説明

補修箇所識別方法、そのための補修材および補修工法

【課題】補修箇所を簡単に識別する。
【手段】第1の蛍光物質を含有する補修材を第1の補修箇所に注入する。第2の蛍光物質を含有する補修材を第2の補修箇所に注入する。その後、第1の補修箇所または第2の補修箇所にブラックライトを照射する。ブラックライトを照射することにより発光する蛍光物質の色に基づいて第1の補修箇所または第2の補修箇所を識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、補修箇所を識別する方法およびそのための補修材に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートのひび割れ箇所に補修材を注入する補修方法が知られている。また、ひび割れ箇所に対して一旦補修を行った後、さらに別の箇所にひび割れが発生した場合には、再度補修材を注入して補修を行うことが行われている。
【0003】
このような場合において、先に行った補修がいずれであったかを識別することができれば、構造物の状態を適確に把握できるというメリットがある。例えば、補修時期、ひび割れの程度(幅や密度等)または、ひび割れの方向等を識別することができれば、ひび割れの進展や補修の有効性を正当に評価することが可能となる。
【0004】
補修箇所を簡単に識別する方法として、色調が異なる補修材を用いて補修を行う方法が考えられる。
【0005】
なお、蛍光物質をひび割れに浸透させてブラックライトで発光させることにより、構造物の美観を損ねることなく、ひび割れを検出する方法が知られている(例えば、特許文献1。)。
【0006】
【特許文献1】特開平1−114740号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、色調が異なる補修材を用いると、色調の異なる補修跡が目立つことにより、構造物の美観を損ねてしまうというデメリットが生じる。
【0008】
また、壁面と同色の補修材を用いれば美観を損なうことはないが、この場合、補修の度に補修箇所を記録する必要があり、作業が煩雑となる。
【0009】
この発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、構造物の美観を損ねることなく、かつ、簡単な方法で補修箇所を識別することのできる補修箇所識別方法およびそのための補修材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)この発明に係る補修箇所識別方法は、
所定の色を発光する蛍光物質を含有する補修材を用いた補修箇所識別方法であって、
(a)第1の蛍光物質を含有する補修材を、第1の補修箇所に注入する工程と、
(b)第2の蛍光物質を含有する補修材を、第2の補修箇所に注入する工程と、
(c)第1の補修箇所または第2の補修箇所のいずれかを少なくとも含む所定領域にブラックライトを照射する工程と、
(d)ブラックライトを照射することにより発光する蛍光物質の色に基づいて、第1の補修箇所または第2の補修箇所を識別する工程とを備えたこと
を特徴とする。したがって、補修を行った箇所を識別することができる。これにより、構造物の状態を適確に把握でき、ひび割れの進展や補修の有効性を正当に評価することが可能となる。
【0011】
(2)この発明に係る補修箇所識別方法においては、
第1の補修箇所および第2の補修箇所を、補修時期、補修箇所の大きさまたは補修箇所の形状によって区別すること
を特徴とする。したがって、補修時期、ひび割れの程度(幅や密度等)または、ひび割れの方向等を識別することができ、ひび割れの進展や補修の有効性を正当に評価することができる。
【0012】
(3)この発明に係る補修材セットは、
少なくとも2以上の補修材を含む補修材セットであって、
前記補修材は、ブラックライトの照射を受けた場合に所定の色を発光する蛍光物質を含有しており、
前記補修材セットは、それぞれ異なる色を発光する補修材を少なくとも2以上含むこと
を特徴とする。したがって、補修材を用いて補修を行った箇所を識別することができる。これにより、構造物の状態を適確に把握でき、ひび割れの進展や補修の有効性を正当に評価することが可能となる。
【0013】
(4)この発明に係る補修材セットは、
補修材として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリマーセメント系またはセメント系材料を用いたこと
