説明

製パン用油脂代替組成物及び製パン方法

【課題】 本発明は、食パンや菓子パン等のパン生地に添加することでパン生地の伸展性、焼成時のボリュームアップを図ることができ、焼成して得たパン類の食感向上や老化を抑止することができ、油脂の使用量を低減化したり全く使用しなくても良好なパン類を得ることができ、低カロリーで食品安全性の高いパン類を提供することができる製パン用油脂代替組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の製パン用油脂代替組成物は、ペクチン1重量部当たりグルコースオキシダーゼを0.2〜200酵素単位含有することを特徴とする。本発明の組成物は、ペクチン、グルコースオキシターゼとともに、ペクチン1重量部当たりバイタルグルテンを0.2〜1.0重量部含有すると、グルコースオキシターゼとバイタルグルテンとが相乗的に作用して小麦グルテンの網目構造を強化する作用が高められ、グルテン強度が増してパンのボリュームを更に高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食パン、菓子パン等の生地に練り込み使用する油脂の代替物として用いることができ、油脂を用いなくてもボリューム、食感に優れたパンを得ることができる製パン用油脂代替組成物及びこの組成物を用いた製パン方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フランスパン等のハード系のパンを除く一般的な食パンや菓子パンは、パン生地の伸展性や焼成時のボリュームアップ等、物性改良や焼成したパンの食感向上や老化抑制に油脂を用いることが定法となっており、生地に油脂を練り込んで、生地の物性改良や焼成品の状態や食感改善や老化抑制を図っている。ところで、近年、消費者の健康志向の高まりに伴う嗜好の変化により、高カロリー食品が敬遠される傾向にあり、食パンや菓子パンにおいても、従来に比して油脂量が少なものが望まれるようになってきた。油脂使用量の低減化策として、油脂の代わりに乳化剤を用いることがあるが、乳化剤等の添加物も消費者の健康志向から敬遠される傾向にある。しかしながら、油脂や乳化剤をまったく使用しないと、出来上がったパン生地は、伸展性に欠け、機械成型においてものダメージも受けやすく、焼成後もボリュームに乏しく、硬くパサついた美味しくないパンになってしまう。
【0003】
油脂や乳化剤を添加する代わりに、パン類のボリューム、食感を向上させ、パン類の品質を改良する方法として、ペクチンと小麦活性グルテン、乳化剤とともにシスチンやアスコルビン酸を配合した改質剤を生地に添加する方法(特許文献1)、吸油量が特定量以下の炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム等の微細粒径で特定粒径、特定吸油量の微細粒子を含む改質剤を添加する方法(特許文献2)等が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−173013号公報
【特許文献2】特開2001−218550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、乳化剤などの化学合成の添加物を必須としており、消費者の健康志向の観点から好ましくない。
また、特許文献2記載の方法では、ベーカリー製品を主とする食品の低油分化、低カロリー化を可能とする食用油脂代替物が提案されているが、最近のパンの主流であるソフトな食感を得るには十分とはいえない。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みなされたもので、油脂や乳化剤を減量もしくは、まったく用いなくても、パン生地の伸展性や焼成時のボリュームアップなど物性改良や焼成したパンの食感のソフトさ向上や老化抑制が可能な製パン用の油脂や乳化剤の代替が可能な製パン用油脂、乳化剤代替物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、
(1)ペクチン1重量部当たりグルコースオキシターゼを0.2〜200酵素単位含有することを特徴とする製パン用油脂代替組成物、
(2)ペクチン、グルコースオキシターゼとともに、ペクチン1重量部当たりバイタルグルテンを0.2〜1.0重量部含有する上記(1)の製パン用油脂代替組成物、
(3)穀粉重量に対してペクチン0.1〜2.0重量%となるよう上記(1)又は(2)の製パン用油脂代替組成物を用いることを特徴とする製パン方法、
を要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製パン用油脂代替組成物は、油脂や乳化剤の使用量を減量したり、これらを全く用いなくても、パン生地の伸展性や焼成時のボリュームアップを図ることができるとともに、焼成したパンの食感向上や老化を抑制することができる。本発明の製パン用油脂代替組成物は、パン類の低カロリー化、食品安全性の向上を図ることができ、消費者の健康志向の高まりに応えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において用いるペクチンは、柑橘類、またはリンゴから水で抽出して得られ精製した高分子多糖類で、カルボキシル基の一部がメチル化されたガラクチュロン酸の直鎖状重合対体を主体とするのである。メチルエステル化度が50%以上のものは高メトキシルペクチン、エステル化度が50%未満のものは低メトキシルペクチンと呼ばれている。本発明においてペクチンとしては、高メトキシルペクチンのみを用いても、低メトキシルペクチンのみを用いても、また両者の混合物を用いても良いが、全ペクチン中の高メトキシルペクチンの割合が50重量%以上であることが、パンのボリューム向上により好ましい。
【0010】
