説明

表面親水性ポリオレフィン成形体およびその製造方法

【課題】ポリオレフィンが有する加工性、耐薬品性および機械的強度などの物性を実質的に損なわずに、高度な親水性で、かつ、経時的低下の少ない親水性基が付与されたポリオレフィン成形体および該ポリオレフィン成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン成形体の表面の少なくとも一部に、ポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層が形成されていることを特徴とする表面親水性ポリオレフィン成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度の親水性および導電性を有する表面親水性ポリオレフィン成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンは、加工性、耐薬品性、機械的強度および透明性などの物性が優れているために、フィルム、シートおよび容器などをはじめとする各種成形品として広く使用されている。しかしながら、ポリオレフィンは疎水性であるために、成形品の表面を塗装する必要があるなど、用途によっては、そのままでは対処できないという問題があった。
【0003】
ポリオレフィン成形品の表面の親水性を高くするために、熱処理、波動エネルギーまたは粒子線による処理、プラズマ重合あるいはコロナ処理など、さまざまな表面処理が試みられており、それぞれに一応の成果を上げている。しかしながら、例えば、ポリプロピレンなどの熱分解型のポリオレフィン成形品にコロナ処理を行った場合、処理後、経時的に親水性が低下する傾向がみられ、親水性が不足しているという問題を充分に解決しているとはいえない。経時的に親水性が低下する原因としては、熱分解型ポリオレフィン成形品の成形時に生成した低分子量重合体が経時的に表面にブリードアウトし、これがコロナ処理面を覆うためと考えられている。また、プラズマ重合による表面処理では、モノマー連鎖重合体の単位で重合するのではなく、モノマーを形成する原子が重合し、該原子の再配列が重合過程で盛んに起きる。その結果、生じたポリマーの分子構造と出発物質のモノマーの分子構造とは構造上の類似性が極めて低いことが知られている(非特許文献1参照)。したがって、モノマーの官能基に基づいて発現する物性をポリオレフィン成形体表面に反映させることが難しい場合があった。
【0004】
また、高分子物質に紫外線照射により高親水性モノマーをグラフト化させる方法が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、一般に紫外線照射では、ポリオレフィンのような炭素−炭素結合または炭素−水素結合のみからなる高分子の結合を解離しラジカルを発生させることは難しい(非特許文献2参照)。そのため、ベンゾフェノンのような光増感剤等の添加が必要となるが、この場合、ポリオレフィン表面のみならず、よりラジカルを発生しやすいモノマー分子のラジカル発生を促進させ、非グラフト化ポリマーが生成するという問題がある。また、ポリオレフィン表面に発生したラジカルの重合反応もフリーラジカル機構で進行するため、分子量や分子量分布をコントロールすることが難しいという問題があった。
【0005】
一方、ポリオレフィンフィルム表面に導入した重合開始基から極性モノマーを制御ラジカル重合(controlled radical polymerization)することで(メタ)アクリルエステル
やアクリルアミドを表面にグラフト化したポリオレフィンフィルムを調製する方法が報告されている。非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5参照)。これらの方法は、ポリオレフィンフィルム表面のみを極性モノマー重合体に導入することを可能にし、先に述べたブリードアウトの問題が改善されるか、あるいは、単独重合体生成等の副反応が抑えられる温和な表面改質方法だといえる。しかしながら、いずれの技術も、ポリオレフィン成形体表面の高親水性化という観点からは、必ずしも充分であるとはいえなかった。
【特許文献1】特開2003−310649号公報
【非特許文献1】H. Yasuda, Glow Discharge Polymerization, <Contemporary Topics in Polymer Science>, Vol.3, ed. by Mitchel Shen, Plenum Pub. Co., New York(1979)
【非特許文献2】K. Tsuji, Journal of Polymer Science, 467 11 (1973)
【非特許文献3】J.Polym.Sci, Part A: Polymer Chemistry 40, 3350-3359(2002)やPolymer, 44,7661-7669(2003)
【非特許文献4】Polymer, 44,7645-7649 (2003)
