説明

製紙用化学パルプ中の不飽和ウロン酸の除去方法

【課題】 製紙用化学パルプの、分子状塩素を用いないECFあるいはTCF漂白方法において、完成漂白パルプの褪色性が悪化するとの問題に対して、漂白コストを押さえながら、パルプ粘度を保持し且つパルプ中の不飽和ウロン酸を減少させパルプの褪色性を改善する方法を提供する。
【解決手段】 製紙用化学パルプ中の不飽和ウロン酸を除去する方法において、グルクロニダーゼを添加することを特徴とするパルプ中の不飽和ウロン酸の除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用化学パルプの処理に関し、さらに詳しくは、化学パルプ中の不飽和ウロン酸の除去に関する方法である。
【背景技術】
【0002】
製紙用化学パルプの漂白は多段にわたる漂白処理により実施されている。従来より、この多段漂白には漂白剤として塩素系漂白薬品が使用されている。具体的には、塩素(C)、次亜塩素酸塩(H)、二酸化塩素(D)の組み合わせにより、たとえば、C−E−H−D、C/D−E−H−E−D(C/Dは塩素と二酸化塩素の併用漂白段、Eはアルカリ抽出段、−は洗浄処理)などのシーケンスによる漂白が行われてきた。
【0003】
しかし、これらの塩素系漂白薬品は漂白時に環境に有害な有機塩素化合物を副生し、この有機塩素化合物を含む漂白廃水の環境汚染が問題になっている。有機塩素化合物は一般にAOX法、たとえば米国環境庁(EPA METHOD−9020号)によって分析、評価される。
【0004】
有機塩素化合物の副生を低減・防止するには、塩素系薬品の使用量を低減するか、ないしは使用しない事が最も効果的であり、特に初段に分子状塩素を使用しないことが最も有効な方法である。この方法で製造されたパルプはECF(エレメンタリークロリンフリー)パルプと呼ばれ、更に塩素系薬品を全く用いずに製造されたパルプはTCF(トータリークロリンフリー)と呼ばれている。
【0005】
蒸解−酸素脱リグニン処理したパルプを初段に分子状塩素を用いない漂白方法として、初段に二酸化塩素を用いたD−Eo−D或いは、D−Eo−D−Dシークエンス、またアルカリ段に過酸化水素を用いたD−Eop−D、D−Eop−P−D、D−Eo−P−Dシークエンスによる漂白が一般に知られている(非特許文献1)。
【0006】
しかしながら、二酸化塩素は従来用いられていた塩素と比べると、ヘキセンウロン酸(以下、「HexA」と称することがある)の除去能力が低いために、漂白後のパルプに多量のHexAが残存する。この残存HexAがECFあるいはTCF漂白パルプの褪色性悪化の原因となっている(非特許文献2)。
【0007】
HexAとは、パルプ中に存在するヘミセルロースであるキシランの末端が、蒸解行程にて脱メタノールする事により生じる物質である。パルプの白色度への影響は小さいものの、分子内に二重結合を有するため、過マンガン酸カリと反応し、K価あるいはkappa価としてカウントされる(非特許文献2)。
【0008】
この褪色性悪化を改善するために、二酸化塩素あるいはオゾンの使用量を増やし、HexAを除去する方法がある。しかし、HexAは分子内の二重結合によりこれら酸化剤を消費するために、従来の塩素に比べ高価であるこれら酸化剤の使用量を増やすことは、漂白コストを大幅に高くするとの問題を生じる。
【0009】
非特許文献3には、高温酸処理でHexAを除去する方法が開示されている。その条件としては、90℃−180分、pH3程度の酸処理において、HexAを酸加水分解除去する方法が提案されている。この方法は、安価な酸によるpH調整だけでHexAを除去できることから有効な方法であるが、多量の蒸気を必要とするために、やはり漂白コストの増大は免れない。また、蒸気コストを下げるために、処理温度を70℃程度とすると、HexAは殆ど除去されない。また、高温で酸処理をするために装置材質として腐食につよいハステロイなどの高価な材質が必要になるとの問題点がある。
【0010】
さらに非特許文献3には、二酸化塩素処理条件を強化してHexAを除去する方法が開示されている。すなわち、漂白温度90℃、pH3、処理時間120分〜180分の処理でHexAを除去する方法である。この方法は、高温酸処理と二酸化塩素処理を組み合わせた方法であり、酸処理と同様多量の蒸気を必要とすること、高温で二酸化塩素処理を行うため通常の二酸化塩素処理に比べ、白色度の向上が劣るなどの問題点がある。また、高温で処理するため装置材質として高価な材質が必要となるとの問題点がある。
【0011】
