説明

製パン用改良剤及びその製造方法並びにパン生地の製造方法

【課題】各種添加剤を多用することなく、パン生地の製造機械類へのべた付きを防止することができ、なお且つ、得られるパン製品類の口溶け、しっとり感、ソフト感をも向上させることができる技術を提供する。
【解決手段】乳又は乳製品と、有機酸と、食品用分散剤を含有し、前記食品用分散剤100質量部当り、前記乳又は乳製品を固形分換算で0.05〜300質量部の割合で混合し、pHが3.0〜7.0となるように調整されている製パン用改良剤。前記製パン用改良剤は、水性溶媒中で乳又は乳加工品に有機酸を添加し、これを更に食品用分散剤に添加し混合することにより調製されたものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製パン用改良剤及びその製造方法並びにパン生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にスーパーマーケットや小売り店で売られているパン類は、大手メーカーが製パン工場で集中的に大量生産している。製パン工場で大量生産する場合には、製造機械類へのべた付きを防止する等の作業性向上の観点から、パン生地には乳化剤等を添加するのが一般的である。また、パンの風味、食感等を改善することを目的として、パン生地に改良剤を添加することも行われている。
【0003】
一方、近年、食品添加物に対する消費者意識の高まりの中で、食品添加物の使用を最小限に抑えつつ品質の良好なパンを製造し提供することへの要請が大きくなっている。
【0004】
このような問題に対して、例えば下記特許文献1には、化学的合成品である食品添加物を使用することなく、作業性に問題が無く、品質に優れたパン製品類を提供することを目的とした粉末脂質からなる製パン用改良剤が開示されている。
【特許文献1】特開2007−97436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、大豆油、菜種油等から粉末脂質を調製して製パン用改良剤の有効成分とする際、水中油型乳化を促すためにレシチン等の乳化剤を用いなければならなかった。また食感改善効果も充分ではなかった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、各種添加剤を多用することなく、パン生地の製造機械類へのべた付きを防止することができ、なお且つ、得られるパン製品類の口溶け、しっとり感、ソフト感をも向上させることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、以下の発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の製パン用改良剤は、乳又は乳製品と、有機酸と、食品用分散剤を含有し、前記食品用分散剤100質量部当り、前記乳又は乳製品を固形分換算で0.05〜300質量部の割合で混合し、pHが3.0〜7.0となるように調整されていることを特徴とする。
【0009】
前記食品用分散剤は、糖類、油脂、増粘多糖類、澱粉、穀粉から選ばれた一種もしくは二種以上である。
【0010】
本発明の製パン用改良剤においては、前記乳又は乳製品が、全粉乳、脱脂粉乳、加糖粉乳又は調整粉乳であることが好ましい。
【0011】
一方、本発明の製パン用改良剤の製造方法は、水性溶媒中で乳又は乳製品に有機酸を添加し、これを更に食品用分散剤に添加し混合することを特徴とする。
【0012】
また一方、本発明のパン生地の製造方法は、穀類粉と、水と、副原料とを同時に又は順次加えて混捏するパン生地の製造方法において、前記副原料の一部として前記製パン用改良剤を添加し混合することを特徴とする。
【0013】
本発明のパン生地の製造方法においては、前記穀類粉当り前記製パン用改良剤を0.05〜40質量部配合して混捏することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製パン用改良剤によれば、各種添加剤を多用することなく、パン生地の製造機械類へのべた付きを防止することができ、なお且つ、得られるパン製品類の口溶け、しっとり感、ソフト感をも向上させることができる。
【0015】
そのメカニズムは明らかではないが、有機酸の混合によってミセル構造から遊離し非ミセル状態化した乳成分によって、パン生地の特性が改良されるためであることが考えられる。また、その乳成分が食品用分散剤に略均等に分散しているので、パン生地に混合したときにその作用を効果的に発揮し得るためであることが考えられる。
【0016】
一方、本発明の製パン用改良剤の製造方法によれば、水性溶媒中で乳又は乳製品に有機酸を添加し、これを更に食品用分散剤に添加し混合するので、まず乳又は乳製品と、有機酸との混合によって非ミセル状態化した乳成分を効率よく生成させ、それを食品用分散剤に分散、必要に応じて溶解させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において用いられる乳又は乳製品としては、乳原料からの乳成分を包括的に含有するものであれば特に制限はなく、牛乳、その脱脂粉乳、全脂粉乳などを好ましく用いることができる。特に、原料としての取り扱いやすさからは脱脂粉乳を用いることが好ましい。
【0018】
本発明において用いられる有機酸としては、例えば、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸、乳酸、酢酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸などを好ましく用いることができる。
【0019】
本発明において用いられる食品用分散剤は、糖類、油脂、増粘多糖類、澱粉、穀粉の中から、乳又は乳製品と有機酸の配合割合、パンの種類や製造法などによって随時選択することができる。
【0020】
食品用分散剤は糖類においてはブドウ糖、異性化糖、砂糖、麦芽糖、マルトオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、トレハロース、乳糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖を含有するシラップが例示され、油脂においてはマーガリン、ショートニング、液体の油脂などが例示され、増粘多糖類においてはグルコマンナン、キサンタン、グアー、アルギン酸、ペクチンなどが例示され、澱粉においては未加工澱粉、α化澱粉、加工澱粉などが例示され、穀粉においては小麦粉などが例示される。糖類は、味質の面や調製の容易さの点で優れており、好ましく用いることができる。特に粘度が300CPS(固形分70、温度20℃)以上である糖質は乳又は乳製品の分散状態の安定に優れており、更により好ましい。
【0021】
本発明の製パン用改良剤を得るためには、上記乳又は乳製品と、上記有機酸と、上記食品用分散剤とを、それらの混合状態でのpHが3.0〜7.0となるように混合する。本発明の製パン用改良剤のpHは、pH4.0〜6.0に調整することが更により好ましい。pH7.0以上であると、上記乳又は乳製品から非ミセル状態化した乳成分を効率よく生成させることができないので好ましくなく、pH3.0以下であると、パンの味に悪影響を及ぼす為、好ましくない。
【0022】
混合の順序としては、上記乳又は乳製品と、上記有機酸と、上記食品用分散剤とを、水性溶媒中で同時に混合してもよいが、水性溶媒中で乳又は乳製品に有機酸を添加し、これを更に食品用分散剤に添加し混合することが好ましい。これによれば、まず乳又は乳製品と、有機酸との混合によって非ミセル状態化した乳成分を効率よく生成させ、それを食品用分散剤に分散させることができる。
【0023】
本発明の好ましい態様においては、上記乳又は乳製品を水性溶媒で固形分濃度0.05〜300質量%、より好ましくは1〜300質量%となるように調整したものに、有機酸を添加し、上記食品用分散剤に混合し、pHが3.0〜7.0、より好ましくはpHが4.0〜6.0となるように調整する。
【0024】
その配合比としては、食品用分散剤100質量部当り、乳又は乳製品を固形分換算で0.05〜300質量部、より好ましくは1〜300質量部となるように混合すればよい。乳又は乳製品の固形分換算での配合比が食品用分散剤100質量部当り0.05質量部より少ないと本発明の効果を奏し得ず、300質量部よりも多いと食品用分散剤中に分散しにくくなるので、いずれも好ましくない。
【0025】
一方、本発明のパン生地の製造方法は、穀類粉と、水と、酵母と、食塩と、副原料とを同時に又は順次加えて混捏するパン生地の製造方法において、前記副原料の一部として上記製パン用改良剤を添加し混合するパン生地の製造方法である。
【0026】
パン生地の原料となる穀物粉としては、例えば小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉等が用いられるが、その種類や混合割合は、製造しようとするパンの種類に応じて選択される。また、本発明は、食パンやフランスパンのようなリーンな配合のパン生地から、ロール類(テーブルロール、バンズ、バターロール等)、特殊パン(マフィン、ラスク等)、蒸しパン(肉まん、餡まん等)、菓子パン、クロワッサン、デニッシュペストリーなどのリッチな配合のパン生地、更にはピザクラフト、餃子や焼売の皮等にまで利用することができる。
【0027】
副原料としては、従来のパン生地に用いるものと同様でよく、例えば、糖類、糖アルコール類、多糖類、非糖質系甘味剤、油脂、乳化剤、酸化剤、還元剤、有機酸もしくはその塩、無機塩、酵素、イーストフード等を適宜配合して用いることができる。ただし、上記製パン用改良剤を添加するので、乳化剤を使用しないもしくはその分の乳化剤等の使用量を低減することができる。
【0028】
上記製パン用改良剤の添加量としては、前記穀類粉100質量部当り上記製パン用改良剤を0.05〜40質量部添加し混合することが好ましく、0.1〜20質量部添加し混合することが更により好ましい。その添加量が0.05質量部より少ないと本発明の効果を奏し得ず、40質量部よりも多いと、パンの味に悪影響を及ぼすことがあるので、いずれも好ましくない。
【0029】
本発明は、直捏法、中種法などのいずれの製パン方法にも適用可能である。また、冷凍パン生地を調製して用いる製パン方法にも適用可能である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
<製パン用改良剤の製造>
下記表1の原材料を混合して、実施例及び比較例の製パン用改良剤を製造した。
【0032】
【表1】

