説明

被記録媒体給送装置、記録装置

【課題】記録用紙の積載枚数が少なくなるに従って印刷スループットが低下することを抑止し、或いは防止する。
【解決手段】ローラー支持部材17には、第1給送ローラー18と第2給送ローラー19とが、動力伝達手段50によって回転駆動される様に設けられている。記録用紙の積載枚数が多い場合には、最上位の記録用紙Puに対して第1給送ローラー18が接し、記録用紙の積載枚数が少ない場合には、最上位の記録用紙Puに対して第2給送ローラー19が接する。第2給送ローラー19による用紙送り速度F2は、第1給送ローラー18による用紙送り速度F1より速くなる様に、動力伝達手段50における減速比が調整されており、これにより給送経路長が長くなっても、記録スループットが低下することを抑止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体を給送する被記録媒体給送装置、およびこれを備えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ファクシミリやプリンター等に代表される記録装置には、被記録媒体の一例としての記録用紙を積層状態で収容可能であるとともに、収容された記録用紙のうち最上位のものから給送ローラー(ピックアップローラーとも呼ばれる場合がある)によって1枚ずつ送り出す用紙給送装置が設けられている。
【0003】
この様な用紙給送装置において、給送ローラーが、回動可能なアームの一端側(アームの回動中心から離れた側)に設けられたものがあるが、この構成の場合、収容されている記録用紙が消費されるに従って、給紙条件が変化する。
【0004】
例えば、収容されている記録用紙が消費されるに従って、アームと記録用紙との成す角度(以下「くさび角」と言う)が大きくなる。くさび角が大きくなると、給送ローラーが記録用紙に接する力が大きくなり(くさび効果)、つまり給送ローラーが用紙束を強い力で押圧するので、ダブルフィードが生じ易くなる。逆にくさび角が小さい場合(例えば記録用紙が最大枚数セットされている様な場合)には、給送ローラーが記録用紙に接する力が小さくなるので、ノンフィードが生じ易くなる。
【0005】
この様に回動可能なアームに給送ローラーを設ける場合には、記録用紙の積載枚数によって給紙条件が変化するので好ましくない。そこでこの様な問題に鑑み、特許文献1記載の給送装置では、アームに対して給送ローラーを2つ設け、記録用紙の積載枚数によって記録用紙に接する給送ローラーを切り換える様にしている。この様に構成することで、記録用紙の積載枚数の違いに伴うくさび角の大きな変化を抑え、記録用紙の積載枚数に拘わらず記録用紙を安定して給送することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4221609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、記録用紙の積載枚数が多い場合と少ない場合とで、他の課題も生じている。例えば、用紙先端から記録実行領域までの用紙給送経路長は、記録用紙が消費されるに従って長くなる。
【0008】
この様に記録用紙の積載枚数によって用紙給送経路長が異なることとなる為、記録用紙の積載枚数によって印刷スループットの変化を招くことになり、特に記録用紙の積載枚数が少ない場合には印刷スループットが低下してしまい、好ましくない。
【0009】
そこで本発明はこの様な状況に鑑みなされたものであり、その目的は、記録用紙の積載枚数が少なくなるに従って印刷スループットが低下することを抑止し、或いは防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する為の、本発明の第1の態様に係る被記録媒体給送装置は、被記録媒体を収容する被記録媒体収容部と、前記被記録媒体収容部に収容された被記録媒体を前記被記録媒体収容部から送り出す第1給送ローラーと、回転軸を中心に揺動可能に設けられ、前記第1給送ローラーを支持するローラー支持部材と、前記ローラー支持部材において前記第1給送ローラーに対し前記揺動軸より遠い位置に設けられ、前記被記録媒体収容部に収容された被記録媒体を前記被記録媒体収容部から送り出す第2給送ローラーと、駆動源の動力を前記第1給送ローラー及び前記第2給送ローラーに伝達する動力伝達手段と、を備え、前記動力伝達手段は、前記第2給送ローラーによる被記録媒体の送り出し速度が、前記第1給送ローラーによる被記録媒体の送り出し速度より速くなる様、前記第1給送ローラー及び前記第2給送ローラーに動力を伝達する構成を備えることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、第1給送ローラーと、当該第1給送ローラーに対しローラー支持部材の揺動軸から遠い位置に配置される第2給送ローラーとを備えた構成であるので、被記録媒体の積載枚数が多い場合(くさび角が小さい場合)には第1給送ローラーが被記録媒体と接し、被記録媒体の積載枚数が少ない場合(くさび角が大きい場合)には第2給送ローラーが被記録媒体と接することとなる。
【0012】
ここで、第2給送ローラーによる被記録媒体の送り出し速度が、第1給送ローラーによる被記録媒体の送り出し速度より速いことから、被記録媒体の積載枚数が少ない場合、即ち被記録媒体給送経路長が長くなっても、被記録媒体を速やかに記録実行位置へ給送することができ、これにより被記録媒体の積載枚数が少なくなるに従って記録スループットが低下することを抑止し、或いは防止することができる。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第1給送ローラーと前記動力伝達手段との間には、前記第1給送ローラーが当該第1給送ローラーによる被記録媒体の送り速度より速い速度で送られる被記録媒体に接した際に当該被記録媒体に接して従動回転可能とするクラッチ手段が設けられていることを特徴とする。
【0014】
ローラー支持部材には第1給送ローラーと第2給送ローラーの2つのローラーが設けられており、被記録媒体の積載枚数の違い(くさび角の違い)によって被記録媒体に接するローラーが異なるが、くさび角によっては、2つのローラーのいずれもが被記録媒体に接する場合がある。
【0015】
このとき、第2給送ローラーによる被記録媒体送り速度が、その上流側の第1給送ローラーによる被記録媒体送り速度より速いので、第1給送ローラー或いは第2給送ローラーにおいて被記録媒体との間でスリップが生じ、記録面を傷める虞がある。しかしながら、本態様においては、2つのローラーが接した際にはクラッチ手段によって第1給送ローラーが空回り(連れ回り)することができるので、上述の問題を回避することができる。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1のまたは第2の態様において、前記動力伝達手段は、前記揺動軸から前記第1給送ローラー及び前記第2給送ローラーに向かって配置される歯車により構成され、前記第1給送ローラーおよび前記第2給送ローラーは、前記揺動軸の軸線方向において前記歯車の両側に配置されていることを特徴とする。
【0017】
第1給送ローラー及び第2給送ローラーに動力を伝達する動力伝達手段は、ローラー支持部材の揺動軸から各ローラーに向かって配置される歯車により構成されていることから、仮にこの歯車に対して第1給送ローラー及び第2給送ローラーが片側にのみ設けられていると、ローラーの片当たり(被記録媒体に対してローラー周面が均一に接触しない)が生じ、給送不良を招く虞がある。しかしながら本態様によれば、第1給送ローラー及び第2給送ローラーが前記歯車の両側に設けられていることから、上記片当たりが防止され、適切な給送を実現することができる。
【0018】
本発明の第4の態様は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、前記第1給送ローラーのローラー幅が、前記第2給送ローラーのローラー幅より大きいことを特徴とする。以下、これによる作用効果を詳説する。
【0019】
被記録媒体の給送基準位置がセンター基準ではなく、一方側端部基準の場合、被記録媒体の幅方向サイズが大きくなるに従って、被記録媒体の幅方向中心位置から各給送ローラーまでの距離が遠くなり、スキュー(斜行)が生じ易くなる。従ってスキュー防止の為には、各給送ローラーの幅は、極力大きいほうが好ましい。
【0020】
ところが、各給送ローラーの幅が大きくなると、特に第2給送ローラーにあっては、被記録媒体のサイズが小さい場合に被記録媒体積載枚数が少なくなると第2給送ローラーが被記録媒体収容部の底面に接してしまい、大きな回転負荷が掛かる虞がある。
