説明

被検物質を検出するためのポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクターおよびそれらを用いた検出方法

【課題】ダイオキシン応答配列であるポリヌクレオチド、それを含むベクターおよびそれらを用いたAhRとArntとの複合体形成を導く化合物を検出する方法を提供する。
【解決手段】nnnntcgtgtnnnnnnnggで示されるポリヌクレオチド(ここで、Nは任意のヌクレオチドであり、且つ5’末端側のNNNNはCATGではなく、3’末端側のNNNNNNNはCTAGGGCではない)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオキシン応答配列であるポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクターおよび前記ポリヌクレオチドを使用する被検物質を検出する方法に関する。特に、本発明は、例えば、被検物質が内分泌攪乱物質であり、そのような微量化学物質が基質依存型転写因子である受容体と結合した際に形成される蛋白質複合体に対して特異的に結合するポリヌクレオチドと、当該検出用核酸を用いて微量化学物質を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂関連化学物質や、プラスチック可塑剤、農薬など、環境中に存在する化学物質が生体に及ぼす影響が注目され、それらの化学物質により惹起される疾患が危惧されている。このうち、動物の生殖機能に関する内分泌をかく乱するものが多数見いだされており、これらは、内分泌攪乱物質と呼ばれている。内分泌攪乱物質の一つであるダイオキシン類は、様々な化学物質の製造過程等において非意図的に生成され、その後、化学物質の不純物として環境に排出されることから、その環境ならびに健康に対する影響が危惧されている。ここでダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン類(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン類(PCDFs)およびコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)の総称であり、多くの構造異性体が存在する。これら異性体のいくつかは強い毒性を示すことが知られており、現在の環境汚染レベルにおいて、人体に影響を及ぼす危険性があると考えられている。これらダイオキシン類の毒性発現のほとんどは、その受容体であるアリルハイドロカーボン受容体(Aryl hydrocarbon receptor;以下「AhR」と記す)によって仲介されることが知られている。リガンド非存在下においてAhRは細胞質に存在するが、ダイオキシン等のリガンドと結合することにより、AhRは構造変化を起こし、核内へと移行する(非特許文献4)。核移行したAhRはアリルハイドロカーボン受容体核トランスロケーター(Aryl hydrocarbon receptor nuclear translocator ; 以下「Arnt」と記す)とヘテロ二量体を形成する。AhR/Arntヘテロ二量体が、標的遺伝子の転写調節領域上に存在するxenobiotic response element(XRE)と呼ばれる、ダイオキシン応答配列に結合することにより、転写が活性化される(図1を参照されたい)。
【0003】
一般に、環境試料や食品の分析には公定法に規定されている高分解能ガスクロマトグラフィー・質量分析が標準法として用いられている。しかしながら、この方法は高価で特殊な機器、高度な技術をもつ分析技術者、専用の分析施設および複雑な前処理を要する。そのため、分析結果を得るまでに長期間を要し、分析費用が高額なものになっている。また、同一試料中の複数の化学物質による生体への複合的影響は化学分析では考慮されていない。
【0004】
このような状況において近年、化学分析の難点を補充し、あるいは化学分析に供する試料を選ぶための簡便で安価な1次スクリーニング方法といて、特定のリガンド量を抗原抗体反応にて検知する酵素免疫測定法(enzyme immunoassay; EIA)やバイオアッセイ法が注目されるようになってきた。ダイオキシン類のバイオアッセイ法の開発において、その初期には、ダイオキシン類によって7-ethoxyresorufin O-deethylase(EROD)活性が誘導されることを利用して、細胞のEROD活性から試料中のダイオキシン類の検出が試みられた。また現在では、ダイオキシン類曝露によるリポーター遺伝子の発現増加を指標としたChemical-activated luciferase expression(CALUX)法が広く用いられている。この方法はダイオキシン類によって強く誘導されるマウスCYP1A1遺伝子に由来したAhRの認識配列であるXREを含むエンハンサー配列ならびにマウス乳がんウイルス遺伝子由来プロモーター配列をルシフェラーゼ遺伝子の上流に挿入したベクターを安定的に細胞に導入し、そのルシフェラーゼー活性から試料中のダイオキシン類を検出する方法である。
【0005】
上記に挙げた検出法は簡易で鋭敏なものではあるが、EIA法では、抗体の特異性のために限られた種類のダイオキシンしか検出できず、また妨害物質の影響を受けやすい。また、EROD bioassayは検出範囲が狭く基質阻害を受けやすい。一方、ドーパミン生合成に関与するチロシンヒドロキシラーゼ(Tyrosine Hydroxylase;以下「TH」と記す)の発現がAhR活性化により増加することを利用して、この転写制御能の活性を測定することにより、基質結合性を有する転写因子の制御領域に対する微量被検知物質の活性を測定する方法がある(特許文献1)。この方法はダイオキシン類によって強く誘導されるマウスTH遺伝子に由来した67bpのAhRの認識配列を含むエンハンサー配列ならびにTH遺伝子由来プロモーター配列をルシフェラーゼ遺伝子の上流に挿入したベクターが導入された細胞を用いて検出する方法である。この方法で用いられる67bpのエンハンサー配列では、既知のAhR結合配列であるXRE(非特許文献1参照)を含まない。
【特許文献1】特開2007-202555号公報
【非特許文献1】Boutros PC, Moffat ID, Franc MA, Tijet N, Tuomisto J, PohjanvirtaR, and Okey AB Biochem Biophys Res Commun, 321, 707-715 (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ダイオキシン応答配列であるポリヌクレオチド、それを含むベクターおよびそれらを用いたAhRとArntとの複合体形成を導く化合物を検出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための手段は、
(A)配列番号1で示されるポリヌクレオチド;
(B)AhRとArntとの複合体形成を導く化合物を検出する方法であって、
(1)被検物質と、AhRと、Arntと、配列番号1で示される配列を含む検出用核酸とを接触させることと(ここで、配列番号1に含まれるNは任意のヌクレオチドであり、且つ5’末端側のNNNNはCATGではなく、3’末端側のNNNNNNNはCTAGGGCではない)
(2)当該被検物質と、AhRと、Arntと、検出用核酸との結合を検出することと
を具備する方法;
(C)試料中の被検知物質を検出する方法であって、
(1)当該試料と、AhRと、Arntと、配列番号1で示される配列を含む19塩基長の2本鎖である検出用核酸とを接触させることと(ここで、配列番号1に含まれるNは任意のヌクレオチドであり、且つ5’末端側のNNNNはCATGではなく、3’末端側のNNNNNNNはCTAGGGCではない)、
(2)前記接触により得られた当該被検知物質とAhRとArntと当該検出用核酸との結合を検出することと、
(3)(2)の検出結果から、当該被検知物質が当該試料に含まれるか否かを判定することと、
を具備する検出方法;
(D)TH遺伝子の転写制御領域内の被検物質に応答して下流遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域、該エンハンサーの下流に機能的に連結されたプロモーター、および該プロモーターの下流に機能的に連結されたレポーター遺伝子を有することを特徴とするベクターであって、配列番号1により示されるポリヌクレオチドがエンハンサー領域であるベクター;
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ダイオキシン応答配列であるポリヌクレオチド、それを含むベクターおよびそれらを用いたAhRとArntとの複合体形成を導く化合物を検出する方法が提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
