説明

複合めっき材の製造方法および製造装置

【課題】連続した条材や条板に複合めっき皮膜を均一に形成して、連続的なプレスなどの加工に適した複合めっき材を製造することができる、複合めっき材の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】 素材10を水平方向に搬送する間に、前処理工程と、固体粒子を含むめっき液を用いて固体粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成する複合めっき工程と、後処理工程とを連続的に行う複合めっき材の製造装置において、処理工程を行う前処理槽と、この前処理槽の出口側に配置されて複合めっき工程を行う複合めっき槽20と、この複合めっき槽の出口側に配置されて後処理工程を行う後処理槽とを備え、複合めっき槽の出口に液切り用パッキング34を設け、この弾性部材に複合めっき槽から搬出される素材が当接して、後処理槽に導入されるめっき液の量を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合めっき材の製造方法および製造装置に関し、特に、スイッチやコネクタなどの接点部品などの材料として使用される複合めっき材の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチやコネクタなどの接点や端子などの材料として、銅や銅合金などの導体素材の最外層に各種のめっき皮膜を形成しためっき材が使用されている。このようなめっき材の耐摩耗性などの特性を向上させるために、金属マトリクス中に耐磨耗性または潤滑性の固体粒子を複合化させた複合材の皮膜(複合めっき皮膜)を電気めっきにより導体素材上に形成することにより、機械的な耐摩耗性を向上させることが提案され(例えば、特許文献1〜3参照)、このような複合めっき皮膜を応用した接続端子が提案されている(例えば、特許文献4参照)。また、金属マトリクス中に潤滑性が高い炭素粒子を複合化させた各種の複合めっき皮膜が提案されている(例えば、特許文献5、6参照)。さらに、素材上に複合めっき皮膜を形成して複合めっき材を製造する種々の方法および装置も提案されている(例えば、特許文献7、8参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭54−45634号公報(第3頁)
【特許文献2】特開昭53−11131号公報(第2頁)
【特許文献3】特開昭63−145819号公報(第2頁)
【特許文献4】特表2001−526734号公報(第8−9頁)
【特許文献5】特開昭61−227196号公報(第2頁)
【特許文献6】特開平9−7445号公報(段落番号0005−0007)
【特許文献7】特開昭59−182994号公報(第2頁)
【特許文献8】特開平5−132798号公報(段落番号0008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、複合めっき材は優れた耐摩耗性などの特性を有するものの、連続した条材や条板に複合めっき皮膜を均一に形成するのが困難であるため、均一な複合めっき皮膜が形成された条材や条板を製造するのが困難である。これは、金属マトリクス中に固体粒子を複合化させる量が、めっき液中の固体粒子の量、めっき液の条材や条板への当り方、電流密度などによって大きく変化するためである。
【0005】
複合めっき装置としては、特許文献7に提案されたようなバッチ式のめっき槽で処理する装置が一般的であるが、バッチ式のめっき槽で処理する装置では、連続した条材や条板に複合めっき皮膜を形成するのが困難である。また、特許文献8に提案されたような連続した条材や条板に複合めっき皮膜を形成する装置では、被めっき条材または条板が、固形粒子を含むめっき液で満たされためっき槽中に垂直方向に導入され、そのめっき槽の底部に設けられたディフレクタロールによってU字状に搬送される。そのため、炭素粒子のように固体粒子の粒径が比較的大きく、懸濁粒子が大きい場合には、固体粒子が沈降してしまうため、複合めっき皮膜の厚さや固体粒子の複合化の量が安定しないので、均一な複合めっき皮膜が形成された条材や条板を製造するのが困難である。
【0006】
そのため、実際に複合めっき材をスイッチやコネクタの材料として使用する場合には、短い板状材をバッチ式のめっき槽で処理した後にプレスなどの加工を施すか、あるいは、プレス加工などの加工を施した被めっき材をバッチ式のめっき槽で処理する必要があり、生産性に劣る。
