説明

製紙用薬品含有チップの製造方法

【課題】製紙用薬品をチップの内部に浸透させることで、製紙用薬品のチップに対する作用を促進させる。
【解決手段】チップを(A)凍結し、次いで(B)解凍し、その後、(C)該チップを減圧下で製紙用薬品に浸漬することにより、製紙用薬品含有チップを製造する。得られたチップを蒸解または磨砕することによりパルプを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパルプの原料となる植物由来のチップを製造する方法に関する。具体的には、チップを凍結し、次いで解凍し、その後、チップを減圧下で製紙用薬品に浸漬することにより製紙用薬品をチップの内部に浸透させる、製紙用薬品含有チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙に使われる薬品は、パルプの製造から抄紙までの過程において様々なものがある。チップからパルプを製造するパルプ製造工程においては、蒸解液や、蒸解を促進する助剤、漂白剤などが用いられる。チップを効率的にパルプ化するためには、これらの薬品がチップに十分に浸透することが好ましいが、チップは樹種により構造が異なり、また同じ樹種でも成育条件の違いや採取部位によって差があるため、薬品の浸透性に違いがある。通常、化学パルプの製造では、実操業において使用される木材チップは、異なる樹種の混合チップである場合が多い。また、特に近年の環境問題への関心の高まりや、森林資源の枯渇化の進行、世界的な紙パルプ生産量の増加による製紙原料の逼迫により、必ずしも浸透性の良好なチップを選択的に使用できるわけではない。これらのことから、どのようなチップを用いた場合でも、チップの内部にまで薬品を十分に浸透させることができる方法の開発が望まれる。
【0003】
製紙用薬品を効率良くチップに接触させる方法として、ポリサルファイド法によるパルプの製造において、密閉容器中で減圧操作することによりポリサルファイド蒸解液をチップ中に注入させるセルロース材料のパルプ化法が開示されている(特許文献1)。この方法では、ポリサルファイド蒸解液とチップを入れた密閉容器を減圧状態にすることにより、チップ内の空気とポリサルファイド蒸解液とを置換させ、蒸解液をチップ内へと浸透させる。しかしながら、本発明者らの実験によれば、チップと蒸解液とを減圧状態にするだけでは、蒸解液のチップ内部への浸透は十分とはいえなかった。
【0004】
また、機械パルプの製造において、木材チップのリファイナー解繊処理に先立ち、木材チップを圧縮し、圧開放時に薬液を浸透させる方法が開示されている(特許文献2)。この方法では、チップを圧縮・解放することにより、チップを膨潤させながら薬液をチップ内部に浸透させることができる。
【0005】
このように、製紙用薬品をチップの内部にまで浸透させることができる様々な手法の開発、特に、浸透効率の高い方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−100783号公報
【特許文献2】特開2004−204370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、製紙用薬品をチップの内部にまで十分に浸透させることにより、製紙用薬品のチップに対する作用を高めることができるチップの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、チップ内部へと製紙用薬品を浸透させる方法について鋭意検討した結果、チップからパルプを製造する工程に先立ち、チップを特定の方法で前処理することにより製紙用薬品を効率よくチップ内部まで浸透させることができることを見出した。具体的には、チップからパルプを製造する工程に先立ち、(A)チップを凍結し、次いで(B)解凍し、その後、(C)該チップを減圧下で製紙用薬品に浸漬することにより、製紙用薬品をチップの内部にまで十分に浸透させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、チップを(A)凍結し、(B)解凍し、その後、(C)チップを減圧下で製紙用薬品に浸漬することにより、製紙用薬品をチップの内部にまで十分に浸透させることができる。本発明により得られたチップは、製紙用薬品がチップの内部にまで十分に浸透しているため、その後のパルプ製造工程において、製紙用薬品のチップに対する作用が促進され、より効率よくパルプを製造することができる。
【0010】
例えば、製紙用薬品としてクラフトパルプの製造に用いる蒸解液を用いる場合であれば、蒸解液がチップの内部に浸透することにより、蒸解工程において蒸解液の作用が促進され、パルプ収率を向上させることができる。また、機械パルプの製造に使用する薬液を用いる場合であれば、薬液がチップの内部に浸透することにより、磨砕工程において薬液の作用によりチップの解繊が促進され、結束繊維の減少や紙力の向上等、パルプ品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で得たチップ断面の写真である。
【図2】比較例1で得たチップ断面の写真である。
【図3】比較例2で得たチップ断面の写真である。
【図4】比較例3で得たチップ断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、チップからパルプを製造する工程に先立ち、チップを前処理することにより、製紙用薬品含有チップを製造する。具体的には、(A)チップを凍結し、次いで(B)解凍し、その後、(C)該チップを減圧下で製紙用薬品に浸漬することによりチップを処理する。
【0013】
(チップ)
「チップ」(chip)とは、パルプの原料にする木材などの小片をいう。本発明に用いられるチップの樹種は特に限定されず、例えば、カエデ(maple)、カバ(birch)、ブナ(beech)、アカシア(acacia)、ユーカリ(eucalyptus)、マツ(pine)、モミ(fir)、トウヒ(spruce)など、製紙用パルプの製造に通常用いられるチップを用いることができる。また、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の非木材由来のものでもよい。本発明の方法は、あらゆる種類のチップへの製紙用薬品の浸透性を高めることができるので、蒸解性が普通〜容易なレベルのチップを用いる場合はもちろんのこと、そうではなく、難蒸解性のチップ、例えば、老齢木や樹脂成分の多い材などを高配合したチップを用いる場合であっても効率よくパルプを製造することができる。
【0014】
(チップの処理)
通常、チップは、チップヤードあるいはチップサイロからコンベアで運ばれ、チップ篩別機に入り、微小サイズのチップやチップダストが除去され、さらには粗大なチップが除かれ、チップサイズが整えられる。次いで、チップはチップビンに入る。一旦チップビンに貯えられたチップは、チップメーターで計量され低圧フィーダーによってスチーミングベッセルに送り込まれる。スチーミングベッセルでは容器内のスクリューコンベアでチップが移動する間に、蒸気を吹き込み、蒸気による加熱でチップ中の空気を追い出す。スチーミングベッセルにおける処理は、当業者に通常知られる方法により行なうことができ、使用する蒸気は生蒸気でも良いし、抽出黒液のフラッシュ蒸気でも良い。また、スチーミングベッセルによる蒸気加熱工程は、省略することも可能である。スチーミングベッセルにより蒸気加熱処理されたチップ、あるいはスチーミングベッセルを通らない篩別されたままのチップは、クラフトパルプの製造に用いられる蒸解釜や、機械パルプの製造におけるリファイナーなどに送られ、パルプ化される。
【0015】
本発明の(A)凍結、(B)解凍、及び(C)減圧下での浸漬工程は、パルプ製造工程の前、すなわち、クラフトパルプの製造における蒸解釜での蒸解工程や、機械パルプの製造におけるリファイナー等に送られる前のチップであれば、いずれの段階でも行なうことができる。例えば、これらに限定されないが、篩別されたチップを(A)凍結、(B)解凍、及び(C)減圧下で製紙用薬品に浸漬させてもよいし、また、例えば、篩別されたチップを(A)凍結、(B)解凍し、次いでスチーミングベッセルに送って、蒸気加熱処理し、蒸気加熱処理された後のチップに(C)減圧下で製紙用薬品を浸漬させてもよい。スチーミングベッセルにより蒸気加熱処理されたチップは、蒸気によりチップ中の空気が追い出されていることから、製紙用薬品の浸透効果がより高められており、本発明の(C)減圧下での製紙用薬品の浸漬工程を行なうのに特に好ましい。
【0016】
本発明における(A)チップの凍結工程は、チップを凍結できる温度であればいずれの温度でも行なうことができるが、−5〜−80℃で行なうことが好ましく、−5〜−20℃で行うことがより好ましい。−5℃以下程度の温度であれば、チップを凍結させるには十分であるといえる。また、−80℃よりも低い温度とすると、その後の(C)浸漬工程において、チップに製紙用薬品が浸透しにくくなる傾向がある。
