説明

被検物質の検出方法及び検出デバイス

【課題】 反応効率が高く、反応物と未反応物の分離操作を迅速に行うことを可能とし、反応後の標識物からのシグナルを容易に判別することを可能とする。
【解決手段】 サンプル中の被検物質と被検物質を認識する結合物質との特異的結合を利用してビーズ担体に発色物質を結合させ、遠心分離によってビーズ担体を沈降物として容器底部に沈降させることによりビーズ担体に結合した発色物質と結合していない発色物質とを分離した後、容器の外側から観察される沈降物中の発色物質由来のシグナルを指標として被検物質を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離を利用した被検物質の検出方法、及び前記検出方法に用いる検出デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
サンプル中の被検物質を競合的又は非競合的に検出する際に用いられる担体の一種としてビーズ担体が知られている。ビーズ担体は、96穴プレートのような平板に比べて反応効率が良好である点で有利であり、例えば凝集法等に利用されている。凝集法とは、被検物質を認識する特異的結合物質をポリスチレンビーズ等のビーズ担体に固定化し、被検物質の結合に伴うビーズ担体の凝集を指標として被検物質を検出するものである。例えば特許文献1においては、被検試料中の抗原性物質を不溶性担体粒子に吸着若しくは結合させ、該抗原性物質に特異的に反応するモノクローナル抗体を反応させた後に、該モノクローナル抗体に選択的に結合する第二抗体を更に反応させて、不溶性担体粒子を選択的に凝集させる凝集イムノアッセイ法が提案されている。
【0003】
一方、ビーズ担体を用いて被検物質を検出する方法として、前述の凝集法以外の方法も知られている。例えば特許文献2においては、ビーズを用いた特異的結合反応を行った後、ビーズに結合した蛍光又は発光標識物質を検出することよりサンプル中の目的物質を測定する方法において、反応後浮遊しているビーズを例えば遠心分離により底面に沈降させ、それを底面に保持したまま励起光を照射し、生じた蛍光又は発光を測定する測定方法が記載されている。
【特許文献1】特開平6−167495号公報
【特許文献2】特開2004−028682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の特許文献1に記載されるような凝集法では、特異的な反応を行う抗原が1つ以上の認識部位を有する必要がある。このため、複数の認識部位をとれないホルモンのような低分子生体材料を検出することができないという問題がある。
【0005】
また、前述の特許文献2には、遠心分離によりビーズを底面に沈降させることが記載されているが、標識物質として金コロイド粒子等の発色物質を用いることについては記載されていない。特許文献2に記載される技術においては、標識物質に発光物質又は蛍光物質を用いているが、発光物質又は蛍光物質由来のシグナルを読み取るには大掛かりな装置が必要である等の不都合がある。
【0006】
本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、反応効率が高く、反応物と未反応物の分離操作を迅速に行うことが可能であり、反応後の標識物からのシグナルを容易に判別することが可能な被検物質の検出方法を提供することを目的とする。また、本発明は、前記検出方法に用いられて好適な検出デバイスに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の課題を解決するために、本発明に係る検出方法は、サンプル中の被検物質と前記被検物質を認識する結合物質との特異的結合を利用してビーズ担体に発色物質を結合させ、遠心分離によって前記ビーズ担体を沈降物として容器底部に沈降させることにより前記ビーズ担体に結合した発色物質と結合していない発色物質とを分離した後、前記容器の外側から観察される前記沈降物中の前記発色物質由来のシグナルを指標として前記被検物質を検出することを特徴とする。
【0008】
以上のような検出方法では、ビーズ担体に結合した標識用発色物質と未反応の標識用発色物質との分離を遠心分離により行うので、ビーズ担体と発色物質とでそれぞれの沈降係数を適切に設定することで、これらの短時間で簡単な分離が実現される。また、担体としてビーズ担体を用いることで、平板状の担体に比較して反応効率が高くなるので、検出に要する時間が短くなる。さらに、標識物質として目視により判別可能な発色物質を用いるので、迅速且つ簡便な検出に有効である。
【0009】