【非特許文献5】J. Appl. Polym. Sci., 92, 1589-1595 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、親水性、導電性が付与されたポリオレフィン成形体および該ポリオレフィン成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリオレフィン成形体の表面にポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層を形成させて得られた成形体が優れた表面親水性および導電性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の事項を含む。
〔1〕ポリオレフィン成形体の表面の少なくとも一部に、ポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層が形成されていることを特徴とする表面親水性ポリオレフィン成形体。
〔2〕前記ポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層が共有結合を介して形成されていることを特徴とする〔1〕に記載の表面親水性ポリオレフィン成形体。
〔3〕表面に重合開始基を有するポリオレフィン成形体と、ポリエーテル基含有モノマーとをラジカル重合して得られた表面親水性ポリオレフィン成形体。
〔4〕気温23℃、湿度50%の条件下で測定される、ポリオレフィン成形体の水接触角(θPO)と、表面親水性ポリオレフィン成形体の水接触角(θCPI)との関係がθCPI<θPOであることを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の表面親水性ポリオレフィン成形体。
θCPI<θPO
〔5〕ポリエーテル基含有モノマーを、ポリオレフィン成形体の表面の少なくとも一部で重合させてポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層を形成させることを特徴とする表面親水性ポリオレフィン成形体の製造方法。
〔6〕前記ポリオレフィン成形体の表面の少なくとも一部に、重合開始基を導入する工程と、表面に重合開始基を導入された該ポリオレフィン成形体と、ポリエーテル基含有モノマーとを重合して、該ポリオレフィン成形体の表面にポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層を形成させる工程とからなることを特徴とする〔5〕に記載の表面親水性ポリオレフィン成形体の製造方法。
〔7〕前記重合が制御ラジカル重合であることを特徴とする〔5〕または〔6〕に記載の表面親水性ポリオレフィン成形体の製造方法。
〔8〕前記重合が原子移動ラジカル重合であることを特徴とする〔5〕〜〔7〕のいずれかに記載の表面親水性ポリオレフィン成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高度な親水性および導電性を有する表面親水性ポリオレフィン成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体は、ポリオレフィン成形体の表面の少なくとも一部に、ポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層が形成されていることを特徴としている。
【0011】
本発明に係るポリオレフィン成形体は、ポリオレフィン樹脂またはポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物を圧縮成形、射出成形、押出成形、押出しラミネート成形、インフレーション加工、熱成形、プレス成形または中空成形するか、あるいはこれらの方法を用いて成形した後さらに二次加工して得られるものであり、形状を保持できるものである。
【0012】
本発明に係るポリオレフィン成形体は、その表面の一部または全部にポリオレフィン樹脂が露出している成形体であって、この要件を満たすのであれば、ポリオレフィン以外の材料と組み合わせた複合加工品であってもよい。
【0013】
本発明に係るポリオレフィン成形体を構成するポリオレフィン樹脂は、エチレンおよび/またはα−オレフィンの単独重合体または共重合体であり、具体的には、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、エチレン系エラストマー、プロピレン系エラストマー、イソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレンおよび高圧法低密度ポリエチレンならびに上記重合体とアクリル酸、アクリル酸エステルまたは酢酸ビニルとの共重合体;ポリオレフィン系アイオノマー;4−メチル−1−ペンテン(共)重合体;エチレン・環状オレフィン共重合体;エチレンおよび/またはα−オレフィンと極性基含有モノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0014】
