製鉄方法および製鉄システム
【課題】 輸送方法が確立されているアンモニアを還元剤として使用することで、還元反応を低温化し、還元剤使用量、燃料消費量および二酸化炭素の排出量を低減することができる製鉄方法および製鉄システムを提供する。
【解決手段】 反応器3内に製鉄原料とアンモニアとを供給し、還元反応させることにより鉄を製造する。前記アンモニアを前記製鉄原料の還元反応温度以上に予熱してから前記反応器3内に供給しもてよく、酸素または空気を前記反応器3内に供給してもよい。
【解決手段】 反応器3内に製鉄原料とアンモニアとを供給し、還元反応させることにより鉄を製造する。前記アンモニアを前記製鉄原料の還元反応温度以上に予熱してから前記反応器3内に供給しもてよく、酸素または空気を前記反応器3内に供給してもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄技術に関し、特に、アンモニアによる還元反応を利用した製鉄方法および製鉄システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、製鉄プロセスにおいては、高炉を用いて鉄鉱石から銑鉄を得る工程が主に用いられている。具体的には、高炉の上部から鉄鉱石とコークスとを交互に供給し、下部から高温の熱風を吹き込む。これにより、鉄鉱石中の酸化鉄が、コークスの燃焼およびブドワー反応により生じた一酸化炭素により還元され、鉄が分離されるようになっている。
【0003】
また、特開2009−221549号公報には、上述した高炉法において、コークスの代わりに水素を還元剤として使用する方法も提案されている(特許文献1)。この方法では、羽口から水素を10質量%以上含有する還元剤を吹き込む高炉操業において、高炉の炉頂から予熱した原料を装入することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−221549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記コークスを用いた高炉法においては、コークスのブドワー反応が律速するため、還元鉄を得るには、1000℃を超える高温を保持する必要がある。このため、燃料消費量が500kg/t−pig ironと膨大であり、二酸化炭素の排出量が極めて多いという問題がある。また、還元剤の利用率も約50%と低いため、高炉の出口ガスの化学エネルギーを回収するプロセスも必要となる。なお、還元剤の利用率とは、ある還元剤を還元反応に使用した場合に、その反応に利用される還元剤の割合(還元反応に利用された量/還元反応前の全量)をいうものとする。
【0006】
また、上記特許文献1に記載された発明においては、還元剤となる水素を輸送するためのインフラストラクチャーが整備されていないという問題がある。水素の輸送には、液化する方法、圧縮する方法、水素吸蔵合金を用いる方法等が考えられるが、液化するには約−252℃以下に冷却する必要がある。また、圧縮するには高圧圧縮機や高強度の圧力容器が必要となる。さらに、水素吸蔵合金は、吸蔵量が10%未満と少なく、いずれも実用化には解決すべき課題が残っている状況である。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、輸送方法が確立されているアンモニアを還元剤として使用することで、還元反応を低温化し、還元剤使用量、燃料消費量および二酸化炭素の排出量を低減することができる製鉄方法および製鉄システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る製鉄方法は、反応器内に製鉄原料とアンモニアとを供給し、還元反応させることにより鉄を製造するものである。
【0009】
また、本発明において、前記アンモニアを前記製鉄原料の還元反応温度以上に予熱してから前記反応器内に供給してもよい。
【0010】
さらに、本発明において、前記アンモニアに酸素または空気を混合させて前記反応器内に供給してもよい。
【0011】
また、本発明において、前記アンモニアとは別に、酸素または空気を前記反応器内に供給してもよい。
【0012】
さらに、本発明において、前記反応器内を450℃以上に保持してもよい。
【0013】
本発明に係る製鉄システムは、製鉄原料とアンモニアとを収容し、還元反応させることにより鉄を製造する反応器と、前記反応器内に製鉄原料を供給する製鉄原料供給手段と、前記反応器内にアンモニアを供給するアンモニア供給手段と、を有している。
【0014】
また、本発明において、前記アンモニアを前記製鉄原料の還元反応温度以上に予熱するアンモニア予熱手段を有していてもよい。
【0015】
さらに、本発明において、前記アンモニア供給手段は、前記アンモニアに酸素または空気を混合させて前記反応器内に供給してもよい。
【0016】
また、本発明において、前記アンモニアとは別に、酸素または空気を前記反応器内に供給する酸素供給手段を有していてもよい。
【0017】
さらに、本発明において、前記反応器内を450℃以上に保持してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、輸送方法が確立されているアンモニアを還元剤として使用することで、還元反応を低温化し、還元剤使用量、燃料消費量および二酸化炭素の排出量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る製鉄方法の一実施形態を示すフローチャート図である。
【図2】本発明に係る製鉄システムの一実施形態を示すブロック図である。
【図3】本実施例で使用した実験装置を示す全体図である。
【図4】実施例1において、反応管の出口ガスの組成を質量分析計により計測した結果を示すグラフである。
【図5】実施例1において、各ガスについて、濃度の時間変化を微分した値を示すグラフである。
【図6】実施例1において、還元後試料のX線回折装置による分析結果を示す図である。
【図7】実施例2において、反応管の出口ガスの組成を質量分析計により計測した結果を示すグラフである。
【図8】実施例2において、各ガスについて、濃度の時間変化を微分した値を示すグラフである。