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、連続した条材や条板に複合めっき皮膜を均一に形成して、連続的なプレスなどの加工に適した複合めっき材を製造することができる、複合めっき材の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、素材を水平方向に搬送する間に、前処理工程と、固体粒子を含むめっき液を用いて固体粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成する複合めっき工程と、後処理工程とを連続的に行う複合めっき材の製造方法において、複合めっき工程を行う複合めっき槽内のめっき液中の固体粒子の濃度の変動を低減することにより、連続した条材や条板に複合めっき皮膜を均一に形成して、連続的なプレスなどの加工に適した複合めっき材を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明による複合めっき材の製造方法は、素材を水平方向に搬送する間に、前処理工程と、固体粒子を含むめっき液を用いて固体粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成する複合めっき工程と、後処理工程とを連続的に行う複合めっき材の製造方法において、複合めっき工程を行う複合めっき槽内のめっき液中の固体粒子の濃度の変動を低減することを特徴とする。
【0010】
この複合めっき材の製造方法において、後処理工程を行う後処理槽内に導入されるめっき液の量を低減するのが好ましい。また、複合めっき槽内のめっき液の液面の高さを所定の高さに維持するようにめっき液を外部に排出するのが好ましい。素材が帯状の素材である場合には、この素材を幅方向が鉛直方向になる状態で搬送し、複合めっき槽内のめっき液の液面の高さを素材の1.2倍以下にするのが好ましい。
【0011】
また、本発明による複合めっき材の製造装置は、素材を水平方向に搬送する間に、前処理工程と、固体粒子を含むめっき液を用いて固体粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成する複合めっき工程と、後処理工程とを連続的に行う複合めっき材の製造装置において、処理工程を行う前処理槽と、この前処理槽の出口側に配置されて複合めっき工程を行う複合めっき槽と、この複合めっき槽の出口側に配置されて後処理工程を行う後処理槽とを備え、複合めっき槽の出口に弾性部材を設け、この弾性部材に複合めっき槽から搬出される素材が当接して、後処理槽に導入されるめっき液の量を低減することを特徴とする。
【0012】
この複合めっきの製造装置において、弾性部材が前記素材の水平方向両側に配置された一対の弾性片からなり、これらの弾性片の間を素材が通過し、これらの弾性片の間隔を調整する機構が設けられているのが好ましい。また、複合めっき槽の入口側および出口側と異なる方向の側壁として高さが調整可能な側壁を設け、この側壁の上端から複合めっき槽の入口側および出口側と異なる方向にめっき液を排出して複合めっき槽内のめっき液の液面の高さを一定に維持するのが好ましい。素材が帯状の素材である場合には、この素材を幅方向が鉛直方向になる状態で搬送し、複合めっき槽内のめっき液の液面の高さを素材の1.2倍以下にするのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、連続した条材や条板に複合めっき皮膜を均一に形成して、連続的なプレスなどの加工に適した複合めっき材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明による複合めっき材の製造方法および製造装置の実施の形態について説明する。
【0015】
本発明による複合めっき材の製造方法の実施の形態では、素材を水平方向に搬送する間に、前処理工程と、固体粒子を含むめっき液を用いて固体粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成する複合めっき工程と、後処理工程とを連続的に行う複合めっき材の製造方法において、後処理工程を行う後処理槽内に導入されるめっき液の量を低減し且つ複合めっき槽内のめっき液の液面の高さを所定の高さに維持するようにめっき液を外部に排出することにより、特に、素材が帯状の素材である場合には、この素材を幅方向が鉛直方向になる状態で搬送し、めっき液の液面の高さを素材の1.2倍以下にすることにより、複合めっき工程を行う複合めっき槽内のめっき液中の固体粒子の濃度の変動を低減している。
【0016】
