明する。
【0053】
第一炉内導入ガス供給量制御部30は、開度を変化可能なマスフローコントローラにより形成されており、第一炉内導入ガス供給部28と第一供給弁32との間に介装されている。なお、第一炉内導入ガス供給量制御部30の開度は、ガス導入量制御手段26が出力する制御信号(導入量制御信号)に応じて変化する。
また、第一炉内導入ガス供給量制御部30は、第一炉内導入ガス供給部28から第一供給弁32への第一炉内導入ガスの供給量を検出し、この検出した第一炉内導入ガスの供給量を含む情報信号(第一炉内導入ガス供給量信号)を、ガス導入量制御手段26へ出力する。この第一炉内導入ガス流量信号は、例えば、ガス導入量制御手段26が行う制御の補正等に用いる。
【0054】
第一供給弁32は、ガス導入量制御手段26が出力する情報信号(制御実施信号)に応じて開閉状態を切り換える電磁弁により形成されており、第一炉内導入ガス供給量制御部30と第一炉内導入ガス流量計34との間に介装されている。
具体的には、第一供給弁32は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、第一供給弁32の開閉状態を、第一炉内導入ガス供給量制御部30と第一炉内導入ガス流量計34との間を連通させる開放状態に切り換える。一方、第一供給弁32は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、第一供給弁32の開閉状態を、第一炉内導入ガス供給量制御部30と第一炉内導入ガス流量計34との間を閉鎖する閉鎖状態に切り換える。
【0055】
第一炉内導入ガス流量計34は、例えば、フロー式流量計等の機械的な流量計で形成されており、第一供給弁32と炉内導入ガス導入配管44との間に介装されている。
また、第一炉内導入ガス流量計34は、第一供給弁32から炉内導入ガス導入配管44を通じて処理炉2へ導入される第一炉内導入ガスの流量を検出する。なお、第一炉内導入ガス流量計34が検出した第一炉内導入ガスの流量は、例えば、表面硬化処理を行う作業員の目視による、第一炉内導入ガスの流量の確認作業に用いる。
【0056】
第二炉内導入ガス供給部36は、第二炉内導入ガスを充填したタンクにより形成されている。なお、本実施形態では、第二炉内導入ガスを、窒素ガス(N)とした場合について説明する。
第二炉内導入ガス供給量制御部38は、第一炉内導入ガス供給量制御部30と同様、開度を変化可能なマスフローコントローラにより形成されており、第二炉内導入ガス供給部36と第二供給弁40との間に介装されている。なお、第二炉内導入ガス供給量制御部38の開度は、ガス導入量制御手段26が出力する制御信号(導入量制御信号)に応じて変化する。
【0057】
また、第二炉内導入ガス供給量制御部38は、第二炉内導入ガス供給部36から第二供給弁40への第二炉内導入ガスの供給量を検出し、この検出した第二炉内導入ガスの供給量を含む情報信号(第二炉内導入ガス供給量信号)を、ガス導入量制御手段26へ出力する。この第二炉内導入ガス流量信号は、例えば、ガス導入量制御手段26が行う制御の補正等に用いる。
【0058】
第二供給弁40は、第一供給弁32と同様、ガス導入量制御手段26が出力する情報信号(制御実施信号)に応じて開閉状態を切り換える電磁弁により形成されており、第二炉内導入ガス供給量制御部38と第二炉内導入ガス流量計42との間に介装されている。
具体的には、第二供給弁40は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、第二供給弁40の開閉状態を、第二炉内導入ガス供給量制御部38と第二炉内導入ガス流量計42との間を連通させる開放状態に切り換える。一方、第二供給弁40は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、第二供給弁40の開閉状態を、第二炉内導入ガス供給量制御部38と第二炉内導入ガス流量計42との間を閉鎖する閉鎖状態に切り換える。
【0059】
第二炉内導入ガス流量計42は、第一炉内導入ガス流量計34と同様、例えば、フロー式流量計等の機械的な流量計で形成されており、第二供給弁40と炉内導入ガス導入配管44との間に介装されている。
また、第二炉内導入ガス流量計42は、第二供給弁40から炉内導入ガス導入配管44を通じて処理炉2へ導入される第二炉内導入ガスの流量を検出する。なお、第二炉内導入ガス流量計42が検出した第二炉内導入ガスの流量は、例えば、表面硬化処理を行う作業員の目視による、第二炉内導入ガスの流量の確認作業に用いる。
【0060】
炉内導入ガス導入配管44は、第一炉内導入ガス流量計34及び第二炉内導入ガス流量計42と処理炉2とを連結する配管であり、第一炉内導入ガス及び第二炉内導入ガスの処理炉2への導入経路を形成している。
以下、上述した構成を前提として、ガス導入量制御手段26が行う制御について、具体的な例を挙げて説明する。
【0061】