また、ポリオレフィン樹脂はその一部または全部が架橋して3次元ネットワーク構造を形成していてもよいし、上記重合体の2種類以上がブロック的に結合したものであってもよいし、グラフト状に結合したものであってもよいし、モノマーの組成を傾斜的に変化させた重合させたものであってもよいし、過酸化物の存在下でアクリル酸エステルや無水マレイン酸などでグラフト変性したものであってもよい。また、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリオレフィン樹脂以外の樹脂成分を含有させたものであってもよい。これらのポリオレフィン樹脂は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明に係るポリオレフィン成形体を構成するポリオレフィン樹脂またはポリオレフィン樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、軟化剤、安定剤、充填剤、酸化防止剤、結晶核剤、ワックス、増粘剤、機械的安定性付与剤、レベリング剤、濡れ剤、造膜助剤、架橋剤、防腐剤、防錆剤、顔料、充填剤、分散剤、凍結防止剤および消泡剤等が挙げられる。これらは1種単独で、または2種類以上添加することができる。
【0016】
本発明に係るポリオレフィン成形体は市販されているものを用いてもよく、例えば、F113G((株)プライムポリマー製、ポリプロピレン二軸延伸フィルム)、オピュラン(三井化学(株)製メチルペンテンコポリマー)およびアペルAPL6011T(三井化学(株)製環状オレフィンコポリマー)などを用いることができる。
【0017】
本発明に係るポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層は、ポリエーテル基含有モノマーを単独重合あるいは共重合して得られる層である。
上記ポリエーテル基含有モノマーの基本構造となるビニル系モノマーは、1分子中に1以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物であり、アニオン重合またはラジカル重合が可能なモノマーである。ビニル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル系モノマー、メタクリル酸エステル系モノマー、スチリル系モノマーおよび(メタ)アクリルアミド系モノマー等が挙げられる。
【0018】
ポリエーテル基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸ジエチレングリコール、アクリル酸メトキシエトキシエチル、アクリル酸エトキシエトキシエチル、アクリル酸メトキシトリエチレングリコール、アクリル酸エトキシトリエチレングリコール、エチレングリコールユニット数が
4以上のアクリル酸ポリエチレングリコール、アクリル酸末端アルコキシポリエチレングリコール、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸ジエチレングリコール、メタクリル酸メトキシエトキシエチル、メタクリル酸エトキシエトキシエチル、メタクリル酸メトキシトリエチレングリコール、メタクリル酸エトキシトリエチレングリコール、エチレングリコールユニット数が4以上のメタクリル酸ポリエチレングリコールおよびメタクリル酸末端アルコキシポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0019】
本発明では、上記のポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体からなる層が、ポリオレフィン成形体の表面上に形成される。本発明では、ポリエーテル基含有モノマーの単独重合体をポリオレフィン成形体の表面にグラフト化してもよいし、2種類以上のポリエーテル基含有モノマーを共重合させて得られた重合体をグラフト化してもよい。また、ポリエーテル基含有モノマーの特徴である親水性が発現する限り、その他のビニル系モノマーとの共重合体をグラフト化してもよい。ポリエーテル基含有モノマーを他のビニル系モノマーと共重合させる場合、ポリエーテル基含有モノマーはランダムに共重合させても、ブロック的に共重合させても、傾斜的に共重合させてもよい。
【0020】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体セグメントの分子量は、通常200〜1,000,000g/mol、好ましくは
2,000〜1,000,000g/molである。分子量が上記範囲にあると成型体の
機会物性を損なうことなく、良好に導電性を発現するので好ましい。
【0021】
本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体では、ポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層が、ポリオレフィン成形体の表面上に膜状に形成されているのが望ましい。ポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層の膜厚は、特に制限されないが、好ましくは10〜200nmの膜厚である。膜厚が上記の範囲にあると、ポリオレフィン成形体にポリエーテル基含有モノマーの有する親水性を充分に付与することができるので好ましい。