【0017】
本発明における(B)チップの解凍工程は、チップを解凍できる温度であればいずれの温度でも行うことができるが、4〜40℃で行うことが望ましく、4〜25℃で行うことがより望ましい。40℃を超える温度で急激に解凍すると、その後の(C)浸漬工程において、製紙用薬品がチップに浸透しにくくなる傾向がある。
【0018】
凍結・解凍されたチップは、次に、(C)減圧下で製紙用薬品に浸漬される。製紙用薬品の浸漬における条件は、適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、50kPa以下、好ましくは10kPa〜50kPaの圧力下(絶対圧)に静置することにより、製紙用薬品をチップへ浸透させることができる。
【0019】
(製紙用薬品)
本発明において製紙用薬品とは、これらに限定されないが、例えば、クラフトパルプの製造工程で用いられる、蒸解液及び蒸解助剤や、機械パルプの製造工程で用いられる薬液、漂白剤などの、パルプや紙の製造に用いられる通常の薬品をいう。このうち、蒸解液または薬液は、本発明の方法で浸漬させる製紙用薬品として特に好ましい。蒸解液または薬液を予めチップの内部に浸透させておくと、これらの薬品のチップに対する作用が促進され、パルプ製造の効率が高まる。
【0020】
(パルプ)
本発明により得られたチップを用いて製造されるパルプの種類は特に限定されず、例えば、化学パルプ(針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)または未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)または未晒クラフトパルプ(LUKP)、サルファイトパルプ(SP)、アルカリパルプ(AP)等)、機械パルプ(リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、アルカリ過酸化水素機械パルプ(APMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドパルプ(CGP)等)など、いずれのパルプも製造することができる。
【0021】
(クラフトパルプの製造)
本発明により得られたチップを用いてクラフトパルプを製造する場合、パルプの製造に先立って、蒸解液と、必要に応じて蒸解助剤とを、製紙用薬品としてチップに浸透させておくことが好ましい。蒸解液は、クラフト蒸解法に通常使用される白液であれば良く、特に限定されない。白液とは、クラフト法の緑液を苛性化した後の透明なアルカリ液であり、一般に水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを主成分とする、蒸解の際に用いられる液である。白液には、必要に応じて、ポリサルファイド蒸解で使用する多硫化ナトリウムや、キノン系物質といった蒸解助剤をさらに含有させても良い。
【0022】
本発明の方法を、ポリサルファイド蒸解を行なうチップに適用すると、蒸解性改善やパルプ収率の向上などの効果が高まるため好ましい。ポリサルファイド蒸解に使用するポリサルファイドの製造方法は、特に限定されず、当業者に通常使用される方法を用いることができる。例えば、撥水処理した粒状活性炭を触媒にして蒸解液を空気酸化するMOXY法あるいはこれに類似した方法や、硫化物イオンを含むアルカリ性蒸解液を電気分解にかけ、チオ硫酸の副生を極めて少なくして高濃度のポリサルファイドを製造する方法を使用することができる。
【0023】
蒸解助剤として用いることができるキノン系物質は、蒸解に通常使用されるキノン化合物、ヒドロキノン化合物、またはこれらの前駆体であり、特に限定されない。キノン化合物としては、例えば、アントラキノン、ジヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロアントラキノン)、テトラヒドロアントラキノン(例えば、1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラキノン)、メチルアントラキノン(例えば、1−メチルアントラキノン、2−メチルアントラキノン)、メチルジヒドロアントラキノン(2−メチル−1,4−ジヒドロアントラキノン)、メチルテトラヒドロアントラキノン(例えば、1−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、2−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン)などを挙げることができる。