【0033】
原材料の混合は以下のようにして行った。
【0034】
全脂粉乳又は脱脂粉乳12.5gを水112.5gに添加後、マグネットスターラー(井内盛栄堂製ハイパワースターラー)を用いて、200rpmにて約10分間混合し、分散させた。分散の状態は、網を用いてダマ等が出来ていないことを確認した。次にpHが4.0となるように有機酸を添加・混合した後、水を加えて全量を250gとした。その混合には上記マグネットスターラーを用い、回転数200rpmにて行なった。一方、比較例として、有機酸を添加することなく水を加えて全量250gとしpHを調整しないものを調製した。
【0035】
上記にて調製した混合水溶液に、当該混合水溶液と等量の食品用分散剤を添加し、縦型ミキサー(愛工舎製作所製ケンミックスKM-800)を用いて混合した。ミキサーの回転速度は目盛「2」に設定し、すべての原材料を添加した後、約10分間混合した。
【0036】
なお、上記全脂粉乳としては、よつ葉乳業株式会社製、「よつ葉全粉乳」)を用い、上記脱脂粉乳としては、よつ葉乳業株式会社製、「よつ葉脱脂粉乳」を用い、上記食品用分散剤としての糖液としては、日本食品化工株式会社製、「ハイマルトースシラップMC-55」を用い、上記食品用分散剤としてのグルコマンナンとしては、清水化学株式会社製、「レオレックスRS」を用いた。グルコマンナンについては、当該原料を2%(w/w)となるように水に分散した後、室温にて10分間膨潤させたものを用いた。
【0037】
<パンの製造>
上記で得られた実施例1〜8、比較例1の製パン用改良剤、及び乳化剤のそれぞれを用いて、下記表2の配合で下記工程に従い実施例及び比較例のパンを製造した。
【0038】
【表2】