【図9】実施例2において、還元後試料のX線回折装置による分析結果を示す図である。
【図10】鉄とアンモニアおよび窒化鉄について、温度変化に対するギブス自由エネルギーの変化を示すグラフである。
【図11】各還元反応について、温度変化に対するギブス自由エネルギーの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明者らは、上記課題を解決するにあたり、還元反応の低温化を目標として予備的検討を行った。具体的には、まず、以下の特性により、アンモニアを還元剤として使用することを発案した。
(1)アンモニアの液化温度は−33℃と水素に比べて液化し易い点。
(2)アンモニアは他の代表的な水素貯蔵物質に比べて水素貯蔵量が17.6mass%と高い点。
(3)アンモニアの製造方法および輸送方法が既に確立されており、現在のインフラストラクチャーを利用できる点。
【0021】
そこで、製鉄原料となるヘマタイトの還元反応について、図11に示すように、熱力学的平衡計算を行った。その結果、炭素および水素に比べて、アンモニアによるヘマタイトの還元平衡が、約300℃で生成側にシフトすることに着目した。また、一酸化炭素は、工業的に生産するプロセスが存在しないため、実際の製鉄プロセスへの適用や応用を考えると適切ではない点を考慮した。そして、鋭意研究の結果、反応器内に製鉄原料とアンモニアとを供給し、還元反応させることにより鉄を製造できることを見出した。
【0022】
以下、本発明に係る製鉄方法および製鉄システムの実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態の製鉄方法を示すフローチャート図であり、図2は本実施形態の製鉄方法を実施する製鉄システム1を示すブロック図である。
【0023】
図1および図2に示すように、本実施形態では、まず、ベルトコンベア等の製鉄原料供給手段2によって反応器3に製鉄原料を供給する(ステップS1)。本発明において、反応器3は、耐熱性を有し、所定の物質を収容して化学反応を起こさせる全ての容器を含む概念である。また、本発明において、製鉄原料は、酸化鉄を主成分とする全ての原料を含むものであり、例えば、ヘマタイト、マグネタイト、リモナイト等の鉄鉱石である。
【0024】
つぎに、気体加熱用ヒーター等からなるアンモニア予熱手段4によって、アンモニアを予熱する(ステップS2)。ここで、アンモニアによる製鉄原料の還元は吸熱反応であるため、還元反応が進行すると温度が低下する。したがって、本発明に係る製鉄方法を実際の製鉄プロセスに適用する場合、上記の吸熱分を何らかの形で補う必要がある。そこで、本実施形態では、アンモニアを予熱することにより顕熱を増大させ、上記の吸熱分を補うようになっている。また、アンモニアを製鉄原料の還元反応温度以上に予熱することで、上記の吸熱分を完全に補完する顕熱が付与されることとなる。なお、還元反応温度とは、還元反応を開始させるのに必要な最低温度であり、本実施形態では、図11より約300℃であるといえる。
【0025】
なお、ステップS2の予熱処理は、アンモニアを単独で供給する場合に、吸熱分を補うための方法として考えられる処理の1つである。しかしながら、アンモニアの他に、酸素または空気を供給した場合、反応器3内でアンモニアが部分的に燃焼し、内部で熱が供給される。したがって、この部分燃焼と本予熱処理とを組み合わせて、熱供給することもできるし、本予熱処理を省略し、部分燃焼だけにより熱供給することも可能である。
【0026】
つぎに、流量調整器等からなるアンモニア供給手段5によって、反応器3にアンモニアを供給する(ステップS3)。本実施形態において、アンモニア供給手段5は、上述した予熱処理を行う場合、アンモニア予熱手段4が予熱したアンモニアガスを一定の流量で反応器3内へ供給するようになっている。一方、上述した部分燃焼による熱供給を行う場合、アンモニア供給手段5は、アンモニアに酸素または空気を混合させて反応器3内に供給するようになっている。
【0027】
なお、部分燃焼による熱供給を行う場合、酸素または空気をアンモニアと混合させず、流量調整器等からなる酸素供給手段6によって、別途、反応器3内へ供給するようにしてもよい(ステップS4)。ただし、反応器3内へ供給した酸素や空気が、還元された鉄を選択的に酸化し、アンモニアと接触する前に消費されるのを抑制する必要がある。したがって、酸素供給手段6は、当該抑制が可能な供給方式やレイアウトを備えている。ただし、アンモニアの燃焼反応が製鉄原料の酸化反応に比べて十分に早く進行させられる場合、供給レイアウトは問題にならない。
【0028】
最後に、加熱炉等からなる加熱手段7によって、反応器3内を所定温度以上に加熱して保持する(ステップS5)。これにより、アンモニアによる製鉄原料の還元反応が進行し、還元鉄が得られる。本実施形態において、製鉄原料の主成分である酸化鉄が、アンモニアにより還元される反応は、後述する実施例の結果より、加熱温度によって異なるものと考えられる。具体的には、アンモニアが窒素と水素に分解された後(下記式(1))、その水素によって還元されるケース(下記式(2))と、アンモニアによって直接窒化鉄(Fe4N)に還元された後(下記式(3))、その窒化鉄が分解されるケース(下記式(4))とが存在するものと考えられる。
【0029】
NH3→1/2N2+3/2H2 …式(1)
Fe2O3+3H2→2Fe+3H2O …式(2)
Fe2O3+6NH3→2Fe4N+3H2O+2N2 …式(3)
Fe4N→4Fe+1/2N2 …式(4)
【0030】
前者のケースにおいて、アンモニアは、酸化鉄を還元する過程で半還元鉄(Fe3O4,FeO)を生成する(下記式(5)〜(7))。そして、この半還元鉄の触媒作用により、上記式(1)の水素生成プロセスを低温化させる作用を有している。また、上記式(1)により生成された水素により、半還元鉄の還元反応をさらに進行させ(下記式(8)〜(10))、最終的に鉄へと還元するものと考えられる。
【0031】
Fe2O3+2/9NH3→2/3Fe3O4+1/3H2O+1/9N2 …式(5)
Fe2O3+2/3NH3→2FeO+H2O+1/3N2 …式(6)
Fe3O4+2/3NH3→3FeO+H2O+1/3N2 …式(7)