一方、グルコースオキシダーゼは、グルコースを酸化してグルコン酸に変化させる酵素であり、市販で入手可能なグルコースオキシダーゼ製剤は、一般的にカタラーゼの副活性を持つ物が多いが、特に使用に際して支障はない。パン生地中での作用としては、グルテン中のチオール基の酸化を促進し、ジスフィルド結合をつくることで、グルテンネットワークを強化すると考えられている。市販のグルコースオキシダーゼ製剤としては、「ハイデラーゼ」「ハイデラーゼ15」(天野エンザイム株式会社製)、「グルザイム2,500BG」「グルザイム10,000BG」(ノボザイムズ・ジャパン株式会社製)などが知られている。尚、グルコースオキシダーゼの酵素単位とは、40℃、PH7.0の条件で、1分間に1μモルのグルコースを酸化してグルコン酸を生成させることのできる酵素量をいう。グルコースオキシダーゼの酵素単位は、使用したグルコースオキシダーゼ酵素製剤の力価が1,500酵素単位の場合、小麦粉重量に対しての20酵素単位とは、1.33%に相当する。
【0011】
本発明の製パン用油脂代替組成物において、上記ペクチンとグルコースオキシダーゼの割合は、ペクチン1重量部当たり、グルコースオキシダーゼを0.2〜200酵素単位が好ましいが、ペクチン1重量部当たり、グルコースオキシターゼ2〜75酵素単位としたものがパンの食感、ソフトさ向上の面から特に好ましい。ペクチン1重量部当りに対するグルコースオキシダーゼの割合が0.2酵素単位未満の場合は、ペクチンとグルコースオキシダーゼの相乗効果が十分に得られず、油脂、乳化剤代替物としての効果が不十分となり、逆にペクチン1重量部当りに対するグルコースオキシダーゼの割合が200酵素単位を超える場合には、グルテンが過剰に結合し、食パンや菓子パンのボリューム不十分となり、食感が硬くなるなど、パンとしての商品価値を低下させる虞がある。
【0012】
本発明の製パン用油脂代替組成物は、上記ペクチン、グルコースオキシターゼとともに、バイタルグルテンを含有すると、バイタルグルテンとグルコースオキシターゼとが相乗的に作用してパン生地中で小麦グルテンの網目構造を強化する作用がより高められ、グルテン強度が増し、パンのボリュームがより向上する。しかしながら両者の添加量が多過ぎるとパン生地中のグルテンに過剰に作用し、パンの食感が必要以上に硬くなる虞がある。バイタルグルテンの割合はペクチン1重量部に対し、0.2〜1.0重量部が好ましい。ペクチン1重量部当りに対するバイタルグルテンの割合が0.2重量部未満の場合は、ペクチンとグルコースオキシダーゼとバイタルグルテンの相乗効果が十分に得られず、油脂、乳化剤代替物としての効果が十分得られない虞れがあり、逆にペクチン1重量部当りに対するバイタルグルテンの割合が1.0重量部を超える場合には、グルテンが過剰に結合し、食パンや菓子パンのボリューム不十分となり、食感が硬くなるなど、パンとしての商品価値を低下させる虞がある。本発明の製パン用油脂代替組成物に用いるバイタルグルテンは、小麦粉に水を加えてドウを作り、水洗して水溶性蛋白質、澱粉質及び糖質を洗い出し、残りを生グルテンとして分離するマーチン法により主に製造され、分離した生グルテンを噴霧乾燥(スプレードライ)、気流乾燥(フラッシュドライ)などの方法により、できるだけ熱変性を起こさせないように乾燥粉末化して得られるもので、市販の物を使用することができる。
【0013】
本発明の製パン用油脂代替組成物には、製パン適性や焼成品のソフトさや食感を更に向上させる目的で、アミラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペントサナーゼ、リパーゼ、リポキシゲナーゼ、アスコルビン酸オキシダ―ゼ等の酵素の1種もしくは、2種以上を適宜配合することができる。また、製パン適性や焼成品の風味、食感の改良や、生地への分散性を高めるために、パン生地に配合する前に予め、小麦粉や米、大豆粉などの穀粉や、各種澱粉および加工澱粉、食物繊維類、粉乳類、糖類などの1種もしくは、2種以上を適宜配合しておいても良い。
【0014】
本発明の製パン用油脂代替物が添加されるパン生地の配合組成は、生地の用途によっても異なる。通常、食パン生地の場合には、強力粉、薄力粉等の小麦粉(穀粉)に、塩、砂糖、脱脂粉乳、全卵、イースト、イーストフード等に、水、ショートニング等の油脂を加えて混捏して調製するが、本発明組成物を添加する場合には、油脂であるショートニング等は必ずしも加える必要はなく、配合量を減量するか、全く使用しなくても良い。油脂類を添加する場合、本発明の所期の目的を達成する上から、油脂類の添加量は油脂分として、小麦粉(穀粉)重量に対して4重量%以下が好ましい。本発明の製パン用油脂代替組成物は、パン生地中の穀粉重量に対して、ペクチンが0.1〜2.0重量%となるように添加することが好ましい。穀粉重量に対して、ペクチンが0.1%未満となる量を添加しても、ペクチンとグルコースオキシダーゼの相乗効果が十分に得られず、油脂、乳化剤代替物としての効果が不十分となり、逆に穀粉重量に対して、ペクチンが2.0%を超える量を添加すると、グルテンが過剰に結合し、食パンや菓子パンのボリューム不十分となり、食感が硬くなるなど、パンとしての商品価値を低下させる虞がある。
【0015】
本発明組成物を添加して調製した生地は、通常の方法で焼成することによりパン類を得ることができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1〜6、比較例1〜4
小麦強力粉100重量部、砂糖6重量部、食塩2重量部、脱脂粉乳2重量部、イースト2.5重量部、イーストフード0.1重量部、製パン用油脂代替組成物及び水をミキサーに投入し、低速に3分、中高速で10分撹拌して生地を調整した。油脂を添加する配合については、油脂以外の原料および水を加え、低速3分、中高速5分撹拌した後、油脂を加え、さらに低速2分、中高速4分撹拌して生地を調整した。製パン用油脂代替組成物は表1に示す配合でロッキングミキサーにて粉体混合して調製した。製パン用油脂代替組成物は、また製パン用油脂代替組成物、及び水は、小麦強力粉(穀粉)量に対して、表2に示す割合(重量%)に相当する量を生地に添加した。表2の実施例1〜6は、表1の製パン用油脂組成物1〜6を用い、表2の比較例1〜4は、表1の製パン用油脂代替組成物7〜10を用いた。尚、表1、表2の各成分の配合量は重量%である。また表2に示す数値は、最初にミキサーに添加した小麦強力粉(穀粉)の合計重量に対する対粉重量%である。
【0017】
【表1】

