説明

被覆粒状肥料、該肥料を用いた植物栽培用苗床組成物、該組成物を用いた苗の育成方法、および植物の栽培方法

【課題】播種時全量施肥法において、例えば、移植後の活着が良好な肥料成分を供給できる、植物栽培用苗床組成物に用いることのできる被覆粒状肥料を提供する。
【解決手段】25℃の水中に浸漬した場合の肥料成分の累積溶出率が3重量%に達するまでの日数が10日以上である被覆粒状肥料であって、かつ溶出挙動が、縦軸に期間成分溶出率、横軸に経過時間としてプロットして作図したグラフにおいて、該グラフの頂点が少なくとも二箇所存在するものであることを特徴とする被覆粒状肥料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、播種時全量施肥に適する被覆粒状肥料とその組成物、および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新しい農業技術が開発され、それに伴って農業機械、農業資材などの技術革新が進んだ結果、農作業の大幅な省力化が実現されている。例えば、水稲栽培においては、時限溶出型の溶出機能を有する被覆粒状肥料が開発され、全量基肥施肥法が実用化した。更に、育苗期間の肥料の溶出を極少に抑制した被覆粒状肥料を用いた育苗箱全量施肥法が新たに開発され、普及しつつある(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
種子と同時に施用できる肥料は、少なくとも育苗期間、肥料の溶出を極少に抑制する必要がある。このとき、溶出量が育苗時に必要な肥料の量を超えると発芽障害などの生育遅延が発生し、苗が枯死する場合がある。高度な時限溶出機能の付与を達成して流通する被覆粒状肥料であっても、溶出を抑える技術と溶出させる技術が相反するため、溶出が開始しても溶出速度が上がりにくい(緩慢である)傾向がある。このため、育苗中の苗の生育は、従来の追肥を行う育苗方法と比べて、葉色が淡く軟弱になりやすい。また、移植後も、十分な肥料成分が被覆粒状肥料からすぐに溶出するわけではなく、移植前から活着するまでの間は、養分の供給が少ない低栄養状態で環境ストレスに弱い状態が持続することから、冷害、風水害などを受けやすく、活着不良などによる欠株となりやすいことがある。
【0004】
また、本圃への施肥用としては、従来から溶出挙動の異なる被覆粒状肥料等を組み合わせた配合肥料も各地で提案されている。これらは、従来の基肥分をそのままに追肥分を被覆粒状肥料で補う組み合わせであり、無追肥の基肥一発施肥用として化成肥料等の速効性肥料に被覆粒状肥料を配合したものが大部分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−236352号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】庄子貞雄編集、金田吉弘著「新農法への挑戦―生産・資源・環境との調和―」博友社、1995年3月20日発行、p.203−220
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、いわゆる播種時全量施肥法において、例えば、移植後の活着が良好な肥料成分を供給できる被覆粒状肥料、該肥料を用いた植物栽培用苗床組成物、該組成物を用いた苗の育成方法、および植物の栽培方法を提供することなどを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述の課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その結果、25℃の水中で少なくとも10日間は肥料成分の累積溶出率が3重量%未満の被覆粒状肥料であって、かつ溶出挙動が、縦軸に期間成分溶出率、横軸に経過時間としてプロットして作図したグラフにおいて、該グラフの頂点が少なくとも二箇所有することを特徴とする被覆粒状肥料、該肥料を用いた植物栽培用苗床組成物、該組成物を用いた苗の育成方法、および植物の栽培方法によって、前記課題が解決されることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被覆粒状肥料は、従来の播種時全量施肥用の肥料と比べて、地力の発現が遅い、または少ない圃場であっても、移植後の活着が良好である他、初期生育の確保と作業の省力化が期待できる。これらは、特に水稲栽培において、分げつを確保することで収穫物の収量を確保しつつ、該収量と食味等品質の双方とも損なわないため、バランスがよい。更に、本発明の苗床組成物に農薬を同時に処理できるため省力化栽培に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例(本発明品)の溶出挙動を示すグラフ
