説明

製紙方法

【課題】アニオントラッシュを多く含むパルプスラリーに対する硫酸アルミニウムの増添を回避し、高い歩留濾水向上効果を得ることができる製紙方法を提供することを目的とする。
【解決手段】パルプスラリーにカチオン性ポリマー等の歩留濾水性向上剤する前に、強酸を添加する。強酸としては硝酸を用いることが好ましい。また、強酸を添加する前にロジンサイズ剤等のアニオン性の製紙用添加剤を添加することで、サイズ剤等の定着効果を高めることができる。強酸の添加位置は、歩留濾水性向上剤が添加されるシートマシンのヘッドボックス21の前段であればよく、例えば原質調整工程10で調整されたパルプスラリーをシートマシン21に送る第2流路管32の途中に第3薬注装置70を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプスラリーに歩留濾水性向上剤を添加して抄紙する製紙方法に関し、特に古紙等の再生パルプを製紙原料とする場合に適した製紙方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙を製造する製紙工程では、紙力増強剤、サイズ剤、または歩留濾水性向上剤といった様々な薬品が使用されている。特に近年では、製紙原料の節約および抄造効率を上げるため、濾水性または/および歩留率を向上させる添加剤(以下「歩留濾水性向上剤」)が使用されるケースが多い。
【0003】
一方、製紙原料として炭酸カルシウム等の填料を含む古紙や損紙、あるいはリグニンを含む機械パルプの利用率が向上している。またパルプを懸濁させる白水の循環回収率も増え、製紙工程のクローズド化が進行しているため、製紙工程系内を循環する水中にアニオン性不純物(いわゆる「アニオントラッシュ」)が増えている。アニオントラッシュは歩留濾水性向上剤を消費するため、アニオントラッシュの増加は歩留濾水性向上剤の効果を低下させ、ピッチや欠陥を発生させて紙製品の品質低下、断紙や生産スピードダウンによる生産性の低下を招く。
【0004】
こうしたアニオントラッシュの増加に起因する問題に対し、パルプスラリーに添加するアルミニウム化合物の添加量を増加させる対策が講じられている。アルミニウム化合物としては、例えば塩化アルミニウムを単独または塩酸と併用して用いる場合、または硫酸アルミニウムを単独または硫酸と併用して用いる場合等が考えられる。しかし、塩化物イオンは抄紙用の装置等を腐食させるおそれがあるため、塩化アルミニウムは実用的にはほとんど用いられていない。
【0005】
一方、硫酸アルミニウムは取り扱いが容易であり、広く使用されているが、製紙原料として古紙が多く使用される場合や、パルプスラリーに填料として炭酸カルシウムが添加されているような場合は、硫酸イオンとカルシウムイオンとが反応して硫酸カルシウムのスケールが生じ、抄紙用の装置等に付着する問題が生じる。このため、こうしたスケールの生成に対して、スケール防止剤を添加する方法等が提案されている。
【0006】
また、カチオン性のポリマーは特にアニオントラッシュの影響を受けやすいため、アニオン性ポリマーを使用することにより、歩留または/および濾水性向上効果(以下、「歩留濾水性向上効果」)を高める方法も提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−329484号公報
【0007】
アニオントラッシュの増加に対しては、上記のような対策が提案されているが、製紙系内で循環利用される白水の循環回収率が増加するにつれて硫酸イオン濃度は上昇するため、スケール防止剤を添加しても系内の硫酸イオン濃度の上昇は回避できない。このため、硫酸アルミニウムの添加量を増やす上記の方法では、系内の硫酸イオン濃度を低下させてスケール発生を防止するため、本来、循環利用できる白水の一部を排出し、新たに市水等を添加して硫酸イオン濃度を希釈せざるを得ない場合もある。
【0008】