また、本発明に係る検出デバイスは、反応溶液が収容される反応部と、前記反応部の底面に開口し、前記反応部より内径が狭く形成された透明な分離検出部とを備え、前記分離検出部の内部に前記反応溶液が収容されていないことを特徴とする。
【0010】
少量のサンプルを遠心処理するためには、円錐状のマイクロチューブが一般的に利用されるが、沈降物の集積する箇所が不定であり、そのうえ沈降物が壁面に広がってしまうため、堆積物における発色物質の密度が低くなり、発色物質由来のシグナル強度が低くなることがある。
【0011】
これに対し、本発明の検出デバイスにおいては、分離検出部が形成された容器を用いるので、サンプルと反応溶液との反応後に検出デバイスを遠心処理したとき、沈降係数の大きなビーズ担体は内径の狭い分離検出部に沈降し、ビーズ担体に結合した標識用発色物質は透明な分離検出部の底面に高濃度に集積させられる。一方、分離検出部より内径の広い反応部においてサンプルと反応溶液とを反応させるので、充分な反応効率が確保される。しかも、反応の際分離検出部には反応溶液を存在させないので、内径の広い反応部で反応を行うことができ、また、反応溶液全体をサンプルとの反応に寄与させることができる。このため反応溶液とサンプルとの反応効率はより高いものとなる。したがって、サンプルと反応溶液との反応時間及び遠心処理に要する時間の両方の短縮が実現されるとともに、沈降物中の発色物質由来の発色シグナル強度の向上も達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被検物質の有無又は濃度を迅速、簡単且つ明瞭に知ることができる。また、例えばELISA等のように反応物と未反応物との分離操作のための洗浄が不要であるため、デバイス構造を単純化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を適用した検出方法及び検出デバイスについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
先ず、サンプル中の被検物質と被検物質を認識する結合物質との特異的結合を利用してビーズ担体に発色物質を結合させる。次に、遠心分離によってビーズ担体を沈降物として容器底部に沈降させることにより、ビーズ担体に結合した発色物質と未反応の発色物質とを分離する。次に、容器の外側から観察される沈降物中の発色物質由来のシグナルを指標として被検物質を検出する。
【0015】
本発明においては、例えばホルモン等の低分子、ファージ等のウイルス等、あらゆる物質を被検物質とすることができる。被検物質を認識する結合物質には、被検物質に特異的に結合する物質を適宜選択すればよい。被検物質と結合物質の組み合わせとしては、例えば抗原−抗体の組合せが挙げられる。結合物質として用いられる抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれであってもよい。なお、被検物質と結合物質の組み合わせとしては、被検物質とこれに特異的に結合する物質であれば、抗原−抗体の組合せと同様、本発明の効果を得ることができる。例えば、核酸−核酸、核酸−核酸結合タンパク質、レクチン−糖鎖、又はレセプター−リガンドの組み合わせが挙げられる。被検物質−結合物質の関係の順序は、前記と逆でもよい。
【0016】
発色物質としては、標識物質として用いられる公知の発色物質を制限無く用いることができる。例えば金、白金、銀等の金属微粒子やそれらのコロイド粒子等を用いることができる。中でも金コロイド粒子は明瞭な発色が得られるため好ましい。
【0017】
ビーズ担体としては、標識用発色物質より沈降係数の大きいビーズ担体を用いることができる。遠心分離に要する時間を短縮するためには、標識用発色物質より十分に沈降係数の大きいビーズ担体を用いることが好ましい。具体的には、ビーズ担体として、発色物質の沈降係数の10倍より大きい沈降係数を有するビーズ担体を用いることが好ましい。例えばs(沈降係数)=1×10−11以上のビーズ担体を用いることが好ましい。
【0018】
ただし、ビーズ担体の沈降係数を発色物質より大きくし過ぎると、反応溶液中で自らの重みにより沈降する等の不都合を生じる。このため、ビーズ担体は反応溶液中で浮遊状態を維持していることが好ましい。また、特異的結合を利用して被検物質をビーズ担体に結合させる場合の反応効率が高くなることから、反応溶液中でブラウン運動するビーズ担体がより好ましく、このようなビーズ担体としては例えばs(沈降係数)=1×10−9以下のビーズ担体が挙げられる。
【0019】