鋭意研究の結果、本発明者らはこれまで解明されていなかったTH遺伝子のエンハンサー領域内におけるAhR結合配列を特定し、そのAhR結合配列が安定して機働するための配列を特定した。当該配列は、配列番号1で示される配列である。配列番号1で示される配列は、5’末端側に任意の4塩基(即ち、NNNN)と、3’末端側に任意の7塩基(即ち、NNNNNNN)を含むNNNNTCGTGTNNNNNNNGGである。当該配列が安定して機働するためには5’末端側に4塩基と3’末端側に7塩基ずつの任意のポリヌクレオチドを含み、かつ3’末端にGGを含むことが必要である。ここで、「AhR結合配列が安定して機働する」とは、AhR結合配列が、生体内において本来的に働くのと同様に働くことを意味する。即ち、これは、アリルハイドロカーボン受容体が本来的に結合するべき物質と結合し、活性化したAhRに対してAhR結合配列が結合能力を発揮し、その結果、遺伝子の転写を制御することを意味する。
【0010】
本明細書において、塩基は大文字または小文字による一文字表記により示す。即ち、記号「A」または「a」はアデニン、「T」または「t」はチミン、「G」または「g」はグアニン、「C」または「c」はシトシン、「N」または「n」はアデニン、グアニン、シトシンまたはチミンを示す。
【0011】
このAhR結合配列に含まれるTCGTGTは、TH遺伝子の転写開始点から上流(即ち、5’側)の6bpの配列である。この配列の決定は、変異を加えた標識核酸プローブを用いたゲルシフトアッセイ法により行う。ゲルシフトアッセイ法は、蛋白質を結合した核酸の方が、蛋白質を未結合の核酸に比べて、電気泳動時の移動度が小さくなることを利用した核酸と蛋白質の結合検出法である。通常数10塩基の2本鎖オリゴヌクレオチドからなる標識核酸と、AhRおよびArntなどの核酸結合性因子を反応させてから、非変性ゲルで電気泳動を行って標識核酸の移動度を検出する。AhR、Arnt蛋白質と結合性を有する標識核酸プローブ、及び当該標識核酸プローブの5’末端配列から3塩基ごとに塩基置換を加えた配列をもつ9種類の非標識DNAプローブを各々、結合緩衝液[組成;100 mM Hepes pH7.6、5 mM EDTA、50mM DTT、1%(w/v) Tween 20、150 mM KCl]中に、室温で20分間静置する。当該標識核酸プローブとAhRとArntとの結合の検出は、電気泳動測定法により行う。電気泳動測定法以外に電気質量センサ素子を用いた測定法、電気化学的測定法、蛍光測定法、放射線測定法などを用いても検出することが可能である。
【0012】
当該ゲルシフトアッセイ法による解析により、マウスTH遺伝子上流の-228〜-223塩基配列(数字は転写開始点を+1、直前の塩基を-1とした位置を表す)にAhR結合配列を同定される。さらに、AhR結合性を有するマウスTH遺伝子上流の-228〜-223の塩基配列の6塩基を含むマウスTH遺伝子上流の-238〜-213塩基配列である25塩基の配列から3’末端のGGを削除した配列からなる標識核酸配列によるゲルシフトアッセイ法による解析により、3’末端のGGを削除した配列からなる標識核酸配列はAhR、Arnt複合体と結合しないことから、該標識核酸配列とAhR、Arnt複合体との結合には3’末端側のGG配列が必須であることが確認できる。
【0013】
またさらに、結合に必須な塩基配列を決定するため、5’末端側の6塩基を削除して得られるマウスTH遺伝子上流の-223〜-214塩基配列で示される19塩基の配列、さらには上記で示された19塩基の配列のうち5‘末端側の4塩基、及び3’末端側のGG以外の7塩基の配列内に置換を加えた標識核酸配列を用いたゲルシフトアッセイ法による解析により、各々の標識核酸プローブとAhR、Arnt複合体との結合を確認することができることから6塩基のマウスTH遺伝子上流-228〜-223の配列と、その5’末端側にNNNNの任意の4塩基、3’末端側にNNNNNNNの任意の7塩基とGGからなる9塩基の配列とで構成された19塩基の配列が安定に機働するAhR結合配列であることを確認することができる。ここで、天然に存在するAhR結合配列において、5’末端側のNNNNはCATGではなく、3’末端側のNNNNNNNはCTAGGGCではない。
【0014】
配列番号1で示されるポリヌクレオチドは、それ自身公知の方法により合成してもよく、天然の材料から調製してもよい。
【0015】
配列番号1で示されるポリヌクレオチドは、細胞を使用しないアッセイ系で使用しても、ベクターに組み込んで使用してもよく、また、当該ポリヌクレオチドを含むベクターを細胞に導入し、当該細胞を使用するアッセイ系において使用してもよい。
【0016】
そのようなアッセイ系において使用することにより、配列番号1で示されるポリヌクレオチドは、AhRとArntとの複合体形成(即ち、AhRとArntとの結合)を安定的に且つ高特異性をもって検出することが可能となる。
【0017】
そのような検出は、配列番号1で示されるポリヌクレオチド(ここで、配列番号1に含まれるNは任意のヌクレオチドであり、且つ5’末端側のNNNNはCATGではなく、3’末端側のNNNNNNNはCTAGGGCではない)と、被検物質と、AhRと、Arntと接触させ、次に、当該被検物質と、AhRと、Arntと、検出用核酸との結合を検出すればよい。そのような方法により、安定した簡便な構成で簡単にAhRとArntとの複合体形成を検出または検知することが可能である。
【0018】
従って、本発明の1つの態様に従うと、
AhRとArntとの複合体形成を導く化合物を検出する方法であって、
(1)被検物質と、AhRと、Arntと、配列番号1で示される配列を含む検出用核酸とを接触させることと(ここで、配列番号1に含まれるNは任意のヌクレオチドであり、且つ5’末端側のNNNNはCATGではなく、3’末端側のNNNNNNNはCTAGGGCではない)
(2)当該被検物質と、AhRと、Arntと、検出用核酸との結合を検出することと
を具備する方法が提供される。
【0019】
この方法は、図1に示した細胞内におけるAhRとArntとAhRリガンドとXREとが結合する現象を利用した方法であり、AhRとArntとの結合を導く化合物と、AhRと、Arntと、検出用核酸との結合を非細胞系において検出することにより、AhRとArntとの結合を導く化合物を検出する方法である。
【0020】
図2を参照されたい。当該方法の原理を説明する。反応系11において被検物質12とAhR13とArnt14と検出用核酸15とを接触させる(図2(A))。その結果、被検物質12が、AhRとArntとの結合を導く化合物であった場合には、図2(B)に示すように複合体が形成される。従って、この複合体を検出することにより当該被検物質がAhRとArntとの結合を導く化合物であると判定することが可能である。また、当該被検物質が、AhRとArntとの結合を導かない化合物であった場合、または当該反応系11にAhRとArntとの結合を導く化合物が存在しない場合には、図2(C)に示すように、当該複合体は形成されないので、当該複合体は検出されない。
【0021】
このような原理を利用し、被検物質がAhRとArntとの結合を導く化合物であるか否かを判定することが可能である。また、同様の原理を利用すれば、試料中にAhRとArntとの結合を導く化合物が含まれるか否かを判定することも可能である。同様に、所望の化合物がAhRとArntとの結合を導く化合物であるか否かをスクリーニングすることも可能である。
【0022】
ここで、「被検物質」とは、本発明に従う検出方法または判定方法に供される公知または未知の天然物若しくは化合物、またはそれらの少なくとも1を含む混合物などであればよい。
【0023】
ここで、「被検知物質」とは、本発明の検出方法において検知しようとする対象であればよい。
【0024】
ここで、「試料」とは、本発明の検出方法または判定方法に供される試料であり、例えば、食品、試薬、薬品、湖水、海水、河川水、汚水および廃棄物など、AhRとArntとの結合を導く化合物が含まれ得る、またはAhRとArntとの結合を導く化合物が含まれることが疑われる何れかの物質であればよい。
【0025】
ここで「AhRとArntとの複合体形成を導く化合物」とは、「AhRとArntとの結合を導く化合物」と同義であり、これらは交換可能に使用することが可能である。そのような化合物は、例えば、AhRリガンド様物質などであってよい。AhRリガンド様物質には、ダイオキシンなどの内分泌攪乱物質が含まれてよい。内分泌攪乱物質は一般的に「環境ホルモン」とも称される。
【0026】
ここで使用される「核酸」とは、合成または天然由来のDNA、オリゴヌクレオチドなどであればよい。またLNAやペプチド核酸などの人工核酸であってもよい。ここでは、便宜上、複数のヌクレオチドが結合してなる核酸を「ポリヌクレオチド」と称する。
【0027】
1.検出用核酸
配列番号1で示されるポリヌクレオチドは、検出用核酸として使用されてもよい。そのような検出用核酸は、少なくとも配列番号1で示される配列の部分を2本鎖で含む核酸であってよい。当該検出用核酸が2本鎖である場合、当該2本鎖に含まれる一方の核酸は、配列番号1で示される19塩基の核酸、およびこれらの配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であればよい。当該2本鎖に含まれるもう一方の核酸は、配列番号1で示される19塩基の核酸の相補鎖、およびこれらの配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の相補鎖であればよい。当該検出用核酸の重要な部位は、配列番号1で示される配列であり、少なくともこの部分は相補性を有するもう1つの一本鎖と共に2本鎖を形成していてよい。それ以外の部分は、相補鎖により2本鎖を形成してもよく、それらの配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする1本鎖と共に2本鎖を形成してもよく、1本鎖であってもよい。