図1および図2は、本発明による複合めっき材の製造装置の実施の形態を概略的に示す図であり、図1はその製造装置を上から見た状態を示し、図2はその製造装置を略横から見た状態を示している。
【0017】
図1および図2に示すように、本発明による複合めっき材の製造装置の実施の形態は、帯状の銅板などの被めっき材(金属条材または条板)10がコイル状に巻かれた巻出機12と、この巻出機12から巻き出された被めっき材10をコイル状に巻き取るための巻取機14を備え、これらの間で被めっき材10をその幅方向が鉛直方向になる状態で水平方向に直線状に搬送するようになっている。
【0018】
巻出機12と巻取機14の間には、巻出機12側から順に、前処理工程として電解脱脂を行って被めっき材10上の油脂を除去するための電解脱脂槽16と、前処理工程として被めっき材10上の酸化皮膜を除去するための酸洗槽18と、被めっき材10上に複合めっきを行うための複合めっき槽20と、複合めっきされた被めっき材(複合めっき材)10を純水などにより洗浄してめっき液を除去するための後処理水槽22と、複合めっきされた被めっき材(複合めっき材)10を熱風乾燥などにより乾燥するための乾燥槽24とが直線状(直列)に配置され、巻出機12から巻き出された被めっき材10が巻取機14に巻き取られる間に、被めっき材10がこれらの槽の略中央部を連続的に通過するようになっている。また、電解脱脂槽16の入口側、電解脱脂槽16と酸洗槽18の間、酸洗槽18と複合めっき槽20の間、および複合めっき槽20と後処理水槽22の間、すなわち、電解脱脂槽16、酸洗槽18および複合めっき槽20のそれぞれの入口側および出口側には、被めっき材10自身の電気抵抗による電流の減衰の防止や被めっき材10との接触信頼性の向上のために給電を行うとともに、その給電の際の接触抵抗による温度上昇を防止するために、それぞれ給電水洗槽26が配置されている。
【0019】
乾燥槽24の出口側と巻取機14の間には、被めっき材10を挟むように一対のブライドルロール28が設けられている。これらのブライドルロール28は、これらの間を通過する被めっき材10に当接し、ブライドルロール28の回転によって被めっき材10が搬送されるようになっている。これらのブライドルロール28の回転数は、付属のエンコーダ30によって(図示しない)制御装置にフィードバックされ、ブライドルロール28の回転数を制御して被めっき材10の搬送速度を一定に維持するようになっている。
【0020】
また、乾燥槽24の出口側とブライドルロール28の間には、被めっき材10の位置を検出するエッジポジションセンサなどの位置センサ32aと被めっき材10の走行高さを調整する位置調整ロール32bとからなるEPCユニット32が設けられ、このEPCユニット32によって位置調整ロール32bをフィードバック制御することにより、被めっき材10の走行高さの変動が少なくなるように調整することができる。このように被めっき材10の走行位置の変動を防止して複合めっき槽20内における被めっき材10の走行位置を一定にすることにより、陰極となる被めっき材10と陽極(アノード)との間の相対位置の変動を防止し、複合めっき槽20内における電流密度分布が大きく変化するのを防止することができる。
【0021】
図3〜図5は、本発明による複合めっき材の製造装置の実施の形態の複合めっき槽20を概略的に示す図であり、図3は複合めっき槽20の斜視図、図4は複合めっき槽20を被めっき材10の搬送方向(図3において矢印で示す方向)に対して垂直に切断した断面図、図5は複合めっき槽20の出口側の側面図である。
【0022】
図3および図4に示すように、複合めっき槽(複合めっき装置)20は、略矩形の平板状の底面部20aと、この底面部20aの長手方向の一方の側面(複合めっき槽20の入口側の側面)から鉛直方向に延びる略矩形の平板状の入口側壁部20bと、底面部20aの長手方向の他方の側面(複合めっき槽20の出口側の側面)から鉛直方向に延びて入口側壁部20bと対向するように配置された略矩形の平板状の出口側壁部20cと、底面部20aの幅方向の側面から鉛直方向に延びて互いに対向するように配置された一対の略矩形の平板状の液面調整壁部20dとから構成され、これらによって上方が開口した略直方体の箱形のめっき液収容室が形成されている。なお、一対の液面調整壁部20dの高さは可変であり、これらの液面調整壁部20dの上端からめっき液を(図4において矢印で示す方向に)オーバーフローさせるとともに、このオーバーフローしためっき液を(図示しない)ポンプにより複合めっき槽20に連続的に循環供給することにより、複合めっき槽20内のめっき液の液面の高さを調整することができるようになっている。
【0023】