【図2】比較例の溶出挙動を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の被覆粒状肥料について詳細に説明する。
本発明の被覆粒状肥料は、樹脂等によって粒状肥料を被覆した肥料であり、肥料成分の溶出挙動として、初期の溶出を厳しく抑えた時限溶出型の溶出パターンを有する肥料(以下、時限溶出被覆肥料という。)である。
【0012】
本発明において「時限溶出型の溶出パターン」とは、施肥後の一定期間内には溶出が抑制され、その期間経過後には速やかな溶出を開始することを意味する。
このような時限溶出型の溶出パターンにおける、肥料成分の溶出が抑制される施肥後の一定の期間を「溶出抑制期間」(以下、D1という)といい、本発明では、具体的には被覆粒状肥料を25℃の水中に浸漬した場合の肥料成分の累積溶出率が3重量%に達する迄の日数で定義する。また、溶出開始(D1経過時)から該肥料成分の溶出が持続する期間を「溶出期間」(以下、D2という)といい、本発明では、具体的には被覆粒状肥料を25℃の水中に浸漬した場合の肥料成分の累積溶出率が3重量%を超えて80重量%に達する迄の日数で定義する。
【0013】
本発明の被覆粒状肥料のD1は、用途に応じて変動しうるが、少なくとも育苗期間に相当する日数であり、一般的には10日以上、好ましくは20日以上、より好ましくは25日以上である。例えば、水稲苗の育苗期間は、稚苗(葉齢2〜3葉)で移植する場合は15〜25日であり、中苗(葉齢4葉以上)で移植する場合は30〜35日であり、成苗(葉齢5〜6葉)で移植する場合は35〜40日である。
【0014】
また、本発明において「時限溶出型」の溶出パターンとは、より具体的には、D1が7日以上かつD1/D2の比率が0.1以上である溶出パターンをいう。本発明の被覆粒状肥料のD1/D2は、0.2以上が好ましく、0.2〜2がより好ましく、0.2〜1.5が更に好ましい。また、D1+D2は30〜360(日)であることが好ましい。D1とD2が上記の関係にあると、被覆粒状肥料は特に播種時施肥に適し、育苗時の濃度障害や徒長を生じることがない。
【0015】
上記のような被覆粒状肥料の溶出挙動は、縦軸に累積成分溶出率、横軸に経過時間としてプロットして作図したグラフにおいてS字型を示す。これを、縦軸に期間成分溶出率、横軸に経過時間としてプロットして作図したグラフ(本明細書中、「期間成分溶出率グラフ」と呼ぶこともある。)に直すと、被覆方法や芯となる粒状肥料の粒度分布等によって形状は変動するが、従来の被覆粒状肥料(特に苗床組成物に用いられるもの)では、それが単独の種類(溶出パターンの銘柄)からなるものであっても、複数の種類を配合したものであっても、通常、一箇所の頂点を有する山型のグラフとなる。
【0016】
これに対して、本発明に被覆粒状肥料は、そのような期間成分溶出率グラフにおいて、該グラフの頂点が少なくとも二箇所存在する。なお、頂点の数はD1(たとえば25℃の水中で少なくとも10日間)経過後に形成されているものの数である。
【0017】
期間成分溶出率グラフにおける頂点を少なくとも二箇所にするためには種々の手法が考えられるが、複数の種類の被覆粒状肥料を配合する、すなわちそのような配合肥料として本発明の被覆粒状肥料を調製することが最も容易である。好ましくは、D1/D2=0.4〜1.5かつD1+D2=50〜90日の被覆粒状肥料と、D1/D2=0.2〜1.2かつD1+D2=90〜160日の被覆粒状肥料との配合である。そして、前者および後者を適切な割合で配合することにより、頂点が少なくとも二箇所存在する期間成分溶出率グラフを描く本発明の被覆粒状肥料を調製することが可能である。
【0018】