【0022】
ポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層は、ポリオレフィン成形体の表面上に形成されていればよいが、より好ましくは、少なくともポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体の末端が、ポリオレフィン成形体の表面に露出しているポリオレフィン樹脂鎖と共有結合によって形成されていることが望ましい。この共有結合は、ポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体とポリオレフィン成形体の表面に露出しているポリオレフィン鎖との直接結合であることが望ましいが、ポリオレフィン成形体の表面を導電性を損なわない程度に被覆した短いスペーサーを介して結合したものであってもよい。なお、ポリオレフィン成形体の表面をスペーサーで被覆する場合、スペーサーの重量はポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体の重量の5%未満であることが望ましい。
【0023】
上述のようにして得られた本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体は高度な親水性および表面濡れ性を有し、また、導電性を示す。
本発明では、純水による接触角試験におけるポリオレフィン成形体の接触角(θPO)と、表面親水性ポリオレフィン成形体の接触角(θCPI)との関係がθCPI<θPOであ
り、好ましくはθCPI<θPO*0.9であり、より好ましくはθCPI<θPO*0.8で
ある。θCPI≧θPOである場合は、表面親水性ポリオレフィン成形体はポリオレフィン
成形体と比べ親水性が向上していないので、金属をはじめ種々の極性物質との親和性に乏しく、そのため用途も制限される。
【0024】
本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体の表面固有抵抗率は、ポリオレフィン成形体の表面固有抵抗率より小さい。表面固有抵抗率の測定方法は、例えば、日本工業規格(JIS)のK6911に準じて測定することができる。成形体表面の抵抗率が小さいと導電
性を発現するのに有利である。本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体の表面固有抵抗率は1×1014Ω・cm以下であり、好ましくは1×102〜1×1013Ωであり、より
好ましくは1×103〜1×1012Ωである。固有表面抵抗率が1×1014Ω以上である
場合、導電性を発現することが困難となる場合がある。なお、本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体の固有抵抗率の下限は、所望の物性を損なわない限り特にない。
【0025】
本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体は、ポリオレフィン成形体の表面上に存在する重合開始基を開始反応点として、上記のポリエーテル基含有モノマーを重合させて、ポリオレフィン成形体の表面上にポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層を形成させることにより製造することができる。
【0026】
本発明の製造方法では、ポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層の形成するに際して、表面に重合開始基を有するポリオレフィン成形体を用いてもよいし、ポリオレフィン成形体の表面の少なくとも一部に重合開始基を導入して用いてもよい。ポリオレフィン成形体の表面に重合開始基を導入する方法は、あらかじめ重合開始基を導入したポリオレフィン樹脂を成形してもよいし、ポリオレフィン成形体に低分子または高分子の重合開始基を表面修飾させてもよい。また、重合開始基が導入され、かつ、フィルムやシートの形態に成形されたポリオレフィン樹脂を他の樹脂フィルム成形体、金属、紙および木材などに積層したものに双極イオン性ビニル系モノマーを重合させてもよい。
【0027】
表面に重合開始基を有するポリオレフィン成形体と、ポリエーテル基含有モノマーとを重合させる方法としては、イオン重合法やラジカル重合法などが挙げられるが、イオン重合法はポリエーテル基含有モノマーの重合活性点が被毒化を受ける場合があるので、ラジカル重合法が用いるのが好ましい。
【0028】
ポリオレフィン成形体にポリエーテル基含有モノマーをグラフト化するグラフト重合の方法としては、有機過酸化物等のラジカル発生剤を作用させる方法あるいはX線照射、ガンマ線照射、電子線照射、マイクロ波または紫外線照射等を用いてグラフト化させる方法が知られており、これらの方法によって本発明に係るポリエーテル基含有モノマーを導入することができる。しかしながら、これらの方法では、(1)グラフト化していないビニルモノマーホモ重合体が生成してしまう(2)基材フィルムの表面上にポリエーテル基含有モノマーが高密度にグラフト化されたり、高分子量化し難い等の問題点を有する場合がある。
