説明

被覆層剥皮電線の製造方法及び製造装置

【課題】樹脂被覆層に対し、その厚さと材質に応じた適切な切削速度で切込みを入れることにより、樹脂被覆層に対する切れ味が良く、切断面の美しいものが得られるうえ、その切断刃の寿命が長く、しかも被覆層剥皮電線とその製造装置の製造費も低コストで済む被覆層剥皮電線の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】本発明の被覆層剥皮電線の製造方法及び製造装置100は、芯線Cの外周に被覆層Sを有する電線Wに対し、円板カッタ31を回転させつつ、電線Wの被覆層Sを略半周させて被覆層Sの略半周部分に切り込みを入れる工程と、被覆層Sの残りの略半周分を別の円板カッタ32で切り込みを入れることにより、被覆層Sの全周に切り込みを入れる工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の被覆層の一部が剥皮された被覆層剥皮電線の製造方法及び製造装置に関し、詳しくはその切り込み方法及び切り込み装置に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、絶縁被覆電線と他の電気機器との接続のために、例えば図5(a)に示すように、一端部(又は両端部)から一定長さの被覆層Sを剥皮して芯線Cを露出させた端部ストリップタイプの絶縁被覆電線W1や、或は図5(b)に示すように、絶被覆層Sの途中で一定長さの被覆層Sを一箇所(又は複数個所)で剥皮した中間ストリップタイプの縁被覆電線W2の製造が行なわれている。
【0003】
このような絶縁被覆電線W1、W2の製造装置の切削原理は、絶縁被覆電線W1、W2か、若しくは図示しない切り込み刃のいずれかを他方に対して相対的に移動させれば良いのであり、例えば以下の製造装置が提案されている。
【0004】
まず、端部ストリップタイプの絶縁被覆電線W1の製造装置としては、例えば次の特許文献1に記載のものが知られている。
【0005】
この装置は、図6(a)の概略縦断面図に示すように、芯線Cの外周に絶縁被覆層Sが被覆された電線W1に対し、この電線W1を中心に周回する円筒状の切削ヘッド51が設けられている。
【0006】
この切削ヘッド51には、実際には図示しないギヤトレインで駆動されるカッタ53が設けられているのであるが、ここではギヤトレインをモータ52に置き換えて説明すると、切削ヘッド51に保持されているモータ52が電線Wの回りを周回(すなわち公転)し、そのモータ軸に固定されている円板カッタ53が図の矢印方向に回転しつつ(すなわち自転しつつ)、その刃先53aが二点鎖線で示す移動軌跡Rをたどって芯線Cの外周を周回するようになっている。
【0007】
したがって、電線W1の外周には、円板カッタ53の刃先53aにより切込みが入れられる。
【0008】
次に、図6(b)の正面図に示すように、前端部Waから規定長さLの位置の全周に切り込みが入れられた部分の被覆層Sを剥皮した後、切削ヘッド51全体が図示しないスライドベッド上を図の右方向に所定距離だけ移動したのち、円板カッタ53の刃先53aが下降して後端部Wbを芯線Cごと切断するのである。
【0009】
このタイプの装置50は、被覆層Sに切り込みを入れる円板カッタ53が円形の回転刃であるため、切削速度が向上するという利点がある。したがって、その切れ味と生産性も向上する。
【0010】
しかし、この装置50は、切削ヘッド51が円筒状であるから装置が大掛かりになるうえ、円板カッタ53が芯線Cの外周を自転しつつ、モータ52と共に360度公転するので、その駆動系又は給電系の構造が複雑になり、これらが製造コストに反映されて、コストアップになる点が問題であった。
【0011】
一方、このような円板カッタ53に拠らない切断法を採用するものとして、例えば特許文献2に記載の回転式剥離ヘッドが知られている。
【0012】
この回転式剥離ヘッド60の剥皮原理を図7の略図で示すと、芯線Cの外周に絶縁被覆層Sが被覆され、図示しない装置によりクランプされた電線Wに対し、図示しない剥離ヘッド中の切り刃61が絶縁被覆層Sの外周を周回しつつ、図の二点鎖線の如く次第に切り込み深さを深くしてゆき、切り刃61の先端が芯線Cの外周にまで到達した時点で、図示しない装置で剥皮するのである。
【0013】
しかし、この装置60の切り刃61は、前述した図6の回転円板カッタ53と異なり、絶縁被覆層Sの外周を公転はするが自らは回転(自転)しない。
【0014】
したがって、切り刃61の絶縁被覆層Sに対する切削速度Vは、芯線Cの中心から切り刃61の先端までの半径をRとし、その回転数をNとすると、V=2πRN/60(m/秒)で定まってしまい、高速回転が可能な円板カッタと比べると、一定の限度がある。
