説明

被覆糸

【課題】スリップインが極めて小さく、伸長時に目むきが少なく、フラットな表面感、ハリコシ感とソフトな風合いを併せもち、さらにはストレッチ性に優れた布帛を得ることができる被覆糸を提供する。
【解決手段】少なくとも2種のポリエステル成分がサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に貼り合わされてなるポリエステル複合長繊維を芯糸とし、捲縮を有する他の長繊維を鞘糸とする被覆糸であって、以下の(1)から(5)を満足する被覆糸である。
(1)被覆率が80%以上、(2)伸縮伸長率が35%以上、(3)K=T×D1/2で表されるヨリ係数が2500以上3800以下(式中、Kはヨリ係数、Tはヨリ数(回/m)、Dは被覆糸の繊度(デシテックス)を表す。)、(4)スリップインが5mm以下、(5)鞘糸の嵩高度が5.0cm/g以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性および被覆性に優れ、衣服などに使用することにより、スリップインが極めて小さく、伸長時に目むきが少なく、フラットな外観を有し、ストレッチ性に優れた布帛を提供することのできる被覆糸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ストレッチ素材として、ポリウレタン弾性繊維とポリアミド繊維やポリエチレンテレフタレート繊維などをカバリングや合撚した被覆弾性糸が多数提案されており、ストッキング、ソックス、インナー、アウターなど一般衣料用途に使用されてきた(特許文献1参照)。このように、芯糸としてポリウレタン弾性繊維を用いた加工糸で編物・織物を形成する場合、フィット性と伸縮性に優れたものを得ることができるが、肉厚で風合いが硬くなるという欠点を有している。さらに、縫製の工程で被覆弾性糸を切断した場合、スリップインが発生し、切断部の弾性糸の端が収縮し鞘糸の端部より短くなり、被覆弾性糸の切断部近辺で弾性糸が不在となり、商品化に支障となることがしばしば指摘されていた。
【0003】
また、潜在性捲縮を有するポリエステル複合繊維を使用した複合加工糸についても多数提案されている(特許文献2参照)。しかし、無加重の状態で、芯糸のみが収縮し鞘糸が浮くために芯糸が露出したり、被覆性を向上させるためにヨリ数を大きくしたり鞘糸の繊度を太くしたりすると、芯糸が拘束されてストレッチ性が極度に低下することが課題となっていた。さらに、布帛を作製したときには布帛表面にシボが発生し、ある程度のストレッチ性は得られるものの、フラットな表面感は得ることが出来なかった。
【特許文献1】特開2001−288632号公報
【特許文献2】特開2001−288621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、伸縮性および被覆性に優れ、高次加工して、衣服などに使用する際、従来の技術では得られなかった、伸長時に目むきが少なく、フラットな外観を有し、ストレッチ性に優れた布帛を得られる被覆糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決する本発明の被覆糸は、次の構成を有する。
【0006】
すなわち、少なくとも2種のポリエステル成分がサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に貼り合わされてなるポリエステル複合長繊維を芯糸とし、捲縮を有する他の長繊維を鞘糸とする被覆糸であって、以下の(1)から(5)を満足することを特徴とする被覆糸。
(1)被覆率が80%以上
(2)伸縮伸長率が35%以上
(3)下記式で表されるヨリ係数が2500以上3800以下
K=T×D1/2
(式中、Kはヨリ係数、Tはヨリ数(回/m)、Dは被覆糸の繊度(デシテックス)を表す。)
(4)スリップインが5mm以下
(5)鞘糸の嵩高度が5.0cm/g以上
【発明の効果】
【0007】
本発明の被覆糸を用いることにより、従来の技術では得られなかった、スリップインが極めて小さく、目むきが少なく、フラットな外観を有し、ストレッチ性に優れた布帛を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は本発明の被覆糸の一例を示す概略側面図である。本発明の被覆糸(ハ)は、2種のポリエステル成分がサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に貼り合わされたポリエステル複合長繊維(イ)を芯糸として、その周りを捲縮を有する他の長繊維(ロ)が鞘糸として被覆してなる。
【0009】
