説明

表面被覆シリカ、およびその製造方法

【課題】1種類のシリコーンオイルで処理されたもの、および従来の2種類以上のシリコーンオイルの混合液で処理されたものでは成し得なかった、各シリコーンオイルがシリカに付与する効果を相乗的に発揮できる表面被覆シリカを提供する。
【解決手段】種類の異なる2種類以上のシリコーンオイルで被覆処理した表面被覆シリカであって、被覆した全シリコーンオイルのうち、クロロホルムにより抽出されるシリコーンオイルの量が5〜95質量%であり、かつ、少なくとも1種類のシリコーンオイルが、前記抽出されるシリコーンオイル中に含まれないことを特徴とする表面被覆シリカ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類以上のシリコーンオイルで被覆処理された新規な表面被覆シリカおよび新規な表面被覆シリカの製造方法に関する。詳しくは、1種類のシリコーンオイルで処理されたもの、および従来の2種類以上のシリコーンオイルの混合液で処理されたものでは成し得なかった、各シリコーンオイルがシリカに付与する効果を相乗的に発揮できる表面被覆シリカ、および該表面被覆シリカの製造方法に関する。具体的には、高温高湿、低温低湿でも帯電量の変化が少ないといった環境安定性に優れ、かつ、帯電レベルが制御された表面被覆シリカ、および該表面被覆シリカの製造方法に関する。また、疎水性が高く、環境安定性に優れ、かつ、凝集粒子が低減された表面被覆シリカ、および該表面被覆シリカの製造方法に関する。このような表面被覆シリカは、特に、複写機やレーザープリンター等に使用される電子写真用乾式トナーの外添剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンター、ファックス等に広く適用される電子写真技術においては、現像剤中の乾式トナーに高い流動性と適度な帯電性を付与するため、疎水化剤で表面処理した微細なシリカが外添剤として添加混合される。
【0003】
トナーの外添剤に使用されるシリカの疎水化剤としては、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、シリコーンオイル等の有機珪素化合物が使用されてきた。このような有機珪素化合物をシリカ微粒子表面にある親水性のシラノール基と反応させ、有機基を導入することによって、疎水性を付与した表面被覆シリカが得られる。その中でも、ジメチルシリコーンオイルや変性シリコーンオイルなどのシリコーンオイル類で表面被覆したシリカは、疎水性が特に高く、表面エネルギーが低いという特徴がある。これらシリコーンオイルは、その種類によって表面被覆シリカに様々な性能を付与することが可能である。例えば、ジメチルシリコーンオイルは、表面被覆シリカを高度に疎水化できるために帯電の環境安定性を高める作用がある。また、アミノ変性シリコーンオイルは、表面被覆シリカの帯電レベルを制御することができる。更に、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の低分子量化合物等は、ガス状で表面被覆処理が可能なため、シリカの凝集を低減できるという特徴を有している。
【0004】
近年、複写機やプリンターには、カラー化、高画質化、小型化、高速化、省電力化等々がますます強く求められるようになり、使用されるトナーの設計においても、このような要求に対応すべく開発が進められている。例えば、トナーの粒子径は従来の8〜10μm前後から5〜7μmへと小径子化が進み、また、トナーを構成する結着樹脂の軟化温度を低く設定する傾向にある。
【0005】
このようなトナーの小粒子径化、低軟化点化に伴って、トナーの流動性が著しく悪化し、外添剤(流動化剤)であるシリカの添加量を従来よりも多くする対策がとられる場合が増えてきた。そのため、トナーの最外表面に位置するシリカ外添剤に対して、流動付与特性の向上や凝集粗粒量の低減、更に、帯電レベルの精密な制御や、高温多湿、低温低湿でも帯電性の変化が少ないといった環境安定性の向上等、様々な性能を付与する要求が強くなっている。
【0006】
まず、帯電レベルを制御する場合について説明する。具体的には、一般に負帯電性が強いとされるシリカの帯電レベルを制御する手段として、アミノ変性シリコーンオイルで表面被覆して、シリカの帯電量を正帯電性、あるいは、適度に低い負帯電レベルに制御し、トナーに適用する技術が提案されている(特許文献1、2)。
【0007】
ところが、アミノ変性シリコーンオイルで表面被覆したシリカでは、親水性のアミノ基が含まれるために、必ずしも疎水度を高度に維持することができず、アミノ変性シリコーンオイルを帯電制御に必要な量だけ使用すると、温度・湿度等の環境変動の影響を受けやすくなる弊害があった。
【0008】
これに対して改良を加える試みもなされ、例えば、ジメチルシリコーンオイルとアミノ変性シリコーンオイルとの組合せをはじめ、分子量の異なる2種のシリコーンオイルを混合し、この混合物でシリカの表面処理を行う技術が提案されている(特許文献3)。この2種のシリコーンオイルを混合することによって個別のトナーに最適な組み合わせを見出す技術においては、高分子量オイル成分による感光体に対する離形性の向上や、低分子量オイル成分による凝集粗粒子量の低減に効果がある。
【0009】
しかしながら、この方法によっても、トナーの外添剤として使用した場合、温度・湿度等の環境変動(以下、環境安定性とする)が十分ではなく、また、帯電分布が広がって画質が安定しない問題があり、ジメチルシリコーンオイルとアミノ変性シリコーンオイルの2種類のシリコーンオイルで処理することの効果が十分に発揮されず、改良の余地があった。
【0010】
次いで、環境安定性を向上し、凝集粒子を低減する場合の具体例について説明する。トナーの外添剤として、シリコーンオイルで表面を被覆したシリカを使用する場合、該シリカ表面に、クロロホルムのような溶媒で抽出されるシリコーンオイル(以下、遊離シリコーンオイルとする場合もある)が存在することにより、環境安定性が改善され、好適に使用することができる。しかしながら、このような表面被覆シリカは、シリコーンオイルが高分子物質であるがために、凝集しやすいといった問題があった。
【0011】
このような問題点に対する改善も試みられ、表面に被覆するシリコーンオイルの量を調整する方法が提案されている。例えば、クロロホルムにより抽出されるシリコーンオイルの上限値を規定して、シリコーンオイルが過多にシリカ表面に存在しないようにする試みがなされている(特許文献4)。また、遊離シリコーンオイルの絶対量ではなく、比表面積に応じた遊離率を規定することによって改良を図ろうとする提案もなされている(特許文献5)。
【0012】
しかしながら、これら特許文献の実施例においては、具体的に1種類のシリコーンオイルでしか処理されておらず、単に遊離シリコーンオイルの量を調整するだけでは、凝集粗粒の低減には一定の効果が見られるものの、凝集粗粒量の低減と環境安定性との両立を十分に図ることができず、改善の余地があった。
【0013】
【特許文献1】特開昭59−201063号公報
【特許文献2】特開昭62−52564号公報
【特許文献3】特開平9−166885号公報
【特許文献4】特開2000−66439号公報