入口側壁部20bの略中央部には、入口側壁部20bを貫通して鉛直方向に延びる入口スリット部20eが形成されているとともに、出口側壁部20cの略中央部には、出口側壁部20cを貫通して鉛直方向に延びる出口スリット部20fが形成されており、入口側壁部20bの入口スリット部20eから複合めっき槽20内に搬入された被めっき材10が出口側壁部20cの出口スリット部20fから搬出されるようになっている。このように、被めっき材10をその幅方向が鉛直方向になる状態で水平方向に直線状に且つ連続的に複合めっき槽20内で搬送することにより、被めっき材10の両面の電流密度分布およびめっき液の流れを均一にすることが容易になる。なお、液面調整壁部20dの内面側には、複合めっき槽20内の被めっき材10の両面と略平行に陽極20gが設けられている。
【0024】
複合めっき槽20内は、炭素粒子などの固体粒子を含むめっき液(複合めっき液)20hで満たされている。金属マトリックス中に炭素粒子を複合化させた複合めっき皮膜では、電流密度によって炭素粒子の複合化量が変化する傾向があることが知られており、複合めっき液20hの液面の高さを制御することにより、被めっき材10の幅方向の電流密度分布を均一にすることができる。この複合めっき液20hの液面の高さを被めっき材10の幅に対して1.2倍以下にすることにより、複合めっき槽20内の電流密度分布の変化を低減するのが好ましい。上述したように、複合めっき液20hの液面の高さは、液面調整壁部20dの高さを変えて液面調整壁部20dの上端からめっき液をオーバーフローさせることによって容易に調整することができる。このオーバーフローするめっき液の量は、線速度2m/秒以上になる量であるのが好ましい。線速度が2m/秒未満であると、炭素粒子などの固体粒子の粒径にもよるが、固体粒子の分散が悪化して、被めっき材10上に均一な複合めっき皮膜を形成することができなくなるからである。
【0025】
出口側壁部20cの出口スリット部20fの幅方向両側には、この出口スリット部20fに沿って鉛直方向に延びる一対の液切り用パッキング34が取り付けられている。これらの液切り用パッキング34は、ゴムなどの弾性部材からなり、出口側壁部20cの出口スリット部20fを通過する被めっき材10の両面に当接して、複合めっき槽20から複合めっき液が持ち出されるのを大幅に低減させ、複合めっき液中の炭素粒子などの固体粒子の濃度変化を抑えて、その濃度を長時間一定に保つことができるようになっている。図5に示すように、液切り用パッキング34の間隔は、クリアランス調整ねじ36を備えたクリアランス調整機構によって調整することができる。
【0026】
なお、複合めっき液としては、炭素を添加したSnめっき液などを使用することができる。固体粒子として添加する炭素粒子の粒径は、3〜8μmであるのが好ましい。炭素粒子の粒径がこの範囲であると、炭素粒子の沈降性が高いため、従来の複合めっき装置では、連続的且つ均一に複合めっき皮膜を形成し難いが、本発明による複合めっき材の製造装置では、上記の範囲の粒径の炭素粒子を添加しても連続的且つ均一に複合めっき皮膜を形成することができる。また、複合めっき液中の炭素粒子の濃度は、10〜120g/Lであるのが好ましい。炭素粒子の濃度がこの範囲であると、炭素粒子が凝集し易く、従来の複合めっき装置では、連続的且つ均一に複合めっき皮膜を形成し難いが、本発明による複合めっき材の製造装置では、炭素粒子の濃度が上記の範囲でも、連続的且つ均一に複合めっき皮膜を形成することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明による複合めっき材の製造方法および製造装置の実施例について詳細に説明する。
【0028】
図3〜5に示す複合めっき槽20を備えた図1および図2に示す複合めっき材の製造装置を使用し、搬送速度を1m/分として、厚さ0.2mm、幅25mm、長さ1kmの帯状の銅材からなる素材(被めっき材10)を搬送した。
【0029】
複合めっき槽20の長さは40cmであり、液面調整壁部20dの高さを調整して、複合めっき液の液面の高さを素材の幅(25mm)の1.2倍以下の28mmに調整した。また、ポンプの回転数を調整して複合めっき液の流速を線速度2m/分とし、液切り用パッキング34の間のクリアランスを0.2mmに調整した。
【0030】
複合めっきの前処理工程として行う電解脱脂工程および酸洗工程では、電解脱脂液としてユケン工業製のパクナCu35を使用して、50℃、電流密度3A/dmで電解脱脂を行い、2重量%の硫酸を使用して酸洗を行った。
【0031】