を特徴とする。したがって、補修時期、ひび割れの程度(幅や密度等)または、ひび割れの方向等を識別することができ、ひび割れの進展や補修の有効性を正当に評価することができる。
【0014】
(5)この発明に係る補修工法は、
補修材を用いて少なくとも2以上の補修箇所を補修する補修工法であって、
(a)ブラックライトの照射により第1の色を発光する蛍光物質を含有した補修材を、第1の補修箇所に注入し、
(b)ブラックライトの照射により第2の色を発光する蛍光物質を含有した補修材を、第2の補修箇所に注入し、
(c)蛍光物質の発色が第1の色または第2の色のいずれであるかに基づいて、前記第1の補修箇所および前記第2の補修箇所を識別可能にしたこと
を特徴とする。したがって、補修を行った箇所を識別することができる。これにより、構造物の状態を適確に把握でき、ひび割れの進展や補修の有効性を正当に評価することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
1.第1の実施形態
アルカリ骨材反応(以下、ASRとする。)および載荷により、コンクリート試験体に生じたひび割れの識別を行う例について説明する。
【0017】
1−1.ASRにより生じたひび割れの補修
ASR反応性骨材を使用した直径100mm、長さ200mmの円柱のコンクリート試験体100を40℃、湿度99%の促進環境で1ヶ月間養生させ、ASRによるひび割れを発生させる。そして、この試験体を鉛直方向に切断して切断面を研磨する。
【0018】
図1に示すA1は、切断後におけるコンクリート試験体100の平面図である。また、A2は、A1におけるASRによるひび割れaを含むコンクリート試験体100のX−X断面図である。
【0019】
次に、切断後におけるコンクリート試験体100の研磨面に、赤色の蛍光物質を混入させたエポキシ樹脂101を塗布する。さらに、塗布したエポキシ樹脂101が硬化するまで試験体を真空状態にすることにより、赤色の蛍光物質を混入させたエポキシ樹脂101をひび割れa内に完全に注入する。
【0020】
ここで、エポキシ樹脂とは、プレポリマーおよび硬化剤を、高分子内のエポキシ基でグラフト重合させて硬化させることが可能な熱硬化性樹脂である。プレポリマーの組成には、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの共重合体があり、硬化剤としてはポリアミンや酸無水物がある。なお、本実施形態におけるエポキシ樹脂には、発光を確認しやすくするため、蛍光物質が分散しやすい程度の粘度のものを用いることが望ましい。
【0021】
また、蛍光物質とは、ブラックライトが照射する紫外線等を受けて発光する物質である。蛍光物質としては、ウラニン、セリウム、ランタンまたはイットリウム等を用いればよい。なお、蛍光物質は、プレポリマーまたは硬化剤に予め混入しておいてもよいし、エポキシ樹脂の生成過程において別途混入してもよい。
【0022】
図1に示すB1およびB2は、エポキシ樹脂101を注入した後におけるひび割れaの状態を示している。
【0023】
エポキシ樹脂101の硬化後において、樹脂塗布面を研磨することにより、余分な樹脂を取り除くことにより、ひび割れaの補修後のコンクリート試験体100が得られる。
【0024】
図1に示すC1およびC2は、補修後のコンクリート試験体100の状態をしめしている。なお、補修材として用いるエポキシ樹脂101は、硬化後において、コンクリート試験体100の色調と同調するものがより好ましい。補修後の美観を損なわないからである。
【0025】
1−2.載荷により生じたひび割れの補修
ASRにより生じたひび割れaの補修を行った後、補修後におけるコンクリート試験体100に対して、JISA1108「コンクリートの圧縮試験方法」に規定されている方法に準じて圧縮強度試験を行い、最大荷重に達した後速やかに除荷することにより、ひび割れbを発生させる。
【0026】
図1に示すD1は、載荷によるひび割れbの発生後におけるコンクリート試験体100の平面図である。また、D2は、D1における載荷によるひび割れbを含むコンクリート試験体100のX−X断面図である。
【0027】
次に、載荷後におけるコンクリート試験体100の研磨面に、黄色の蛍光物質を混入させたエポキシ樹脂103を塗布する。さらに、上記と同様に、塗布したエポキシ樹脂103が硬化するまで試験体を真空状態にすることにより、エポキシ樹脂103をひび割れb内に完全に注入する。