【0029】
このような問題点を解決する製造方法として、制御ラジカル重合の適用が挙げられる。制御ラジカル重合とは、従来の過酸化物添加系によるフリーラジカル重合技術と異なり、重合系中のラジカル濃度を低く抑えることで、停止反応や連鎖移動反応などの副反応を抑えたラジカル重合技術である。本方法によれば、しばしば重合がリビング重合様に進行することから、高分子量でかつ分子量分布の狭いセグメントを得ることができる。
【0030】
本発明に適用される制御ラジカル重合法としては、Trend Polym. Sci.,(1996), 4, 456 に開示された方法であってニトロキシドを有する基と結合し、熱的な開裂によりラジ
カルを発生させてモノマーを重合させる方法(NMRP: Nitroxide-Mediated Radical Polymerization)や原子移動ラジカル重合(ATRP:Atom Transfer Radical Polymerization)方
法が挙げられる。このうち原子移動ラジカル重合方法とは、Science,(1996),272,866、Chem. Rev., 101, 2921 (2001)、WO96/30421号公報、WO97/18247号公報、WO98/01480号公報、WO98/40415号公報、WO00/156795号公報、あるいは澤本ら、Chem. Rev., 101, 3689 (2001)、特開平8-41117号公報、特開平9-208616号公報、特開2000-264914号公報、特開2001-316410号公報、特開2002-80523号公報および特開2004-307872号公報に開示された方法で
あって、有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤とし、遷移金属を
中心金属とする金属錯体を触媒として、ラジカル重合性単量体をラジカル重合する方法または可逆的付加−開裂連鎖移動重合(RAFT :Reversible Addition Fragmentation Chain
Transfer)する方法をいう。
【0031】
上記の制御ラジカル重合法のうち、原子移動ラジカル重合方法は、ラジカル重合開始基の導入が容易であること、および選択できるモノマー種が豊富であることから、本発明に係る重合体セグメントを導入するのに有効な重合方法である。
【0032】
原子移動ラジカル重合法を用いた製造方法についてさらに具体的に説明する。
Science,(1996),272,866等に開示されるように、原子移動ラジカル重合を開始するには、基材フィルムの表面にハロゲン原子が結合した部位を有していることが必要であり、しかも、該ハロゲン原子の結合解離エネルギーは小さい方がよい。例えば、3級炭素原子に結合したハロゲン原子、ビニル基、ビニリデン基およびフェニル基などの炭素−炭素不飽和結合に隣接する炭素原子に結合したハロゲン原子あるいはカルボニル基、シアノ基およびスルホニル基等の共役性の基に直接またはこれらの共役性の基に隣接する原子に結合したハロゲン原子が存在していることが好ましい。
【0033】
このような原子移動ラジカル重合開始能を有するハロゲン原子を基材フィルムの表面に導入する方法としては、官能基変換法や直接ハロゲン化法などが挙げられる。
官能基変換法は、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、ビニル基およびシリル基等の官能基が基材フィルムの表面に存在する場合に好ましく適用される。これらの官能基を原子移動ラジカル重合開始剤の構造に変換する方法は、例えば、特開2004-131620号公報に
開示され、水酸基含有ポリオレフィンを2−ブロモイソ酪酸ブロミドのような低分子化合物で修飾することにより原子移動ラジカル重合開始能を有する表面ハロゲン化フィルムを得る方法が開示されている。
【0034】
直接ハロゲン化法は、ハロゲン化剤を基材フィルムの表面に直接作用させ、炭素−ハロゲン結合を有するハロゲン化ポリオレフィンを得る方法である。使用するハロゲン化剤や導入するハロゲン原子の種類は特に限定されるものではないが、原子移動ラジカル重合開始骨格の安定性と開始効率とのバランスを考えると、臭素原子を導入した臭素化ポリオレフィンを得る方法が好ましい。ハロゲン化ポリオレフィンの製造に用いるハロゲン化剤としては、臭素やN-ブロモスクシンイミド(NBS)などが挙げられる。臭素化については、
例えば、G. A. RusselらによりJ. Am. Chem. Soc., 77, 4025 (1955) に開示された、臭
素を光照射下で反応させてアルケンを臭素化させる光臭素化反応、P. R. Schneinerらに
よりAngew. Chem. Int. Ed. Engl., 37, 1895 (1998) に開示された、50%NaOH水
溶液および四臭化炭素の存在下に溶液中で環状アルキルを加熱還流して臭素化する方法あるいはM. C. FordらによりJ. Chem. Soc., 2240 (1952) に開示された、N−ブロモスク
シンイミドをアゾビスイソブチロニトリル等のラジカル開始剤を用いてラジカル反応させてアルキル末端を臭素化する方法等が挙げられる。
