説明

製紙用パルプの漂白方法

【課題】元素状塩素を使用せずに行なうパルプの漂白処理において、従来よりも薬品の使用量を低減して高い白色度パルプを得ることができる製紙用漂白パルプの製造方法の提供。
【解決手段】針葉樹材を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素漂白後、二酸化塩素漂白段−アルカリ性過酸化水素漂白段−アルカリ段−二酸化塩素漂白を行ない、該アルルカリ段条件が、パルプ濃度5〜15%、温度40〜80℃、時間10〜180分、アルカリ添加率が対パルプあたり0.01〜0.2質量%である製紙用パルプの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用パルプの漂白方法に関し、更に詳しく述べれば、針葉樹材を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素漂白し、その後、元素状塩素を使用せずに行なう漂白方法を改良し、従来よりも薬品の使用量を低減して高白色度のパルプが得られる製紙用パルプの漂白方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロース物質を製紙原料として多くの用途に使用するためには、蒸解のような化学作用によってパルプ化した後、あるいはリファイナー等を用いて機械的作用によってパルプ化した後、得られるパルプを漂白薬品で漂白して白色度を高める必要がある。例えば、クラフトパルプは包装資材のように強度を必要とする用途に使う場合を除いて、通常、パルプに含まれるリグニン等が除去された後に漂白クラフトパルプとして使用されるのが一般的である。
【0003】
未漂白パルプから漂白パルプを製造する場合は、パルプ繊維自体の強度をある程度維持することが必要であり、そのためパルプ繊維を構成するセルロース、ヘミセルロース等の炭水化物の分解を最小限にとどめるように過激な1段での漂白を避け、漂白薬品と漂白条件を様々に組み合わせて穏やかな条件で漂白する3〜6段の多段漂白法を採用するのが一般的である。
【0004】
従来、製紙用パルプを漂白する方法としては、C(元素状塩素)−E(アルカリ抽出)−H(次亜塩素酸ナトリウム)−D(二酸化塩素)等の多段漂白法があり、主として塩素系薬品が使用されてきたが、塩素とパルプ中の有機物との反応により生成される環境に有害なダイオキシン等の有機塩素化合物が問題となり、酸素を用いた漂白段を初段に用い、塩素系漂白薬品を減少させる方法が採用されてきた。しかしながら、パルプの塩素化段からの漂白排水に含まれる有機塩素化合物(以下、AOXと略す)の環境への影響が懸念され、パルプ漂白に塩素を用いない動きが高まったことから、近年では元素状塩素を用いないECF(Elemental Chlorine Free)漂白が主流となっている。塩素や次亜塩素酸塩の代替としては、オゾン、二酸化塩素、過酸化水素及び過酢酸、過硫酸等の過酸が使用されているが、薬品コストが比較的低く、取り扱いも比較的容易な二酸化塩素や過酸化水素が主に使用されている。一部では、二酸化塩素も使用しないTCF(Totally Chlorine Free)漂白も採用されている。
【0005】
ECF漂白の代表的な多段漂白シーケンスとしては、二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、酸素(O)、過酸化水素(P)、オゾン(Z)を組合せた、D−E/O−D、D−E/P−D、D−E/OP−D、D−E/O−P−D、D−E/O−D−D、D−E/O−D−P、Z−E/O−D、Z−E/OP−D、Z−E/O−P−D等を挙げることができる。また、多段漂白工程中に、高温酸処理段(A)や酸洗浄段、酵素処理段、高温二酸化塩素漂白段、過硫酸や過酢酸等による過酸漂白段、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)やジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段等を導入する漂白シーケンスも一般的によく知られている。
【0006】
ECF漂白の改良法としては、二酸化塩素漂白段のpHを調整する方法(特許文献1)や、アルカリ抽出/過酸化水素漂白段(またはアルカリ性過酸化水素漂白段)と最終二酸化塩素漂白段のpHを調整する方法(特許文献2、3)、オゾン漂白段および前段の酸洗浄段のpHを調整する方法(特許文献4)が提案されており、各漂白段の反応pHの重要性がよく知られている。