【0028】
ここで、「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが生じ、非特異的なハイブリダイゼーションは生じないような条件をいう。また、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズすることが可能な」配列とは、一定の以上の相同性を有している配列であればよい。「一定以上の相同性」とは、例えば、70 %以上、好ましくは80 %以上、より好ましくは90 %以上、さらに好ましくは93 %以上、特に好ましくは95 %以上、最も好ましくは98 %以上であればよく、また、100 %の相同性、即ち、相補性を有していてもよい。
【0029】
このような一定以上の相同性を有する核酸は、所望の配列の核酸の1または複数の塩基が置換、欠失、および/または挿入された塩基配列からなる核酸であればよい。
【0030】
また、本発明においては、当該検出用核酸として、配列番号1の核酸を複数回、例えば、2〜10個連結したものを使用することも可能である。
【0031】
このような当該検出用核酸は、化学的に合成してもよく、また、天然に存在する核酸を単離してもよい。何れの場合もそれ自体公知の手法で製造されてよい。
【0032】
2.AhRおよびArnt
ここにおいて使用される「AhR」の語は、他に断りのない限りAhR蛋白質を示す。同様に、ここにおいて使用される「Arnt」の語は、他に断りのない限りArnt蛋白質を示す。
【0033】
本発明において使用されるAhRおよびArntは、DNA結合性因子である。AhRおよびArntは、天然に存在する何れかの生物由来のAhRおよびArntを単離してもよく、遺伝子工学を利用して合成されてもよい。
【0034】
AhRおよびArntは、ラット由来であることが好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、マウスやヒトなど哺乳類由来のAhRおよびArnt、或いはアジサシなど鳥類由来のAhRおよびArnt、或いはチョウザメ、メダカなど魚類由来のAhRおよびArntを使用してもよい。これらは、天然の蛋白質であってもよいし、その機能を消失させない限りにおいて、遺伝子操作によってアミノ酸配列を改変した改変型蛋白質、或いは蛋白質の末端にタグ配列や他の蛋白質を融合させた融合蛋白質であってもよい。
【0035】
例えば、本発明で使用することができる融合蛋白質の例としては、配列番号7に記載した塩基配列によりコードされる、C末端にヒスチジン・タグ/V5タグを付加した融合ラットAhR、および配列番号8に記載した塩基配列によりコードされる、C末端にヒスチジン・タグ/V5タグを付加した融合ラットArntなどが例として挙げられる。
【0036】
本発明において使用されるAhRおよびArntは、細胞抽出液として何れかの生物組織から調製されてもよい。また、大腸菌、酵母、昆虫または動物培養細胞を用いる蛋白質発現系を用いて調製されてもよい。或いは、無細胞発現系(即ち、インビトロトランスクリプション/トランスレーション)によって調製することも可能である。
【0037】
AhRおよびArntを細胞抽出液として調製する場合には、AhRおよびArntを発現する細胞から、自体公知の方法によって、全細胞、或いは核から蛋白質を抽出することによりAhRおよびArntを調製してよい。本発明で使用可能である細胞の例は、寄託番号 FERM BP-10341、およびFERM BP-10342の細胞などが挙げられる。
【0038】
AhRおよびArntを大腸菌、酵母、昆虫または動物培養細胞を用いる蛋白質発現系を用いて作製する場合は、AhR遺伝子またはArnt遺伝子を適当な発現ベクターに組み込んだ後に、宿主細胞に導入して強制的に発現させればよい。
【0039】
このような蛋白質発現系において、蛋白質の発現に適するベクターとしては、動物培養細胞の場合、ヒトサイトメガロウイルスのimmeadiate-early エンハンサー/プロモター領域を組込み、その下流域にT7のプロモター配列/マルチクローニング部位を有するpTargetTベクターやSV40エンハンサーとSV40のearlyプロモターを有するpSIベクター(プロメガ社)、pBK−CMV、CMV−Script、pCMV−TagおよびpBK−RSV(ストラタジーン社)およびpcDNA4ベクター・シリーズ(インビトロジェン社)などであってよい。
【0040】
また、大腸菌、酵母などの微生物宿主における発現に適するベクターは、例えば、大腸菌系のT7のプロモターを有するpETシリーズベクター発現システム(例えばpET3a,pET27b(+)やpET28a(+);ノバジェン社)、および酵母系においてはアルコールオキシダーゼのプロモターを有するピチア発現系ベクターpICシリーズベクター(例えばpPIC9KやPIC3.5K;インビトロゲン社)などであってよい。
【0041】
AhRおよびArntを無細胞発現系(即ち、インビトロトランスクリプション−トランスレーション)で調製する場合には、RNAを鋳型として翻訳だけをインビトロでおこなう方法と、DNAを鋳型として転写/翻訳をインビトロで同時におこなう方法の2通りの方法がある。
【0042】
RNAを鋳型とする場合には、Total RNA, mRNA, in vitro転写産物などを使用することができる。DNAを鋳型とする場合には、転写プロモーターと翻訳開始点の下流に組み込まれた目的遺伝子を含むプラスミド・ベクター、或いはPCR/RT-PCRの産物を使用することができる。
【0043】
このような方法に適したベクターとしては、例えば、ヒトサイトメガロウイルスのimmeadiate-early エンハンサー/プロモター領域を組込み、その下流域にT7のプロモター配列/マルチクローニング部位を有するpTargetTベクターやSV40エンハンサーとSV40のearlyプロモターを有するpSIベクター(プロメガ社)、pBK-CMV、CMV-Script、pCMV-TagおよびpBK-RSV(ストラタジーン社)およびpcDNA4ベクター・シリーズ(インビトロジェン社)などが挙げられる。
【0044】
無細胞発現系に最適なシステムの選択は、合成するタンパク質の遺伝子の由来(原核細胞/真核細胞)、鋳型の種類(DNA/RNA)、または合成後のタンパク質の使用目的などを考慮して行う必要がある。一般的に真核細胞由来の配列を真核細胞システムで、あるいは原核細胞由来の配列を原核細胞のシステムで翻訳するような場合に問題が起こることは稀有である。無細胞発現系による蛋白質の発現は市販の蛋白質発現システムを用いてもよく、例えば、TnT(登録商標) Reticulocyte Lysate(プロメガ社)や、Wheat Germ Extract Plus (プロメガ社)などを用いることができる。
【0045】
3.検出およびスクリーニング方法
本発明に従うと、
被検物質が、AhRとArntとの結合を導く化合物であるか否かを判定する方法であって、
(1)当該被検物質と、AhRと、Arntと、配列番号1で示される配列を含む連続した19塩基からなる検出用核酸と、を接触させることと、
(2)前記接触により得られた当該被検物質とAhRとArntと当該検出用核酸との結合を検出することと、
(3)(2)の検出結果から、当該被検物質がAhRとArntとの結合を導く化合物である否かを判定することと、
を具備する方法が提供される。
【0046】
また、本発明の方法は、次のようにAhRとArntとの結合を導く化合物を検出する方法、または当該AhR、および当該Arntとの結合を導く化合物をスクリーニングする方法として提供されてもよい。
【0047】
そのような方法は、例えば、
AhRおよびArntとの結合を導く化合物を検出する方法であって、
(a)被検化合物を含む試料の存在下、本発明に従う検出用核酸とAhRとArntとを接触させる工程、および
(b)当該検出用核酸とAhRとArntとの結合を検出する工程、
を含む方法;
AhRとArntとの結合を導く化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)被検化合物を含む試料の存在下、本発明に従う検出用核酸とAhRとArntとを接触させる工程、
(b)当該検出用核酸と当該被検化合物とAhRとArntとの結合を検出する工程、および
(c)当該検出用核酸とAhRとArntとの結合を導く化合物を選択する工程、
を含む方法;
さらにAhRとArntとの結合を導く化合物をスクリーニングする方法であって、
(d)当該検出用核酸がエンハンサー領域であることを特徴とする、該エンハンサーの下流に機能的に連結されたプロモーター、及び該プロモーターの下流に機能的に連結されたレポーター遺伝子を有することを特徴とするベクターを宿主細胞に導入した細胞を被検物質の存在下および非存在下で培養する工程、
(e)前記工程(d)で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量を測定する工程と、
(f)前記被検物質の非存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値より高い場合に、前記被検物質がAhRとArntとの結合を導く化合物であると評価する工程と、を含む方法などである。
【0048】