ビーズ担体を構成する材料としては、この種のビーズ担体に用いられる材料を制限無く用いることができる。例えばポリスチレン等のラテックスビーズ、シリカビーズ、ガラスビーズ等を例示することができる。特にビーズ担体は、透明材料で構成されていることが好ましい。透明材料で構成されたビーズ担体を用いると、沈降物中の発色物質をビーズ担体を透かして見ることができるため、強い発色強度を得ることができ、容易に発色を確認することができる。粒径70nm以下の透明材料で構成されているビーズ担体は、その凝集物も透明であるため好ましい材料である。
【0020】
反応効率の向上の観点から、ビーズ担体の粒径は5μm以下であることが好ましい。粒径が5μmを超えると抗原抗体反応のような特異的結合反応の効率が悪く、反応時間を短くすることができないからである。例えばポリスチレンの場合は、500nm〜5μmとすることが好ましく、1μm〜3μmとすることがより好ましい。ポリスチレンより比重の大きいシリカビーズの場合は、50nm〜100nmとすることが好ましい。
【0021】
サンプル中の被検物質と前記被検物質を認識する結合物質との特異的結合を利用してビーズ担体に発色物質を結合させる工程は、競合法、サンドイッチ法のいずれを利用してもよい。
【0022】
遠心分離の条件は、特異的結合反応により標識物質が結合したビーズ担体と、未反応の発色物質標識結合物質とを分離できる条件とすればよい。このような遠心条件は、サンプル量や遠心分離時間に依存して適宜変わってくるが、例えば、2000〜6000gとすることができる。
【0023】
沈降物中の発色物質由来のシグナルを判別するには、目視を利用することが最も容易である。なお、発色物質由来のシグナルの判別に例えば吸光度計やデンシトメーター等の公知の読み取り装置を利用してもよいが、この場合も、例えば発光標識物質や蛍光標識物質由来のシグナルを読み取る場合に比較して、小型でシンプルな装置で済むという利点がある。
【0024】
以下、本発明の検出方法の一実施形態として、競合法を利用した検出方法について図1を参照しながら説明する。競合法は、複数の認識部位を持たない低分子化合物を被検物質とする場合に有効な方法である。
【0025】
先ず、被検物質を含むサンプル溶液と、金コロイド粒子で標識した抗体(金コロイド標識抗体)を含む溶液とを用意する。金コロイド標識抗体に用いた抗体は、被検物質を認識するモノクローナル抗体である。これら溶液を混合し、反応させる。サンプル溶液中に被検物質としての抗原が含まれている場合には、抗原抗体反応によって被検物質と金コロイド標識抗体とが特異的に結合する。
【0026】
一方、被検物質を固定化したビーズ担体(ポリスチレンビーズ)を含む溶液を用意しておく。この被検物質を固定化したビーズ担体を含む溶液を、抗原抗体反応後の溶液と混合する。すると、金コロイド標識抗体のうち被検物質との未反応物は、抗原抗体反応によってビーズ担体上の被検物質と特異的に結合し、ビーズ担体に結合する。一方、既に被検物質が結合した金コロイド標識抗体(金コロイド標識抗体−被検物質複合体)は、ビーズ担体上の被検物質とは反応せず、溶液中に分散した状態が維持される。
【0027】
その後の溶液を適切な条件(例えば3250g、15秒間)で遠心処理すると、ビーズ担体に結合していない金コロイド標識抗体−被検物質複合体は上清に分散した状態のままである一方、被検物質を介してビーズ担体に結合した金コロイド標識抗体はビーズ担体とともに容器底部に沈降し、これらが分離される。この沈降物を容器外部から例えば目視により観察する。このとき、競合法を利用しているので、サンプル溶液中の被検物質濃度が高いほど沈降物中の金コロイド粒子の量が減り、発色強度は弱くなる。このため、得られた沈降物の発色強度を指標としてサンプル溶液中の被検物質を定性的に検出することができる。また、予め被検物質濃度と発色強度との相関を求めておくことで、サンプル溶液中の被検物質を定量的に検出することができる。
【0028】
以下、本発明の検出方法の第2の実施形態として、サンドイッチ法を利用した検出方法について、図2を参照しながら説明する。
【0029】
先ず、第1の実施形態と同様に、被検物質を含むサンプル溶液と金コロイド標識抗体を含む溶液とを用意し、これらを混合する。
【0030】
一方、被検物質に対し特異的に結合し、且つ、金コロイド標識抗体とは異なる認識部位で抗原に結合する第2の特異的結合物質(第二抗体)を用意し、この第二抗体を固定化したビーズ担体を含む溶液を用意しておく。この第二抗体を固定化したビーズ担体を含む溶液を、抗原抗体反応後の溶液と混合する。なお、金コロイド標識抗体とビーズ担体とを同時にサンプルと反応させてもよい。すると、被検物質が結合した金コロイド標識抗体(金コロイド標識抗体−被検物質複合体)は、抗原抗体反応によってビーズ担体上の第二抗体と特異的に結合し、ビーズ担体に結合する。一方、未反応の金コロイド標識抗体は、ビーズ担体上の第二抗体とは反応せず、溶液中に分散した状態が維持される。
