説明

補助受精で着床成功率を予測するアッセイおよびキット

本発明は、各胚が、女性対象の卵母細胞を補助受精することによって得られた、または得られるべき複数の胚の着床の可能性を定量するアッセイであって、各卵母細胞を取り出した卵胞に存在する卵胞液(FF)中の顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)のレベルを測定するステップ、および測定したFF G−CSFレベルから各胚の着床の可能性を定量するステップを含むアッセイに関する。本発明はまた、そのアッセイを実施するためのキットにも関する。本発明は、さらに補助受精法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
インビトロ受精法(IVF)または細胞質内精子注入法(ICSI)などの補助受精は、30年間、不妊症問題を抱えるヒト患者に使用され、成功を収めてきた。広範な研究にもかかわらず、補助受精は、依然として困難かつ高価な手順であり、観察される移植胚当たりの着床率は一般的に低い(15〜20%)。
【背景技術】
【0002】
補助受精サービスを提供している病院および民間センターは、そのように生成された胚の特性に基づき、卵母細胞の受精後に選択を行なう。例えば、選択は、胚の形態(非特許文献1)、または胚による可溶性HLA−Gの生成に基づくこともあり得る(非特許文献2)。このどちらの技術も、胚に干渉することが必要とされる。
【0003】
妊娠成功率を高めるために、移植する胚数は通常2個以上である。ヨーロッパでは、子宮腔に2個の胚を移植するのが通常の慣習である。米国では、より多く、通常3個または4個の胚を移植する。そのような方針の弊害は、多胎妊娠数の増加、および主として未熟および低出生率など、それに続く関連の産科学病態が増加することである。
【0004】
さらに、補助受精は高価な手順であり、また患者に心理学的に外傷を残すこともあり得る。補助受精用に卵子を回収するためには外科的手順が必要であり、受精後、子宮に受精卵を着床させるためにさらに手術する必要がある。次いで、妊娠が成立したかどうかを決定できるまで、被提供者は一定期間待たなければならない。ある場合には、繰り返し試みても妊娠が決して成立しないこともあり、これらの事例は、経済的にも人道的にも社会に相当の犠牲を課すものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】Biorad Luminexキットを使用し、FF G−CSFを検出するLuminex実験のROC曲線を示す図である。FF−GCSF濃度の異なるカットオフ点について、偽陽性率(100−特異度)の関数として真陽性率(感度)をプロットする。ROCプロットの各点は、特定の決定閾値に対応する感度/特異度対を表す。ROC曲線下面積は、FF−G−CSFが主要な2診断群間(一定の着床/未着床)をいかに首尾よく識別することができるかという尺度である。ライン1:その曲線下面積が0.82であり、陽性群から無作為に選択した個体の試験値が、陰性群から無作為に選択した個体のそれよりも82%の確率で高いことを示す。ライン2:ROC曲線下面積は0.5であり帰無仮説を表す。
【図2】R and D Luminexキットを使用し、FF G−CSFを検出するLuminex実験のROC曲線を示す図である。ライン3:その曲線下面積が0.72であり、陽性群から無作為に選択した個体の試験値が、陰性群から無作為に選択した個体のそれより72%の確率で高いことを示す。ライン4:ROC曲線下面積は0.5であり帰無仮説を示す。
【図3】多数の対象から得た胚の同一集団の個々の卵胞液濃度の変動を示すグラフである。各ボックスは、発生した胚の同一集団の平均からの個々の卵胞液の変動を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
特に規定しない限り、本明細書で使用する技術的および科学的用語は全て、当業者が一般に理解している意味と同じ意味を有する。本明細書で参照される刊行物は全て、参照によりこれに組み込む。本明細書で参照される米国特許および特許出願は全て、図面を含め、参照によりその全体を本明細書に組み込む。
【0029】
本明細書では、冠詞「a」および「an」は、その冠詞の文法的目的物の1個もしくは2個以上、すなわち、少なくとも1個を指すために使用される。例として、「a試料」は、一試料または1個を超える試料を意味する。
【0030】
端点による数域の記載には、全ての整数と、必要に応じてその範囲内に包含される端数が含まれる(例えばいくつかの実例に言及すると、1〜5は1、2、3、4を含むことができ、例えば濃度に言及すると、1.5、2、2.75、および3.80を含みうる)。端点の記載には、端点値それ自体も含まれる(例えば、1.0〜5.0には、1.0および5.0が含まれる)。
【0031】
他の箇所に記載したように、本発明は、卵巣過剰刺激下で複数の卵母細胞を提供する女性対象が、各卵母細胞を取り出した卵胞の卵胞液中に存在する数種のサイトカインおよび増殖因子のレベルに変動を示すという、本発明者らによる予想外の知見に関する。さらに、本発明者らは、卵母細胞を取り出した個々の卵胞の卵胞液中に存在する高レベルの顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)と、該卵母細胞の受精によって得られる胚の高着床の可能性との間に強い相関があることを見出した。同じ対象で、それぞれ個々の卵母細胞を取り巻く卵胞液は組成が異なる可能性があること、および前記組成が、後の受精卵母細胞の着床成功率の指標となることは今まで実証されていない。この知見によって、一患者から得た複数の胚を着床の可能性順に順位付けられるようになる。卵母細胞受精能マーカー(例えば11−β HSD)を平均化する指標を使用し、ボーダーラインの受精の可能性を示す患者は、低い全体平均に対して、高い着床の可能性を示す卵母細胞を有することを初めて見出せそうで、これにより、それまで不妊を示す女性に新たな可能性がもたらされる。さらに、この方法によって、胚もしくは卵母細胞に干渉せずに、個別に各卵母細胞を、従って個別に胚を評価することが可能になる。
【0032】
従って、本発明は、女性患者で補助受精の結果を予測するために使用できるアッセイ法およびアッセイキットに関する。本発明はまた、着床を向上させるために受精処置法で使用される、そのようなアッセイおよびキットにも関する。以下に記載の本発明は、ヒト女性患者についての研究から開発されたが、本発明は、任意の哺乳動物の雌にも適用でき、例えば、絶滅危機種の捕獲繁殖プログラム、またはウシもしくはウマなど、家畜の補助受精による商業繁殖の成功を増大させるために使用することができる。好ましくは、月周期当たりに生成される卵子数を増加させるために、対象は受精能前処置(例えば卵巣過剰刺激)を受ける。本明細書で使用する補助受精は、インビトロ受精(IVF)または細胞質内精子注入法(ICSI)など、卵母細胞を女性の体外で受精させるエクスビボ受精法をさす。