本発明において、被検物質と当該検出用核酸とAhRとArntとを接触させることは、次のような条件において行うことが可能である。例えば、結合緩衝液[組成;100 mM Hepes pH7.6、5 mM EDTA、50mM DTT、1%(w/v) Tween 20、150 mM KCl]、などの溶媒中で、25℃〜30℃、好ましくは30℃で、60分間以上、最も好ましくは120分間以上、接触させればよい。
【0049】
当該接触は、AhRとArntと被検物質(または、試料若しくは被検知物質)を先に接触させ、続いて検出用核酸を接触させてもよい。また、AhRと被検物質(または、試料若しくは被検知物質)とを接触させた後に、Arntを接触させ、次に検出用核酸と接触させてもよい。
【0050】
当該検出用核酸とAhRとArntとの結合の検出は、電気泳動測定法、質量センサ素子を用いた測定法、電気化学的測定法、蛍光測定法、放射線測定法などを用いてよい。
【0051】
これらの方法は、適当業者の公知の方法(岡田博人編,「新細胞工学実験プロトコール」, 秀潤社, 1993年、田村隆明編,「バイオマニュアルシリーズ5転写因子研究法」, 羊土社, 1993年、Inouye, C. et al., DNA Cell Biol., 13, 731-742 (1994) 参照)、例えば、アフィニティーカラムを用いた方法、サウスウエスタン法、フットプリンティング法、EMSA(electrophoretic mobility shift assay) 法、one-hybrid法などを使用すればよい。或いは、DNA固定化ビーズ等を用いたプルダウンアッセイ、水晶振動子マイクロバランスを用いた測定、BIACORE等の表面プラズモン共鳴を利用した結合測定、あるいは蛍光偏光法測定によるDNA蛋白質間相互作用解析などにより実施することもできる。
【0052】
例えば、電気泳動的測定法の例としては、EMSA法(一般的には、ゲルシフト法とも呼ばれる)が挙げられる。当該測定法は、蛋白質を結合した核酸の方が、蛋白質を未結合の核酸に比べて、電気泳動時の移動度が小さくなることを利用した核酸と蛋白質の結合検出法である。通常数10塩基の2本鎖オリゴヌクレオチドからなる標識核酸と、AhRおよびArntなどの核酸結合性因子を反応させてから、非変性ゲルで電気泳動をおこなって標識核酸の移動度を検出する。
【0053】
本発明におけるEMSAは、上述した何れかの方法で調製したAhRおよびArntを標識した核酸と反応させて、AhRおよびArntを標識核酸に結合させる。この反応液を非変性ポリアクリルアミドゲルで電気泳動する。その結果、当該蛋白質が結合した核酸の移動度の方が未結合の核酸の移動度よりも小さくなる。従って、当該移動度の違いで、AhRとArntと検出用核酸の複合体が形成されたか否かを判定することが可能である。
【0054】
具体的には、例えば、お互いに完全に相補的なオリゴヌクレオチドを合成し、ヒートブロック中95℃5分で一本鎖とし、その後ヒートブロックの電源を切り、室温に戻るまでそのままにする(即ち、一本鎖のDNAの2本鎖化を行う)。検出用核酸の標識は、特に限定するものではなく、例えば、32P に代表される放射性物質のほか、フルオレセインやAlexa色素に代表される蛍光物質を用いることができる。
【0055】
反応は、例えばインビトロトランスクリプション-トランスレーションにより合成したAhRおよびARNTと被検化合物を混合して15分〜2時間、15〜37℃でおこなう。その後、10 mM Tris-Cl (pH 7.5)、1 mM DTT、1 mM EDTA、10% Glycerol、1 mM MgCl2、0.15 M KClの存在下で、標識した検出用核酸を加え、15〜37℃で15分間反応させた後に、4-10%の非変性ポリアクリルアミドゲルで電気泳動する。
【0056】
必要であれば、標識結合用核酸とAhRとArntとを反応させる際、コンペティターとして非標識核酸(標識結合用核酸の10〜500倍量)を加えてよい。これにより、結合用核酸とAhRとArntとの結合の特異性を確認することができる。コンペティターとしては、標識結合用核酸と同一の配列を含む核酸を用いることが一般的である。
【0057】
電気泳動が終了した後に、使用した標識物質の特性に応じたそれ自身公知の何れかの手段によって当該標識検出用核酸を検出すればよい。
【0058】
例えば、標識核酸を蛍光物質で標識した場合には蛍光スキャナーなどの蛍光検出装置、放射線物質の場合にはX線フィルムやイメージアナライザーなどの放射線測定装置により、標識検出用核酸を検出してパターン解析を行う。これにより、移動度が小さくなった標識検出用核酸が検出されれば、反応液中で、当該検出用核酸とAhRとArntとが結合したことを確認することができる。
【0059】
対照区として、被検化合物を未添加の反応溶液を用意すれば、この反応溶液における標識検出用核酸の移動度と被検化合物を添加した混合溶液における標識検出用核酸の移動度の比較により、当該検出用核酸とAhRとArntとの結合に及ぼす被検化合物の影響を評価することが可能である。また、非標識核酸をコンペティターとして加えた反応溶液において、移動度が小さくなった標識検出用核酸のシグナルが減少または消失すれば、検出用核酸とAhRとArntとの結合が特異的であると確認することができる。
【0060】
標識検出用核酸に結合する蛋白質の種類は、例えば、スーパーシフトアッセイにより同定することが可能である。例えば、反応液に既知のDNA結合因子に対する抗体を添加し、スーパーシフトが見られれば、添加した抗体が結合するDNA結合因子蛋白質がプローブと共に複合体を形成することが分かる。この方法により、AhRとArntが当該検出用核酸とで結合し複合体を形成したことが確認できる。
【0061】
また、本発明における検出では、電気泳動的測定法のほかに、質量変化測定法、電気化学的方法、蛍光測定法、放射線測定法を用いてよい。
【0062】
質量センサ素子を利用した質量変化測定法による検出は、例えば、水晶振動子マイクロバランス法やSPR法で行うことができる。
【0063】
水晶発振子とは、水晶の結晶を極薄い板状に切り出した切片の両側に金属薄膜を取り付けた構造をしたもので、それぞれの金属薄膜に交流電場を印加するとある一定の周波数(共鳴周波数)で振動する性質を示す。金属薄膜上にナノグラム程度の物質が吸着すると物質の質量に比例して共鳴周波数が減少するため微量天秤として利用することができ、このような方法論はQCM(Quartz Crystal Microbalance:水晶発振子マイクロバランス)と呼ばれる。
【0064】
不可逆的な結合を形成する物質、例えば、アビジンを固定化したQCMセンサーチップ表面に通常数15〜30塩基のビオチン標識2本鎖オリゴヌクレオチドを検出用核酸として固定化する。トリス緩衝液が入った反応槽に検出用核酸が固定化されたQCMセンサーチップを浸漬し、当該反応槽にAhR、Arnt、及び被検化合物を添加することで、当該蛋白質複合体の検出用核酸への結合性をリアルタイムで振動数の減少として評価することができる。またSPR法では、金属薄層がコーティングされた透明基板の表面近傍の屈折率変化および/または層の厚み変化が反射光強度の変化として検出される。固定化した物質、つまり当該検出用核酸と液中の物質、即ち、AhRおよびArntが相互作用すれば、表面近傍の屈折率変化および/または層の厚み変化が生じるため、検出用核酸またはAhR若しくはArntを標識することなく相互作用が解析できる。
【0065】
電気化学的測定法による検出においては、電気的に活性な化合物、或いは電気的に活性な化合物を生ずる化学反応を触媒する酵素を用いて、当該検出用核酸とAhRとArntとの結合を検出してもよい。当該測定法で、当該検出用核酸を標識する場合は、導電性を有する担体に担持されたAhRまたはArntに対して標識検出用核酸と被検化合物を反応させ、非特異的な結合物を洗浄して取り除いた後で、電気化学的応答を測定すればよい。AhRまたはArntを標識する場合は、導電性を有する担体に担持された当該検出用核酸に対して標識したAhRまたはArntを反応させ、非特異的な結合物を洗浄して取り除いた後で、電気化学的応答を測定すればよい。当該検出用核酸またはAhR若しくはArntへの標識は、標識化合物や標識用酵素を直接結合させてもよく、ビオチン-ストレプトアビジン結合や抗原-抗体結合を利用して標識化合物や標識用酵素を間接的に結合させてもよい。また、AhRおよびArntの場合には、標識用酵素との融合蛋白質を形成することにより標識してもよい。
【0066】
蛍光測定を特徴とする検出においては、フルオロセインやAlexa色素に代表される蛍光物質、或いはGFPに代表される蛍光蛋白質、または蛍光物質を生ずる反応を触媒する酵素で、当該検出用核酸またはAhR若しくはArntを標識してよい。当該標識は、当該検出用核酸またはAhR若しくはArntに対して、所望の蛍光物質、蛍光蛋白質、または当該酵素を直接結合させてもよく、ビオチン-ストレプトアビジン結合や抗原-抗体結合を利用して間接的に標識させてもよい。AhRまたはArntの場合、蛍光蛋白質との融合蛋白質とすることで標識してもよい。当該検出用核酸を標識する場合には、担体に担持したAhRまたはArntに対して標識検出用核酸を反応させ、非特異的な結合物を洗浄して取り除いた後で、蛍光強度を測定すればよい。AhRまたはArntを標識する場合には、担体に担持した当該検出用核酸に対して標識したAhRまたはArntを反応させ、非特異的な結合物を洗浄して取り除いた後で、蛍光強度を測定すればよい。