【0039】
[パンの製造工程]
・一次ミキシング:低速3分中低速1分(関東ミキサー20コート)
・一次発酵: 2時間30分(26℃/75%-RH)
・二次ミキシング:低速4分中低速4分[油脂添加]
低速4分中低速4分中高速2分(関東ミキサー20コート)
・フロア: 30分(室温)
・分割: 100g
・ベンチ: 15分(室温)
・成形: ロール型成形
・二次発酵: 60分(36℃/85%-RH)
・焼成:上下210℃/10分
・冷却:30分(室温)
すなわち、上記で得られた実施例1〜8、及び比較例1の製パン用改良剤を、本捏生地に配合してパンを製造して、それぞれ実施例1〜8、及び比較例1のパンとした。また、更なる比較例として、中種生地に乳化剤を配合して製造したものを比較例2(乳化剤)のパンとし、製パン用改良剤や乳化剤を配合しないで製造したものを対照(無添加)のパンとした。
【0040】
<評価>
上記で製造したパンについて、以下の(1)〜(3)の評価を行なった。
【0041】
(1)製パン時の生地のベタつきについて、触手による触覚にて以下の基準で評価した。
◎:ベタつき無し
○:ベタつき少ない
△:ややベタつき有り
×:ベタつき有り
(2)製パン時の生地ダレについて、目視にて以下の基準で評価した。
◎:ダレ無し
○:ダレ少ない
△:ややダレ有り
×:ダレ有り
(3)パン焼成後2日間室温にて保管した後、ソフトさ、しっとり感、口溶けについて、熟練パネラー10人による官能検査を実施した。官能検査の評価基準として以下基準を使用した。
◎:良好
○:やや良好
△:やや不良
×:不良
評価の結果を下記表3にまとめて示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3に示すように、実施例1〜8のパンは、生地状態及びパンの食感ともに良好であった。一方、比較例1のパンは、その食感は一部良好なものの、生地状態が不良で作業性に影響を及ぼすものであった。また、対照(無添加)のパンは、その口溶けは良好であったものの、生地状態やその他の食感において劣っていた。なお、比較例2(乳化剤)のパンは、生地状態は良好で、食感も口溶けを除き良好であった。しかしながら乳化剤を添加したものであるため、消費者志向に合致しないことが考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳又は乳製品と、有機酸と、食品用分散剤を含有し、前記食品用分散剤100質量部当り、前記乳又は乳製品を固形分換算で0.05〜300質量部の割合で混合し、pHが3.0〜7.0となるように調整されていることを特徴とする製パン用改良剤。
【請求項2】
前記食品用分散剤が糖類、油脂、増粘多糖類、澱粉、穀粉から選ばれた一種もしくは二種以上であることを特徴とする請求項1記載の製パン用改良剤。
【請求項3】
前記乳又は乳製品が、全粉乳、脱脂粉乳、加糖粉乳又は調整粉乳である請求項1に記載の製パン用改良剤。
【請求項4】
水性溶媒中で乳又は乳加工品に有機酸を添加し、これを更に食品用分散剤に添加し混合することを特徴とする製パン用改良剤の製造方法。
【請求項5】
穀類粉と、水と、酵母と、食塩と、副原料とを同時に又は順次加えて混捏するパン生地の製造方法において、前記副原料の一部として請求項1〜3に記載の製パン用改良剤を添加し混合することを特徴とするパン生地の製造方法。
【請求項6】
前記製パン用改良剤を前記穀類粉100質量部当り0.05〜40質量部配合する請求項5に記載のパン生地の製造方法。

【公開番号】特開2009−22196(P2009−22196A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187821(P2007−187821)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)
【Fターム(参考)】