本発明において、芯糸には少なくとも2種のポリエステル成分がサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に貼り合わされたポリエステル複合長繊維が用いられる。適度なキックバック性、ストレッチ性を得るために、ポリエステル成分は極限粘度が異なるものが好ましく、低粘度側のポリエステルの極限粘度[ηb]と高粘度側のポリエステル極限粘度[ηa]の極限粘度比([ηb]/[ηa])は0.3〜0.8であることが好ましい。このようなポリエステル成分としては、一方の構成成分がポリエチレンテレフタレートを主成分とし、他方の構成成分がポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするサイドバイサイド型または偏心芯鞘型であるポリエステル複合長繊維が好ましい。このように極限粘度の異なる二つの重合体が貼り合わされることによって、紡糸・延伸時に高粘度側に応力が集中するため、二成分間で内部歪みが異なる。そのため、延伸後の弾性回復率差および布帛の熱処理工程での熱収縮差により高粘度側が大きく収縮するために単繊維内で歪みが生じて3次元コイル捲縮の形態をとる。この3次元コイルの径および単繊維長当たりのコイル数は、高収縮成分と低収縮成分との収縮差(弾性回復率差を含む)によって決まるといってもよく、収縮差が大きいほどコイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多くなる。ストレッチ素材としてコイル捲縮は、コイル径が小さいこと、単位繊維長当たりのコイル数が多いこと(すなわち、伸長特性に優れ、見映えがよいこと)、コイルの耐へたり性がよいこと(伸縮回数に応じたコイルのへたり量が小さく、ストレッチ保持性に優れること)が好ましい。さらに、コイルの伸縮特性は、低収縮成分を支点とした高収縮成分の伸縮特性が支配的となるため、高収縮成分に用いる重合体には高い伸長性と回復性を有することが好ましい。
【0010】
芯糸としてのポリエステル複合長繊維に好ましく用いられるポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルとは、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする重合体である。すなわち、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコ−ル成分として得られるポリエステルである。他のエステル結合を形成可能な共重合成分が20モル%以下の割合で含まれていてもよく、好ましくは10モル%以下の割合で含まれる。共重合可能な化合物としては、スルホン酸、ナトリウムスルホン酸、硫酸、硫酸エステル、硫酸ジエチル、硫酸エチル、脂肪族スルホン酸、エタンスルホン酸、クロロベンゼンスルホン酸、脂環式スルホン酸、イソフタル酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、アジピン酸、シュウ酸、デカンジカルボン酸などのジカルボン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸などのジカルボンサン類、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ハイドロキノン、ビスフェノールAなどのジオール類を用いることができる。また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを添加してもよい。
【0011】
また、芯糸としてのポリエステル複合長繊維に好ましく用いられるポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルとは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする重合体である。すなわち、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオ−ルを主たるグリコ−ル成分として得られるポリエステルである。他のエステル結合を形成可能な共重合成分が20モル%以下の割合で含まれていてもよく、好ましくは10モル%以下の割合で含まれる。共重合可能な化合物として、イソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマー酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオール類を用いることができる。
【0012】
ポリトリメチレンテレフタレートは、代表的なポリエステル長繊維であるポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートと同等の力学的特性や化学的特性を有しつつ、伸長回復性がきわめて優れている。これは、ポリトリメチレンテレフタレートの結晶構造においてアルキレングリコール部のメチレン鎖がゴーシュ−ゴーシュ構造(分子鎖が90度に屈曲)であること、さらにはベンゼン環同士の相互作用(スタッキング、並列)による拘束点密度が低く、フレキシビリティーが高いことから、メチレン基の回転により分子鎖が容易に伸長・回復するためと考えている。
【0013】
また、必要に応じて、ポリエステル複合長繊維には、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを添加してもよい。本発明において、コイル状捲縮を発現させ、編物・織物を作製した際に所望の伸縮性を得る観点から、ポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度は1.0以上であるのが好ましく、1.2以上であるのがより好ましい。本発明で使用されるポリエステル複合長繊維の断面形状はサイドバイサイド型または偏心芯鞘型である。断面形状がサイドバイサイド型または偏心芯鞘型でないと、糸条に熱が付与された際に、コイル状捲縮が発現せず、糸条に伸縮性を付与することができない。