【特許文献5】特開2002−174926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上の通り、従来のシリコーンオイルで被覆処理されたシリカは、そのシリコーンオイル特有の性能をシリカに付与することができるが、単に1種類のシリコーンオイルで処理したもの、または従来の2種類のシリコーンオイルの混合液で処理したものでは、近年、要求されている様々な性能に対応することが難しくなっている。
【0015】
したがって、本発明の目的は、1種類のシリコーンオイルで処理されたもの、および従来の2種類以上のシリコーンオイルの混合液で処理されたものでは成し得なかった、各シリコーンオイルがシリカに付与する効果を相乗的に発揮できる表面被覆シリカ、および該シリカの製造方法を提供することにある。
【0016】
より具体的には、トナー用の外添剤として使用した場合、優れた帯電性能、すなわち、帯電レベルが制御され、かつ、環境安定性を兼ね備えた表面被覆シリカ、および該表面被覆シリカの製造方法を提供することにある。また、一定量の遊離シリコーンオイルを保持し、疎水性が高く、環境安定性等を発揮しつつ、凝集粗粒量が低減された表面被覆シリカ、および該表面被覆シリカの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、2種類以上のシリコーンオイルで表面被覆したシリカにおいて、各シリコーンオイルの量、および被覆状態を調整することにより、前記の課題を解決し、優れた表面被覆シリカを得ることに成功し、本発明を完成するに至った。また、本発明者等は、2種類以上のシリコーンオイルを段階的に順次処理することにより、かかる表面被覆シリカが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明は、種類の異なる2種類以上のシリコーンオイルで被覆処理した表面被覆シリカであって、被覆した全シリコーンオイルのうちクロロホルムにより抽出されるシリコーンオイルの量が5〜95質量%であり、かつ、少なくとも1種類のシリコーンオイルが、前記抽出されるシリコーンオイル中に含まれないことを特徴とする表面被覆シリカである。
【0019】
また、本発明は、基材となるシリカを種類の異なる2種類以上のシリコーンオイルで順次、被覆処理する表面被覆シリカの製造方法であって、最初のシリコーンオイルを基材と混合し、150℃以上の温度で被覆処理した後、次いで、最初のシリコーンオイルとは種類の異なるシリコーンオイルで被覆処理することを特徴とする表面被覆シリカの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の表面被覆シリカは、2種類以上のシリコーンオイルで被覆処理されたものであるが、各シリコーンオイルがシリカに付与する効果を相乗的に発揮できるものである。
【0021】
特に、アミノ変性シリコーンオイルとジメチルシリコーンオイルとの組み合わせにおいては、優れた帯電性能、すなわち、帯電レベルが適度に低負帯電性に制御され、かつ、環境安定性が高く維持される効果を発揮することができる。また、オクタメチルシクロテトラシロキサンとジメチルシリコーンオイルとの組み合わせにおいては、一定量の遊離シリコーンオイルを保持し、疎水性が高く、優れた環境安定性を発揮しつつ、従来に比べて凝集粗粒量を低減する効果を発揮することができる。そのため、特に、トナー用外添剤として使用した場合、帯電の環境安定性、耐久性に優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明をさらに詳細に、かつ、具体的に説明する。
【0023】
(基材となるシリカ)
本発明において、シリコーンオイルで被覆処理する前の基材となるシリカは、公知の方法によって得られたシリカ粒子を特に制限なく使用することができる。例えば、フュームドシリカ、湿式法シリカ、ゾル−ゲル法シリカなどが代表的である。また、これらのシリカは一部又は全部が溶融されたシリカであってもよい。
【0024】
上記フュームドシリカとは、珪素化合物や金属珪素を火炎中で燃焼して製造されるシリカ粒子をさす。珪素化合物としては、珪素のハロゲン化物、アルコキシド、シロキサン類が代表として挙げられる。特に、珪素のハロゲン化物として、一般には珪素の塩化物、通常は精製した四塩化珪素を使用して、酸水素火炎中で製造するものが一般的である。フュームドシリカは、沈澱法シリカ等の湿式法で製造されるシリカと区別するため、「乾式法シリカ」とも呼ばれることがある。
【0025】
湿式法シリカとしては、溶液中で珪酸ナトリウムを硫酸等の鉱酸で中和することによってシリカを析出させる、一般的には「ホワイトカーボン」とも称される沈澱法シリカが代表的である。珪酸ナトリウムと酸の反応でゲル状シリカを合成し、これを粉砕・分級して製造されるゲル法シリカも湿式法シリカに含まれ、本発明の基材シリカとして使用することができる。
【0026】
また、ゾル−ゲル法シリカは湿式法シリカの一つに分類され、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランなどの珪素のアルコキシドを酸性あるいはアルカリ性の含水有機溶媒中で加水分解して製造される。珪素のアルコキシドは高価であるが、蒸留によって高純度化できるため極めて高純度のシリカが得られるという特徴がある。
【0027】
本発明に使用する前記基材となるシリカにおいて、比表面積等の物性は、特に制限されるものではないが、トナー用外添剤等の流動化剤、添加剤用途に使用する場合、かかるシリカ(被覆処理する前の親水性シリカ)は、比表面積が10〜400m/g、特に、汎用品として入手可能な30〜380m/gのものが好適である。また、1次粒子径としては、5nm〜1μm、好ましくは、10nm〜300nmが一般的である。本発明においては、このような親水性シリカを予めジメチルジクロロシランやヘキサメチルジシラザン、アルキルアルコキシシラン等の疎水化剤で適度に疎水化処理したシリカも基材として使用可能である。更に、本発明においては、以上に例示したようなシリカの一種類を単独で使用する態様の他、複数の種類のシリカ、例えば、比表面積が異なる複数のシリカを適量ずつ混合して基材とする態様も含まれる。
【0028】
本発明においては、上述したフュームドシリカ、湿式シリカなどの中から、個別トナーの要求特性に応じて好適なものを適宜選択して使用することが可能である。特に、フュームドシリカは、流動性付与効果に優れており、電子写真トナー用外添剤に使用する基材シリカとして好適である。
【0029】
本発明の基材シリカとして上記フュームドシリカを用いる場合も、その物性は特に制限されるものではなく、例えば、代表的物性である比表面積が好ましくは10〜400m/g、更に好ましくは20〜380m/gのフュームドシリカが好適に使用される。高比表面積のフュームドシリカほど、負の帯電量が高く、また少量の添加でも流動性付与効果が発揮されるといったメリットがある。また、低比表面積のフュームドシリカほど、トナー樹脂への埋没が起こり難く、耐久時の流動性維持に効果的である。このように使用するトナーやシステムに応じて、適度な比表面積のフュームドシリカを適宜選択すればよい。
【0030】
(シリコーンオイル)