非特許文献4には、広葉樹キシランから4−O−メチル−D−グルクロン酸を遊離するα−(1→2)−グルクロニダーゼを生産する微生物の探索を行っている。この研究の目的は、α−グルクロニダーゼで4−O−メチル−D−グルクロン酸(飽和ウロン酸)を除去して、広葉樹キシランを糖化することを目的としている。本発明者等は、蒸解処理後酸素漂白した広葉樹パルプ中のキシランに結合したヘキセンウロン酸(不飽和ウロン酸)を除去する事を目的としており、非特許文献4に本発明に関する示唆はまったく開示されていない。
【0012】
特許文献1には、パルプを漂白用酵素で処理し、その酵素を回収・再利用する方法が記載されている。漂白酵素の1種としてヘミセルラーゼを使用すること、そのヘミセルラーゼの例としてグルクロニダーゼが記載されているが、発明法であるα−グルクロニダーゼによる不飽和ウロン酸の除去については全く開示されていない。
【0013】
非特許文献4、特許文献1にはグルクロニダーゼについての検討が記載されているが、該酵素は一般に飽和ウロン酸の除去に用いられる酵素である。従って、本発明で見いだされたようにα−グルクロニダーゼが不飽和ウロン酸を除去できることは驚くべきことである。
【0014】
【特許文献1】特開平5−247865号公報
【非特許文献1】Chlorine Dioxide in Delignification ,Pulp & Paper ,University of Toronto
【非特許文献2】Tappi Journal May 2003、vol.2、No.5
【非特許文献3】Papehi ja Puu−Paper and Timber Vol.86 No.1 2004
【非特許文献4】森林総合研究所研究報告 第359号 141〜157
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、製紙用化学パルプの製造で、初段に分子状塩素を用いないECF漂白あるいはTCF漂白において、漂白コストの増大を最小限にとどめ、かつパルプ粘度を維持しながら、パルプ中に残存するHexAを除去する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、蒸解−酸素脱リグニン処理したパルプの、酵素処理について鋭意検討した結果、微生物として担子菌、糸状菌を培養して得られるグルクロニダーゼが、パルプ粘度を保持しながらパルプ中に残存しているHexAを除去できることを見いだし、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、製紙用化学パルプ中の不飽和ウロン酸を除去する方法において、グルクロニダーゼを添加することを特徴とするパルプ中の不飽和ウロン酸の除去方法に関するものである。ここで、グルクロニダーゼとして、α―グルクロニダーゼが好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、二酸化塩素主体の無塩素漂白における完成漂白パルプの褪色性が悪化するとの問題に対して、高価な二酸化塩素やオゾンを増量することなく、また新たに加温する必要もなく従来の漂白工程の温度でパルプ中のHexAを除去することが可能となる。その結果、優れたパルプ物性を保持しながら、かつ漂白コストを低く押さえながら、分子状塩素を用いないECFあるいはTCF漂白方法で製造されたパルプの熱褪色性を改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において処理されるパルプは、ポリサルファイドを含む、もしくは通常のクラフトパルプ化法(KP)、サルファイドパルプ化法(SP)、アルカリパルプ化法(AP)等のケミカルパルプ化法由来のパルプが好ましく、より好ましくはクラフトパルプ化法によって得られたパルプである。また、パルプ化に用いられる木本植物、草本植物については特に限定されるものではない。また、処理されるパルプは、前処理としてカッパー価20以下になるように公知の酸素脱リグニン処理を行ったものであり、好ましくはカッパー価12以下のものである。
【0019】