【0014】
本発明において、芯糸としてのポリエステル複合長繊維のポリエステル成分は、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせからなることが好ましく、製糸性および繊維長さ方向のコイルの寸法均質性の観点から、その複合比(重量比率)がポリエチレンテレフタレート/ポリトリメチレンテレフタレート=30/70〜70/30の範囲が好ましい。より好ましくは35/65〜65/35、さらに好ましくは40/60〜60/40の範囲である。
【0015】
ここで、芯糸としてのポリエステル複合長繊維の総繊度は、用途目的に応じて決めればよいが、一般的には30デシテックス以上170デシテックス以下の範囲が好ましい。また、単繊維繊度は2.0デシテックス以上8.0デシテックス以下の範囲が好ましい。
【0016】
次に、本発明の被覆糸における鞘糸は、捲縮を有する長繊維である。この長繊維としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリフルオロエチレン系繊維等の合成繊維、レーヨンやアセテートなどのセルロース系の半合成繊維が好ましい。捲縮を有する態様は、仮撚加工などによる捲縮を有していればよいが、嵩高度は5.0cm/g以上であることが必要である。嵩高度が5.0cm/g未満であると、被覆率が低下し、糸割れしやすく、芯糸が露出した形態となる。一方、嵩高度の上限は、特に制限されるものでないが、一般的には10cm/g程度となる。
【0017】
この長繊維の断面形状は、円形、三角形、扁平、六角形などいずれであってもよいが、十分な嵩高度を得るためには異形断面であることが好ましい。
【0018】
本発明の被覆糸において、被覆率は80%以上である。ここでいう被覆率とは、次のようにして測定されるものである。
【0019】
被覆弾性糸の側面を拡大鏡にて投影し、測定長200(mm)当りの表面に芯糸が露出している長さ(mm)を測定し、その割合を次式で求める。
【0020】
被覆率(%)={(測定長−芯糸露出長)/測定長}×100
被覆率が80%未満であると、編物を作製したときに芯糸が露出した部分が多発し、ぎらついた外観を呈するので好ましくない。さらに鞘糸が芯糸から浮き、糸割れした糸形態となるので布帛化する際の工程通過性で問題となりやすい。一方、被覆率の上限は100%であることが好ましいが、97%程度でも十分であり、用途目的によっては95%であってもよいし、90%でもよい。
【0021】
次に、本発明の被覆糸は、伸縮伸長率が35%以上である。伸縮伸長率が35%未満では布帛を形成したときストレッチ性に劣るものとなる。一方、伸縮伸長率の上限は特に制限されるものではないが、一般的には60%程度となる。
【0022】
また、本発明の被覆糸は、ヨリ係数が2500以上3800以下である。ヨリ係数が2500未満であると十分に被覆が施されていないため、芯糸から鞘糸が浮いた状態となり、糸割れが生じ、工程通過性に問題を起こしやすい。さらに、芯糸が露出しているため、布帛表面があれた外観となりやすい。一方、ヨリ係数が3800を超える場合には、芯糸の捲縮を拘束するため適度なストレッチを得ることが出来なくなる。
【0023】
ここでいうヨリ係数は、下記式により求められるものである。
【0024】
K=T×D1/2
(式中、Kはヨリ係数、Tはヨリ数(回/m)、Dは被覆糸の繊度(デシテックス)を表す。)
さらにまた、本発明の被覆糸は、スリップインが5mm以下である。ここでいうスリップインとは、0.1cN/dtexの荷重下で延伸した状態の被覆糸を鋏で切断し、切断端より芯糸が不在となった部分の長さである。スリップインが5mmより大きい場合、縫製時に被覆糸の切断部において芯糸の端が収縮して鞘糸の端部より短くなり、被覆弾性糸の切断部近辺で弾性糸が不在となるために、商品化に支障となる。一方、スリップインの下限は0mmであることが好ましいが、1mm程度であっても差し支えない。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明がこれら実施例により限定されるものではない。
【0026】
なお、実施例中の極限粘度[η]、被覆率(%)、伸縮伸長率(%)、嵩高度(cm/g)は次の方法で求めた。
[極限粘度(η)]
オルソクロロフェノール10mlに対し試料0.10gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて測定した。
[被覆率(%)]
被覆弾性糸の側面を拡大鏡にて投影し、測定長200(mm)当りの表面に芯糸が露出している長さ(mm)を測定し、その割合を次式で求める。
被覆率(%)={(測定長−芯糸露出長)/測定長}×100
[伸縮伸長率(%)]
1.8×10−3cN/dtex荷重下で、 周長1mの手回し検尺器にて10回巻のカセを作り、これを1.8×10−3cN/dtexの荷重をかけた状態で、90℃、20分間の熱水処理をする。次いで、荷重を外し、1昼夜風乾する。
【0027】
