説明

複合アンテナ

【課題】一の通信システムが使用する第1周波数帯および他の通信システムが使用する第2周波数帯が互いに近接している場合の送受信アンテナについて互いの所望の通信特性を向上できるようにする。
【解決手段】第1グランド板4aと第2グランド板5aとの間の距離が、距離相互作用によりアンテナ利得特性が良化する0を超える第1周波数帯の波長λ1に応じた所定距離(例えばλ1/4+λ0、または、3×λ1/4+λ0、または、5×λ1/4+λ0、…:但しλ0は0〜λ/8〜λ/4未満の所定波長)に形成されている。また、第1グランド板4aと第2グランド板5aとの間には導電柱9が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用周波数帯が近接した2つの通信システムで使用される各々のアンテナを一体型とした複合アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の複合アンテナとして、例えばパッチアンテナのパッチ素子を組み合わせることで実現する手法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1記載の技術思想によれば、パッチアンテナを構成するパッチ素子が1つのグランド面を挟んで両面側に配置されている。これにより、グランド面の両面方向に高指向化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−17117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1記載の技術思想では、パッチアンテナはグランドプレーンと同一面に給電素子および給電線路を配置しているため、利得が低下し、また2つのパッチアンテナのグランドを共有しているため、電波が互いに回り込み現象を生じ、不必要な方向に電波の指向性が高くなってしまう。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、一の通信システムが使用する第1周波数帯および他の通信システムが使用する第2周波数帯が互いに近接している場合の送受信アンテナについてアンテナ利得特性を良好にできるようにした複合アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の複合アンテナは、一の通信システムが使用する第1周波数帯および他の通信システムが使用する第2周波数帯が互いに近接している場合の送受信アンテナを対象としている。第1パッチアンテナは第1周波数帯で送受信する。第2パッチアンテナは、第1グランド板から第1方向とは逆方向の第2方向に離間して対向した第2グランド板、および、第2グランド板から第2方向に離間して配置された第2パッチ素子を備え、第1周波数帯とは異なると共に当該第1周波数帯に近接した第2周波数帯にて第1パッチアンテナの逆側の方向に主指向性を有している。
【0007】
第1グランド板および第2グランド板は、その互いの距離が第1所定波長および第2所定波長に基づく距離相互作用に応じてアンテナ利得特性が良化する0を超えた所定距離に設定されているため、複合アンテナのアンテナ利得特性を良好にできる。
【0008】
請求項2記載の発明によれば、第1グランド板および第2グランド板はそれぞれ正方形状に成形されており、第1グランド板および第2グランド板間の間隔は、第1所定波長から第2所定波長までの長さの4分の1の奇数倍または当該長さの4分の1の奇数倍に位相シフトを考慮した所定の周期的条件を満たした間隔に形成されているため、アンテナ利得特性を良好にできる。
【0009】
なお、前述の発明でいう所定の周期的条件とは、例えば第1パッチアンテナ、第2パッチアンテナの各諸特性(例えば第1グランド板、第2グランド板の大きさなど)を考慮した周期的条件を示しており、これらは実用的な設計範囲(例えばシミュレーション、アンテナ設置環境における実験等)で周期的条件を導出できる範囲を示すものである。
【0010】
請求項3記載の発明によれば、第1グランド板および第2グランド板はそれぞれ正方形状に成形され、第1グランド板は、その一辺の長さが、第1所定波長から第2所定波長までの長さを4分の1した長さまたはその周辺の長さに形成されているため、アンテナ利得特性を良好にできる。
【0011】
請求項4記載の発明のように、第1および第2グランド板間には導電体が構成されていると良い。請求項5記載の発明のように、第1パッチアンテナがWiMAX通信規格の周波数の電波信号を伝播し、第2パッチアンテナがBluetooth通信規格の周波数の電波信号を伝播するアンテナである場合には、導電体が、第1パッチアンテナ側よりも第2パッチアンテナ側に配置されていると良い。このような場合、アンテナ特性を良好にできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態について通信システムの電気的構成を概略的に示すブロック図