複合めっき工程では、複合めっき液として、炭素を添加した錫めっき液を使用し、陽極として錫板を使用し、液温25℃、電流密度6A/dmで電気めっきを行い、炭素粒子と錫の複合めっき皮膜を素材上に形成した。錫めっき液として、60g/Lの金属錫(金属錫塩としてアルカノールスルホン酸錫(ユケン工業製のメタスSM)600mL/Lを含む)と、113g/Lの遊離酸(遊離酸としてアルカノールスルホン酸(ユケン工業製のメタスAM)84mL/Lを含む)とを含む、アルカノールスルホン酸錫めっき液を使用した。この錫めっき液に、良好な錫めっき皮膜を得るために錫めっき用の界面活性剤(ユケン工業製のメタスLSA−M)30mL/Lを添加するとともに、光沢剤(ユケン工業製のメタスLSA−S)30mL/Lを添加し、さらに、平均粒径3.4μmの鱗片状グラファイト粒子(エスイーシー社製のグラファイトSGP−3)20g/Lを添加して分散させた。なお、グラファイト粒子の平均粒径は、グラファイト粒子0.5gを0.2重量%のヘキサメタリン酸ナトリウム溶液50gに分散させ、さらに超音波により分散させた後、レーザー光散乱粒度分布測定装置を用いて測定し、累積分布で50%の粒径を平均粒径とすることにより求めた。
【0032】
複合めっきの後処理工程として行う水洗工程および乾燥工程では、純水による水洗および80℃の熱風による乾燥を行った。
【0033】
このようにして得られた複合めっき材の複合めっき皮膜の長手方向の膜厚分布を、蛍光X線膜厚測定法により測定した。その結果を図6に示す。図6に実線および点線で示すように、本実施例の複合めっき皮膜の平均膜厚は表裏とも1.2μm程度であり、そのばらつきは表裏とも±10%程度であった。
【0034】
また、得られた複合めっき材の複合めっき皮膜中の長手方向の炭素の含有量を測定した。複合めっき皮膜中の炭素の含有量は、得られた複合めっき材(素材を含む)から切り出した試験片を錫および炭素の分析用にそれぞれ用意し、試験片中の錫の含有量(X重量%)をICP装置(ジャーレルアッシュ社製のIRIS/AR)を用いてプラズマ分光分析法によって求めるとともに、試験片中の炭素の含有量(Y重量%)を微量炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製のEMIA−U510)を用いて燃焼赤外線吸収法によって求め、Y/(X+Y)として算出した。その結果を図7に示す。図7に示すように、本実施例の複合めっき皮膜中の炭素の含有量は平均0.99重量%であり、そのばらつきは±10%程度であった。
【0035】
さらに、得られた複合めっき材から切り出した試験片同士の間の摩擦係数を求めた。試験片同士の摩擦係数(μ)は、2つの試験片を近傍より切り出し、一方をインデント加工(R3mm)して圧子とするとともに、他方を評価試料とし、ロードセルを使用して、圧子を加重3Nで評価試料の表面に押し付けながら移動速度60mm/分で滑らせ、水平方向にかかる力(F)を測定し、μ=F/Nから算出した。その結果を図8に示す。図8に示すように、本実施例の複合めっき材の摩擦係数は平均0.15であり、そのばらつきは±10%程度であった。
【0036】
[比較例]
実施例と同様の複合めっき液を使用し、実施例と同様のめっき条件として、バッチ式のめっき槽により、厚さ0.2mm、幅25mm、長さ300mmの銅板からなる素材(被めっき材)に複合めっきを施した。
【0037】
得られた複合めっき材について、実施例と同様の方法により、複合めっき皮膜の長手方向の膜厚分布を測定した。その結果を図9に示す。図9に示すように、本比較例では、素材が連続的に搬送されないので、長手方向の膜厚のばらつきが大きかった。特に、複合めっき液に浸からない部分には複合めっき皮膜が形成されず、素材が露出しており、プレスに適した複合めっき材を製造することができなかった。
【0038】
また、実施例と同様の方法により、得られた複合めっき材の複合めっき皮膜中の長手方向の炭素の含有量と、得られた複合めっき材から切り出した試験片同士の間の摩擦係数を測定した。その結果、複合めっき皮膜が形成された部分では、炭素の含有量が1重量%程度であったが、素材が露出した部分の近傍では、膜厚が薄くて炭素が複合化されていなかった。また、複合めっき皮膜が形成された部分の摩擦係数は0.15程度であったが、素材が露出した部分の摩擦係数は測定できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による複合めっき材の製造装置の実施の形態を概略的に示す平面図である。
【図2】図1の複合めっき材の製造装置を概略的に示す斜視図である。
【図3】図1の複合めっき材の製造装置に使用する複合めっき槽の斜視図である。