【0021】
ところで、被記録媒体を収容する被記録媒体収容部においては、サイズの大きい被記録媒体(例えば、A4サイズ)が、例えばドキュメント印刷の為に最大収容枚数積載され易いが、これに対してサイズの小さい被記録媒体(例えば、L版写真サイズ)は、必要最小限の記録を目的として少な目に積載されることが多い。
【0022】
即ち、サイズの大きい被記録媒体では第1給送ローラー及び第2給送ローラーの双方が最大限機能するが、サイズの小さい被記録媒体では第1給送ローラーはそれ程機能せず、専ら第2給送ローラーによって送られる傾向となる。
【0023】
本態様では、以上の様な性質を利用し、第1給送ローラーのローラー幅を、第2給送ローラーのローラー幅より大きく設定した。これにより、第1給送ローラーによって多くの枚数給送されることとなるサイズの大きい被記録媒体に対しては、第1給送ローラーによって給送される場合にはスキューが抑えられる。そして、サイズの小さい被記録媒体に対しては、積載枚数が少なくなった場合に第2給送ローラーが被記録媒体収容部の底面に接して大きな回転負荷が掛かることを防止できる。
【0024】
本発明の第5の態様に係る記録装置は、被記録媒体に記録を行う記録手段と、第1から第4の態様のいずれかに係る被記録媒体給送装置と、を備えたことを特徴とする。本態様によれば、記録装置において、上述した第1から第3の態様のいずれかと同様な作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係るプリンターの用紙搬送経路を示す側断面図。
【図2】第1給送ローラー、第2給送ローラー、ローラー支持部材、のこれらを下側から見た斜視図。
【図3】用紙積載枚数が多い場合の給紙状態を示す図。
【図4】用紙積載枚数が中程度の場合の給紙状態を示す図。
【図5】用紙積載枚数が少ない場合の給紙状態を示す図。
【図6】クラッチ手段の構成を示す断面図。
【図7】用紙に対する第1給送ローラー、第2給送ローラー、の各ローラーの位置関係と幅を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明は、以下説明する実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることを前提として、以下本発明の一実施形態を説明するものとする。
【0027】
図1は、本発明に係る記録装置、そして更にその一例としてのインクジェットプリンター1の側断面概略図、図2は第1給送ローラー18、第2給送ローラー19、ローラー支持部材17、のこれらを下側から見た斜視図、図3は用紙積載枚数が多い場合の給紙状態を示す図、図4は用紙積載枚数が中程度の場合の給紙状態を示す図、図5は用紙積載枚数が少ない場合の給紙状態を示す図、図6はクラッチ手段60の構成を示す断面図、図7は用紙に対する第1給送ローラー18、第2給送ローラー19、の各ローラーの位置関係と幅を示す説明図である。尚、図2は記録部2の構成を模式的に示したものであり、全ての構成を示すものではなく、説明に不要な構成要素は図示を省略している。
【0028】
以下では先ず、インクジェットプリンター1の全体構成を概説する。図1において符号2は記録用紙にインクジェット記録を行う記録部を、符号3は記録部2の上部に設けられるスキャナ部を、符号4はスキャナ部3の上部に設けられる自動原稿搬送部を、それぞれ示しており、即ちインクジェットプリンター1はインクジェット記録機能に加えてスキャナ機能を備える複合機として構成されている。
【0029】
装置下部において符号5は記録用紙をセットする着脱可能な用紙カセットであり、符号7は排出された記録用紙を受ける排紙受けトレイである。この記録部2は2つの用紙給送経路を備えており、1つは装置下部に設けられた用紙カセット5(第2用紙給送部11)からの用紙給送経路であり、他の1つは装置背面側(図1において右側)に設けられた支持部材14(第1用紙給送部10)からの用紙給送経路である。尚、破線P1は用紙カセット5から送り出される用紙の通過軌跡を示し、破線P2は支持部材14から送り出される用紙の通過軌跡を示している。
【0030】
