説明

製塩用陽イオン交換膜およびその製造方法

【課題】製塩に用いられる陽イオン交換膜について、従来使用されている膜と比較し、電気抵抗を増加させずに、濃縮性能を向上させ、且つ機械的強度を向上させる。
【解決手段】エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体フィルムに電離放射線を照射することにより、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体にラジカルを発生させた後、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体、及び架橋性単量体を含有する重合性混合物中でグラフト重合をおこなうことにより得られた製塩用陽イオン交換膜およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製塩に用いられる陽イオン交換膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜製塩法における海水濃縮工程には、陽および陰イオン交換膜を利用した電気透析槽が用いられている。電気透析槽に利用するイオン交換膜の性能向上が求められているのは、膜の電気抵抗、濃縮性能、耐久性等であり、塩製造費低減のためには、膜の電気抵抗を増加させることなく、濃縮性能を向上させることが必要である。加えて耐久性、特に機械的強度を向上させることが必要となる。
【0003】
製塩用イオン交換膜の製法については従来から数多くの方法が提案されており(例えば特許文献1〜3参照)、イオン交換基が導入可能な官能基またはイオン交換基を有する重合性単量体(モノマー)、架橋性単量体(架橋剤)及び重合触媒を主たる成分として含有する混合物をポリ塩化ビニル製の織布などに塗布して重合した後、必要に応じてイオン交換基を導入する方法が広く知られている。
【0004】
しかしながら、この方法により得られたイオン交換膜は、膜の電気抵抗を増加させることなく、濃縮性能を向上させることは困難であり、かつ機械的強度についても満足できる性質のものではなかった。
【0005】
かかる問題点を解決するため、ポリプロピレン繊維基材等に重合性モノマーを含浸担持させた後、電離放射線でグラフト重合しイオン交換膜を得る方法や、オレフィン製基材等に重合性モノマーを含浸担持させた後、電離性放射線で一部重合をおこない、続いて重合開始剤の存在下で加熱することにより、重合を完結させてイオン交換膜を得る方法が提案されている(例えば特許文献4〜6参照)。
【0006】
しかし、いずれの方法も、膜の機械的強度を向上させることは可能であるが、膜の濃縮性能については満足のいく成果は見られなかった。
【特許文献1】特公昭39−27861号公報
【特許文献2】特公昭40−28951号公報
【特許文献3】特公昭44−19253号公報
【特許文献4】特開昭51−52489号公報
【特許文献5】特開昭60−238327号公報
【特許文献6】特開平06−271687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、製塩に用いられる陽イオン交換膜について、従来使用されている膜と比較し、電気抵抗を増加させずに、濃縮性能を向上させ、且つ機械的強度を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体フィルムに電離放射線を照射し、例えば、スチレン系モノマー等をグラフト重合した後、形成されるグラフト側鎖にスルホン酸基を導入することにより、従来使用されている製塩用のイオン交換膜と比較し、電気抵抗を増加させずに、濃縮性能を増加させ、且つ機械的強度を向上させた膜を提供できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の構成とすることにより上記の目的を達成するに至った。
(1) エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体フィルムに電離放射線を照射することにより、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体にラジカルを発生させた後、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体(モノマー)、及び架橋性単量体(架橋剤)を含有する重合性混合物中でグラフト重合をおこなうことにより得られた製塩用陽イオン交換膜。
(2) 前記陽イオン交換基を導入可能な官能基自体が陽イオン交換基でない場合には、グラフト重合後に、陽イオン交換基を付与できる化合物で処理したものである前記(1)記載の製塩用陽イオン交換膜。
(3) 前記陽イオン交換基を導入可能な官能基自体が、陽イオン交換基である前記(1)記載の製塩用陽イオン交換膜。
(4) エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体フィルムに電離放射線を照射することにより、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体にラジカルを発生させた後、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体(モノマー)、及び架橋性単量体(架橋剤)を含有する重合性混合物中でグラフト重合をおこなう製塩用陽イオン交換膜の製造方法。
【0010】
上記から明らかなように、本発明の骨子は、下記(1)及び(2)に存する。
(1)エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体に電離放射線を照射することにより、ラジカルを発生させた後、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体(モノマー)、架橋性単量体(架橋剤)、及び膨潤溶媒を主たる成分とする重合性混合物中でグラフト重合をおこない、必要に応じてクロロスルホン酸等を用いてスルホン酸基を導入する陽イオン交換膜製造方法である。
