補強用繊維基材
【課題】複雑な形状の成形に適する補強用繊維基材を提供するものである。
【解決手段】２〜４軸の多軸方向に糸が交差しており、この交差部が接着された多軸不織布からなる補強用繊維基材であって、少なくともその１軸を構成する糸が、繰り返し単位の９５モル％以上が、下記式（１）で示されるポリケトンで構成される繊維フィラメント糸であることを特徴とする補強用繊維基材。
【化１】
【解決手段】２〜４軸の多軸方向に糸が交差しており、この交差部が接着された多軸不織布からなる補強用繊維基材であって、少なくともその１軸を構成する糸が、繰り返し単位の９５モル％以上が、下記式（１）で示されるポリケトンで構成される繊維フィラメント糸であることを特徴とする補強用繊維基材。
【化１】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明はＦＲＰ、ＦＲＴＰといわれる繊維強化複合体、例えばガラス繊維や炭素繊維、アラミド繊維等の補強用繊維に、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂（ＦＲＰ）や、ナイロン等の熱可塑性樹脂（ＦＲＴＰ）をマトリックスとした繊維強化複合体に用いられる補強用繊維基材に関し、特に複雑な形状の成形に適する補強用繊維基材に関する。
【背景技術】
【０００２】
特許文献１には、２〜４軸の多軸方向に糸が交差しており、この交差部が接着されてなる多軸不織布が開示されている。経材、緯材並びに斜向材の各材の組み合わせにより、２軸、３軸、４軸の不織布が得られるものであり、補強用繊維基材として用いた場合に、多軸織物に対比して、補強用繊維が直線的に配置されているため補強効果を充分に発揮させやすく、又、経材、緯材並びに斜向材の各材が重なっているだけであるため、プレス成形時に各材の移動に対する自由度が大きく、複雑な形状の成形に適するという特徴を有するものであるが、さらに複雑な形状の成形に適するものが要求されている。
【０００３】
【特許文献１】特開平０８−２０９５１８号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００４】
本発明は、かかる要求、すなわちさらなる複雑な形状の成形に適するものの要求、に応えた補強用繊維基材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【０００５】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は下記の通りである。
（１）２〜４軸の多軸方向に糸が交差しており、この交差部が接着された多軸不織布からなる補強用繊維基材であって、少なくともその１軸を構成する糸が、繰り返し単位の９５モル％以上が、下記式（１）で示されるポリケトンで構成される繊維（以下ポリケトン繊維という）のフィラメント糸であることを特徴とする補強用繊維基材、である。
【化１】
【発明の効果】
【０００６】
本発明は、複雑な形状の成形に適する補強用繊維基材を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【０００７】
本発明について以下に具体的に説明する。
本発明のポリケトン繊維を構成するポリケトンは、繰り返し単位の９５モル％以上、好ましくは９８モル％以上、特に９９．６モル％以上が、上記式（１）で示されるものであり、５モル％未満の範囲で、上記式（１）以外の繰り返し単位、例えば、下記式（２）に示すもの等を含有していても良い。
【化２】
但し式中、Ｒは、エチレン以外の炭素数１〜３０の有機基であり、例えば、プロピレン、ブチレン、１−フェニルエチレン等の基であり、Ｒの水素原子の一部または全部が、ハロゲン基、エステル基、アミド基、水酸基、エーテル基で置換されていてもよい。もちろん、Ｒは二種以上であってもよく、例えば、プロピレン基と１−フェニルエチレン基が混在していてもよい。
【０００８】
ポリケトンの固有粘度［η］は、好ましくは１ｄｌ／ｇ以上、より好ましくは２ｄｌ／ｇ以上、特に好ましくは４ｄｌ／ｇ以上であり、好ましくは２０ｄｌ／ｇ以下、より好ましくは１５ｄｌ／ｇ以下、特に好ましくは１０ｄｌ／ｇ以下である。
