説明

製鉄ダストの処理方法

【課題】製鉄ダストにシアン化合物が含まれる場合に、これを簡便な手段で安価に熱分解するとともに、製鉄ダストを有効に再利用する方法を提供する。
【解決手段】製鉄設備において発生するシアン化合物を含有する製鉄ダストのうち、乾式集塵機1にて捕集された乾ダスト2と、湿式集塵機3にて捕集された湿ダスト4と、湿ダストに付随する水分と、石灰5と、を混合してダスト混合物7とし、ダスト混合物の水分濃度をダスト混合物の質量に対して12〜24質量%の範囲内に調整し、次いでダスト混合物を造粒してダスト造粒物10とし、ダスト造粒物を高炉用焼結鉱の原料に配合して焼結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄ダストの処理方法に関わり、より具体的には製鉄ダストにシアン化合物が含まれる場合に、これを熱分解するとともに、その製鉄ダストを有効に再利用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所には様々な製鉄用原料の焼成炉(たとえばコークス炉,焼結炉等)や溶融鉄の精錬炉(たとえば高炉,転炉,溶融還元炉等)が設置される。これらの製鉄設備では多量のダスト(以下、製鉄ダストという)が発生するので、製鉄ダストによる環境汚染を防止するために、集塵設備(たとえば乾式集塵機,湿式集塵機等)を用いて製鉄ダストを捕集している。
【0003】
また、この製鉄ダストには鉄分が含まれるので、捕集した製鉄ダストを製鉄用原料として再利用する技術が種々検討されている。たとえば特許文献1には、製鉄ダストを高炉用焼結鉱の原料(以下、焼結原料という)として再利用する技術が開示されている。
ところが製鉄ダストにはシアン化合物が混入する場合がある。シアン化合物は特定の製鉄用原料を使用した際に、その製鉄用原料に含有される元素が焼成炉や精錬炉の炉内で反応して生成するものであり、毒性の強い有害物質である。そこでシアン化合物による環境汚染を防止するために、シアン化合物を無害化する処理を施す必要がある。シアン化合物の無害化処理は、化学反応や加熱によってシアン化合物を分解する処理が一般的であるが、その無害化処理を行なう設備の建設や維持には多大な費用を要する。
【0004】
そのためシアン化合物の無害化処理は専門の処理業者に委託して行なっており、その委託費用が鉄鋼製品の製造コストの上昇を招くという問題が生じる。
またシアン化合物を含有する製鉄ダストは、処理業者に引き渡すまで保管しなければならないが、屋外に貯蔵すると雨水等にシアン化合物が溶解して周辺に漏出するという問題が生じる。そのためシアン化合物を含有する製鉄ダストを屋内に保管するための設備が必要となり、その保管設備の建設や維持には多大な費用を要する。
【特許文献1】特開平7-138660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、製鉄ダストに含まれるシアン化合物を簡便な手段で安価に熱分解するとともに、製鉄ダストを有効に再利用する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、シアン化合物を含有する製鉄ダストの無害化処理を専門の業者に委託せず、製鉄所内で簡便に行なう技術について鋭意検討した。その経緯を以下に説明する。
まずシアン化合物を含有する製鉄ダストを乾式集塵機と湿式集塵機を用いて捕集し、特許文献1と同様に、乾式集塵機にて捕集された製鉄ダスト(以下、乾ダストという)と湿式集塵機にて捕集された製鉄ダスト(以下、湿ダストという)とを混合機(たとえばミキサー等)で混合し、さらに造粒機(たとえばロータリードライヤー等)で造粒したものを焼結原料として再利用した。この方法によれば、乾ダストと湿ダストに含有されるシアン化合物は、焼結炉内で高温に曝されて完全に熱分解することが判明した。しかもシアン化合物の熱分解によって無害化された乾ダストと湿ダストは、焼結炉から排出される焼結鉱の品質特性に悪影響を及ぼさず、他の焼結原料とともに支障なく使用できることが分かった。
【0007】
しかしながら乾ダストと湿ダストは粉化し易いので、混合機で混合する過程,混合機から造粒機へ搬送する過程,造粒機で造粒する過程で粉化して周辺に飛散する。この乾ダストと湿ダストにはシアン化合物が含まれることがあるので、周辺に飛散すると環境汚染を引き起こす惧れがある。そのため、特許文献1に開示された技術を適用して製鉄ダスト中のシアン化合物を無害化するためには、混合機および造粒機に集塵機を設置して乾ダストと湿ダストを捕集し、回収した乾ダストおよび湿ダストの混合や造粒を再度行なう必要がある。しかも、混合機から造粒機に到る搬送設備(たとえばコンベア等)にも集塵機を設置する必要がある。つまり特許文献1に開示された技術は、製鉄ダストに含まれるシアン化合物を無害化する観点から改善の余地が残っていた。
【0008】
このような検討結果に基づいて、発明者は湿ダストに付随している水分に着目し、さらに検討を行なった。その結果、
(a)乾ダストと湿ダストを混合しかつ水分を好適範囲に調整することによって、湿ダストのみならず乾ダストの飛散を防止できる、
(b)バインダーとして石灰を添加すると、乾ダストと湿ダストの飛散を防止する効果が向上する、
(c)乾ダスト,湿ダスト,水分,石灰を混合してダスト混合物とする工程と、そのダスト混合物を造粒してダスト造粒物とする工程と、を同時に行なうと乾ダストと湿ダストの飛散を防止する効果が一層向上する
という知見を得た。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0009】