本発明で使用されるグルクロニダーゼ、またはキシロシダーゼ若しくはキシラナーゼを含有するグルクロニダーゼは、担子菌類、糸状菌から生産される。担子菌類としては、Agrocybe cylindracea、Anellaria semiovata、Asterophora lycoperdoides、Auricularia auricular-judae、Auriscalpium vulgare、Bondarezewia montana、Chlorosplenium aeruginosumのようなChlorosplenium属、Clitocybe acromelalga、Clitocybe nebularis、Coriolus consors、Coriolus hirsutus、Coriolus pubescens、Coriolus versicilor、Cortinarius cinnamomeus、Crinipellis stipitaria、Cryptoporus volvatus、Cyathus stercoreus、Cyclomyces fuscus、Cymatoderma elegans、Daedaleopsis tricolor、Daldinia concentrica、Favolus arcularius、Filoboletus manipularis、Flammulina velutipes、Formes formentarius、Fomitopsis pinicola、Hebeloma radicosum、Hirschioporus abietinus、Inonotus cuticularis、Irepex lacteus、Lactarius chrisorheus、Laetiporus sulphureus、Lampteromyces japonicus、Lentinus edodes、Lentinus lepideus、Lenzites betulina、Lepista nuda、Lyophyllum shmeji、Macrolepiota procera、Merurius tremellosus、Naematoloma sublaterritium、Onnia orientalis、Oudemansiella mucida、Oudemansiella radicata、Panellus serotinus、Panus rudis、Phanerochaete chrysosporium、Pholiota adipose、Pholiota aurivella、Pholiota nameko、Pleurotus ostreatus、Podostroma cornu-damae、Polyporellus brumalis、Polyporus tuberaster、Porodisculus Pendulus、Pseudohiatula ohshimae、Psilocybe argentipes、Pycnoporus coccineus、Schizophyllum commune、Stereum annosum、Stereum frustulosum、Stereum hirsutum、Stereum roseum、Stropharia aeruginosa、Trametes albida、Trametes gibbosa、Tremella foliacea、Tremella fuciformis、Urnula craterium、wynnea giganteaなどがあり、Chlorosplenium aeruginosumwが好適である。
【0020】
糸状菌類としては、Aspergillus niger、Aspergillus japonicus、Aspergillus pulverulentus、Aspergillus terreus、Aspergillus versicolorのようなAspergillus属、Trichoderma aureoviride、Trichoderma hamatum、Trichoderma harzianum、Trichoderma koningii、Trichoderma longibrachitum、Trichoderma viride、Trichoderma reeseiのようなTrichoderma属などがあり、Aspergillus nigerが好適である。
【0021】
グルクロニダーゼは、担子菌類、糸状菌から生産された後、精製していない粗製のものを使用することもできる。また、キシラナーゼなどのキシラン分解酵素にグルクロニダーゼを添加・混合したものを使用することもできる。グルクロニダーゼとして、Snail(カタツムリ)が出すものも使用できる。
【0022】
例えば生産菌としてAspergillus nigerを使用した場合は、2%キシランを炭素源とする含む液体培地で35℃、24時間培養する。この培養液を濾過し、得られた菌体を破砕後、0.1M酢酸緩衝液(pH5)で抽出したグルクロニダーゼ含有粗製酵素をえる。次いで、この酵素をイオン交換クロマトグラフィー及びゲルクロマトグラフィーにより精製し、グルクロニダーゼを得る。また、精製しない粗酵素を使用してもよい。
【0023】