【図2】複合アンテナの構成図((a)は第1パッチアンテナの平面図、(b)は第2パッチアンテナの平面図、(c)は第1パッチアンテナおよび第2パッチアンテナの配置関係を示す側面図)
【図3】車両内における複合アンテナの搭載例を示す配置態様図
【図4】発明者らが実施したシミュレーションにおける各アンテナの寸法条件を示す図
【図5】第1周波数帯、第2周波数帯近辺の周波数帯におけるアイソレーション特性図
【図6】第1グランド板と第2グランド板との間の距離に応じた主伝播方向の最大利得特性を示す図
【図7】グランド板のサイズを変更したときの主伝播方向の最大利得変化を示す特性図
【図8】本発明の第2実施形態を示す図2相当図
【図9】図3(b)相当図
【図10】(a)(b)指向性特性、(c)主伝播方向の最大利得の導電柱位置依存性を示す図
【図11】導電柱として角柱を適用し当該角柱と第1パッチアンテナとの距離、角柱のサイズを変更したときの利得変化を示す特性図
【図12】導電柱として円柱を適用し当該円柱と第1パッチアンテナとの距離を変更したときの利得変化を示す特性図
【図13】本発明の第3実施形態について第1パッチアンテナおよび第2パッチアンテナを互いに傾斜して設置した場合の互いの設置関係を示す図
【図14】第1パッチアンテナおよび第2パッチアンテナを互いに傾斜して設置した場合のシミュレーション結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、複合アンテナの第1実施形態について図1ないし図7を参照しながら説明する。図1は、WiMAX(登録商標)−Bluetooth(登録商標)通信システムの電気的構成を概略的に示すブロック図を示している。本実施形態では、Bluetooth−WiMAX通信システムを車両内に搭載したWiMAX−Bluetooth共用システムの形態について説明する。
【0014】
WiMAX−Bluetooth通信システム1は、制御装置(ECU)2に接続された第1通信部3a、第2通信部3b、第1通信部3aに接続された第1パッチアンテナ4、第2通信部3bに接続された第2パッチアンテナ5を互いに接続して構成されている。複合アンテナ6は、第1パッチアンテナ4と第2パッチアンテナ5を一体化したアンテナである。
【0015】
第1通信部3aは、WiMAX規格に準拠した送受信部であり、この送受信部はフィルタ、ミキサ、増幅器などを組み合わせて構成されている。第2通信部3bは、Bluetooth規格に準拠した送受信部であり、この送受信部もまたフィルタ、ミキサ、増幅器などを組み合わせて構成されている。
【0016】
制御装置2は、位置検出器(図示せず)を接続した例えばマイクロコンピュータを主体として構成されるものであり、位置検出器を用いてメモリに記憶されたソフトウェアにより車両の現在位置を特定するナビゲーション機能を実現する。
【0017】
また、制御装置2には、WiMAX規格、Bluetooth規格の送受信用のベースバンド部が構成されており、このベースバンド部により各規格に応じたデータを変復調する。なお、本実施形態では特に特徴部分に関係しないためナビゲーション機能を構成する各要素は省略している。
【0018】
WiMAX規格では、その使用周波数帯が2〜11GHz(2.5GHz帯:2.3〜2.4/2.5〜2.7GHz、3.5GHz帯:3.3〜3.8GHz、5.8GHz帯:5.25〜5.85GHz)と規定されている。このうち、2.5GHz帯では、2535MHz〜2630MHzの第1周波数帯を使用している。したがって、このWiMAX帯(第1周波数帯:2535MHz〜2630MHz)を良好に送受信可能なアンテナを必要とする。
【0019】
また、Bluetooth規格では、免許申請や使用登録の不要な2.4GHz帯のISM帯(第2周波数帯:2402MHz〜2480MHz)の周波数帯を使用し、79の周波数チャネルに分けて、利用周波数をランダムに変更する周波数ホッピング方式の送受信規格が採用されている。したがって、このBluetooth帯(第2周波数帯:2402MHz〜2480MHz)の周波数帯を良好に送受信するアンテナを要する。
【0020】
WiMAX帯(第1周波数帯:2535MHz〜2630MHz)の中心周波数は2582.5MHzとなっており、Bluetooth帯(第2周波数帯:2402MHz〜2480MHz)はその中心周波数が2441MHzとなっている。