【0007】
各漂白段の間には、フィルター型やツインロールプレス型に代表される洗浄機が設置され、パルプと反応排液とに分離され、パルプは次の漂白段に送られる。しかしながら、洗浄機で反応排液が全て除去されるわけではなく、実際には残存アルカリや未反応の漂白薬品が次工程にキャリーオーバーしてしまうという問題がある。例えば、D−E/O−Dといった漂白シーケンスにおいて、E/O段のアルカリが次段のD段にキャリーオーバーすると、D段のpHが変動して漂白効率が低下してしまう。この問題に対しては、最終D段のpHを調整する方法が提案されている(特許文献2)。一方、D−E/P−Dといった漂白シーケンスにおいては、E/Pのアルカリと共に未反応の過酸化水素が次段のD段にキャリーオーバーすると、過酸化水素と二酸化塩素が反応してしまい、漂白効率が低下するという問題がある。この問題に対しては、E/P段とD段の間に薬品を何も添加しない加温段を設置することで、D段にキャリーオーバーする残留過酸化水素を最小にする方法が提案されている(特許文献5)。しかしながら、この方法ではpHが中性付近の加温段では残留過酸化水素はほとんど反応せず、洗浄機を2回通す効果でキャリーオーバーが減り漂白効率の低下が抑えられているだけであり、残留過酸化水素を利用するには至らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−348790号公報
【特許文献2】特開平10−317291号公報
【特許文献3】特開2003−268688号公報
【特許文献4】特開2004−137653号公報
【特許文献5】特許第4344144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、元素状塩素を使用せずに行なうパルプの漂白処理において、従来よりも薬品の使用量を低減して高白色度のパルプが得られる製紙用パルプの漂白方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、一般的なパルプ工場の漂白設備の変更を必要とせず、経済的に高白色度のパルプを得ることの出来る無塩素漂白方法について種々検討を重ねた結果、アルカリ性過酸化水素漂白段に続き、アルカリ段を設けることで漂白効率が大きく改善し、従来よりも少ない薬品使用量で高白色度の漂白パルプが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本願発明は、以下の各発明を包含する。
(1)針葉樹材を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素漂白工程で処理した後、元素状塩素を使用せず多段漂白を行なう方法において、二酸化塩素漂白段、アルカリ性過酸化水素漂白段に続いてアルカリ段、二酸化塩素漂白段を行なう製紙用パルプの漂白方法。
(2)前記アルカリ段条件が、パルプ濃度5〜15%、温度40〜80℃、時間10〜180分、アルカリ添加率が対パルプあたり0.01〜0.2質量%である(1)記載の製紙用パルプの漂白方法。
(3)前記アルカリ性過酸化水素漂白段の過酸化水素添加率が対パルプあたり0.2質量%以上であることを特徴とする(1)又は(2)のいずれかに記載の製紙用パルプの漂白方法。
(4)前記アルカリ性過酸化水素漂白段に酸素を添加する(1)〜(3)のいずれか1項に記載の製紙用パルプの漂白方法。
【発明の効果】
【0012】
針葉樹材を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素漂白し、その後、元素状塩素を使用せず多段漂白を行なう方法において、アルカリ性過酸化水素漂白段に続いてアルカリ段、二酸化塩素漂白段を行なうことで、漂白効率が大きく改善された製紙用パルプの漂白方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、針葉樹材を用いる。針葉樹材は漂白性が悪く、漂白薬品が、高添加率になるため、アルカリ性過酸化水素漂白段後にアルカリ段を行なうことで、漂白効率が向上し、全体の漂白コストを大きく下げることが出来る。また、本発明で使用される未漂白パルプを得るための蒸解法としては、クラフト蒸解、ポリサルファイド蒸解、ソーダ蒸解、アルカリサルファイト蒸解等の公知の蒸解法を用いることができるが、パルプ品質、エネルギー効率等を考慮すると、クラフト蒸解法、又は、ポリサルファイド蒸解が好適に用いられる。
【0014】
