説明

装飾被膜

【課題】樹脂基材表面上であって、レーダ装置経路内に形成される装飾被膜に関し、耐候性試験を経た際に装飾被膜を形成する金属ナノ粒子の酸化が抑制され、もって金属ナノ粒子の酸化に起因してその耐久性が低下するのが効果的に抑止された装飾被膜を提供する。
【解決手段】レーダ装置経路内に位置する樹脂基材Fの表面に形成される装飾被膜10であって、この装飾被膜10は、金属ナノ粒子1が無機酸化物で被覆されてなる層2から形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基材表面上であって、レーダ装置経路内に形成される装飾被膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信機器やレーダなどの電波を送受信するアンテナは、その機能が優先されることから、アンテナ本体やその周囲の構造が意匠面で制約を受けることは少なく、たとえば、車両用のラジオなどのアンテナにはその形状をむき出しにしたロッドアンテナが使用されている。ところで、アンテナの取り付け位置によっては、アンテナを視認できない状態としたい場合もあり、たとえば、車両前方の障害物との距離や、前方車両との車間距離を測定するレーダなどにおいては、その性能を発揮するために車両前部の中心位置に設けるのが好ましい。このような場合には、たとえば車両のフロントグリル近傍にアンテナを取り付けることとなるが、意匠面からアンテナはなるべく外部から視認不可とするのが望ましい。
【0003】
ところで、オートクルーズシステムは、車両前方に搭載されているセンサによって前方車両と自車との車間距離や相対速度を測定し、この情報に基づいてスロットルやブレーキを制御し、自車を加減速しながら車間距離をコントロールする技術であり、近年の渋滞緩和や事故減少を目指す高度道路交通システム(ITS)の技術の一つとして注目を集めている。このオートクルーズシステムに使用されるセンサとして、一般には、ミリ波レーダなどの電波送受信装置が使用されている。
【0004】
車両ボディの前方に装備されるレーダ装置は一般にフロントグリルの背後に配置されることとなるが、このフロントグリルには、車両製造会社のエンブレムや該車両に特有な装飾品が装着されるのが一般的である。レーダ装置から照射されるミリ波はフロントグリルやエンブレムを介して前方に放射され、前方車両や前方障害物などの対象物で反射され、この反射光がフロントグリル等を介してレーダ装置に戻るようになっている。したがって、フロントグリルやエンブレムなどのレーダ装置のビーム経路に配置される箇所には、電波透過損失が少なく、しかも所望の美観を付与できる材料や塗料が用いられることが望ましい。
【0005】
以上の理由から、電波送受信装置が配置される箇所に対応するフロントグリル箇所には電波が透過可能な窓部を設けることが一般的であり、この窓部を通して電波の出入りを可能としているが、その一方で、窓部が設けられることでフロントグリルの外観が連続性を失うこととなってしまい、この窓部から車両の内側の電波送受信装置やエンジンルームなどが視認可能となって車両の外観が損なわれる危険性が高くなってしまう。そのため、従来は、たとえば特許文献1に開示されるような電波透過カバー(装飾被膜)をフロントグリルの窓部に挿入して、窓部とフロントグリル本体に一体感を持たせることがおこなわれている。
【0006】
これを図6,7を参照して説明する。図6で示すように、車両ボディAの前方に装備されるレーダ装置DはフロントグリルFの背後に配置され、レーダ装置Dから照射されるミリ波は、図7で示すようにフロントグリルFやエンブレムを介して前方に放射され(ミリ波L1)、前方車両や前方障害物などの対象物で反射され、この反射光(ミリ波L2)がフロントグリルF等を介してレーダ装置Dに戻るようになっている。そして、このフロントグリルFの背後には上記する装飾被膜Mが設けられている。
【0007】
フロントグリルFの背後であってレーダ装置経路内に形成される装飾被膜としては、図8a,bで示す2つの実施の形態を挙げることができる。図8aで示す装飾被膜Mは、金やその合金、銀やその合金、錫やその合金、インジウムやその合金などの金属ナノ粒子Pが有機物層Yの内部に分散して形成されたものである。
【0008】
一方、図8bで示す装飾被膜M’は特許文献1に開示される形態を模擬したものであり、フロントグリルFの表面にインジウム等の金属ナノ粒子P’を不連続に蒸着し、この上に有機物層Yが被覆された構成となっている。
【0009】