【0035】
上述のようにして得られた表面ハロゲン化フィルムのフィルム表面に導入されたハロゲン原子の存在はX線光電子分光測定等の分光学的方法により確認される。
原子移動ラジカル重合は表面ハロゲン化フィルムの存在下でビニルモノマーおよび触媒成分と接触させることにより行われる。このとき溶媒を用いてもよい。使用できる溶媒としては、重合反応を阻害せず、かつ、表面ハロゲン化フィルムを変質させない重合温度にできるものであれば特に制限されない。例えば、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンおよびデカン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびデカヒドロナフタレンのような脂環族炭化水素系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素およびテトラクロロエチレン等の
塩素化炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノールおよびtert-ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトン
、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチルおよびジメチルフタレート等のエステル系溶媒;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ-n-アミルエーテル、テトラヒドロフランおよびジオキシアニソールのようなエーテル系溶
媒等を挙げることができる。また、水を溶媒に使用してもよい。これらの溶媒は単独でも使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。重合温度は原子移動ラジカル重合開始基が導入された表面ハロゲン化フィルムが変質しない温度で、かつ、ラジカル重合反応が進行する温度であれば任意に設定することができる。重合温度は所望する重合体の重合度、使用するラジカル重合開始剤および溶媒の種類や量によって決定され、通常-50
〜150℃であり、好ましくは0〜80℃であり、より好ましくは0〜50℃である。重合反応は
減圧、常圧または加圧下のいずれの条件下で行ってもよい。反応終了後は従来公知の精製・乾燥方法を用いて、触媒残査、未反応モノマーおよび溶媒を除去する。
【0036】
成形体の表面にポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層(B)が形成されたことは、X線光電子分光法、電子線マイクロアナリシスまたは赤外分光法などの分光学的手法により確認される。
【0037】
本発明の表面親水性ポリオレフィン系成形体は特に制限なく種々の用途に使用される。以下に具体例を挙げる。
(1)フィルムまたはシート:本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体は、ポリオレフィン特有の強度、耐衝撃性および耐溶剤安定性を保持しつつ、極めて高い親水性および生体適合性を有するため、フィルムまたはシートとして用いられる。
また、本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体からなる層を少なくとも1層含む積層体、例えば、農業用フィルム、ラップ用フィルム、シュリンク用フィルム、プロテクト用フィルム、血漿成分分離膜および水選択透過気化膜等の分離膜例、イオン交換膜ならびにバッテリーセパレータおよび光学分割膜等の選択分離膜にも好適に用いられる。
【0038】
(2)マイクロカプセル、PTP包装、ケミカルバルブおよびドラッグデリバリーシステム。
(3)建材・土木用材料、例えば、床材、床タイル、床シート、遮音シート、断熱パネル、防振材、化粧シート、巾木、アスファルト改質材、ガスケット・シーリング材、ルーフィングシ-トおよび止水シート等の建材・土木用樹脂およびそれからなる成形体等。
【0039】
(4)自動車内外装材およびガソリンタンク:本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体からなる自動車内外装材およびガソリンタンクは、剛性、耐衝撃性、耐油性および耐熱性に優れる。
【0040】
(5)電気・電子部品等の電気絶縁材料、電子部品処理用器材、磁気記録媒体、磁気記録媒体のバインダー、導電性フィルム、電気回路の封止材、家電用素材、電子レンジ用容器等の容器用器材、電子レンジ用フィルム、高分子電解質基材および導電性アロイ基材等;コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケーススイッチコイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、光コネクター、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶ディスプレー部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナおよびコンピューター関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオレーザーディスク(登録商標)およびコンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品およびワードプロセッサー部
