説明

被覆剤組成物

【課題】光沢や隠蔽性に優れた塗装被膜の形成が可能であり、かつ顔料分散性、密着性に優れた被覆剤組成物を提供する。
【解決手段】アクリル酸単位0.5〜5質量%と、メチルメタクリレート単位30〜99.5質量%と、その他共重合可能なビニル系単量体単位0〜69.5質量%とから構成されるビニル系共重合体(A)、ベンゾイルパーオキサイド(B)、および、有機溶剤を含み、ベンゾイルパーオキサイド(B)の含有量はビニル系共重合体(A)100質量部に対して0.5〜10質量部であり、かつビニル系共重合体(A)およびベンゾイルパーオキサイド(B)は前記有機溶剤に溶解していることを特徴とする被覆剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光沢や隠蔽性に優れた塗装被膜の形成が可能であり、かつ顔料分散性、密着性にも優れ、例えば、塗料、インキ、接着剤などに用いられるアクリル系被覆剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系熱可塑性樹脂は耐久性に優れていることから、塗料、インキ、接着剤等の各種用途に用いられている。
【0003】
しかしながら、アクリル系熱可塑性樹脂は顔料分散性が劣るので、顔料分散剤等の添加剤を添加し、あるいはアルキッド樹脂等の他の樹脂をブレンドするなど、その顔料分散性を向上させる方法の検討が種々為されている。例えば、特許文献1には、イソブチルメタクリレートと含窒素モノマーからなる共重合体を顔料分散用樹脂として使用する方法が提案されている。
【0004】
また、アクリル系熱可塑性樹脂は、各種金属、特にアルミニウム、ステンレス、トタン等に対する密着性が比較的低いので、密着性を向上させるための検討も種々なされている。例えば、特許文献2には、重量平均分子量が30000〜200000、計算ガラス転位温度(計算Tg)が0〜100℃の範囲にあり、特定のエチレン性不飽和カルボン酸単量体を共重合したアクリル系熱可塑性樹脂を有機溶剤に溶解したアクリル系被覆用組成物が記載されている。
【特許文献1】特開昭60−139712号公報
【特許文献2】特公平8−13951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、他の樹脂をブレンドして顔料分散性を発現させている。したがって、ブレンドする樹脂により相溶性が異なり、また、溶剤もトルエン等の油溶性のものを使用する必要があり、広範囲の塗料やインキに使用できないという不都合がある。
【0006】
特許文献2に記載の被覆用組成物は、金属系基材に塗装した場合、初期密着性については良好な密着性を示すが、耐水性試験後の密着性が低下することがある。また、塗装被膜の耐屈曲性が十分ではなく、金属系基材の後加工として折り曲げ加工を行うと塗装被膜が割れたり剥がれたりすることがある。
【0007】
本発明の目的は、光沢や隠蔽性に優れた塗装被膜の形成が可能であり、顔料分散性、密着性に優れた被覆剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定のビニル系共重合体にベンゾイルパーオキサイドを添加することが非常に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、アクリル酸単位0.5〜5質量%と、メチルメタクリレート単位30〜99.5質量%と、その他共重合可能なビニル系単量体単位0〜69.5質量%とから構成されるビニル系共重合体(A)、ベンゾイルパーオキサイド(B)、および、有機溶剤を含み、ベンゾイルパーオキサイド(B)の含有量はビニル系共重合体(A)100質量部に対して0.5〜10質量部であり、かつビニル系共重合体(A)およびベンゾイルパーオキサイド(B)は前記有機溶剤に溶解していることを特徴とする被覆剤組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の被覆剤組成物は、特定のビニル系共重合体(A)とベンゾイルパーオキサイド(B)を含むので、顔料分散性および密着性が共に優れている。また、ベンゾイルパーオキサイド(B)の含有量が特定範囲内なので、光沢および隠蔽性が優れた塗装被膜の形成が可能である。このような優れた特性を示す組成物は、例えば、塗料、接着剤、インキ等の被覆剤用途に好適に用いることができ、工業上極めて有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、ビニル系共重合体(A)は、アクリル酸単位0.5〜5質量%と、メチルメタクリレート単位30〜99.5質量%と、その他共重合可能なビニル系単量体単位0〜69.5質量%とから構成されるものである。具体的には、後述する実施例により詳細に示すように、このような組成のビニル系共重合体(A)は、アクリル酸0.5〜5質量%と、メチルメタクリレート30〜99.5質量%と、その他共重合可能なビニル系単量体0〜69.5質量%とを共重合することによって得られる。各単量体は、必要に応じて段階的に添加して重合反応させてもよいし、一括添加して重合反応させてもよい。
【0012】
本発明においては、このような組成のビニル系共重合体(A)を用いることにより、優れた密着性を示す被膜を得ることができる。ここで、その他共重合可能なビニル系単量体単位の含有量範囲の下限値は0である。すなわち、ビニル系共重合体(A)は、その他共重合可能なビニル系単量体単位を含まず、アクリル酸単位とメチルメタクリレート単位のみから構成される共重合体であってもよい。
【0013】
さらに密着性の点から、アクリル酸単位の含有量範囲の下限値については1質量%以上が好ましく、メチルメタクリレート単位の含有量範囲の下限値については40質量%以上が好ましく、その他共重合可能なビニル系単量体単位の含有量範囲の下限値については60質量%以下が好ましい。