本発明において行われる酵素処理は、グルクロニダーゼの添加量としてパルプg当り4〜4万ユニット、処理pH2.0〜7.0、処理時間は1〜12時間である。処理温度は30〜90℃、パルプ濃度は3〜30%である。添加場所として酸素漂白後の未晒しパルプ、各種ECF漂白段の中間部および漂白終了後に添加されるが、グルクロニダーゼの処理条件に合うところであれば、いずれの場所でもよい。
【0024】
酵素処理後は、洗浄無しで、または洗浄を行って、次段のECFあるいはTCF漂白シークエンスへ送られる。分子状塩素を用いない漂白シークエンスとしては、D−Ep−D、D−Eop−D、D−Ep−P−D、D−Eop−P−D、D−Ep−D−D、D−Eop−D−D,D−Ep−D−P,D−Eop−D−Pのような二酸化塩素主体のECFシークエンスがある。また、Z−Ep−D、Z−Eop−D、Z−Ep−P−D、Z−Eop−P−D、Z−Ep−D−D、Z−Eop−D−D,Z−Ep−D−P、ZD−Eop−D−Pのようなオゾン主体のECFシークエンスや、Z/D−Ep−D、Z/D−Eop−D、Z/D−Ep−P−D、Z/D−Eop−P−D、Z/D−Ep−D−D、Z/D−Eop−D−D,Z/D−Ep−D−P、Z/D−Eop−D−Pのようなオゾンと二酸化塩素を併用したECFシークエンスがある。さらには、Z−Ep−P、Z−Eop−P、Z−Ep−P−P、Z−Eop−P−P、Z−Ep−Q−P、Z−Eop−Q−PのようなTCFシークエンスがある。これらの漂白シークエンスの如何は、本発明をいささかも制限するものではない。ここで、グルクロニダーゼの添加場所として、上記漂白シーケンスの中間段および漂白終了後の完成パルプに添加してもよい。
【0025】
本発明においてはパルプを酵素で処理することにより、ECF漂白またはTCF漂白パルプの褪色性を改善する方法の第一の特徴は、酵素反応は非常に選択性が高く、褪色に問題となるHexAのみを除去するため、パルプ物性に全く影響せず優れたパルプを製造できることである。
【0026】
第二の特徴としては、オゾン、二酸化塩素等の酸化剤はHexAの除去のみではなく、パルプ中のリグニン、糖類等を過度に除去するため、パルプの粘度等の物性が低下するのみだけではなく廃水CODが増大するとの環境上好ましくない面があるが、本発明法の酵素を使用すればそのようなことはほとんどなくパルプを製造することができる。
【0027】
第三の特徴は、二酸化塩素、オゾンはそれを製造するために多量のエネルギーが必要であるが、本発明の酵素は微生物が生産するため非常に少ないエネルギーで生産できる。
【0028】
すなわち、本発明の特徴は通常のECF漂白、TCF漂白シーケンスに酵素処理を導入することにより、従来HexA除去は難しいと言われた40℃〜70℃の低温処理において、パルプ粘度を保持しながら、HexAを除去できることである。更に、HexA以外の物質へのダメージが少ないことから、排水COD値を上昇させることなく実施できることである。また、本発明法の酵素を利用することにより、化学薬品の使用を極力抑えた漂白パルプの製造プロセスが可能となすため、環境面において非常に優れたパルプの製造方法となる。
【実施例】
【0029】
次に実施例により本発明を具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明を具体的に説明するために示すものであり、何ら本発明を制限するものではない。
【0030】
1.基質の調整
カッパー価10の広葉樹材酸素漂白クラフトパルプ(LOKP)30gをセルラーゼ「オノズカ」3Sで処理した。パルプ濃度は5%とした。得られた可溶部(糖化液)をバッチ式で活性炭処理し,活性炭に酵素,着色物質,および分子量の大きい生成物を吸着させ,活性炭をろ別してこれらを除去した。ろ液を活性炭入りのカラムに流入した。カラムに水を流して無機塩類と単糖を溶出させた。つぎに,40%エチルアルコール・60%水混液を流してオリゴ糖を溶出させた。糖化液600gからオリゴ糖5.3gが得られた。オリゴ糖には,酸性糖と中性糖が含まれていた。
【0031】
陰イオン交換樹脂(Dowex IX2)を0.1M酢酸水溶液で平衡化し,酢酸型にしてカラムに詰めた。一方,オリゴ糖の水溶液をNaOHでpH8〜9に調整し,1時間放置してラクトン環を開環した。これをカラムに流入した。カラムに0.1M酢酸水溶液を流して中性糖を溶出させた。つぎに,2M酢酸水溶液を流して酸性糖を溶出させた。酸性糖溶液をNaOHで中和し,電気透析を行い,凍結乾燥した。凍結乾燥した試料の主成分は,キシロース4量体(X4)にヘキセンウロン酸1つ(Δ)が結合した5量体の酸性糖オリゴマー(Δ−X4)であった。
【0032】
2.酵素液の調整