【0067】
放射線測定を特徴とする検出方法では、32Pや35Sに代表される放射性物質で、当該検出用核酸またはAhR若しくはArntを標識してよい。当該検出用核酸を標識する場合には、担体に担持したAhRまたはArntに対して標識検出用核酸を反応させ、非特異的な結合物を洗浄して取り除いた後で、放射線強度を測定すればよい。AhRまたはArntを標識する場合には、担体に担持した当該検出用核酸に対して、標識したAhRまたはArntを反応させ、非特異的な結合物を洗浄して取り除いた後で、放射線強度を測定すればよい。
【0068】
4.検出用デバイス
本発明においては、当該検出用核酸、またはAhR若しくはArntを担体に対してアレイ状に固定化した多検体検出用デバイスを作製し、検出および評価に用いることも可能である。
【0069】
このようなデバイスは、質量センサ素子による測定、電気化学的測定、蛍光測定、放射線測定による検出および評価が都合よく実施可能なように作製することができる。このようなデバイスは、当該検出用核酸をプローブとして担体に固定化した検出プローブ固定化チップであってもよいし、AhRまたはArntを担体に固定化したDNA結合因子蛋白質固定化チップであってもよい。
【0070】
当該デバイスのための担体は、例えば、ガラス基板およびシリコン基板等、従来用いられる何れの基板、ビーズおよび容器などの何れであってもよい。固定化手段は、スポッター等を使用する手段、一般的な半導体技術を使用した手段等、当業者にそれ自身公知の手段を用いて固定することが可能である。
【0071】
また、電気化学的方法により検出されるプローブ固定化チップまたはDNA結合因子蛋白質固定化チップの場合、当該検出用核酸またはAhR若しくはArntを所望の基板、例えば、電極基板、に対して共有結合、イオン結合、物理吸着または化学吸着等によって固定化してよい。
【0072】
本発明の更なる1側面に従うと、基板と前記基板に固定化された上述の本発明に従う検出用核酸とを具備するプローブ固定化チップ、基板と前記基板に固定化されたAhRとを具備するDNA結合因子蛋白質固定化チップ、並びに基板と前記基板に固定化されたArntとを具備するDNA結合因子蛋白質固定化チップも本発明として提供される。また、これらのチップは、検出手段に応じて、上述の何れかの標識手段またはそれ自身公知の標識手段と組み合わされて提供されてもよい。
【0073】
また、本発明の更なる1側面に従うと、基板と前記基板に固定化された上述の本発明に従う検出用核酸とを具備するプローブ固定化チップ、AhRおよびArntを具備する検出用キットも提供される。また、基板と前記基板に固定化されたAhRとを具備するDNA結合因子蛋白質固定化チップ、上述の本発明に従う検出用核酸およびArntを具備する検出用キットが提供されてもよい。更にまた、基板と前記基板に固定化されたArntとを具備するDNA結合因子蛋白質固定化チップ、上述の本発明に従う検出用核酸およびAhRを具備する検出用キットが提供されてもよい。このような検出用キットも本発明の範囲内である。また、これらのキットは、検出手段に応じて、上述の何れかの標識手段またはそれ自身公知の標識手段と組み合わされて提供されてもよい。
【0074】
更なる本発明の1側面に従うと、上述の被検化合物を検出するための当該検出用核酸、またはAhR若しくはArntは、それ自身が、被検化合物を検出するための当該DNA検出用プローブおよび/または被検化合物を検出するためのDNA結合因子蛋白質として本発明により提供されてもよい。そのような当該検出用核酸および/またはDNA結合因子蛋白質、および被検化合物を検出するためのその使用も本発明の範囲内である。
【0075】
本発明に従うと、AhRとArntとの結合を導く化合物を、抗体抗原反応や培養細胞を利用することなく簡便な構成で簡単に検出することが可能である。また、本発明に従うと、AhRとArntとの結合を導く化合物を、当該特異的かつ迅速簡単に検知することが可能である。従って、環境に微量に存在するAhRとArntとの結合を導く化合物を、簡単に、安価に、高精度に検出することが可能である。また、AhRとArntとの結合を導く化合物は、生体に取り込まれると内分泌攪乱様物質として働く可能性が高いことから、環境や摂取物などに存在する内分泌攪乱様物質を簡便且つ高感度に検出することも可能であり、且つ任意の被検物質が内分泌攪乱様物質であるか否かを簡便且つ高感度にスクリーニングすることも可能である。
【0076】
従来では、微量化学物質を検知するためには、抗体や培養細胞を利用する方法が利用されている。本発明によれば、微量化学物質を簡単に、安価に準備できる材料を用いた簡便な方法により検出することが可能である。
【0077】
5.ベクター
以下、本発明に従うベクターについて説明する。
【0078】
本発明に従うベクターはチロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域内のAhR結合性を持つ6bpの配列と11bpの任意の塩基配列、及び2つのGを含む19bpの塩基配列をエンハンサー領域とし、該領域の下流に機能的に連結されたプロモーターおよびレポーター遺伝子とを有するベクターを有する。
【0079】
(1)エンハンサー領域
上記、TH遺伝子の転写制御領域は、配列番号1に記載の19bpの配列である。本発明において、「TH遺伝子の転写制御領域」は任意の生物のTH遺伝子の5’上流領域でありえ、例えば、ヒト、マウス、またはラットのTH遺伝子の5’上流領域でありえる。さらに、上記配列番号1に記載の配列は、マウスに由来するTH遺伝子の転写制御領域内の6塩基配列を含むが、その他の種に由来する配列番号1に対応するTH遺伝子の転写制御領域を使用することができる。
【0080】
当該エンハンサー領域は、本発明のベクター内にタンデム繰り返し配列として含有されていてもよい。
【0081】
(2)プロモーター
本発明に従うベクターは上記配列番号1に記載の配列を含むエンハンサー領域に加えて、該領域の下流に機能的に連結されたプロモーターおよびレポーター遺伝子を含む。「機能的に連結された」とは、連結された領域が、その領域の機能を発揮するように、即ち、機働的に連結されていることを意味する。例えば、プロモーターまたはレポーター遺伝子が「機能的に連結された」とは、本発明のベクター内においてプロモーター活性を発揮し、レポーター遺伝子の発現を増強させるように連結されていることをいう。また、レポーター遺伝子が「機能的に連結された」とは本発明のベクター内において、「被検物質に応答して遺伝子の転写活性が増強する領域」やプロモーターの作用によって該レポーター遺伝子が発現されるように連結されていることをいう。プロモーターは宿主細胞内で機能的なプロモーターであれば、任意のプロモーターを使用することができる。好ましくは、哺乳類細胞において活性を有するプロモーターであり、例えば配列番号2のTH遺伝子のコアプロモーターを使用することができる。あるいは、例えばシミアンウイルス(SV40)の初期プロモーター(配列番号3)もしくはSV40の後期プロモーター(配列番号4)、ヒトヘルペスウイルス1チミジンキナーゼ(TK)プロモーター(配列番号5)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(配列番号6)などが挙げられる。当業者であればさらに宿主生物に適した適切なプロモーターを選択することは極めて容易である。
【0082】
(3)レポーター遺伝子
本発明のレポーター遺伝子は、当該技術分野において既知の何れのレポーター遺伝子を使用することもできる。レポーター遺伝子は、その産物の活性が簡単に測定でき、測定バックグラウンドの低いものが好ましく、例えば、このような遺伝子として、遺伝子産物を発光で検出できるルシフェラーゼ遺伝子、蛍光で検出できる緑色蛍光タンパク質遺伝子、発色で検出できるβ−ガラクトシダーゼ遺伝子、放射線活性で検出できるクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子などが挙げられる。
【0083】
(4)他のエレメント
本発明のベクターは、上記領域の他に、種々のエレメントを含むことができる。例えば、適切な微生物内で機能する複製起点および薬剤耐性遺伝子などを組み込むことができる。また、ベクターを細胞の染色体上に組み込んで安定に保持させるために、ベクター内に哺乳類用の薬剤体制遺伝子を組み込んでおくことができる。このような哺乳類用の薬剤耐性遺伝子には、例えば、ゼオシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、及びカナマイシン耐性遺伝子などがあげられる。また、マルチクローニングサイトなどの適切な制限酵素部位を有することもできる。
【0084】
本発明に従うベクターは、環状のプラスミドDNA、ウイルスベクターDNA、直鎖のDNA断片など任意の形態であり得る。
【0085】
(5)ベクターの作製方法
上記ベクターは、当業者に既知の何れの方法を使用して作製することもできるが、例えば以下の通りに作製することができる。
【0086】
(a)TH遺伝子の転写制御領域内からのエンハンサー配列の調製
本発明に最適なエンハンサー配列は、化学的に合成することが好ましい。
【0087】
(b)ベクターの作製
