説明

補強用繊維シート

【課題】 コンクリート構造物等への密着性に優れた補強用繊維シートを提供する。
【解決手段】 少なくとも経糸に、繰り返し単位の95モル%以上が、下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維フィラメント糸を用いた織物であって、該織物が模紗組織織物であることを特徴とする補強用繊維シート
−CH−CH−C− (1)


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は補強用繊維シートに関し、特に高架の鉄道や高速道路等の橋脚や梁等の土木コンクリート構造物、建物の柱、壁等を補強する補強用繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
土木コンクリート構造物については、耐震による破壊、耐久性の改善等の問題があり、耐震性が充分であっても、ひび割れや部分的に剥落したものの補修も実施されている。繊維シートによる補強、補修は、引張強力が高い補強用繊維シートを、エポキシ樹脂によって、コンクリート表面に接着させることにより行われる。エポキシ樹脂は、繊維シートをコンクリートに接着させるだけでなく、繊維シートに含浸し、シート強度を向上させ、さらに、繊維シートの強度をコンクリートに伝える媒体の役割を果たす。
【0003】
例えば、特許文献1の実施例1には、アラミド繊維を用いた模紗織物からなるテープ状織物が、コンクリート柱の補強用繊維シートとして好適であることが開示されているが、コンクリート構造物の表面が不整面であると、コンクリート表面と補強用繊維シートとの間に空気溜りが形成されることがあった。空気溜りの形成は、樹脂による接着を阻害し、補強効果が充分に発揮されないため、スクレーバー等で補強用繊維シートを上から押さえて密着性を高める必要があるが、作業性を著しく阻害することに加えて、空気溜りを充分に解消することは困難であった。
【0004】
従って、コンクリート構造物の表面が不整面であった場合や、不陸修正(調整)が不充分な場合にも密着性に優れ、空気溜りの形成が生じにくい補強用繊維シートが要求されていた。
【特許文献1】特開平11−50348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、かかる要求に応え、コンクリート構造物等への密着性に優れ、施工時に空気溜り等の非接着部分の生じにくい補強用繊維シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は下記の通りである。
【0007】
(1)少なくとも経糸に、繰り返し単位の95モル%以上が、下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維(以下ポリケトン繊維という)フィラメント糸を用いた織物であって、該織物が模紗組織織物であることを特徴とする補強用繊維シート
−CH−CH−C− (1)


【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンクリート構造物等への密着性に優れた補強用繊維シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のポリケトン繊維を構成するポリケトンは、繰り返し単位の95モル%以上、好ましくは98モル%以上、特に99.6モル%以上が、上記式(1)で示されるものであるが、5モル%未満の範囲で、上記式(1)以外の繰り返し単位、例えば、下記式(2)に示すもの等を含有していても良い。
−R−C− (2)