【0031】
これを適切な条件(例えば3250g、15秒間)で遠心分離すると、ビーズ担体に結合していない金コロイド標識抗体は上清に分散した状態のままである一方、第二抗体を介してビーズ担体に結合した金コロイド標識抗体−被検物質複合体は、ビーズ担体とともに容器底部に沈降する。この沈殿物を容器外部から例えば目視により観察する。サンドイッチ法を利用しているので、サンプル溶液中の被検物質濃度が高いほど沈降物中の金コロイド粒子の量が増え、発色強度は強くなる。このため、得られた沈降物の発色強度を指標としてサンプル溶液中の被検物質を定性的に検出することができる。また、予め被検物質濃度と発色強度との相関を求めておくことで、サンプル溶液中の被検物質を定量的に検出することができる。
【0032】
以下、前述の検出方法の実施に用いられて好適な検出デバイスについて説明する。
図3に、本発明の検出デバイスの一例を示す。検出デバイスは、透明な合成樹脂等により形成された透明容器10と、透明容器10内に収容された反応溶液20とを含んで構成される。
【0033】
透明容器10は、上面が開口した反応部11と、反応部11の底面に開口した分離検出部12とから構成され、反応部11と分離検出部12とが疎水性樹脂により一体的に形成されている。反応部11の開口部から中途部までは略円筒状とされるとともに、底面は前記ビーズ担体の遠心移動を妨げない程度に略円弧状をなしており、反応溶液20が収容保持されている。底面が略円弧状とされることで、反応部11の体積に対する外形寸法が小さくなり、反応効率を高めることができる。
【0034】
分離検出部12は、反応部11より内径が狭くされるとともに、底面に向かうにつれて径が狭くなる断面テーパー形状に形成されている。また、分離検出部12は透明とされ、外側から内部の状態が視認可能とされている。分離検出部12の開口端においては、表面張力によって反応溶液20が反応部11内部に保持され、分離検出部12に侵入していかないように構成されている。これにより、遠心処理前の検出デバイスにおいては、反応溶液20は反応部11内部に収容保持される一方、分離検出部12への侵入が妨げられている。分離検出部12には例えば空気等の気体が満たされている。
【0035】
反応溶液20は、ビーズ担体と、被検物質を認識するとともに発色物質で標識された結合物質とを含んでいる。ビーズ担体には、検出方法に応じて、被検物質、被検物質を認識する結合物質等が固定化されている。
【0036】
以上の検出デバイスを用いてサンプル中の被検物質を検出する方法について、図4を用いて説明する。ここではサンドイッチ法を利用している。先ず、反応部内に反応溶液が収容された検出デバイスを用意する。反応溶液には、被検物質としての抗原を認識する金コロイド標識抗体と、被検物質を認識する第2の結合物質(第2抗体)を固定化したビーズ担体とが含まれている。ビーズ担体に固定化された第2抗体は、被検物質を認識し、且つ金コロイド標識抗体とは異なる認識部位で被検物質に結合するものである。一方、分離検出部には空気が満たされている。
【0037】
この検出デバイスの開口部から被検物質を含むサンプル溶液を入れ、反応溶液とサンプル溶液とを混合する。これにより、抗原抗体反応が生じ、被検物質を介して金コロイド標識抗体がビーズ担体上の第2抗体に特異的に結合する。一方、未反応の金コロイド標識抗体は、ビーズ担体上の第2抗体とは反応せず、反応溶液中に分散した状態が維持される。
【0038】
次に、検出デバイスを遠心分離機にセットし、適切な条件(例えば3250g、15秒間)で遠心処理する。これにより、分離検出部内部の空気が遠心力によって除去され、反応部に収容保持されていた反応溶液が分離検出部に侵入する。そして、第2抗体を介してビーズ担体に結合した金コロイド標識抗体−被検物質複合体は、ビーズ担体とともに分離検出部の底部に沈降する。一方、ビーズ担体に結合していない金コロイド標識抗体は、上清に留まる。
【0039】
遠心処理後、分離検出部の底面に沈降した沈降物を透明容器外部から例えば目視により観察する。サンドイッチ法を利用しているので、サンプル溶液中の被検物質濃度が高いほど沈降物中の金コロイド粒子の量が増え、発色強度は強くなる。このため、得られた沈降物の発色強度を指標としてサンプル溶液中の被検物質を定性的に検出することができる。また、予め被検物質濃度と発色強度との相関を求めておくことで、サンプル溶液中の被検物質を定量的に検出することができる。
【0040】
