説明

製鉄用原料造粒物の製造方法

【課題】製鉄の製銑工程における高炉装入用原料の造粒物とその製造方法に関して、未造粒粉の割合の少ない製鉄用原料造粒物とその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】粉鉄鉱石を含む製鉄用焼結原料の造粒物の製造方法であって、原料100質量%に対し、pH9以上のアルカリ性水溶液を3〜25質量%添加して造粒処理を行うことにより、未造粒粉の割合の少ない高強度の製鉄用原料造粒物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製鉄用原料となる焼結鉱の製造方法に関する。より詳しくは製銑工程における高炉装入用原料の造粒物とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄用原料となる鉄鉱石には塊鉄鉱石と粉鉄鉱石とがある。このうち、粒径が5 mm以下の粉鉄鉱石をそのまま製鉄の高炉に装入すると、通気性の不良や不均一、ガス灰発生量の増加を生じる等、高炉操業に悪影響を及ぼすため、一般に製鉄工程における高炉装入用原料としては、粉鉄鉱石を塊成化した焼結鉱が用いられている。すなわち、製鉄工程における高炉装入用原料としては焼結鉱が主体となっている。
【0003】
この焼結鉱は、鉄鉱石、副原料、燃料等を含む焼結原料を焼結機に特定の高さに充填し焼結ベッドを形成した後、表層に点火して焼成することにより製造される。焼結機としては、通常では下方吸引式が採用されている。下方吸引式の焼結機においては、焼結原料の下側から吸引することによって焼結に必要な空気を流通させると共に、焼結原料の上側から下側へ向かって燃料を燃焼させることにより、焼結原料を焼結するようになっている。そのため、焼結原料が微粉を多く含んでいると、目詰まりを起こして通気性が低下し、燃料であるコークスの燃焼速度が遅くなるので、焼結鉱の生産効率が低下することとなる。
【0004】
そこで焼結原料を焼結させる際の焼結機における通気性を改善するために、焼結原料を造粒して、粒度の大きな疑似粒子からなる造粒物とする事前処理が行われている。例えば、焼結原料となる鉄鉱石、副原料等を混合し、少量の水を添加してドラムミキサーやパン型造粒機(パンペレタイザー)等の造粒機で転動造粒する等の造粒操作が行われている。得られる造粒物に求められる作用は、焼結工程において崩壊しにくくなるようにすること等である。焼結原料をこのような造粒物とすることで、焼結機上での焼結原料充填層(焼結ベッド)中の通気性を向上し、焼結工程における生産性向上を図ることができる。ところが、焼結原料に微粉の鉄鉱石が多く含まれている場合、あるいは造粒性が悪い焼結原料が多く含まれている場合等には、水だけを用いる造粒操作では、原料の造粒処理を十分に行うことができないという問題が生じる。造粒物中に微粉が多くなると、微粉のみを回収し再度造粒を行う返鉱の割合が多くなり成品歩留りが低下して、生産効率が悪化する。最近では、粒径の大きな優良塊鉱が枯渇しており、粉鉱石の劣質化も進んでいることから、焼結原料の造粒性が悪化する傾向にある。
【0005】
従来、粉鉄鉱石の粒化性を向上させ、粒径の大きな造粒物を得る対策として、原料中にバインダーとしての作用を有する造粒添加剤を添加する方法が提案されている。造粒添加剤としては、例えば、ベントナイト、コーンスターチ、砂糖、セメント、生石灰等が検討されている。しかし、これらのバインダーは、一般に比較的高価なものであり、また、使用量を比較的多くしないと充分な効果が得られないという問題があった。
【0006】
一方、分散剤的な役割を果たす高分子化合物を添加し、粉鉄鉱石中の微粉を充分に分散させ、水を取り込んだ凝集体を破壊することにより、水が効率よく粉鉄鉱石を造粒する作用を発揮させる方法も提案されている。このような分散剤的機能を有する造粒処理剤としては、アクリル酸系重合体、マレイン酸系重合体、スルホン酸系重合体等が開示されている(例えば、特許文献1、2および3)。特許文献4では、粉鉄鉱石をダストと共に造粒する場合に、カルボキシル基含有高分子化合物とともにpH調整剤を加えてアルカリ性とすることにより、高分子化合物の造粒性を向上させる方法が提案されている。しかしながら、これらの造粒処理剤を添加して造粒を行った場合でも、微粉を分散させる能力が十分ではなく、未造粒の微粉が多く残存し、十分な効果が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−50129号公報