ところで、これらの装飾被膜は、キセノン促進耐候光試験のような耐候性試験によってその性能評価がおこなわれるのが一般的である。本発明者等によれば、図8a,bで示すように金属ナノ粒子が有機物層で保護されている構成では、この耐候性試験の際に照射されたアークランプによる熱エネルギによって有機物層が劣化し易く、これに付随して金属ナノ粒子が酸化したり、この酸化に起因して劣化し易くなったり、さらには装飾被膜の色調が変化し易いといった新たな課題が特定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−159039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、樹脂基材表面上であって、レーダ装置経路内に形成される装飾被膜に関し、耐候性試験を経た際に装飾被膜を形成する金属ナノ粒子が酸化され、その耐久性の低下が効果的に抑止された装飾被膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明による装飾被膜は、レーダ装置経路内に位置する樹脂基材の表面に形成される装飾被膜であって、前記装飾被膜は、金属ナノ粒子が無機酸化物で被覆されてなる層から形成されているものである。
【0013】
本発明の装飾被膜は、その適用用途がレーダ装置経路内に位置する樹脂基材の表面であることから、外観上は金属光沢を持ちつつ、電波透過性(電気的絶縁性)を有する被膜である。この装飾被膜は、金属光沢を有することから本来的には通電被膜となり得るが、金属ナノ粒子が無機酸化物で被覆されてなる層から形成されていることで、金属光沢を有しつつも、絶縁性を有する被膜となっている。これは、金属が金属ナノ粒子であることで粒子間距離が極めて短いこと、そのために粒子が緻密に集合しており、人目には金属光沢を提供する一方で、一つ一つのナノ粒子を電波が通過する際には、電波のミリ波減衰が極めて少なく、結果として、外観上は金属光沢を持ちつつも、電気的絶縁性を有する被膜となり得るものである。なお、ここで、「ミリ波」とは、電磁波の中でもその周波数帯域が30GHz〜300GHz程度の電波のことであり、たとえば、該周波数帯域の76GHz程度を特定することができる。
【0014】
さらに、金属ナノ粒子が無機酸化物で被覆されていることにより、キセノン促進耐候光試験のような耐候性試験の際に照射されたアークランプによる熱エネルギから金属ナノ粒子が防護され、その酸化の抑制にともなって装飾被膜の耐久性低下も抑制される。
【0015】
なお、ここでいう装飾被膜が塗布される対象である樹脂基材とは、既述する車両製造会社のエンブレムや該車両に特有な装飾品などの全般を包含するものである。
【0016】
ここで、金属ナノ粒子としては、金やその合金、銀やその合金、錫やその合金、インジウムやその合金などの金属であって、その平均粒径がナノオーダーの粒子を挙げることができる。
【0017】
また、無機酸化物としては、シリカ(SiO2)やアルミナ(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、ジルコニア(ZnO2)、酸化亜鉛(ZnO)などを挙げることができる。
【0018】
ここで、「装飾被膜は、金属ナノ粒子が無機酸化物で被覆されてなる層から形成されている」構成の実施の形態としては、大きく以下の4つの形態を挙げることができる。
【0019】
その一つの実施の形態は、金属ナノ粒子の表面に無機酸化物被膜が形成されたものが有機物からなる前記層内に分散されている形態である。
【0020】
金属ナノ粒子を溶媒内に混合し、無機酸化物をこの溶媒内に混合し、無機酸化物を金属ナノ粒子表面に析出させて無機酸化物からなる層を形成する。このように無機酸化物被膜を有する金属ナノ粒子をエタノール等の溶媒内に混入し、さらにトルエン等の別途の溶媒を混入して希釈分散させてなる混合液を樹脂基材の表面に塗工(スプレー塗布やバーコート法塗布などとその後の乾燥)することにより、無機酸化物被膜を有する金属ナノ粒子が有機物からなる層内に分散された装飾被膜を形成することができる。
【0021】
また、他の一つの実施の形態は、金属ナノ粒子の表面に無機酸化物被膜が形成されたものが樹脂基材の表面に不連続に成膜され、この上に有機物からなる前記層が形成されている形態である。
【0022】
無機酸化物被膜を具備する金属ナノ粒子を樹脂基材の表面に不連続に成膜するには、たとえば金属ナノ粒子をPVD法に包含される真空蒸着やスパッタリング、イオンプレーティングや、CVD法に包含される熱CVD、プラズマCVD、レーザCDVなどによって樹脂基材の表面に不連続に金属ナノ粒子を付着させ、無機酸化物が溶媒内に混合された溶剤をこの上に塗工することにより、金属ナノ粒子の表面に無機酸化物被膜が形成されたものが樹脂基材の表面に不連続に成膜され、この上に有機物からなる前記層が形成された装飾被膜を形成することができる。