用紙カセット5と対向する位置には、回転軸17aを中心に揺動可能なローラー支持部材17に軸支された第1給送ローラー18及び第2給送ローラー19が設けられている。この第1給送ローラー18及び第2給送ローラー19は、ローラー支持部材17の揺動動作により用紙カセット5のカセット底面5aに対して進退可能に設けられ、用紙カセット5に収容された用紙の最上位のものと接して回転することで、当該最上位の用紙を下流側に送り出す。
【0031】
尚、詳しくは後に説明するが、用紙カセット5における用紙積載枚数が多い場合は、ローラー支持部材17において回転軸17aに近い位置に設けられた第1給送ローラー18が、積載された用紙のうち最上位のものと接してこれを送り出す。また、用紙カセット5における用紙積載枚数が少ない場合は、ローラー支持部材17において第1給送ローラー18に対し回転軸17aから遠い位置に設けられた第2給送ローラー19が、積載された用紙のうち最上位のものと接してこれを送り出す。これにより、用紙積載枚数の違い(くさび角の変化)に基づく給紙条件のばらつきが抑えられ、適切な給紙に資すことができる。
【0032】
第1給送ローラー18或いは第2給送ローラー19によって送り出された用紙は、大径の反転ローラー20によって湾曲反転させられた後、搬送手段としての搬送駆動ローラー24及び搬送従動ローラー25に到達する。尚、符号21は反転ローラー20との間で用紙をニップすることにより用紙の分離を行う分離ローラーを示している。
【0033】
一方、記録部2の上部後方に設けられた用紙給送部10において、支持部材14は用紙を傾斜姿勢に支持するとともに、上部の図示しない揺動軸を中心に揺動することで、支持している用紙の最上位のものを給送ローラー15に圧接させる。給送ローラー15は、回転することにより、圧接している用紙を下流側へ送り出す。尚、符号16は給送ローラー15との間で用紙をニップすることにより用紙の分離を行う分離ローラーを示している。
【0034】
搬送駆動ローラー24及び搬送従動ローラー25は、下流側へと用紙を精密送りするローラー対であり、このローラー対の下流側にはインクジェット式の記録ヘッド35と、用紙を下流側へ案内する支持部材29とが対向配置されている。
【0035】
記録ヘッド35は、用紙搬送方向と直交する方向(図1の紙面表裏方向:以下では適宜「主走査方向」と言うこととする)に往復動可能なキャリッジ34の底部に設けられ、主走査方向に移動しながら用紙に対してインクを吐出することにより記録を行う。
【0036】
記録ヘッド35の下流側において、符号39は用紙の浮きを防止する従動ローラーであり、符号40は回転することにより用紙を排出する排出駆動ローラーであり、符号41は排出駆動ローラー40との間で用紙をニップする排出従動ローラーである。これらローラー対により、記録の行われた用紙は、排紙受けトレイ7に向けて排出される。尚、本実施形態において排出駆動ローラー40はゴムローラーで形成され、従動ローラー39及び排出従動ローラー41は外周に多数の歯を有するギザローラーで形成されている。
【0037】
尚、インクジェットプリンター1は、おもて面(第1面)に記録の行われた用紙を排紙受けトレイ7に向けて排出せずに、バックフィードして反転ローラー20により湾曲反転させることで、うら面(第2面)への記録が可能となっている。
【0038】
以上がインクジェットプリンター1の大略構成であり、以下、第1給送ローラー18および第2給送ローラー19について説明する。図2に示す様に、回転軸17aの端部には第1歯車51が取り付けられており、この第1歯車51を起点として第1給送ローラー18及び第2給送ローラー19に向かって複数の歯車が配置され、動力伝達手段50を構成している。尚、回転軸17aの他方側端部には、図示を省略する駆動源としてのモーターの動力が伝達され、これにより回転軸17a(及び第1歯車51)が回転する様になっている。
【0039】
動力伝達手段50は、第1歯車51、第2歯車52、第3歯車53、第4歯車54、第5歯車55、第6歯車56、第7歯車57、のこれらを備えて構成されており、第6歯車56が第1給送ローラー18の回転軸に対し、また第7歯車57が第2給送ローラー19の回転軸に対して、それぞれ動力を伝達する。尚、第6歯車56は第3歯車53から、また第7歯車57は第5歯車55から、それぞれ動力を得る。
【0040】