【0033】
本発明の一実施形態は、各胚が、女性対象の卵母細胞を補助受精することによって得られた、または得られるべき複数の胚の着床の可能性を定量するアッセイであって、各卵母細胞を取り出した卵胞に存在する卵胞液中のG−CSFの当該レベルを測定するステップ、および卵胞液のG−CSFの当該レベルから各胚の着床の可能性を定量するステップを含むアッセイである。
【0034】
本発明の別の実施形態は、女性対象について、補助受精によって得られた胚または得られるべき胚の着床の可能性を定量するアッセイであって、
(i)該対象から採取した複数の卵母細胞について、それぞれ採取した卵母細胞の卵胞の卵胞液(FF)中に存在する卵胞液顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の当該レベルを測定するステップ、および
(ii)測定したFF G−CSFの当該レベルから、卵母細胞を補助受精することによって得られた胚または得られるべき胚の着床の可能性を定量するステップ
を含むアッセイである。
【0035】
卵胞液中のG−CSFの当該レベルが最も高い卵胞の卵母細胞が、着床の可能性が最も高い胚である。
【0036】
顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)は、造血成長因子ファミリーに属する自然発生したサイトカインである(Clarkら, 1987, Science 236(4806):1229)。記載されているその主な役割は、好中球系造血細胞の増殖、分化、および活性化に作用することである(Mielcarekら, 1996.,Blood 87(2):574、Visaniら, 1995, 18(5-6):423)。主として造血細胞によって生成されるが、G−CSFは、生殖路などにある非造血細胞:ヒト黄体化卵胞顆粒膜細胞(Salmassi Aら, 2004, Fertil Steril, 81 Suppl 1:786.)、子宮内膜細胞(Giacomini Gら, 1995, Hum Reprod 10(12):3259.)、脱落膜および胎盤(Duan J.S., 1990, Osaka City Med J 36(2):81;Miyama Mら, 1998, Osaka City Med J., 44(1):85)および様々な胎児組織(Calhounら, 1999. Pediatr Res 46(3):333)によっても生成される。卵巣では、G−CSFタンパク質およびその受容体は、主として卵胞顆粒膜細胞および黄体細胞(Salmassiら, 2004)にあった(ウエスタンブロットおよび免疫組織化学)。
【0037】
卵胞液のG−CSF(FF G−CSF)の当該レベルは、卵母細胞を採取した当日内に測定するのが好ましい。当業者には公知なように、卵胞の吸引は、局所麻酔または全身麻酔後に経膣超音波検査を使用し誘導する。膣超音波検査を通じて可視化して、一卵胞に対応する各卵胞液を別個に吸引する。各卵母細胞の捕獲には、他のいかなる操作も必要とされない。卵母細胞を取り巻く卵胞液が、卵母細胞と共に吸引されるからである。顕微鏡下で卵胞液を精査すると、卵母細胞の存在を瞬時に同定することできる。卵胞液と、それぞれの卵母細胞をプールする代わりに、採取時に卵母細胞を分離する。そうすれば、FF G−CSFの当該レベルを別個に測定することができる。本発明の一態様に従って、卵母細胞の採取から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20時間後、前記の値のうちの任意の2点間の時間内に、FF G−CSFの当該レベルを測定する。好ましくは、卵母細胞の採取から1〜20時間内にFF G−CSFの当該レベルを測定する。
【0038】
卵母細胞に関連するFF G−CSFの当該レベルは、任意の好適な定量アッセイを使用し測定することができる。測定は、生化学的アッセイ(例えば、固相または液相イムノアッセイ)、表面プラズモン共鳴、蛍光共鳴エネルギー転移、蛍光消光、および蛍光偏光から選択される方法を例えば使用して行ってよい。そのような技術は、当技術分野で公知であり、以下本明細書に手短に記載する。
【0039】
生化学的アッセイは、例えば、メンブレンまたは他の固相担体に分析物成分を固定化すること、およびリガンドに曝露することに一般的に依存する。過剰なリガンドを洗い流した後、結合しているリガンドをイムノアッセイによって検出し、または標識したリガンド(例えば、放射能標識したリガンド、蛍光標識したリガンド、粒子を標識したリガンドなど)を用いることによって検出する。特定の分析物と高親和性で結合するリガンドを決定し入手する方法も、当技術分野で利用可能である。例えば、国際公開第89/09088号名称「パラログアフィニティクロマトグラフィー」を参照されたい。イムノアッセイの一例では、G−CSFに対する抗体を磁気ビーズ上に固定し、卵胞液試料に曝露してよい。結合したG−CSFは、ある濃度に到達させるため、一次および2次抗体イムノアッセイを使用し検出することができる。典型的には、基準セットを使用しイムノアッセイを較正する。固相イムノアッセイは、例えば米国特許第4,376,110号に記載している。本発明の範囲内のイムノアッセイの変形例には、抗G−CSF抗体を使用する任意の競合アッセイまたは免疫測定アッセイ型式、例えば、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、ELISPOT(酵素結合免疫吸着スポット法)またはLuminex(ビーズベース多重サンドイッチイムノアッセイ)が含まれる。
【0040】
FF G−CSFの当該レベルは、Luminex技術の使用により測定するのが好ましい。Luminexは、系中の特定の成分の当該レベルを同時に測定する高感度法である。それには、液体中でほぼ溶液として挙動するほど十分小さい固相の色(色素)分けした微小球が利用される。検出する成分(例えばFF C−GSF)に特異的な抗体、または他のリガンド結合試薬で各微小球をコーティングする。試料成分を微小球に捕獲し検出する。分析計内では、レーザーは、各微小球粒子を同定する内部色素およびアッセイ中に捕獲された任意のレポーター色素をも励起する。結果を確証するために、多くの読み取りを各ビーズセットで行なう。このようにして、迅速かつ正確な感度多重アッセイが行なわれる。好ましくは、FF C−GSFの当該レベルは、Biorad(登録商標)社製またはR and D(登録商標)社製キットを使用し測定する。好ましい実施形態では、Biorad(登録商標)社製キットは、ヒトサイトカイン蛍光ビーズイムノアッセイのアッセイキット、Bio-PleX(商標)(Hercules, CA, USA,17A11127)である。別の好ましい実施形態では、R and D社製キットは、LUH000、LUH279、LUH270、LUH271、LUH278、LUH208、LUH214、LUH215B、LUH285、LUH200、LUH280、LUH201、LUH202、LUH204、LUH205、LUH206、LUH217、LUH317、LUH210、LUH293、LUB000、LUB320、LUB294、LUB219、および/またはLUB213キットである。