(2)前記(1)に記載の方法で得た陽イオン交換膜である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、現在製塩に用いられている陽イオン交換膜と比較して、電気抵抗を増加させずに、濃縮性能を増加させ、且つ機械的強度を向上させた陽イオン交換膜を提供できることから、製塩コスト低減に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の陽イオン交換膜製造方法は、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体フィルムに電離放射線を照射することにより、ラジカルを発生させた後、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体(モノマー)、架橋性単量体(架橋剤)、及び膨潤溶媒を主たる成分とする重合性混合物中でグラフト重合をおこない、必要に応じてクロロスルホン酸等を用いてスルホン酸基を導入することが特徴である。
【0013】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明で使用できる、高分子フィルム基材としては、得られるイオン交換膜の耐久性が向上し、膨潤性も抑制されるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体フィルムを使用することができ、厚みが20〜100μmのものを用いるのが好ましい。
基材の形態は、製塩用のイオン交換膜としての利用面からの要請から、膜(フィルム)の形態であって、その大きさ、厚さは適宜決定することができる。
本発明にかかるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体フィルムとしては、例えば旭硝子株式会社製アフレックス1250NT(製品名)などが挙げられる。
【0014】
本発明において使用することができる重合性単量体(モノマー)としては、以下に列記するが、これらに限定されるものではない。
(1)スルホン酸基が導入されやすい芳香族環を有する単量体。例えば、スチレン、ビニルトルエン等。
(2)カルボン酸基、またはニトリル基を有する単量体。例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル等。
本発明において使用することができる架橋性単量体(架橋剤)としては、以下に列記するが、これらに限定されるものではない。
(3)架橋構造を導入できる単量体(架橋性単量体)。すなわちビニル基を少なくとも2個有するもの。例えばジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、エチレングリコールジメタクリレート等。
架橋性単量体の使用割合は、重合性混合物中の総単量体量に対して10重量%以下、好ましくは3重量%以下である。
【0015】
本発明において、モノマーは、溶媒中に希釈して用いてもよい。希釈溶媒としては、特に限定されないが、ベンゼン、キシレン、トルエン、ヘキサン等の炭化水素類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサン等のケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、イソプロピルアミン、ジエタノールアミン、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等の含窒素化合物等の溶媒が挙げられ、これらを適宜、少なくとも1種以上選択して使用することができる。溶媒中に希釈して用いる場合、モノマー濃度は特に限定されないが、通常20wt%以上が好ましい。
【0016】
基材(エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体フィルム)への上記モノマーのグラフト重合は、基材を電離放射線照射後、モノマーと重合反応させる、いわゆる前照射法か、または基材とモノマーとに同時に照射し、重合反応させる、いわゆる同時照射法のいずれによっても行うことができる。基材にグラフト重合しないホモポリマーの生成量が少ないことから、前照射法を使用することが好ましい。前照射法については2方法あり、基材を不活性ガス中で照射するポリマーラジカル法と、基材を酸素の存在する雰囲気下で照射するパーオキサイド法があり、いずれも本発明において使用することができる。
【0017】
前照射法の一例を以下に説明する。
まず、基材に電離放射線の一つである電子線を、−10〜50℃、好ましくは室温付近で、5〜100kGy照射する。電離放射線照射からグラフト重合までの間に、空間的あるいは時間的差異が大きい場合には、基材を酸素不透過性ポリ袋中に挿入後、この袋内を窒素置換等により酸素を除去する。次いでこの基材を含む袋に電離放射線を照射する。照射後の基材を酸素不透過性ポリ袋に封入のままドライアイス充填箱による輸送や冷凍庫保存を行うことにより、電離放射線照射からグラフト重合までの空間的あるいは時間的差異による、電離放射線照射により発生したラジカルの消滅を抑制することができる。次いで、照射済み基材を大気中で取り出し、ガラス容器に移し替えた後、容器内にモノマー液またはモノマー混合溶液(溶媒希釈液)を充填する。モノマー液またはモノマー混合溶液は、酸素の存在しない不活性ガスによるバブリングや凍結脱気などで予め酸素ガスを除いたものを使用する。照射済み基材にポリマーのグラフト鎖を導入するためのグラフト重合は、通常、室温〜80℃、好ましくは、40〜70℃で実施する。
【0018】
これにより得られたポリマーのグラフト率(すなわち、重合前の基材に対するグラフト鎖の重量パーセント)は、10〜300重量%、より好ましくは20〜150重量%である。グラフト率は、照射線量、重合温度、重合時間等に依存して適宜変化させることができる。
【0019】
グラフト鎖を導入した基材には、次の段階としてスルホン酸基等の陽イオン交換基を導入することができる。スルホン酸基の導入は従来おこなわれている広範な方法が何の制限もなく使用できるが、具体例を以下に示す。