【0015】
したがって、切り刃61の切削速度が遅く、よって切れ味が悪くなり、切り刃61の再研磨までの時間も短くなるといった問題がある。
【0016】
また、切断対象の電線Wが例えば高圧電線、架橋電線等の芯線径が10mm以上の大径電線やケーブル等の場合は、その被覆厚さも5mm〜8mmと肉厚のものになるため、切り込み完了までの時間が長くなり、生産性が著しく低いという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平11−150826号公報(請求項1、図2)
【特許文献2】特表2008−537458公報(請求項1、図1a)
【特許文献3】特許第3914571号公報(図6の符号3g、3h)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そこで、本発明は、このような問題点を解消し、樹脂被覆層に対し、その厚さと材質に応じた適切な切削速度で切込みを入れることにより、樹脂被覆層に対する切れ味が良く、切断面の美しいものが得られるうえ、その切断刃の寿命が長く、しかも被覆層剥皮電線とその製造装置の製造費も低コストで済む被覆層剥皮電線の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明に係る被覆層剥皮電線の製造方法は、絶縁被覆電線の被覆層を剥皮する前に前記被覆層に切り込みを入れる被覆層剥皮電線の製造方法であって、
円板カッタを回転させつつ前記電線の被覆層を略半周させて該被覆層の略半周部分に切り込みを入れる工程と、該被覆層の残りの略半周分を別の円板カッタで切り込みを入れることにより被覆層の全周に切り込みを入れる工程と、しかる後に該被覆層を剥皮する工程とを有することを特徴とする。
【0020】
したがって、上記本発明に、最終工程として剥皮工程を追加すれば、前述した図5の被覆層剥皮電線が製造できる。
【0021】
一方、本発明に係る被覆層剥皮電線の製造装置は、絶縁被覆電線の被覆層を剥皮する前に前記被覆層に切り込みを入れる被覆層剥皮電線の製造装置であって、
基台と、前記電線の被覆層に切り込みを入れる円板カッタユニットと、該円板カッタユニットの全体を上下方向(Y軸方向)に昇降させる昇降ユニットと、前記基台上に位置し、前記円板カッタユニット及び昇降ユニットを一体として左右方向(X軸方向)に進退させる横行ユニットと、前記各ユニットの駆動モータに、前記X軸又は/及びY軸方向への駆動指令を与え、X−Y二軸方向への所定の位置制御をさせるX−Y軸方向制御装置と、を備え、前記円板カッタユニットは、前記電線の芯線外周のうち略半周分を自転しつつ公転する第1円板カッタと第2円板カッタとを有し、該第1円板カッタと、第2円板カッタとは、それぞれの円板カッタの駆動モータが、前記X−Y軸方向制御装置からの指令により、前記第1円板カッタで前記電線の被覆層を略半周させて該被覆層の略半周部分に切り込みを入れ、前記第2円板カッタで被覆層の残りの略半周分に切り込みを入れることにより、前記被覆層の全周に切り込みを入れられるように、前記電線のX軸及び/又はY軸方向に2位置制御されることを特徴とする。
【0022】
したがって、上記本発明に、最終工程装置として剥皮装置を追加すれば、前述した図5の被覆層剥皮電線が製造できる。
【0023】
前記第1円板カッタと第2円板カッタは、それぞれのカッタを互いに独立させて個別のモータで駆動しても良い。
【0024】
また、第1円板カッタ及び第2円板カッタの位置制御に用いる駆動モータとしては、サーボモータ、ステッピングモータ又はリニアモータを用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に係る発明の被覆層剥皮電線の製造方法によれば、円板カッタを回転させつつ前記電線の被覆層を略半周させて該被覆層の略半周部分に切り込みを入れたのち、被覆層の残りの略半周分を別の円板カッタで切り込みを入れることにより被覆層の全周に切り込みを入れるので、前述した特許文献2の如く、切り刃が被覆層の外側を自転せずに周回するだけの装置と異なり、円板カッタを高速回転させて被覆層に切り込みを入れる切断となる。
【0026】
したがって、本発明の製造方法は、電線径が太径のケーブルであっても、被覆層に対するカッタ刃先の相対速度が適切に設定でき、特許文献2の発明に比べて切り込み速度が速くなるため、生産性が高くなる。また、被覆層の切断面も非常に美しく、品質の良いものが製造できる。
【0027】