本発明に使用するシリコーンオイルは、シロキサン結合を主鎖とする分子構造をもつオイル状の物質を示すものであり、一般に入手できるものを特に制限なく使用することができる。具体的なシリコーンオイルを例示すれば、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、クロロアルキル変性シリコーンオイル、α−メチルスチレン変性シリコーンオイル、クロロフェニル変性シリコーンオイル、オレフィン変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、アルコキシ変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、及び、末端反応性シリコーンオイル等の直鎖状ポリシロキサン骨格よりなるシリコーンオイルの他、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等の環状シロキサン類等が挙げられる。
【0031】
本発明では、前記シリコーンオイルの代表的な物性である粘度についても、特に制限されるものではないが、通常は、常温において1〜1000000cSt程度のものを使用することができる。中でも、シリコーンオイルで表面処理したシリカ粒子の凝集を回避し、シリカ表面との反応性を確保するには、10〜10000cStの粘度のシリコーンオイルを使用することが好ましく、特に、得られる表面被覆シリカの性能安定性を考慮すると、30〜1000cStの粘度のシリコーンオイルを使用することが好ましい。尚、本発明においては、シリコーンオイルの粘度が高い場合、アルコールやトルエンなどの有機溶媒や、ヘキサメチルジシロキサンやオクタメチルトリシロキサンなどの低分子量のシロキサン類等のシリカとの反応性が低い希釈剤により希釈して、粘度調整して使用することもできる。
【0032】
また、本発明において、変性シリコーンオイルを使用する場合も、シロキサン骨格の側鎖や末端に導入された官能基の種類や官能基当量に制限はなく、市販で入手可能なものから機能に応じたシリコーンオイルを適宜選択して使用することができる。
【0033】
本発明において、種類の異なる2種類以上のシリコーンオイルとは、2種類以上のシリコーンオイル種の分子構造が各々異なる態様だけに限らず、同じ官能基をもっていても粘度や分子量分布が異なるシリコーンオイルも含まれる。更に、各々のシリコーンオイルを混合した際に、反応しないもの同士であれば、複数種類を混合したシリコーンオイル組成物、さらに混合する種類や濃度が異なるシリコーンオイルの混合組成物あるいは希釈液の組み合わせなどの態様も含むものである。
【0034】
本発明においては、以上のようなシリコーンオイルの中から所望の性質をもつ、種類や組成の異なる2種以上のシリコーンオイルを選択して使用する。シリコーンオイルの組み合わせは、目的とする表面被覆シリカの性能に応じて適宜決定すればよい。中でも、アミノ変性シリコーンとジメチルシリコーンオイルとを使用した場合には、帯電レベルが適度に低負帯電性に制御され、かつ、高い環境安定性をもった表面被覆シリカを得ることができる。
【0035】
上記のアミノ変性シリコーンオイルは、特に限定されず、市販されているものの中から適宜選択すればよい。アミノ基がシロキサン骨格の側鎖または末端に導入されていることでシリカ表面の負帯電性を抑制する作用がはたらき、低負帯電化や、官能基量が多いなどの場合には正帯電化が可能となり、所望の帯電レベルに制御することができる。この場合、帯電レベルの制御は概ね導入するアミノ基量を目安とすればよい。また、側鎖あるいは末端に導入されるアミノ基の構造にも制限はない。例えば、R、R'をアルキル基とするとき、−RNH、−RNHR'NHのような構造を一般に挙げることができる。更に、アミノ変性シリコーンオイルの粘度や比重、アミノ基等の官能基当量などの性状にも特に制限はなく、トナーやシステムに応じて所望の性能が達成できるよう処方を最適化すればよい。アルコキシ基などのアミノ基以外の官能基も同時に導入された異種官能基変性シリコーンオイルであっても何ら問題なく使用することができる。
【0036】
また、本発明において、オクタメチルシクロテトラシロキサンとジメチルシリコーンオイルとを組み合わせた場合には、一定量の遊離シリコーンオイルを有し、疎水性が高く、優れた環境安定性を発揮しつつ、従来に比べて凝集粗粒量を低減した表面被覆シリカを得ることができる。
【0037】
(表面被覆シリカ)
本発明は、種類の異なる2種類以上の前記シリコーンオイルで被覆処理した表面被覆シリカである。そして、かかる表面被覆シリカは、被覆した全シリコーンオイルのうちクロロホルムで抽出されるシリコーンオイルの量が5〜95質量%であり、かつ、少なくとも1種類のシリコーンオイルが、前記抽出されるシリコーンオイル中に含まれないものである。以下、後記の実施例において詳述する方法によって、表面被覆シリカをクロロホルムで抽出した際に得られるシリコーンオイルを遊離シリコーンオイルとする。
【0038】
本発明において、表面被覆シリカは、2種類以上のシリコーンオイルで被覆処理されていなければならない。2種類以上のシリコーンオイルで被覆処理することにより、シリカに様々な性能を付与することができる。被覆処理に使用するシリコーンオイルの種類に特に上限はないが、工業的な生産を考慮すると、3種類以下であることが経済的である。
【0039】
本発明において、遊離シリコーンオイルの量は、表面被覆シリカを被覆した全シリコーンオイルのうち5〜95質量%とする必要がある。遊離シリコーンオイル量が5質量%未満の場合、または、遊離シリコーンオイル量が95質量%を超える場合には、各シリコーンオイルがシリカに付与する効果を相乗的に発揮できなくなるため好ましくない。具体的には、アミノ変性シリコーンオイルとジメチルシリコーンオイルとの組み合わせ(遊離シリコーンオイルがジメチルシリコーンオイルの場合)においては、環境安定性などのトナー性能が発現し難いため好ましくない。すなわち、遊離シリコーンオイルが5質量%未満の場合は、シリカ粒子表面をジメチルシリコーンオイルによって十分に被覆できず、疎水性が不十分と推定され、環境湿度の影響を受けやすくなるため好ましくない。また、遊離シリコーンオイルが95質量%を超える場合は、被覆処理したシリコーンオイルのほとんどがシリカ粒子表面に化学的に付着していない状態と考えられ、環境安定性が発揮できない。遊離シリコーンオイルの量は10〜80質量%であることが、各シリコーンオイルがシリカに付与する性能をより効果的に発揮できるためより好ましい。
【0040】
本発明において、被覆処理に使用する2種類以上のシリコーンオイルのうち、少なくとも1種類のシリコーンオイルは、遊離シリコーンオイルに含まれてはならない。つまり、少なくとも1種類のシリコーンオイルの全量がシリカ表面に化学的に付着している必要がある。少なくとも1種類のシリコーンオイルが、遊離シリコーンオイルに含まれないことにより、かかるシリコーンオイルがシリカに付与する性能を維持したまま、他のシリコーンオイルの性能を発揮することができる。被覆した複数のシリコーンオイル種全ての一部ずつがクロロホルム抽出操作で遊離してしまう状態では、遊離成分どうしがシリカ粒子表面上で混合してしまい、目的とする相乗的効果が不十分となる。例えば、アミノ変性シリコーンオイルとジメチルシリコーンオイルとの組み合わせでは、環境安定性などの性能発揮が不十分となり好ましくない。また、オクタメチルシクロテトラシロキサンとジメチルシリコーンオイルとを組み合わせた場合には、凝集性が十分に改良できないため好ましくない。