品等に代表される家庭および事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、電磁シールド材ならびにスピーカーコーン材およびスピーカー用振動素子等。
【0041】
(6)塗料ベース表面硬化材料:本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体からなる成形品は、各種の塗料および極性モノマーとの親和性に富むことから、アクリル系モノマー、多官能性アクリル系モノマーまたは塗料等をコートすることにより光硬化材料または熱硬化材料として用いられる。
【0042】
(7)医療・衛生用材料不織布、不織布積層体、エレクトレット、医療用チューブ、医療用容器、輸液バッグ、プレフィルシリンジおよび注射器等の医療用品および医療用材料、細胞培養基板および再生医療に用いる細胞皿および組織培養皿、人工臓器、人工筋肉、濾過膜、食品衛生・健康用品、レトルトバッグならびに鮮度保持フィルム等。
【0043】
(8)雑貨類デスクマット、カッティングマット、定規、ペンの胴軸・グリップ・キャップ、ハサミおよびカッター等のグリップ、マグネットシート、ペンケース、ペーパーフォルダー、バインダー、ラベルシール、テープおよびホワイトボード等の文房具;衣類、カーテン、シーツ、絨毯、玄関マット、バスマット、バケツ、ホース、バック、プランター、エアコンおよび排気ファンのフィルター、食器、トレー、カップ、弁当箱、コーヒーサイフォン用ロート、メガネフレーム、コンテナ、収納ケース、ハンガー、ロープおよび洗濯ネット等の生活日用雑貨類:シューズ、ゴーグル、スキー板、ラケット、ボール、テント、水中メガネ、足ヒレ、釣り竿、クーラーボックス、レジャーシートおよびスポーツ用ネット等のスポーツ用品;ブロックおよびカード等の玩具;灯油缶、ドラム缶、洗剤およびシャンプー等の容器;看板、パイロンおよびプラスチックチェーン等の表示用具類。
【0044】
〔実施例〕
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
[調製例1]OPPフィルムの臭素化
ポリプロピレン製二軸延伸(OPP)フィルム(F113G ((株)プライムポリマー製)をG
M社製小型シート成形機(TS-300-200)を使用して樹脂温度:230℃、チルロール温度:50℃
、引取速度:1.0m/分にて厚さ500μmのシートを作製した後、ブルックナー社製延伸機(KARO IV)を使用して、予熱温度:153℃、予熱時間:60秒、延伸倍率:5(MD)×7(TD)、延伸速度:6m/分にて延伸(逐次二軸延伸)して、厚さ40μmの二軸延伸フィルムを得た。この二軸延伸フィルムを窒素置換された内容積1000mLのガラス製容器に入れ、臭素0.2mLを容器の
底に封入した。約5分間後、臭素が完全に蒸気化した後、300W白熱電球をフィルムよ
り15cmの距離から垂直に光照射した。10分後、系内に存在する未反応の臭素蒸気を窒素ガスにより置換した後、フィルムを取り出した。
X線光電子分光法による表面解析の結果、フィルムの表面に12.8atom%の臭素原子がグラフト化した臭素化OPPフィルムが得られていることを確認した。
【0046】
[調製例2]TPXフィルムの臭素化
メチルペンテンコポリマー(TPX)フィルム(オピュラン:三井化学(株)製)を窒素置換された内容積1000mLのガラス製容器に入れ、臭素0.2mLを容器に封入した。約5分間後、臭素が完全に蒸気化した後、光照射した。10分後、系内に存在する未反応の臭素蒸気を窒素ガスにより置換し、フィルムを取り出した。
X線光電子分光法による表面解析の結果、10.5atom%の臭素原子がフィルムの表面にグラフト化した臭素化TPXフィルムが得られていることを確認した。
【0047】
[調製例3]COCフィルムの臭素化
環状オレフィンコポリマー(COC)(アペルAPL6011T:三井化学(株)製)のプレスフィルム(フィルム厚:120μm)を窒素置換された内容積1000mLのガラス製容器に入れ、臭素0.1mLを容器に封入した。約5分間後、臭素が完全に蒸気化した後、光照射した。10分後、系内に存在する未反応の臭素蒸気を窒素ガスにより置換し、フィルムを取り出した。
X線光電子分光法による表面解析の結果、8.0atom%の臭素原子がフィルム表面にグラ
フト化した臭素化COCフィルムが得られていることを確認した。
【0048】
[製造例1]
脱酸素処理されたトルエンおよびポリエチレングリコールメタクリレート(Aldrich社製;Mn=300)を67/33の体積比で入れたガラス容器に製造例1で得られた臭素化OPPフィルムを完全に浸漬させた。そこに、臭化銅(I)とN,N,N' ,N",N"-ペン