尚、固有粘度［η］は次の定義式に基づいて求められる値である。
【数１】
式中のｔ及びＴは、それぞれヘキサフルオロイソプロパノール（セントラル硝子（株）社製）及び該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の２５℃での粘度管の流過時間である。Ｃは、上記希釈溶液の濃度であり、ヘキサフルオロイソプロパノール１００ｍｌ中のポリケトンの質量（ｇ）である。
ポリケトンには必要に応じて、酸化防止剤、ラジカル抑制剤、他のポリマー、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属石鹸等の添加剤を含有させてもよい。
【０００９】
次に、ポリケトン繊維の好ましい特性としては、引張強度は５ｃＮ／ｄｔｅｘ以上、より好ましくは１０ｃＮ／ｄｔｅｘ以上、特に好ましくは１５ｃＮ／ｄｔｅｘ以上であり、３０ｃＮ／ｄｔｅｘ以下であり、引張伸度は３％以上、より好ましくは３．５％以上、特に好ましくは４％以上であり、８％以下、より好ましくは７％以下、特に好ましくは６％以下であり、引張弾性率は１００ｃＮ／ｄｔｅｘ以上、より好ましくは２００ｃＮ／ｄｔｅｘ以上、特に好ましくは３００ｃＮ／ｄｔｅｘ以上であり、１０００ｃＮ／ｄｔｅｘ以下である。
【００１０】
ポリケトン繊維の形態は、フィラメント糸であり、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、繊維の断面形状は、丸型、三角、Ｌ型、Ｔ型、Ｙ型、Ｗ型、八葉型、扁平（扁平度１．３〜４程度のもので、Ｗ型、Ｉ型、ブーメラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある）、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
ポリケトン繊維の糸条形態としては、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸であり、本発明の目的達成上、マルチフィラメント糸が好ましい。
好ましい単糸繊度は、マルチフィラメント糸の場合は０．０１〜１０ｄｔｅｘ、より好ましくは０．１〜１０ｄｔｅｘ、特に好ましくは０．５〜５ｄｔｅｘであり、モノフィラメント糸の場合は、１０〜１０００００ｄｔｅｘである。又、好ましい総繊度は１０〜１０００００ｄｔｅｘ、より好ましくは３０〜５００００ｄｔｅｘである。
【００１１】
本発明において多軸不織布としては、経材と緯材からなる織物状の２軸不織布、経材と、経材に対し互いに反対方向に交差する斜向材からなる３軸不織布、経材と、経材の間に緯材と互いに交差する２方向の斜向材が挟まれた構造の４軸不織布が挙げられるが、強度の方向性の少ない繊維強化複合体が得られる４軸不織布が好ましい。
本発明では、かかるポリケトン繊維フィラメント糸を、少なくとも１軸、即ち、経材、緯材又は斜向材のいずれかの材に用いて多軸不織布を構成することに特徴があり、他の材には、ポリケトン繊維フィラメント糸を用いても良いし、ポリエステル繊維やポリアミド繊維、アラミド繊維（パラ系、メタ系）、ポリビニルアルコール繊維、ポリ（ｐ−フェニレンベンゾビスオキサゾール）繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、金属繊維等の公知の繊維を混用してもよく、その際は、成形品の要求特性に応じて混用する繊維の単糸繊度や総繊度を適宜選定してもよい。
【００１２】
本発明では、各材は、その交差部において接着されているものであり、接着方法は、ホットメルト糊を塗布した各材を加熱圧着する方法、各材を積層後、アクリル酸エステル系樹脂等のエマルジョン系処理液を含浸し、絞液後乾燥する方法、熱可塑性樹脂の繊維やパウダーを用いて、例えば、各材を積層する際に、熱可塑性樹脂の繊維を一緒に供給し、熱圧着又は熱融着させたりする方法が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、融点が８０〜１５０℃程度のナイロン６、６６、１２、６１０等の共重合体からなる共重合ナイロンが好ましいが、共重合ポリエステル、共重合アクリル酸エステル等でもよい。多軸不織布における接着剤の含有率は１〜１０質量％程度が好ましい。