ヒドロキノン化合物としては、アントラヒドロキノン(一般に、9,10−ジヒドロキシアントラセン)、メチルアントラヒドロキノン(例えば、2−メチルアントラヒドロキノン)、ジヒドロアントラヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン)またはそれらのアルカリ金属塩(例えば、アントラヒドロキノンのジナトリウム塩、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩)などを挙げることができる。また、前駆体としては、アントロン、アントラノール、メチルアントロン、メチルアントラノールなどが挙げられる。
【0024】
本発明の方法により、クラフトパルプ製造用のチップを製造する際には、上記の蒸解液や蒸解助剤などの製紙用薬品を、前述の方法で(A)凍結、(B)解凍したチップに、(C)減圧下で浸透させればよい。浸透の際に用いる蒸解液や蒸解助剤は、後の蒸解工程に用いるものと同じ組成及び同じ濃度のものを用いてもよいし、組成や濃度を適宜変更してもよい。しかし、蒸解釜に送入するものと同じ蒸解液及び蒸解助剤を用いることがコストの面からは有利である。
【0025】
(C)減圧下での浸漬工程は、連続蒸解釜の頂部に設けられる浸透ゾーンを減圧にすることにより、連続蒸解釜の浸透ゾーン内で行なってもよいし、また、蒸解釜に送る前に、減圧を維持できる容器を用いて予めチップに製紙用薬品を浸漬させてもよい。蒸解釜へ送る前に予め製紙用薬品を浸漬させておくと、連続蒸解釜における浸透ゾーンを短くすることができ、パルプの製造効率の点から有利である。
【0026】
製紙用薬品を浸透させたチップあるいは浸透前のチップは、高圧フィーダーにより連続蒸解釜へ送られる。連続蒸解釜では、1ベッセル液相型、1ベッセル気相/液相型、2ベッセル気相/液相型、2ベッセル液相型などの連続蒸解釜で公知の条件で浸透、蒸解、洗浄などの処理を行い、未漂白クラフトパルプを製造する。
【0027】
製紙用薬品浸透前のチップを連続蒸解釜に送った場合には、連続蒸解釜の浸透ゾーンにおいて製紙用薬品をチップ内部に減圧下で浸透させる。また、製紙用薬品を予め浸透させたチップを連続蒸解釜に送った場合には、通常の浸透条件で処理することができる。例えば、2ベッセル型連続蒸解釜の高圧予備浸透ベッセルを用いる場合には、9〜11kg/cm3の圧力下、蒸解温度よりも低い110〜130℃の温度で、滞留時間30〜50分間程度の処理をすることができる。
【0028】
浸透ゾーンを通過したチップは、次いで、蒸解ゾーンに送られ、通常の蒸解条件で処理される。例えば、1ベッセル型連続蒸解釜を用い、広葉樹材由来のチップを用いる場合は、温度135〜180℃、時間4〜6時間、Hファクター300〜1,000で処理することができる。
【0029】
また、クラフト蒸解法の変法である、MCC(modified continuous cooking)法、EMCC(extended modified continuous cooking)法、Lo−solids法、ITC(isothermal cooking)法などの修正法による蒸解も公知の条件で適用できる。
【0030】
クラフト蒸解を終了した未晒しクラフトパルプのカッパー価は、広葉樹では14〜22にすることが好ましく、15〜18が更に好ましい。また、針葉樹では22〜32にすることが好ましく、24〜28が更に好ましい。
【0031】
以上、本発明の方法により処理されたチップを用いてクラフトパルプを製造する方法の具体例を説明したが、本発明の方法は、これに限定されるものではなく、他の化学パルプ(サルファイトパルプ(SP)、アルカリパルプ(AP)など)の製造にも応用できる。
【0032】
(機械パルプの製造)
本発明により得られたチップを用いて機械パルプを製造する場合、リファイナーによりパルプ化を行うリファイナーグランドパルプ(RGP)法、アルカリ過酸化水素機械パルプ(APMP)法、サーモメカニカルパルプ(TMP)法、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)法、アルカリ過酸化水素サーモメカニカルパルプ(APTMP)法、セミケミカルパルプ(SCP)法、ケミグラウンドパルプ(CGP)法などを用いることができる。特に、パルプ化の際に薬液を用いるアルカリ過酸化水素機械パルプ(APMP)法、アルカリ過酸化水素サーモメカニカルパルプ(APTMP)法、あるいはケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)法に供するチップに本発明の方法を適用すると、薬液がチップの内部にまで十分に浸透し、高品質なパルプが得られるため好ましい。