Fe2O3+1/3H2→2/3Fe3O4+1/3H2O …式(8)
Fe2O3+H2→2FeO+H2O …式(9)
Fe3O4+H2→3FeO+H2O …式(10)
【0032】
一方、後者のケースでは、アンモニアが直接的に酸化鉄を窒化鉄に還元する。そして、生成された窒化鉄の一部が分解し、鉄へと変化するものと考えられる。なお、上記式(3)で生成された窒化鉄は、別途、アンモニアを分解する触媒として機能し、上記式(1)の反応を進行させるものと考えられる。
【0033】
なお、上述したいずれのケースにおいても、反応器3内の温度が低いほど、還元反応が進行しにくくなる。したがって、実用化できる程度に還元反応を進行させるには、反応器3内を所定の温度以上に加熱する必要がある。本実施形態では、後述する実施例の結果より、反応器3内を450℃以上に加熱した場合、アンモニアによる還元反応が遅滞なく進行するようになっている。
【0034】
また、上述した本実施形態では、加熱手段7によって反応器3内を加熱する方法について説明したが、アンモニアを十分に予熱することができる場合には、加熱手段7を使用しなくてもよい。すなわち、アンモニアの顕熱によって、反応器3内が還元反応温度以上を維持できる程に予熱したアンモニアを供給する場合、別途、加熱手段7を省略することも可能である。
【0035】
以上より、本発明において、還元反応に必要な熱を供給する方式としては、反応器3の外部から熱を供給する外熱式と、反応器3の内部で熱を発生させる内熱式とが考えられ、いずれか一方を単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。また、外熱式としては、アンモニアを予熱して供給する方法と、反応器3内を加熱する方法とが考えられ、いずれか一方を単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。さらに、内熱式としては、アンモニアに酸素または空気を混合させて供給する方法と、アンモニアとは別に、酸素または空気を供給する方法とが考えられ、製造効率やコストを考慮していずれを選択してもよい。
【0036】
以上のような本実施形態によれば、以下のような作用効果を奏する。
1.従来の高炉法に比べて低温での還元反応を実現し、還元反応に必要な熱を供給するための燃料消費量や二酸化炭素の排出量を低減することができる。
2.還元反応におけるアンモニアの利用率が高くなるようプロセス設計し、還元剤の使用量を低減することができる。
3.アンモニアの製造方法や輸送方法は確立しているため、既存のインフラストラクチャーを利用してアンモニアを容易に入手することができ、実用化の可能性が高い。
4.バイオマス由来または高温ガス化炉由来のアンモニアを用いることで、二酸化炭素の排出量をより一層低減することができる。
【0037】
つぎに、本発明に係る製鉄方法および製鉄システム1の具体的な実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、以下の実施例によって示される特徴に限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
本実施例1では、アンモニアにより製鉄原料としてのヘマタイト(赤鉄鉱)を還元する実験を行った。具体的には、まず、図3に示すように、固定層型の反応管11(反応器3に相当:アルバック理工社製)を用意し、この反応管11内に設けられた石英ウール12上に、層高が1cmとなるようにヘマタイト試薬(純度99%,粒径<1μm)を約270mg充填した。
【0039】
つづいて、流量調整器13(アンモニア供給手段5に相当)および停止弁14を介して、濃度が5vol%のアンモニアガス(Arバランス)を200mL/minで反応管11内に流通させた。そして、コンピュータ15に接続された質量分析計16(ファイファーバキューム社製;Prisma QMS200)によって、反応管11の内部がアンモニアガスに置換されたのを確認した後、赤外炉17(加熱手段7に相当:アルバック理工社製;RHL−E210)により加熱を開始した。
【0040】
以上の条件下において、反応管11内の温度を測定する熱電対18に接続された温度調節器19(アルバック理工社製;TCP−1000)を用いて赤外炉17を制御し、反応管11内を10℃/minの速度で600℃まで加熱した後、2時間保持した。この場合における反応管11の出口ガスの組成を質量分析計16により計測した結果を図4に示す。なお、図4の左縦軸は、各ガスの検出強度をアルゴンの検出強度で正規化した値(相対強度)である。また、各ガスについて、濃度の時間変化を微分した値を図5に示す。
【0041】
図4に示すように、炉内温度が約500℃になったとき、アンモニアの濃度が減少する一方、水素および水蒸気(H2O)の濃度が増加した。この場合におけるアンモニア濃度の減少および水素濃度の増加は、上記式(1)に示すように、アンモニアが分解したことに起因する。また、水蒸気濃度の増加は、上記式(2)に示すように、ヘマタイトの主成分である酸化鉄(Fe2O3)が還元されたことに起因する。なお、図4では、窒素の表示を省略しているが、実際には、水蒸気の増加とほぼ同時に増加している。
【0042】
また、図5に示すように、各ガス濃度の時間変化を微分した値は、加熱を開始してから約2500秒後に、アンモニア、窒素および水蒸気のそれぞれについて急激な変化が認められた。このときの炉内温度は約450℃であった。その後、加熱を開始してから約3000秒後に、水素濃度に急激な変化が確認された。このときの炉内温度は約530℃であった。
【0043】
炉内温度が450℃における水蒸気の生成は、水素の生成を伴っていないことから、上記式(3)の還元反応に起因するものと考えられる。一方、炉内温度が530℃まで上昇すると、水素が生成されているため、上記式(1),(2)の還元反応も同時に進行しているものと考えられる。また、図5に示されるように、水素濃度が増加した後、水蒸気濃度の増加率が減少している。
【0044】
以上の結果より、アンモニアによる酸化鉄の還元よりも、相対的に水素による還元の方が反応速度が遅いことが示唆された。また、反応速度の遅い水素が発生することによって、アンモニアによる還元を含めた全体の還元速度が低下し、結果的にアンモニアによる還元が阻害されることが示唆された。