なお、本発明の検出デバイスにおいては、図5に示すように、分離検出部12の内部に、ビーズ担体に結合した標識用発色物質と未反応の標識用発色物質との分離を促進する分離促進液21が収容されていてもよい。分離促進液21としては、例えば0.05% Tween 20等のような界面活性剤を含むPBSバッファー等が挙げられる。このような分離促進液21を分離検出部12に収容しておくことで、ビーズ担体間の擬凝集や容器側面への吸着が防止されるので、標識用発色物質と未反応の標識用発色物質との分離を効率よく行うことができる。分離検出部12に分離促進液21を収容する場合、反応部11に保持される反応溶液20との間に空気等の気体を介在させることで、反応溶液20と分離促進液21との混合を防ぐことができる。このため、分離検出部12に収容される分離促進液21は分離検出部12の体積の2/3程度以下とすることが好ましい。
【0041】
また、本発明の検出デバイスにおいては、図6に示すように、反応部11と分離検出部12との間に、隔離膜13が形成された構成であってもよい。隔離膜13は、遠心処理前にあっては、反応部11と分離検出部12との間での溶液の流通を確実に遮断する機能を果たす。これにより、反応溶液20が分離検出部12に入り込むことが防止され、サンプルと反応溶液との反応が反応部11内でのみ進むので、反応効率を高めることができる。一方、遠心処理を行うと、隔離膜13は遠心力によって破れ、その結果、反応部11に収容された反応溶液が分離検出部12に流入し、沈降係数の大きな物質は分離検出部12に沈降させられる。
【0042】
さらに、隔離膜13を備えた検出デバイスにおいて、図7に示すように分離検出部12に前記分離促進液20が収容されていてもよい。この場合、隔離膜13が存在しない検出デバイスの場合と同様に、標識用発色物質と未反応の標識用発色物質との分離を効率よく行うことができる。隔離膜13を備え、且つ分離検出部12に分離促進液21が収容されている場合、反応部11に保持される反応溶液20との間に空気等の気体を介在させることで、遠心力により隔離膜13が破れ易くなり、反応溶液20と分離促進液21との混合を確実に行うことができる。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
実施例1では、競合法を利用してホルモンの一種であるコルチゾールの検出を試みた。
先ず、抗コルチゾール抗体に粒径40nmの金コロイド粒子を修飾した金コロイド標識抗体を含む溶液(O.D.=6)を調製し、この金コロイド標識抗体溶液を透明な円錐形状のチューブに5μlずつ入れた。
【0044】
一方、サンプル溶液として、コルチゾール濃度が3000ng/ml、300ng/ml、30ng/ml、3ng/ml、0.3ng/mlであるコルチゾール溶液を用意し、各コルチゾール溶液を各チューブに5μlずつ入れた。ピペッティングにより溶液を撹拌し、抗原抗体反応させた。
【0045】
次に、コルチゾールを修飾した粒径2μmのポリスチレンビーズ担体を用意し、このビーズ担体を含む溶液を10μlずつ各チューブに入れ、ピペッティングにより撹拌し、反応させた。
【0046】
最後に、チューブごと遠心分離機にセットし、3250gで15秒間、遠心することにより、ビーズ担体をチューブ底部に沈降させた。遠心分離後のチューブの写真を、図8に示す。同図に示すように、抗原(コルチゾール)濃度が低下するのに伴い、沈降物の赤色の呈色が濃くなっていることが確認された。すなわち、サンプル溶液中の抗原濃度が高ければ金コロイド標識抗体はビーズ担体に結合しないため呈色が薄くなり、抗原濃度が低ければ金コロイド標識抗体がビーズ担体に結合して呈色が濃くなることが確認された。
【0047】
ここで、コルチゾール濃度0.3ng/mlのサンプル溶液を用いたときの沈降物を回収し、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)で観察した。SEM観察写真を図9に示す。粒径2μmのポリスチレンビーズ担体の表面に、金コロイド粒子が結合していることが観察される。
【0048】
(実施例2)
原発性アルドステロン症等の手術に際しては、血中コルチゾール濃度によってカテーテル位置を確認することがある。例えば、大腿部から静脈中に挿入したカテーテルを副腎に向けて移動させながら、静脈血のサンプリングと血中コルチゾール濃度の測定とを繰り返し行い、コルチゾール濃度値の上昇をカテーテル先端が適切に位置したことの指標とする場合がある。これら一連の操作は限られた手術時間内に完了させる必要があることから、コルチゾール濃度を短時間で測定したいという要請がある。しかも、コルチゾール濃度として100ng/mlと300ng/mlといった僅かな濃度差を判別できなければならない。そこで本実施例においては、前記具体的事例への本発明の応用可能性について検討を行った。
【0049】