【0033】
本発明のチップを用いて機械パルプを製造する場合に用いる薬液としては、アルカリ過酸化水素機械パルプ(APMP)法、アルカリ過酸化水素サーモメカニカルパルプ(APTMP)法については、苛性ソーダ、珪酸ソーダ、過酸化水素を使用することができる。また、必要に応じてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)などのキレート剤を使用することもできる。また、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)法については、亜硫酸ソーダ、苛性ソーダを使用することができる。
【0034】
本発明の方法により、機械パルプ製造用のチップを製造する際には、チップをリファイナーなどの解繊装置に送る前に、前述の方法で(A)凍結、(B)解凍したチップに上記の薬液などの製紙用薬品を(C)減圧下で浸透させればよい。
【0035】
薬液を浸透させたチップは、次いで、磨砕工程に送られる。磨砕工程は、一般の解繊装置を用いることができ、加圧若しくは大気圧条件下で磨砕することができる。好ましくはシングルディスクリファイナー、コニカルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナー、ツインディスクリファイナー等を用いて磨砕する。
【0036】
得られた機械パルプは所望の白色度を得るために、1つ以上の公知の漂白剤を用いて漂白してもよい。漂白剤としては、過酸化水素、オゾン、過酢酸、次亜塩素酸等の酸化剤、あるいはハイドロサルファイト(亜二チオン酸ナトリウム)、硫酸水素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ホルムアミジンスルフィン酸(FAS)等の還元剤を用いることができる。
【0037】
本発明のチップには、薬液を浸透させる際、同時に、又は連続して、漂白剤を減圧下で浸透させておいてもよい。
(紙)
本発明の方法により得られたチップを用いて製造されたパルプは、公知の方法により抄紙して、あらゆる種類の紙、例えば、これらに限定されないが、印刷用紙、新聞用紙の他、塗工紙、情報用紙、加工用紙、衛生用紙等として使用することができる。情報用紙としては、例えば、電子写真用転写紙、インクジェット記録用紙、感熱紙、フォーム用紙等が挙げられる。加工用紙としては、例えば、剥離紙用原紙、積層板用原紙、成型用途の原紙等が挙げられる。衛生用紙としては、例えば、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ペーパータオル等が挙げられる。また、段ボール原紙等の板紙として使用することも可能である。
【0038】
(作用)
本発明では、チップを凍結・解凍し、その後、チップを減圧下で製紙用薬品に浸漬することにより、製紙用薬品をチップの内部に浸透させることができる。その理由は、以下のように推察される。チップの凍結・解凍処理を行うことにより、氷結時の水の膨脹によってチップ中の繊維構造がスポンジ化し、その繊維間隙が有効に拡張される。この状態のチップを減圧下で製紙用薬品に浸漬することで、チップ内部の間隙と繊維外部の物質(製紙用薬品)が置換され、製紙用薬品をチップの内部に浸透させることができるものと考えられる。そして、製紙用薬品をチップの内部に浸透させることで、チップと製紙用薬品が接触しやすくなるため、単にチップに製紙用薬品を添加した場合よりも、該製紙用薬品のチップに対する作用を促進させることができるものと考えられる。
【0039】
本発明の方法をパルプの製造に先立って行なうことで、従来の手法に比べて製紙用薬品のチップに対する作用が促進されることから、製紙用薬品の添加量を少なくすることができ、コストを抑えることができる。また、製紙用薬品を従来法と同程度の量で用いる場合には、パルプ収率を向上させることができる。
【実施例】
【0040】
次に実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<チップへの薬品の浸透状態の観察>
[実施例1]