【図4】図3の複合めっき槽の断面図である。
【図5】図3の複合めっき槽の出口側の側面図である。
【図6】実施例において得られた複合めっき材の複合めっき皮膜の長手方向の膜厚分布を示すグラフである。
【図7】実施例において得られた複合めっき材の複合めっき皮膜中の長手方向の炭素の含有量を示すグラフである。
【図8】実施例において得られた複合めっき材の長手方向の摩擦係数を示すグラフである。
【図9】比較例において得られた複合めっき材の複合めっき皮膜の長手方向の膜厚分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
10 被めっき材
12 巻出機
14 巻取機
16 電解脱脂槽
18 酸洗槽
20 複合めっき槽
20a 底面部
20b 入口側壁部
20c 出口側壁部
20d 液面調整壁部
20e 入口スリット部
20f 出口スリット部
20g 陽極
20h 複合めっき液
22 後処理水槽
24 乾燥槽
26 給電水洗槽
28 ブライドルロール
30 エンコーダ
32 EPCユニット
32a 位置センサ32a
32b 位置調整ロール
34 液切り用パッキング
36 クリアランス調整ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材を水平方向に搬送する間に、前処理工程と、固体粒子を含むめっき液を用いて固体粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成する複合めっき工程と、後処理工程とを連続的に行う複合めっき材の製造方法において、前記複合めっき工程を行う複合めっき槽内のめっき液中の固体粒子の濃度の変動を低減することを特徴とする、複合めっき材の製造方法。
【請求項2】
前記後処理工程を行う後処理槽内に導入される前記めっき液の量を低減することを特徴とする、請求項1に記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項3】
前記複合めっき槽内のめっき液の液面の高さを所定の高さに維持するようにめっき液を外部に排出することを特徴とする、請求項1または2に記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項4】
前記素材が帯状の素材であり、前記素材を幅方向が鉛直方向になる状態で搬送し、前記複合めっき槽内のめっき液の液面の高さを前記素材の1.2倍以下にすることを特徴とする、請求項3に記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項5】
素材を水平方向に搬送する間に、前処理工程と、固体粒子を含むめっき液を用いて固体粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成する複合めっき工程と、後処理工程とを連続的に行う複合めっき材の製造装置において、前処理工程を行う前処理槽と、この前処理槽の出口側に配置されて複合めっき工程を行う複合めっき槽と、この複合めっき槽の出口側に配置されて後処理工程を行う後処理槽とを備え、複合めっき槽の出口に弾性部材を設け、この弾性部材に複合めっき槽から搬出される素材が当接して、後処理槽に導入されるめっき液の量を低減することを特徴とする、複合めっき材の製造装置。
【請求項6】
前記弾性部材が前記素材の水平方向両側に配置された一対の弾性片からなり、これらの弾性片の間を前記素材が通過し、これらの弾性片の間隔を調整する機構が設けられていることを特徴とする、請求項5に記載の複合めっきの製造装置。
【請求項7】
前記複合めっき槽の入口側および出口側と異なる方向の側壁として高さが調整可能な側壁を設け、この側壁の上端から前記複合めっき槽の入口側および出口側と異なる方向に前記めっき液を排出して前記複合めっき槽内のめっき液の液面の高さを一定に維持することを特徴とする、請求項5または6に記載の複合めっき材の製造装置。
【請求項8】
前記素材が帯状の素材であり、前記素材を幅方向が鉛直方向になる状態で搬送し、前記複合めっき槽内のめっき液の液面の高さを前記素材の1.2倍以下にすることを特徴とする、請求項7に記載の複合めっき材の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−336082(P2006−336082A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163411(P2005−163411)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】