【００１３】
尚、例えば屋外で強い紫外線を受けることによってポリケトン繊維の引張強度等の低下が懸念される時は、繊維又は多軸不織布の形態で紫外線吸収剤（例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系の一種又は二種以上の組み合わせがある。）及び／又は紫外線遮蔽剤（例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム等の微粒子があり、平均粒径は０．０１〜０．６μｍが好ましい。）を含有させてもよい。含有させる方法としては、例えば、繊維又は多軸不織布に紫外線吸収剤及び／又は紫外線遮蔽剤を含有した樹脂やフィルムを付与又は被覆する方法があり、紫外線吸収剤及び／又は紫外線遮蔽剤の含有量は、樹脂やフィルムの質量に対して０．００１〜１０質量％が好ましい。
【実施例】
【００１４】
以下に、本発明を実施例などに基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
本発明における測定方法及び評価方法は以下の通りである。
（１）引張強度、引張伸度、引張弾性率
ＪＩＳ−Ｌ−１０１３に準じて測定する。
サンプル長：２０ｃｍ、引張速度：２０ｃｍ／分で測定し、２０回測定した時の平均値を求める。
（２）積層板の成形性
得られた積層板を予熱して半球状の型に入れ、熱プレスして直径１０ｃｍの半球状の成形品を作製し、成形品の外観を観察し下記基準にて評価した。
◎；シワが無く、経材、緯材、斜向材のズレや裂けも無い極めて良好なもの
○；軽微なシワはあるが、経材、緯材、斜向材のズレや裂けも殆ど無い良好なもの
△；シワがあり、経材、緯材、斜向材のズレが見られるもの
×；シワが大きく入り、経材、緯材、斜向材のズレも大きなもの
【００１５】
［実施例１］
熱可塑性繊維で交差部を接着する４軸不織布の製法を例にして説明する。
進行方向の左右に一定のピッチで糸掛け用ピンを配したピン列を有する循環コンベアを経方向に進行せしめ、この循環コンベアの上方に所定の角度αで斜めにこれを横切る２本１組の互いに平行な軌道Ａ、およびこの軌道Ａにて両端を滑動し得るように支えられた経方向に平行なトラバース具ｂを設け、軌道Ａに沿って往復せしめる。トラバース具ｂには循環コンベアのピンのピッチと同じピッチで同方向一列に、細管からなる多数の糸ガイドａを配設し、多数本の糸を熱可塑性繊維と共に糸ガイドａを経て、循環コンベア上に供給する。循環コンベアのピンが糸と同本数進行するごとにトラバース具ｂを１往復せしめて、その方向転換時に各糸をそれぞれ左右のピンに引っ掛けるようにして、左右のピン列間に多数本の糸の斜向材を形成せしめる。この場合、希望に応じて、角度αと循環コンベアおよびトラバース具の速度を調節することができる。
【００１６】
さらに、循環コンベア上に軌道Ａと同様な軌道Ｂを経方向に対し角度１８０−αとなるように設定し、糸ガイドｃを有するトラバース具ｄを軌道Ｂ間を滑道往復できるようにし、多数本の糸を熱可塑性繊維と共に糸ガイドｃを経て供給し、ピン列間に同様の斜向材を形成せしめる。２つの斜向材を重ねることにより緯材と２方向に交差する斜向材との組み合わせ体が形成される。
次いで、得られた組み合わせ体を上下から挟み込むように経材が供給され、経材に挟まれた状態で組み合わせ体はピンから外され、熱ローラーにより熱プレスされて４軸不織布が形成される。
【００１７】
上記の製法において、経材、緯材並びに斜向材として、１６７０ｄｔｅｘ／１２５０ｆのポリケトン繊維（旭化成せんい（株）社製；商標サイバロン；引張強度１８ｃＮ／ｄｔｅｘ、引張伸度５％、引張弾性率３５０ｃＮ／ｄｔｅｘ）６本を合糸したものを用い、熱可塑性繊維として共重合ナイロン（融点１１０℃、３３０ｄｔｅｘ）を緯材、斜向材の供給に沿わせて供給して、一本おきに上下に配置された経材の間に緯材、斜向材を挟み込み、熱プレスにより共重合ナイロンを溶融し、各材間を接着し、４軸不織布を得た。