【0023】
また、さらに他の一つの実施の形態は、金属ナノ粒子が無機酸化物からなる前記層内に分散されている形態である。
【0024】
金属ナノ粒子を溶媒内に混合し、無機酸化物をこの溶媒内に混合して溶剤を生成し、この溶剤を樹脂基材の表面に塗工することにより、金属ナノ粒子が無機酸化物からなる前記層内に分散されてなる装飾被膜を形成することができる。
【0025】
この実施の形態では、キセノン促進耐候光試験の際に照射されたアークランプによる熱エネルギによって有機物層が劣化した場合であっても、内部の金属ナノ粒子はその外周に酸化物被膜を具備することで金属ナノ粒子同士の凝集は抑止される。
【0026】
さらに他の一つの実施の形態は、金属ナノ粒子が樹脂基材の表面に不連続に成膜され、この上に無機酸化物からなる前記層が形成されている形態である。
【0027】
上記いずれの形態の装飾被膜であっても、金属ナノ粒子が無機酸化物で被覆されてなる層から形成されていることにより、良好な電波透過性を有しながら、耐候性試験の際の金属ナノ粒子の酸化とこれに起因する耐久低下が抑制された装飾被膜となる。
【0028】
上記無機酸化物被膜においては、その厚みが3〜50nmの範囲であるのが好ましい。
【0029】
これは、本発明者等による実験、具体的には金属ナノ粒子がその表面に無機酸化物被膜を有する装飾被膜に関し、この無機酸化物被膜の膜厚を変化させた際の電波透過減衰量と反射率の各実験結果から厚みの上下限が規定されたものである。
【0030】
また、無機酸化物からなる前記層の厚みが100nm〜3μmの範囲であるのが好ましい。
【0031】
これは、層の全体が有機物でなく、無機酸化物から形成される形態の装飾被膜に関し、本発明者等によるキセノン促進耐候光試験後の色調変化の程度と層剥離の有無(密着性)から層厚の上下限が規定されたものである。
【発明の効果】
【0032】
以上の説明から理解できるように、本発明の装飾被膜によれば、装飾被膜を形成する金属ナノ粒子が無機酸化物で被覆されてなる層から形成されていることにより、耐候性試験後の色相(色調)変化も少なく、かつ耐候性試験の際の金属ナノ粒子の酸化が抑制され、もって耐久性低下が抑制された装飾被膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の装飾被膜の一実施の形態を説明した模式図である。
【図2】(a)は、本発明の装飾被膜の他の実施の形態を説明した模式図であり、(b)は、無機酸化物被膜を有する金属ナノ粒子を拡大した図である。
【図3】本発明の装飾被膜のさらに他の実施の形態を説明した模式図である。
【図4】本発明の装飾被膜のさらに他の実施の形態を説明した模式図である。
【図5】金属ナノ粒子の表面に無機酸化物被膜を有してなる装飾被膜において、無機酸化物被膜の膜厚を変化させた際の電波透過減衰量と反射率を測定した実験結果を示すグラフである。
【図6】車両前方のフロントグリル(樹脂基材)と、樹脂基材後方の車両内部に配されたレーダ装置の関係を示した模式図である。
【図7】樹脂基材に形成された従来の装飾被膜を示した縦断面図であって、レーダ装置から照射されるミリ波が樹脂基材を介して前方に放射され、前方対象物で反射された反射光が樹脂基材を介してレーダ装置に戻っている状況を説明した図である。
【図8】(a)、(b)はいずれも、従来の装飾被膜の実施の形態を説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜4はいずれも、本発明の装飾被膜の実施の形態を説明した模式図である。
【0035】
図1で示す装飾被膜10は、樹脂基材であるフロントグリルFの裏側のレーダ装置Dに対向する位置に設けられるものであり、レーダ装置Dから照射されるミリ波L1がフロントグリルFと装飾被膜10を介して前方に放射され、前方車両や前方障害物などの対象物で反射され、この反射されたミリ波L2がフロントグリルFと装飾被膜10を介してレーダ装置Dに戻るようになっている。
【0036】
図示する装飾被膜10は、金属ナノ粒子1が無機酸化物層2内に分散されてその全体が構成されている。
【0037】
ここで、金属ナノ粒子としては、金やその合金、銀やその合金、錫やその合金、インジウムやその合金のうちのいずれか一種もしくは複数の金属素材で、その平均粒径がナノオーダーの粒子のものである。また、無機酸化物としては、シリカ(SiO2)やアルミナ(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、ジルコニア(ZnO2)、酸化亜鉛(ZnO)のうちのいずれか一種を挙げることができる。