すなわち本発明は、製鉄設備において発生するシアン化合物を含有する製鉄ダストのうち、乾式集塵機にて捕集された乾ダストと、湿式集塵機にて捕集された湿ダストと、湿ダストに付随する水分と、石灰と、を混合してダスト混合物とし、ダスト混合物の水分濃度をダスト混合物の質量に対して12〜24質量%の範囲内に調整し、次いでダスト混合物を造粒してダスト造粒物とし、ダスト造粒物を高炉用焼結鉱の原料に配合して焼結することによってシアン化合物を熱分解する製鉄ダストの処理方法である。
【0010】
本発明の製鉄ダストの処理方法においては、ダスト混合物の石灰分濃度をダスト混合物の質量に対して2〜7質量%の範囲内に調整することが好ましい。また、乾ダストと湿ダストと水分と石灰とを混合してダスト混合物とする工程およびダスト混合物を造粒してダスト造粒物とする工程を同時に行なうことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製鉄ダストにシアン化合物が含まれる場合に、これを簡便手段で安価に熱分解できる。しかも、シアン化合物を熱分解するだけでなく、製鉄ダストを焼結原料として有効に再利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、製鉄ダストに含まれるシアン化合物を分解する本発明の手順の例を示すフロー図である。
乾式集塵機1で捕集される乾ダスト2は、コークスを主体とする比較的軽く粗い粒の製鉄ダストであり、乾ダストホッパー12に貯留される。乾ダスト2を乾ダストホッパー12に送給する手段は、乾ダスト2の飛散を防止するために、密閉した配管内を気流で輸送する搬送手段(いわゆる気流搬送)を採用することが好ましい。
【0013】
一方、湿式集塵機3で捕集される湿ダスト4は、Fe酸化物やCr酸化物を主体とする比較的重く細かい粒の製鉄ダストであり、付随する水分とともにスラリー濃度調整槽13へ送給される。湿ダスト4はスラリー濃度調整槽13内で下方に沈降し、スラリー濃度調整槽13の底部から水分とともにスラリーとして排出され脱水機14へ送給される。脱水機14でスラリーの水分を完全に除去するのは長時間を要するばかりでなく、湿ダスト4の飛散を助長し、かつ後述するダスト混合物の水分濃度の調整にも支障をきたす。したがって、脱水機14では湿ダスト4に付随する水分量を好適範囲に維持するように脱水する。
【0014】
また、併設される石灰ホッパー11には石灰5が貯留される。この石灰5は、後述するダスト造粒物におけるバインダーとして機能する。
これらの乾ダストホッパー12から排出された乾ダスト2,脱水機14から排出された湿ダスト4,その湿ダスト4に付随する水分および石灰ホッパー11から排出された石灰5は、混合機6に装入されて混合される。得られる混合物7(以下、ダスト混合物という)の水分濃度が12質量%未満では、ダスト混合物7の飛散を防止できない。一方、24質量%を超えると、後述するダスト造粒物の製造が困難になるばかりでなく、そのダスト造粒物を焼結する際に焼結炉の操業に支障をきたす。したがって、ダスト混合物7の水分濃度は12〜24質量%の範囲内を満足する必要がある。なおダスト混合物7の水分濃度は、ダスト混合物7の質量に対する比率である。
【0015】
ダスト混合物7の水分濃度の調整は、乾ダスト2,湿ダスト4,石灰5の配合量を適宜変更し、湿ダスト4に付随する水分を上記した好適範囲内に維持するようにして行なう。
次いで、ダスト混合物7を造粒機8へ装入して造粒を行なう。このとき石灰5がバインダーとして機能するので、容易に造粒でき、かつ得られる造粒物10(以下、ダスト造粒物という)は粉化し難い。乾ダスト2や湿ダスト4に含有される石灰分および石灰5に含有される石灰分の合計濃度(以下、石灰分濃度という)が2質量%未満では、バインダーとして機能せず、ダスト造粒物10の粉化を防止できない。一方、7質量%まで配合すれば造粒物の性状は十分なものとなり、それを超える配合は過剰配合でコスト的に不利となる。したがって、ダスト混合物7の石灰分濃度は2〜7質量%の範囲内を満足する必要がある。なおダスト混合物7の石灰分濃度は、ダスト混合物7の質量に対する比率である。
【0016】
そのダスト造粒物10を焼結設備へ送給し、他の焼結原料に配合して焼結する。ダスト造粒物10では石灰分がバインダーとして機能するので、ダスト造粒物10の粉化を防止できる。しかし搬送中の振動や摩擦等によってダスト造粒物10が崩壊し、破片が飛散する惧れがある。そのため、蓋等を用いて開口部を封鎖できる搬送用容器に収納して搬送することが好ましい。
【0017】
ダスト造粒物10を焼結することによって、ダスト造粒物10のシアン化合物が焼結炉内で高温に曝されて完全に熱分解する。しかもシアン化合物の熱分解によって無害化されたダスト造粒物は、焼結炉から排出される焼結鉱の品質特性に悪影響を及ぼさず、他の焼結原料とともに支障なく使用できる。
なお図1には混合機6と造粒機8を個別に配設する例を示したが、図2に示すように混合と造粒を同時に行なう混合造粒機9を用いても良い。
【0018】
以上に説明した通り、本発明を適用すれば、製鉄ダスト(すなわち乾ダスト2,湿ダスト4)に含まれるシアン化合物を簡便な手段で安価に熱分解できる。しかも、シアン化合物を熱分解するだけでなく、製鉄ダストを焼結原料として有効に再利用できる。その結果、シアン化合物の無害化処理を専門の処理業者に委託する必要がなくなり、鉄鋼製品の製造コストの削減を達成できる。
【実施例】
【0019】
シアン化合物を含有する製鉄ダストのうち、乾式集塵機で捕集された乾ダストと湿式集塵機で捕集された湿ダストから試料を採取し、その成分を分析した。シアン化合物の含有量は、乾ダストが0.81質量ppm,湿ダストが62.0質量ppmであった。その他の主な成分は表1に示す通りである。表1中のT.Feは、酸化鉄や合金鉄として含有される鉄分の合計を示す。
【0020】
【表1】