【0041】
本発明の目的では、「抗体」という用語は、特に明記しない限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、および標的抗原に対してその結合活性を保持している抗体全体のフラグメントが含まれる。そのようなフラグメントには、一本鎖抗体に加えて、Fv、F(ab')およびF(ab')2フラグメントが含まれる。さらに、抗体およびそのフラグメントは、ヒト化抗体、例えば欧州特許出願公開第239400(A)号(Winter)に記載されているヒト化抗体であってよい。
【0042】
FF G−CSFに対する抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であってよい。モノクローナル抗体は、免疫原としてタンパク質またはそのペプチドフラグメントを用いる従来のハイブリドーマ技術によって調製できる。ポリクローナル抗体も、宿主動物、例えばラットまたはウサギに、本発明のペプチドを接種するステップ、および免疫血清を回収するステップを含む従来法によって調製できる。
【0043】
また、FF G−CSFのレベルは、顆粒膜細胞中のFF G−CSFのmRNAの当該レベルを分析することによって推定しうる。放射冠周囲の顆粒膜細胞を各卵母細胞の脱冠化(decoronisation)期に貯蔵し、アッセイまで(例えば−80℃の)RNA安定剤中に貯蔵してよい。FF G−CSF遺伝子用プローブは、例えば、核酸増幅アッセイ(PCR)および/またはハイブリダイゼーションで用いられるプローブとして使用するために設計できる。PCRおよびハイブリダイゼーション反応を実施するための方法および条件は、当技術分野で公知であり、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(第三版)(Joseph Sambrook, Peter MacCallum, David Russell、Cold Spring Habor Laboratory Press)に見出すことができ、または多数の標的特異的RNA分子(Panomics)を定量するように設計されたQuantigene Plex(商品名)アッセイにより実施することができよう。
【0044】
また、表面プラズモン共鳴アッセイは、卵胞液試料中のG−CSFの当該レベルを測定するための定量法として使用してよい。チップ結合型抗G−CSF抗体を卵胞液により攻撃し、その表面プラズモン共鳴を測定する。卵胞液中でG−CSFのG−CSFの当該レベルに到達させるために標準濃度を使用し、結合反応を行う。
【0045】
卵胞液試料中のG−CSFの当該レベルを測定するために、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)も使用してよい。ドナーおよびアクセプターフルオロフォア相補対で、G−CSFおよび抗G−CSF抗体を標識する。G−CSF:抗G−CSF抗体の相互作用により密接に結合している間、ドナーフルオロフォアを励起すると発せられる蛍光は、G−CSFと抗G−CSF抗体が結合しない場合の励起波長に応答して発せられる波長とは波長が異なり、各波長での発光強度を測定することにより、結合分子対未結合分子を定量することができる。結合反応を、卵胞液中のG−CSFの当該レベルに到達するための基準セットと比較することができる。
【0046】
卵胞液試料中のG−CSFの当該レベルを測定するために、BRET(生物発光共鳴エネルギー転移)もまた使用してよい。ドナーに極めて接近したとき、すなわち、G−CSF:抗G−CSF抗体相互作用複合体が形成されたとき、アクセプターが光を発する。相互作用を基準セットと比較することによって、卵胞液中のG−CSFの当該レベルを定量する。
【0047】
蛍光消光蛍光により、同様にG−CSFレベルを測定することができる。一般的に、標識した抗G−CSF抗体の蛍光の減少は、クエンチャーを有するG−CSFが結合したことを示唆している。もちろん、G−CSFが蛍光標識され、抗G−CSF抗体がクエンチャーを有する場合にも類似の効果は生じであろう。基準セットとの相互作用と比較することによって、卵胞液試料中のG−CSFの当該レベルを測定することができる。
【0048】
蛍光偏光測定によっても、卵胞液試料中のG−CSFの当該レベルを定量することができる。複合体、例えば、蛍光抗G−CSF抗体と会合するG−CSFによって形成される複合体は、複合体を形成していない標識抗G−CSF抗体よりも偏光度が高いはずである。これによって、卵胞液試料中のG−CSFの当該レベルを定量するための根拠が形成され、典型的には、その測定は標準G−CSF濃度セットと同時に実施される。
【0049】
FF中のG−CSFの定量アッセイに使用できる他の方法には、質量分析(MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、HPLC/MS、HPLC/MS/MS、画像解析を伴うキャピラリー電気泳動およびロッド型もしくはスラブ型ゲル電気泳動が含まれる。そのような技術は、例えば、Modern HPLC for Practicing Scientists(Dong, M, Wiley-Interscience, June 2006)、Tandem Mass Spectrometry(McLafferty F. W. John Wiley & Sons Inc, November, 1983)、Mass Spectrometry for Biotechnology(Siuzdak, G., Academic Press, February 1996)、Clinical Applications of Capillary Electrophoresis(Methods in Molecular Medicine)(Palfrey S. M., Humana Press, June 1999)、Handbook of Capillary Electrophoresis、第二版、(Landers J.P. CRC; December 1996)、High-Resolution Electrophoresis and Immunofixation:Techniques and Interpretation(Keren, D. F. Hodder Arnold, January, 1994)に記載しているように当技術分野で公知である。
【0050】