【0028】
図1に示すB1およびB2は、エポキシ樹脂103を注入した後におけるひび割れaの状態を示している。
【0029】
エポキシ樹脂103の硬化後において、樹脂塗布面を研磨することにより、余分な樹脂を取り除くことにより、ひび割れbの補修後のコンクリート試験体100が得られる。
【0030】
図1に示すF1およびF2は、補修後のコンクリート試験体100の状態をしめしている。なお、上記と同様に、補修材として用いるエポキシ樹脂103は、硬化後において、コンクリート試験体100の色調と同調するものがより好ましい。
【0031】
1−3.ブラックライトの照射による識別
図1に示した補修後のコンクリート試験体100(F1およびF2)の表面にブラックライトを照射することにより、上記ASRによるひび割れaおよび載荷によるひび割れbを識別することが可能となる。ここで、ブラックライトとは、長波長の紫外線を放射することのできるライトである。例えば、蛍光管を使うものや発光ダイオードを用いるものが存在する。
【0032】
図2に示すG2は、ブラックライト200を、コンクリート試験体100の補修面に対して照射した図である。ここで、ブラックライト200による照射範囲は、ひび割れaまたはbの少なくとも一方を照射できる範囲であることが好ましい。
【0033】
図2に示すG1は、照射したブラックライトによって蛍光物質が発光した場合を示す図である。上述したようにASRによるひび割れaについては、赤色の蛍光物質を混入した補修材を用いたことにより、ブラックライトの照射により赤色の発色イが確認できる。一方、上述したように載荷によるひび割れbについては、黄色の蛍光物質を混入した補修材を用いたことにより、ブラックライトの照射により黄色の発色ロが確認できる。
【0034】
ブラックライトの照射中における補修箇所イおよびロを、目視、写真撮影または画像処理することにより、いずれの補修箇所(イまたはロ)がいずれのひび割れ箇所(aまたはb)であるかを識別することができる。
【0035】
2.第2の実施形態
本発明は、施工中または施工済みのコンクリート構造物におけるひび割れの補修工法としても適用することができる。
【0036】
第1の実施形態と同様に、ひび割れ箇所に対して、蛍光物質を混入させた補修材を用いる。例えば、補修材として、超微粒子セメント系ポリマーセメントスラリーであるリフレフィルボンド(商標)等を用いることができる。
【0037】
現場においては真空状態にすることは困難であるため、注入器(スクイズプレート)を用いた自動式低圧低速注入工法よって補修材をひび割れ箇所に確実に注入する。なお、自動式低速低圧注入工法に代えて、手動式樹脂注入工法または機械式樹脂注入工法を採用してもよい。
【0038】
また、注入前においては、ひび割れ付近のコンクリート面をグラインダー等を用いて研磨し、平滑度を上げた状態に仕上げておくことが望ましい。補修材の硬化後において、はみ出した補修材を除去しやすくなるからである。また、研磨しておくことにより、ブラックライト照射時において、ひび割れ箇所を正確に発色させることができ、補修したひび割れ幅の測定を容易に行うことができるからである。
【0039】
上記補修の後において、進展または新たに発生したひび割れに対して、上記とは発色の異なる蛍光物質を混入させた補修材を用いてひび割れ補修を行う。第1の実施形態で説明した通り、補修箇所にブラックライトを照射すると、補修箇所ごとの発色が異なることにより、補修箇所のみならずその補修時期をも簡単に識別することができる。
【0040】
また、補修箇所において補修したひび割れが進展している場合には、そのひび割れの変化を視覚的に確認することもできる。
【0041】
3.その他の実施形態
3−1.
上記実施形態においては、補修時期によって、補修材に混入される蛍光物質の色を変更する例を説明したが、他の条件によって変更してもよい。
【0042】
例えば、補修箇所の向き、大きさまたは形状等によって変更してもよい。図3のH1はおよびH2は、その向きが異なるひび割れハおよびニについて補修材の色を変更して発色させた場合の例である。図3のI1はおよびI2は、その大きさが異なるひび割れホおよびへについて補修材の色を変更して発色させた場合の例である。図3のJ1はおよびJ2は、その幅が異なるひび割れト、チおよびリについて補修材の色を変更して発色させた場合の例である。
【0043】
3−2.