サンプル溶液として、コルチゾール濃度が75ng/ml、150ng/ml、300ng/mlであるコルチゾール溶液を用意した。また、ビーズ担体として、粒径50nmのシリカビーズ担体を用いた。これら以外は、実施例1と同様にして、サンプル溶液中のコルチゾールの検出を行った。遠心分離後のチューブの外観写真を図10に示す。
【0050】
図10より、コルチゾール濃度100ng/ml付近と300ng/ml付近とでは、沈降物の呈色が全く異なっていることがわかる。したがって、本実施例より、前述のような事例への応用可能性が示された。
【0051】
(実施例3)
実施例3では、サンドイッチ法によってもサンプルを検出可能か否か調べた。本実施例では、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の検出を試みた。
【0052】
先ず、サンプル溶液として、hCG抗原濃度が100ng/ml、10ng/ml、1ng/ml、0.1ng/ml、0.01ng/mlである溶液を調製し、各濃度のサンプル溶液を10μlずつ円錐状のチューブに入れた。次に、抗hCG抗体を固定化したポリスチレンビーズ(粒径2μm)担体を含む溶液を用意し、この溶液を各チューブに5μlずつ入れ、ピペッティングにより撹拌し、反応させた。
【0053】
一方、抗hCG抗体に粒径40nmの金コロイド粒子を修飾した金コロイド標識抗体を含む溶液(O.D.=3)を調製した。なお、金コロイド標識抗体に用いた抗体は、ポリスチレンビーズ担体に固定化した抗hCG抗体とはhCG上の異なる部位を認識するものであり、具体的にはhCGのαサブユニットを認識する。この金コロイド標識抗体溶液を前記チューブに5μlずつ入れ、ピペッティングにより撹拌し、反応させた。その後、3分間静置した。
【0054】
最後に、チューブごと遠心分離機にセットし、3250gで15秒間、遠心処理することにより、ビーズ担体をチューブ底部に沈降させた。遠心分離後のチューブの写真を、図11に示す。同図に示すように、hCG濃度の上昇に伴って沈降物の赤色が濃くなっていくことが確認された。
【0055】
(実施例4)
実施例4では、円錐形状のチューブに代えて図3に示す構造の検出デバイスを用いて、実施例3と同様にサンドイッチ法を利用してhCGの検出を試みた。反応部には、抗hCG抗体を固定化したポリスチレンビーズ(粒径2μm)担体と、金コロイド標識抗体とを含む反応溶液が収容保持されている。一方、分離検出部には、空気が満たされている。
【0056】
前記デバイスの反応部に、実施例3で調製したhCG抗原含有サンプル溶液を10μlずつ入れ、これらを反応させた。反応後、検出デバイスを遠心分離機にセットし、3250g、15秒間遠心処理することにより、ビーズ担体を分離検出部の底部に沈降させた。遠心分離後の分離検出部の写真を、図12に示す。サンプル溶液のhCG濃度に依存して沈降物の色の濃さと色調が変化していることが確認された。
【0057】
(実施例5)
本実施例では、担体として用いられるビーズの材料と粒径について検討した。粒径400nmのポリスチレン(PS)ビーズを含む溶液、粒径200nmのポリスチレン(PS)ビーズを含む溶液、粒径50nmのシリカビーズを含む溶液を用意した。これら溶液を、実施例4で用いた検出デバイスを構成する容器に入れ、遠心処理を行い、ビーズを容器底部に沈降させた。遠心分離後の分離検出部の写真を図13に示す。
【0058】
同図より、ポリスチレンビーズの沈降物は白色を呈したが、シリカビーズの沈降物は透明であった。本発明の検出方法では、沈降物を構成するビーズ担体に結合した発色物質由来の発色に基づいて被検物質を定性的又は定量的に検出する。したがって、ビーズ担体として透明なシリカビーズの使用がより好ましいことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の検出方法の一実施形態を説明するための模式図であり、(a)はサンプル溶液と金コロイド標識抗体とを混合する混合工程、(b)はビーズ担体へ結合させる結合工程、(c)は遠心分離工程を示す。
【図2】本発明の検出方法の他の実施形態を説明するための模式図であり、(a)はサンプル溶液と金コロイド標識抗体とを混合するの混合工程、(b)はビーズ担体へ結合させる結合工程、(c)は遠心分離工程を示す。
【図3】本発明の検出デバイスの一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の検出デバイスを用いた検出方法を説明するための模式図であり、(a)はサンプル溶液と反応溶液との反応工程、(b)は遠心分離工程を示す。