【特許文献2】特開2004−76126号公報
【特許文献3】特開2005−154822号公報
【特許文献4】特開2004−76135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、従来のバインダーや分散剤的な機能を有する高分子化合物を添加する方法ではなく、pHをアルカリ性に調整することにより未造粒粉の割合の少ない製鉄用原料造粒物を低コストで製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは粉鉄鉱石の構造を詳細に分析した結果、粉鉄鉱石は20μm以下の超微粒子が、0.1〜数mmの核粒子の周りに付着した構造になっており、この超微粒子を一旦分散させ、造粒物を複数の核粒子の隙間に超微粒子を緻密に充填させた構造とすることにより、強度が高く、未造粒の微粉が極めて少ない造粒物が得られることが明らかになり、このような構造の造粒物を低コストで得るための手法について鋭意検討を行った。
【0010】
一般に、粉体粒子を水中に入れた場合、粉体粒子表面に電気二重層が形成され、表面が帯電することが知られている。粒子表面の電位(ゼータ電位)はpHにより変化し、酸性側あるいはアルカリ性側で電位が大きくなる。この現象を利用し、pH調整により粒子表面のゼータ電位を大きくして、粉体粒子間の静電的反発力により、水中で粒子を易分散化できることが知られている。しかしながら、この現象は、水が多い液体(水)−固体(粉体)の2相系からなる低濃度スラリーにおいて起こる現象であり、製鉄原料を造粒する場合のように、水の量が少なく、高濃度の粉体を含む液体(水)−固体(粉体)−気体(空気)の3相系においても、同様の現象が起こるかどうかを研究した例はこれまでに殆んど知られていない。
【0011】
発明者らは、粉鉄鉱石に3〜25質量%の少量のアルカリ水溶液を添加した、液体(水)−固体(粉鉄鉱石)−気体(空気)の粒子が高濃度で存在する3相系においても、粉鉄鉱石の超微粒子が水と接触する部分で、超微粒子の表面電位が大きくなり、スラリー化までには至らないものの、超微粒子間の静電的反発により、造粒操作中に超微粒子の移動が容易に起こり、複数の核粒子の隙間に超微粒子を緻密に充填させた所望の構造の造粒物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は、粉鉄鉱石を含む製鉄用焼結原料の造粒物の製造方法であって、前記製鉄用焼結原料100質量%に対し、pH9以上のアルカリ性水溶液を3〜25質量%添加して造粒処理を行うことを特徴とする製鉄用造粒物の製造方法である。本発明では高分子化合物の添加を特に必要としないためコスト的にも有利である。
【0013】
さらに本発明のアルカリ性水溶液はアミン類の水溶液であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の方法に比べ、未造粒粉の割合の少ない高強度の製鉄用原料造粒物を低コストで製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では粉鉄鉱石を含む製鉄用焼結原料に、pH9以上のアルカリ性水溶液を噴霧等の方法で添加してドラムミキサーやパン型造粒機(パンペレタイザー)などの造粒機で造粒処理を行う。
【0016】
本発明ではpHをアルカリ性にするのは、原料粒子の表面電位の値が大きくなり、特別な高分子分散剤を添加しなくても、粒子間の静電反発力によって、鉄鉱石超微粒子の分散が容易に起こり、造粒性を向上できるためである。
【0017】
ここで、アルカリ性水溶液のpHを9以上とするのは、pHが5以上9未満の場合は原料粒子の表面電位の値が小さく、粒子の分散が不十分となり、造粒性が低下するためである。さらに、pHが5未満の酸性の場合には粒子表面の電位は大きくなるが、原料が水溶液中に溶解したり、造粒機の腐食を招くため、好ましくない。特に好ましいpHの値は10〜13.5の範囲である。
【0018】
また、アルカリ性水溶液の添加量は3〜25質量%としたが、これは添加量が3質量%未満の場合には造粒が十分にできず、未造粒の微粉の割合が多くなるためであり、一方、25質量%を超える場合には原料がスラリー化し、健全な造粒物を得ることができなくなったり、造粒機の容器壁面への付着が激しく生産性の低下を招くことがあるためである。なお、原料中には予め、水分が含まれている場合が多く、この水分量もアルカリ水溶液中の水分量に含めて3〜25質量%とする。より好ましい水分量は7〜18質量%の範囲である。