各材の配列本数は、経方向２０本／１０ｃｍ、緯方向２０本／１０ｃｍ、斜方向が両方向とも１５本／１０ｃｍであった。
次いで、得られた４軸不織布を４枚積層し、４軸不織布の両面および４軸不織布の間にナイロン６フィルム（厚さ６０μｍ）を重ねて熱プレスして積層板を得た。厚さは２ｍｍ、繊維の含有率は５０容量％であった。
得られた積層板の成形性は、◎〜○とすぐれたものであった。
【００１８】
［比較例１］
実施例１において、ポリケトン繊維に代えて１６７０ｄｔｅｘ／９６４ｆのパラ系アラミド繊維マルチフィラメント糸（引張強度２０ｃＮ／ｄｔｅｘ、引張伸度４．５％、引張弾性率５００ｃＮ／ｄｔｅｘ）を用いた以外は、実施例１同様に４軸不織布の積層板を得た。
得られた積層板の成形性は△で、実施例１と対比して劣ったものであった。
【産業上の利用可能性】
【００１９】
本発明は、複雑な形状の成形に適する補強用繊維基材を提供するものである。特に、２軸不織布は外壁補強用、４軸不織布はゴルフシャフト用の補強用繊維基材に有用である。
【技術分野】
【０００１】
本発明はＦＲＰ、ＦＲＴＰといわれる繊維強化複合体、例えばガラス繊維や炭素繊維、アラミド繊維等の補強用繊維に、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂（ＦＲＰ）や、ナイロン等の熱可塑性樹脂（ＦＲＴＰ）をマトリックスとした繊維強化複合体に用いられる補強用繊維基材に関し、特に複雑な形状の成形に適する補強用繊維基材に関する。
【背景技術】
【０００２】
特許文献１には、２〜４軸の多軸方向に糸が交差しており、この交差部が接着されてなる多軸不織布が開示されている。経材、緯材並びに斜向材の各材の組み合わせにより、２軸、３軸、４軸の不織布が得られるものであり、補強用繊維基材として用いた場合に、多軸織物に対比して、補強用繊維が直線的に配置されているため補強効果を充分に発揮させやすく、又、経材、緯材並びに斜向材の各材が重なっているだけであるため、プレス成形時に各材の移動に対する自由度が大きく、複雑な形状の成形に適するという特徴を有するものであるが、さらに複雑な形状の成形に適するものが要求されている。
【０００３】
【特許文献１】特開平０８−２０９５１８号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００４】
本発明は、かかる要求、すなわちさらなる複雑な形状の成形に適するものの要求、に応えた補強用繊維基材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【０００５】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は下記の通りである。
（１）２〜４軸の多軸方向に糸が交差しており、この交差部が接着された多軸不織布からなる補強用繊維基材であって、少なくともその１軸を構成する糸が、繰り返し単位の９５モル％以上が、下記式（１）で示されるポリケトンで構成される繊維（以下ポリケトン繊維という）のフィラメント糸であることを特徴とする補強用繊維基材、である。
【化１】
【発明の効果】
【０００６】
本発明は、複雑な形状の成形に適する補強用繊維基材を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【０００７】
本発明について以下に具体的に説明する。
本発明のポリケトン繊維を構成するポリケトンは、繰り返し単位の９５モル％以上、好ましくは９８モル％以上、特に９９．６モル％以上が、上記式（１）で示されるものであり、５モル％未満の範囲で、上記式（１）以外の繰り返し単位、例えば、下記式（２）に示すもの等を含有していても良い。
【化２】
但し式中、Ｒは、エチレン以外の炭素数１〜３０の有機基であり、例えば、プロピレン、ブチレン、１−フェニルエチレン等の基であり、Ｒの水素原子の一部または全部が、ハロゲン基、エステル基、アミド基、水酸基、エーテル基で置換されていてもよい。もちろん、Ｒは二種以上であってもよく、例えば、プロピレン基と１−フェニルエチレン基が混在していてもよい。