次いで、上記エンハンサー配列をベクターに組み込む。ベクターの作製は、(a)で作製したエンハンサー配列を、レポーター遺伝子が機能する形で連結することにより作製する。作製したベクターは、少なくともエンハンサー領域の塩基配列をシーケンシングし、遺伝子に変異が導入されていないことを確認することが好ましい。
【0088】
本発明に使用されるベクターは、市販のものを使用することができる。例えば、PGV-
B2ベクターやPGV-P2ベクター(TOYOB-NET社)を使用することにより、(a)で作製したエンハンサー配列をベクターに組み込むだけで本発明のベクターを作製することができる。
【0089】
6.細胞
更に、本発明は、上記ベクターが導入された細胞も提供する。上記ベクターが導入された形質転換細胞は、AhRとArntとの結合を導く物質を検出するために使用することができる。
【0090】
本発明のベクターを導入するための宿主細胞は、何れの細胞であることもできるが、哺乳類細胞であることが好ましい。哺乳類細胞の種類は、導入されるエンハンサー領域が機能する細胞であればよく、例えば、初代培養細胞であっても、不死化した培養細胞であってもよい。即ち、哺乳類細胞の種類は、AhRを有する細胞であればよい。あるいは、AhRをコードする遺伝子を哺乳類細胞に導入してもよい。
【0091】
好ましくは、宿主細胞は、AhRを発現している哺乳類細胞である。哺乳類細胞は、例えば、ヒト細胞、マウス細胞またはラット細胞である。「AhRを発現している哺乳類細胞」とは、生得的にAhRを発現している哺乳類細胞であってもよいし、あるいはAhRをコードする遺伝子を哺乳類細胞に導入することにより調製された遺伝子導入細胞であってもよい。
【0092】
AhRをコードする遺伝子(AhR遺伝子)を哺乳類細胞に導入する場合、導入されるAhR遺伝子は、任意の哺乳類に由来するAhR遺伝子であり得、例えば、ヒトに由来するAhR遺伝子、マウスに由来するAhR遺伝子、またはラットに由来するAhR遺伝子であり得る。SDラットに由来するAhR遺伝子を配列番号7に示し、C57/BL6マウスに由来するAhR遺伝子を配列番号9に示す。AhR遺伝子は、当該遺伝子によりコードされるAhRが、リガンド結合型の転写因子として機能する限り、数個の塩基の置換、欠失、付加を含んでいてもよい。
【0093】
特に、宿主細胞は、神経由来の細胞、とりわけ中枢神経系に由来する細胞であることが望ましい。神経由来細胞は、例えば、ヒト神経由来細胞、マウス神経由来細胞またはラット神経由来細胞である。具体的には、神経芽細胞腫、とりわけマウスの神経芽細胞腫であるNeuro2aなどを使用することができる。特に好ましくは、AhRをコードする遺伝子をマウスの神経芽細胞腫Neuro2aに導入した細胞を宿主細胞として使用することができる。その一例として、ラットのAhRをコードする遺伝子をマウスの神経芽細胞腫Neuro2aに導入した細胞は、ブダペスト条約上の国際寄託機関である、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託され、受託番号FERMBP-10341、FERMBP-10342が付与されている。
【0094】
また、宿主細胞への本発明のベクターの導入は一過的であっても、安定な導入であってもよい。例えば、ベクターを一過的な導入の例では、哺乳類細胞を培養容器に播き、10%牛胎児血清を含むMEMダルベッコ・ハムF 1 2等比混合(DF1:1)培地などの培地中において5%CO2条件下で37℃において数時間から1晩程度インキュベートする。このように培養した細胞に上記ベクターを導入する。細胞への上記ベクターの導入法としては、例えば、リポフェクタミン法、エレクトロポレーション法、DEAE-デキストラン法、リン酸カルシウム法などの当業者に既知のいずれの方法を使用して行うこともできる。例えば、リポフェクタミン2000(インビトロジェン社製)を使用することもでき、市販のマニュアルに従って、導入するベクターの量、リポフェクタミン2000の量、および細胞数などをあらかじめ決定しておくことが好ましい。また、細胞に導入するベクターは、適当な制限酵素で消化して直鎖状にしてから導入してもよい。
【0095】
一方、本発明のベクターの安定な導入も、当該技術分野におい既知のいずれの方法を使用して行うことができる。例えば、上記ベクターを作製する際に、薬剤耐性遺伝子を含有するベクターを作製し、薬剤耐性遺伝子を含むベクターを上記一過的な場合と同様に細胞に導入する。次いで、適切な濃度の薬剤を含有する培地中でベクターを導入した細胞を適切な期間培養する。その結果、薬剤耐性遺伝子を含有する細胞、即ち、ベクターが安定に導入された細胞のみが生存することとなる。
【0096】
7.細胞を用いた検出方法
次に、本発明のベクターが導入された細胞を用いて、AhRとARNTとの結合を導く化合物を検出する方法について説明する。
【0097】
まず、上記本発明のベクターが導入された細胞を、被検物質の存在下および非存在下で(即ち、被検物質を未曝露の条件下と曝露条件下で)培養する。被検物質存在下での培養時間は、使用する哺乳動物細胞に応じて、適切な時間を予備実験によりあらかじめ決定するのが望ましい。適切な培養時間は、被検物質の存在によってレポーター遺伝子の発現が誘導されて、その発現産物が検出できる程度の時間である。このような培養時間は、使用する細胞、培地、培養温度、被検物質濃度などの種々の条件によって異なることが当業者には明らかであろう。そして、当業者であれば、上記条件に応じて、適切な培養時間を容易に決定することができると考えられ、通常は2時間〜 3日程度、例えば、1時間、10時間、24時間、30時間以上培養することによって、レポーター遺伝子の発現産物を検出することができると考えられる。
【0098】
次いで、本発明に従う方法では、それぞれの細胞におけるレポーター遺伝子の発現産物の発現量を測定する。発現産物は、使用するレポーター遺伝子に応じて種々の検出方法により検出ことができる。例えば、発現産物の種類に応じて、タンパク質を抽出する工程を含む。タンパク質の抽出方法は、ベクターに使用したレポーター遺伝子の種類に応じて、公知の最適な抽出法をもちいればよい。次いで、抽出したタンパク質中のレポーター遺伝子の発現産物量をレポーター遺伝子の種類に応じた方法で測定する。被検物質の存在下と非存在下におけるレポーター遺伝子の発現量の比較をおこなう。
【0099】
その結果、被検物質の存在下と非存在下におけるレポーター遺伝子の発現量の差分にから、被検物質が、「被検物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー配列」に及ぼす活性を判断することができる。即ち、被検物質の存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値が、被検物質の非存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値より高い場合に、前記被検物質がAhRとARNTとの結合を導く活性を有すると評価される。
【0100】
[例]
以下、本発明に係る例を詳述するが、本発明をこれら例に限定するものではない。
【0101】
[例1]
配列番号10〜18により示される標識検出用核酸を用いたゲルシフト解析によるAhR、Arnt複合体結合配列の決定
(1)AhRおよびARNTの調製
T7プロモーターをもつプラスミドDNA pcDNA4にAhR遺伝子(配列番号7)およびArnt遺伝子(配列番号8)をそれぞれ導入し、2つのプラスミド、即ち、pcDNA4-rAhR(図3)およびpcDNA4-rArnt(図4)を作製した。その後、鋳型プラスミドDNAをもとにTNT(登録商標) Coupled Reticulocyte Lysate Systems(Promega)を利用してインビトロ トランスクリプション−トランスレーション法にてAhRおよびArnt蛋白質を作製した。
【0102】
(2)AhRとArntとTCDDとを含む複合体の形成
インビトロトランスレーション産物であるAhRおよびArntをそれぞれ5 μl混合した溶液に1μMの2,3,7,8-テトラクロロベンゾ−p−ジオキシン(2,3,7,8-tetrachlorobenzo-p-dioxin;TCDD) (関東化学社)を0.1 μl加え、30 ℃、90分間反応させ、AhR、Arnt、TCDDの複合体形成を行った。AhRおよびArntをそれぞれ5 μl混合した溶液に、DMSOを0.1 μl加え、30 ℃、90分間反応させたものを対照実験とした。
【0103】
(3)Alexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブの作製
配列番号10〜18で示される配列からなるオリゴヌクレオチドとその相補鎖とを、それぞれの5’末端にAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルを含むように合成した。この合成産物をヒートブロック中95 ℃、5分で処理した。その後ヒートブロックの電源を切り、室温に戻るまで静置した。これにより当該1本鎖核酸を2本鎖にした。これにより標識検出用核酸をAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブとして作製した。
【0104】
(4)AhRとARNTとTCDDとを含む複合体とAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブとの反応