【0041】
尚、本発明において、前記遊離シリコーンオイルに含まれないシリコーンオイルは、少なくとも1種類以上であるが、工業的な生産を考慮すると、1種類のシリコーンオイルが遊離シリコーンオイルに含まれないことが好ましい。
【0042】
本発明において、前記遊離シリコーンオイルに含まれないシリコーンオイルは、特に制限されるものではないが、アミノ変性シリコーンオイル、またはオクタメチルシクロテトラシロキサンであることが好ましい。その中でも、アミノ変性シリコーンオイルである場合には、シリカの帯電レベルを制御することができるため、トナーの外添剤用途に好適に使用することができる。また、オクタメチルシクロテトラシロキサンが、前記遊離シリコーンオイルに含まれないシリコーンオイルである場合には、表面被覆シリカの凝集性を改善することができるため好ましい。尚、その他の表面処理に使用するシリコーンオイルも、特に制限されるものではないが、シリカに高い疎水性を付与し、環境安定性に優れたものとするためには、ジメチルシリコーンオイルを使用することが好ましい。好ましい組み合わせを具体的に例示すれば、遊離シリコーンオイルがジメチルシリコーンオイルであって、遊離シリコーンオイルに含まれないシリコーンオイルがアミノ変性シリコーンオイルであるか、遊離シリコーンオイルがジメチルシリコーンオイルであって、遊離シリコーンオイルに含まれないシリコーンオイルがオクタメチルシクロテトラシロキサンであることが好ましい。
【0043】
尚、本発明の表面被覆シリカが、各シリコーンオイルが付与する性能を効果的に発揮できる理由は明らかではないが、以下の通り、推定される。即ち、本発明の表面被覆シリカにおいては、遊離シリコーンオイルに含まれないシリコーンオイルの被覆層の上に、更に、種類の異なるシリコーンオイル(遊離シリコーンオイルに含まれるもの)によって形成される被覆層が多段で形成されているものと考えられる。そして、このような被覆層は、遊離シリコーンオイルに含まれないシリコーンオイルと種類の異なるシリコーンオイルとの濃度が徐々に変化する濃度勾配を有しているものと考えられる。その結果、例えば、アミノ変性シリコーンオイルを遊離シリコーンオイルに含まれないものとし、ジメチルシリコーンオイルを種類の異なるシリコーンオイルとした場合には、この濃度勾配を有する被覆層が形成されているため、シリコーンオイルの特性を各々バランスよく発揮でき、得られる表面被覆シリカが低負帯電性であるにもかかわらず、優れた環境安定性を維持することができるものと推定される。
【0044】
(表面被覆シリカの製造方法)
次に、前記表面被覆シリカの製造方法について説明する。
【0045】
本発明の表面被覆シリカは、以下の方法で製造することができる。特に、推定ではあるが、濃度勾配を有する多段の被覆層を形成する表面被覆シリカであるためには、基材となるシリカを種類の異なる2種以上のシリコーンオイルで順次、被覆処理することにより製造することができる。順次処理せず、2種のシリコーンオイルを適量ずつ混合したシリコーンオイルを処理する従来の方法では、シリカ表面のシリコーンオイルが均一に分散した状態で存在していない可能性があり、各々のシリコーンオイル種が担う機能と弊害が共存して性能全体としてのバランスが不足する場合があるものと考えられる。また、本発明者等の検討においては、2種類のシリコーンオイルの混合液で処理した場合には、両方のシリコーンオイルが遊離シリコーンオイルに含まれるため、性能のバランスが低下するものと考えられる。更に、混合したシリコーンオイルで処理する方法では、シリコーンオイル種の中には混合できない組み合わせ、例えば、脂肪酸変性シリコーンオイルとアミノ変性シリコーンオイルとの組み合わせ等では、ゲル状物質が生成して均一な被覆処理が困難になる場合があり、改善が期待できない。
【0046】
本発明の製造方法は、最初のシリコーンオイルを基材となるシリカと混合し、150℃以上の温度に加熱して、シリカの表面をシリコーンオイルで被覆処理し、次いで、最初のシリコーンオイルとは種類または組成の異なるシリコーンオイルで被覆処理することが特徴である。
【0047】
本発明において、最初のシリコーンオイルを基材となるシリカと混合し、150℃以上の温度に加熱して、シリカの表面をシリコーンオイルで被覆処理するとは、シリコーンオイルとシリカ表面のシラノール基とを反応させ、シリコーンオイルをシリカ表面に焼付ける処理を示すものである。最初のシリコーンオイルを基材シリカと混合し、150℃以上の温度に加熱して、最初のシリコーンオイルを被覆・固定化した後、次いで、最初のシリコーンオイルとは異なるシリコーンオイルで同様の処理を行うことによって、基材シリカ表面に、確実に2種のシリコーンオイルを被覆することができる。最初のシリコーンオイル層の被覆処理による固定化の前に、次の接触または混合の処理を開始すると、最初のシリコーンオイルと次のシリコーンオイルとが混合してしまうため、混合シリコーンオイルを使用した場合と同様の態様となり好ましくない。
【0048】
本発明においては、前記の通り、2種類以上のシリコーンオイルで順次処理しているため、得られる表面被覆シリカにおいて、被覆層が多段で濃度勾配を有しているものと推定される。そのため、種類の異なるシリコーンオイルによって形成される被覆層を各々着実に定着させ、推定ではあるが、シリカ表面における組成の違いから生じる濃度勾配を確保するため、最初のシリコーンオイルの被覆処理を実施した後に、次のシリコーンオイルの処理をすることを必須とする。
【0049】
本発明において、基材となるシリカを最初のシリコーンオイルで被覆処理する場合、150℃以上の温度で実施する必要がある。撥水性のシリコーンオイルを親水性のシリカに混ぜ合わせるだけでも若干の疎水化効果は得られるが、150℃以上の温度で被覆処理を行うことにより、シリカと混合させたシリコーンオイルが、シリカ粒子表面と十分に反応または焼付けられ、クロロホルムでの抽出操作によっても遊離しない被覆層が形成される。すなわち、化学的な相互作用をもつ付着状態が実現されると考えられる。被覆処理する際の温度が150℃未満の場合、先のシリコーンオイルの基材シリカ表面における化学的付着が不十分となるため、多段被覆層の形成が達成されないものと考えられ、例えば、アミノ変性シリコーンオイルとジメチルシリコーンオイルの組合せの場合には環境安定性が得られず、好ましくない。被覆処理する際の温度は、180℃〜400℃が好ましく、200℃〜350℃が実用的な範囲で好適である。
【0050】
尚、本発明において、2種類のシリコーンオイルを使用する場合には、最初のシリコーンオイルをシリカと混合し、150℃以上の温度で被覆処理を行った後、最初のシリコーンオイルとは種類の異なる、第2のシリコーンオイルで被覆処理するものとする。また、3種類のシリコーンオイルを使用する場合には、最初のシリコーンオイルをシリカと接触または混合し、150℃以上の温度で被覆処理を行った後、第2のシリコーンオイルを先の処理で得られた表面処理シリカ(以下、少なくとも1種類のシリコーンオイルで処理され、完全に処理が終わっていないシリカを表面処理シリカとする場合もある)と混合し、150℃以上の温度で被覆処理を行った後、次いで、第3のシリコーンオイルで処理するものとする。