ローラー支持部材17は、回転軸17aの軸線方向において上記歯車輪列を挟んで両側に位置しており、一端側が回転軸17aに軸支され、回転軸17aに対して相対的に回転可能となっている。そして上記各歯車、並びに第1給送ローラー18及び第2給送ローラー19が、ローラー支持部材17に支持される。
【0041】
第1給送ローラー18は、回転軸17aの軸線方向において上記各歯車の両側に設けられており、図2、図7において符号18A、18Bは上記各歯車の両側に設けられた第1給送ローラー18を示し、符号19A、19Bは上記各歯車の両側に設けられた第2給送ローラー19を示している。尚、以下では第1給送ローラー18A、18Bを特に区別する必要の無い場合には第1給送ローラー18と言い、同様に第2給送ローラー19A、19Bを特に区別する必要の無い場合には第2給送ローラー19と言う。
【0042】
ここで仮に、上記各歯車に対して第1給送ローラー18及び第2給送ローラー19が片側にのみ設けられていると、ローラーの片当たり(用紙に対してローラー周面が均一に接触しない)が生じ、給送不良を招く虞がある。しかしながら上述のように、第1給送ローラー18及び第2給送ローラー19が前記各歯車の両側に設けられていることから、上記の様な片当たりが防止され、適切な給送を実現することができる。
【0043】
続いて、第1給送ローラー18及び第2給送ローラー19による用紙送り速度について説明する。図3〜図5において矢印F1は、第1給送ローラー18による用紙送り速度を示しており、矢印F2は第2給送ローラー19による用紙送り速度を示している。
【0044】
第1給送ローラー18および第2給送ローラー19は、基本的に記録用紙と接していない状態では、上述の様にそれぞれ用紙送り速度F1、F2を実現する回転速度となる様に、動力伝達手段50における減速比が調整されている。そして本実施形態では、用紙送り速度F2が用紙送り速度F1より速くなる様に、動力伝達手段50における減速比が調整されている。
【0045】
図3において符号5bは、用紙カセット5の底面5aに設けられた摩擦パッドを示しており、この摩擦パッド5bによって、最上位の記録用紙が送り出される際に用紙束ごと下流側に送り出されない様に保持される様になっている。また、符号5cは用紙先端と対向する摩擦分離面を示しており、送り出される記録用紙が摩擦分離面5cに摺接しながら下流側に進むことで、給送されるべき最上位の記録用紙と、次位以降の記録用紙との分離が行われる様になっている。
【0046】
この図3は、記録用紙Pの積載枚数が収容可能な最大枚数の状態を示している。この状態では、図示する様に回転軸17aに近い第1給送ローラー18が最上位の記録用紙(符号Puで示す)に接しているので、記録用紙Puは第1給送ローラー18によって用紙送り速度F1で送られる。尚、図3〜図5において角度θは、回転軸17aの揺動中心と、第1給送ローラー18或いは第2給送ローラー19が記録用紙と接触する位置とを結ぶラインが記録用紙と成す角度(くさび角)を示している。
【0047】
次に、図4は、記録用紙Pの積載枚数が最大枚数と最小枚数との間(中間程度)の状態を示している。特に、この図4の状態は第1給送ローラー18と第2給送ローラー19の双方が最上位の記録用紙Puに接している状態を示している。
【0048】
この状態では、最上位の記録用紙Puは第1給送ローラー18と第2給送ローラー19の双方から影響を受け得る状態であるが、本実施形態では、クラッチ手段60(後述)によって、第1給送ローラー18が用紙送り速度F2で送られる用紙に接した際に従動回転(連れ回り)できる様になっている。
【0049】
このため、最上位の記録用紙Puに第1給送ローラー18と第2給送ローラー19の双方が接した状態では、記録用紙Puは、第2給送ローラー19によって用紙送り速度F2で送られる(従って第1給送ローラー18も、用紙送り速度F2となる回転速度で回転する)。この様に、2つのローラーが最上位の記録用紙Puに接した際にはクラッチ手段60によって第1給送ローラー18が空回り(連れ回り)することができるので、第1給送ローラー18或いは第2給送ローラー19において記録用紙Puとの間でスリップが生じ、記録面を傷める虞がない。
【0050】
