説明

被服

【課題】学校や企業の制服として好適な被服に関するものであり、着用者の周囲を除菌することができ、且つ洗濯することも可能であり、さらに色落ちしない被服を提供することを目的とする。
【解決手段】被服1は、小学校の制服であり、小児用の上着である。被服1は、前見頃2,3、後ろ見頃(図示せず)、右袖5、左袖6、ヨーク7、襟8及び前たて15,16によって構成され、これらが縫製されて作られたものである。左袖6に挿入空間21が設けられている。挿入空間21には、内張り32が設けられている。挿入空間21に、ガス放出部材10が内蔵されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被服に関するものであり、特に学校や企業の制服として好適なものである。本発明の被服は、着用者の周囲を除菌することができるものである。
【背景技術】
【0002】
冬季になると、毎年の様にインフルエンザが流行する。特に学校の児童・生徒が集団感染する場合が多い。
その理由は、大勢の生徒が教室という一つの空間内で、長時間にわたってとどまるためである。即ち一人の感染者から放出される菌(ビールスを含む)が教室内おいて空気中に浮遊し、この菌が他の多くの生徒等の体内に侵入し、集団感染を引き起こす。
【0003】
集団感染を防止する方策としては、教室内を加湿したり、教室内に消毒剤を噴霧する方策がある。
また特許文献1には、二酸化塩素ガスを無機質担体に吸着保持させ、当該無機質担体を入れたガラス容器を病室内につり下げることによってベッドや看護婦の着衣を消毒し、院内感染を防止する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−233985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された方策は、院内感染を防止する方策として有効であるが、学校や職場の事務所における集団感染を防止する方策としては不向きである。
即ち特許文献1に開示された方策は、ガラス容器から二酸化塩素ガスを放散させ、病室内を所定を二酸化塩素ガス濃度にして院内感染を防止するものである。そのため、病室内には、病院特有の消毒臭が漂う。病院においては、クレゾール等による消毒が日常的に行われるので、室内に多少の二酸化塩素ガス臭があったとしても、だれも気に留める者はいない。
【0006】
しかしながら、学校や職場は、日常的に消毒される環境ではないので、消毒臭があると違和感を感じる。また学校や職場の事務所は、勉強や業務といった知的な行動をする場所であるから、違和感のある臭気に包まれると、著しく学習効果や作業効率が低下する。
【0007】
そこで本発明者らは、被服の一部に殺菌性のガスを放出する部材を取り付けることを考えた。例えば、特許文献1に開示された様な、二酸化塩素ガスを担持させた無機質担体を幼稚園や小学校の制服の一部に取り付けた。
しかしながら、この被服は、致命的な欠陥があることが判明した。
即ち幼稚園児や小学校の学童は、休憩時間に体を使って遊ぶ。そのため幼稚園等の制服は、日常的に汚され、日常的に洗濯される。
しかしながら、多くの無機質担体は、洗濯によって吸水し膨潤してしまう。その結果、洗濯後は二酸化塩素ガスを放出することができなくなってしまう。
【0008】
また、洗濯後に乾燥機で緩挿させると、無機質担体の膨潤は収まるが、加熱によって無機質担体に担持されていた二酸化塩素ガスが揮散してしまい、洗濯後に着用しても二酸化塩素ガスを放出しない。
要するに、被服の一部に殺菌性のガスを放出する部材を取り付けた被服は、洗濯に耐えず、制服には不向きである。
【0009】
また殺菌性のガスは、染料を漂白してしまう場合が多い。そのため被服の一部に殺菌性のガスを放出する部材を取り付けると、被服が部分的に変色し、斑になってしまう。
【0010】
そこで本発明は、上記した問題点に注目し、着用者の周囲を除菌することができ、且つ洗濯することも可能であり、さらに色落ちしない被服を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、外部に露出する表地を有する被服において、一部が外部と連通する挿入空間を有し、挿入空間と表地との間には遮蔽部材が設けられており、前記挿入空間内にガス放出部材が取り出し可能な状態で内蔵されており、ガス放出部材は自然環境下において殺菌効果又は滅菌効果を有するガスを放出する薬剤が袋詰めされたものであることを特徴とする被服である。
【0012】
ここで「被服」とは、商標法施工規則別表に記載された商標の区分、第25類の「被服」と同一の意味であり、上半身に着用するものに限らず、ズボン等の下半身に着用するものを含む概念である。
本発明の被服は、挿入空間を有し、挿入空間にガス放出部材が内蔵されている。そして当該ガス放出部材から殺菌効果等を有するガスが放出される。また挿入空間は、一部が外部と連通するから、ガス放出部材から放出されたガスは、外部に放出されることとなる。放出されたガスは、着用者の近傍に漂い、着用者の周囲に滅菌雰囲気又は殺菌雰囲気を作る。そのため着用者の近傍に近づいた菌は死滅あるいは活性が弱り、病気を感染させない。