【0021】
以下、本実施形態の特徴に係るアンテナの構成について説明する。図2は、複合アンテナの構成図を示している。図2(a)は第1パッチアンテナの平面図、図2(b)は第2パッチアンテナの平面図、図2(c)は第1パッチアンテナおよび第2パッチアンテナの配置関係を側面図により示している。
【0022】
図2(a)に示すように、第1パッチアンテナ4は、導電性の第1グランド板4aを具備する。この第1グランド板4aの上には第1誘電体板4bを挟んで導電性の第1パッチ素子4cが構成されている。第1グランド板4a、第1誘電体板4b、第1パッチ素子4cは、それぞれ正方形状(矩形状)の板状に構成され、一辺の長さは、第1グランド板4a、第1誘電体板4b、第1パッチ素子4cの順に短く成形されている。また、これらの第1グランド板4a、第1誘電体板4b、第1パッチ素子4cはその板面中心は同心位置に設定されている。第1グランド板4aの一辺の長さをG1とすると、この長さG1は例えばBluetooth帯(第2周波数帯)の平均周波数の1/2波長程度に成形されている。
【0023】
第1パッチ素子4cには、その板面中心位置からy方向に所定距離Aだけ離間した位置に給電点4dが構成されている。この給電点4dはパッチアンテナ4から放射される電波(伝播)信号が垂直偏波となる偏波方向となるように構成されている。
【0024】
図2(b)に示すように、第2パッチアンテナ5は、導電性の第2グランド板5aを具備する。この第2グランド板5aの上には第2誘電体板5bを挟んで導電性の第2パッチ素子5cが構成されている。第2グランド板5a、第2誘電体板5b、第2パッチ素子5cは、それぞれ正方形状(矩形状)に構成され、一辺の長さは、第2グランド板5a、第2誘電体板5b、第2パッチ素子5cの順に短く成形されている。また、これらの第2グランド板5a、第2誘電体板5b、第2パッチ素子5cの板面中心は同心位置に設定されている。
【0025】
第2グランド板5aの一辺の長さをG2とすると、この長さは例えばWiMAX帯(第1周波数帯)の平均周波数の1/2波長程度に成形されている。この第2グランド板5aの一辺の長さG2は、第1グランド板4aの一辺の長さG1に比較して短く成形されている。第2パッチ素子5cは、その板面中心位置からx方向に所定距離Bだけ離間した位置に給電点5dが構成されている。この給電点5dは第2パッチアンテナ5から放射される電波信号が水平偏波の偏波方向となるように構成されている。図面中、x方向、y方向、z方向は互いに直交する方向に設定されている。なお、z方向の正方向が第1方向に相当し、z方向の正方向の反対方向が第2方向に相当する。
【0026】
図2(c)に示すように、複合アンテナ6は、第1パッチアンテナ4および第2パッチアンテナ5がz方向に互いに離間して配置されて構成されている。この例では、第1グランド板4aと第2グランド板5aとは所定間隔Wを存して構成されている。この所定間隔Wは、後述説明するように、WiMAX帯、Bluetooth帯近辺(各規格の使用周波数帯内またはその間の周波数帯)の所定波長λに応じた距離相互作用によりアンテナゲイン特性を良好にする間隔に調整設定すると良い。
【0027】
図3(a)〜図3(c)は、車両内における複合アンテナの搭載例を示している。図3(c)は、車両C内の構成を示している。車両Cは、その前部C1の運転席、搭乗席の脇にWiMAX−Bluetooth通信システム(ナビゲーション装置)1の搭載ボックス7が配置されており、また、上部C2には運転席脇にルームミラー8が配置されている。
【0028】
図3(a)に示すように、複合アンテナ6は、WiMAX−Bluetooth通信システム(ナビゲーション装置)1の搭載ボックス7上の表示画面部7a側に設置されていても良いし、図3(b)に示すように、複合アンテナ6は、その第1パッチアンテナ4および第2パッチアンテナ5間に位置してルームミラー8の支柱8aを挟んで構成されていても良い。
【0029】
以下、複合アンテナ6を構成する構成要素の各寸法に応じたシミュレーション条件とその実験結果について説明する。図4は、発明者らが実施したシミュレーションにおける各アンテナの寸法条件を示している。
【0030】
この図4に示す条件は、第1パッチアンテナ4の寸法をWiMAX用途として考慮しており、第2パッチアンテナ5の寸法をBluetooth用途として考慮している。第1パッチアンテナ4はその動作周波数を2610MHz(波長λ1=約0.114[m])と設定し、第2パッチアンテナ5はその動作周波数を2440MHz(波長λ2=0.122[m])と設定している。
【0031】