一患者から得た複数の卵母細胞中のFF G−CSFの当該レベルを測定したならば、前記卵母細胞の受精によって得られた胚の相対的着床可能性、すなわち順位付けを確立するために、その結果を使用してよい。補助受精処置を受けている女性対象において、受精後、卵母細胞の全てまたは数個は着床を成立させるか、またはどれも着床を成立させないかを判定するために、FF G−CSFの当該レベルを使用しうる。さらに、補助受精処置を受けている女性対象において、胚の全てまたは数個は着床するか、またはどれも着床しないかを判定するために、FF G−CSFの当該レベルを使用しうる。
【0051】
本発明者らの研究では、本発明者らは、イムノアッセイ、特にBiorad社およびR&D社のLuminex技術を使用し、FF G−CSFレベルを測定した。本発明者らは、卵母細胞由来のそのような胚のFF−CSF濃度が20.0pg/ml以下では、着床の成功率は低いか、またはゼロであることが示される。それに反して、卵母細胞由来の胚のFF−CSF濃度が24pg/mlを超えると、一定の着床率が示される。
【0052】
本発明者らの研究で、本発明者らは、胚が着床しない(そして、それを超えると、患者の着床の確率が著しく向上する)FF G−CSFの「閾値」レベルを決定したが、その値は統計的尺度であり、他の測定および閾値も使用できることは、当業者ならば認識しているであろう。本発明を実施する際には、アッセイの一貫性を実現することが最も重要であり、それによってそれぞれ個々の開業医(または補助受精チーム)が、彼ら自身の特定のアッセイ法を確立し、彼ら自身の閾値レベルを決定することができるであろう。このことは、以前の患者から得た試料で歴史的研究をまず実施することによって、確立される可能性ある。
【0053】
従って、上記のFF G−CSFの当該レベルは、本研究で本発明者らが適切な限界として使用した尺度を表す。しかし、上記のその他の方式のいずれかでFF G−CSFレベルを測定する場合、直接的比較を行なう目的で、本発明者らの結果と他の方法の結果との間の関係を決定するために、定型の手順を使用し、本発明者らのアッセイ方法を使用し制御することが望ましい。
【0054】
本発明の一態様によれば、卵母細胞由来の胚は、その卵胞中のFF G−CSFレベルが、21.6pg/ml、21.4pg/ml、21.2pg/ml、21.0pg/ml、20.8pg/ml、20.6pg/ml、20.4pg/ml、20.2pg/ml、20.0pg/ml、19.8pg/ml、19.6pg/ml、19.4pg/ml、19.2pg/ml、19.0pg/ml、18.8pg/ml、18.6pg/ml、18.4pg/ml、18.2pg/ml、18.0pg/ml17.8pg/ml、17.6pg/ml、17.4pg/ml、17.2pg/ml、17.0pg/ml、16.8pg/ml、16.6pg/ml、16.4pg/ml、16.2pg/ml、16.0pg/ml、15.8pg/ml、15.6pg/ml、15.4pg/ml、15.2pg/ml、15.0pg/ml以下、または前記の値のうちの任意の2値間のレベルである場合、着床の可能性が低いことが予想される。好ましくは、15.0pg/ml〜20.0pg/ml以下、より好ましくは19.8〜20.6pg/ml以下、最も好ましくは20.6pg/ml未満のFF−CSFレベルは、着床の可能性が無いか、または低いと予想される。この実施形態の当該レベルは、(以下の)一補助受精法の閾値レベルと考えられる。低い着床レベルは、着床の確率が10%、9%、8%以下である。
【0055】
本発明の一態様によれば、卵母細胞由来の胚は、その卵胞中のFF G−CSFレベルが、34.0pg/ml、33.5pg/ml、33.0pg/ml、32.5pg/ml、32.0pg/ml、31.5pg/ml、31.0pg/ml、30.5pg/ml、30.0pg/ml、29.5pg/ml、29.0pg/ml、28.5pg/ml、28.0pg/ml、27.5pg/ml、27.0pg/ml、26.5pg/ml、26.0pg/ml、25.5pg/ml、25.0pg/ml、24.5pg/ml、24.0pg/ml、23.5pg/ml、23.0pg/ml、22.5pg/ml、22.0pg/ml、21.5pg/ml、21.0pg/ml、20.5pg/ml、20.0pg/ml、19.5pg/ml、19.0pg/ml、18.5pg/ml、18.0pg/ml、17.5pg/ml、17.0pg/ml、16.5pg/ml、16.0pg/ml、15.5pg/ml、15.0pg/ml以下、または前記の値のうちの任意の2値間のレベルである場合、着床成功の可能性が高いと予想される。好ましくは、15.0pg/ml〜34.0pg/mlの範囲、より好ましくは20.0〜24.0pg/mlの範囲のFF−CSFレベルが、着床する可能性が高いと予想される。着床する可能性が高いとは、成功するチャンスが高いことを意味し(着床するとは限らない)、着床の可能性が高いとは、着床の確率が15%〜25%であることを意味する。この実施形態の当該レベルは、(以下の)一補助受精法の閾値レベルと考えられる。
【0056】
本発明の一態様によれば、卵母細胞由来の胚は、その卵胞中のFF G−CSFレベルが、22.0pg/ml、22.1pg/ml、22.2pg/ml、22.3pg/ml、22.4pg/ml、22.5pg/ml、22.6pg/ml、22.7pg/ml、22.8pg/ml、22.9pg/ml、23.0pg/ml、23.1pg/ml、23.2pg/ml、23.3pg/ml、23.4pg/ml、23.5pg/ml、23.6pg/ml、23.7pg/ml、23.8pg/ml、23.9pg/ml、24.0pg/ml、24.1pg/ml、24.2pg/ml、24.3pg/ml、24.4pg/ml、24.5pg/ml、24.6pg/ml、24.7pg/ml、24.8pg/ml、24.9pg/ml、25.0pg/ml、25.1pg/ml、25.2pg/ml、25.3pg/ml、25.4pg/ml、25.5pg/ml、25.6pg/ml、25.7pg/ml、25.8pg/ml、25.9pg/ml、26.0pg/ml、26.1pg/ml、26.2pg/ml、26.3pg/ml以上、または前記の値のうちの任意の2値間のレベルである場合、着床の可能性が高いと予想される。好ましくは、24.0pg/ml以上、より好ましくは35pg/mlを超えるFF−CSFレベルは、着床の可能性が高いと予想される。この実施形態の当該レベルは、(以下の)一補助受精法の閾値レベルと考えられる。高い着床レベルは、着床の確率が30%、35%、40%、43%、44%またはそれ以上である。
【0057】