また、抄紙工程ではサイズ剤等の製紙用添加剤のパルプへの定着を促進する目的等で硫酸アルミニウムが添加されパルプスラリーが酸性化することから、アニオン性ポリマーが解離しがたく、ポリマーによる凝集効果が安定して発揮されない場合がある。さらに、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとを併用する場合はポリマーの添加量が多くなるといった問題もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、硫酸アルミニウムの増添を回避し、製紙系内の白水の循環回収率を高めても硫酸カルシウム等のスケール障害を抑制できる製紙方法を提供することを目的とする。本発明はまた、歩留濾水性向上剤の添加量を削減でき、特にカチオン性ポリマーを単独使用した場合でも、アニオントラッシュによる紙製造上の障害を防止できる製紙方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を克服すべく鋭意検討した結果、本発明者は、歩留濾水性向上剤の添加に先立って強酸を添加することで、歩留率が高まり、またサイズ剤等のアニオン性の製紙用添加剤の効果も高まることを見出し、本発明を完成させた。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0011】
(1) パルプスラリーに歩留向上または/および濾水性向上効果を有する歩留濾水性向上剤を添加した後、抄紙して脱水する抄紙工程を含む製紙方法であって、 前記パルプスラリーに強酸を添加した後、前記歩留濾水性向上剤を添加する製紙方法。
【0012】
「強酸」とは、水溶液系で酸解離指数が3以下の酸であり、本発明では無機、または有機のどちらの強酸を使用してもよい。無機強酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、過塩素酸、およびフッ酸等が挙げられ、有機の強酸としてはトリクロロ酢酸、スルホン酸、およびピクリン酸等が挙げられる。
【0013】
強酸の添加量は、パルプスラリーに含まれる不溶性懸濁物(SS)の乾燥質量に対して、2〜400モル/t、特に、20〜200モル/tとすることが好ましい。また、歩留濾水性向上剤の添加は、強酸を添加した時点から5分以内に行うことが好ましく、特に3分以内に行うことが好ましく、さらに好ましくは60秒以内に行うとよい。強酸を添加してから歩留濾水性向上剤を添加するまでの時間が長すぎると、添加された強酸がアニオントラッシュ以外の物質、例えば粒子状で存在する炭酸カルシウム等と反応して消費され、アニオントラッシュの電荷中和効果を充分に得ることができない場合がある。一方、強酸を添加してから歩留濾水性向上剤を添加するまでの時間が短すぎると、添加された強酸とアニオントラッシュとの反応が充分に進まず、アニオントラッシュの電荷中和効果が充分に得ることができない場合がある。
【0014】
「歩留濾水性向上剤」とは、抄紙工程でパルプスラリーに添加され、パルプスラリーを抄造する際にSSの歩留率を向上させる効果、または抄造されたパルプを脱水する際に濾水性を向上させる効果の少なくとも一方または両方を有する製紙用添加剤を意味するものとする。具体的には、アクリルアミド、ポリエチレンイミン、およびポリビニルアミン等を素材とするカチオン性、アニオン性、または両性ポリマー等が挙げられ、前記ポリマーのホフマン変性物またはマンニッヒ変性物等を用いることもできる。
【0015】
本発明では、歩留濾水性向上剤の添加前にパルプスラリーに強酸を添加することにより、アニオントラッシュ表面の電荷を減少させることができる。このため、強酸の添加後に使用する歩留濾水性向上剤は特に限定されず、アニオントラッシュの影響を受けやすいカチオン性ポリマーを素材とする歩留濾水性向上剤を単独処方することもできる。
【0016】
ここで強酸添加による歩留濾水性向上効果の作用機構について説明する。本発明でパルプスラリーに添加される強酸は、それ自体はアニオントラッシュを中和しないが、アニオントラッシュの多くはカルボキシル基を有するため、強酸をパルプスラリーに添加することにより、アニオントラッシュのカルボキシル基が下記反応式に従い、遊離型になるものと考えられる。そしてかかる反応によりアニオントラッシュ表面の電荷が減少し、歩留濾水性向上剤が消費されることが防止されるものと推測される。
【0017】
【化1】

(式中、R−COOはアニオントラッシュを表し、HAは強酸、Mは金属を表す)
【0018】