【0014】
ビニル系共重合体(A)は、密着性の点から、下記式(1):
1/Tg=Σ(Wi/Tgi) (1)
(ただし、Wiはモノマーiの質量分率、TgiはモノマーiのホモポリマーのTg(K)を示す。)
にて示されるFoxの式により求められる共重合体のガラス転移温度(Tg)が、110℃以下であることが好ましく、100℃以下であることが特に好ましい。また、ガラス転移温度の下限値については、30℃以上が好ましい。
【0015】
ビニル系共重合体(A)の重量平均分子量は、顔料分散性の点から、300000以下が好ましく、200000以下がより好ましい。また、重量平均分子量の下限値については、10000以上が好ましい。
【0016】
ビニル系共重合体(A)を構成するその他共重合可能なビニル系単量体単位としては、例えば、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート等のメチルメタクリレート以外のアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のグリコールジ(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアルキルアミノ(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルクロライド塩、アリル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル、ベンジル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、イタコン酸モノブチル、シトラコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、コハク酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、コハク酸2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル、コハク酸2−(メタ)アクリロイルオキシブチル、マレイン酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、マレイン酸2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル、マレイン酸4−(メタ)アクリロイルオキシブチル等の不飽和カルボン酸類;などのビニル系単量体から構成される単量体単位が挙げられる。
【0017】
ビニル系共重合体(A)の重合方法としては、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合法等の公知の重合方法を採用できる。特に、有機溶剤に混合および溶解が容易であり、塗装被膜の外観も向上できる点から、溶液重合法、懸濁重合法を採用することが好ましい。
【0018】
重合の際に使用する重合開始剤としては、従来より知られる各種の開始剤、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾビス系開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、ターシャリブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート等の有機過酸化物系開始剤を用いることができる。特に、塗装被膜の外観を向上させる点では、ベンゾイルパーオキサイドやターシャリブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート等の有機過酸化物系ラジカル重合開始剤が好ましい。
【0019】
また、重合の際に、分子量調整の目的等で、ノルマルドデシルメルカプタンやα−メチルスチレンダイマー等の従来より知られる連鎖移動剤を使用することもできる。
【0020】
本発明の被覆剤組成物に含まれるベンゾイルパーオキサイド(B)の含有量は、ビニル系共重合体(A)100質量部に対して0.5〜10質量部である。ベンゾイルパーオキサイド(B)の含有量がビニル系共重合体(A)100質量部に対して0.5質量部以上、好ましくは1.0質量部以上であることにより、塗装被膜の光沢が向上する。また、ベンゾイルパーオキサイド(B)の含有量がビニル系共重合体(A)100質量部に対して10質量部以下、好ましくは9質量部以下であることにより、塗料の顔料分散性が向上する。
【0021】
本発明の被覆剤組成物において、ビニル系共重合体(A)およびベンゾイルパーオキサイド(B)は、有機溶剤に溶解している。ここで使用される有機溶剤としては、従来の被覆剤組成物に使用されるものと同様の各種の有機溶剤を使用することができる。その具体例としては、トルエン、キシレン等の炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セルソルブアセテート等のエステル類;イソプロピルアルコール、n−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;が挙げられる。
【0022】
被覆剤組成物における有機溶剤の含有量については、特に限定されない。具体的な含有量は、その組成物の用途や塗装方法などに応じて適宜決定すればよい。なお、一般的には、被覆剤組成物における樹脂固形分は、20〜50質量%であることが好ましく、25〜45質量%であることがより好ましい。
【0023】