【0020】
1,2−ジクロロエタンを溶媒とする0.2〜1.5モル/Lの濃度のクロロスルホン酸溶液に、グラフト反応後の基材を25〜80℃で1〜96時間浸漬して反応させる。所定時間反応後、膜を十分に洗浄する。その後、濃度1〜10重量%の水酸化ナトリウム水溶液に1〜24時間浸漬することで、スルホン化反応を終結させ、膜を十分に水洗する。スルホン化反応に必要なスルホン化剤としては、濃硫酸、三酸化硫黄、チオ硫酸ナトリウムなども使用することができ、これらのスルホン酸基を導入できるものであれば特に限定されない。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の陽イオン交換膜およびその製造方法を実施例にもとづいてさらに詳細に説明する。なお、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
膜厚50μmのエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体フィルムを酸素不透過性ポリ袋中に挿入後、この袋内を窒素置換し、袋内の酸素を除去する。次いでこの基材を含む袋に電子線を25℃、加速電圧250keV、電子線電流10mAで、25kGy照射した。次いで、照射済み基材を大気中で取り出し、ガラス容器に移し替えた後、高純度窒素によりバブリングし、予め酸素ガスを除いた重合性混合物を充填した。重合性混合物は単量体として重合性単量体であるスチレンおよび架橋性単量体であるジビニルベンゼンを含むシクロヘキサン溶液であり、溶液中における総単量体濃度は75重量%とし、総単量体中における架橋性単量体割合は3重量%に調整した。充填後、50℃で120分グラフト重合した後、膜をガラス容器より取り出し、アセトン、メタノールの順で洗浄し、真空乾燥して重量を測定した。グラフト率は105%であった。
【0023】
1,2−ジクロロエタンを溶媒とする濃度10重量%のクロロスルホン酸溶液に、グラフト反応後の基材を室温で24時間浸漬した後、膜を十分に水洗した。その後、濃度10重量%の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬した。得られた陽イオン交換膜はよく水洗し、0.5N−NaCl水溶液中に保存した。合成した膜の膜厚は96μmであった。得られた陽イオン交換膜の破裂強度はミューレン式破裂強度試験機により測定した。
【0024】
さらに、該陽イオン交換膜と市販の陰イオン交換膜(旭硝子(株)ASA)を小型電気透析装置(膜面積8cm)に装着し、濃縮試験を実施した。脱塩室流速は6cm/s、電流密度3A/dmの濃縮条件で供給液は0.5Mの塩化ナトリウム水溶液を用いた。
【0025】
実施例1と異なる方法で合成した膜を実施例2〜20、現在製塩用陽イオン交換膜として使用されている膜を比較例1〜2とし、実施例1とあわせ、合成条件及び膜特性を表1に示す。なお、比較例1で使用されている製塩用陽イオン交換膜は旭硝子(株)社製セレミオンCSOであり、比較例2で使用されている製塩用陽イオン交換膜はアストム社製ネオセプタCMXである。
【0026】
【表1】

【0027】
また、濃縮試験の結果として膜抵抗と濃縮液の塩化ナトリウム濃度との関係を図1に示す。
表1に示したとおり本発明に従って製造したいずれの膜についても、市販されている製塩用陽イオン交換膜と比較し、高い破裂強度を示した。
また、膜抵抗も市販膜とほぼ同等か、それより低い値を示した。
さらに、図1に示したとおり、本発明に従って製造したいずれの陽イオン交換膜についても、市販されている陽イオン交換膜と比較し同等以上の濃縮性能を示した。なお、図1中に示した直線は、市販イオン交換膜と同等の濃縮性能を示す直線であり、直線より上部に示される膜性能はすべて市販膜より高い濃縮性能であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例及び比較例における陽イオン交換膜の抵抗と濃縮液の塩化ナトリウム濃度との関係を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体フィルムに電離放射線を照射し、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体にラジカルを発生させた後、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体、及び架橋性単量体を含有する重合性混合物中でグラフト重合を行うことにより得られた製塩用陽イオン交換膜。
【請求項2】
前記陽イオン交換基を導入可能な官能基自体が陽イオン交換基でない場合には、グラフト重合後に、陽イオン交換基を付与できる化合物で処理することを特徴とする請求項1記載の製塩用陽イオン交換膜。
【請求項3】
前記陽イオン交換基を導入可能な官能基自体が、陽イオン交換基であることを特徴とする請求項1記載の製塩用陽イオン交換膜。
【請求項4】
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体フィルムに電離放射線を照射することにより、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体にラジカルを発生させた後、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体、及び架橋性単量体を含有する重合性混合物中でグラフト重合を行うことを特徴とする製塩用陽イオン交換膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−96821(P2009−96821A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266772(P2007−266772)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(396021483)財団法人塩事業センター (18)
【Fターム(参考)】