乾燥重量20gのチップ(ユーカリ)を−20℃にて一昼夜静置し凍結させた(凍結処理)。その後、試料を室温(20℃)に数時間放置することにより解凍した(解凍処理)。次に、試料に下記の組成の蒸解液を添加した後、耐圧密閉容器に静置し、真空ポンプにより15分間減圧(50kPa)した(減圧下での浸漬処理)。得られた試料を繊維方向に沿って半分に切断してチップ内部への蒸解液の浸透状態を観察し、写真を撮影した。写真を図1に示す。
【0041】
蒸解液の組成:アルカリ濃度16%、硫化度30%、液比5L/kg
[比較例1]
凍結・解凍処理を行なわず、また、蒸解液を常圧下で浸漬させた以外は、実施例1と同様にして得られた試料を観察した。写真を図2に示す。
【0042】
[比較例2]
蒸解液を常圧下で浸漬させた以外は、実施例1と同様にして得られた試料を観察した。写真を図3に示す。
【0043】
[比較例3]
凍結・解凍処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして得られた試料を観察した。写真を図4に示す。
【0044】
図1〜4において、色の濃い部分が蒸解液が浸透している部分である。図1〜4を比較すると、実施例1のチップ(図1)では、内部まで色が濃くなっており、蒸解液がチップの内部にまで十分に浸透していることがわかる。一方、比較例1〜3のチップ(図2〜4)では、特にチップ内部の中心部には色がついておらず、蒸解液が内部にまでは浸透していないことがわかる。以上の通り、凍結・解凍処理後に減圧下での浸漬処理を行った場合(実施例1)には、凍結・解凍処理を行なわず常圧下で浸漬させた場合(比較例1)や、凍結・解凍処理を行なったが常圧下で浸漬させた場合(比較例2)、また、凍結・解凍処理を行なわずに減圧下で浸漬させた場合(比較例3)に比べて、蒸解液がチップ内の中心部にまで十分に浸透したことがわかる。
【0045】
<蒸解試験>
[実施例2]
実施例1で得られた試料を、蒸解装置(マイクロ波処理装置、マイルストーンゼネラル社製、商品名:MicroSYNTH)に入れ、絶乾チップ質量あたりの活性アルカリ添加率12.5%となるように、実施例1に記載の蒸解液を添加し、温度120℃で30分間浸透させた後、160℃で90分間蒸解した。蒸解後、カッパー価、白色度を測定した。結果を表1に示す。
・カッパー価:JIS P 8122に準じて測定した。
・白色度:得られた試料を用いてJIS P 8209に従って手抄きシートを作製し、JIS P 8148に準じてISO白色度を測定した。
【0046】
[比較例4]
比較例3で得られた試料を用いた以外は、実施例2と同様にして試料を得た。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
カッパー価、白色度を比較すると、凍結・解凍処理、及び減圧下での浸漬処理を行った場合(実施例2)は、凍結・解凍処理を行わなかった場合(比較例4)よりも、カッパー価が低く、白色度が高かった。したがって、凍結・解凍処理後に減圧下での浸漬処理を行うことにより、蒸解の効率が向上していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)チップを凍結する工程、
(B)前記(A)からのチップを解凍する工程、及び、
(C)前記(B)からのチップを減圧下で製紙用薬品に浸漬する工程、
を含む、製紙用薬品含有チップの製造方法。
【請求項2】
前記(A)工程において、チップの凍結を−5℃以下で行うことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記(B)工程において、チップの解凍を4〜25℃で行うことを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記(C)工程において、チップの製紙用薬品への浸漬を50kPa以下の減圧下で行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記製紙用薬品が、蒸解液であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により得られたチップをクラフト蒸解することを特徴とする、クラフトパルプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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