【0051】
本発明において、シリコーンオイルを基材となるシリカと混合するとは、シリコーンオイルを液状または蒸気として基材シリカと共存せしめて相互作用させる態様であってもよいし、両者を単に混ぜ合わせる態様であってもよく、手法は特に限定されるものではない。例えば、基材シリカをミキサーに入れて撹拌し、その中へオクタメチルシクロテトラシロキサンなど比較的沸点の低いシリコーンオイルの場合は加熱してその蒸気を導入する態様や、沸点の高いシリコーンオイルの場合には、スプレーノズルを使用して煙霧状のミストをシリカ粉末に噴き付ける態様があり、さらにトルエンなどの溶媒中で基材シリカとシリコーンオイルを混ぜ合わせる態様なども本発明の実施形態に挙げられる。
【0052】
本発明において、150℃以上の温度で被覆処理する方法は特に限定されず、公知の方法やその組み合わせによって適宜実施すればよい。具体的には、150℃以上の加熱下で基材シリカを撹拌等により流動化させ、シリコーンオイルを上述したようにスプレーノズルなどを使用して微細なミストとして吹き付ける態様が代表的である。比較的低沸点のシリコーンオイルの場合には、シリコーンオイルを気化してその蒸気を、150℃以上に加熱した反応槽へ導入して基材シリカと接触・混合するとともに反応させる態様を実施してもよい。また、常温など150℃未満の低温で基材シリカとシリコーンオイルとの接触混合をした後、撹拌などを継続しつつ150℃以上に昇温して焼付け処理する態様も本発明に含まれる。さらに、トルエン等の溶媒中にシリコーンオイルを溶かし、この中へ基材シリカを分散させ、150℃以上に加熱して焼き付けつつ溶媒除去する態様や、溶媒中で基材シリカとシリコーンオイルを混合し、減圧操作などで溶媒除去をした後、150℃以上に加熱する態様などが挙げられる。工業的には溶媒除去は経済的に不利な場合が多いので、シリカに直接シリコーンオイルのミストを噴霧する等の乾式処理法が好ましい。また、150℃以上での被覆処理に要する時間も、特に限定はされず、生産の規模や手法に応じて適宜決定すればよいが、一般的には、30分間〜2時間程度が目安である。
【0053】
尚、本発明において、最初のシリコーンオイルを被覆処理した後、次のシリコーンオイルで処理する場合には、被覆処理を行なう系内において、先のシリコーンオイルと次のシリコーンオイルが混合されないようにしなければならない。
【0054】
本発明において、最初の被覆処理に使用するシリコーンオイルは、得られる表面被覆シリカを後記に詳述するクロロホルムによる抽出によって、抽出されないものとなるように被覆処理することが好ましい。即ち、最初の被覆処理に使用するシリコーンオイルの全量がシリカ表面に化学的に付着され、遊離シリコーンオイルに含まれないように被覆処理することが好ましい。このように被覆処理するためには、基材となるシリカに、先ず、予め多量のシリコーンオイルを使用して加熱反応または焼付け処理し、得られた表面処理シリカを抽出処理して、そのシリコーンオイルが化学的に付着される最大量を求めておけばよい。そして、その最大量以下のシリコーンオイルが被覆されるように調整してやればよい。例えば、直鎖状のジメチルシリコーンオイルを親水性のフュームドシリカに被覆する場合、遊離シリコーンオイルに該ジメチルシリコーンオイルが含まれない量、即ち、シリカ表面に化学的に付着できる最大量は、基材シリカ100質量部に対して表面積100m当り8〜10質量部程度である。
【0055】
本発明において、最初のシリコーンオイル以降の被覆処理に使用するシリコーンオイルは、得られる表面被覆シリカの遊離シリコーンオイルが、被覆した全シリコーンオイルの5〜95質量%となるように、表面処理シリカに被覆処理される。即ち、最初のシリコーンオイルと種類の異なるシリコーンオイルの処理量等は、得られる表面被覆シリカの遊離シリコーンオイルが、被覆した全シリコーンオイルの5〜95質量%となるように決定される。通常、シリコーンオイル処理前の基材となる親水性シリカの表面積100m当り0.5〜50質量部程度、好ましくは1〜30質量部とするのが、その機能を発現し、かつ、先のシリコーンオイルの性能も十分シリカ粒子に付与できるため好ましい。さらに、第3、第4のシリコーンオイルを使用する場合も、被覆処理に使用するシリコーンオイルの総量が基材シリカ100質量部に対して1〜40質量部程度の範囲とすることが目安となる。
【0056】
本発明においては、最初のシリコーンオイルとして、アミノ変性シリコーンオイルを使用することが、帯電性を低負帯電に制御しつつ、環境安定性を維持することができるため、特に好ましい。例えば、先のシリコーンオイルとして、アミノ変性シリコーンオイルを使用して効果的にシリカ粒子表面の負帯電性を抑制しつつ、次いで、次のシリコーンオイルとして、ジメチルシリコーンオイルなどの疎水性の高いものを使用することが好ましい。このような態様とすることによって、従来のアミノ変性シリコーンオイルとジメチルシリコーンオイルの混合処理では実現することができなかった湿度に対する耐性が図られ、優れた帯電の環境安定性を達成することができる。
【0057】
さらに、本発明の表面被覆シリカが、一定量の遊離シリコーンオイルを保持し、疎水性が高く、優れた環境安定性を発揮しつつ、凝集粗粒量を低減するためには、以下の方法により製造されることが好ましい。基材となるシリカをミキサーに入れて撹拌し、その中へ最初のシリコーンオイルとしてオクタメチルシクロテトラシロキサンなど比較的沸点の低いシリコーンオイルの蒸気を加熱下に導入して化学的付着量以下の表面被覆を実施した後、次いで、遊離シリコーンオイルとして転写性や環境安定性に効果のある比較的沸点や粘度が高いジメチルシリコーンオイルを、所定の遊離量となるように被覆することが好ましい。
【0058】
表面被覆シリカの凝集粗粉は、被覆処理の操作において比較的分子量の大きい高分子で液状のシリコーンオイルをシリカ粉体と混合することによって形成されると推定され、ガス状の疎水化剤を表面処理した場合は、凝集粗粉量を比較的低減しやすい。また、一方では、転写性や環境安定性を達成するには電子写真システム毎に必要とされる一定量の遊離シリコーンオイルがある。したがって、上記のような手法で、蒸気状のシリコーンオイルを最初に表面被覆して凝集粗粒の生成を抑制しつつ、次いで、第2のジメチルシリコーンオイルを所定の遊離量となるように表面被覆することで帯電性能などを発揮することが好ましい。
【0059】
(トナー用途)
本発明の表面被覆シリカは、特に、複写機やレーザープリンター等に使用される電子写真用乾式トナーの外添剤として有用である。本発明の製造方法で得られた表面被覆シリカは、黒トナー、及び、カラートナーのいずれにも適用可能な外添剤である。
【0060】
また、トナー粒子の製造方法は特に限定されず、混錬粉砕法で製造してもよいし、懸濁重合や乳化重合等の重合法や溶解懸濁法で製造される、いわゆるケミカルトナーであってもよい。
【0061】