そのような患者で、採取した卵母細胞全てにおいて、可能性が高い着床または一定の着床に付随するレベルよりも、FF G−CSFレベルが著しく低い場合、時間と金銭を節約し、かつ患者が受けるストレスを減らし、着床に取りかかることもないであろう。そのような場合には、一回目の着床さえ試みるかどうか決定することも、開業医(または補助受精クリニック)には可能になるであろう。他方で、一個以上の卵母細胞が、高いか、または完璧な確度の着床を示す場合、これらの卵母細胞のみでも受精し、そのようにして得られた胚は着床するであろうし、従って胚として確立される可能性が高いそうした卵母細胞のみを受精させることによって、金銭および資源を節約できるであろう。また、卵母細胞は全て、受精するであろうし、高いか、または完璧な確度の着床を示す、卵母細胞由来のそのような胚のみが着床し、これにより成功する可能性が高くなる。着床の指標が、必ずしも受精する可能性と相関するとは限らないからである。
【0058】
本発明は、置き換える胚数を減少させながら、着床率を著しく上昇させる。それによって、さらに専門医は、多胎妊娠、ならびに付随する胎児および母親の全ての病的状態をより効率的に予防できるようにもなる。卵母細胞、すなわち、可能性が最も高い胚を着床させることができ、従って、全体的妊娠率を減少させることなく、着床によって一個の胚を移植する方針が可能になる。
【0059】
本明細書に記載したアッセイは、女性対象の受精を補助する方法にも使用してよい。本発明の一実施形態は、女性対象の補助受精法であって、
(i)該対象から複数の卵母細胞を回収するステップ、
(ii)採取した各卵母細胞の卵胞中のFF G−CSFの当該レベルを定量するステップ、
(iii)FF G−CSFレベルが最も高い卵母細胞を受精させるステップ、および
(iv)そのようにして得られた胚を該女性対象に着床させるステップ
を含む補助受精法である。
【0060】
次の受精にかけられる卵母細胞(oocyes)数は、1、2、3、4または5またはそれ以上であってよい。また、卵母細胞の50%、40%、30%、20%、または10%が受精し、その割合は最も高いFF G−CSFレベルをもつ。
【0061】
本発明の別の実施形態は、女性対象の補助受精法であって、
(i)該対象から複数の卵母細胞を回収するステップ、
(ii)採取した各卵母細胞の卵胞中のFF G−CSFの当該レベルを定量するステップ、
(iii)胚を得るために該卵母細胞を受精させるステップ、
(iv)FF G−CSFレベルが最も高い卵母細胞に由来する胚を着床させるステップ
を含む補助受精法である。着床する胚数は、1、2、3、4または5またはそれ以上であろう。また、胚の50%、40%、30%、20%、または10%が着床し、その割合は最も高いFF G−CSFレベルをもつ。
【0062】
本発明の別の実施形態は、女性対象の補助受精法であって、
(i)該対象から複数の卵母細胞を回収するステップ、
(ii)採取した各卵母細胞の卵胞中のFF G−CSFの当該レベルを定量するステップ、
(iii)胚を得るために該卵母細胞を受精させるステップ、
(iv)FF G−CSFレベルが所定の閾値を越える、卵母細胞由来の胚を着床させるステップ
を含む補助受精法である。着床する胚数は、1、2、3、4または5またはそれ以上であろう。また、胚の50%、40%、30%、20%、または10%が着床し、その割合は最も高いFF G−CSFレベルをもつ。
【0063】
本発明の別の実施形態は、女性対象の補助受精法であって、
(i)該対象から複数の卵母細胞を回収するステップ、
(ii)先に定義したアッセイに従って、各卵母細胞に由来する胚について着床の可能性を定量するステップ、
(iii)着床の可能性が高い胚に対応する卵母細胞を受精させるステップ、および
(iv)そのようにして得られた胚を該女性対象に着床させるステップ
を含む補助受精法である。
【0064】
本発明の別の実施形態は、女性対象の補助受精法であって、
(i)該対象から複数の卵母細胞を回収するステップ、
(ii)先に定義したアッセイに従って、各卵母細胞に由来する胚について着床の可能性を定量するステップ、
(iii)胚を得るために該卵母細胞を受精させるステップ、および
(iv)着床の可能性が最も高い胚を着床させるステップ
を含む補助受精法である。
【0065】
アッセイに関して上記の実施形態は、補助受精法の対応する実施形態に当てはまる。閾値については、本明細書の他の箇所で示す。当業者なら、卵母細胞の採取後凍結など、介在ステップが存在しうることも理解するであろう。本発明を使用することによって、補助受精クリニックは、より効率的に資源を割り当てることが可能になり、その結果、補助受精処置によって妊娠する可能性が低い患者で、回収した卵母細胞の卵胞中のFF G−CSFレベルが低い患者が処置を受けることはない。
【0066】
本発明のアッセイの実施に使用されるキットを提供することができる。そのようなキットには、FF G−CSFの検出に有用な少なくとも一種の試薬が含まれる。好適な試薬には、場合により標識に結合しているFF G−CSFに対する、抗体または他の好適なリガンド結合試薬が含まれる。典型的な標識は、イムノアッセイ手法で通常使用される標識、例えば、ホースラディシュペルオキシダーゼである。キットには、基準が含まれてもよく、検出可能な標識で例えば、所定の量のFF G−CSF(例えば、タンパク質またはRNA)を標識してよい。キットには、卵母細胞および卵胞液の抽出に使用するための使い捨てアスピレーターチップが含まれてもよい。
【0067】
女性対象を診断し、予測を立て、および/または補助受精処置を行なう方法で使用されるFF G−CSFを測定するために、キットを使用してよい。本発明はさらに、女性対象で補助受精によって妊娠を成立させる可能性の予測を立てるための、FF G−CSFを検出する試薬の使用を提供する。
【0068】
上記の抗体、そのフラグメントおよび変異体、および検出可能な標識で場合により標識しうる他の好適なリガンド結合試薬は、補助受精の処置または適合性診断で使用される診断キットの製造に使用しうる。
【0069】
得られた試料中に存在するFF G−CSFのmRNAの当該レベルの分析を通じて、FF G−CSFレベルをアッセイしてもよい。これを実現するために、FF G−CSFまたはそのフラグメントをプローブとして使用して、卵胞液中G−CSFレベルを定量してもよい。また、FF G−CSFレベルは、卵胞液または顆粒膜細胞中に発現されたFF G−CSFのmRNAの当該レベルを分析することによって推定しうる。各卵母細胞の脱冠化期に放射冠(corona radiate)周囲の顆粒膜細胞を貯蔵し、アッセイまで(例えば−80℃の)RNA安定剤中に貯蔵してもよい。そのようなプローブも、抗体について記載したキットに類似する方式のキットに製剤化してよく、対照核酸を含んでよい。FF G−CSF遺伝子用のプローブは、プローブとして使用するために、例えば、核酸増幅アッセイで使用するために設計しうる。
【実施例】
【0070】
以下の非限定的な例は、本発明のある実施形態を例示するものである。
【0071】
実施例1:実験計画
患者