上記実施形態においては、それぞれ異なる箇所に発生したひび割れに対して補修する例を説明したが、本発明は同一の箇所に発生したひび割れの補修に対しても適用可能である。
【0044】
例えば、補修後においてひび割れがさらに進展すると再度の補修を要する。図3のK1およびK2は、補修後のひび割れcが進展して同一箇所に新たなひび割れdが発生した場合の例である。その後、ひび割れcとは異なる発色の蛍光物質を含有した補修材を用いてひび割れdを補修する。
【0045】
図3のL1およびL2は、ひび割れdの補修後においてブラックライトを照射し、ひび割れcおよびdにおける補修材の蛍光物質をそれぞれ発色させ、補修箇所ヌおよびルを識別する場合の例である。これにより、ひび割れが進展して同一箇所に複数回発生したひび割れの補修時においても、本発明を適用することができる。
【0046】
3−3.
上記実施形態においては、蛍光物質を混入させる補修材としてエポキシ樹脂を用いたが、他の物質から構成される補修材を用いてもよい。例えば、アクリル樹脂、ポリマーセメント系またはセメント系材料を用いてもよい。
【0047】
アクリル樹脂とは、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルの重合体である。例えば、アクリル酸メチルやアクリル酸エチルがこれに含まれる。
【0048】
ポリマーセメント系材料には、例えば、ポリマーセメントペースト、ポリマーセメントモルタルまたはポリマーセメントコンクリート等がこれに含まれる。
【0049】
セメント系材料には、例えば、水を使わずセメント粉体そのものを成形することのできる超速硬止水セメント等がこれに含まれる。
【0050】
3−4.
上記実施形態においては、赤色および黄色それぞれの蛍光物質を混入させた補修材を用いたが、これ以外の色の蛍光物質を混入させた補修材を用いてもよい。
【0051】
また、多数色の蛍光物質をそれぞれ混入させた補修材セットを用いることにより、よりきめ細かい補修時期等の管理が可能となる。特に、混入させた蛍光物質の発色がそれぞれ異なる複数の超速硬止水セメントのセットを、補修材として用いることにより、本実施形態における補修箇所の識別方法を容易に実施することができる。
【0052】
なお、補修材セットにおいて、蛍光物質を別途同梱しておき、補修時において補修材と蛍光物質を混入させるようにしてもよい。これにより、施工者は、補修時において任意の発色の蛍光物質を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】補修時におけるコンクリート試験体を示す例である。
【図2】ブラックライトを照射したコンクリート試験体を示す例である。
【図3】識別対象となりうるコンクリート試験体を示す例である。
【符号の説明】
【0054】
100:コンクリート試験体
200:ブラックライト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の色を発光する蛍光物質を含有する補修材を用いた補修箇所識別方法であって、
(a)第1の蛍光物質を含有する補修材を、第1の補修箇所に注入する工程と、
(b)第2の蛍光物質を含有する補修材を、第2の補修箇所に注入する工程と、
(c)第1の補修箇所または第2の補修箇所のいずれかを少なくとも含む所定領域にブラックライトを照射する工程と、
(d)ブラックライトを照射することにより発光する蛍光物質の色に基づいて、第1の補修箇所または第2の補修箇所を識別する工程とを備えたこと
を特徴とする補修箇所識別方法。
【請求項2】
請求項1の補修箇所識別方法において、
第1の補修箇所および第2の補修箇所を、補修時期、補修箇所の大きさまたは補修箇所の形状によって区別すること
を特徴とする補修箇所識別方法。
【請求項3】
少なくとも2以上の補修材を含む補修材セットであって、
前記補修材は、ブラックライトの照射を受けた場合に所定の色を発光する蛍光物質を含有しており、
前記補修材セットは、それぞれ異なる色を発光する補修材を少なくとも2以上含むこと
を特徴とする補修材セット。
【請求項4】
請求項3の補修材セットにおいて、
補修材として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリマーセメント系またはセメント系材料を用いたこと
を特徴とする補修材セット。
【請求項5】
補修材を用いて少なくとも2以上の補修箇所を補修する補修工法であって、
(a)ブラックライトの照射により第1の色を発光する蛍光物質を含有した補修材を、第1の補修箇所に注入し、
(b)ブラックライトの照射により第2の色を発光する蛍光物質を含有した補修材を、第2の補修箇所に注入し、
(c)蛍光物質の発色が第1の色または第2の色のいずれであるかに基づいて、前記第1の補修箇所および前記第2の補修箇所を識別可能にしたこと
を特徴とする補修工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−235778(P2009−235778A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83014(P2008−83014)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】