1.8×10−3cN/dtex荷重下での試料の長さを測定する(L0)。その後、88.3×10−3cN/dtexの荷重を加え、2分後に試料の長さを測定する(L1)。そして下記式にて伸縮伸長率を算出する。
【0028】
伸縮伸長率(%)=[(L1−L0)/L0]×100
[嵩高度(cm/g)]
溝幅1cmの四角溝を有する長さ4cmの断面凹状のサンプル台の溝中に、被覆糸を無荷重下で横長に収納し、サンプル台の両端でそれぞれはみ出た糸をカットする。カットした被覆糸の上に溝幅に合わせた荷重200gを掛け、被覆糸の量(重量)と荷重によって形成された溝内容積とから、溝中の被覆糸1g当たりが占める容積(cm)を算出し、嵩高度(cm/g)で示した。
[スリップイン(mm)]
0.1cN/dtexの荷重下で延伸した状態の被覆糸を鋏で切断し、切断端より芯糸が不在となった部分の長さをスリップイン(mm)とした。
[実施例1]
極限粘度が1.31のポリトリメチレンテレフタレート と極限粘度が0.52のポリエチレンテレフタレートをそれぞれ別々に溶融し、紡糸温度260℃で72孔の複合紡糸口金よりポリエチレンテレフタレート/ポリトリメチレンテレフタレート の重量比率が50/50となるように吐出し、紡糸速度1400m/分で引き取り、500デシテックス72フィラメントの未延伸糸を得た。さらに、ホットロール−熱板系延伸機を用い、ホットロール温度70℃、熱板温度145℃、延伸倍率3.0で延伸して、167デシテックス72フィラメントのサイドバイサイド型ポリエステル複合長繊維(延伸糸)を得た。
【0029】
この得られたポリエステル複合長繊維と嵩高度が7.5cm/gの170デシテックス24フィラメントの中空断面を有するポリアミド仮ヨリ加工糸を用い、通常の合撚機で、Z方向に180回/mで合撚し、被覆糸を得た。得られた被覆糸の繊度、ヨリ係数、被覆率、伸縮伸長率、スリップインを表1に示す。
【0030】
この被覆糸を用いて、24ゲージ、1口編機で編成し、酸性染料で染色し、仕上げ加工した。得られた編物は、目むきが少なく、フラットな外観をもち、ストレッチ性に優れたものであった。
[実施例2]
実施例1と同様の167デシテックス72フィラメントのサイドバイサイド型ポリエステル複合長繊維(延伸糸)と嵩高度が5.3cm/gの170デシテックス24フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸を用い、通常のカバリング機でポリエステル複合長繊維を芯糸として、ドラフトが1.02、ヨリ数がZ方向に180回/mとなるようカバリングし、被覆糸を得た。得られた被覆糸の繊度、ヨリ係数、被覆率、伸縮伸長率、スリップインを表1に示す。
【0031】
この被覆糸を用いて、24ゲージ、1口編機で編成し、常法によりポリエステル用分散染料で染色し、仕上げ加工した。得られた編物は、目むきが少なく、フラットな外観をもち、ストレッチ性に優れたものであった。
[実施例3]
実施例1と同様の167デシテックス72フィラメントのサイドバイサイド型ポリエステル複合長繊維(延伸糸)と嵩高度が7.5cm/gの170デシテックス24フィラメントの中空断面を有するポリアミド仮ヨリ加工糸を用い、通常の合撚機で、Z方向に140回/mで合撚し、被覆糸を得た。得られた被覆糸の繊度、ヨリ係数、被覆率、伸縮伸長率、スリップインを表1に示す。
【0032】
この被覆糸を用いて、24ゲージ、1口編機で編成し、酸性染料で染色し、仕上げ加工した。得られた編物は、目むきが少なく、フラットな外観をもち、特にストレッチ性に優れたものであった。
[実施例4]
実施例1と同様の167デシテックス72フィラメントのサイドバイサイド型ポリエステル複合長繊維(延伸糸)と嵩高度が7.5cm/gの170デシテックス24フィラメントの中空断面を有するポリアミド仮ヨリ加工糸を用い、通常の合撚機で、Z方向に200回/mで合撚し、被覆糸を得た。得られた被覆糸の繊度、ヨリ係数、被覆率、伸縮伸長率、スリップインを表1に示す。
【0033】
この被覆糸を用いて、24ゲージ、1口編機で編成し、酸性染料で染色し、仕上げ加工した。得られた編物は、目むきがなく、フラットな外観をもち、ストレッチ性に優れたものであった。
[比較例1]
33デシテックスのポリウレタン弾性繊維と嵩高度が5.5cm/gの84デシテックス36フィラメントのポリエチレンテレフタート仮撚加工糸を用い、通常のカバリング機でポリエステル複合長繊維を芯糸として、ドラフトが3.0、ヨリ数がZ方向に350回/mとなるようカバリングし、被覆糸を得た。得られた被覆糸はポリウレタン弾性繊維がポリエチレンテレフタート仮撚加工糸と絡んでいないため、ポリウレタン弾性繊維が露出した形態となった。得られた被覆糸の繊度、ヨリ係数、被覆率、伸縮伸長率、スリップインを表1に示す。
【0034】
この被覆糸を用いて、28ゲージ、1口編機で編成し、常法によりポリエステル用分散染料で染色し、仕上げ加工した。糸の被覆性が不良であるため、得られた編物は伸長状態で目むきが発生し、表面外観上問題となった。
[比較例2]
実施例1と同様の167デシテックス72フィラメントのサイドバイサイド型ポリエステル複合長繊維(延伸糸)と嵩高度が7.5cm/gの170デシテックス24フィラメントの中空断面を有するポリアミド仮ヨリ加工糸を用い、通常の合撚機で、Z方向に130回/mで合撚し、被覆糸を得た。得られた被覆糸の繊度、ヨリ係数、被覆率、伸縮伸長率、スリップインを表1に示す。