この場合の第1グランド板4aの縦横厚さの寸法(サイズ)は、Bluetooth帯の動作周波数内の所定波長λ2を2分の1した長さを正方形状の一辺の長さG1としている。また、厚さは0.5[mm]と設定している。
【0032】
また、第2グランド板5aの縦横厚さの寸法(サイズ)は、WiMAX帯の動作周波数内の波長λ1を2分の1した長さを正方形状の一辺の長さG2としている。また、厚さは0.5[mm]と設定している。
【0033】
パッチ素子4cの縦横厚さの寸法(サイズ)は、WiMAX帯の動作周波数内の所定波長λ1に基づいて設定されており、図4に示すサイズに設定されている。パッチ素子5cの縦横厚さの寸法(サイズ)は、Bluetooth帯の動作周波数内の波長λ2に基づいて設定されており、図4に示すサイズに設定されている。
【0034】
また、第1誘電体板4bの縦横厚さの寸法(サイズ)は、WiMAX帯の動作周波数内の波長λ1に基づいて設定されており、図4に示す(I1×I1×厚さ)が下記(1)のように設定されている(33mm×33mm×3.4mm)。εは第1誘電体板4b、第2誘電体板5bの構成材料の誘電率を示す。
【0035】
λ1/(2×√ε)×1.3×λ1/(2×√ε)×1.3×λ1/(15×√ε)
…(1)
また、第2誘電体板5bの縦横厚さの寸法(サイズ)は、Bluetooth使用周波数帯の動作周波数に対応した波長λ2に基づいて設定されており、図4に示す(I2×I2×厚さ)が下記(2)のように設定されている(36mm×36mm×3.7mm)。
【0036】
λ2/(2×√ε)×1.3×λ2/(2×√ε)×1.3×λ2/(15×√ε)
…(2)
また、グランド板4aおよび5a間の距離(間隔)は、波長λ1およびλ2に基づいて設定した所定間隔Wに設定している。また、偏波は、WiMAXは垂直偏波であり、Bluetoothは水平偏波としている。
【0037】
パッチアンテナ4の給電点4dは、その位置がパッチ素子4cの中心位置からA(=4[mm])だけy方向に離間した位置に設定されており、また、パッチアンテナ5の給電点5dは、その位置がパッチ素子4cの中心位置からB(=4[mm])だけx方向に離間した位置に設定されている。
【0038】
偏波方向を互いに直交する方向としている理由は、偏波方向を互いに同一とするのに比較して電波干渉の影響がより少ないためである。図5は、第1周波数帯、第2周波数帯近辺(2200[MHz]〜2800[MHz])の周波数帯におけるアイソレーション特性を示している。この図5に示すように、第1パッチアンテナ4と第2パッチアンテナ5の偏波方向を互いに同方向とした場合と互いに垂直方向とした場合とでは、アイソレーション特性がほぼ25[dB]以上異なることが判明している。
【0039】
WiMAX帯およびBluetooth帯は、互いに近接した周波数帯であるため、両通信規格を採用した通信システム1では、第1通信部3a、第2通信部3b内にそれぞれバンドパスフィルタを構成したとしても、第1通信部3aではWiMAX規格の通信信号を通過すると共にBluetooth規格の通信信号を除去することがほぼ不可能であり、第2通信部3bではBluetooth規格の通信信号を通過すると共にWiMAX規格の通信信号を除去することがほぼ不可能である。したがって、相互干渉が生じやすいため、アイソレーション特性を向上することが望ましい。したがって、第1パッチアンテナ4と第2パッチアンテナ5の偏波方向を互いに直交する方向とすると良い。
【0040】
図6(a)は、第1パッチアンテナおよび第2パッチアンテナ間の各グランド板の間隔変化に応じたアンテナ利得特性を示している。なお、この図6(a)中、点線で示す利得はWiMAX帯の第1パッチアンテナの単体利得を示している。
【0041】
この図6(a)に示すように、アンテナ利得特性は、グランド板4a、5a間の間隔に応じて周期的に変化する。このような特性変化は、各パッチアンテナ4、5の後方に放射された電波信号が他のパッチアンテナ5、4のグランド板5a、4aにそれぞれ反射するときに位相が180°ずれるために生じる変化であり、直接波と反射波が重畳することになり各グランド板4a、5a間の間隔に応じて利得が向上したり減衰するためである。
【0042】
なお、アンテナ利得が増加して極大となる基本的条件は下記の(3)式で表され、アンテナ利得が減衰して極小となる基本的条件は(4)式で表される。
λ/4 × (2N−1) (但し、Nは正の整数)…(3)
λ/4 × 2N …(4)
したがって、基本原則的には、λ/4、3λ/4、5λ/4…の(3)式の条件を満たすとアンテナ利得が向上し、2λ/4、4λ/4、6λ/4…の(4)式の条件を満たすとアンテナ利得が減衰することが推定される。
【0043】