例えば、木材をクラフト蒸解する場合、クラフト蒸解液の硫化度は5〜75%、好ましくは15〜45%、有効アルカリ添加率は絶乾木材質量当たり5〜30質量%、好ましくは10〜25質量%、蒸解温度は130〜170℃で、蒸解方式は、連続蒸解法あるいはバッチ蒸解法のどちらでもよく、連続蒸解釜を用いる場合は、蒸解液を多点で添加する修正蒸解法でもよく、その方式は特に問わない。
【0015】
蒸解に際して、使用する蒸解液に蒸解助剤として、公知の環状ケト化合物、例えばベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、アントロン、フェナントロキノン及び前記キノン系化合物のアルキル、アミノ等の核置換体、あるいは前記キノン系化合物の還元型であるアントラヒドロキノンのようなヒドロキノン系化合物、さらにはディールスアルダー法によるアントラキノン合成法の中間体として得られる安定な化合物である9,10−ジケトヒドロアントラセン化合物等から選ばれた1種あるいは2種以上が添加されてもよく、その添加率は木材チップの絶乾質量当たり0.001〜1.0質量%である。
【0016】
本発明では、公知の蒸解法により得られた未漂白化学パルプは、洗浄、粗選及び精選工程を経て、アルカリ酸素漂白法により脱リグニンされる。本発明に使用されるアルカリ酸素漂白法は、中濃度法あるいは高濃度法がそのまま適用できるが、パルプ濃度が8〜15%で行われる中濃度法が脱水装置を必要とせず、操業性がよいため好ましい。
【0017】
前記中濃度法によるアルカリ酸素漂白法において、アルカリとしては苛性ソーダあるいは酸化されたクラフト白液を使用することができ、酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。前記酸素ガスとアルカリは中濃度ミキサーにおいて中濃度のパルプスラリーに添加され、混合が十分に行われた後、加圧下でパルプ、酸素及びアルカリの混合物を一定時間保持できる反応塔へ送られ、脱リグニンされる。
【0018】
酸素ガスの添加率は、絶乾パルプ質量当たり0.5〜3質量%、アルカリ添加率は0.5〜4質量%、反応温度は80〜120℃、反応時間は15〜100分、パルプ濃度は8〜15%であり、この他の条件には制限はない。本発明では、アルカリ酸素漂白工程において、上記アルカリ酸素漂白を連続して複数回行い、できる限り脱リグニンを進めるのが好ましい実施形態である。アルカリ酸素漂白が施されたパルプは次いで洗浄工程へ送られる。パルプは洗浄後、酵素処理工程、酸処理工程、あるいは多段漂白工程へ送られる。
【0019】
本発明においては、アルカリ酸素漂白工程後、多段漂白の前に酵素処理工程を設けることが可能である。前記酵素処理工程で使用される酵素は、パルプと反応させることにより、JIS P 8206で測定されるパルプの過マンガン酸カリウム価が低下するものであればいかなる酵素でも良い。たとえば、キシラナーゼ、リグニンパーオキシダーゼ、マンガンパーオキシダーゼ、ラッカーゼ等が知られているが、勿論これらの酵素でも良く、未だ知られていない酵素でも該当する酵素であれば良いことは言うまでもない。また、これらの酵素は単独で用いてもよく、あるいは複合、混合して、さらには複数回に分けて使用することもできる。これらの酵素のうち、キシラナーゼと呼ばれるキシラン分解酵素は、漂白促進効果も同時に有しており、好適に用いられる。
【0020】
本発明の多段漂白処理工程では、初段は二酸化塩素漂白段(D)が好適に用いられ、二段目以降にアルカリ性過酸化水素漂白段(P)が用いられ、続いてアルカリ段(E)、二酸化塩素漂白段が用いられる。二段目にP段を用いる場合、初段のD段で分解されたリグニンをアルカリ条件で抽出する意味合いも兼ねることから、アルカリ抽出/過酸化水素漂白段(E/P)と呼ばれることもある。また、P段には補助薬品として酸素(O)を添加すると、過酸化水素の反応効率が向上し、漂白効率が改善されるために好適である。
【0021】
本発明の元素状塩素を使用しない多段漂白処理工程は初段にD段を用いる。D段を用いる多段漂白では二酸化塩素の使用量が多いので、本技術による二酸化塩素削減効果が大きく環境負荷が軽減できるため好ましい。また、初段に二酸化塩素とオゾンを併用するZ/D段を用いる多段漂白についても本発明を用いることが出来る。初段D段の終pHは2〜6、好ましくは2.5〜4であり、pHを調整するために任意の酸又はアルカリを補助的に添加することも可能である。また、本発明の二酸化塩素漂白段に用いられる二酸化塩素は、公知の多くの二酸化塩素発生法より得られる二酸化塩素から用いることができ、処理時間、処理温度、パルプ濃度等のその他の二酸化塩素漂白条件は、全て公知の条件を使用することができる。