請求項2に係る発明の被覆層剥皮電線の製造装置によれば、請求項1の発明に係る被覆層剥皮電線の製造方法の実現装置であるから、請求項1の発明と全く同様の効果が奏することができることに加え、次の優れた効果を奏する。
【0028】
1.前述した特許文献1の装置と異なり、円板カッタとその駆動機構である円板カッタユニットとが、電線に対して360度周回せずに略半周ずつ2枚の円板カッタで切り分けるので、製造装置の駆動系と給電系が格段にシンプルになる。したがって、製造装置は大型化せず、低コストで製造でき、被覆層剥皮電線も低コストで製造できる。
【0029】
2.1本の電線に対し、2枚の円板カッタで電線の略半周づつを順次、切り分けて切断するので、タクトタイムは特許文献1のものに比べて若干長くはなるが、全周切り込みに2枚の円板カッタを用いるので、その分、刃こぼれが少なくなり、刃の研磨頻度も少なくなる。したがって、円板カッタの寿命が長くなり、刃の交換頻度も少なくなって、結局、人件費も下がり、低コストの被覆層剥皮電線を製造できる。
【0030】
3.電線の品番、外径に応じて、円板カッタの回転速度の増減調整を容易にできる。したがって、本発明の被覆層の切り込みが可能な電線の品番及び外径の適用幅が広くなり、広範囲に使用できる。
【0031】
請求項3に係る発明の被覆層剥皮電線の製造装置によれば、第1円板カッタと第2円板カッタとを互いに独立させて個別のモータで駆動するので、請求項2の装置の効果に加え、次の優れた効果を奏することができる。
【0032】
1.絶縁被覆電線の全周切り込みに要するタクトタイムは、第1円板カッタと第2円板カッタとからなる2枚のカッタのそれぞれが1本の絶縁被覆電線に対して両側から同時に切り込むので、図6で説明した1本の絶縁被覆電線W1の周りを1つの円板カッタ53が回転しつつ切り込む特許文献1のものに比べると格段に早くなる。
【0033】
2.特許文献2のものに対しても、この文献の切り刃61は、図7で説明したとおり自身は回転しないで絶縁被覆層Sの周りを周回して切り込む形式なので、カッタ自体が回転する本発明の装置は、タクトタイムが更に早くなる。
【0034】
3.絶縁被覆電線の両側から第1円板カッタと第2円板カッタとを対向させて同時に切り込むことができるので、絶縁被覆電線に対するそれぞれのカッタの押圧力が相殺され、被覆層の切断面は電線軸に対して直交した美しいものが得られる。
【0035】
請求項4の発明に係る被覆層剥皮電線の製造装置によれば、請求項2又は請求項3の装置の効果に加え、第1円板カッタ及び第2円板カッタの位置制御に用いる駆動モータとして、サーボモータ、ステッピングモータ又はリニアモータを用いるので、第1円板カッタ及び第2円板カッタの位置制御が容易になり、精密なX−Y2方向の2位置制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る被覆層剥皮電線の製造方法の製造原理を示す正面図である。
【図2】本発明に係る被覆層剥皮電線の製造装置の一実施形態の正面図である。
【図3】本発明に係る図2の装置の右拡大側面図である。
【図4】図1の装置の他例の正面図である。
【図5】本発明の製造方法及び製造装置が目的とする被覆層剥皮電線の一例の正面図で、図5(a)は端部ストリップタイプのもの、図5(b)は中間ストリップタイプのものである。
【図6】図6(a)は、特許文献1に記載されているケーブルの外周被覆層切削装置の切削原理を説明する横断面図、図6(b)は、その右側面図である。
【図7】特許文献2に記載されている回転式剥離ヘッドの切削原理を説明する横断面図である。
【符号の説明】
【0037】
10、10A 基台
20、20A 昇降ユニット
30、30A 円板カッタユニット
31 第1円板カッタ
32 第2円板カッタ
33 タイミングベルト
38、38A カッタ駆動用サーボモータ
40、40A 横行ユニット
50 制御盤(X−Y軸方向制御装置)
100 被覆層剥皮電線の製造装置(本発明)
200 被覆層剥皮電線の製造装置(本発明)
C 芯線
O 中心
R1〜R7 移動軌跡
S 被覆層
W、W1、W2 絶縁被覆電線
【発明を実施するための形態】
【実施形態1】
【0038】
図1は、本発明に係る被覆層剥皮電線の製造方法の一実施形態を説明するための正面図である。
この図では図の上下方向がそれぞれ天地であり、以後の説明では図の左右方向をX軸方向とし、上下方向をY軸方向とし、図の紙面に垂直方向をZ軸方向とすることにする。
【0039】