【0035】
この被覆糸を用いて、24ゲージ、1口編機で編成し、酸性染料で染色し、仕上げ加工した。被覆性が不良であり、鞘糸が芯糸から浮いた状態となり、編成で糸切れが頻発した。得られた編物は、芯糸が露出し、目むきが発生しており、表面外観上問題となった。
[比較例3]
実施例1と同様の167デシテックス72フィラメントのサイドバイサイド型ポリエステル複合長繊維(延伸糸)と嵩高度が7.5cm/gの170デシテックス24フィラメントの中空断面を有するポリアミド仮ヨリ加工糸を用い、通常の合撚機で、Z方向に320回/mで合撚し、被覆糸を得た。得られた被覆糸の繊度、ヨリ係数、被覆率、伸縮伸長率、スリップインを表1に示す。
【0036】
この被覆糸を用いて、24ゲージ、1口編機で編成し、酸性染料で染色し、仕上げ加工した。得られた編物は、被覆性に優れ、フラットな外観を有しているが、伸縮性に乏しいものとなった。
[比較例4]
実施例1と同様の167デシテックス72フィラメントのサイドバイサイド型ポリエステル複合長繊維(延伸糸)と170デシテックス24フィラメントのポリアミド延伸糸を用い、通常の合撚機で、Z方向に180回/mで合撚し、被覆糸を得た。得られた被覆糸の繊度、ヨリ係数、被覆率、伸縮伸長率、スリップインを表1に示す。
【0037】
この被覆糸を用いて、24ゲージ、1口編機で編成し、酸性染料で染色し、仕上げ加工した。被覆性が不良であり、鞘糸が芯糸から浮いた状態となり、編成で糸切れが頻発した。得られた編物は、芯糸が露出し、目むきが発生しており、表面外観上問題となった。
[比較例5]
実施例1と同様の167デシテックス72フィラメントのサイドバイサイド型ポリエステル複合長繊維(延伸糸)と嵩高度が7.5cm/gの170デシテックス24フィラメントの中空断面を有するポリアミド仮ヨリ加工糸を用い、通常の合撚機で、Z方向に220回/mで合撚し、被覆糸を得た。得られた被覆糸の繊度、ヨリ係数、被覆率、伸縮伸長率、スリップインを表1に示す。
【0038】
この被覆糸を用いて、24ゲージ、1口編機で編成し、酸性染料で染色し、仕上げ加工した。得られた編物は、被覆性に優れ、フラットな外観を有しているが、伸縮性に乏しいものとなった。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の被覆糸は、布帛を形成した時、スリップインが極めて小さく、伸長時に目むきが少なく、フラットな表面感、ハリコシ感とソフトな風合いを併せもち、さらにはストレッチ性に優れた布帛を得ることができる。衣料用として、特に、ジャケット、ボトムなどのアウターのストレッチ素材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の被覆糸の一例を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0042】
(イ):ポリエステル複合長繊維
(ロ):他の長繊維
(ハ):被覆糸
(ニ):芯糸が露出した部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種のポリエステル成分がサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に貼り合わされてなるポリエステル複合長繊維を芯糸とし、捲縮を有する他の長繊維を鞘糸とする被覆糸であって、以下の(1)から(5)を満足することを特徴とする被覆糸。
(1)被覆率が80%以上
(2)伸縮伸長率が35%以上
(3)下記式で表されるヨリ係数が2500以上3800以下
K=T×D1/2
(式中、Kはヨリ係数、Tはヨリ数(回/m)、Dは被覆糸の繊度(デシテックス)を表す。)
(4)スリップインが5mm以下
(5)鞘糸の嵩高度が5.0cm/g以上
【請求項2】
該芯糸のポリエステル成分が、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルおよびポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の被覆糸。
【請求項3】
該芯糸のポリエステル成分がポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートであって、その複合比(重量比率)がポリエチレンテレフタレート/ポリトリメチレンテレフタレート=30/70〜70/30の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の被覆糸。

【図1】
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【公開番号】特開2008−255534(P2008−255534A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101338(P2007−101338)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(502179282)オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】