【図5】本発明の検出デバイスの第2の例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の検出デバイスの第3の例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の検出デバイスの第4の例を示す概略断面図である。
【図8】実施例1の結果を示す写真である。
【図9】実施例1において沈降したビーズ担体の表面を観察したSEM写真である。
【図10】実施例2の結果を示す写真である。
【図11】実施例3の結果を示す写真である。
【図12】実施例4の結果を示す写真である。
【図13】実施例5の結果を示す写真である。
【符号の説明】
【0060】
11 反応部、12 分離検出部、13 隔離膜、20 反応溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の被検物質と前記被検物質を認識する結合物質との特異的結合を利用してビーズ担体に発色物質を結合させ、遠心分離によって前記ビーズ担体を沈降物として容器底部に沈降させることにより前記ビーズ担体に結合した発色物質と結合していない発色物質とを分離した後、前記容器の外側から観察される前記沈降物中の前記発色物質由来のシグナルを指標として前記被検物質を検出することを特徴とする被検物質の検出方法。
【請求項2】
前記ビーズ担体の沈降係数が前記発色物質の沈降係数より大きいことを特徴とする請求項1記載の被検物質の検出方法。
【請求項3】
前記ビーズ担体の沈降係数が前記発色物質の沈降係数より10倍大きいことを特徴とする請求項2記載の被検物質の検出方法。
【請求項4】
前記ビーズ担体の粒径が5μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の被検物質の検出方法。
【請求項5】
前記ビーズ担体が透明材料で構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の被検物質の検出方法。
【請求項6】
前記ビーズ担体の粒径が70nm以下であることを特徴とする請求項5記載の被検物質の検出方法。
【請求項7】
前記発色物質が金コロイド粒子であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の被検物質の検出方法。
【請求項8】
上面が開口するとともに底面を有し、反応溶液が収容される反応部と、
前記反応部の底面に開口し、前記反応部より内径が狭く形成された透明な分離検出部とを備え、
前記分離検出部の内部に前記反応溶液が収容されていないことを特徴とする検出デバイス。
【請求項9】
前記分離検出部には空気が収容されていることを特徴とする請求項8記載の検出デバイス。
【請求項10】
前記分離検出部の開口において、前記反応溶液は表面張力により前記反応部に保持されていることを特徴とする請求項9記載の検出デバイス。
【請求項11】
前記反応部と前記分離検出部との液体の流通が隔離膜によって遮断されており、前記検出デバイスを遠心処理するときに発生する遠心力によって前記隔離膜が破れ、前記反応部に収容された反応溶液が前記分離検出部に流入するように形成されていることを特徴とする請求項8記載の検出デバイス。
【請求項12】
前記反応部の底面が略円弧状を呈することを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項記載の検出デバイス。
【請求項13】
前記反応溶液として、サンプル中に含まれる被検物質を認識するとともに発色物質で標識された結合物質とビーズ担体とを含む溶液が収容されていることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項記載の検出デバイス。
【請求項14】
前記ビーズ担体に結合した標識用発色物質と未反応の標識用発色物質との分離を促進する分離促進液が前記分離検出部に収容されていることを特徴とする請求項13記載の検出デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−185529(P2008−185529A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20967(P2007−20967)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、知的創造による地域産学官連携強化プログラム「文部科学省 知的クラスター創成事業」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【出願人】(505437907)有限会社バイオデバイステクノロジー (10)
【Fターム(参考)】