不妊症を示し、かつICSIプログラムに加入している280名の女性患者を2005年1月〜2007年3月まで募集した。ICSIに加入している理由は、主として男性不妊症であったが、同様に以前のIVFの失敗、または従来のIVFによる以前の低受精率も理由であった。臨床的患者選択に偏りが取り入れられないように、本発明者らは、加入時にランダム化を行なった。研究期間内に各患者を一回加入させた。全患者に十分に説明を行い、この調査について治験審査委員会の認可を受けた(Comite Consultatif de Protection des personnes Poissy- St germain en Laye)。
【0072】
前処置
患者には、古典的な卵巣過剰刺激手法を施した。本発明者らは、彼女達の内科医が指示したプロトコルを適用した。連続的血液検査および超音波評価により刺激応答を制御して、卵胞および子宮内膜の成長を制御した。少なくとも5個の卵胞が16mmに達したときに排卵誘発の基準を得た。卵母細胞の回収は、排卵誘発から35〜36時間後に行なった。卵母細胞の吸引は、全身または局所麻酔下、研究群の各卵胞用にそれぞれ10ml注射器を使用し膣超音波検査により実施した。従って、本発明者らは、採取した各卵母細胞の卵胞液を個々に区別するために、古典的な卵母細胞吸引法を採用した。
【0073】
卵胞液試料
各卵胞中に卵母細胞が存在するか、または存在しないかを直ちに評価し、卵母細胞が無い卵胞を廃棄した。研究群では、それぞれが一成熟卵母細胞に対応する個々の卵胞液試料を採取した。各卵胞液試料の容量および外観(淡黄色、橙色、または血赤色)を記録した。個々の卵胞液試料を遠心分離し、続く分析を盲検にするために、データベースにより各試料に匿名性を持たせた後、その上清を分注した。当初、試料を−20℃で貯蔵し、次いでアッセイまで−80℃で貯蔵した。臨床的および生物学的情報は全て、データベース(Medifirst)にリアルタイムに記録した。
【0074】
卵母細胞の受精および2日目までの胚の培養
卵母細胞を採取し、ヒルウロニダーゼ(hyluronidase)80IU(Fertipro)により、卵丘(cumuls)および冠細胞を除去した。PVP培地(fertopto)により精子試料を緩慢にしながら、5μl滴のフラッシング培地(JCD)に卵母細胞を注入した。37℃のオイル下、40μlのISM1(Medicult、フランス)の微小滴中で、注入した卵母細胞を一個ずつ培養した。Gianaroli判定基準に従って、20時間後に前核数および外観を評価した。2日目に、各割球の数、分裂、および規則性を記録した。胚移植は2日目に予定した。
【0075】
本発明者は、分析用に移植胚を2つのカテゴリーに分割した。
1.2日目4〜5細胞、3日目8〜9細胞、および10%未満の分裂、および通常細胞(高品質胚)によって定義した最上質の胚、
または
2.他の任意のパターン(低品質胚)
【0076】
唯一、移植胚に対応する卵胞液をLuminex法を用いて分析した。
【0077】
着床の可能性評価
各試料と、本明細書に着床率として記載した着床の確率とを関係付けた。試験した各試料について、胚の臨床的着床率を卵黄嚢数/移植胚数として定義する。卵黄嚢を超音波可視化法によって、臨床的着床を無月経8週目と定義した。従って、結果の関数として3つの主要なカテゴリーがある。
− 未着床:着床率=0
− 一定の着床:置き換えた胚数は、無月経8週目に超音波によって観察された卵黄嚢数に等しかった(1個の胚を置き換えて一子妊娠、2個の胚を置き換えて双子妊娠):着床率=1
− 置き換えた胚数よりも卵黄嚢数が少ないので着床確率である、起こり得る着床。(例えば、2個のうち1個、3個のうち1個、3個のうち2個、従って着床率=0.5、0.33、0.66)。
【0078】
ROC曲線(受信者動作特性(Charateristics))を構築するために、本発明者らは、2つのカテゴリーについてのみ考慮した。
− 未着床、
− 一定の着床:置き換えた胚数は、無月経8週目に超音波によって観察された卵黄嚢数に等しかった(1個の胚を置き換えて一子妊娠、2個の胚を置き換えて双子妊娠)
【0079】
ROC曲線分析(MedCalc Software, Mariakerke、ベルギー)によって、各試料中のG−CSFの濃度の関数として、未着床と一定の着床との間で得られた判別を評価した。3種の検出法について、感度、特異度、および曲線下面積(AUC)ROCを得た。ROC曲線では、異なるカットオフ点で、偽陽性率(100−特異度)の関数として真陽性率(感度)をプロットする。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に対応する感度/特異度対を表す。完璧な判別による試験(2分布に重複がない)のROCプロットは、左上の隅(100%感度、100%特異度)を通過する。従って、ROCプロットが左上の隅に近いほど、試験の全体精度はより高い(Zweig & Campbell, 1993)。
AUC−ROCを計算することによって、精度の定量、すなわち、着床と未着床とを区別するG−CSFの能力が分る。
【0080】
しかし、移植した胚の大部分は、着床の確率によって定義した。例えば、2個の胚を移植し、一個のみが着床した場合、各試料を50%の着床確率と特徴付ける。
【0081】
従って、本発明者は各方法を定義した。
− AUC−ROC曲線から負の予測値100%によって定義した着床の低閾値。
− 着床を最高の正の予測値によって定義した着床の高閾値。
【0082】
FF試料で実施したG−CSFアッセイ
移植胚を得た個々の卵胞液試料について、2つのLuminex検出法を順次適用した。
【0083】
2005年1月〜2005年6月
− Bioradキット(Hercules、CA、USA、17A11127、ヒトサイトカイン、27重キット)と共にLuminex技術を適用した。
【0084】
2005年9月〜2007年3月
試料の80個は、以前のLuminex bioradと共通するものであり、120個は新規に採取した試料であった。
− R and Dキット(米国ミネソタ州ミネアポリス,LUH000、LUH279、LUH270、LUH271、LUH278、LUH208、LUH214、LUH215B、LUH285、LUH200、LUH280、LUH201、LUH202、LUH204、LUH205、LUH206、LUH217、LUH317、LUH210、LUH293、LUB000、LUB320、LUB294、LUB219、LUB213)によりLuminex技術を適用した。
【0085】
多変量および一変量分析を実施した。0.05未満のp値は有為と考えた。表1には、適用した調査方法の2個を使用し順次分析した試料集団および試料数を要約する。
【0086】
表1:適用した調査方法の2個を使用し、順次分析した試料集団および試料数。

測定したパラメータ Luminex BIORAD Luminex R&D
参加患者数 71 121
移植胚に対応して分析した個々の卵胞液数 132 200
平均臨床的妊娠率 31.5% 27.3%
平均着床率 20% 18%
【0087】