【0021】
これらの乾ダストと湿ダストを用いて、図2に示すように、ダスト造粒物を製造した。その手順を以下に説明する。
乾式集塵機1で捕集した乾ダスト2を、気流搬送で乾ダストホッパー12に送給して貯留した。一方、湿式集塵機3で捕集した湿ダスト4を、付随する水分とともにスラリー濃度調整槽13へ送給し、その底部に沈降して濃化したスラリーを脱水機14へ送給した。脱水機14では、湿ダスト4の水分濃度を35質量%に脱水した。この湿ダスト4の水分濃度は、湿ダスト4の質量(すなわち固形分と水分の合計)に対する比率である。
【0022】
これらの乾ダストホッパー12から排出された乾ダスト2,脱水機14から排出された湿ダスト4とそれに付随する水分を混合造粒機9に装入した。さらに石灰ホッパー11から排出された石灰5を添加して、混合と造粒を同時に行なった。配合比率は、湿ダストを100質量部として、乾ダストを75質量部,石灰を7質量部とした。その石灰と乾ダストや湿ダストに含有される石灰分との合計濃度(すなわち石灰分濃度)は、5質量%であった。また、混合造粒機9内のダスト混合物の水分濃度は15〜21質量%の範囲内に維持した。ダスト混合物の石灰分濃度および水分濃度は、ダスト混合物の質量に対する比率である。
【0023】
このようにして得られたダスト造粒物10を搬送用容器に収納して焼結設備に送給し、高炉用焼結鉱の原料に0.8質量%の割合で配合して焼結した。このとき焼結炉から排出される粉塵を採取してシアン化合物の濃度を測定したところ、シアン化合物の存在は認められなかった。また、得られた焼結鉱から試料を採取してシアン化合物の濃度を測定したところ、シアン化合物の存在は認められなかった。つまりシアン化合物が熱分解したことが確かめられた。
【0024】
なお、焼結鉱の品質特性には問題はなかった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を適用してシアン化合物を分解する手順の例を示すフロー図である。
【図2】本発明を適用してシアン化合物を分解する手順の他の例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0026】
1 乾式集塵機
2 乾ダスト
3 湿式集塵機
4 湿ダスト
5 石灰
6 混合機
7 ダスト混合物
8 造粒機
9 混合造粒機
10 ダスト造粒物
11 石灰ホッパー
12 乾ダストホッパー
13 スラリー濃度調整槽
14 脱水機


【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鉄設備において発生するシアン化合物を含有する製鉄ダストのうち、乾式集塵機にて捕集された乾ダストと、湿式集塵機にて捕集された湿ダストと、前記湿ダストに付随する水分と、石灰と、を混合してダスト混合物とし、前記ダスト混合物の水分濃度を前記ダスト混合物の質量に対して12〜24質量%の範囲内に調整し、次いで前記ダスト混合物を造粒してダスト造粒物とし、前記ダスト造粒物を高炉用焼結鉱の原料に配合して焼結することによって前記シアン化合物を熱分解することを特徴とする製鉄ダストの処理方法。
【請求項2】
前記ダスト混合物の石灰分濃度を前記ダスト混合物の質量に対して2〜7質量%の範囲内に調整することを特徴とする請求項1に記載の製鉄ダストの処理方法。
【請求項3】
前記乾ダストと前記湿ダストと前記水分と前記石灰とを混合してダスト混合物とする工程および前記ダスト混合物を造粒してダスト造粒物とする工程を同時に行なうことを特徴とする請求項1または2に記載の製鉄ダストの処理方法。


【図1】
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【図2】
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