本発明では、ガス放出部材はガスを放出する薬剤が袋詰めされたものである。そして本発明の被服では、ガス放出部材が取り出し可能な状態で挿入空間内に内蔵されている。そのため本発明では、洗濯を行う際にガス放出部材を取り外すことができ、ガス放出部材を外して被服だけを洗濯することができる。
さらに本発明の被服では、ガス放出部材が装着される挿入空間と、表地との間には遮蔽部材が設けられているから、ガスが表地に直接触れることが防がれる。
そのため被服の変色が防止される。なお遮蔽部材は、ガスを透過しにくい素材であることが望ましく、例えば、樹脂の板やシート、金属フィルム等であることが推奨される。
【0013】
請求項2に記載の発明は、薬剤は、二酸化塩素を担体に担持させたものであることを特徴とする請求項1に記載の被服である。
【0014】
担体の形状は、粒状やブロック状であってもよい。また布の様な面積を有するものであってもよい。
担体として固形物を採用する場合には、多孔質体であることが推奨される。
多孔質体の例としては、シリカゲル、アルミナゲル、シリカアルミナゲル、ゼオライト等が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の被服は、殺菌効果又は滅菌効果を有するガスを放出し、放出されたガスは、着用者の近傍に漂って着用者の周囲に滅菌雰囲気又は殺菌雰囲気を作る。そのため着用者の近傍に近づいた菌は死滅あるいは活性が弱り、着用者に病気を感染させない。
また本発明の被服は、洗濯することができる。さらに本発明の被服は、変色しにくいという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態の被服の斜視図である。
【図2】図1の被服の袖部分の拡大斜視図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図3の円部分の拡大図である。
【図5】図2のB−B断面図である。
【図6】図1の被服の袖部分を段階的に破断した断面斜視図てある。
【図7】ガス放出部材の斜視図である。
【図8】図7のガス放出部材の断面斜視図である。
【図9】本発明の他の実施形態の被服の袖部分の拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下さらに本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態の被服1は、小学校の制服であり、小児用の上着である。被服1は、公知のそれと同様に、前見頃2,3、後ろ見頃(図示せず)、右袖5、左袖6、ヨーク7、襟8及び前たて15,16によって構成され、これらが縫製されて作られたものである。
また被服1は前開きの構造を有し、前たて15,16にはボタンホール(図示せず)及びボタン20が取り付けられている。
【0018】
本実施形態に特有の構成として、左袖6に挿入空間21が設けられている。挿入空間21は、ポケットに似た構造であり、図2の様に左袖6の表地23に切れ目25が設けられ、表地23の裏面側に裏布27(図3,4,5)が縫製されたものである。
裏布27は、略長方形の布であり、切れ目25をすっぽりと覆い、且つ手首側に大きく広がっている。
裏布27は、四辺が糸26によって表地23と縫合されている。
【0019】
従って、表地23と、裏布27との間には正面視が長方形の空間(挿入空間21)が形成されている。また外部と挿入空間21との間は、表地23の切れ目25の部分でのみ連通している。
表地23の切れ目25の近傍には、ボタンホール28が設けられている。また裏布25の前記ボタンホール28に対応する位置には、ボタン30が取り付けられている。
【0020】
表地23と裏布27によって形成される挿入空間21には、内張り32が設けられている。即ち表地23には表側遮蔽シート35が接着又は縫製によって取り付けられている。同様に、裏布27の挿入空間21側には、裏側遮蔽シート36が接着又は縫製によって取り付けられている。
表側遮蔽シート35及び裏側遮蔽シート36は、樹脂又は金属のフィルムであり、ガスを通さない。即ち表側遮蔽シート35及び裏側遮蔽シート36は、遮蔽部材でありガスを遮蔽する機能を持っている。
【0021】
本実施形態の被服1では、表地23と裏布27によって形成される挿入空間21に、ガス放出部材10が内蔵されている。
ガス放出部材10は、開口を有しない袋11に薬剤12が封入されたものである。
ただし袋11は、通気性を有している。即ち袋11は、薬剤12そのものがこぼれ出ることは阻止することができるが、ガスの通過を阻止することはできない。具体的には、袋11は、布や不織布で作られている。
【0022】