【0045】
また、本実施例1では、上記のように、600℃で2時間保持した後、反応管11内を冷却するのと同時に、質量流量調整器20および停止弁14を介して、雰囲気ガスをアルゴンに切り換えた。なお、反応管11の出口ガスは、吸収器21でアンモニアガスを吸収してから大気へ放出した。そして、室温まで冷却した後、反応管11内に残留した還元後試料の重量を測定し、粉砕してX線回折装置(株式会社リガク製;MiniFlex)により生成相を同定した。その結果を図6に示す。
【0046】
図6に示すように、還元後試料の生成相は、全て鉄であることが確認された。また、還元後試料の重量測定による還元率は98.6%(誤差±5%)であり、アンモニアによりヘマタイトがほぼ完全に鉄へと還元されることが示された。なお、還元率とは、本実施例1で用いたヘマタイト試薬中の酸素を100とした場合に、還元によって失われた酸素の割合を示すものである。
【0047】
以上のような本実施例1によれば、反応管11内を450℃以上に加熱したとき、アンモニアによる酸化鉄の還元反応が開始されることが示された。また、反応管11内を600℃で保持したとき、酸化鉄からほぼ完全に鉄へと還元されることが示された。
【実施例2】
【0048】
本実施例2では、上述した実施例1と同様の実験条件下において、反応管11内の保持温度および保持時間を変えて実験を行った。具体的には、反応管11内を10℃/minの速度で450℃まで加熱した後、3時間保持した。この場合における反応管11の出口ガスの組成を図7に示す。また、各ガスについて、濃度の時間変化を微分した値を図8に示す。
【0049】
図7および図8に示すように、本実施例2では、炉内温度が450℃に達しても、還元反応が起きていることを示す水蒸気の生成は確認されなかった。しかしながら、図9に示すように、還元後試料においては、主相として鉄が生成され、副相には窒化鉄(Fe4N)が生成されていた。
【0050】
ここで、図10に示すように、450℃において窒化鉄と鉄および窒素の平衡は、分解側に寄っている。また、窒化鉄の分解反応におけるギブス自由エネルギーは、鉄とアンモニアによる窒化反応のギブス自由エネルギーよりも常に低い。よって、鉄とアンモニアが反応して窒化する反応よりも、窒化鉄が分解する反応の方が優先されるといえる。このため、窒化鉄が生成される経路としては、アンモニアが、酸化鉄(Fe2O3)と直接反応しているものと考えられる。すなわち、本実施例2においても、アンモニアが酸化鉄の還元に直接的に関与していることを示唆する結果が得られた。
【0051】
なお、本実施例2では、図7および図8に示すように、アンモニアが分解されていることを示す水素の濃度が増加している。したがって、生成された窒化鉄もアンモニアを分解する触媒として機能しているものと考えられる。
【0052】
また、本実施例2において生成された窒化鉄は、上記式(3)により生成されるケースの他、下記式(11)に示すように、上記式(4)で分解された鉄がアンモニアと反応して生成されるケースも想定される。しかしながら、上述した通り、窒化鉄の分解反応は、鉄とアンモニアの窒化反応よりも優先されるため、450℃の温度下においては、ほとんど進行しないものと考えられる。
Fe+1/4NH3→1/4Fe4N+3/8H2 …式(11)
【0053】
以上のような本実施例2によれば、実施例1と同様、反応管11内を450℃以上に加熱したとき、アンモニアによる酸化鉄の還元反応が開始されることが示された。また、反応管11内を450℃で保持したとき、酸化鉄が鉄と窒化鉄とに還元されることが示された。この窒化鉄は、図10に示すように、分解しやすい性質を有しているため、鉄が生成されたに等しいといえる。
【0054】
なお、本発明に係る製鉄方法および製鉄システム1は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0055】
例えば、上述した本実施形態では、実際の製鉄プロセスに適用することを想定して、予熱したアンモニアを供給したり、酸素または空気を供給しているが、この構成に限定されるものではない。すなわち、実際の製鉄プロセス以外で、本発明に係る製鉄方法を実施する場合には、反応器3内を加熱する等、別途、還元反応による吸熱分を補填すればよい。
【符号の説明】
【0056】
1 製鉄システム
2 製鉄原料供給手段
3 反応器
4 アンモニア予熱手段
5 アンモニア供給手段
6 酸素供給手段
11 反応管
12 石英ウール
13 流量調整器
14 停止弁
15 コンピュータ
16 質量分析計
17 赤外炉
18 熱電対
19 温度調節器
20 質量流量調整器
21 吸収器
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄技術に関し、特に、アンモニアによる還元反応を利用した製鉄方法および製鉄システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、製鉄プロセスにおいては、高炉を用いて鉄鉱石から銑鉄を得る工程が主に用いられている。具体的には、高炉の上部から鉄鉱石とコークスとを交互に供給し、下部から高温の熱風を吹き込む。これにより、鉄鉱石中の酸化鉄が、コークスの燃焼およびブドワー反応により生じた一酸化炭素により還元され、鉄が分離されるようになっている。
【0003】
また、特開2009−221549号公報には、上述した高炉法において、コークスの代わりに水素を還元剤として使用する方法も提案されている(特許文献1)。この方法では、羽口から水素を10質量%以上含有する還元剤を吹き込む高炉操業において、高炉の炉頂から予熱した原料を装入することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−221549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記コークスを用いた高炉法においては、コークスのブドワー反応が律速するため、還元鉄を得るには、1000℃を超える高温を保持する必要がある。このため、燃料消費量が500kg/t−pig ironと膨大であり、二酸化炭素の排出量が極めて多いという問題がある。また、還元剤の利用率も約50%と低いため、高炉の出口ガスの化学エネルギーを回収するプロセスも必要となる。なお、還元剤の利用率とは、ある還元剤を還元反応に使用した場合に、その反応に利用される還元剤の割合(還元反応に利用された量/還元反応前の全量)をいうものとする。