Biorad(登録商標)およびR and D(登録商標)Luminexキットを使用し、実施例2および3で評価について詳しく述べる。
【0088】
実施例2:Biorad(登録商標)社製Luminexキットを使用する評価
ある種のサイトカインおよびケモカインのレベルについて、その後の132個の移植胚に対応する132個の卵胞液試料を分析した。Biorad(登録商標)Luminex(登録商標)キットを用いてLuminex技術を使用し、特に、IL−1β、IL−1Ra、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8、IL−9、IL−10、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IFNα、TNF−α、G−CSF、GM−CSF、VEGF、PDGF、FGF、IP−10、MCP−1、RANTES、EOTAXIN、MIP−1α、MIP−1βの濃度を評価した。
【0089】
以下の結果が得られた。
1)全卵胞液試料で、LIF、IL−1ra、IL−4、IL−6、IL−8、IL−10、IL−12、IL−13、G−CSF、VEGF、IP−10、MCP−1、EOTAXINおよびMIP−βが検出された。
2)任意の卵胞液試料で、IL−1β、IL−5、IL−7、IL−17、TNFα、MIP−αは(検出され、)検出されなかった(were detected not detected)。
3)卵胞液試料のそれぞれ95%、94%、88%、81%、76%、65%、60%、48%および22%で、IL−15、GM−CSF、RANTES、PDGF、IFN−γ、IL−9、IL−2、IL−15、FGFが検出された。
【0090】
最高の胚品質対他の品質という2つのカテゴリーに関して比較した場合、G−CSFと胚形態には関連性はなかった。従って、G−CSFと胚の形態品質との間には、いかなる相関もなかった(高品質対他の品質の移植胚)。
【0091】
サイトカイン、増殖因子、および着床率
一変量および多変量解析では、ただ一種類のサイトカインが、その対応する胚の着床可能性と関連していた。それは、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)であった。
【0092】
着床率に従って胚を分類した。
G−CSFについてAUC−ROCを構築するために、本発明者らは、着床しなかった胚(n=89)および着床を示した胚(n=13)を考慮した。置き換えた胚が全て、卵黄嚢につながるとき、一定の着床と定義する。
【0093】
ROC曲線下面積は、0.82[0.73〜0.89]であり、高度に有為であった(p=0.0001)(図1)。従って、G−CSFは着床率と相関している(r=0.40p<0.0001)。
【0094】
本発明者は、さらに、一定の着床と未着床の胚間の有意差(p=0.0002)および一定の着床と可能性が高い着床の胚間の有意差(p=0.001)も見出した(表2)。
【0095】
表2 Biorad社製Luminexキットを使用し測定する、着床成功率と、FF G−CSFレベルおよびFF IL1raレベルとの間の相関

着床 関連胚数 FF G−CSF FF IL−1ra
+/−標準誤差(pg/ml) +/−標準誤差(pg/ml)

一定の着床 13 25.3±1 764±373
可能性が高い着床 30 21.6±1 225±106
未着床 89 20.2±0.4 148±17
【0096】
AUC−ROC曲線に従って、G−CSF濃度は、本発明者らが置き換えるべき胚数を決定するために、各胚について「着床可能性」を評価するために使用してよい場合、本発明者らは、G−CSFを評価するための下閾値と上閾値を限定した。
【0097】
強力な負の着床予測値によって下閾値を定義した。G−CSFが20pg/mlよりも低い場合、AUC−ROCから負の予測値は100%である。G−CSFが24を超える場合、正の予測値はその最大の40%に達する。
【0098】
G−CSFレベルに従って置き換えた全ての胚を評価する場合、本発明者らは、その後の着床率の差異を観察することができる(表3)。
【0099】
表3 Biorad社製Luminexキットを使用し測定する着床成功率とFF G−CSFレベルとの間の相関;*p=0.003(中G−CSFと低G−CSF間);**p<0.001(高G−CSFと低G−CSF間)

G−CSF(Luminex biorad) 関連胚数 平均着床率

低G−CSF(20pg/ml未満) 45 9%
中G−CSF(20〜24pg/ml) 62 18%
高G−CSF(24pg/ml超) 25 44%**
【0100】
実施例3:R and D社製Luminexキットを使用する卵胞液の評価
その後の200個の移植胚に対応する200個の卵胞液試料を分析した。R&D社製キットを用いてLuminex技術を使用し、以下のサイトカインおよびケモカインIL−1α、IL−1β、IL−1Ra、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8、IL−10、IL−17、IFNα、TNF−α、G−CSF、GM−CSF、MIP−1α、MIP−1β、RANTES、MCP−1、VEGFの濃度を評価した。
【0101】
サイトカインおよびケモカインの検出
試験した卵胞液試料の95〜100%でG−CSF、IL−1Ra;IL−6、IL−8、MIP−β、RANTES、MCP−1、VEGFが検出された。
− 試験した卵胞液試料の75%〜94%でIL−4、TNF−α、GM−CSF、IL−5を検出
− 試験した卵胞液試料の50〜74%でIL−1α、IL−1β、IL−10、MIP−αを検出
試験した卵胞液試料の50%未満でIL−2、IFN−γおよびIL−17が検出された。
【0102】
サイトカイン、ケモカインおよび着床率
G−CSFについてAUC−ROCを構築するために、本発明者らは、着床しなかった(n=146)胚および確実に着床した胚(n=16)を考慮した。ROC曲線下面積は0.72[0.65〜0.79]であり、高度に有為であった(p=0.0025)(図2)
【0103】
一定の着床成功の胚と着床未成功の胚とのG−CSFに有意差が観察され(p=0.01)、着床成功の可能性が高い胚と、一定の着床成功率の胚との間に有意差が観察された(p=0.03)(表4)
【0104】
表4:R and D社製Luminexキットを使用し測定した、着床成功率とFF G−CSFレベルとの間の相関。

着床 関連胚数 G−CSF(pg/ml)+/−標準誤差

一定の着床 16 28±2.3
可能性が高い着床 37 20.5±1.7
未着床 146 20.7±0.9
【0105】