強酸を添加した後、歩留濾水性向上剤を添加したパルプスラリーは、抄紙工程を構成する抄紙機の紙料流出部からシート状にしてワイヤパートに送り、ワイヤパートで脱水して抄造する。抄紙工程でシート状に抄造されたパルプ(以下、「抄造パルプ」と称する)が脱水されて生じる脱水濾液(以下、単に「濾液」と称する)は、抄紙工程からパルプスラリーを調整する原質調整工程に還流させ、再利用することが好ましい。なお本明細書において、製紙原料を懸濁させる水のうち、還流され循環利用される水を「白水」と称し、市水のように新たに製紙工程に導入される水を「清水」と称する。
【0019】
(2) 前記パルプスラリーは、再生パルプまたは/および機械パルプを含む(1)に記載の製紙方法。
【0020】
「パルプスラリー」とは、製紙原料を水に懸濁させて得られる液状物であり、植物組織に由来するパルプ繊維を主体とするSSが含まれる。パルプスラリーはSS濃度が2〜20質量%程度の「濃厚パルプスラリー」と、この濃厚パルプスラリーがSS濃度0.1〜2質量%程度に希釈された抄造用に希釈した「希釈パルプスラリー」とに大別されるが、本明細書において「パルプスラリー」という場合は両者が含まれるものとする。すなわち、本発明において、強酸は濃厚パルプスラリーまたは希釈パルプスラリーのどちらに添加してもよいが、特に希釈パルプスラリーに添加することが好ましい。
【0021】
ここで「製紙原料」とは紙(板紙を含む)を製造するための原料であり、化学パルプ(「クラフトパルプ」とも称する)および機械パルプ等のいわゆるバージンパルプと、再生パルプとに大別される。再生パルプには、「ブロークパルプ」と呼ばれる製紙工程における製造残渣(損紙)および再生用古紙が含まれ、「ブロークパルプ」にはウェットブロークパルプ、ドライブロークパルプ、およびコートブロークパルプの両方が含まれる。
【0022】
本発明では、強酸添加によりアニオントラッシュによる製紙障害を低減できるため、製紙原料としてアニオントラッシュの原因物質を多く含む再生パルプおよび機械パルプの配合率を高くすることができる。具体的には再生パルプの場合、製紙原料全体に対する配合率を30質量%以上とすることができ、製紙原料の全量を再生パルプとすることもできる。また、機械パルプの場合は、製紙原料全体に対する配合率を10質量%以上とできる。なお、再生用古紙は、回収された古紙を裁断および脱墨する等の前処理をした後、原質調整工程において製紙原料として水に懸濁させてもよく、前処理を行わずにそのまま原質調整工程で水に懸濁させた後、脱墨処理等を行なってもよい。
【0023】
(3) 前記パルプスラリーは、アニオン性の製紙用添加剤を含む(2)に記載の製紙方法。
【0024】
本明細書において、「製紙用添加剤」とは抄造用のパルプスラリーに含まれる製紙用内添薬品を指し、具体的には歩留濾水性向上剤、紙力増強剤、サイズ剤、および染料が含まれるものとする。パルプスラリーは、製紙用添加剤以外にも填料として添加される炭酸カルシウム、クレー、タルク、およびシリカ等もSSとして含んでよい。アニオン性の製紙用添加剤としては、澱粉系またはアクリルアミド系の紙力増強剤、ロジンを主成分とする天然系のロジンサイズ剤、無水アルケニルコハク酸(ASA)等の合成サイズ剤、および染料が挙げられる。
【0025】
本発明によれば、上記の化学反応機構と同様の機構で強酸がアニオン性製紙用添加剤表面のアニオン性基団と反応する結果、これらアニオン性製紙用添加剤のパルプ繊維への定着が促進される。
【0026】
(4) 前記アニオン性の製紙用添加剤は、ロジンサイズ剤、合成サイズ剤、および染料からなる群より選ばれる1種以上である(3)に記載の製紙方法。
【0027】
合成サイズ剤の具体的な例としては、アルキルケテンダイマー(AKD)、ASA、およびアルキルアミン等が挙げられる。特にサイズ剤としてロジン系、AKD系、およびASA系のサイズ剤を使用する場合に、強酸添加によるパルプ繊維への定着促進効果として高い効果が得られる。
【0028】
製紙用添加剤の添加量は、いずれも乾燥パルプ質量に対する添加割合として、ロジンサイズ剤については0.01〜0.5質量%、特に0.1〜0.4質量%、合成サイズ剤については0.01〜0.5質量%、特に0.1〜0.4質量%とすることが好ましい。
【0029】