【0022】
本発明では多段漂白工程の二段目以降において、アルカリ性過酸化水素漂白を行なう。P段の条件は、処理温度60〜90℃、処理時間40〜300分、パルプ濃度8〜15質量%といった条件が用いられる。P段の過酸化水素添加率は絶乾質量あたり0.01〜1.0質量%、好ましくは0.2〜0.5質量%であり、添加率が0.2質量%より少ないとP段における残留過酸化水素がほとんど無いために本発明の効果が小さく、添加率が0.5質量%を超えるとパルプ粘度の低下が大きくなるために好ましくない。本発明のP段およびE段、アルカリ抽出段に用いるアルカリは公知の多くのアルカリ化合物から選ぶことができるが、苛性ソーダが最も使用しやすく、好適に使用される。P段のアルカリ添加率は対絶乾パルプあたり0.3〜2質量%が好ましく、過酸化水素の反応性が高いpH10〜12の範囲に調整することが出来る。本発明のアルカリ抽出段およびP段では、酸素を併用することもできる。その他、本発明のアルカリ抽出段は、公知の条件で行うことができる。
【0023】
本発明のP段に続くアルカリ段(E)の処理条件は、パルプ濃度5〜15%、温度40〜80℃、処理時間10〜180分、アルカリ添加率は絶乾質量あたり0.01〜0.2質量%、好ましくは0.05〜0.2質量%である。パルプ濃度が5%より少ないと残留過酸化水素との反応が起こり難くなり、パルプ濃度15%を超えるとアルカリが均一に混ざり難くなるために好ましくない。処理温度が40℃より低いと残留過酸化水素の反応性が低く、80℃より高いと加温コストがかかりすぎるために好ましくない。50〜70℃の範囲が更に好ましい。処理時間が10分より短いと残留過酸化水素の反応が十分に起こらず、180分より長いと反応塔が大きくなり設備費が大きくなるために好ましくない。60〜150分の範囲が更に好ましい。アルカリ添加率が0.01質量%より低いとアルカリ段のpHが中性付近となり残留過酸化水素の反応性が低く、添加率0.5質量%以下でほぼ全ての残留過酸化水素は消費し、これ以上アルカリ添加率を増やしても薬品コストが増加するばかりである。アルカリ添加率は0.05〜0.2質量%の範囲がより好ましく、残留過酸化水素が十分に反応できる。
【0024】
本発明ではアルカリ段に続いて二酸化塩素漂白段(D)が行なわれる。D段は公知の条件で行なうことができるが、一般的にはパルプ濃度7〜15%、温度50〜80℃、処理時間90〜300分、絶乾質量あたり添加率0.1〜0.5質量%で行なわれる。多段漂白工程の漂白段数は特に限定されるわけではないが、エネルギー効率、生産性等を考慮すると、合計で四段あるいは五段で終了するのが好適である。本発明における多段漂白処理工程での漂白シーケンスのP段やE段には酸素を添加してもよく、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段や酸洗浄段、過酸漂白段等を追加してもよい。
【0025】
本発明では、P段の残留過酸化水素を続くアルカリ段で積極的に消費させ、残留過酸化水素によるパルプの漂白効果と、残留過酸化水素のD段へのキャリーオーバーが最小になって、二酸化塩素とパルプが効率よく反応する効果との組合せで、漂白効率が大きく改善されると考えられる。一般的に、残留過酸化水素が絶乾パルプあたり0.05質量%存在すると、添加率0.2質量%に相当する二酸化塩素を無駄に消費してしまうことが知られており、過酸化水素のキャリーオーバーの影響は大きい。一方、過酸化水素の反応性は反応溶液のpHで大きく異なり、pH9以下ではほとんど反応しないことが知られている。実際の工場におけるP段の終pHは10付近、洗浄後のパルプ随伴液pHは8付近であるため、P段―洗浄後のパルプを加温しても過酸化水素はほとんど反応せず、残留過酸化水素もほとんど消費されない。ここにアルカリを添加して、パルプ溶液のpHを過酸化水素の反応性が高いpH10付近にすることで、残留過酸化水素とパルプの漂白反応が起こり、漂白効率が大きく向上すると考えられる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、もちろん本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における薬品の添加率は絶乾パルプ質量当たりの質量%示す。
【0027】
1.パルプの白色度測定