たとえば、D1が20日以上で、肥料成分が窒素(特に尿素)である被覆粒状肥料の場合、期間成分溶出率グラフにおける頂点の高さについて、横軸の経過時間のプロット間隔が10日であれば、期間成分溶出率が20%以下であることが、頂点間の肥効バランスが取れ、あとは施肥量で調節できるため、施肥管理上好ましい。頂点における期間成分溶出率が5%未満であると、頂点が二箇所であっても、頂点が一箇所の未配合品と施肥の効果が区別できないため、好ましくない。なお、本発明の被覆粒状肥料のD1の長さや、被覆粒状肥料に含まれる肥料成分が異なればこの限りでなく、そのD1や肥料成分に応じて、適切な頂点の高さとなるよう調整することができる。たとえば、一般的にD1が長くなれば頂点の高さは低くなる傾向にある。また、被覆粒状肥料に含まれる肥料成分がカリ成分であれば、頂点の高さは上記の値より低くてもよい。
【0019】
配合に際し、被覆粒状肥料には温度依存性がある。温度依存性を示す係数が、1.1〜3.5の範囲であることが好ましく、更には1.5〜3.0の範囲であることが好ましい。温度依存性とは、例えば水の温度の変化に伴いD1すなわち「被覆粒状肥料を水中に浸漬した場合の肥料成分の累積溶出率が3重量%に達する迄の日数」やD2すなわち「被覆粒状肥料を水中に浸漬した場合の肥料成分の累積溶出率がD1以上80重量%に達する迄の日数」(本発明では各々25℃を基準とする。)が変動することであり、その指標としては温度が10℃変化した際の変動割合(温度依存係数(Q10))で示される。例えば、温度が10℃上昇若しくは下降して、D1が1/2もしくは2倍になった場合には、温度依存係数が2であると云う。従って温度依存係数の最小値は1である。
【0020】
本発明の被覆粒状肥料は、樹脂を有効成分とする被膜材料によって肥料成分を含有する芯材を被覆したものである。樹脂としては、オレフィン系樹脂、ジエン系樹脂、ワックス類、ポリエステル、石油樹脂、天然樹脂、油脂及びその変性物などの熱可塑性樹脂、及び該樹脂から選ばれた2種以上の混合物、ウレタン系樹脂、アルキド系樹脂などの熱硬化性樹脂などを挙げることができる。これら樹脂にタルクなどの無機粉体、澱粉などの有機粉体、界面活性剤、充填材、添加剤を被膜材料として添加してもよい。
【0021】
本発明の被覆粒状肥料の芯材に含まれる肥料成分は窒素および/または加里成分を保証成分とする肥料であることが好ましく、さらに好ましくは窒素である。
窒素肥料としては、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸アンモニウムのほか、イソブチルアルデヒド縮合尿素、アセトアルデヒド縮合尿素などが挙げられ、これらの中でも、肥料成分当たりの単価が安い尿素が好ましい。加里肥料としては、塩化加里、硫酸加里などが挙げられる。これらのほかに窒素と加里の両成分を含む化成肥料でもよい。
【0022】
芯材には、窒素肥料のほかに必要に応じて他の肥料を含有させてもよい。他の肥料とは、例えば、りん酸肥料の他、植物必須要素のカルシウム、マグネシウム、硫黄、鉄、微量要素やケイ素などを含有する肥料である。また、芯材には硝酸化成抑制材や農薬を含有させてもよい。
【0023】
本発明の被覆粒状肥料の期間成分溶出率は以下の方法により求めることが可能である。例えば、肥料成分が尿素の場合、被覆粒状肥料10gを200mL水中に浸漬して25℃に静置し、所定期間経過後に被覆粒状肥料と水とに分け、水中に溶出した窒素成分の溶出量を定量分析により求める。「期間成分溶出率」に係る上記所定期間としては、たとえば10日間(旬)が適切であるが、7日間(週)やその他の日数とすることも可能である。分離した被覆窒素肥料を用いて同様に水中に浸漬して所定期間ごとに溶出量の定量分析を繰り返す。これとは別に上記被覆窒素肥料10g中の全窒素量を定量し、該全窒素量に対する上記溶出量の割合を百分率で示したものを期間成分溶出率とする。あるいは、後記実施例に示すような方法でも、上記の方法と同様の期間成分溶出率を求めることができる。
【0024】
本発明の植物栽培用苗床組成物では、植物を支持し水分等を供給する保水材を用いる。該保水材は、育苗に要する水分を保持し得るものであれば何れの材料であっても使用することができる。具体的には、土壌の他、軽量かつ保水性に優れる植物性繊維材料や、鉱物系材料を挙げることができる。
【0025】
土壌としては、沖積土、洪積土、火山性土、鹿沼土、ボラ土(日向土)、山土、及び腐植土などの天然の土壌及び浄水場発生土を挙げることができる。本発明においては、これらを熱などで殺菌した殺菌土が好ましい。このような殺菌土としては、赤玉土((株)ソイール製、赤土系殺菌土)や黒玉土((株)ソイール製、黒土系殺菌土)、殺菌ボラ土を挙げることができる。
【0026】