図において、符号Wは、図5で前述したのと同様、芯線Cと絶縁被覆層Sとから成る本発明方法の切り込み対象となる絶縁被覆電線である。本発明においては電線Wの外径dは、特に限定するものではないが、この実施形態1では一応、5〜20mmのもので、かつ軸方向の切り込みピッチが0.2〜10m程度の長いものを例にとっている。
電線W上方の符号31は、第1円板カッタ、符号32は、第2円板カッタであり、いずれも図示しない軸受ユニットにより図の方向に回転自在に支軸されている。
【0040】
図中の破線33は、エンドレスのタイミングベルトであり、両カッタ31、32間で電線Wが余裕を持って進入できる開口幅Pと、電線Wの下端が余裕もって両カッタの共通中心線Q上を越える奥行きHとが形成できるように、タイミングベルト33の走行軌道が、1個の駆動プーリ34と、5個のガイドプーリ35との配置により、開口部が下方に開いた「コ」字状に形成されており、これらの部材で円板カッタユニット30を構成している。
【0041】
したがって、駆動プーリ34を図示しないサーボモータ等により図の矢印方向の時計方向に駆動すれば、タイミングベルト33は、図示の軌道を周回するので、第1円板カッタ31と第2円板カッタ32も同様に時計方向に回転することができる。また、駆動プーリ34の周回速度を増減するとタイミングベルト33の走行速度も増減するので、被覆層Sに対するカッタ31、32の回転速度を最適の速度に容易に調節することができる。
【0042】
符号R1〜R6は、第1円板カッタ31の刃先31aの移動軌跡であり、第1及び第2円板カッタ31、32が図示の位置にある場合は、両カッタが回転しつつ(つまり自転しつつ)、まず軌跡R1だけ左方向に移動し、次に軌跡R2だけ下降し、電線Wの直上部から被覆層Sをその厚さ分だけ切断したのち、今度は刃先31aが芯線Cの外周面の右半分の軌跡R3分だけ時計方向に周回(つまり公転)した後、今度は軌跡R4だけ下降して離脱し、軌跡R5及び軌跡R6を経てもとの位置に復帰する。
【0043】
かかる第1円板カッタ31の移動軌跡R1〜R6によれば、電線Wの被覆層Sは、その略右半分に切り込みが入れられることになる。
【0044】
一方、符号R7は、第2円板カッタ32の刃先32aの移動軌跡であり、前述した第1円板カッタ31への移動軌跡R1〜R6に対し、電線Wの中心Oを通る垂線と線対称となる軌跡をたどるようになっている、かかる移動軌跡R7によれば、電線Wの被覆層Sの残りの略半周分に同様の切り込みを入れることができる。
【0045】
このような移動軌跡R1〜R6、R7は、第1及び第2円板カッタ31、32を回転自在に支軸するカッタ支持アーム36(図2、図3)を、X−Y二軸方向に同時に位置制御することによって容易に達成できる。
【0046】
かかる切断方法によれば、第1円板カッタ31と第2円板カッタ32とで、それぞれ電線Wの被覆層Sの略半周分ずつを切り分けることができるから、両カッタ31、32で結局、被覆層Sの全周に切り込みを入れることができる。
【0047】
なお、図示の第1及び第2円板カッタ31、32の移動軌跡R1〜R6、R7は、軌跡R1〜R6と、軌跡R7との間に隙間があるが、これは説明の便宜上のものであり、実際は互いに若干重複した移動軌跡を採るのであり、このようにすれば確実に芯線C外周面の全周に切り込みを入れることができる。
【0048】
また、第1円板カッタ31で被覆層Sの半周を若干超える範囲まで切り込んだ後、残りを第2円板カッタ32で切り込んでも良いし、その逆であってよい。
要は、2枚の円板カッタカッタ31、32が補完し合って被覆層Sの全周に切り込みを入れればよいのである。以上のような意味で本発明においては、第1及び第2円板カッタ31、32の被覆層Sに対する周回範囲は、「略半周」という文言を用いているのである。
【0049】
最後に、全周に切り込みを入れ終わった被覆層Sを芯線Cから剥皮する。
【0050】
これは、第2円板カッタ32が被覆層Sの全周に切り込みを入れ終わった時点で円板カッタユニットの全体若しくは図示しない電線Wの定長送り装置のいずれかを電線Wの軸方向(Z軸方向)に移動させるか、又は図示しない公知のカッタで被覆層Sをその軸方向に切り開く(つまり被覆層Sの縦割りをすること)等の方法により、容易に被覆層Sを芯線Cから剥皮することができる。
【0051】
したがって、本発明の被覆層剥皮電線の製造方法によれば、前述した特許文献1の被覆層Sを円板カッタ53が360度周回するタイプのものに比べて、被覆層Sの全周切断に要するタクトタイムは若干増えることにはなるが、電線Wの全周を周回しないので、シンプルで確実な切断が低コストの切断方法で実現できる。