(2)で調製した混合溶液に結合緩衝液[組成;100 mM Hepes、pH 7.6、5 mM EDTA、50 mM (NH4)2SO4、5 mM DTT、1%(w/v) Tween 20、150 mM KCl]、100ng/ul Poly[(dI-C)]溶液、1.4M KCl溶液を加えた後で、75fmol Alexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブを添加し、室温で15分間反応させた。反応液を6%ポリアクリルアミドゲルで75V 1時間30分の条件で電気泳動した。その後ポリアクリルアミドゲルをゲルイメージング解析装置であるTyphoon(GE ヘルスケア バイオサイエンス株式会社)を用い、800 V 励起光源を532 nm のレーザーによりバンドの検出を行った。これにより、当該プローブとAhRとARNTとTCDDとを含む複合体の形成を確認し、AhR、ArntとTCDDの複合体が結合するために必要な6塩基からなる配列を見出した(図5)。
【0105】
[例 2]
配列番号19により示される核酸を用いたゲルシフトアッセイ解析によるAhR、ArntとTCDD複合体結合配列の決定
(1)AhRおよびArntの調製
T7プロモーターをもつプラスミドDNA pcDNA4にAhR遺伝子、およびArnt遺伝子を導入し、2つのプラスミド、即ち、pcDNA4-rAhR (図3)およびpcDNA4-rArnt (図4)を作製した。鋳型プラスミドDNAをもとにTNT(登録商標) Coupled Reticulocyte Lysate Systems(Promega)を利用してインビトロ トランスクリプション−トランスレーション法にてAhRおよびArntタンパク質を作製した。
【0106】
(2)AhRとArntとTCDDとを含む複合体の形成
インビトロトランスレーション産物であるAhRおよびArntをそれぞれ5 μl混合した溶液に1 μMの2,3,7,8-tetrachlorobenzo-p-dioxin (TCDD) (関東化学社)を0.1 μl加え、30℃、90分間反応させ、AhR、ArntおよびTCDDの複合体形成を行った。AhR、およびArntをそれぞれ5 μl混合した溶液に、DMSOを0.1 μl加え、30℃、90分間反応させたものを対照実験とした。
【0107】
(3)Alexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブの作製
配列番号19で示される配列からなるオリゴヌクレオチドとその相補鎖とを、それぞれの5’末端にAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルを含むように合成した。この合成産物をヒートブロック中95 ℃、5分で処理した。その後ヒートブロックの電源を切り、室温に戻るまで静置した。これにより当該1本鎖核酸を2本鎖にした。これにより標識検出用核酸をAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブとして作製した。
【0108】
(4)AhRとArntとTCDDとを含む複合体とAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブとの反応
上記の混合溶液に結合緩衝液(Binding buffer) [100 mM Hepes, pH 7.6, 5 mM EDTA, 50 mM (NH4 )2SO4, 5 mM DTT、Tween 20, 1%(w/v), 150 mM KCl]、100ng/ul Poly[(dI-C)]溶液、1.4 M KCl溶液を加えた後、75 fmol Alexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブを添加し、室温で15分間反応させた。反応液を6%ポリアクリルアミドゲルで75 V 1時間30分の条件で電気泳動した。その後ポリアクリルアミドゲルをゲルイメージング解析装置であるTyphoon 8600 (GE ヘルスケア バイオサイエンス株式会社)を用い、800 V 励起光源を532 nm のレーザーによりバンドの検出を行った。その結果、配列番号19からなる標識核酸プローブとAhR、ArntとTCDDの複合体形成は確認されなかった。このことから、AhR、ArntとTCDD複合体に結合するためには、3’末端のGG配列が必要であることが確認された。(図6)
[例 3]
配列番号20、及び配列番号20に1塩基変異を加えた配列からなる配列番号21〜24に示される配列からなる標識核酸プローブによる特異的結合活性の検出(ゲルシフト法:EMSA)
(1)AhRおよびArntの調製
T7プロモーターをもつプラスミドDNA pcDNA4にAhR遺伝子(配列番号7)およびArnt遺伝子(配列番号8)をそれぞれ導入し、2つのプラスミド、即ち、pcDNA4-rAhR(図3)およびpcDNA4-rArnt(図4)を作製した。その後、鋳型プラスミドDNAをもとにTNT(登録商標) Coupled Reticulocyte Lysate Systems(Promega)を利用してインビトロ トランスクリプション−トランスレーション法にてAhRおよびArnt蛋白質を作製した。
【0109】
(2)AhRとArntとTCDDとを含む複合体の形成
インビトロトランスレーション産物であるAhRおよびArntをそれぞれ5 μl混合した溶液に1μMの2,3,7,8-テトラクロロベンゾ−p−ジオキシン(2,3,7,8-tetrachlorobenzo-p-dioxin;TCDD) (関東化学社)を0.1 μl加え、30 ℃、90分間反応させ、AhR、Arnt、TCDDの複合体形成を行った。AhRおよびArntをそれぞれ5 μl混合した溶液に、DMSOを0.1 μl加え、30 ℃、90分間反応させたものを対照実験とした。
【0110】
(3)Alexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブの作製
配列番号20〜24で示される配列からなるオリゴヌクレオチドとその相補鎖とを、それぞれの5’末端にAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルを含むように合成した。この合成産物をヒートブロック中95 ℃、5分で処理した。その後ヒートブロックの電源を切り、室温に戻るまで静置した。これにより当該1本鎖核酸を2本鎖にした。これにより標識検出用核酸をAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブとして作製した。
【0111】
(4)AhRとArntとTCDDとを含む複合体とAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブとの反応
(2)で調製した混合溶液に結合緩衝液[組成;100 mM Hepes、pH 7.6、5 mM EDTA、50 mM (NH4)2SO4、5 mM DTT、1%(w/v) Tween 20、150 mM KCl]、100ng/ul Poly[(dI-C)]溶液、1.4M KCl溶液を加えた後で、90fmol Alexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブを添加し、室温で15分間反応させた。反応液を6%ポリアクリルアミドゲルで75V 1時間30分の条件で電気泳動した。その後ポリアクリルアミドゲルをゲルイメージング解析装置であるTyphoon(GE ヘルスケア バイオサイエンス株式会社)を用い、800 V 励起光源を532 nm のレーザーによりバンドの検出を行った。これにより、当該プローブとAhRとArntとTCDDとを含む複合体の形成を確認した(図7)。この結果から、複合体の結合に関与する配列はTCGTGTに加えて、3’末端のGG配列を含むNNNNTCGTGTNNNNNNNGGであることが示された。ここで示される配列に含まれるNは、任意のヌクレオチドであり、且つ5’末端側のNNNNはCATGではなく、3’末端側のNNNNNNNはCTAGGGCではないものとする。
【0112】
[例 4]
配列番号1に記載の核酸による特異的結合活性の検出(QCM法:水晶振動子マイクロバランス法)
(1)QCMセンサーチップへのプローブの固定化
センサーチップ金表面を1% SDS溶液で洗浄後、ピランハ溶液(硫酸:過酸化水素=3:1)を金表面に滴下後、5分間静置した後、蒸留水で洗浄を行なった。この操作を2回繰り返すことでセンサーチップ上の金表面を活性化した。5 mM DTDP(3,3’-Dithiodipropionicacid (Sigma Aldrich製))溶液を100 μl滴下した後30分間室温で静置し反応を行った。反応後は、センサーチップ表面を蒸留水で洗浄した。使用する5 mM DTDP溶液はエタノールを溶媒として100 mMのストック溶液を作製した後、ストック溶液を蒸留水で希釈することで5 mM DTDP溶液を用事調製し用いた。100 mg/ml NHS DW溶液(N-Hydroxysuccinimide (WAKO社製))、および100 mg/ml EDC DW溶液 (1-(3-Dimethylaminopropyl)-3ethylcarbodiimide, hydrochloride (Sigma社製))を調製し、各々の溶液を等量混合し得られたNHS/EDC混合溶液をセンサーチップ表面上に100 μl滴下後、30分間室温で静置し反応を行なった。反応後、センサーチップ表面を蒸留水により洗浄を行なった。