【0038】
図示する装飾被膜10は、金属ナノ粒子1が無機酸化物層2内に分散していることで、粒子間距離が極めて短く、もって粒子が緻密に集合して人目には良好な金属光沢を提供することができ、さらには、一つ一つのナノ粒子を電波が通過する際には、電波のミリ波減衰が極めて少なく、良好な電波透過性を有する被膜となる。
【0039】
さらに、金属ナノ粒子1が無機酸化物層2内に分散されていることで、製品製造後のキセノン促進耐候光試験の際に照射されたアークランプによる熱エネルギによる酸化から金属ナノ粒子1を防護することができ、この酸化に起因する装飾被膜の耐久低下を効果的に抑制することができる。
【0040】
ここで、装飾被膜10の厚みtは、後述する実験結果より、100nm〜3μmの範囲に調整されているのがよい。100nm未満では良好な輝度を得ることができず、3μmより厚くなると今度は無機酸化物層の剥離が起こり易くなること(密着性が低下すること)から、この上下限値が規定されている。
【0041】
装飾被膜10の形成方法の一例を概説する。まず、たとえば銀からなる金属ナノ粒子(0.15mM(mM:ミリモラー))を過硫酸アンモニウム(APS:2.5μM(μM:マイクロモラー))に通してpH調整をおこない(pH4)、シリカ(SiO32−:0.02%でpH9)を加え、余剰SiO32−を除去してエタノールを75vol%加えて溶剤を生成し、この溶剤に別途の溶剤であるトルエンを混合して混合液を生成し、これをフロントグリルの表面に塗工(塗布して乾燥させる)するものである。
【0042】
一方、図2aで示す装飾被膜10Aは、金属ナノ粒子1の表面に無機酸化物被膜2Aが形成されたものが有機物層3内に分散されてその全体が構成されている。
【0043】
装飾被膜10Aの形成方法は、まず、たとえば銀からなる金属ナノ粒子(0.15mM)を過硫酸アンモニウム(APS:2.5μM)に通してpH調整をおこない(pH4)、シリカ(SiO32−:0.02%でpH9)を加え、余剰SiO32−を除去してエタノールを75vol%加えて溶剤を生成し、この溶剤をフロントグリルの表面に塗工(塗布して乾燥させる)するものである。
【0044】
ここで、無機酸化物被膜2Aの厚みs(図2b参照)は、後述する実験結果より、3〜50nmの範囲に調整されているのがよい。3nm以上の範囲で電波透過減衰量が1dB近傍という好ましい値近傍を推移することと、50nm以下の範囲で反射率(輝度)が輝度65%の好ましい値以上となることに依拠するものである。
【0045】
装飾被膜10Aにおいても、良好な金属光沢を提供することができ、良好な電波透過性を有する被膜となる。さらに、製品製造後のキセノン促進耐候光試験の際に、無機酸化物被膜2Aによって金属ナノ粒子1を照射されたアークランプによる熱エネルギによる酸化から防護することができ、この酸化に起因する装飾被膜の耐久低下を効果的に抑制することができる。
【0046】
また、キセノン促進耐候光試験の際に照射されたアークランプによる熱エネルギによって有機物層3が劣化した場合であっても、内部の金属ナノ粒子1はその外周の無機酸化物被膜2Aによって金属ナノ粒子同士の凝集が抑止される。
【0047】
また、図3で示す装飾被膜10Bは、金属ナノ粒子1’がフロントグリルFの表面に不連続に成膜され、この上に無機酸化物層2が形成されてその全体が構成されている。
【0048】
装飾被膜10Bの形成方法は、まず、フロントグリルFの表面に銀などの金属ナノ粒子を真空蒸着やスパッタリング、イオンプレーティング熱CVD、プラズマCVD、レーザCDVなどによって不連続に付着させる。次に、シリカ(SiO32−:0.02%でpH9)を塗工し、余剰SiO32−を除去してエタノール75vol%からなる溶剤に別途の溶剤であるトルエンを混合してあらたな溶剤を生成し、これをフロントグリルの表面に塗工するものである。
【0049】
さらに、図4で示す装飾被膜10Cは、金属ナノ粒子1’の表面に無機酸化物被膜2A’が形成されたものがフロントグリルFの表面に不連続に成膜され、この上に有機物層3が形成されてその全体が構成されている。
【0050】
[金属ナノ粒子の表面に無機酸化物被膜を有してなる装飾被膜において、無機酸化物被膜の膜厚を変化させた際の電波透過減衰量と反射率を測定した実験とその結果]
本発明者等は、金属ナノ粒子の表面に形成される無機酸化物被膜の厚みの最適範囲を特定するべく、電波透過減衰量と反射率を測定する実験をおこなった。
【0051】