また、自らは回転しない特許文献2の切り刃61と異なり、適正速度で回転する円板カッタ31、32で引き切り切断をするので、被覆層Sの切れ味が非常に良いことになる。したがって、切断面の美しい品質の良い被覆層剥皮電線Wを製造することができる。
【0052】
さらに、電線径が太径のケーブルであっても、前述した特許文献2の装置と異なり、自ら高速回転する円板カッタで切断するので、ケーブル外径とその材質に応じて円板カッタの切削速度を適宜、増減することができる。したがって、本発明の製造方法は、適用できる電線径の幅が広く、広範囲に使用できる。
【実施形態2】
【0053】
次に、前述した実施形態1の被覆層剥皮電線Wの製造方法を実現する本発明に係る被覆層剥皮電線の製造装置の一実施形態を図2及び図3を用いて説明する。
【0054】
このうち図2は、被覆層剥皮電線の製造装置100の正面図、図3は、その右拡大側面図であり、これらの図においても図の上下方向が天地関係にあり、図1と同様に図の左右方向をX軸方向、上下方向をY軸方向、図の紙面に垂直な方向をZ軸方向とする。
【0055】
図2において、符号Wは、実施形態1で前述した電線の縦断面を示しており、図示しないクランプ装置により、本発明の製造装置の片側または両側においてクランプされている。
【0056】
本発明の製造装置100の構成部材は、大別すると、基台10と、実施形態1で前述した円板カッタユニット30と、この円板カッタユニット30の全体を上下方向(Y軸方向)に昇降させる昇降ユニット40と、上記円板カッタユニット30及び昇降ユニット40を一体として図の左右方向(X軸方向)に進退させる横行ユニット20と、これら各ユニット20、30、40の後述するサーボモータにX軸又は/及びY軸方向への駆動指令を与え、X−Y二軸方向への所定の位置制御をさせる制御盤50(X−Y軸方向制御装置)とから成る。
【0057】
これら構成部材を個々に説明すると、基台10は、本発明に係る被覆層剥皮電線Wの製造装置100のコモンベースであり、電線Wの軸方向とは直交する方向に長い矩形状のもので、その上に横行ユニット20が固定されている。
【0058】
横行ユニット20は、円板カッタユニット30及びその昇降ユニット40の全体を図の左右方向(X軸方向)に進退させるためのもので、横行用サーボモータ21と、そのカップリング22と、左右一対の軸受け23と、この軸受け23間で支持されるボールねじユニット24と、このボールねじユニットのナット24aに固定されている昇降ユニット40の支持ブロック25と、この支持ブロック25を左右に案内する水平スライドベース26とから構成されている。
【0059】
したがって、横行用サーボモータ21が正逆回転すると、ボールねじ24も同様に正逆回転し、ナット24aが図の実線位置から二点鎖線位置間を横行する。ナット24aは、支持ブロック25を同様に水平スライドベース26上で左右にスライドさせるが、昇降ユニット40の全体が支持ブロック25上に固定されているので、昇降ユニット40も同様に左右方向(X軸方向)にスライドすることができる。
【0060】
一方、昇降ユニット40は、円板カッタユニット30の全体を図の二点鎖線間の上下方向(Y軸方向)に昇降させるためのもので、上記円板カッタユニット30の横行ユニット20と基本的に同様構成のものである。
【0061】
すなわち、支持ブロック25上から立設された昇降用スライドベース41と、この昇降スライドベース41の上部に固定された昇降用サーボモータ42と、その駆動タイミングプーリ43と、従動タイミングプーリ44と、両プーリ間に巻回されたタイミングプーリ45と、上下一対の軸受け46と、この軸受け46、46間で支持されるボールねじユニット47と、このボールねじユニットのナット47aに固定されている円板カッタユニット30の支持ブロック48と、この支持ブロック48を支持し、上下方向に案内するLMガイド49とから構成されている。
【0062】
したがって、昇降用サーボモータ42が正逆回転すると、駆動タイミングプーリ43が駆動され、その駆動トルクがタイミングプーリ45により従動タイミングプーリ44に伝達され、ボールねじ47を正逆回転させる。ボールねじ47が正逆回転すると、そのナット47aが支持ブロック48を昇降させる。
【0063】
支持ブロック48が上下動すると、円板カッタユニット30の全体も同様に、図の実線位置から二点鎖線位置間を上下動する。
【0064】
円板カッタユニット30は、図示しないクランプ装置によって図の上下方向に支持されている電線Wに対し、その被覆層Sに略半周づつ、順次、切り込みを入れることで最終的に全周に切り込みを入れるためのもので、図1のものと比べると構成部材の配置と向きが異なるだけで、切り込みの基本原理も同様である。したがって、本実施形態2で登場する実施形態1で説明した部材と同じ部材は、実施形態1で用いた符号と同じ符号を用いている。