【0113】
10 μl/ ml のNeutravidin (PIERCE社製) 溶液を100 μl滴下し、2時間室温で静置して反応を行い、Neutravidinの固定化を行なった。Neutravidin固定化後蒸留水で洗浄した後、ブロッキング溶液(TBS buffer (20 mM Tris-HCl pH 7.5, 150 mM NaCl) 500 μl にBlock Ace原液 20 μlを添加した溶液)を100 μlセンサーチップ上にて滴下し、1時間静置することでセンサーチップのブロッキングを行なった。
【0114】
配列番号1で示される配列からなるオリゴヌクレオチドとその相補鎖とを、それぞれの5’末端にビオチンラベルを含むように合成した。この合成産物をヒートブロック中95 ℃、5分で処理した。その後ヒートブロックの電源を切り、室温に戻るまで静置した。これにより当該1本鎖核酸を2本鎖にした。これにより標識検出用核酸をビオチンラベルプローブとして作製した。
【0115】
2本鎖化したビオチンラベルプローブのセンサーチップへの固定化は、QCMを用いて行なった。Affix-Q (株式会社イニシアム社製)の反応槽に反応溶液(TBS buffer)1.6 mlを添加した後、Neutravidin固定化センサーチップを装置に挿入後、反応溶液にセンサーチップをセットした。振動が安定化するまで反応液に浸漬した状態で静置した(約15分程度)。振動の安定化が確認できた後、2本鎖化ビオチンラベルプローブ(10 μM)を8 μl添加したのち、振動が安定化するまで測定を行なった。1 Hzを30 pgのDNAが固定化したとみなし、安定化後の振動数の変動値から核酸の固定化量を算出した。
【0116】
(2)AhRおよびArntの調製
T7プロモーターをもつプラスミドDNA pcDNA4にAhR遺伝子、およびARNT遺伝子を導入したpcDNA4-rAhR (図3)、およびpcDNA4-rArnt (図4)を作製した。鋳型プラスミドDNAをもとにTNT(登録商標) Coupled Reticulocyte Lysate Systems(Promega)を利用してインビトロ トランスクリプション−トランスレーション法にてAhRおよび Arntを作製した。
【0117】
(3)AhRとArntとTCDDとを含む複合体の形成
インビトロトランスレーション産物であるAhRおよびArntをそれぞれ5 μl混合した溶液に1 μMの2,3,7,8-tetrachlorobenzo-p-dioxin (TCDD) (関東化学社)を0.1 μl加え、30℃、90分間反応させ、AhR、Arnt、TCDDの複合体形成を行った。AhR、およびArntをそれぞれ5 μl混合した溶液に、DMSOを0.1 μl加え、30 ℃、90分間反応させたものを対照実験とした。
【0118】
(4)QCMによるAhR-Arnt-TCDD複合体の検出
ビオチン化および2本鎖化した配列番号1で示される核酸とその相補鎖からなるビオチンラベルプローブを固定化したセンサーチップをQCM装置にセットし、AhRおよびArntとDMSOを加えた混合溶液と、AhR-ArntとTCDDとを加え複合体を形成させた溶液を各々同量QCM反応槽に滴下した際のセンサーチップへの結合性をセンサーチップの振動数の減少の変化を対照実験と比較することで、AhR-Arnt-TCDD複合体の有無を検出した。
【0119】
(5)デバイス
上述したビオチンラベルプローブを固定化したセンサーチップを図8に示す。当該センサーチップ81は、担体としての基板82の固定化領域73にビオチンラベルプローブ74が固定化されている。
【0120】
本発明に従うデバイスは、ビオチンラベルプローブの代わりに、AhRまたはArntをプローブとして固定化領域83に固定化されたデバイスであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】細胞内でのAhRリガンドによる転写活性化メカニズムを示す模式図。
【図2】本発明の一態様に係る方法の概要を示す図。
【図3】本発明の一態様に係るベクターpcDNA4-rAhRを示す模式図。
【図4】本発明の一態様に係るベクターpcDNA4-rArntを示す模式図。
【図5】AhR、ARNT、およびTCDDとの複合体と配列番号10〜18に記載の核酸配列を持つ各々のFluor(登録商標) 532ラベルプローブとの結合性の有無を確認したゲルシフトアッセイの結果を示す電気泳動図。
【図6】AhR、Arnt、およびTCDDとの複合体と配列番号19に記載の核酸配列を持つFluor(登録商標) 532ラベルプローブとの結合性の有無を確認したゲルシフトアッセイの結果を示す電気泳動図。
【図7】AhR、Arnt、およびTCDDとの複合体と配列番号20〜22に記載の核酸配列を持つFluor(登録商標) 532ラベルプローブとの結合性の有無を確認したゲルシフトアッセイの結果を示す電気泳動図。
【図8】本発明の一態様の概念を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示されるポリヌクレオチド(ここで、配列番号1に含まれるNは任意のヌクレオチドであり、且つ5’末端側のNNNNはCATGではなく、3’末端側のNNNNNNNはCTAGGGCではない)。
【請求項2】
アリルハイドロカーボン受容体 (以下AhRと記す)とアリルハイドロカーボン受容体核トランスロケーター (以下Arntと記す)との複合体形成を導く化合物を検出する方法であって、
(1)被検物質と、AhRと、Arntと、配列番号1で示される配列を含む検出用核酸とを接触させることと(ここで、配列番号1に含まれるNは任意のヌクレオチドであり、且つ5’末端側のNNNNはCATGではなく、3’末端側のNNNNNNNはCTAGGGCではない)
(2)当該被検物質と、AhRと、Arntと、検出用核酸との結合を検出することと
を具備する検出方法。
【請求項3】
前記検出用核酸は、配列番号1で示される配列を含む19塩基長の2本鎖である請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記(2)における結合の検出が、前記(1)の接触により得られる結果と、当該被検物質の非存在下における当該検出用核酸とAhRとArntとの接触により得られる結果とを比較することにより行われる請求項2または3に記載の検出方法。
【請求項5】
試料中の被検知物質を検出する方法であって、
(1)当該試料と、AhRと、Arntと、配列番号1で示される配列を含む19塩基長の2本鎖である検出用核酸とを接触させることと(ここで、配列番号1に含まれるNは任意のヌクレオチドであり、且つ5’末端側のNNNNはCATGではなく、3’末端側のNNNNNNNはCTAGGGCではない)、
(2)当該被検知物質とAhRとArntと当該検出用核酸との結合を検出することと、
(3)(2)の検出結果から、当該被検知物質が当該試料に含まれるか否かを判定することと、
を具備する検出方法。
【請求項6】
チロシン水酸化酵素遺伝子の転写制御領域内の被検物質に応答して下流遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域、該エンハンサーの下流に機能的に連結されたプロモーター、および該プロモーターの下流に機能的に連結されたレポーター遺伝子を有することを特徴とするベクターであって、配列番号1により示されるポリヌクレオチドがエンハンサー領域であるベクター。
【請求項7】
前記プロモーターが配列番号2により示されるチロシン水酸化酵素遺伝子のプロモーターである請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
前記プロモーターが配列番号3により示されるシミアンウィルス(SV40)初期プロモーター、配列番号4により示されるSV40後期プロモーター、配列番号5により示されるヒトヘルペスウイルス1チミジンキナーゼプロモーター、及び配列番号6により示されるサイトメガロウイルスプロモーターからなる群より選択される、請求項6または7に記載のベクター。
【請求項9】
AhRとArntとの複合体形成を導く化合物を検出する方法であって、
(1)請求項6〜8の何れか1項に記載のベクターが導入された細胞または請求項12に記載の宿主細胞を、被検物質の存在下および非存在下で培養する工程と、
(2)前記工程(1)で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量を測定する工程と、
(3)前記被検物質の存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値が、前記被検物質の非存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値より高い場合、前記被検物質がAhRとArntとの結合を導く化合物であるか否かを評価する工程と、
を含む検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−213589(P2010−213589A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61644(P2009−61644)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】