【0018】
※1 高メトキシルペクチン:CPケルコ社製:GENU Type FREEZE−JP
※2 低メトキシルペクチン:CPケルコ社製:LM−84AS
※3 バイタルグルテン:松谷化学株式会社製:パイングルM
※4 小麦澱粉:千葉製粉株式会社製:HS―325
※5 酵素グルコースオキシダ―ゼ製剤:天野エンザイム株式会社製:ハイデラーゼ15。酵素力価1,500単位。
※6 酵素αーアミラーゼ製剤:天野エンザイム株式会社製:アミラーゼAD−1。酵素力価10,000単位。
【0019】
【表2】

【0020】
※7 ショートニング:ミヨシショートニングN(ミヨシ油脂株式会社製)
※8 乳化剤製剤:エマルジーMM−100(理研ビタミン株式会社製)
【0021】
ついで上記のようにして調製した生地を27℃で捏上げ、湿度75%、温度27℃で60分間発酵させた後、320gで分割し、20分間ベンチタイムとった。成型はモルダーを使用しロール状に成型し、ワンローフ型に型詰めした。湿度80%、温度38℃のホイロ入れて50分発酵させた後、200℃のオーブンで、25分間焼成して、山型食パンを得た。得られた山型食パンのボリューム、食感の評価を以下の基準に基評価した。これらの結果を表3に示した。
【0022】
食パンのボリュームは、山型食パン焼成品の体積を菜種種子置換法にて測定し、焼成品の重量で割り、体積と重量の比である比容積を算出し、比容積が、5.5以上をボリュームがあり良好と判断した。
【0023】
食感は、山型食パンの食感を官能試験により評価し、食パンを食した時の食感(ソフトさ、しとり)を以下の基準により評価し、評点3以上を良好と判断した。
5:ソフト、しとりを感じる。
4:ややソフト、比較的しとりを感じる。
3:適度な食感。
2:やや硬く、比較的パサつきを感じる。
1:かなり硬く、パサつき感じる。
【0024】
(表3)

【0025】
参考例1
製パン用油脂代替組成物の代わりに乳化剤製剤を使用した他は、実施例と同様にして生地を調製した。乳化剤製剤及び水は、小麦強力粉の合計量に対して表2に示す割合(重量%)に相当する量を生地に添加した。その他は実施例、比較例と同様にして山型食パンを得た。得られた山型食パンのボリューム、食感を実施例、比較例と同様に評価した。結果を表3にあわせて示す。
【0026】
参考例5
製パン用油脂代替組成物の代わりにショートニングを使用した他は、実施例と同様にして生地を調製した。ショートニング及び水は、小麦強力粉の合計量に対して、表2に示す割合(重量%)に相当する量を生地に添加した。その他は実施例、比較例と同様にして山型食パンを得た。得られた山型食パンのボリューム、食感を実施例、比較例と同様に評価した。結果を表3にあわせて示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペクチン1重量部当たりグルコースオキシターゼを0.2〜200酵素単位含有することを特徴とする製パン用油脂代替組成物。
【請求項2】
ペクチン、グルコースオキシターゼとともに、ペクチン1重量部当たりバイタルグルテンを0.2〜1.0重量部含有する請求項1記載の製パン用油脂代替組成物。
【請求項3】
穀粉重量に対してペクチン0.1〜2.0重量%となるよう請求項1又は2記載の製パン用油脂代替組成物を用いることを特徴とする製パン方法。