タメチルジエチレントリアミンの1:2(モル比)のエタノール調製液(臭化銅(I)の濃度0.8M)を、臭化銅(I)濃度が2.5mMとなるように添加し、60℃で1時間保持した。フィルムを取り出し、メタノールで2回浸漬洗浄し、80℃で10時間減圧乾燥させることにより、表面にポリエチレングリコールメタクリレート重合体が導入されたポリプロピレンフィルム(F−1)が得られた。
【0049】
得られたポリプロピレンフィルム(F−1)の表面付近の断面をTEM観察したところ、
表面にメタクロイルコリンクロリド重合体の層と推定される約60〜80nmの厚みの染色領域が観察された。
【0050】
[製造例2]
製造例1において、臭素化フィルムとして、調製例2で得られた臭素化TPXフィルムを用いたこと以外は製造例1と同様にして表面の重合を行い、表面にポリエチレングリコールメタクリレート重合体が導入されたTPXフィルムを得た。
【0051】
[製造例3]
製造例1において、臭素化フィルムとして、調製例3で得られた臭素化COCフィルムを用いたこと以外は製造例1と同様にして表面の重合を行い、表面にポリエチレングリコールメタクリレート重合体が導入されたCOCフィルム(F−3)を得た。
【0052】
[フィルムの親水性評価]
製造例1〜3で得られたフィルム(F-1〜F-3)と、比較試料として調整例1で用いたポリプロピレン製二軸延伸フィルム(基材フィルム)とをそれぞれ5cm×5cmの大きさに切断し、試料とした。試料の水接触角試験は以下の試験条件で行った。
試験条件:温度23±2℃、湿度50±5%、フィルム膜厚約40μm
製造例1で得られたフィルム(F-1)は、上記試験に加えて、室温で水中に8時間浸して
水洗した後、20日間室温減圧下で乾燥したものを試料として、水接触角測定試験を行った。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

表1からポリエーテル基含有モノマー重合体が表面にグラフト化されたフィルムは、比較試料と比べて優れた親水性能を有することが明らかである。
【0054】
[フィルムの導電性評価]
製造例1〜3で得られたフィルム(F-1〜F-3)と、比較試料として調整例1で用いた基材フィルムをそれぞれ5cm×5cmの大きさに切断し、試料とした。試料の導電性試験をJIS K 6911に準じて行った。
試験条件:温度23±2℃、湿度50±5%、フィルム膜厚約40μm
【0055】
製造例1で得られたフィルム(F-1)は、上記試験に加えて、室温で水中に8時間浸し
て水洗した後、20日間室温減圧下で乾燥したものを試料として、導電性試験を行った。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

表2からポリエーテル基含有モノマー重合体が表面にグラフト化されたフィルムは、比較試料と比べて優れた導電性能を有することが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン成形体の表面の少なくとも一部に、ポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層が形成されていることを特徴とする表面親水性ポリオレフィン成形体。
【請求項2】
前記ポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層が共有結合を介して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の表面親水性ポリオレフィン成形体。
【請求項3】
表面に重合開始基を有するポリオレフィン成形体と、ポリエーテル基含有モノマーとをラジカル重合して得られた表面親水性ポリオレフィン成形体。
【請求項4】
気温23℃、湿度50%の条件下で測定される、ポリオレフィン成形体の水接触角(θPO)と、表面親水性ポリオレフィン成形体の水接触角(θCPI)との関係がθCPI<
θPOであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表面親水性ポリオレフィン成形体。
【請求項5】
ポリエーテル基含有モノマーを、ポリオレフィン成形体の表面の少なくとも一部で重合させてポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層を形成させることを特徴とする表面親水性ポリオレフィン成形体の製造方法。
【請求項6】
前記ポリオレフィン成形体の表面の少なくとも一部に、重合開始基を導入する工程と、
表面に重合開始基を導入された該ポリオレフィン成形体と、ポリエーテル基含有モノマーとを重合して、該ポリオレフィン成形体の表面にポリエーテル基含有モノマーの(共)重合体層を形成させる工程と
からなることを特徴とする請求項5に記載の表面親水性ポリオレフィン成形体の製造方法。
【請求項7】
前記重合が制御ラジカル重合であることを特徴とする請求項5または6に記載の表面親水性ポリオレフィン成形体の製造方法。
【請求項8】
前記重合が原子移動ラジカル重合であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の表面親水性ポリオレフィン成形体の製造方法。