植物性繊維材料としては、ピートモスやヤシガラ(ヤシの果皮から外果皮及び内果皮を除去し取り出された中果皮から更に剛長繊維及び中短繊維を取り出した残滓物など)、樹皮、木材パルプ、もみ殻、大鋸屑などが挙げられる。鉱物系材料としては、例えば、焼成バ−ミキュライト、ベントナイト、ゼオライトなどが挙げられる。また、バーミキュライトを焼成する際に残存する焼成残渣を用いても構わない。更に、これらの混合物でも構わない。
【0027】
保水材には、必要に応じて粒状綿などの人工繊維、木炭、くん炭などの有機物の炭化物、パーライト、尿素樹脂発泡体などの土壌改良材を配合することもできる。例えば水稲用苗床に含まれる培地基材の割合は、特に限定されないが、苗床に対して、10〜70質量%の範囲であることが好ましい。尚、保水材のかさ密度は、特に限定されないが、0.2〜0.7g/cm3であると育苗箱の軽量化するうえで好ましい。水稲用苗床における床土層と覆土層の割合は、特に限定されないが、苗床に対してそれぞれ5〜90容量%と90〜5容量%であって、かつ床土層と覆土層の容量の和が50〜95容量%の範囲であることが望ましい。
【0028】
本発明で用いられる保水材には、必要に応じて窒素、りん酸、加里などの成分を含有する肥料を添加することができる。添加量の目安は、慣行育苗培土に準ずるが、保水材における含有量がそれぞれ1g/L以下である。
【0029】
保水材には、育苗期間に保水材由来の病虫害や、種子や植物体によって持ち込まれた病虫害、徒長抑止などへの対応や、培地の物理性や化学性を改善するなどの目的で、殺菌剤、殺虫剤、植物成長調節剤、界面活性剤、pH調節剤などを本発明の効果を阻害しない範囲において適量を含有させることもできる。
【0030】
本発明の植物栽培用苗床組成物は、本発明の被覆粒状肥料と保水材と種子を含有していればいかなる存在形態でもかまわない。好ましくは、種子が表面に露出しない構造であり、より好ましくは層状である。また、被覆粒状肥料と保水材は混合していてもよく、それぞれ分離して床土層や肥料層のような積層構造であってもかまわないが、後者の場合は最表層が肥料層でなければよい。
【0031】
本発明の植物栽培用苗床組成物に用いられる種子は、特に限定されないが、稲等の食用作物、野菜、果樹、花き等の園芸作物等であり、育苗を経て本圃に移植栽培できる植物であれば好ましく用いることができる。
【0032】
本発明の植物栽培用苗床組成物の積層構造は床土層、覆土層、種子層、肥料層で構成される。この構造において、少なくとも、底から床土層、種子層、覆土層の順に形成されていれば、肥料層は以下の態様に示すような位置に形成することができる。
【0033】
床土層と覆土層の間に位置する肥料・種子層は、床土層の上に位置し、本発明の被覆粒状肥料及び種子を含有する。肥料・種子層は、何れの手順によって形成されてもよく、例えば、被覆粒状肥料と種子の混合物を、床土層の上に積層させて形成されてもよく、床土層の上に先ず被覆粒状肥料を積層させ、次いでその上に播種することにより形成されてもよく、または、床土層の上に先ず播種し、次いでその上に被覆粒状肥料を積層させることにより形成されてもよい。上記の肥料層を床土層と覆土層で挟むサンドイッチ型の構造とは別に、本発明の苗床組成物としては、底から順に肥料層、床土層、種子層、覆土層からなる積層構造でもよく、特に肥料が1kg/育苗箱を超える条件下では好ましい。さらに、本発明の効果を損なわない範囲であれば、播種時散布が可能な殺虫剤、殺菌剤、殺虫殺菌剤等の農薬を上記の積層構造中に添加してもかまわない。
【0034】
本発明の苗の育成方法は、上記植物栽培用苗床組成物を用いて潅水等を行いながら苗を育成する方法である。苗を育成するに際し、該組成物に含有する被覆粒状肥料の育苗期間中の累積窒素成分溶出率は、10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下であり、特に好ましくは3%以下である。特に育苗期間中の窒素の累積成分溶出率が小さい被覆粒状肥料を用いた場合には、育苗後期に生育障害や生育過多が発生する可能性が低くなるため好ましい。また、本発明の被覆粒状肥料の施用量は、一例を挙げると窒素保証成分40%の時限溶出型被覆尿素の場合、標準的な育苗箱(300mm(縦)×600mm(横)×30mm(深さ))当たり400g〜1500gが実用上好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明を説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