(5) 前記パルプスラリーに前記アニオン性の製紙用添加剤を添加した後、前記強酸を添加する(3)または(4)に記載の製紙方法。
【0030】
サイズ剤等の製紙用添加剤は、強酸の添加後にパルプスラリーに添加してもよいが、(5)記載の発明に従い、強酸を添加する前に添加しておくことが好ましい。製紙用添加剤は、パルプスラリーにおいてパルプ繊維等とともにSS成分として存在しており、強酸を添加することにより、抄紙工程でのSSの定着率をより向上させることができる。
【0031】
なお、強酸の添加後にアニオン性の製紙用添加剤を添加する場合、歩留濾水性向上剤はアニオン性の製紙用添加剤の添加前、または添加後のどちらのタイミングで添加してもよく、アニオン性の製紙用添加剤と同じタイミングで添加してもよいが、アニオン性の製紙用添加剤の添加後に添加することが好ましい。
【0032】
(6) 前記強酸は硝酸である(1)から(5)のいずれかに記載の製紙方法。
【0033】
パルプスラリーに添加する強酸の種類は特に限定されるものではないが、硝酸は硫酸や塩酸に比べて装置等を腐食させるおそれが低く、また歩留濾水性を高める効果も高いため、特に好適に用いることができる。硝酸を使用する場合、添加量は2〜400モル/t、好ましくは20〜200モル/tとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、アニオントラッシュによる紙製品の品質低下や生産効率の低下を防止できる。また、製紙工程におけるカルシウムスケールの発生を抑制して、製紙系内を循環する白水の循環回収率を高めることができる。さらに、歩留濾水性向上剤およびサイズ剤等のアニオン性の製紙用添加剤の効果を増強してこれらの薬品の添加量を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。図1は本発明に係る製紙方法を実施するための製紙装置1を模式化した模式図であり、製紙装置1では原質調整工程10および抄紙工程20を経て紙が製造される。原質調整工程10は、製紙原料と水とが導入されパルプスラリーが調製されるパルパ14と、ミキシングチェスト15と、マシンチェスト16と、種箱17と、スクリーン18と、を含んで構成される。一方、抄紙工程20は抄紙機40で構成され、抄紙機40はヘッドボックス21を備えるシートマシンと、ワイヤパート22と、プレスパート23と、ドライヤパート24と、を含んで構成される。また、製紙装置1の系内には後述する濾液が貯留される白水タンク11が設けられている。
【0036】
パルパ14とミキシングチェスト15とは第1路管31で接続され、ミキシングチェスト15とマシンチェスト16とは第2流路管32で接続され、マシンチェスト16と種箱17とは第3流路管33で接続され、種箱17とスクリーン18とは第4流路管34で接続されている。また、スクリーン18を通ったパルプスラリーは、第5流路管35から抄紙機40のヘッドボックス21に送られる。
【0037】
パルパ14には損紙等を供給するコンベア12が取り付けられている。ミキシングチェスト15には、脱墨古紙パルプ(DIP)の貯槽15aからDIPを供給するDIP配管36aと、コートブロークパルプ(CBP)の貯槽15bからCBPを供給するCBP配管36bと、クラフトパルプ(LBKP)の貯槽15cからLBKPを供給するLBKP配管36cとが取り付けられている。種箱17には、製紙用添加剤を添加する第1薬注装置50が第1薬注管51を介して接続されている。また第4流路管34の種箱17側には、強酸を添加する第2薬注装置60が第2薬注管61を介して接続され、スクリーン18側には歩留濾水性向上剤を添加する第3薬注装置70が第3薬注管71を介して接続されている。
【0038】
第1流路管31〜第5流路管35の途中には、適宜、ポンプPを設けることが好ましく、本実施形態では、第3流路管33および第4流路管34の途中にポンプPがそれぞれ設けられている。なお、原質調整工程10でのパルプスラリーの調整段階は適宜、設定でき、パルプスラリーの調整段階に応じてパルパ14からスクリーン18までの間に設けるチェスト、配管、およびポンプの数は適宜、設定すればよい。本実施形態では、パルパ14で損紙等を溶解して得たパルプスラリーをミキシングチェスト15に送り、ミキシングチェスト15でDIP、CBP、LBKP等を配合した後、マシンチェスト16を介して種箱17でサイズ剤等の製紙用添加剤を添加する構成としている。