【０００８】
ポリケトンの固有粘度［η］は、好ましくは１ｄｌ／ｇ以上、より好ましくは２ｄｌ／ｇ以上、特に好ましくは４ｄｌ／ｇ以上であり、好ましくは２０ｄｌ／ｇ以下、より好ましくは１５ｄｌ／ｇ以下、特に好ましくは１０ｄｌ／ｇ以下である。
尚、固有粘度［η］は次の定義式に基づいて求められる値である。
【数１】
式中のｔ及びＴは、それぞれヘキサフルオロイソプロパノール（セントラル硝子（株）社製）及び該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の２５℃での粘度管の流過時間である。Ｃは、上記希釈溶液の濃度であり、ヘキサフルオロイソプロパノール１００ｍｌ中のポリケトンの質量（ｇ）である。
ポリケトンには必要に応じて、酸化防止剤、ラジカル抑制剤、他のポリマー、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属石鹸等の添加剤を含有させてもよい。
【０００９】
次に、ポリケトン繊維の好ましい特性としては、引張強度は５ｃＮ／ｄｔｅｘ以上、より好ましくは１０ｃＮ／ｄｔｅｘ以上、特に好ましくは１５ｃＮ／ｄｔｅｘ以上であり、３０ｃＮ／ｄｔｅｘ以下であり、引張伸度は３％以上、より好ましくは３．５％以上、特に好ましくは４％以上であり、８％以下、より好ましくは７％以下、特に好ましくは６％以下であり、引張弾性率は１００ｃＮ／ｄｔｅｘ以上、より好ましくは２００ｃＮ／ｄｔｅｘ以上、特に好ましくは３００ｃＮ／ｄｔｅｘ以上であり、１０００ｃＮ／ｄｔｅｘ以下である。
【００１０】
ポリケトン繊維の形態は、フィラメント糸であり、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、繊維の断面形状は、丸型、三角、Ｌ型、Ｔ型、Ｙ型、Ｗ型、八葉型、扁平（扁平度１．３〜４程度のもので、Ｗ型、Ｉ型、ブーメラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある）、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
ポリケトン繊維の糸条形態としては、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸であり、本発明の目的達成上、マルチフィラメント糸が好ましい。
好ましい単糸繊度は、マルチフィラメント糸の場合は０．０１〜１０ｄｔｅｘ、より好ましくは０．１〜１０ｄｔｅｘ、特に好ましくは０．５〜５ｄｔｅｘであり、モノフィラメント糸の場合は、１０〜１０００００ｄｔｅｘである。又、好ましい総繊度は１０〜１０００００ｄｔｅｘ、より好ましくは３０〜５００００ｄｔｅｘである。
【００１１】
本発明において多軸不織布としては、経材と緯材からなる織物状の２軸不織布、経材と、経材に対し互いに反対方向に交差する斜向材からなる３軸不織布、経材と、経材の間に緯材と互いに交差する２方向の斜向材が挟まれた構造の４軸不織布が挙げられるが、強度の方向性の少ない繊維強化複合体が得られる４軸不織布が好ましい。
本発明では、かかるポリケトン繊維フィラメント糸を、少なくとも１軸、即ち、経材、緯材又は斜向材のいずれかの材に用いて多軸不織布を構成することに特徴があり、他の材には、ポリケトン繊維フィラメント糸を用いても良いし、ポリエステル繊維やポリアミド繊維、アラミド繊維（パラ系、メタ系）、ポリビニルアルコール繊維、ポリ（ｐ−フェニレンベンゾビスオキサゾール）繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、金属繊維等の公知の繊維を混用してもよく、その際は、成形品の要求特性に応じて混用する繊維の単糸繊度や総繊度を適宜選定してもよい。
【００１２】