【0006】
また、上記特許文献1に記載された発明においては、還元剤となる水素を輸送するためのインフラストラクチャーが整備されていないという問題がある。水素の輸送には、液化する方法、圧縮する方法、水素吸蔵合金を用いる方法等が考えられるが、液化するには約−252℃以下に冷却する必要がある。また、圧縮するには高圧圧縮機や高強度の圧力容器が必要となる。さらに、水素吸蔵合金は、吸蔵量が10%未満と少なく、いずれも実用化には解決すべき課題が残っている状況である。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、輸送方法が確立されているアンモニアを還元剤として使用することで、還元反応を低温化し、還元剤使用量、燃料消費量および二酸化炭素の排出量を低減することができる製鉄方法および製鉄システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る製鉄方法は、反応器内に製鉄原料とアンモニアとを供給し、還元反応させることにより鉄を製造するものである。
【0009】
また、本発明において、前記アンモニアを前記製鉄原料の還元反応温度以上に予熱してから前記反応器内に供給してもよい。
【0010】
さらに、本発明において、前記アンモニアに酸素または空気を混合させて前記反応器内に供給してもよい。
【0011】
また、本発明において、前記アンモニアとは別に、酸素または空気を前記反応器内に供給してもよい。
【0012】
さらに、本発明において、前記反応器内を450℃以上に保持してもよい。
【0013】
本発明に係る製鉄システムは、製鉄原料とアンモニアとを収容し、還元反応させることにより鉄を製造する反応器と、前記反応器内に製鉄原料を供給する製鉄原料供給手段と、前記反応器内にアンモニアを供給するアンモニア供給手段と、を有している。
【0014】
また、本発明において、前記アンモニアを前記製鉄原料の還元反応温度以上に予熱するアンモニア予熱手段を有していてもよい。
【0015】
さらに、本発明において、前記アンモニア供給手段は、前記アンモニアに酸素または空気を混合させて前記反応器内に供給してもよい。
【0016】
また、本発明において、前記アンモニアとは別に、酸素または空気を前記反応器内に供給する酸素供給手段を有していてもよい。
【0017】
さらに、本発明において、前記反応器内を450℃以上に保持してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、輸送方法が確立されているアンモニアを還元剤として使用することで、還元反応を低温化し、還元剤使用量、燃料消費量および二酸化炭素の排出量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る製鉄方法の一実施形態を示すフローチャート図である。
【図2】本発明に係る製鉄システムの一実施形態を示すブロック図である。
【図3】本実施例で使用した実験装置を示す全体図である。
【図4】実施例1において、反応管の出口ガスの組成を質量分析計により計測した結果を示すグラフである。
【図5】実施例1において、各ガスについて、濃度の時間変化を微分した値を示すグラフである。
【図6】実施例1において、還元後試料のX線回折装置による分析結果を示す図である。
【図7】実施例2において、反応管の出口ガスの組成を質量分析計により計測した結果を示すグラフである。
【図8】実施例2において、各ガスについて、濃度の時間変化を微分した値を示すグラフである。
【図9】実施例2において、還元後試料のX線回折装置による分析結果を示す図である。
【図10】鉄とアンモニアおよび窒化鉄について、温度変化に対するギブス自由エネルギーの変化を示すグラフである。
【図11】各還元反応について、温度変化に対するギブス自由エネルギーの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明者らは、上記課題を解決するにあたり、還元反応の低温化を目標として予備的検討を行った。具体的には、まず、以下の特性により、アンモニアを還元剤として使用することを発案した。
(1)アンモニアの液化温度は−33℃と水素に比べて液化し易い点。
(2)アンモニアは他の代表的な水素貯蔵物質に比べて水素貯蔵量が17.6mass%と高い点。
(3)アンモニアの製造方法および輸送方法が既に確立されており、現在のインフラストラクチャーを利用できる点。
【0021】
そこで、製鉄原料となるヘマタイトの還元反応について、図11に示すように、熱力学的平衡計算を行った。その結果、炭素および水素に比べて、アンモニアによるヘマタイトの還元平衡が、約300℃で生成側にシフトすることに着目した。また、一酸化炭素は、工業的に生産するプロセスが存在しないため、実際の製鉄プロセスへの適用や応用を考えると適切ではない点を考慮した。そして、鋭意研究の結果、反応器内に製鉄原料とアンモニアとを供給し、還元反応させることにより鉄を製造できることを見出した。
【0022】
以下、本発明に係る製鉄方法および製鉄システムの実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態の製鉄方法を示すフローチャート図であり、図2は本実施形態の製鉄方法を実施する製鉄システム1を示すブロック図である。
【0023】
図1および図2に示すように、本実施形態では、まず、ベルトコンベア等の製鉄原料供給手段2によって反応器3に製鉄原料を供給する(ステップS1)。本発明において、反応器3は、耐熱性を有し、所定の物質を収容して化学反応を起こさせる全ての容器を含む概念である。また、本発明において、製鉄原料は、酸化鉄を主成分とする全ての原料を含むものであり、例えば、ヘマタイト、マグネタイト、リモナイト等の鉄鉱石である。
【0024】