酵素の調製には6種の微生物を用いた。Irpex lacteus,Chlorosplenium aeruginosum,Merulius tremellosus,Coriolus pubescens,Coriolus versicolor は,1%広葉樹キシランを炭素源とする液体培地で25℃,7日間液体培養し,Aspergillus niger は2%キシランを含む培地で35℃,24時間培養した。それぞれの培養液をろ過し,ろ液を菌体外酵素とし,得られた菌体を破砕後,0.1M酢酸緩衝液(pH5.0)で抽出した。この酵素は粗製酵素として使用した。この酵素中には,α―グルクロニダーゼ,β―キシロシダーゼ,およびβ―キシラナーゼ含まれていた。この粗製酵素からイオン交換クロマトグラフィー及びゲルクロマトグラフィーにより精製α―グルクロニダーゼを得た。
3.分析法
酵素反応生成物は糖質の蛍光標識電気泳動法(FACE)で分析した。
【0033】
実施例1、2
LOKPから取り出したΔ−X4の2mM 溶液50μl に,pH5の酢酸緩衝液20μl,菌体内酵素液30 μlを加え,40℃で24時間反応させた。酵素反応生成物は糖質の蛍光標識電気泳動法(FACE)で分析した。
Aspergillus niger、Chlorosplenium aeruginosumが生産した粗製酵素は,Δ−X4に対して活性を示した。結果について表1に示した。
【0034】
比較例1〜4
実施例1、2の微生物の代わりに、Irpex lacteus 、Coriolus pubescens 、Coriolus versicolor 、Merulius tremellosus から生産した粗製酵素を、同様にLOKPから取り出したΔ−X4と反応させた。結果について表1に示した。
【0035】
【表1】

各酵素のΔ−X4のキシロース4量体とヘキセンウロン酸1つの結合部位を切断する力
+:切断される −:切断されない
【0036】
すなわち、Aspergillus nigerおよびChlorosplenium aeruginosumの菌体内酵素は、Δ−X4のキシロース4量体とヘキセンウロン酸1つの結合部位を切り、ヘキセンウロン酸を除去することができた。その結果、キシロース4量体(X4)が生成した。X4の結合はβ―キシロシダーゼとβ―キシラナーゼによって容易に切れ,キシロースを生成した。Irpex lacteus、Coriolus pubescens、Coriolus versicolor、Merulius tremellosusの菌体内酵素は、キシロース4量体とヘキセンウロン酸1つの結合部位を切ることはできなかった。
【0037】
実施例3〜5
次に、広葉樹パルプの実施例について記す。各薬品の使用量は絶乾パルプ当たりの重量%で示し、過酸化水素の使用量は100%換算である。使用したパルプは、クラフト蒸解−酸素脱リグニン後のL材パルプAを用いた。また、分析評価は下記の方法によった。
【0038】
パルプ種
A;ハンター白色度 50.1%、K価 6.64、粘度 28.9mPa・s 、HexA:39.8μmol/g
・白色度:JIS−P8123(ハンター白色度法)
・K価 :TAPPI K価法
・粘度 :J.TAPPI No.44法
・HexA量:絶乾量1gのパルプを、パルプ濃度1%に希釈し、蟻酸にてpH3.0に調製後90℃−240分加熱して、HexAを2−フランカルボン酸と5−ホルミル−2−フランカルボン酸に加水分解する。冷却後パルプと水に分離し、水中の2−フランカルボン酸と5−ホルミル−2−フランカルボン酸を液クロにより、UV265nmの検出器を用いて定量し、その合算をHexA量とした。
・褪色テスト:85℃−65%RH、24時間
・PC価:褪色度の度合いの尺度
PC=100(褪色度のK/S−褪色前のK/S)
K/S=(1―白色度)2/(2白色度)
【0039】
クラフト蒸解−酸素脱リグニン後のL材パルプA20gにAspergillus nigerが生産した粗酵素を,10ユニット、20ユニット、30ユニット添加し、パルプ濃度10%、pH5、温度40℃の条件で180分処理した。反応終了後、冷水にてパルプ濃度2.5%に希釈し、パルプ濃度20%まで脱水して酵素処理パルプを得た。結果を表2に示した。
【0040】
実施例6
Aspergillus nigerが生産した粗製酵素に別途精製したα−グルクロニダーゼを20ユニット添加した以外は実施例3と同様に行った。結果を表2に示した。
【0041】
比較例5
実施例3において酵素を添加しかった以外は同様に処理した。結果を表2に示した。
【0042】
【表2】

【0043】