尚、クラッチ手段60は公知のワンウェイクラッチを適用可能であるが、例えば図6に示す様に構成することができる。図6において符号59は第1給送ローラー18の回転軸を示しており、この回転軸59には凹部59aが形成されていて、この凹部59aに係止部材61とばね62とが配設されている。
【0051】
係止部材61はばね62によって外方に突出する様に設けられており、第6歯車56の内側に設けられた係止突起56aによって係止部材61の係止面61aが押されることで、回転軸59(第1給送ローラー18)が同図矢印R方向、即ち用紙送り出し方向に回転する様になっている。
【0052】
しかしながら係止部材61は、この係止面61aの反対側に斜面61bが形成されており、回転軸59が第6歯車56に対して相対的に図6の時計回り方向に回転しようとするときには(第1給送ローラー18が用紙送り速度F2で送られる用紙に接して連れ回るときには)、係止突起56aが斜面61b(係止部材61)を押し下げることで、回転軸59が第6歯車56に対して相対的に図6の時計回り方向に回転できる様になっている。
【0053】
次に、図5は、記録用紙Pの積載枚数が少なくなった状態を示している。この状態では、図示する様に回転軸17aから遠い第2給送ローラー19が最上位の記録用紙Puに接しているので、記録用紙Puは第2給送ローラー19によって用紙送り速度F2で送られる。
【0054】
ここで、図3〜図5において符号Ldは、用紙積載枚数が最大枚数のときの最上位の記録用紙Puと、用紙積載枚数が最小枚数(1枚)のときの記録用紙Puと、の間の給送経路差を示している。この様に用紙積載枚数が異なると給送経路差が生じ、記録スループットにばらつきが生じることとなる。特に、用紙積載枚数が少ないと、記録スループットが低下してしまう。
【0055】
しかしながら本実施形態では、上述の通り第2給送ローラー19による用紙送り速度F2が第1給送ローラー18による用紙送り速度F1より速くなる様に、動力伝達手段50における減速比が調整されていることから、給送経路長が長くなっても、より速い用紙送り速度で用紙が給送され、これにより用紙積載枚数が少なくなるに従って記録スループットが低下することを抑止し、或いは防止することができる。
【0056】
尚、用紙送り速度F1と用紙送り速度F2は、給送経路差Ldに応じて適宜設定することができる。例えば、図3の最大用紙枚数のときと、図5の最小用紙枚数のときで、記録スループットが同じになるように、用紙送り速度F1と用紙送り速度F2を設定しても良い。
【0057】
また、第1給送ローラー18のローラー幅を、第2給送ローラー19のローラー幅より大きくすることも好適である。図7はその様な実施形態の一例を示すものであり、第1給送ローラー18のローラー幅w1が、第2給送ローラー19のローラー幅w2より大きく設定されている。
【0058】
これによる作用効果は、以下の通りである。先ず、用紙の給送基準位置がセンター基準ではなく、一方側端部基準の場合(図7において位置x0)、用紙の幅方向サイズが大きくなるに従って、用紙の幅方向中心位置から各給送ローラーまでの距離が遠くなり、スキュー(斜行)が生じ易くなる(図7において用紙Paは、一例としてA4サイズ用紙を示し、用紙Pbは、一例としてL版写真サイズ用紙を示している)。従ってスキュー防止の為には、各給送ローラーの幅は、極力大きいほうが好ましい。
【0059】
ところが、各給送ローラーの幅が大きくなると、特に第2給送ローラー19にあっては、用紙のサイズが小さい場合に用紙積載枚数が少なくなると第2給送ローラー19が用紙カセット5の底面5aに接してしまい、大きな回転負荷が掛かる虞がある(図7の例では、L版写真サイズ用紙Pbより更に小さいサイズの場合)。
【0060】
ところで、用紙カセット5においては、サイズの大きい用紙Paが、例えばドキュメント印刷の為に最大収容枚数積載され易いが、これに対してサイズの小さい用紙Pbは、必要最小限の記録を目的として少な目に積載されることが多い。
【0061】
即ち、サイズの大きい用紙Paでは第1給送ローラー18及び第2給送ローラー19の双方が最大限機能するが、サイズの小さい用紙Pbでは第1給送ローラー18はそれ程機能せず、専ら第2給送ローラー19によって送られる傾向となる。
【0062】