トナーを構成する結着樹脂としては、一般にトナーを製造する際に使用されている合成樹脂を何ら制限なく使用することができる。具体的には、ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、クロロポリスチレン、スチレン−クロロスチレン共重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−塩化ビニル共重合体、スチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−クロルアクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−ビニルメチルエーテル共重合体等のスチレン系樹脂でスチレン又はスチレン置換体を含む単重合体又は共重合体や、その他、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン変成エポキシ樹脂、シリコーン変成エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、フェニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ケトン樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合体、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族又は脂環族炭化水素樹脂等が挙げられ、これらを電子写真システムに応じて単独又は複合して使用しても何ら問題はない。
【0062】
本発明の表面被覆シリカは、このようにして得られたトナー粒子に対して、所望する特性となるような量を添加してやればよい。通常、トナー粒子に対して0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜4重量%になるような配合で添加される。更に、必要に応じてその他の微粒子とともに、公知の方法、例えば、ヘンシェルミキサー等の高速撹拌機を用いて混合することにより外添される。
【0063】
本発明の表面被覆シリカをトナー用外添剤として使用する際、トナー外添剤以外の添加剤として、本発明のシリカ以外の疎水化シリカや、チタニア、アルミナ、酸化亜鉛、酸化錫等のシリカ以外の金属酸化物微粒子、さらに、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、ステアリン酸亜鉛等の無機微粒子等を併用して使用することもできる。また、有機微粒子として、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、グアナミン系樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂等の樹脂微粉末を定着助剤、抵抗調節剤、滑剤として併用することもできる。
【0064】
また、本発明の表面被覆シリカを電子写真トナー用外添剤として使用する場合、磁性一成分、非磁性一成分、二成分等のいずれの電子写真システムにも対応可能である。二成分現像剤として用いる場合、キャリアとしては、鉄粉、マグネタイト粉、フェライト粉等の磁性物質またはそれらの表面に樹脂コーティングを施したものや磁性キャリア等公知のものを用いることができる。樹脂コーティングキャリアの被覆樹脂としてはスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレンアクリル共重合系樹脂、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが一般的である。
【0065】
さらに、本発明の表面被覆シリカをトナー用外添剤として使用するにあたって、その他のトナーの構成材料に関しても、上記以外の公知のものを任意に配合したトナーに対して適用することができる。たとえば、カーボンブラック等の黒の着色剤やシアン、マゼンタ、イエロー等のカラー着色剤、正帯電及び負帯電の帯電制御剤、ワックス等の離型剤も当該分野で通常使用される材料を使用したトナーに対しても、何ら制限なく、本発明の製造方法により得られた表面被覆シリカをトナー用外添剤として使用することができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
【0067】
本発明における諸物性値の測定方法は、以下の通りである。
【0068】
(炭素、窒素の含有量)
表面被覆シリカの炭素及び窒素含有量は、住化分析センター社製のSUMIGRAPHNC−22型で測定した。
【0069】
(シリコーンオイルのクロロホルム抽出)
クロロホルム40mLに表面被覆シリカ試料1.0gを懸濁させ、超音波分散機にて30分間分散させた後、遠心分離機にてシリカを分離回収した。分離したシリカにさらにクロロホルムを加え、超音波分散、遠心分離の操作を合計3回繰り返した。その後、減圧乾燥により回収したシリカに残存するクロロホルムを除去した。こうして得られたシリカに残存する炭素含有量、窒素含有量を測定して、遊離シリコーンオイル量の算出および最初のシリコーンオイルが遊離したか否かを確認した。
【0070】
具体的には、ジメチルシロキサンを主鎖とするシリコーンオイル(構造式:−(Si(CH−O)−)では、元素分析により得られた炭素含有量を被覆処理されたシリコーンオイル量へ換算した。クロロホルムによる抽出前後のシリカの炭素含有量から、各々、被覆処理された全シリコーンオイル量、及び、遊離シリコーンオイルが抽出除去された後の残留シリコーンオイル量(すなわち、化学的に付着しているシリコーンオイル量)を算出し、もって遊離シリコーンオイル量の割合を確認した。
【0071】
(疎水性の評価)
容量250mLのビーカーに、水50mL、メタノール50mLを入れ、シリカ試料0.2gを加え、マグネティックスターラーで攪拌した。これにビューレットを使用してメタノールを滴下し、試料粉末の全量がビーカー内の溶媒に濡れて懸濁した時点を終点として、滴定をした。この際メタノールが直接試料に触れない様に、チューブで溶液内に導いた。終点におけるメタノール−水混合溶媒中のメタノールの容量%を疎水度(M値)として表わした。
【0072】
(凝集粗粉量 トナー用外添剤としての特性)
100mLの樹脂瓶に、粒径1mmのガラスビーズ75g、架橋アクリル樹脂粉(綜研化学社製MX−1000、平均粒子径10μm)25g、シリカ試料0.5gを入れ、3分間振盪混合した。この混合粉を2段に重ねた750μm、45μm目開きの篩に通した後、45μm目開きの篩上に残留したシリカの重量を測定して、投入したシリカに対する割合を算出した。これをシリカの凝集粗粒量とした。
【0073】
(帯電量測定 トナー用外添剤としての特性)
スチレン−アクリル樹脂を粉砕分級し、平均粒径8μmとした樹脂粉末試料に対して、表面被覆シリカを2重量%となるように混合して擬似トナーを作製した。この擬似トナー1gとフェライトキャリア99gを入れたサンプル瓶を2本準備し、各々、高温高湿条件及び低温低湿条件とした恒温恒湿槽で24時間調湿した。高温高湿条件としては35℃、85%相対湿度、低温低湿条件としては10℃、15%相対湿度の設定とした。調湿した該サンプル瓶を卓上ローラーミルにて60分間にわたり100rpmで回転、混合した後、東芝ケミカル(株)社製ブローオフ粉体帯電測定装置TB−200型にてブローガス圧0.1MPa、ブロー時間30秒間の条件で帯電量を測定した。