【0065】
そこで、円板カッタユニット30を詳しく説明すると、図2及び図3に示すように、円板カッタユニット30は、上下に位置する第1円板カッタ31及び第2円板カッタ32と、それぞれのカッタ31、32を回転自在に支軸するカッタ支持アーム36と、このカッタ支持アーム36に固定された第1円板カッタ及び第2円板カッタの駆動機構37とから成る。
【0066】
第1円板カッタ31及び第2円板カッタ32は、外径が文字通り円板形のもので、同一外径(又は異なる外径)を有し、図3の右側面図の如く、カッタ支持アーム36により回転自在に片持ち支持されている。カッタ支持アーム36は、実施形態1で前述したように正面視は略「コ」字形で、その横断面は、駆動プーリ34及び従動プーリ35の軸受けを両持ち支持するために同様に略「コ」字形断面(不図示)に形成されている。そして、このカッタ支持アーム36が図1で説明した開口幅と奥行きとから成る切り込み作業領域を有することも同様である。
【0067】
第1及び第2円板カッタの駆動機構37の構成も実施形態1で前述したのと全く同様である。すなわち、カッタ駆動用サーボモータ38と、その軸端に固定された駆動プーリ34と、この駆動プーリ34で駆動ベルト39及びタイミングベルト33を介して駆動される6個の従動プーリ34と、これら6個の従動プーリ34のそれぞれをカッタ支持アーム36から回転自在に支持する一対の軸受け37a及びそのプーリ軸37bと、第1円板カッタ駆動用プーリ35により駆動され、その回転トルクを第1円板カッタ31に伝達する一対の第1円板カッタ駆動用ギヤ37cと、第2円板カッタ駆動用プーリ35により駆動され、その回転トルクを第2円板カッタ32に伝達する一対の第2円板カッタ駆動用ギヤ37dとから構成されている。
【0068】
これら部材は、図3に示すように、カッタ駆動用サーボモータ38がカッタ支持アーム36の下方に固定されるとともに、各プーリ34、35は、タイミングベルト33の周回軌道が図1の如く略「コ」字形となるように、それぞれの回転軸37bがカッタ支持アーム36に固定された一対の軸受け37a、37aにより両持ち支持されている。
【0069】
したがって、カッタ駆動用サーボモータ38が回転すると、その回転トルクが駆動プーリ34→駆動ベルト39→プーリ軸37b→タイミングベルト33→第1及び第2カッタ駆動用プーリ35、35→第1円板カッタ駆動用ギヤ37c及び第2円板カッタ駆動用ギヤ37dの順に伝達され、結局、第1円板カッタ31及び第2円板カッタ32を同時、かつ同方向(図2では反時計回りに)に回転させることができる。
【0070】
符号50は、前述した円板カッタユニット30の横行ユニット20、昇降ユニット40、及び円板カッタユニット30それぞれのサーボモータ21、42、38に、正逆回転と、その回転速度(切削速度)、回転時間(横行及び昇降時間)等の電線被覆層Sへの切り込み条件の指示を与えるための制御盤(X−Y軸方向制御装置)で、その中には上記駆動条件を実現させるために必要な電子制御プログラムが内蔵されている。
【0071】
この制御盤50は、各サーボモータと電気的に接続され、そのほか図示省略の例えば切り込み深さ検知センサや各円板カッタのX−Y位置検知センサ等のセンサ類と電気的に接続されている。
【0072】
また、制御盤面には、切り込み対象の電線Wに上記切り込み条件を入力するための図示省略のボタン類と、切り込み条件や切り込みの現在状況等の確認ができる適当なグラフィック表示パネルが設けられており、これらボタン類と上記センサ類の検知信号に基づき、各サーボモータの回転数、回転時間等の制御、すなわち第1円板カッタ31及び第2円板カッタ32それぞれの刃先31a、32aの2位置制御(X−Y位置制御)ができるようになっている。
【0073】
次に、本発明に係る被覆層剥皮電線の製造装置の動き(作用)の一例を説明する。
【0074】
まず、作業者が被覆層S切り込み対象の電線Wを図示しないクランプ装置でクランプする。
【0075】
次に、作業者は、制御盤50に切り込み対象の電線品番、その外径、被覆層Sの厚さのほか、カッタ回転数、切り込み深さ等の切り込み条件を入力する。
【0076】
これら準備作業を終え、作業者が制御盤50の図示しないスタートボタンを押動すると、制御盤内のプログラムにより、横行ユニット20のサーボモータ21と、昇降ユニット40のサーボモータ42とが起動し、円板カッタユニット30の全体を、電線Wに対して図1で示した位置にまで移動させる。
【0077】