つぎに、気体加熱用ヒーター等からなるアンモニア予熱手段4によって、アンモニアを予熱する(ステップS2)。ここで、アンモニアによる製鉄原料の還元は吸熱反応であるため、還元反応が進行すると温度が低下する。したがって、本発明に係る製鉄方法を実際の製鉄プロセスに適用する場合、上記の吸熱分を何らかの形で補う必要がある。そこで、本実施形態では、アンモニアを予熱することにより顕熱を増大させ、上記の吸熱分を補うようになっている。また、アンモニアを製鉄原料の還元反応温度以上に予熱することで、上記の吸熱分を完全に補完する顕熱が付与されることとなる。なお、還元反応温度とは、還元反応を開始させるのに必要な最低温度であり、本実施形態では、図11より約300℃であるといえる。
【0025】
なお、ステップS2の予熱処理は、アンモニアを単独で供給する場合に、吸熱分を補うための方法として考えられる処理の1つである。しかしながら、アンモニアの他に、酸素または空気を供給した場合、反応器3内でアンモニアが部分的に燃焼し、内部で熱が供給される。したがって、この部分燃焼と本予熱処理とを組み合わせて、熱供給することもできるし、本予熱処理を省略し、部分燃焼だけにより熱供給することも可能である。
【0026】
つぎに、流量調整器等からなるアンモニア供給手段5によって、反応器3にアンモニアを供給する(ステップS3)。本実施形態において、アンモニア供給手段5は、上述した予熱処理を行う場合、アンモニア予熱手段4が予熱したアンモニアガスを一定の流量で反応器3内へ供給するようになっている。一方、上述した部分燃焼による熱供給を行う場合、アンモニア供給手段5は、アンモニアに酸素または空気を混合させて反応器3内に供給するようになっている。
【0027】
なお、部分燃焼による熱供給を行う場合、酸素または空気をアンモニアと混合させず、流量調整器等からなる酸素供給手段6によって、別途、反応器3内へ供給するようにしてもよい(ステップS4)。ただし、反応器3内へ供給した酸素や空気が、還元された鉄を選択的に酸化し、アンモニアと接触する前に消費されるのを抑制する必要がある。したがって、酸素供給手段6は、当該抑制が可能な供給方式やレイアウトを備えている。ただし、アンモニアの燃焼反応が製鉄原料の酸化反応に比べて十分に早く進行させられる場合、供給レイアウトは問題にならない。
【0028】
最後に、加熱炉等からなる加熱手段7によって、反応器3内を所定温度以上に加熱して保持する(ステップS5)。これにより、アンモニアによる製鉄原料の還元反応が進行し、還元鉄が得られる。本実施形態において、製鉄原料の主成分である酸化鉄が、アンモニアにより還元される反応は、後述する実施例の結果より、加熱温度によって異なるものと考えられる。具体的には、アンモニアが窒素と水素に分解された後(下記式(1))、その水素によって還元されるケース(下記式(2))と、アンモニアによって直接窒化鉄(Fe4N)に還元された後(下記式(3))、その窒化鉄が分解されるケース(下記式(4))とが存在するものと考えられる。
【0029】
NH3→1/2N2+3/2H2 …式(1)
Fe2O3+3H2→2Fe+3H2O …式(2)
Fe2O3+6NH3→2Fe4N+3H2O+2N2 …式(3)
Fe4N→4Fe+1/2N2 …式(4)
【0030】
前者のケースにおいて、アンモニアは、酸化鉄を還元する過程で半還元鉄(Fe3O4,FeO)を生成する(下記式(5)〜(7))。そして、この半還元鉄の触媒作用により、上記式(1)の水素生成プロセスを低温化させる作用を有している。また、上記式(1)により生成された水素により、半還元鉄の還元反応をさらに進行させ(下記式(8)〜(10))、最終的に鉄へと還元するものと考えられる。
【0031】
Fe2O3+2/9NH3→2/3Fe3O4+1/3H2O+1/9N2 …式(5)
Fe2O3+2/3NH3→2FeO+H2O+1/3N2 …式(6)
Fe3O4+2/3NH3→3FeO+H2O+1/3N2 …式(7)
Fe2O3+1/3H2→2/3Fe3O4+1/3H2O …式(8)
Fe2O3+H2→2FeO+H2O …式(9)
Fe3O4+H2→3FeO+H2O …式(10)
【0032】
一方、後者のケースでは、アンモニアが直接的に酸化鉄を窒化鉄に還元する。そして、生成された窒化鉄の一部が分解し、鉄へと変化するものと考えられる。なお、上記式(3)で生成された窒化鉄は、別途、アンモニアを分解する触媒として機能し、上記式(1)の反応を進行させるものと考えられる。
【0033】
なお、上述したいずれのケースにおいても、反応器3内の温度が低いほど、還元反応が進行しにくくなる。したがって、実用化できる程度に還元反応を進行させるには、反応器3内を所定の温度以上に加熱する必要がある。本実施形態では、後述する実施例の結果より、反応器3内を450℃以上に加熱した場合、アンモニアによる還元反応が遅滞なく進行するようになっている。
【0034】
また、上述した本実施形態では、加熱手段7によって反応器3内を加熱する方法について説明したが、アンモニアを十分に予熱することができる場合には、加熱手段7を使用しなくてもよい。すなわち、アンモニアの顕熱によって、反応器3内が還元反応温度以上を維持できる程に予熱したアンモニアを供給する場合、別途、加熱手段7を省略することも可能である。
【0035】
以上より、本発明において、還元反応に必要な熱を供給する方式としては、反応器3の外部から熱を供給する外熱式と、反応器3の内部で熱を発生させる内熱式とが考えられ、いずれか一方を単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。また、外熱式としては、アンモニアを予熱して供給する方法と、反応器3内を加熱する方法とが考えられ、いずれか一方を単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。さらに、内熱式としては、アンモニアに酸素または空気を混合させて供給する方法と、アンモニアとは別に、酸素または空気を供給する方法とが考えられ、製造効率やコストを考慮していずれを選択してもよい。
【0036】
以上のような本実施形態によれば、以下のような作用効果を奏する。