全ての液体で、試料同士の標準変動が少ないG−CSFが検出されたが、これは生物マーカーを同定する強力な要件である。本発明者らが置き換えるべき胚数の決定に役立つであろう「着床の可能性」を各胚について予測するためにG−CSF濃度を使用してよい場合、AUC−ROC曲線に従って、本発明者らは、G−CSFを評価するための下閾値と上閾値を規定した。強力な負の着床予測値によって下閾値を定義した。G−CSFが15pg/mlよりも低い場合、負の予測値はAUC−ROCから100%であった。G−CSFが34を超えた場合、正の予測値はその最大の27.8%に達する。
【0106】
G−CSFのAUC−ROCによって定義したレベルのカテゴリーに従って、置き換えた全ての胚を評価する場合、本発明者らは、その後の着床の可能性の差異を観察することができる(表5)。
【0107】
表5 R and D社製Luminexキットを使用し測定した、着床の成功率とFF G−CSFレベルとの間の相関;**p<0.001(低G−CSF、中G−CSF、および高G−CSF間)

G−CSF 関連胚数 平均着床率

低G−CSF(15pg/ml未満) 61 9%**
中G−CSF(15〜34pg/ml) 117 22%**
高G−CSF(35pg/ml超) 22 43.5%**
【0108】
実施例4:プールした卵胞液中のG−CSF平均は、個々の卵胞液で観察された変動を反映しない。
【0109】
15名の患者で、その結果とは無関係に胚をもたらす全ての卵胞液を同じ集団で評価した。Biorad社製Luminexキットを使用し、76個の試料を評価した。
【0110】
試料ごとに、本発明者らは、以下の割合を評価した。プールした卵胞液の平均G−CSFは、個々のFF中のG−CSF濃度が低い(n=76)。
【0111】
図3は、10名の複数対象から得た胚の同一の集団の個々の卵胞液の濃度変動を示すグラフである。各ボックスは、発生した胚の同一集団の平均からの、個々の卵胞液の変動を示す。これらの観察により、発生した全ての胚は、FF−GCSFという点で、従ってそれらの着床可能性という点で等しいわけではないことが示唆される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
女性対象について、補助受精によって得られた胚、または得られるべき胚の着床の可能性を定量するアッセイであって、
(i)前記対象から採取した複数の卵母細胞(ooctyes)について、採取した各卵母細胞の卵胞の卵胞液(FF)中に存在する卵胞液顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の当該レベルを測定するステップ、および
(ii)測定したFF G−CSFの当該レベルから、該卵母細胞を補助受精することによって得られた胚、または得られるべき胚の着床の可能性を定量するステップ
を含むアッセイ。
【請求項2】
FF G−CSF当該レベルが最も高い卵母細胞が着床の可能性も最も高い、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項3】
各FF試料が卵胞吸引液から採取される、請求項1または2に記載のアッセイ。
【請求項4】
それぞれのFF G−CSFレベルが、該卵胞吸引液の採取から20時間以内に測定される、請求項1〜3のいずれかに記載のアッセイ。
【請求項5】
20.6pg/ml以下のFF G−CSFレベルが、着床の可能性がゼロまたは低いことを決定付ける、請求項1〜4のいずれかに記載のアッセイ。
【請求項6】
24.0pg/ml以上のFF G−CSFレベルが、着床の可能性が高いことを決定付ける、請求項1〜4のいずれかに記載のアッセイ。
【請求項7】
該それぞれのFF G−CSFレベルが、イムノアッセイを使用して測定される、請求項1〜6のいずれかに記載のアッセイ。
【請求項8】
該それぞれのFF G−CSFレベルが、競合アッセイまたは免疫測定アッセイ、例えば、RIA、IRMA、ELISA、またはELISPOTアッセイを使用して測定される、請求項1〜7のいずれかに記載のアッセイ。
【請求項9】
該それぞれのFF G−CSFレベルが、Luminexアッセイを使用して測定される、請求項1〜7のいずれかに記載のアッセイ。
【請求項10】
該LuminexアッセイにBiorad社製またはR and D社製Luminexキットが使用される、請求項9に記載のアッセイ。
【請求項11】
該それぞれのFF G−CSFレベルが、FF G−CSFのmRNAレベルを定量することによって測定される、請求項1〜6のいずれかに記載のアッセイ。
【請求項12】
該それぞれのFF G−CSFレベルが、表面プラズモン共鳴、蛍光共鳴エネルギー転移、生物発光共鳴エネルギー転移、蛍光消光(蛍光)(fluorescence quenching fluorescence)、蛍光偏光、MS、HPLC、HPLC/SM、HPLC/MS/MS、キャピラリー電気泳動、ロッド型またはスラブ型ゲル電気泳動のいずれかによって測定される、請求項1〜6のいずれかに記載のアッセイ。
【請求項13】
FF G−CSFレベルまたはFF G−CSFのmRNAレベルの検出に好適な少なくとも一種の試薬を含む、請求項1〜12のいずれかに記載のアッセイの実施に使用されるキット。
【請求項14】
さらに、FF G−CSF濃度標準セットを含む、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
さらに、対象から卵母細胞および卵胞液を取り出すための複数のアスピレーターチップを含む、請求項13または14に記載のキット。
【請求項16】
女性対象の補助受精法であって、
(i)前記対象から複数の卵母細胞を回収するステップ、
(ii)請求項1〜12のいずれかのアッセイに従って、各卵母細胞に由来する胚について着床の可能性を定量するステップ、
(iii)高い着床の可能性を有する胚に対応する該卵母細胞を受精させるステップ、および
(iv)そのようにして得られた該胚を該女性対象に着床させるステップ
を含む補助受精法。
【請求項17】
女性対象の補助受精法であって、
(i)前記対象から複数の卵母細胞を回収するステップ、
(ii)請求項1〜12のいずれかのアッセイに従って、各卵母細胞に由来する胚について着床の可能性を定量するステップ、
(iii)胚を得るために該卵母細胞を受精させるステップ、および
(iv)高い着床の可能性を有する該胚を着床させるステップ
を含む補助受精法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−544934(P2009−544934A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519979(P2009−519979)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057430
【国際公開番号】WO2008/009705
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(509020365)ミスラ ファーマスーティカルズ エンヴェー/エスアー (1)
【Fターム(参考)】