薬剤12は、ゼオライトに二酸化塩素ガスを吸着保持させたものである。従って、常温・常圧の自然環境下において二酸化塩素ガスを徐々に放出する。ゼオライトは無機質担体であり、多孔質である。
また前記した様に袋11は通気性を有するので、二酸化塩素ガスは袋11を通過してガス放出部材10から外部に放散される。
【0023】
本実施形態では、ガス放出部材10が挿入空間21に挿入され、ガス放出部材10が挿入空間21から飛び出さないようにボタン30が掛けられている。即ち裏布27に設けられたボタン30が表地23のボタンホール28に係合され、切れ目25の部分が閉じられている。
ただし、ボタン30は表地23と裏布27とを点接触させるものに過ぎないから、切れ目25を完全に閉じることはできず、常時少しの隙間があいている。
【0024】
本実施形態の被服1では、前記した様にガス放出部材10から二酸化塩素ガスが放出され、被服1の挿入空間21内に二酸化塩素ガスが充満する。そして挿入空間21は、切れ目25部分が少しだけ開口しているから、挿入空間21内の二酸化塩素ガスは、当該開口部分から外に放出される。
そして被服1を着用した児童の周囲を滅菌雰囲気に保つ。そのため被服1を着用した児童は、インフルエンザ等に感染しない。
【0025】
また被服1の表面は表地23で作られているが、ガス放出部材10と表地23との間には遮蔽部材たる表側遮蔽シート35が設けられているので、ガス放出部材10から放出されたガスが表地23に直接触れることはない。また本実施形態では、裏布27側にも裏側遮蔽シート36が設けられているから、児童が下に着込んだ服にもガスが直接触れることはない。
もちろん、児童が素肌に被服1を着たとしても、児童の肌にガスが直接触れることはない。
【0026】
本実施形態の被服1を洗濯する場合には、ボタン30を外して切れ目25部分を開き、中のガス放出部材10を取り出す。そしてこの状態では、被服1の本体部分だけを洗濯する。
洗濯が終わると、ガス放出部材10を挿入空間21に戻し、ボタン30を掛けて切れ目25部分を閉じる。またガス放出部材10が劣化している場合は、新たなガス放出部材10を挿入空間21に入れる。
【0027】
以上説明した実施形態では、切れ目25をボタン30で封鎖する構成を例示した。即ち本実施形態では、ボタン30が挿入空間21を封鎖する封鎖手段を構成している。この構成は、切れ目25を完全に封鎖しない点で推奨される。同様の効果を有する閉止方法としては、ホックが挙げられる。
ボタン30やホックの数は、複数であってもよい。
ファスナー40(図9)は、ガスの放出路を確保しにくい点が欠点であるが、ファスナー40の使用を排除するものではない。
閉止手段としてファスナー41を使用する場合は、図9の様に、表地23及び表側遮蔽シート35に孔42を設けてガスの放出路を確保することが望ましい。
【0028】
以上説明した実施形態では、上半身に着用する被服を例にあげて本発明を説明したが、ズボンに挿入空間21を設けることも可能である。
また挿入空間21の位置は任意であり、前見頃2,3等に設けてもよい。
また挿入空間21を内ポケットの如く構成し、挿入空間21の出入口を被服の内側に形成してもよい。
【0029】
また本実施形態では、殺菌効果又は滅菌効果を有するガスとして二酸化塩素ガスを採用したが、オゾンや塩素等の他のガスを使用することもできる。
本実施形態で採用する薬剤は、ガスを無機質担体に吸着保持させたものであるが、ガスが固体から昇華するものであってもよい。
遮蔽部材は、緻密な布であってもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 被服
10 ガス放出部材
11 袋
12 薬剤
21 挿入空間
23 表地
25 切れ目
27 裏布
28 ボタンホール
30 ボタン
32 内張り
35 表側遮蔽シート(遮蔽部材)
36 裏側遮蔽シート(遮蔽部材)
41 ファスナー
42 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部に露出する表地を有する被服において、一部が外部と連通する挿入空間を有し、挿入空間と表地との間には遮蔽部材が設けられており、前記挿入空間内にガス放出部材が取り出し可能な状態で内蔵されており、ガス放出部材は自然環境下において殺菌効果又は滅菌効果を有するガスを放出する薬剤が袋詰めされたものであることを特徴とする被服。
【請求項2】
薬剤は、二酸化塩素を担体に担持させたものであることを特徴とする請求項1に記載の被服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−177209(P2012−177209A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39701(P2011−39701)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(397023549)株式会社チクマ (4)
【Fターム(参考)】