本発明では、各材は、その交差部において接着されているものであり、接着方法は、ホットメルト糊を塗布した各材を加熱圧着する方法、各材を積層後、アクリル酸エステル系樹脂等のエマルジョン系処理液を含浸し、絞液後乾燥する方法、熱可塑性樹脂の繊維やパウダーを用いて、例えば、各材を積層する際に、熱可塑性樹脂の繊維を一緒に供給し、熱圧着又は熱融着させたりする方法が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、融点が８０〜１５０℃程度のナイロン６、６６、１２、６１０等の共重合体からなる共重合ナイロンが好ましいが、共重合ポリエステル、共重合アクリル酸エステル等でもよい。多軸不織布における接着剤の含有率は１〜１０質量％程度が好ましい。
【００１３】
尚、例えば屋外で強い紫外線を受けることによってポリケトン繊維の引張強度等の低下が懸念される時は、繊維又は多軸不織布の形態で紫外線吸収剤（例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系の一種又は二種以上の組み合わせがある。）及び／又は紫外線遮蔽剤（例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム等の微粒子があり、平均粒径は０．０１〜０．６μｍが好ましい。）を含有させてもよい。含有させる方法としては、例えば、繊維又は多軸不織布に紫外線吸収剤及び／又は紫外線遮蔽剤を含有した樹脂やフィルムを付与又は被覆する方法があり、紫外線吸収剤及び／又は紫外線遮蔽剤の含有量は、樹脂やフィルムの質量に対して０．００１〜１０質量％が好ましい。
【実施例】
【００１４】
以下に、本発明を実施例などに基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
本発明における測定方法及び評価方法は以下の通りである。
（１）引張強度、引張伸度、引張弾性率
ＪＩＳ−Ｌ−１０１３に準じて測定する。
サンプル長：２０ｃｍ、引張速度：２０ｃｍ／分で測定し、２０回測定した時の平均値を求める。
（２）積層板の成形性
得られた積層板を予熱して半球状の型に入れ、熱プレスして直径１０ｃｍの半球状の成形品を作製し、成形品の外観を観察し下記基準にて評価した。
◎；シワが無く、経材、緯材、斜向材のズレや裂けも無い極めて良好なもの
○；軽微なシワはあるが、経材、緯材、斜向材のズレや裂けも殆ど無い良好なもの
△；シワがあり、経材、緯材、斜向材のズレが見られるもの
×；シワが大きく入り、経材、緯材、斜向材のズレも大きなもの
【００１５】
［実施例１］
熱可塑性繊維で交差部を接着する４軸不織布の製法を例にして説明する。
進行方向の左右に一定のピッチで糸掛け用ピンを配したピン列を有する循環コンベアを経方向に進行せしめ、この循環コンベアの上方に所定の角度αで斜めにこれを横切る２本１組の互いに平行な軌道Ａ、およびこの軌道Ａにて両端を滑動し得るように支えられた経方向に平行なトラバース具ｂを設け、軌道Ａに沿って往復せしめる。トラバース具ｂには循環コンベアのピンのピッチと同じピッチで同方向一列に、細管からなる多数の糸ガイドａを配設し、多数本の糸を熱可塑性繊維と共に糸ガイドａを経て、循環コンベア上に供給する。循環コンベアのピンが糸と同本数進行するごとにトラバース具ｂを１往復せしめて、その方向転換時に各糸をそれぞれ左右のピンに引っ掛けるようにして、左右のピン列間に多数本の糸の斜向材を形成せしめる。この場合、希望に応じて、角度αと循環コンベアおよびトラバース具の速度を調節することができる。
【００１６】
さらに、循環コンベア上に軌道Ａと同様な軌道Ｂを経方向に対し角度１８０−αとなるように設定し、糸ガイドｃを有するトラバース具ｄを軌道Ｂ間を滑道往復できるようにし、多数本の糸を熱可塑性繊維と共に糸ガイドｃを経て供給し、ピン列間に同様の斜向材を形成せしめる。２つの斜向材を重ねることにより緯材と２方向に交差する斜向材との組み合わせ体が形成される。
次いで、得られた組み合わせ体を上下から挟み込むように経材が供給され、経材に挟まれた状態で組み合わせ体はピンから外され、熱ローラーにより熱プレスされて４軸不織布が形成される。
【００１７】