1.従来の高炉法に比べて低温での還元反応を実現し、還元反応に必要な熱を供給するための燃料消費量や二酸化炭素の排出量を低減することができる。
2.還元反応におけるアンモニアの利用率が高くなるようプロセス設計し、還元剤の使用量を低減することができる。
3.アンモニアの製造方法や輸送方法は確立しているため、既存のインフラストラクチャーを利用してアンモニアを容易に入手することができ、実用化の可能性が高い。
4.バイオマス由来または高温ガス化炉由来のアンモニアを用いることで、二酸化炭素の排出量をより一層低減することができる。
【0037】
つぎに、本発明に係る製鉄方法および製鉄システム1の具体的な実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、以下の実施例によって示される特徴に限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
本実施例1では、アンモニアにより製鉄原料としてのヘマタイト(赤鉄鉱)を還元する実験を行った。具体的には、まず、図3に示すように、固定層型の反応管11(反応器3に相当:アルバック理工社製)を用意し、この反応管11内に設けられた石英ウール12上に、層高が1cmとなるようにヘマタイト試薬(純度99%,粒径<1μm)を約270mg充填した。
【0039】
つづいて、流量調整器13(アンモニア供給手段5に相当)および停止弁14を介して、濃度が5vol%のアンモニアガス(Arバランス)を200mL/minで反応管11内に流通させた。そして、コンピュータ15に接続された質量分析計16(ファイファーバキューム社製;Prisma QMS200)によって、反応管11の内部がアンモニアガスに置換されたのを確認した後、赤外炉17(加熱手段7に相当:アルバック理工社製;RHL−E210)により加熱を開始した。
【0040】
以上の条件下において、反応管11内の温度を測定する熱電対18に接続された温度調節器19(アルバック理工社製;TCP−1000)を用いて赤外炉17を制御し、反応管11内を10℃/minの速度で600℃まで加熱した後、2時間保持した。この場合における反応管11の出口ガスの組成を質量分析計16により計測した結果を図4に示す。なお、図4の左縦軸は、各ガスの検出強度をアルゴンの検出強度で正規化した値(相対強度)である。また、各ガスについて、濃度の時間変化を微分した値を図5に示す。
【0041】
図4に示すように、炉内温度が約500℃になったとき、アンモニアの濃度が減少する一方、水素および水蒸気(H2O)の濃度が増加した。この場合におけるアンモニア濃度の減少および水素濃度の増加は、上記式(1)に示すように、アンモニアが分解したことに起因する。また、水蒸気濃度の増加は、上記式(2)に示すように、ヘマタイトの主成分である酸化鉄(Fe2O3)が還元されたことに起因する。なお、図4では、窒素の表示を省略しているが、実際には、水蒸気の増加とほぼ同時に増加している。
【0042】
また、図5に示すように、各ガス濃度の時間変化を微分した値は、加熱を開始してから約2500秒後に、アンモニア、窒素および水蒸気のそれぞれについて急激な変化が認められた。このときの炉内温度は約450℃であった。その後、加熱を開始してから約3000秒後に、水素濃度に急激な変化が確認された。このときの炉内温度は約530℃であった。
【0043】
炉内温度が450℃における水蒸気の生成は、水素の生成を伴っていないことから、上記式(3)の還元反応に起因するものと考えられる。一方、炉内温度が530℃まで上昇すると、水素が生成されているため、上記式(1),(2)の還元反応も同時に進行しているものと考えられる。また、図5に示されるように、水素濃度が増加した後、水蒸気濃度の増加率が減少している。
【0044】
以上の結果より、アンモニアによる酸化鉄の還元よりも、相対的に水素による還元の方が反応速度が遅いことが示唆された。また、反応速度の遅い水素が発生することによって、アンモニアによる還元を含めた全体の還元速度が低下し、結果的にアンモニアによる還元が阻害されることが示唆された。
【0045】
また、本実施例1では、上記のように、600℃で2時間保持した後、反応管11内を冷却するのと同時に、質量流量調整器20および停止弁14を介して、雰囲気ガスをアルゴンに切り換えた。なお、反応管11の出口ガスは、吸収器21でアンモニアガスを吸収してから大気へ放出した。そして、室温まで冷却した後、反応管11内に残留した還元後試料の重量を測定し、粉砕してX線回折装置(株式会社リガク製;MiniFlex)により生成相を同定した。その結果を図6に示す。
【0046】
図6に示すように、還元後試料の生成相は、全て鉄であることが確認された。また、還元後試料の重量測定による還元率は98.6%(誤差±5%)であり、アンモニアによりヘマタイトがほぼ完全に鉄へと還元されることが示された。なお、還元率とは、本実施例1で用いたヘマタイト試薬中の酸素を100とした場合に、還元によって失われた酸素の割合を示すものである。
【0047】
以上のような本実施例1によれば、反応管11内を450℃以上に加熱したとき、アンモニアによる酸化鉄の還元反応が開始されることが示された。また、反応管11内を600℃で保持したとき、酸化鉄からほぼ完全に鉄へと還元されることが示された。
【実施例2】
【0048】
本実施例2では、上述した実施例1と同様の実験条件下において、反応管11内の保持温度および保持時間を変えて実験を行った。具体的には、反応管11内を10℃/minの速度で450℃まで加熱した後、3時間保持した。この場合における反応管11の出口ガスの組成を図7に示す。また、各ガスについて、濃度の時間変化を微分した値を図8に示す。
【0049】
図7および図8に示すように、本実施例2では、炉内温度が450℃に達しても、還元反応が起きていることを示す水蒸気の生成は確認されなかった。しかしながら、図9に示すように、還元後試料においては、主相として鉄が生成され、副相には窒化鉄(Fe4N)が生成されていた。
【0050】