ガス導入量制御手段26は、上述した式(2)で表される窒化ポテンシャルKが3.3となるように、炉内ガス組成演算手段24が演算した炉内ガス組成を参照して、アンモニアガス(NH)の導入量と窒素ガス(N)の導入量との比が設定炉内ガス混合比率となるように、アンモニアガス(NH)の導入量と窒素ガス(N)の導入量を演算する。
【0062】
そして、ガス導入量制御手段26は、演算したそれぞれのガス(NH,N)の導入量に基づいて、第一炉内導入ガス供給量制御部30及び第二炉内導入ガス供給量制御部38へ、それぞれの導入量を制御する制御信号(導入量制御信号)を出力する。
なお、ガス導入量制御手段26が、アンモニアガス(NH)及び窒素ガス(N)の導入量を制御する際は、以下の二通りの制御のうち、一方を行う。
第一の制御は、処理炉2内へ導入する混合ガス(アンモニアガス+窒素ガス)の、処理炉2内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で、アンモニアガス(NH)及び窒素ガス(N)の処理炉2内への合計導入量を制御するものである。
【0063】
一方、第二の制御は、混合ガス(アンモニアガス+窒素ガス)の炉内導入ガス流量比率が変化するように、アンモニアガス(NH)及び窒素ガス(N)について、それぞれの導入量を個別に変化させる制御である。
なお、表面硬化処理が、真空浸炭処理や真空浸炭窒化処理である場合は、ガス導入量制御手段26は、上述した式(4)で表される浸炭ポテンシャルKが所望の値となるように、炉内ガス組成演算手段24が演算した炉内ガス組成を参照して、複数種類の炉内導入ガス(アセチレンガス等)の導入量を演算する。
【0064】
(動作)
以下、図1を参照して、被処理品の表面硬化処理を行う際の、本実施形態の表面硬化処理装置1の動作について説明する。
まず、処理炉2内に被処理品Sを配置した後、炉内導入ガス供給部14からアンモニアガス(NH)及び窒素ガス(N)を混合した混合ガスを処理炉2内へ導入し、攪拌ファン駆動モータ18を駆動させて攪拌ファン16を回転させ、処理炉2内の雰囲気を攪拌する。
【0065】
このとき、開閉弁切換え制御手段12は、開閉弁10の状態を閉鎖状態に切り換え、処理炉2と水素濃度検出手段4との間を閉鎖する。これにより、炉内ガスが含む汚染成分が、センサ部を含む水素濃度検出手段4へ接触することを抑制する。なお、炉内ガスが含む汚染成分とは、例えば、被処理品Sに付着している油分や汚れが、処理炉2内で気化することにより、炉内ガスに含まれる。
【0066】
ここで、本実施形態では、設定炉内ガス混合比率を、アンモニアガス(NH):窒素ガス(N)=80:20とする。このため、表面硬化処理を開始する際には、処理炉2内へのアンモニアガス(NH)及び窒素ガス(N)の導入量は、アンモニアガス(NH)の導入量と窒素ガス(N)の導入量との比が、80:20となるように、第一炉内導入ガス供給量制御部30及び第二炉内導入ガス供給量制御部38の開度を制御する。
【0067】
これに加え、図外の加熱機等を用いて、処理炉2内の温度(処理温度)を300〜1100℃の範囲内とし、さらに、図外のポンプ等を用いて、処理炉2内の圧力(処理圧力)を13〜133000Paの範囲内とする。
このとき、炉内温度計測手段20が、炉内ガスの温度を計測し、この計測した温度を含む情報信号(炉内温度信号)を、調節計6及び記録計8へ出力する。
調節計6が炉内温度信号の入力を受けると、ガス導入量制御手段26は、処理炉2内の状態が、加熱機等による昇温中ではなく、処理炉2内の温度が上記の条件で安定している状態であるか否かを判定する。
【0068】
そして、処理炉2内の温度が上記の条件で安定している状態であると判定すると、ガス導入量制御手段26は、複数種類の炉内導入ガスの導入量の制御を開始する。これに加え、ガス導入量制御手段26は、作動状態を示す制御実施信号を、開閉弁切換え制御手段12及び炉内導入ガス供給部14へ出力する。
制御実施信号の入力を受けた開閉弁切換え制御手段12は、開閉弁10の状態を連通状態に切り換える。
【0069】
開閉弁10が連通状態に切り換わると、処理炉2と水素濃度検出手段4が連通し、炉内ガスが水素濃度検出配管22内を移動して、水素濃度検出手段4のセンサ部に接触する。
炉内ガスが水素濃度検出手段4のセンサ部に接触すると、水素濃度検出手段4が炉内ガスの水素濃度を検出して、この検出した水素濃度を含む水素濃度信号を、調節計6及び記録計8へ出力する。
【0070】
調節計6が水素濃度信号の入力を受けると、炉内ガス組成演算手段24は、水素濃度検出手段4が検出した水素濃度に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算し、炉内ガス組成信号をガス導入量制御手段26へ出力する。
炉内ガス組成信号の入力を受けたガス導入量制御手段26は、炉内ガス組成と設定炉内ガス混合比率に応じて、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への導入量を制御する。これにより、処理炉2内の雰囲気を反映する炉内ガス組成を検出し、この検出した処理炉2内の雰囲気を参照して、処理炉2内の雰囲気を制御する。