1.本発明配合肥料の製造
1)溶出挙動の測定
市販のシグモイド型被覆粒状肥料である被覆尿素を用いて下記に示す方法で溶出挙動の測定を行った。被覆尿素を10gと、あらかじめ25℃に調整をしておいた蒸留水200mLとを250mLの蓋付きポリ容器に投入し、25℃設定のインキュベーターに静置した。10日後、該容器から水を全て抜き取り、抜き取った水に含まれる尿素量(尿素溶出量)を定量分析(ジメチルアミノベンズアルデヒド法 「詳解肥料分析法 第二改訂版」養賢堂)により求めた。次いで、水を抜き取った後のサンプルを再度該容器に入れ、該容器に再度蒸留水を200mL投入し、10日間静置して、前回と同様にして尿素量を求めた。尿素溶出量の積算値(累積溶出率)が設計値に基づく推定で80重量%に達する迄この操作を繰り返した。
【0036】
その後、該被覆粒状肥料を乳鉢で磨りつぶし、該肥料の内容物を水200mLに溶解後、上記と同様の方法で尿素残量を定量分析した。積算尿素溶出量と尿素残量を加えた量を尿素全量とし、水中に溶出した尿素の溶出量(累積溶出率)と溶出期間日数の関係をグラフ化して期間溶出曲線を作成した。結果を表1に示す。溶出測定開始から累積溶出率が3重量%に至る迄の日数を「D1」とし、それ以降累積溶出率が80重量%に至る迄の日数を「D2」とした。すなわち、溶出測定開始から溶出率が80重量%に至る迄の日数はD1+D2となる。
【0037】
その結果、被覆尿素A(商品名「苗箱まかせN400−60」、ジェイカムアグリ(株)製)、被覆尿素B(商品名「苗箱まかせN400−100」、ジェイカムアグリ(株)製)、被覆尿素C(商品名「苗箱まかせN400−120」、ジェイカムアグリ(株)製)がD1=30日以上であった。
【0038】
なお、被覆尿素A,B,Cの10日間ごとの尿素溶出量に基づく期間成分溶出率グラフも作成したが、いずれも頂点は1つであった。各頂点の経過時間(日)および期間成分溶出率を表1に合わせて示す。また、被覆尿素A,B,Cはいずれも粒径2.4mm〜3.6mm、平均粒径3.0mmであり、それぞれの円形度係数を、NIRECO社製のIMAGE ANALYZER LUZEX-FSを用いて測定しところ、ランダムに取り出した100粒の円形度係数の平均は、0.90〜0.95であった。
【0039】
【表1】

【0040】
2)本発明品の製造と溶出挙動
表2の配合割合で配合肥料を製造した。各配合肥料について、原料として用いる被覆尿素A〜Cについての上記溶出挙動測定結果およびそれらの配合割合から、配合肥料全体としての溶出挙動を算出した。結果を図1〜2に示す。また、頂点の数を表2に示す。なお、前述のように、被覆尿素A〜CのD1はいずれも30日以上であるので、それらからなる配合肥料のD1も自ずと30日以上になっている。
【0041】
【表2】

【0042】
2.本発明配合肥料の効果の確認
(本発明苗床組成物の製造と育苗)
市販の水稲用育苗箱(300mm(縦)×600mm(横)×30mm(深さ))に保水材として市販のクリーン2号(商品名、揖斐川工業(株)製、窒素0.2mg/kg、りん酸0.4mg/kg、加里 0.3mg/kg、pH4.5〜5.5)を深さ約2cmとなるように充填、床土層を形成後、実施例1の配合肥料を600gと水稲催芽種籾(品種「ヒノヒカリ」)120gを順に均一施用して肥料・種子層を形成させた。続いて前記市販保水材を用いて覆土層を形成して苗床組成物1を得た。
【0043】
実施例1の配合肥料のかわりに実施例2〜4、比較例1〜3の配合肥料を用いるほかは上記苗床組成物1と同様にして苗床組成物2〜7を得た。
苗床組成物1を製造するに際し、床土層を形成後、市販の殺虫殺菌粒剤のデラウスプリンス粒剤10(商品名、住友化学(株)製、ジクロシメット3%、フィプロニル1%)を50g施用後、実施例1を600gと水稲催芽種籾(品種「ヒノヒカリ」)180gを順に均一施用して肥料・種子層を形成させる他は同様にして苗床組成物8を得た。
【0044】
他に実施例1の配合肥料のかわりに参考例として被覆尿素C単独を用いるほかは上記苗床組成物1と同様にして苗床組成物9を得た。
苗床組成物1の材料を用い、水稲用育苗箱に実施例1の配合肥料を1100g施用して肥料層を形成後、市販のクリーン2号を用いて深さ約1.5cmの床土層、水稲催芽種籾(品種「ヒノヒカリ」)180gの種子層、前記市販保水材を用いて覆土層を順に形成して積層構造の苗床組成物10を得た。