【0074】
環境安定性は、以下の式1による指標を算出して評価した。指標値が小さいほど、帯電量の環境変動による影響が小さく、安定性が高いと評価できる。
(環境安定性指標)=(LL−HH)/(LL+HH)×2 (式1)
ここで、LL:低温低湿環境下での帯電量、HH:高温高湿環境下での帯電量を表わす。
【0075】
実施例1
比表面積200m/gの親水性フュームドシリカ100質量部をミキサーに入れて撹拌し、窒素雰囲気に置換すると同時に、250℃に加熱した。撹拌、保温を継続してシリカの流動状態を保ったまま、スプレーノズルを使用して最初のシリコーンオイルとして、第1のアミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−857)4質量部を噴霧、混合した。その後、加熱、撹拌を1時間継続することによって被覆処理した。引き続いて、種類の異なるシリコーンオイルとして、第2のジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−96−50CS)16質量部を噴霧処理し、さらに同様に1時間の被覆処理を実施して、表面被覆シリカを得た。得られた表面被覆シリカをクロロホルムにより抽出した結果、クロロホルム抽出前後における表面被覆シリカの窒素含有量は変わらず、アミノ変性シリコーンオイルは抽出されなかった。また、クロロホルム抽出前後の炭素含有量を測定し、被覆した全シリコーンオイル中の遊離シリコーンオイルの量を求めた。その結果を表1に示す。また、得られた表面被覆シリカを使用して、上記の方法により帯電量を測定した結果を表2に示した。
【0076】
実施例2
第1のアミノ変性シリコーンオイルを9質量部、第2のジメチルシリコーンオイルを11質量部とする以外は、実施例1と同様の処理操作を実施して表面被覆シリカを得た。得られた表面被覆シリカの特性を表1に示し、帯電量を測定した結果を表2に示した。
【0077】
実施例3
第1のアミノ変性シリコーンオイルとして信越化学工業社製 KF−393を使用し、これを3質量部とし、第2のジメチルシリコーンオイルを17質量部とする以外は、実施例1と同様の処理操作を実施して表面被覆シリカを得た。得られた表面被覆シリカの特性を表1に示し、帯電量を測定した結果を表2に示した。
【0078】
比較例1
比表面積200m/gの親水性フュームドシリカ100質量部をミキサーに入れて撹拌し、窒素雰囲気に置換すると同時に、250℃に加熱した。撹拌、保温を継続してシリカの流動状態を保ったまま、スプレーノズルを使用して、ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−96−50CS)20質量部を噴霧、混合した。その後、250℃での加熱、撹拌を1時間継続することによって被覆処理を実施した。得られた表面被覆シリカの特性を表1に示し、帯電量を測定した結果を表2に示した。
【0079】
比較例2〜4
比表面積200m/gの親水性フュームドシリカ100質量部に対して、アミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−857)の濃度が各々10重量%、30重量%、45重量%となるようにジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−96−50CS)と混合した混合シリコーンオイル処理液20質量部を処理する以外は、比較例1と同様の操作を実施した。得られた表面被覆シリカの特性を表1に示し、帯電量を測定した結果を表2に示した。
【0080】
比較例5
処理温度を室温とする以外は、実施例2と同様の操作を実施した。得られた表面被覆シリカの特性を表1に示し、帯電量を測定した結果を表2に示した。
【0081】
比較例6
比表面積200m/gの親水性フュームドシリカ100質量部に対して、第1のアミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−857)4質量部、その後、第2のジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−96−50CS)6質量部を被覆処理した以外は、実施例1と同様の操作を実施した。得られた表面被覆シリカの特性を表1に示し、帯電量を測定した結果を表2に示した。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
表1にあるように、クロロホルムによる溶媒抽出後の窒素含有量は、抽出前後で変化していない。したがって、最初に処理したアミノ変性シリコーンオイルは全量が化学的に付着していることが確認された。これに対して、比較例2〜5では、溶媒抽出後に窒素含有量が大幅に減量しており、遊離成分にアミノ変性シリコーンオイルが含まれることを示した。また、比較例6では、クロロホルム抽出前後で炭素含有量、窒素含有量ともに変化がなく、シリコーンオイルが遊離しなかった。
【0085】
図1は、実施例1〜3、および、比較例1〜4の帯電レベル(低温低湿、高温高湿環境下における帯電量測定値の平均)に対して環境安定性指標をプロットしたものである。図1からわかるように、実施例では、同一帯電レベルでの環境安定性指標が、比較例に比べて小さい。帯電レベルを低負帯電量へ調整するためアミノ基を導入した場合、混合シリコーンオイルで表面処理するよりも、本発明の方法で製造したほうが帯電の環境安定性が高いといえる。また、比較例5、6の環境安定性は、実施例と比較して環境安定性に劣っていることが明らかである。
【0086】
実施例4
比表面積200m/gの親水性フュームドシリカ100質量部をミキサーに入れて撹拌し、窒素雰囲気に置換すると同時に、250℃に加熱した。撹拌、保温を継続しシリカの流動状態を保ったまま、スプレーノズルを使用して第1のアミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−857)2.5質量部を噴霧、混合した。その後、加熱、撹拌を1時間継続して、被覆処理した。続いて、第2のカルボキシル変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 X−22−3710)1.5質量部を噴霧処理し、さらに1時間の被覆処理をした。さらに、同様にして、第3のジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−96−50CS)16質量部の被覆処理を実施して、表面被覆シリカを得た。得られた表面被覆シリカの特性を表1に示し、帯電量を測定した結果を表2に示した。
【0087】
比較例7
アミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−857)とカルボキシル変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 X−22−3710)を同量ずつ容器に移し、混ぜ合わせたところゲル状物質が生成した。
【0088】