【0071】
複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への導入量を制御して、処理炉2内の雰囲気を制御した状態で、被処理品Sの材質や量等に応じて設定した所定の時間、被処理品Sの表面硬化処理を行う。
被処理品Sの表面硬化処理を行う間、ガス導入量制御手段26が、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への導入量を制御しておらず、制御実施信号を出力していない状態では、開閉弁切換え制御手段12が、開閉弁10を閉鎖状態に切り換える。
【0072】
以上説明したように、表面硬化処理装置1を用いた表面硬化処理方法は、複数種類の炉内導入ガスを処理炉2内へ導入して、処理炉2内に配置した被処理品Sの表面硬化処理を行う表面硬化処理方法である。ここで、複数種類の炉内導入ガスは、処理炉2内で水素を発生する少なくとも一種類の炉内導入ガスを含む。
また、表面硬化処理方法は、処理炉2内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、炉内ガスの水素濃度を検出し、検出した水素濃度に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算するステップを含む。
【0073】
さらに、表面硬化処理方法は、演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への合計導入量を制御するステップ、または、炉内導入ガス流量比率が変化するように複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御するステップを含む。
【0074】
(第一実施形態の効果)
以下、本実施形態の効果を列挙する。
(1)本実施形態の表面硬化処理装置1では、水素濃度検出手段4が、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。
【0075】
そして、この測定した演算値に基づいて、炉内ガス組成演算手段24が、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。
このため、演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、処理炉2内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して、ガス導入量制御手段26が、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御することが可能となる。
【0076】
その結果、炉内ガス組成と設定炉内ガス混合比率に応じて検出した処理炉2内の雰囲気を参照して、処理炉2内の雰囲気を制御することが可能となるため、表面硬化処理に要するランニングコストを減少させることが可能となる。
また、大気中へのガス排出量を減少させることが可能となるため、環境の悪化を抑制することが可能となる。
【0077】
(2)本実施形態の表面硬化処理装置1では、開閉弁切換え制御手段12が、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、開閉弁10を連通状態に切り換えて、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通させる。
一方、開閉弁切換え制御手段12が、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、開閉弁10を閉鎖状態に切り換えて、処理炉2と水素濃度検出手段4との間を閉鎖する。
このため、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態において、炉内ガスが含む汚染成分が、センサ部を含む水素濃度検出手段4へ接触することを抑制可能となる。
【0078】
その結果、水素濃度検出手段4の検出精度が低下することを、長期間に亘り抑制することが可能となるため、水素濃度検出手段4の検出精度を長期間に亘って維持することが可能となる。
なお、表面硬化処理が、真空浸炭処理や真空浸炭窒化処理である場合は、処理炉2内で発生した煤やタールが熱伝導度センサに導入されることを抑制可能となり、水素濃度検出手段4の検出精度が低下することを、長期間に亘り抑制することが可能となる。
【0079】
(3)本実施形態の表面硬化処理方法では、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。そして、この演算値に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。
このため、演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、処理炉2内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御することが可能となる。