【0019】
さらに本発明で用いられるアルカリ水溶液の種類は特に限定されないが水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機アルカリの水溶液、アンモニア水、アミン類の水溶液などが用いられる。特に、コストやハンドリング、安全性の観点からアミン類の水溶液(例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、など)を使用することが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例と比較例を具体的に挙げ、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0021】
(実施例1〜6、比較例1〜4)
250μm以下のローブリバーとピルバラブレンドの1:1混合物からなる鉄鉱石10kgを100℃で24時間乾燥して水分を蒸発させた後、ドラムミキサーに投入した。pH12.3のジエチルアミンの水溶液を10質量%噴霧して添加し、30min−1で5分間ドラムミキサーを回転させて造粒を行った。製造された造粒物を乾燥後、粒度分布を篩分けにより測定した。表1の実施例1にその測定結果を示す。
【0022】
同様の原料に、水のみを10質量%添加して、ドラムミキサーで造粒処理を行った造粒物の粒度分布の測定結果を比較例1に示す。
【0023】
同様の原料に、水酸化ナトリウム、ジエチルアミン、アンモニア水、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム系高分子分散剤(本発明外)の水溶液を所定量添加してドラムミキサーで造粒処理を行った造粒物の粒度分布の測定結果を実施例2〜6および比較例2〜4に示す。
【0024】
本発明の実施例1〜6で得られた造粒物は、比較例1に示した水のみを添加した場合や比較例2に示したポリアクリル酸ナトリウム系高分子分散剤を添加した場合に比べて、粒径の大きな造粒物の割合が多く、且つ0.5mm以下の微粉の割合が非常に少ないことから、優れた造粒物が得られていることが明らかである。比較例3のようにアルカリ水溶液の添加量が少ない場合は、粒径の大きな造粒物が得られなかった。また、比較例4はアルカリ水溶液の添加量が多い場合であり、スラリー化が起こって、健全な造粒物を得ることができなかった。
【0025】
(実施例7、比較例5)
表2に示した篩分け粒度分布を有する一般的な製鉄用原料(ローブリバー鉱、ニューマン鉱、リオドセ鉱、カラジャス鉱、ハマスレー鉱等の粉鉄鉱石の混合物に、返鉱15重質量%、粉コークス4重質量%添加(外添)したもの)30kgをドラムミキサーに投入した。ジエチルアミンの水溶液を、原料中に最初から含まれていた水分(4.5質量%)を含めて10質量%になるよう噴霧して添加し、回転速度30min−1で5分間ドラムミキサーを回転させて造粒を行った。製造された造粒物の粒度分布を篩分けにより測定した。表2の実施例7にその結果を示す。
【0026】
同じ原料に水のみを10.0質量%含有させ、ドラムミキサーで造粒処理を行った造粒物の粒度分布の測定結果を表2の比較例5に示す。
【0027】
本発明の実施例7で製造された造粒物の方が、比較例5の造粒物に比べ、粒径の大きな造粒物の割合が多く、0.5mm以下の微粉の割合が非常に少ないことから、優れた造粒物が得られていることが明らかである。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉鉄鉱石を含む製鉄用焼結原料の造粒物の製造方法であって、
前記製鉄用焼結原料100質量%に対し、pH9以上のアルカリ性水溶液を3〜25質量%添加して造粒処理を行うことを特徴とする製鉄用造粒物の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ性水溶液がアミン類の水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の製鉄用造粒物の製造方法。

【公開番号】特開2012−82456(P2012−82456A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228205(P2010−228205)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】