本発明の被覆剤組成物には、コーティング材料としての高度な性能を発現させるために、公知の各種顔料、顔料分散剤、スリップ剤、レベリング剤を添加することもできる。
【0024】
本発明の被覆剤組成物を各種基材の表面に塗布して被膜を形成する際の塗装方法としては、例えば、噴霧コート法、ローラーコート法、バーコート法、エアナイフコート法、刷毛塗り法、ディッピング法等の公知の方法を適宜選択して採用できる。
【0025】
本発明の被覆剤組成物を用いて塗装被膜を形成する場合は、通常、室温から60℃程度の範囲内の温度で、1分〜1時間程度乾燥することで、十分に乾燥した塗装被膜を得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。なお、以下の記載において「部」は質量部を示す。
【0027】
[実施例1〜4、比較例1〜3]
攪拌機、温度計および還流凝縮器を備え、加温および冷却が可能な重合装置中に、実施例1〜4については表1、比較例1〜3については表2に示す混合物(1)を添加し、攪拌を開始し、90℃に昇温した。温度が90℃に到達後、それぞれ混合物(2)を4時間かけて滴下し、さらに混合物(3)を1時間かけて滴下し重合反応を続け、10時間後に混合物(4)を添加した。その後、50℃以下に冷却し、さらに混合物(5)を添加した。得られた各被覆剤組成物の特性を以下の方法に従い測定した。結果を表1および表2に示す。なお、表中の各混合物の成分の数値は質量部を示す。
【0028】
[重量平均分子量]
被覆剤組成物中の重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定した(ポリスチレン換算)。具体的には、試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、樹脂分として0.8質量%のTHF溶液を調製し、これを0.5μmメンブランフィルターで濾過し、濾液を下記条件にて測定した。
【0029】
(測定条件)
装置:東ソー製HPLC−8120
溶離液:THF
流速:1ml/分
温度:40℃
検出器:示差屈折計
注入量:100μl。
【0030】
[ガードナー粘度]
被覆剤組成物のガードナー粘度については、ASTM−D1545に準拠し、25℃における気泡粘度を測定した。
【0031】
[実施例5〜8、比較例4〜6]
前記と同様の重合装置中に、実施例5〜8については表3、比較例4〜6については表4に示す混合物(1)の水溶液を添加し、攪拌を開始した。続いて、それぞれ混合物(2)を添加し、加温して反応温度を75〜85℃に維持しながら3時間重合反応させ、次いで95℃に昇温して1時間反応させ冷却した。しかる後に、得られた懸濁液を目開き30μmのメッシュで濾過し、40℃の温風で乾燥させ、粒状のビニル系重合体を得た。そして、このビニル系重合体をそれぞれ混合物(3)により溶解して被覆剤組成物とした。結果を表3および表4に示す。
【0032】
[評価]
以上の実施例および比較例で得た各被覆剤組成物のそれぞれに、酸化チタン(商品名CR−90、石原産業(株)製)を40質量%になるように配合し、さらにシンナー(酢酸ブチル60部、酢酸エチル30部、プロピレングリコールモノメチルエーテル10部)を加え、ペイントシェーカーで3時間分散処理後のザーンカップ(粘度カップ)#3による粘度が18秒となるように調整して塗料とした。
【0033】
この塗料を用い、鋼板(SPCC−B、板厚0.6mm、太佑機材(株)製)、アルミ板(A1050P、板厚0.8mm、太佑機材(株)製)、銅板(C1100P、板厚0.8mm、太佑機材(株)製)、ブリキ板(SPTE、板厚0.3mm、太佑機材(株)製)、亜鉛鉄板(SPG、板厚0.3mm、太佑機材(株)製)の各脱脂したパネルに、膜厚30μmになるようバーコーターにて塗装し、そのパネルを70℃の乾燥炉で1時間乾燥し、評価用パネルを作製した。
【0034】
各実施例および比較例の塗料、評価用パネルおよび樹脂溶液について、次のイ〜ハの評価を実施した。結果を表5および表6に示す。
【0035】
イ)塗料の顔料分散性の評価:
JIS K5600−2−5に準じ、線条法による分散度を評価した。具体的な評価方法としては、ツブゲージにより、酸化チタンが15μm以下で、良好に顔料分散されていることを確認した。
【0036】
ロ)塗膜外観の評価:
JIS K5600−4−7に準じ、入射角20度および60度の時の塗膜の鏡面光沢度を評価した。
【0037】
ハ)塗膜密着性の評価:
JIS K5600−5−6に準じ、クロスカット法により、テープ剥離試験を実施した。具体的には、塗装被膜に切り込みを入れて2mm×2mm幅のゴバン目を100個形成し、テープ剥離試験を実施した。表中に示す分数の分子の数は、剥離試験後に剥離されないで残ったマス目の数を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸単位0.5〜5質量%と、メチルメタクリレート単位30〜99.5質量%と、その他共重合可能なビニル系単量体単位0〜69.5質量%とから構成されるビニル系共重合体(A)、ベンゾイルパーオキサイド(B)、および、有機溶剤を含み、
ベンゾイルパーオキサイド(B)の含有量はビニル系共重合体(A)100質量部に対して0.5〜10質量部であり、かつビニル系共重合体(A)およびベンゾイルパーオキサイド(B)は前記有機溶剤に溶解していることを特徴とする被覆剤組成物。

【公開番号】特開2006−299193(P2006−299193A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126575(P2005−126575)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】