次に、円板カッタユニット30のサーボモータ38が起動し、第1及び第2円板カッタ31、32の回転数が切り込みに必要な規定回転数に達する。
【0078】
第1及び第2円板カッタ31、32の回転数が規定回転数に達すると、制御盤50のプログラムから横行ユニット20のサーボモータ21と、昇降ユニット40のサーボモータ42とに駆動指示が与えられ、第1円板カッタ31のX−Y方向位置が自動制御され、まず第1円板カッタ31が図1で説明した軌跡R1〜R6をたどることにより、電線Wの略上半分の被覆層Sに切り込みが入れられる。
【0079】
電線Wの上半分の被覆層Sの切り込みが終了すると、今度は第2円板カッタ32のX−Y方向位置が自動制御され、図1で説明した軌跡R7をたどることにより、残った略下半分の被覆層Sに切り込みが入れられ、被覆層S全周への切り込みが終了する。これら軌跡は、上記以外の軌跡を適宜、たどれることも勿論可能である。
【0080】
被覆層Sへの切り込みが完了すると、図示しない例えば特許文献3に記載の総形刃物のようなもの、或は電線Wの間欠定長送り装置を駆動させることにより電線Wを軸方向に移動させるか、又は公知の切削装置で切り込み済みの被覆層の軸方向に切れ目を入れることにより、被覆層Sの剥皮が完了する。
【0081】
なお、上記説明は、第1及び第2円板カッタ31、32の位置をX−Y方向に同時に自動制御する場合を説明したが、手動にて、X、Y軸方向の動きを個別制御できることも勿論である(いわゆるジョグ運転)。
【0082】
したがって、本実施形態の被覆層剥皮電線の製造装置100によれば、次の優れた効果を奏することができる。
【0083】
本実施形態2の被覆層剥皮電線の製造装置100は、実施形態1に記載の剥皮電線の製造方法の実現装置であるから、実施形態1と全く同様の効果が奏することができることに加え、次の優れた効果を奏する。
【0084】
1.前述した特許文献1の装置と異なり、円板カッタを電線Wに対して周回せずに半周ずつ2枚の第1及び第2円板カッタ31、32で切り分けるので、製造装置100の駆動系と給電系が格段にシンプルに成る。したがって、その分、製造装置が低コストで得られ、被覆層剥皮電線も低コストで製造できる。
【0085】
2.1本の電線Wに対し、2枚の円板カッタで電線Wの略半周づつを順次、切り分けて切断するので、そのタクトタイムは、特許文献1の装置に比べて若干増えることにはなるが、全周切り込みに2枚の円板カッタを用いる分、刃こぼれが少なくなり、刃の研磨頻度も少なくなる。したがって、円板カッタの寿命が長くなり、刃の交換頻度も少なくなって、結局、人件費も下がり、低コストの被覆層剥皮電線Wを製造することができる。
【0086】
3.駆動モータにサーボモータ、ステッピングモータ又はリニアモータを用いているので、電線品番、電線外径に応じて、円板カッタの回転速度の増減調整を容易にすることができ、これらの自動制御が容易になる。したがって、被覆層Sの切り込みが可能な電線品番及び電線径の適用幅が広くなり、広範囲に使用できる。
【実施形態3】
【0087】
図4は、図2の製造装置100の他例の製造装置200の概略正面図である。
【0088】
前述した実施形態2の製造装置100は、第1円板カッタ31と第2円板カッタ32とを同一の駆動モータ38でX−Y2軸方向に同時制御するものであったが、本実施形態の製造装置200は、上記それぞれのカッタ31、32を個別の駆動モータ38Aで駆動させると共に、そのX−Y方向位置を同時に2位置制御するものである。
【0089】
したがって、図示の通り、その円板カッタユニット30A及びカッタ支持アーム36Aも第1円板カッタ31及び第2円板カッタ32ごとに独自のものを備えており、昇降ユニット20A及び横行ユニット40Aについても同様である。
【0090】
すなわち、それぞれの昇降ユニット20A及び横行ユニット40Aには、図示しない個別のカッタ駆動用サーボモータが設けられており、これら昇降ユニット20A及び横行ユニット40Aは、制御盤50(X−Y軸方向制御装置)により、基台10A上でX−Y方向の個別の2位置制御が同時にできるのである。
【0091】
本実施形態の被覆層剥皮電線の製造装置200によれば、第1円板カッタ31と第2円板カッタ32とが、個別の駆動モータ38Aで互いに独立して回転数制御がされる。
【0092】
したがって、上記実施形態2の効果に加え、それぞれのカッタ31、32が独立してその位置と回転数制御がされることにより、1本の絶縁被覆電線に対して両側から二枚のカッタ31、32で同時切り込みをすることができるので、全周切り込みに要するタクトタイムは、特許文献1、2の場合に比べて遥かに早く済む。