【0080】
その結果、炉内ガス組成と設定炉内ガス混合比率に応じて検出した処理炉2内の雰囲気を参照して、処理炉2内の雰囲気を制御することが可能となるため、表面硬化処理に要するランニングコストを減少させることが可能となる。
また、大気中へのガス排出量を減少させることが可能となるため、環境の悪化を抑制することが可能となる。
【0081】
(応用例)
以下、本実施形態の応用例を列挙する。
(1)本実施形態の表面硬化処理装置1では、水素濃度検出配管22を、処理炉2と水素濃度検出手段4とを直接連通させる単線の経路で形成したが、これに限定するものではない。すなわち、水素濃度検出配管22を、図2中に示すように、処理炉2と水素濃度検出手段4との間で複数の経路に分岐する複線の経路で形成してもよい。なお、図2は、第一実施形態の変形例の構成を示す図である。また、図2中では、処理炉2、水素濃度検出手段4、水素濃度検出配管22及び開閉弁10以外の図示を省略している。
【0082】
この場合、水素濃度検出配管22は、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通する第一配管22aと、処理炉2と第一配管22aとを連通する第二配管22bと、第一配管22aと連通する第三配管22cから形成する。
そして、第一配管22a、第二配管22b及び第三配管22cが形成する経路に、それぞれ、開閉弁10を介装する。この場合、図2中に示すように、第一配管22aに介装する開閉弁10を第一開閉弁10aとし、第二配管22bに介装する開閉弁10を第二開閉弁10bとし、第三配管22cに介装する開閉弁10を第三開閉弁10cとする。
【0083】
水素濃度検出配管22及び開閉弁10の構成を、図2中に示す構成とすると、水素濃度検出手段4の応答性を向上させることが可能となる。これに加え、水素濃度検出配管22に残留しているガスの排気や、水素濃度検出手段4のチェックを行うことが容易となる。このため、水素濃度検出手段4の検出精度を長期間に亘って維持することが可能となる。
具体的には、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、第三開閉弁10cを閉鎖状態とし、第一開閉弁10a及び第二開閉弁10bを連通状態とすることにより、炉内ガスの流れが良好となる。このため、炉内ガスのうち、偏った成分のみが水素濃度検出手段4へ導入されることを抑制して、処理炉2内の雰囲気全体の水素濃度を正確に反映することが可能となり、水素濃度検出手段4の検出精度を向上させることが可能となる。
【0084】
また、炉内ガスの流れが良好となると、炉内ガスが水素濃度検出手段4へ導入されるまでの時間を短縮することが可能となるため、水素濃度検出手段4の応答性を向上させることが可能となる。
一方、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、第一開閉弁10aを閉鎖状態とし、第二開閉弁10b及び第三開閉弁10cを連通状態とすることにより、第三開閉弁10cから窒素ガス等の清浄なガスを導入し、その後、第二開閉弁10b及び第三開閉弁10cを閉鎖状態とすることにより、第三配管22c内に残留している炉内ガスを排気することが可能となる。このため、次に行う表面硬化処理において、炉内ガスの水素濃度を検出するまでに、水素濃度検出配管22内を清浄な状態に保持することが可能となるため、水素濃度検出手段4の検出精度を長期間に亘って維持することが可能となる。
【0085】
また、表面硬化処理を行っていない状態では、第一開閉弁10aを閉鎖状態とし、第二開閉弁10b及び第三開閉弁10cを連通状態とし、第三開閉弁10cから窒素ガスなどの清浄なガスを導入することにより、水素濃度検出手段4のゼロ点調整を行うことが可能となる。また、水素濃度が明確なガス(標準水素ガス)を水素濃度検出手段4へ導入することにより、水素濃度検出手段4のスパン調整を行うことが可能となり、水素濃度検出手段4の検出精度を長期間に亘って維持することが可能となる。
【0086】
(2)本実施形態の表面硬化処理装置1では、第一炉内導入ガス供給量制御部30及び第二炉内導入ガス供給量制御部38を、マスフローコントローラにより形成したが、これに限定するものではない。すなわち、第一炉内導入ガス供給量制御部30及び第二炉内導入ガス供給量制御部38を、安価な手動式のフロー式流量計で形成するとともに、流量を予め設定した複数個のガス流量計をフロー式流量計及び自動開閉弁と組み合わせて、第一炉内導入ガス供給量制御部30及び第二炉内導入ガス供給量制御部38を形成してもよい。
【0087】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図3は、本実施形態の表面硬化処理装置1の構成を示す図である。