漂白パルプを離解後、パルプスラリーに硫酸バンドを対パルプ3.0%加え、Tappi試験法T205os−71(JIS P 8209)に従って作成した坪量60g/mのシートを用い、JIS P 8123に従ってパルプの白色度を測定した。
【0028】
2.過酸化水素濃度測定
パルプスラリーからろ別したろ液を25ml採取し、4N硫酸10ml、1Nヨウ化カリウム溶液10ml、飽和モリブデン酸アンモニウム溶液数滴を加え、遊離したIをデンプン指示薬を用いてN/10チオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定し、以下の式から過酸化水素濃度を求めた。
(g/l)=滴定量(ml)×0.0017×(チオ硫酸ナトリウムのファクター)×40
P段での過酸化水素消費率は、次式で計算した反応開始時H濃度と、
反応開始時H濃度(g/l)=パルプ濃度(%)×添加率(%)/10
反応終了時の過酸化水素濃度から、
消費率(%)=100×(1−(反応終了時H濃度)/(反応開始時H濃度))
として、過酸化水素消費率を計算した。
残留過酸化水素量は、絶乾パルプあたりの質量%に計算した。
【0029】
実施例1
クラフト蒸解した針葉樹未晒パルプを、洗浄、酸素漂白を行ないカッパー価12.3のパルプを得た。このパルプに対し、二酸化塩素添加率1.5%、パルプ濃度10質量%、70℃で30分間二酸化塩素漂白を行なった。この時の終pHは2.7であった。続いて、ドラムフィルター型洗浄機で洗浄し、アルカリ添加率1%、過酸化水素添加率0.3%、パルプ濃度10質量%、70℃で120分間アルカリ性過酸化水素漂白を行なった。この時の終pHは10.1であった。続いてドラムフィルター型洗浄機で洗浄し、水酸化ナトリウム添加率0.2%、パルプ濃度10質量%、70℃で120分間、アルカリ処理を行なった。アルカリ添加前のパルプろ液のpHは8.0、アルカリ処理後のpHは10.8であり、残留過酸化水素量を絶乾パルプあたりの質量%で表すと0.04質量%に相当した。続いてドラムフィルター型洗浄機で洗浄し、二酸化塩素添加率0.3%、パルプ濃度10質量%、70℃で150分間二酸化塩素漂白を行ない、漂白パルプを得た。二酸化塩素漂白段の終pHは4.5であった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0030】
実施例2
実施例1において、アルカリ処理の水酸化ナトリウム添加率を0.1%とした以外は実施例1と同様の操作を行なった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0031】
実施例3
実施例1において、アルカリ処理の水酸化ナトリウム添加率を0.05%とした以外は実施例1と同様の操作を行なった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0032】
実施例4
実施例1において、アルカリ処理段におけるアルカリ添加率を0.01%とした以外は実施例1と同様の操作を行なった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0033】
実施例5
実施例1において、アルカリ性過酸化水素漂白段に酸素を0.05%添加した以外は実施例1と同様の操作を行なった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0034】
実施例6
実施例1において、アルカリ処理の水酸化ナトリウム添加率を0.1%とし、80℃で180分間処理した以外は実施例1と同様の操作を行なった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0035】
実施例7
実施例1において、アルカリ処理条件をパルプ濃度20%で60℃、100分間とした以外は実施例1と同様の操作を行なった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0036】
実施例8
実施例1において、アルカリ処理条件をパルプ濃度4%で40℃、180分間とした以外は実施例1と同様の操作を行なった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0037】
実施例9
実施例1において、アルカリ処理条件を80℃、20分間とした以外は実施例1と同様の操作を行なった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0038】
実施例10