【0093】
また、絶縁被覆電線Wの両側から同時切り込みをする場合は、前述したように絶縁被覆電線Wに対する第1円板カッタ31と第2円板カッタ32とからの押圧力が相殺されるので、被覆層の切断面は電線軸に対して常に直交した美しいものが得られ、特許文献1、2の装置では得られない格段の効果を奏する。
【0094】
本発明の製造方法及び製造置は、上記の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲、実施形態の範囲で、種々の変形例、組み合わせが可能であり、これらの変形例、組み合わせも本発明の権利範囲に含むものである。
【0095】
例えば、本発明の製造方法及び製造置では、絶縁被覆層Sが二層構造の電線を用いているが、三層構造以上の電線にも当然適用することができ、本発明の範囲に含まれることは勿論である。
【0096】
また、本発明は、被覆層断面が円形のみならず、三角形や、四角形、楕円形のものも同様にして切り分けて剥皮することができ、複数の配線が内蔵されているLANケーブルについても同様に切り分けて剥皮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の製造方法及び製造置は、被覆電線にこだわらず、例えばワークが上下又は左右2面に複数の切り込み部分を有する場合は、それぞれの面の直近に専用工具である第1円板カッタと第2円板カッタとがそれぞれ存在して加工するので、円板カッタの移動距離が短くて済む分、切り込みのタクトタイムが格段に減少する。
【0098】
また、円板カッタに代えて、ブラシやサンドペーパ等の工具をカッタ支持アームに取り付けると、電線中間部の芯線や構築物等に対する自動研磨加工が容易にできる。
【0099】
したがって、本発明の製造方法及び製造置は、このような分野においても活用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆電線の被覆層を剥皮する前に前記被覆層に切り込みを入れる被覆層剥皮電線の製造方法であって、
円板カッタを回転させつつ前記電線の被覆層を略半周させて該被覆層の略半周部分に切り込みを入れる工程と、該被覆層の残りの略半周分を別の円板カッタで切り込みを入れることにより被覆層の全周に切り込みを入れる工程とを有することを特徴とする被覆層剥皮電線の製造方法。
【請求項2】
絶縁被覆電線の被覆層を剥皮する前に前記被覆層に切り込みを入れる被覆層剥皮電線の製造装置であって、
基台と、
前記電線の被覆層に切り込みを入れる円板カッタユニットと、
該円板カッタユニットの全体を上下方向(Y軸方向)に昇降させる昇降ユニットと、
前記基台上に設けられ、前記円板カッタユニット及び昇降ユニットを一体として左右方向(X軸方向)に進退させる横行ユニットと、
前記各ユニットの駆動モータに、前記X軸又は/及びY軸方向への駆動指令を与え、X−Y二軸方向への所定の位置制御をさせるX−Y軸方向制御装置と、を備え、
前記円板カッタユニットは、前記電線の芯線外周のうち略半周分を自転しつつ公転する第1円板カッタと、第2円板カッタとを有し、
該第1円板カッタと、第2円板カッタとは、それぞれの円板カッタの駆動モータが、前記X−Y軸方向制御装置からの指令により、前記第1円板カッタで前記電線の被覆層を略半周させて該被覆層の略半周部分に切り込みを入れ、前記第2円板カッタで被覆層の残りの略半周分に切り込みを入れることにより、前記被覆層の全周に切り込みを入れられるように、前記電線のX軸及び/又はY軸方向に2位置制御されることを特徴とする被覆層剥皮電線の製造装置。
【請求項3】
前記第1円板カッタと、前記第2円板カッタとは、それぞれのカッタが個別のモータで互いに独立して駆動されることを特徴とする請求項2に記載の被覆層剥皮電線の製造装置。
【請求項4】
前記第1円板カッタ及び第2円板カッタの位置制御に用いられる駆動モータは、サーボモータ、ステッピングモータ又はリニアモータであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の被覆層剥皮電線の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−31319(P2013−31319A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166603(P2011−166603)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(592143758)アサヒ精機株式会社 (11)
【Fターム(参考)】