上記の製法において、経材、緯材並びに斜向材として、１６７０ｄｔｅｘ／１２５０ｆのポリケトン繊維（旭化成せんい（株）社製；商標サイバロン；引張強度１８ｃＮ／ｄｔｅｘ、引張伸度５％、引張弾性率３５０ｃＮ／ｄｔｅｘ）６本を合糸したものを用い、熱可塑性繊維として共重合ナイロン（融点１１０℃、３３０ｄｔｅｘ）を緯材、斜向材の供給に沿わせて供給して、一本おきに上下に配置された経材の間に緯材、斜向材を挟み込み、熱プレスにより共重合ナイロンを溶融し、各材間を接着し、４軸不織布を得た。
各材の配列本数は、経方向２０本／１０ｃｍ、緯方向２０本／１０ｃｍ、斜方向が両方向とも１５本／１０ｃｍであった。
次いで、得られた４軸不織布を４枚積層し、４軸不織布の両面および４軸不織布の間にナイロン６フィルム（厚さ６０μｍ）を重ねて熱プレスして積層板を得た。厚さは２ｍｍ、繊維の含有率は５０容量％であった。
得られた積層板の成形性は、◎〜○とすぐれたものであった。
【００１８】
［比較例１］
実施例１において、ポリケトン繊維に代えて１６７０ｄｔｅｘ／９６４ｆのパラ系アラミド繊維マルチフィラメント糸（引張強度２０ｃＮ／ｄｔｅｘ、引張伸度４．５％、引張弾性率５００ｃＮ／ｄｔｅｘ）を用いた以外は、実施例１同様に４軸不織布の積層板を得た。
得られた積層板の成形性は△で、実施例１と対比して劣ったものであった。
【産業上の利用可能性】
【００１９】
本発明は、複雑な形状の成形に適する補強用繊維基材を提供するものである。特に、２軸不織布は外壁補強用、４軸不織布はゴルフシャフト用の補強用繊維基材に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項１】
２〜４軸の多軸方向に糸が交差しており、この交差部が接着された多軸不織布からなる補強用繊維基材であって、少なくともその１軸を構成する糸が、繰り返し単位の９５モル％以上が、下記式（１）で示されるポリケトンで構成される繊維のフィラメント糸であることを特徴とする補強用繊維基材。
【化１】
【請求項１】
２〜４軸の多軸方向に糸が交差しており、この交差部が接着された多軸不織布からなる補強用繊維基材であって、少なくともその１軸を構成する糸が、繰り返し単位の９５モル％以上が、下記式（１）で示されるポリケトンで構成される繊維のフィラメント糸であることを特徴とする補強用繊維基材。
【化１】
【公開番号】特開２００８−２０２１７１（Ｐ２００８−２０２１７１Ａ）
【公開日】平成２０年９月４日（２００８．９．４）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００７−４０１７９（Ｐ２００７−４０１７９）
【出願日】平成１９年２月２１日（２００７．２．２１）
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】（出願人による申告）国等の委託研究の成果に係る特許出願（平成１８年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業（民間基盤技術研究支援制度）／高性能ポリケトン繊維の工業化基盤技術の開発」、産業活力再生特別措置法第３０条の適用を受ける特許出願）
【出願人】（３０３０４６３０３）旭化成せんい株式会社 (548)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２０年９月４日（２００８．９．４）
【国際特許分類】
【出願日】平成１９年２月２１日（２００７．２．２１）
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】（出願人による申告）国等の委託研究の成果に係る特許出願（平成１８年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業（民間基盤技術研究支援制度）／高性能ポリケトン繊維の工業化基盤技術の開発」、産業活力再生特別措置法第３０条の適用を受ける特許出願）
【出願人】（３０３０４６３０３）旭化成せんい株式会社 (548)
【Ｆターム（参考）】
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