さらに、ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−96−50CS)100gを容器に取り、アミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−857)10gを加えて混合オイルを調製し、この中へさらにカルボキシル変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 X−22−3710)10gを加えて、混合した。約1時間の静置の後に観察すると、ゲル状物質の生成が認められ、再度強く撹拌しても溶解することはなかった。
【0089】
実施例4は、アミノ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイルを順次3段階で処理したものである。これに対して、比較例7からわかるように、この3種のシリコーンオイルを混合しても、アミノ変性シリコーンオイルとカルボキシル変性シリコーンオイルからなるゲル状物質が生成したため、被覆処理を実施できなかった。
【0090】
実施例4の諸測定値も表1に示し、帯電レベルに対する環境安定性指数も図1にプロットした。この3元系は、従来技術であるシリコーンオイルの混合では実現できなかった組合せであるとともに、帯電の環境安定性が改善されることがわかる。
【0091】
実施例5
比表面積60m/gの親水性フュームドシリカ100質量部を基材として使用し、第1のアミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−857)を3質量部、第2のジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−96−50CS)を17質量部とする以外は実施例1と同様の操作を実施して、表面被覆シリカを得た。得られた表面被覆シリカの特性を表3に示し、帯電量を測定した結果を表4に示した。
【0092】
比較例8
比表面積60m/gの親水性フュームドシリカ100質量部に対して、アミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−857)の濃度が15重量%となるようにジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−96−50CS)で希釈した混合処理液20質量部を処理する以外は、比較例1と同様の操作を実施した。得られた表面被覆シリカの特性を表3に示し、帯電量を測定した結果を表4に示した。
【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
実施例6
比表面積200m/gの親水性フュームドシリカ100質量部をミキサーに入れて撹拌し、窒素雰囲気に置換すると同時に、280℃に加熱した。撹拌、保温を継続しシリカの流動状態を保ったまま、ミキサーを密閉し、最初のシリコーンオイルとして、加熱気化させたオクタメチルシクロテトラシロキサン(信越化学工業社製 KF−994)をゲージ圧が100kPaとなるまで導入した。加熱、撹拌を1時間継続した後、ミキサーを開放して脱圧した。
【0096】
この処理途中段階で一部をサンプリングしたところ、炭素含有量は2.2%であり、溶媒抽出後も炭素含有量は変化しなかった。クロロホルム中にもオクタメチルシクロテトラシロキサンは含まれていなかった。
【0097】
続いて、スプレーノズルを使用して、第2段目のジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−96−50CS)15質量部を噴霧処理し、1時間の焼付け処理の後、回収した。得られた表面被覆シリカの特性を表5に示し、上記方法に従い帯電量データ、凝集粗粉量を表6に示した。
【0098】
比較例9
比表面積200m/gの親水性フュームドシリカ100質量部に対して、ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−96−50CS)30質量部を噴霧、および、被覆処理する以外は、比較例1と同様の操作を実施した。得られた表面被覆シリカの特性を表5に示し、帯電量データ、凝集粗粉量を表6に示した。
【0099】
【表5】

【0100】
【表6】

【0101】
以上の実施例6および比較例9で得られた表面被覆シリカの測定値を表5および6にまとめて示す。実施例6と比較例9は、クロロホルムによる抽出操作から遊離シリコーンオイル量が同量になったことが確認された。実施例6は、比較例9と比較して、疎水度が同程度で、帯電レベルに差は見られず、環境安定性も同等程度であったが、凝集粗粉量が低減されていた。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】実施例1〜4、比較例1〜4を添加した擬似トナーの低温低湿環境、高温高湿環境における帯電量の平均値に対して環境安定性指標をプロットした図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種類の異なる2種類以上のシリコーンオイルで被覆処理した表面被覆シリカであって、被覆した全シリコーンオイルのうちクロロホルムにより抽出されるシリコーンオイルの量が5〜95質量%であり、かつ、少なくとも1種類のシリコーンオイルが、前記抽出されるシリコーンオイル中に含まれないことを特徴とする表面被覆シリカ。
【請求項2】
前記抽出されるシリコーンオイルに含まれないシリコーンオイルが、アミノ変性シリコーンオイルであることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆シリカ。
【請求項3】
基材となるシリカを種類の異なる2種類以上のシリコーンオイルで順次、被覆処理する表面被覆シリカの製造方法であって、最初のシリコーンオイルを基材と混合し、150℃以上の温度で被覆処理した後、次いで、最初のシリコーンオイルとは種類の異なるシリコーンオイルで被覆処理することを特徴とする表面被覆シリカの製造方法。
【請求項4】
最初のシリコーンオイルを、クロロホルムにより抽出されないように被覆処理した後、次いで、最初のシリコーンオイルとは種類の異なるシリコーンオイルを、被覆した全シリコーンオイルのうちクロロホルムにより抽出されるシリコーンオイルの量が5〜95質量%となるように被覆処理することを特徴とする請求項3記載の表面被覆シリカの製造方法。
【請求項5】
最初のシリコーンオイルがアミノ変性シリコーンオイルを含むものであることを特徴とする請求項3または4記載の表面被覆シリカの製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の表面被覆シリカよりなるトナー用外添剤。

【図1】
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【公開番号】特開2007−176747(P2007−176747A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377371(P2005−377371)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】