【0039】
次に、この製紙装置1を用いた製紙方法について説明する。まず、原質調整工程10で、コンベア12から再生パルプ等の製紙原料をパルパ14に供給し、白水タンク11から供給される白水等と混合し、リファイナー等で叩解してパルプを溶解させる。水に溶解されたパルプは、第1流路管31を介してミキシングチェスト15へ供給し、DIP、CBP、およびLBKP等を適宜、配合し、白水等を加えてパルプスラリーを得る。得られたパルプスラリーは第2流路管32を介してマシンチェスト16に送り、次に第3流路管33から種箱17へ送る。
【0040】
種箱17では第1薬注装置50からアニオン性の製紙用添加剤として、例えばロジンサイズ剤を0.02〜1質量%の添加量で、また、染料としてアニオン性製紙用染料を10〜500g/t添加量で添加する。さらに、ロジンサイズ剤等のパルプへの定着を促進するために硫酸アルミニウムを添加量0.1〜5質量%で図示しない薬注装置から添加する。なお、添加量はいずれも乾燥パルプの質量に対する添加割合である。
【0041】
次に、製紙用添加剤を添加したパルプスラリーを第4流路管34、スクリーン18および第5流路管35を介して抄紙機40に供給する。なお、本実施形態では種箱17と抄紙機40の間には、渦巻きポンプ等のポンプPを備える第4流路管34、スクリーン18、および第5流路管35が設けられているが、他にクリーナー等を設けてもよい。
【0042】
本実施形態の製紙装置1では、第2薬注装置60に接続された第2薬注管61が第4流路管34の途中に接続されたポンプPより種箱17寄りに接続され、第3薬注装置70に接続された第3薬注官71がポンプPよりスクリーン18寄りに接続されている。そこで、本発明では第2薬注装置60から第2薬注管61を介して、製紙用添加剤が添加されたパルプスラリーに強酸として硝酸の水溶液を2〜400モル/tの添加量となるように添加する。次いで、第3薬注装置70から第3薬注管71を介して強酸が添加されたパルプスラリーに歩留濾水性向上剤をさらに添加する。なお、第2薬注管61の接続位置、第3薬注管71の接続位置、および第4流路管34の長さは、強酸が添加されてから製紙用添加剤が添加されるまでの時間が5分以内、好ましくは3分以内、さらに好ましくは60秒以内となるよう、設定されている。
【0043】
このようにして本実施形態では、パルプスラリーにサイズ剤等のアニオン性製紙用添加剤と、強酸と、歩留濾水性向上剤とを順次添加し、ヘッドボックス21から供出してシート状の抄造パルプ30とする。抄造パルプ30は、ワイヤパート22で脱水され、ワイヤパート22からは脱水により生じる濾液が排出される。この濾液は白水ピット13により捕集され、白水タンク11に貯留される。ワイヤパート22で脱水された抄造パルプ30はさらに、プレスパート23で互いに対向するロールの間に挟まれて圧搾脱水される。プレスパート23から送り出された抄造パルプ30はドライパート24で乾燥され、必要に応じて表面処理剤等が添加され、紙製品が製造される。
【0044】
本発明では、歩留濾水性向上剤の添加前にパルプスラリーに強酸を添加することにより、アニオントラッシュによる歩留濾水性向上剤の効果阻害が防止されるため、ワイヤパート22およびプレスパート23から発生する濾液を、集水管37を介して白水タンク11に貯留し、還流管38から原質調整工程10に還流させて再利用できる。
【0045】
なお、強酸は歩留濾水性向上剤より前に添加すればよく、強酸を添加する第2薬注装置60の取り付け位置は上記実施形態に限られない。例えば、本実施形態の変形例として第2薬注装置60を第3流路管33に接続してもよい。第3流路管33の途中にはポンプPが設けられているが、第2薬注装置60に接続された第2薬注管61は、ポンプPより前側、つまりマシンチェスト16に近い側に接続してもよく、あるいはポンプPより後側、つまり種箱17に近い側に接続してもよい。
【0046】