この実験は、銀の金属ナノ粒子に対してシリカからなる無機酸化物被膜の厚みを2nm、3nm、10nm、30nm、50nm、60nmで変化させて複数種の金属ナノ粒子を生成し、車載用のミリ波レーダの適用周波数である76GHzでの電波透過減衰量を測定したものである。さらに、反射率に関しては、それぞれの金属ナノ粒子に対して可視紫外分光光度計を用いて、波長:550nmでの反射率を測定した。これらの実験結果を図5に示している。なお、金属ナノ粒子の粒径の測定方法としては、金ナノ粒子を良溶媒であるトルエンに加えて希釈分散させ、マイクログリッド上に滴下し、乾燥させた後に、透過型電子顕微鏡にてその粒径を測定したものであり、この測定方法は、直接観察した金ナノ粒子数百個の直径(最大寸法)を測定し、その平均値としたものである。
【0052】
同図において、グラフの左軸に電波透過減衰量を、右軸に反射率をそれぞれ示している。図5より、電波透過減衰量に関しては、無機酸化物被膜の厚みが2nmで変曲点を向かえ、3nm以上で電波透過減衰量が1dB近傍で推移し、一般的に電波透過性の一つの閾値となる2dB以下という良好な結果となっている。
【0053】
一方、反射率に関しては、無機酸化物被膜の厚みの増加に伴って反射率(輝度)が低下する傾向にあり、無機酸化物被膜の厚みが50nmで変曲点を向かえて急激な低下傾向に移行し、良好な輝度の閾値となり得る65%を下回ることとなる。
【0054】
これらの実験結果を踏まえ、無機酸化物被膜の厚みは3nm以上で50nm以下の範囲が好ましいと結論付けることができ、この範囲の厚みの無機酸化物被膜を金属ナノ粒子の表面に備えてなる装飾被膜とすることで、良好な電波透過性と輝度を有する被膜となる。
【0055】
[無機酸化物層を有する装飾被膜のキセノン試験とその結果]
本発明者等は、図1で示す装飾被膜10(無機酸化物層を有する装飾被膜)に対応した実施例と、図8aで示す従来の有機物層を有する装飾被膜(比較例)を試作し、双方にキセノン試験を実施し、実施後の色相変化の程度をLab色差に基づいて測定した。表1にキセノン試験前後のLabの値と色相変化結果を示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1より、実施例の色相変化の程度は比較例の3割以下にまで低減しており、キセノン試験による色調変化を格段に抑制できることが実証されている。
【0058】
また、無機酸化物層の厚みが100nm未満の場合には良好な輝度が得られないこと、および、厚みが3μmより厚くなると無機酸化物層が剥離し易くなることが本発明者等によって特定されており、このことから、無機酸化物層の厚みは100nm以上で3μm以下の範囲に調整されるのが好ましいと結論付けることができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0060】
1,1’…金属ナノ粒子、2…無機酸化物層、2A,2A’…無機酸化物被膜、3…有機物層、10,10A,10B,10C…装飾被膜、F…フロントグリル(樹脂基材)、D…レーダ装置、L1…照射されたミリ波、L2…反射されたミリ波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ装置経路内に位置する樹脂基材の表面に形成される装飾被膜であって、
前記装飾被膜は、金属ナノ粒子が無機酸化物で被覆されてなる層から形成されている装飾被膜。
【請求項2】
金属ナノ粒子の表面に無機酸化物被膜が形成されたものが有機物からなる前記層内に分散されている請求項1に記載の装飾被膜。
【請求項3】
金属ナノ粒子の表面に無機酸化物被膜が形成されたものが樹脂基材の表面に不連続に成膜され、この上に有機物からなる前記層が形成されている請求項1に記載の装飾被膜。
【請求項4】
金属ナノ粒子が無機酸化物からなる前記層内に分散されている請求項1に記載の装飾被膜。
【請求項5】
金属ナノ粒子が樹脂基材の表面に不連続に成膜され、この上に無機酸化物からなる前記層が形成されている請求項1に記載の装飾被膜。
【請求項6】
前記無機酸化物被膜の厚みが3〜50nmの範囲である請求項2または3に記載の装飾被膜。
【請求項7】
無機酸化物からなる前記層の厚みが100nm〜3μmの範囲である請求項1、4または5のいずれかに記載の装飾被膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−171509(P2012−171509A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36104(P2011−36104)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】