図3中に示すように、本実施形態の表面硬化処理装置1の構成は、水素濃度検出配管22及び開閉弁10の構成と、配管温度制御手段46を備えている点を除き、上述した第一実施形態と同様であるため、以下の説明は、配管温度制御手段46に関する部分を中心に記載する。なお、図3中では、処理炉2、水素濃度検出手段4、水素濃度検出配管22、開閉弁10及び配管温度制御手段46以外の図示を省略している。
【0088】
水素濃度検出配管22は、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通する第一配管22aと、処理炉2と第一配管22aとを連通する第二配管22bと、第一配管22aと連通する第三配管22cから形成されている。
開閉弁10は、第一配管22aに介装する第一開閉弁10aと、第二配管22bに介装する第二開閉弁10bと、第三配管22cに介装する第三開閉弁10cから形成されている。
配管温度制御手段46は、線状のヒーターを用いて形成されており、水素濃度検出配管22の温度を制御する。
【0089】
具体的には、配管温度制御手段46は、水素濃度検出配管22内で炉内ガスが固体として析出しないように、炉内導入ガスの種類に応じて、水素濃度検出配管22の温度を、25〜450℃の範囲内に制御する。
具体的には、配管温度制御手段46は、表面硬化処理がガス窒化処理であり、炉内導入ガスの種類が、処理炉2内で塩化水素ガスが発生するようなガスである場合は、水素濃度検出配管22の温度を340〜450℃の範囲内に制御する。
また、配管温度制御手段46は、表面硬化処理がガス軟窒化処理である場合は、水素濃度検出配管22の温度を60〜100℃の範囲内に制御する。
その他の構成は、上述した第一実施形態と同様である。
【0090】
(動作)
以下、図3を参照して、被処理品の表面硬化処理を行う際の、本実施形態の表面硬化処理装置1の動作について説明する。なお、本実施形態の表面硬化処理装置1の動作は、配管温度制御手段46が行う動作を除き、上述した第一実施形態と同様であるため、以下の説明は、配管温度制御手段46が行う動作を中心に記載する。また、以下の説明は、表面硬化処理をガス窒化処理とした場合について記載する。
【0091】
表面硬化処理を行う際には、処理炉2内に被処理品Sを配置した後、混合ガスを処理炉2内へ導入し、処理炉2内の雰囲気を攪拌する。
このとき、配管温度制御手段46は、表面硬化処理がガス窒化処理であり、炉内導入ガスの種類が、処理炉2内で塩化水素ガスが発生するようなガスであるため、水素濃度検出配管22の温度を340〜450℃の範囲内に制御する。
【0092】
配管温度制御手段46が、水素濃度検出配管22の温度を340〜450℃の範囲内に制御すると、炉内ガスが水素濃度検出配管22内で固体として析出することを抑制した状態で、表面硬化処理を行うことが可能となる。これにより、水素濃度検出手段4の検出精度の低下を抑制し、水素濃度検出手段4の検出精度を長期間に亘って維持した状態で、表面硬化処理を行うことが可能となる。
【0093】
(第二実施形態の効果)
以下、本実施形態の効果を記載する。
(1)本実施形態の表面硬化処理装置1では、配管温度制御手段46が、炉内導入ガスの種類に応じて、水素濃度検出配管22の温度を25〜450℃の範囲内に制御することにより、炉内ガスが水素濃度検出配管22内で固体として析出することを抑制する。
【0094】
このため、ガス窒化処理やガス軟窒化処理等、塩化アンモニウムや炭酸アンモニウムが水素濃度検出配管22内で析出するおそれのある表面硬化処理において、水素濃度検出配管22内における塩化アンモニウムや炭酸アンモニウムの析出を抑制することが可能となる。
その結果、炭酸アンモニウムの析出や処理炉2内における塩化水素の発生を抑制することが可能となるため、水素濃度検出手段4の検出精度を長期間に亘って維持することが可能となる。
【0095】
(第一実施例)
上述した第一実施形態の表面硬化処理装置(以下、「第一発明例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合と、第一実施形態の表面硬化処理装置とは構成が異なる装置(以下、「第一比較例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合に対し、処理炉内の雰囲気を制御した。
なお、第一発明例及び第一比較例共に、処理炉として、ピット型ガス窒化炉(処理重量:50kg/gross)を備え、処理炉内の温度を570℃とし、アンモニアガスの処理炉への導入量を、マスフローコントローラにより、1.6m/hに制御し、また、窒素ガスの処理炉への導入量を、マスフローコントローラにより、0.4m/hに制御して、窒化ポテンシャルKが3.3となるように、ガス窒化処理を行った。
【0096】
ここで、第一発明例では、NH:N=80:20という混合ガスの混合比率を基にして、ガス導入量制御手段により、窒化ポテンシャルKが3.0となるための水素濃度の設定値と、水素濃度検出手段により検出した炉内ガスの水素濃度とを比較し、アンモニアガス及び窒素ガスのマスフローコントローラに対して、それぞれ、設定炉内ガス混合比率であるNH:N=80:20を保持した状態で、アンモニアガス及び窒素ガスの処理炉内への合計導入量を制御することにより、窒化ポテンシャルKを制御した。