同様に、歩留濾水性向上剤を添加する第3薬注装置70の取り付け位置もワイヤパート22の前段であれば特に上記実施形態に限られない。具体的には、第3薬注装置70に代えて第5流路管35の途中に薬注装置を設けてもよい。また、図1に示すように、第3薬注装置70を設け、さらに、第5流路管35の途中に第4薬注管81を介して第4薬注装置80を設けてもよい。第3薬注装置70と第4薬注装置80とを併設する場合、例えば第3薬注装置70からカチオン性の歩留濾水性向上剤を添加し、第4薬注装置80からはアニオン性の歩留濾水性向上剤を添加するというように、第3薬注装置70と第4薬注装置80とから異種の薬剤を添加してもよい。あるいは、第3薬注装置70および第4薬注装置80の両方から同種の、たとえばカチオン性の歩留濾水性向上剤を添加してもよい。さらに、サイズ剤等のアニオン性の製紙用添加剤の位置も特に限定されない。
【実施例】
【0047】
次に、実施例および比較例について説明する。実施例および比較例で用いた機器、薬品および試験方法は以下の通りである。
[使用機器]
歩留試験機 :ダイナミックフィルトレーションシステム(ミューテック社製)
シートマシン :丸型シートマシン(熊谷理機工業株式会社製)
[使用薬品]
硫酸アルミニウム:多木化学株式会社製
硝酸アルミニウム:和光純薬工業株式会社製・和光一級(硝酸アルミニウム九水和物、純度99.9%)
硝酸 :和光純薬工業株式会社製・和光一級
硫酸 :和光純薬工業株式会社製・和光一級
塩酸 :和光純薬工業株式会社製・和光一級
カチオン化澱粉 :日本エヌエスシー株式会社製・CATO-3212
サイズ剤 :荒川化学工業株式会社製・サイズパインNT-87
炭酸カルシウム :奥多摩工業株式会社製・TP-121
カチオン性歩留濾水性向上剤:栗田工業株式会社製・ハイホールダー222
【0048】
[実施例1]
製紙原料として、製紙工場より採取した広葉樹を原料とするバージンパルプであるクラフトパルプ(LBKP)を60質量%、再生用古紙である脱墨古紙パルプ(DIP)を30質量%、機械パルプであるThermo Mechanical Pulp(TMP)質量10%の割合(いずれも乾燥パルプに対する質量比)で配合した後、水道水を添加してSS濃度0.8質量%のパルプスラリーを調製した。このパルプスラリーをダイナミックフィルトレーションシステム(以下、「DFS」)に投入し、パルプスラリーに硫酸、カチオン化澱粉、硫酸アルミニウム、サイズ剤、炭酸カルシウム、および歩留濾水性向上剤の順で順次添加して抄造用のパルプスラリー(以下、「抄造用パルプスラリー」)を得た。各薬品の添加間隔は全て10秒とした。
【0049】
薬品の添加量は、いずれも乾燥パルプ質量に対する割合で、硫酸が50モル/t、カチオン化澱粉が0.5質量%、硫酸アルミニウムが1質量%、サイズ剤が0.25質量%、炭酸カルシウムが15質量%、歩留濾水性向上剤が0.01質量%とした。なお、カチオン化澱粉はパルプの定着剤および紙力増強剤として、硫酸アルミニウムはロジンサイズ剤の定着剤として、炭酸カルシウムは填料として添加した。
【0050】
上述した操作により得られた抄造用パルプスラリーをDFSで脱水して得られた濾液をDFSから採取し、抄造用パルプスラリーのSS濃度と濾液のSS濃度を測定することからSS成分全体の歩留率を求めた。また、抄造用パルプスラリーと濾液に含まれるSS中の灰分を測定することから、灰分の歩留率を求めた。
【0051】
また、上記抄造用パルプスラリーを、丸型シートマシンに投入してシート状に抄造して乾燥させることにより紙シートを作製し、この紙シートのサイズ度(ステキヒトサイズ度)を測定した。
【0052】
[実施例2]
実施例2として薬品の添加順序を、カチオン化澱粉、硫酸アルミニウム、サイズ剤、炭酸カルシウム、硫酸、歩留濾水性向上剤とした以外は実施例1と同じ操作で抄造用パルプスラリーを調製し、実施例1と同じ試験を行なった。
【0053】
[実施例3]
実施例3として硫酸を塩酸に変更した以外は実施例1と同じ操作で抄造用パルプスラリーを調製し、実施例1と同じ試験を行なった。
【0054】
[実施例4]
実施例4として硫酸を塩酸に変更した以外は実施例2と同じ試験を行なった。
【0055】
[実施例5]
実施例5として硫酸を硝酸に変更した以外は実施例1と同じ試験を行なった。
【0056】
[実施例6]
実施例6として硫酸を硝酸に変更した以外は実施例2と同じ試験を行なった。