そこで上述の様な性質を利用し、第1給送ローラー18のローラー幅w1を、第2給送ローラー19のローラー幅w2より大きく設定することで、第1給送ローラー18によって多くの枚数給送されることとなるサイズの大きい用紙Paに対しては、ローラー接触領域が用紙幅方向中央までより一層延設され(位置x2)、第1給送ローラー18によって給送される場合にはスキューが抑えられる。
【0063】
そして、サイズの小さい用紙に対しては、ローラー接触領域が給送基準位置x0寄りとなるので(位置x1)、用紙サイズが小さい場合に用紙積載枚数が少なくなった際に第2給送ローラー19が用紙カセット5の底面5aに接して大きな回転負荷が掛かることを防止できる。
【符号の説明】
【0064】
1 インクジェットプリンター、2 記録部、3 スキャナ部、4 自動原稿搬送部、5 用紙カセット、5a 底面、5b 摩擦パッド、5c 分離斜面、7 排紙受けトレイ、10 第1用紙給送部、11 第2用紙給送部、14 用紙支持部材、15 給送ローラー、16 分離ローラー、17 ローラー支持部材、17a 回転軸、18 第1給送ローラー、19 第2給送ローラー、20 反転ローラー、21 分離ローラー、24 搬送駆動ローラー、25 搬送従動ローラー、29 支持部材、34 キャリッジ、35 インクジェット記録ヘッド、39 従動ローラー、40 排出駆動ローラー、41 排出従動ローラー、50 動力伝達手段、51 第1歯車、52 第2歯車、53 第3歯車、54 第4歯車、55 第5歯車、56 第6歯車、57 第7歯車、59 回転軸、60 クラッチ手段、61 係止部材、61a 係止面、61b 斜面、62 ばね、P、P1、P2、Pu 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体を収容する被記録媒体収容部と、
前記被記録媒体収容部に収容された被記録媒体を前記被記録媒体収容部から送り出す第1給送ローラーと、
回転軸を中心に揺動可能に設けられ、前記第1給送ローラーを支持するローラー支持部材と、
前記ローラー支持部材において前記第1給送ローラーに対し前記揺動軸より遠い位置に設けられ、前記被記録媒体収容部に収容された被記録媒体を前記被記録媒体収容部から送り出す第2給送ローラーと、
駆動源の動力を前記第1給送ローラー及び前記第2給送ローラーに伝達する動力伝達手段と、を備え、
前記動力伝達手段は、前記第2給送ローラーによる被記録媒体の送り出し速度が、前記第1給送ローラーによる被記録媒体の送り出し速度より速くなる様、前記第1給送ローラー及び前記第2給送ローラーに動力を伝達する構成を備える、
ことを特徴とする被記録媒体給送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の被記録媒体給送装置において、前記第1給送ローラーと前記動力伝達手段との間には、前記第1給送ローラーが当該第1給送ローラーによる被記録媒体の送り速度より速い速度で送られる被記録媒体に接した際に当該被記録媒体に接して従動回転可能とするクラッチ手段が設けられている、
ことを特徴とする被記録媒体給送装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の被記録媒体給送装置において、前記動力伝達手段は、前記揺動軸から前記第1給送ローラー及び前記第2給送ローラーに向かって配置される歯車により構成され、
前記第1給送ローラーおよび前記第2給送ローラーは、前記揺動軸の軸線方向において前記歯車の両側に配置されている、
ことを特徴とする被記録媒体給送装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の被記録媒体給送装置において、前記第1給送ローラーのローラー幅が、前記第2給送ローラーのローラー幅より大きい、
ことを特徴とする被記録媒体給送装置。
【請求項5】
被記録媒体に記録を行う記録手段と、
請求項1から4のいずれか1項に記載の被記録媒体給送装置と、を備えた記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−236694(P2012−236694A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107161(P2011−107161)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】