【0097】
一方、第一比較例では、窒素ガスの処理炉内への導入量のみを制御することにより、窒化ポテンシャルKを制御した。
以下、炉内ガスの水素濃度(炉内水素濃度)、炉内ガスのアンモニア濃度(炉内アンモニア濃度)、処理炉内の雰囲気の窒化ポテンシャル(窒化ポテンシャルK)を測定した結果を、表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
表1中に示されているように、第一発明例では、窒化ポテンシャルKを、3.3
と、精度良く制御することができた。また、炉内水素濃度を27.4%、炉内アンモニア濃度を47.2%に、それぞれ、制御することが可能であった。
これに対し、第一比較例では、窒化ポテンシャルKの制御が不可能であった。また、炉内水素濃度を27.4%に制御することが可能であったものの、炉内アンモニア濃度は計算不能であった。
これは、第一比較例では、水素濃度検出手段により炉内ガスの水素濃度のみを検出することは可能であったが、炉内ガス中における炉内ガス組成が不明であったため、検出した水素濃度からアンモニア濃度を求めることができず、窒化ポテンシャルKの演算が不可能であったためである。
【0100】
(第二実施例)
上述した第二実施形態の表面硬化処理装置(以下、「第二発明例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合と、第二実施形態の表面硬化処理装置とは構成が異なる装置(以下、「第二比較例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合に対し、処理炉内の雰囲気を制御した。
【0101】
ここで、図4を参照して、第二比較例の表面硬化処理装置1の構成を説明する。
図4は、比較例の表面硬化処理装置1の構成を示す図である。
図4中に示すように、比較例の表面硬化処理装置1は、開閉弁を備えていない点を除き、第一発明例(図1参照)と同様の構成である。なお、図4中では、処理炉2及び水素濃度検出手段4以外の図示を省略している。
【0102】
なお、第二発明例及び第二比較例共に、処理炉として、バッチ型ガス軟窒化炉(処理重量:600kg/gross)を備え、処理炉内の温度を580℃とし、アンモニアガスの処理炉への導入量を8m/h、窒素ガスの処理炉への導入量を5m/h、二酸化炭素ガスの処理炉への導入量を0.4m/hに制御して、3時間のガス軟窒化処理を、5ロット/日で5日間/週の期間行った。
【0103】
ここで、第二発明例では、配管温度制御手段46により、水素濃度検出配管22及び開閉弁10の温度を60℃に制御し、さらに、水素濃度検出手段4付近の温度を80℃に制御した。これに加え、第二発明例では、被処理品の温度が580℃に到達してから冷却する前の、ガス軟窒化処理期間のみ、第一開閉弁10a及び第二開閉弁10bを連通状態として、水素濃度検出手段4により炉内ガスの水素濃度を検出した。また、被処理品の冷却中は、第一開閉弁10aを閉鎖状態とし、第二開閉弁10b及び第三開閉弁10cを連通状態として、窒素ガスを5分間流すことにより、水素濃度検出配管22及び水素濃度検出手段4のセンサ部をパージした。その後、第二開閉弁10b及び第三開閉弁10cを閉鎖状態として、センサ部と、第一開閉弁10a、第二開閉弁10b及び第三開閉弁10cにより囲まれた水素濃度検出配管22内の空間を窒素ガスで封入しておき、この状態を、次に行う表面硬化処理における処理炉2内の昇温が完了するまで保持した。
【0104】
一方、第二比較例では、水素濃度検出手段4のセンサ部付近の温度を40℃に制御した。
以下、水素濃度検出配管22及び水素濃度検出手段4のセンサ部の汚染状況(接続配管及びセンサー部の汚染状況)と、水素濃度検出手段4が検出した水素濃度の標準水素ガスによる誤差のチェック結果(熱伝導度センサー値の標準水素ガスによる誤差チェック結果)を測定した結果を、表2に示す。
【0105】
【表2】

【0106】
表2中に示されているように、第二比較例では、1ロット目から水素濃度検出配管22及び水素濃度検出手段4のセンサ部に析出した炭酸アンモニウムと被処理品からの油分や汚れが付着し始めた。また、3ロットが終了した時点において、標準水素ガスにより、水素濃度検出手段4の精度をチェックしたところ、フルスケールに対して約10%の誤差が生じていたことが確認された。
【0107】
これに対し、第二発明例では、10ロットを処理した後においても、水素濃度検出配管22、開閉弁10及び水素濃度検出手段4のセンサ部に、炭酸アンモニウムの析出は発生していなかった。また、標準水素ガスにより、水素濃度検出手段4の精度をチェックしたところ、フルスケールに対して0.5%以内の誤差しか生じていないことが確認された。さらに、第二発明例では、4ヶ月経過した後に、標準水素ガスにより、水素濃度検出手段4の精度をチェックしたところ、フルスケールに対して0.5%以内の誤差しか生じていないことが確認された。