実施例1において、アルカリ性過酸化水素漂白段における過酸化水素添加率を0.5%とした以外は実施例1と同様の操作を行なった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0039】
実施例11
実施例1において、アルカリ性過酸化水素漂白段における過酸化水素添加率を0.2%とした以外は実施例1と同様の操作を行なった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0040】
実施例12
実施例1において、アルカリ性過酸化水素漂白段における過酸化水素添加率を0.1%とした以外は実施例1と同様の操作を行なった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0041】
比較例1
実施例1において、アルカリ性過酸化水素漂白後に洗浄し、アルカリ処理を行なわずに二酸化塩素漂白を行なった以外は実施例1と同様の操作を行なった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0042】
比較例2
実施例1において、アルカリ処理段にアルカリを添加しない以外は実施例1と同様の操作を行なった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0043】
比較例3
実施例11において、アルカリ処理段にアルカリを添加しない以外は実施例6と同様の操作を行なった。この時のアルカリ性過酸化水素漂白段の添加率、終pH、過酸化水素消費率、洗浄後のパルプpH、残留過酸化水素量、アルカリ段の終pH、過酸化水素消費率、漂白パルプ白色度を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の実施例1〜9と比較例1〜3を比較することから明らかのように、過酸化水素漂白段と二酸化塩素漂白段の中間にアルカリ段を設けることで、二酸化塩素漂白段に持ち込まれる過酸化水素をパルプ漂白に利用でき、かつ残留過酸化水素と二酸化塩素との反応を抑制できるために、パルプの漂白効率を大きく改善することが出来る。また、比較例1と比較例2、実施例1を比較することから明らかのように、過酸化水素漂白段と二酸化塩素漂白段の中間にアルカリを添加しない加温段を設けても、残留過酸化水素と二酸化塩素との反応を抑制することでパルプの漂白効率を改善することは出来るが、残留過酸化水素をパルプ漂白に利用できないため、その効果が小さいことがわかる。次に、実施例1と実施例5から、過酸化水素漂白段に酸素を添加した場合においてもアルカリ段によってパルプの漂白効率を改善できることがわかる。さらに、実施例1と実施例10〜12から、アルカリ処理の効果は過酸化水素漂白段の過酸化水素添加率が低くても得られるが、過酸化水素添加率が高いほどその効果が大きいことがわかる。
このように本発明は漂白設備の変更を必要とせず、経済的に高白色度のパルプを得ることができ、無塩素漂白で高白色度の漂白パルプを得る方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針葉樹材を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素漂白工程で処理した後、元素状塩素を使用せず多段漂白を行なう方法において、二酸化塩素漂白段、アルカリ性過酸化水素漂白段に続いてアルカリ段、二酸化塩素漂白段を行なうことを特徴とする製紙用パルプの漂白方法。
【請求項2】
前記アルカリ段条件が、パルプ濃度5〜15%、温度40〜80℃、時間10〜180分、アルカリ添加率が対パルプあたり0.01〜0.2質量%であることを特徴とする請求項1記載の製紙用パルプの漂白方法。
【請求項3】
前記アルカリ性過酸化水素漂白段の過酸化水素添加率が対パルプあたり0.2質量%以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の製紙用パルプの漂白方法。
【請求項4】
前記アルカリ性過酸化水素漂白段に酸素を添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製紙用パルプの漂白方法。

【公開番号】特開2012−57263(P2012−57263A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199586(P2010−199586)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】