【0057】
[実施例7]
実施例7として硝酸の添加量を100モル/tとした以外は実施例6と同じ試験を行なった。
【0058】
[比較例1]
比較例1として強酸を添加しない以外は実施例1と同じ試験を行なった。
【0059】
[比較例2]
比較例2として歩留濾水性向上剤の添加量を2倍(0.02質量%)とした以外は比較例1と同じ試験を行なった。
【0060】
[比較例3]
比較例3として硫酸アルミニウムの添加量を3倍(3質量%)とした以外は比較例1と同じ試験を行なった。
【0061】
表1に実施例1〜7および比較例1〜3の添加薬品の種類、添加順序添加割合、および試験結果を示す。なお、表1において添加薬品は添加順に右から左に向かって並べ、カチオン化澱粉は「澱粉」、硫酸アルミニウムは「硫酸アルミ」、炭酸カルシウムは「炭カル」と省略して表示する。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示すように、強酸を添加した実施例1〜7では、強酸を添加しなかった比較例1〜3に比べ、サイズ度および歩留率が向上した。特に、サイズ剤を添加した後、強酸を添加した実施例2、実施例4、および実施例6は、サイズ剤を添加する前に強酸を添加した実施例1、実施例3、実施例5と比較してサイズ度が2倍以上高くなり、歩留向上効果も高まった。また、強酸としては硝酸を用いた場合、サイズ度および歩留率向上効果が最も高くなることが示された。
【0064】
強酸を添加した場合の歩留率は、実施例の2倍の歩留濾水性向上剤を添加した比較例2と同等またはそれ以上であるため、本発明によれば歩留濾水性向上剤の添加量を大幅に削減できることになることが示された。また、強酸を添加してサイズ剤を添加した場合のサイズ度は、硫酸アルミニウムを実施例の3倍量添加した比較例3と同等であり、本発明によればアニオントラッシュが多いパルプスラリーに対しても硫酸アルミニウムの添加量を少なくすることができ、スケール生成を防止できることが示された。さらに本実施例では、歩留濾水性向上剤としてはカチオン性のポリマーを単独で使用したが、少ない添加量でも良好な歩留率およびサイズ度が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、板紙を含む紙の製造に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る製紙工程を実施する製紙装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0067】
1 製紙装置
10 原質調整工程
20 抄紙工程
11 白水タンク
14 パルパ
22 ワイヤパート
23 プレスパート
24 ドライヤパート
50 第1薬注装置
60 第2薬注装置
70 第3薬注装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプスラリーに歩留向上または/および濾水性向上効果を有する歩留濾水性向上剤を添加した後、抄紙して脱水する抄紙工程を含む製紙方法であって、
前記パルプスラリーに強酸を添加した後、前記歩留濾水性向上剤を添加する製紙方法。
【請求項2】
前記パルプスラリーは、再生パルプまたは/および機械パルプを含む請求項1に記載の製紙方法。
【請求項3】
前記パルプスラリーは、アニオン性の製紙用添加剤を含む請求項2に記載の製紙方法。
【請求項4】
前記アニオン性の製紙用添加剤は、ロジンサイズ剤、合成サイズ剤、および染料からなる群より選ばれる1種以上である請求項3に記載の製紙方法。
【請求項5】
前記パルプスラリーに前記アニオン性の製紙用添加剤を添加した後、前記強酸を添加する請求項3または4に記載の製紙方法。
【請求項6】
前記強酸は硝酸である請求項1から5のいずれかに記載の製紙方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−46180(P2007−46180A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229791(P2005−229791)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】