【0108】
(第三実施例)
上述した第一実施形態の表面硬化処理装置(以下、「第三発明例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合と、第一実施形態の表面硬化処理装置とは構成が異なる装置(以下、「第三比較例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合に対し、処理炉内の雰囲気を制御した。
【0109】
なお、第三発明例及び第三比較例共に、処理炉として、バッチ型ガス軟窒化炉(処理重量:600kg/gross)を備え、処理炉内の温度を580℃とし、アンモニアガスの処理炉への導入量を8m/h、窒素ガスの処理炉への導入量を5m/h、二酸化炭素ガスの処理炉への導入量を0.4m/hに制御して、3時間のガス軟窒化処理を、被処理品(S45C材及びSCM440材)に対して行った。
【0110】
ここで、第三発明例では、処理炉内の昇温が完了した後、3時間のガス軟窒化処理を行う間は、窒化ポテンシャルKが3.1(N:23%,NH:35%)となるように、アンモニアガス及び窒素ガスの処理炉内への導入量を保持した状態で、アンモニアガス及び窒素ガスの処理炉内への合計導入量を制御することにより、処理炉内の雰囲気を制御した。
【0111】
一方、第三比較例では、処理炉内の昇温が完了した後、3時間のガス軟窒化処理を行う間は、処理炉内の雰囲気を制御せずに、アンモニアガス、窒素ガス及び二酸化炭素ガスの処理炉への導入量を、それぞれ、上記の値に保持した。
以下、炉内導入ガスの使用量(ガス使用量)、表面硬化処理装置の窒化性能(窒化性能)を測定した結果を、表3に示す。
【0112】
【表3】

【0113】
表3中に示されているように、第三発明例では、表面硬化処理装置の窒化性能を第三比較例と同様に保持した状態で、炉内導入ガスの使用量を大幅に削減することが可能となり、表面硬化処理に要するランニングコストを減少させて、経済的効果を達成するとともに、大気中へのガス排出量を減少させて、環境の悪化を抑制することが可能となることが確認された。
【0114】
(第四実施例)
上述した第二実施形態の表面硬化処理装置と同様の各種センサ及び配管温度制御手段を備え、表面硬化処理として真空浸炭処理を行う構成の表面硬化処理装置(以下、「第四発明例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合と、第二比較例と同様の構成を有する装置(以下、「第四比較例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合に対し、処理炉内の雰囲気を制御した。
【0115】
なお、第四発明例及び第四比較例共に、処理炉として、バッチ型真空浸炭炉(処理重量:600kg/gross)を備え、まず、処理炉内の温度を950℃として、15minの浸炭、30minの拡散、7minの浸炭、45minの拡散を順に行い、その後、処理炉内の温度を850℃として、30minの保持を行った後、60℃の油中において、被処理品を焼入れした。さらに、処理炉内の圧力を1067Paとして、2時間の間、プロパンガスの処理炉への導入量を30L/m、窒素ガスの処理炉への導入量を20L/mに制御して、2ロット/日で5日間/週の期間、真空浸炭処理を行った。
ここで、第四発明例では、配管温度制御手段46により、水素濃度検出配管22及び開閉弁10の温度を60℃に制御し、さらに、水素濃度検出手段4付近の温度を80℃に制御した。
【0116】
一方、第四比較例では、水素濃度検出手段4のセンサ部付近の温度を40℃に制御した。
以下、水素濃度検出配管22及び水素濃度検出手段4のセンサ部の汚染状況(接続配管及びセンサー部の汚染状況)と、水素濃度検出手段4が検出した水素濃度の標準水素ガスによる誤差のチェック結果(熱伝導度センサー値の標準水素ガスによる誤差チェック結果)を測定した結果を、表4に示す。
【0117】
【表4】

【0118】
表4中に示されているように、第四比較例では、1ロット目から水素濃度検出配管22及び水素濃度検出手段4のセンサ部に、煤やタールが付着し始めた。また、10ロットが終了した時点において、標準水素ガスにより、水素濃度検出手段4の精度をチェックしたところ、フルスケールに対して約20%の誤差が生じていたことが確認された。
【0119】
これに対し、第四発明例では、10ロットを処理した後においても、水素濃度検出配管22、開閉弁10及び水素濃度検出手段4のセンサ部に、煤やタールの付着は発生していなかった。また、10ロットが終了した時点において、標準水素ガスにより、水素濃度検出手段4の精度をチェックしたところ、フルスケールに対して0.5%以内の誤差しか生じていないことが発見された。さらに、第四発明例では、3ヶ月経過した後に、標準水素ガスにより、水素濃度検出手段4の精度をチェックしたところ、フルスケールに対して0.5%以内の誤差しか生じていないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明に係る表面硬化処理装置及び表面硬化処理方法は、金属材料からなる、自動車、建設機械、各種産業機械等の部品や金型に対する、窒化、軟窒化、浸炭、浸炭窒化等の表面硬化処理に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0121】