すなわち、未晒パルプに本発明の酵素を添加することにより、HexAを除去できた。さらに、実施例6に示したように、実施例3の粗酵素にAspergillus nigerが生産した酵素を精製して得たα−グルクロニダーゼを添加・混合して使用したところ、同一の酵素ユニットで大幅にHexAを除去できた。
【0044】
実施例7
クラフト蒸解後酸素漂白を行ったパルプAを用い、初段に酵素処理を導入したG−D−Eop−Dの漂白シーケンスによる漂白を行った。酵素はAspergillus nigerが生産した粗酵素を使用した。
G(酵素処理):PC10%、pH5、40℃、180分 酵素:100ユニット
初段D:PC10%、60℃、30分、ClO/0.9%
Eop:PC10%、60℃、90分、NaOH/0.8%、O/0.15%
0.3%
D:PC10%、70℃、120分、ClO/0.4%
洗浄条件:各段の反応終了後、パルプ濃度2.5%に希釈し、パルプ濃度20%に脱水し、次段に移行した。結果を表3に記した。
【0045】
実施例8
D−Eop−G−Dの漂白シーケンスにおいて、漂白段の中間に酵素処理を導入した以外実施例7と同様に行った。結果を表3に記した。
【0046】
実施例9
D−Eop−D−Gの漂白シーケンスにおいて、漂白段の最終段に酵素処理を導入した以外実施例7と同様に行った。結果を表3に記した。
【0047】
比較例6
酵素処理を行わない以外、実施例7と同様に行った。結果を表3に記した。
【0048】
【表3】

【0049】
すなわち、二酸化塩素と過酸化水素を使用した漂白シーケンスの中に酵素処理を導入することにより、完成パルプで問題となっている褪色度を改善できた。
【0050】
実施例10
クラフト蒸解後酸素漂白を行ったパルプAを用い、初段に酵素処理を導入したG−Z−E−Pの漂白シーケンスによる漂白を行った。酵素はAspergillus nigerが生産した粗製酵素を使用した。
G(酵素処理):PC10%、pH5、40℃、180分 酵素:100ユニット
初段Z:PC10%、60℃、3分、O3/0.5%
E:PC10%、60℃、90分、NaOH/0.8%
P:PC10%、90℃、120分、H/1.5%
洗浄条件:各段の反応終了後、パルプ濃度2.5%に希釈し、パルプ濃度20%に脱水した。
その結果、白色度86.3%、Kappa価0.7、HexA量2.9μmol/g、PC価1.3のパルプを得た。
【0051】
比較例11
酵素を添加しない他は、実施例10と同様に行った。その結果、白色度84.7%、Kappa価2.3、HexA量11.4μmol/g、PC価 3.3のパルプを得た。
実施例10、比較例11のように、TCF漂白においても、酵素を導入することにより、褪色性に問題のない完成パルプを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙用化学パルプ中の不飽和ウロン酸を除去する方法において、グルクロニダーゼを添加することを特徴とするパルプ中の不飽和ウロン酸の除去方法。
【請求項2】
グルクロニダーゼがキシロシダーゼ又はキシラナーゼを含有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
グルクロニダーゼがα−グルクロニダーゼである請求項1又は2記載の方法
【請求項4】
不飽和ウロン酸がヘキセンウロン酸である請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
グルクロニダーゼが担子菌又は糸状菌から生産される請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】
キシロシダーゼ又はキシラナーゼが担子菌又は糸状菌から生産される請求項2記載の方法。
【請求項7】
担子菌がChlorosplenium属である請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
糸状菌がAspergillus属である請求項5又は6記載の方法。
【請求項9】
Chlorosplenium属がChlorosplenium aeruginosumである請求項7記載の方法。
【請求項10】
Aspergillus属がAspergillus nigerである請求項8記載の方法。
【請求項11】
キシランを含有する培地で生産する請求項5〜10記載の方法。
【請求項12】
生産されたグルクロニダーゼを精製しないでパルプに添加する請求項5〜10記載の方法。
【請求項13】
酸素処理後、漂白処理工程間又は漂白処理後のパルプにグルクロニダーゼを添加する請求項1又は2記載の方法。