ここで、図10に示すように、450℃において窒化鉄と鉄および窒素の平衡は、分解側に寄っている。また、窒化鉄の分解反応におけるギブス自由エネルギーは、鉄とアンモニアによる窒化反応のギブス自由エネルギーよりも常に低い。よって、鉄とアンモニアが反応して窒化する反応よりも、窒化鉄が分解する反応の方が優先されるといえる。このため、窒化鉄が生成される経路としては、アンモニアが、酸化鉄(Fe2O3)と直接反応しているものと考えられる。すなわち、本実施例2においても、アンモニアが酸化鉄の還元に直接的に関与していることを示唆する結果が得られた。
【0051】
なお、本実施例2では、図7および図8に示すように、アンモニアが分解されていることを示す水素の濃度が増加している。したがって、生成された窒化鉄もアンモニアを分解する触媒として機能しているものと考えられる。
【0052】
また、本実施例2において生成された窒化鉄は、上記式(3)により生成されるケースの他、下記式(11)に示すように、上記式(4)で分解された鉄がアンモニアと反応して生成されるケースも想定される。しかしながら、上述した通り、窒化鉄の分解反応は、鉄とアンモニアの窒化反応よりも優先されるため、450℃の温度下においては、ほとんど進行しないものと考えられる。
Fe+1/4NH3→1/4Fe4N+3/8H2 …式(11)
【0053】
以上のような本実施例2によれば、実施例1と同様、反応管11内を450℃以上に加熱したとき、アンモニアによる酸化鉄の還元反応が開始されることが示された。また、反応管11内を450℃で保持したとき、酸化鉄が鉄と窒化鉄とに還元されることが示された。この窒化鉄は、図10に示すように、分解しやすい性質を有しているため、鉄が生成されたに等しいといえる。
【0054】
なお、本発明に係る製鉄方法および製鉄システム1は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0055】
例えば、上述した本実施形態では、実際の製鉄プロセスに適用することを想定して、予熱したアンモニアを供給したり、酸素または空気を供給しているが、この構成に限定されるものではない。すなわち、実際の製鉄プロセス以外で、本発明に係る製鉄方法を実施する場合には、反応器3内を加熱する等、別途、還元反応による吸熱分を補填すればよい。
【符号の説明】
【0056】
1 製鉄システム
2 製鉄原料供給手段
3 反応器
4 アンモニア予熱手段
5 アンモニア供給手段
6 酸素供給手段
11 反応管
12 石英ウール
13 流量調整器
14 停止弁
15 コンピュータ
16 質量分析計
17 赤外炉
18 熱電対
19 温度調節器
20 質量流量調整器
21 吸収器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内に製鉄原料とアンモニアとを供給し、還元反応させることにより鉄を製造する製鉄方法。
【請求項2】
前記アンモニアを前記製鉄原料の還元反応温度以上に予熱してから前記反応器内に供給する請求項1に記載の製鉄方法。
【請求項3】
前記アンモニアに酸素または空気を混合させて前記反応器内に供給する請求項1または請求項2に記載の製鉄方法。
【請求項4】
前記アンモニアとは別に、酸素または空気を前記反応器内に供給する請求項1または請求項2に記載の製鉄方法。
【請求項5】
前記反応器内を450℃以上に保持する請求項1から請求項4のいずれかに記載の製鉄方法。
【請求項6】
製鉄原料とアンモニアとを収容し、還元反応させることにより鉄を製造する反応器と、
前記反応器内に製鉄原料を供給する製鉄原料供給手段と、
前記反応器内にアンモニアを供給するアンモニア供給手段と、
を有する製鉄システム。
【請求項7】
前記アンモニアを前記製鉄原料の還元反応温度以上に予熱するアンモニア予熱手段を有している請求項6に記載の製鉄システム。
【請求項8】
前記アンモニア供給手段は、前記アンモニアに酸素または空気を混合させて前記反応器内に供給する請求項6または請求項7に記載の製鉄システム。
【請求項9】
前記アンモニアとは別に、酸素または空気を前記反応器内に供給する酸素供給手段を有している請求項6または請求項7に記載の製鉄システム。
【請求項10】
前記反応器内を450℃以上に保持する請求項6から請求項9のいずれかに記載の製鉄システム。
【請求項1】
反応器内に製鉄原料とアンモニアとを供給し、還元反応させることにより鉄を製造する製鉄方法。
【請求項2】
前記アンモニアを前記製鉄原料の還元反応温度以上に予熱してから前記反応器内に供給する請求項1に記載の製鉄方法。
【請求項3】
前記アンモニアに酸素または空気を混合させて前記反応器内に供給する請求項1または請求項2に記載の製鉄方法。
【請求項4】
前記アンモニアとは別に、酸素または空気を前記反応器内に供給する請求項1または請求項2に記載の製鉄方法。
【請求項5】
前記反応器内を450℃以上に保持する請求項1から請求項4のいずれかに記載の製鉄方法。
【請求項6】
製鉄原料とアンモニアとを収容し、還元反応させることにより鉄を製造する反応器と、
前記反応器内に製鉄原料を供給する製鉄原料供給手段と、
前記反応器内にアンモニアを供給するアンモニア供給手段と、
を有する製鉄システム。
【請求項7】
前記アンモニアを前記製鉄原料の還元反応温度以上に予熱するアンモニア予熱手段を有している請求項6に記載の製鉄システム。
【請求項8】
前記アンモニア供給手段は、前記アンモニアに酸素または空気を混合させて前記反応器内に供給する請求項6または請求項7に記載の製鉄システム。
【請求項9】
前記アンモニアとは別に、酸素または空気を前記反応器内に供給する酸素供給手段を有している請求項6または請求項7に記載の製鉄システム。
【請求項10】
前記反応器内を450℃以上に保持する請求項6から請求項9のいずれかに記載の製鉄システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−179089(P2011−179089A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46055(P2010−46055)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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