1 表面硬化処理装置
2 処理炉
4 水素濃度検出手段
6 調節計
8 記録計
10 開閉弁(第一開閉弁10a、第二開閉弁10b、第三開閉弁10c)
12 開閉弁切換え制御手段
14 炉内導入ガス供給部
16 攪拌ファン
18 攪拌ファン駆動モータ
20 炉内温度計測手段
22 水素濃度検出配管(第一配管22a、第二配管22b、第三配管22c)
24 炉内ガス組成演算手段
26 ガス導入量制御手段
28 第一炉内導入ガス供給部
30 第一炉内導入ガス供給量制御部
32 第一供給弁
34 第一炉内導入ガス流量計
36 第二炉内導入ガス供給部
38 第二炉内導入ガス供給量制御部
40 第二供給弁
42 第二炉内導入ガス流量計
44 炉内導入ガス導入配管
46 配管温度制御手段
S 被処理品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理炉内で水素を発生する少なくとも一種類の炉内導入ガスを含む複数種類の炉内導入ガスを前記処理炉内へ導入して、前記処理炉内に配置した被処理品の表面硬化処理を行う表面硬化処理装置であって、
前記処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、前記炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段と、
前記水素濃度検出手段が検出した水素濃度に基づいて、前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する炉内ガス組成演算手段と、
前記炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で、複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する、または、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御するガス導入量制御手段と、を備えることを特徴とする表面硬化処理装置。
【請求項2】
前記処理炉と前記水素濃度検出手段との間に介装し、前記処理炉と前記水素濃度検出手段とを連通させる連通状態と、前記処理炉と前記水素濃度検出手段との間を閉鎖する閉鎖状態と、を切換可能な開閉弁と、
前記ガス導入量制御手段の動作状態に応じて前記開閉弁を前記連通状態または前記閉鎖状態に切り換える開閉弁切換え制御手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載した表面硬化処理装置。
【請求項3】
前記処理炉と前記水素濃度検出手段とを連通する水素濃度検出配管と、
前記水素濃度検出配管の温度を制御する配管温度制御手段と、を備え、
前記配管温度制御手段は、前記水素濃度検出配管内で前記炉内ガスが固体として析出しないように、前記炉内導入ガスの種類に応じて前記水素濃度検出配管の温度を25〜450℃の範囲内に制御することを特徴とする請求項1または2に記載した表面硬化処理装置。
【請求項4】
処理炉内で水素を発生する少なくとも一種類の炉内導入ガスを含む複数種類の炉内導入ガスを前記処理炉内へ導入して、前記処理炉内に配置した被処理品の表面硬化処理を行う表面硬化処理方法であって、
前記処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、前記炉内ガスの水素濃度を検出し、
前記検出した水素濃度に基づいて、前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算し、
前記演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で、前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する、または、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御することを特徴とする表面硬化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−26627(P2011−26627A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170345(P2009−170345)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(391024205)オリエンタルエンヂニアリング株式会社 (7)
【Fターム(参考)】