【0045】
(栽培試験)
苗床組成物1〜10を用いて21日間育苗を行い、その様子を調査した。育苗期間中は育苗箱上方より十分な潅水を行うと同時に底面の加温を行い、床土の温度が10℃未満にならないように管理した。育苗は無加温の農業用ビニールを展張した温室内で慣行法に従って行った。育苗後は本田に移植し、慣行法に準じて栽培を行った。
【0046】
その結果、いずれの苗床を用いて育成された苗は生育が揃い、根張り、葉色共に良好であり、本田に容易に移植できた。しかしながら、移植後は苗床組成物1〜4および8(実施例1〜4の配合肥料)の葉色が濃く、活着も良好であったのに対し、苗床組成物5〜7(比較例1〜3の配合肥料)および苗床組成物9(参考例として被覆尿素C単独)の活着はまずまずであったが、葉色が淡く、生育が遅れる傾向で、分げつが実施例と比較して少なかった。このことから、苗床組成物1〜4および8(実施例1〜4の配合肥料)は肥効が効果的だったものと思われる。また、同一施肥量での栽培試験であったが、期間成分溶出率の頂点を二箇所にして肥料成分の供給を分散させることにより栽培後半の肥効を改善し、食味等品質面でも効果が見られた。
【0047】
また、多肥条件下の苗床組成物10でも、苗は徒長することなく生育が揃い、根張り、葉色共に良好であり、肥料がこぼれることなく本田に容易に移植できた。移植間隔は他の苗床組成物で育成した苗より広くして栽培を行ったが、品質、収量共に遜色がなかった。
【0048】
本発明の目的として、省力化および高品質化(良食味)が挙げられるが、肥料成分、特に窒素がタイムリーに、有効に吸収されることが重要である。播種時全量施肥法の場合のように、長期に亘り適切に放出制御される被覆粒状肥料の量は十分であっても速効的成分が少なく、栽培の初期に於ける肥効不足のため生育不足となりがちであるため、省力化に適した施肥法であって、これだけでは収量増は期待できない。水稲の収量に関しては、穂数、籾数を多くし、しかも稔実を高めれば良いが、この場合途中の供給量をコントロールする他、後期の肥効も重要で増収のポイントになる。このように後期の窒素の供給を増やせば、蛋白含量を高め、食味を低下させる最大の原因と言われている。このため、食味を良くする場合は、窒素を抑えて栽培することになり、低収量にならざるを得ない。本発明は、播種時全量施肥法で困難であった被覆粒状肥料を用いて窒素成分を適宜コントロールすることにより、増収および食味のバランスの改善が可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の被覆粒状肥料は、特に播種時全量施肥法において好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃の水中に浸漬した場合の肥料成分の累積溶出率が3重量%に達するまでの日数が10日以上である被覆粒状肥料であって、かつ溶出挙動が、縦軸に期間成分溶出率、横軸に経過時間としてプロットして作図したグラフにおいて、該グラフの頂点が少なくとも二箇所存在するものであることを特徴とする被覆粒状肥料。
【請求項2】
請求項1記載の被覆粒状肥料と保水材および種子を含むことを特徴とする植物栽培用苗床組成物。
【請求項3】
床土層、覆土層、種子層、および請求項1記載の被覆粒状肥料を含む肥料層から構成される積層構造の植物栽培用苗床であって、該構造において、底から床土層、種子層、覆土層の順に形成されていることを特徴とする請求項2記載の植物栽培用苗床組成物。
【請求項4】
請求項2または3記載の植物栽培用苗床組成物を用いて育苗することを特徴とする苗の育成方法。
【請求項5】
請求項4記載の苗を用いて栽培することを特徴とする植物の栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−30978(P2012−30978A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169028(P2010−169028)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(390021544)ジェイカムアグリ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】