但し、Rは、エチレン以外の炭素数1〜30の有機基であり、例えば、プロピレン、ブチレン、1−フェニルエチレン等であり、Rの水素原子の一部または全部が、ハロゲン基、エステル基、アミド基、水酸基、エーテル基で置換されていてもよい。もちろん、Rは二種以上であってもよく、例えば、プロピレンと1−フェニルエチレンが混在していてもよい。
【0010】
ポリケトンの固有粘度[η]は、好ましくは1dl/g以上、より好ましくは2dl/g以上、特に好ましくは4dl/g以上、20dl/g以下、より好ましくは15dl/g以下、特に10dl/g以下が好ましい。
【0011】
尚、固有粘度[η]は次の定義式に基づいて求められる値である。
[η]=lim(T−t)/(t・C)
C→0
式中のt及びTは、それぞれヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子(株)社製)及び該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間である。Cは、上記希釈溶液の濃度であり、ヘキサフルオロイソプロパノール100ml中のポリケトンの質量(g)である。
【0012】
ポリケトンには必要に応じて、酸化防止剤、ラジカル抑制剤、他のポリマー、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属石鹸等の添加剤を含んでいてもよい。
【0013】
次に、ポリケトン繊維の好ましい特性としては、引張強度は5cN/dtex以上、より好ましくは10cN/dtex以上、特に好ましくは15cN/dtex以上、30cN/dtex以下であり、引張伸度は3%以上、より好ましくは3.5%以上、特に好ましくは4%以上、8%以下、より好ましくは7%以下、特に好ましくは6%以下であり、引張弾性率は100cN/dtex以上、より好ましくは200cN/dtex以上、特に好ましくは300cN/dtex以上、1000cN/dtex以下である。
【0014】
ポリケトン繊維の形態は、フィラメント糸であり、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブ−メラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
【0015】
好ましい単糸繊度は、マルチフィラメント糸の場合は0.01〜10dtex、より好ましくは0.1〜10dtex、特に好ましくは0.5〜5dtex、モノフィラメント糸の場合は、10〜100000dtexである。又、好ましい総繊度は10〜100000dtexより好ましくは30〜50000dtexである。
ポリケトン繊維の糸条形態としては、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸であり、本発明の目的達成上、マルチフィラメント糸が好ましい。
【0016】
本発明は、かかるポリケトン繊維フィラメント糸を少なくとも経糸に用いて模紗組織織物を構成したことに特徴がある。緯糸にはポリケトン繊維フィラメント糸を用いてもよいし、ポリエステル繊維やポリアミド繊維、アラミド繊維(パラ系、メタ系)、ポリビニルアルコール繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、金属繊維等公知の繊維を用いてもよい。
【0017】
本発明の目的達成上、緯糸の総繊度は、好ましくは経糸の総繊度の1/5以下、より好ましくは1/6以下である。
本発明の模紗組織織物は、図1〜図4に例示されるような一般的な模紗組織が用いられる。
【0018】
図1は、平組織と3/3マット組織を組み合わせた模紗組織があり、平部分の組織係数が3/3マット組織に比べてきつくなるため、平組織部分の組織が3/3マット部分にずれ、組織の図中矢印部分に隙間を作る。又筬入れを平部分の中央が筬割りとなるようにすることで、効果的に組織ズレを作ることができる。図2も図1の組織と同様、組織図中央部分の組織がその両隣の部分に比べて組織係数が高く、組織ズレを起こし、組織の図中矢印部分に隙間を作る。図3は、中央が平組織、両端が2/2ツイルであり、平組織がずれることで組織の図中矢印部分に隙間を作る。図4は、模紗組織と平組織を並べた基本組織の一例であり、この組織では、経ストライプ状に模紗部分を配置でき、かつ平部分のリピートによりストライプピッチをコントロールできる。また、その他基本組織として、平ベースに模紗組織を千鳥配置したり、等間隔で並べたりすることができる。
【0019】
この模紗組織は、経糸も緯糸もそれぞれ糸同志が寄り合って、束になるような形態になるため、隙間ができるものである。
本発明の模紗組織織物は、一般的な模紗、モック・レノ、擬絽、目透織といわれる組織ズレを起こさせる構造であれば、上記に例示したものに限定されない。
【0020】
模紗組織織物の好ましいカバーファクターは、経糸カバーファクターでは、800〜3000、より好ましくは900〜2800、特に1000〜2500が好ましく、緯糸カバーファクターは、100〜700、より好ましくは200〜600、特に200〜500が好ましい。経糸カバーファクター/緯糸カバーファクターの比は、5以上特に6以上、20以下、特に15以下が好ましい。
模紗組織織物は、シャトル織機、レピア織機、AJL、WJL等で製織できる。
【0021】
尚、例えば屋外で強い紫外線を受けることによってポリケトン繊維の引張強度等の低下が懸念される時は、繊維又は織物の形態で紫外線吸収材(例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系の一種又は二種以上の組み合わせがある。)及び/又は紫外線遮蔽剤(例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム等の微粒子があり、平均粒径は0.01〜0.6μmが好ましい。)を含有させてもよい。含有させる方法としては、例えば、繊維又織物に紫外線吸収材及び/又は紫外線遮蔽剤を含有した樹脂やフィルムを付与又は被覆する方法があり、紫外線吸収材及び/又は紫外線遮蔽剤の含有量は、樹脂やフィルムの質量に対して0.001〜10質量%が好ましい。
【実施例】
【0022】
本発明を実施例に基づいて説明する。
本発明における測定方法及び評価方法は以下の通りである。
【0023】
(1)引張強度、引張伸度、引張弾性率
JIS−L−1013に準じて測定する。
サンプル長:20cm、引張速度:20cm/分で測定し、20回測定した時の平均値を求める。
【0024】
(2)不整面貼り付けテスト
20cm×30cmのガラス板中央に、直径50mmのガラス製時計皿を接着して模擬不整面を作成するる。この模擬不整面にポリケトン繊維の方向が長手方向に一致するように含浸接着樹脂を用いて各繊維シートを貼り付けた後、貼り付けた面を下向きにして樹脂を硬化させる。硬化後の状態を観察し下記基準にて評価した。
◎;シワや空気溜りの発生が無く、模擬不整面に対し非常に良好な貼り付けが実現。
○;軽微なシワや空気溜りはあるが、模擬不整面に対し良好な貼り付けが実現。
△;概ね良好な貼り付けも部分的手直しが必要なシワや空気溜りがある。
×;シワや空気溜りが多発し、貼り付け不良。
【0025】
[実施例1]
1670dtex/1250fのポリケトン繊維(旭化成せんい(株)社製;商標サイバロン;引張強度18cN/dtex、引張伸度5%、引張弾性率350cN/dtex)2本を合糸したものを経糸に、緯糸には460dtex/144fのナイロン66マルチフィラメント糸を用いて、50cm巾のテープ状模紗組織織物(図1に示した模紗組織)を製織した(経糸カバーファクター1271、緯糸カバーファクター214、経糸カバーファクター/緯糸カバーファクターの比=6)。
この織物の不整面貼り付けテストは、◎〜○とすぐれたものであった。
【0026】
[比較例1]
実施例1において、ポリケトン繊維に代えて1670dtex/964fのパラ系アラ
ミド繊維マルチフィラメント糸(引張強度20cN/dtex、引張伸度4.5%、引張弾性率500cN/dtex)を用いた以外は、実施例1同様に50cm巾のテープ状模紗織物を製織した。
この織物の不整面貼り付けテストは、△と実施例1対比劣ったものであった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の補強用繊維シートは、特に高架の鉄道や高速道路等の橋脚や梁等の土木コンクリート構造物、建物の柱、壁等の補強に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は本発明で用いられる模紗組織図である。
【図2】図2は本発明で用いられる他の模紗組織図である。
【図3】図3は本発明で用いられる他の模紗組織図である。
【図4】図4は本発明で用いられる他の模紗組織図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも経糸に、繰り返し単位の95モル%以上が、下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維フィラメント糸を用いた織物であって、該織物が模紗組織織物であることを特徴とする補強用繊維シート。
−CH−CH−C− (1)



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−75220(P2008−75220A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257686(P2006−257686)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/高性能ポリケトン繊維の工業化基盤技術の開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】