図6(b)は、WiMAX帯の波長と基本波と反射波の位相の関係を示している。この図6(b)および図6(a)に示すように、グランド板4aおよび5aの間隔は、基本波と反射波が同相となる(3)式の条件を満たしたときにアンテナ利得が増加し、基本波と反射波が逆相となる(4)式の条件を満たしたときにアンテナ利得が減衰する傾向を示すことが把握できる。
【0044】
また、図6(a)に示すように、グランド板4a、5aの間隔に応じた最大利得変化を考慮すると、グランド板4aおよび5aが互いに接触したことを想定したグランド板間隔0[mm]からわずかに間隔を増やした場合にもアンテナ利得が格段に上昇していることがわかる。図6(c)は、グランド板間隔を0[mm]からわずかに増やした場合のアンテナ利得特性の拡大図を示している。この図6(c)に示すように、グランド板間隔を狭くすると、0.73[mm]のときにアンテナ利得が極大となり、更に間隔を狭くするに従いアンテナ利得が減衰し徐々に6.15dBiに近づく。これは、間隔が格段に狭くなると、グランド板4aおよび5a間に生じるインピーダンスが低下し、グランド板4aおよび5a間が見た目導通しているように見えるためである。
【0045】
また、図6(a)に示すように、3λ/4、5λ/4から所定の間隔(所定波長λ0)だけ間隔を増加したときに、アンテナ利得が周期的な極大利得(最大利得)となっていることがわかる。したがって、前記した(3)(4)の基本式をそのまま適用するよりもより条件を良好にすることができる。これは、誘電体板4b、5bの厚さにより主伝播方向とその逆方向との伝搬遅延差が生じるためその位相シフトが生じるためであると考えられる。またその他の要因に基づく位相ずれ、周期ずれなどを考慮する必要があると推定される。
【0046】
すなわち(3)式の条件を基本とした実用的な設計範囲(例えば、誘電体板を考慮したシミュレーション、さらに、車両設置環境におけるシミュレーション、実験等)で様々な波長シフト(例えば所定波長λ0シフト)、所定波長周期(λ/4を目標値とした所定範囲の波長周期)の所定の周期的条件を満たす条件とすると良い。アンテナ利得がユーザ所望の利得を得られる範囲で第1グランド板4aおよび第2グランド板5a間の間隔を調整すると良い。また、各第1パッチアンテナ4および第2パッチアンテナ5に至るまでの伝搬線路による伝搬遅延差に基づく位相シフトなどを考慮に入れても良い。
【0047】
図7(a)は、第1グランド板のサイズを変更したときの主伝播方向の最大利得変化を概略的に示している。尚、この図7(a)においては、X軸はBluetooth通信規格の波長に応じた係数を示している。Bluetooth通信規格内の波長λ2は123[mm](2440MHz)を使用しており、例えば、この図7(a)のX軸に示す0.5は、0.5×λ2≒61.5[mm]を表している。この図7(a)に示すように、第1パッチアンテナ4の第1グランド板4aのサイズを変化させると、主伝播方向の最大利得が大きく変化することがわかる。この場合、第1パッチアンテナ4の第1グランド板4aの正方形一辺のサイズをλ1/4、λ2/4、または、それらの間、その周辺の値に設定すると良いことがわかる。
【0048】
言い換えると、第1グランド板4aの正方形一辺のサイズを、WiMAX使用周波数帯の波長、Bluetooth使用周波数帯の波長、または、その間の使用周波数帯の波長の1/4の長さもしくはその周辺の長さに設定すると良い。これは、前記の周波数帯内の最小周波数である2402[MHz]では波長λl=約12.49[cm]となりλl/4=3.12[cm]、前記の周波数帯内の最大周波数2630[MHz]では波長λh=約11.41[cm]となり、λh/4=2.85[cm]であるため、第1グランド板4aはこの間(2.85〜3.12[cm])もしくはその周辺の所定の長さに形成されていると、アンテナ利得特性を良化できる。すると、WiMAX用のアンテナ単体、Bluetooth用のアンテナ単体よりも複合アンテナ6の利得特性を良好にできる。
【0049】
図7(b)は、複合アンテナの相互作用を考慮した特性、すなわち複合アンテナのそれぞれの規格のアンテナ特性を加算した特性、WiMAX、Bluetoothのそれぞれの規格のアンテナ単体特性を加算した特性とを比較している。尚、この図7(b)においても、X軸はBluetooth通信規格の波長λ2に応じた係数を示している。Bluetooth通信規格の波長λ2は約123[mm](2440MHz)を使用しており、例えば、この図7(b)のX軸に示す0.5は、0.5×λ2≒61.5[mm]を表している。
【0050】
この図7(b)に示すように、2つの通信システムの周波数帯が近接している場合には、WiMAX、Bluetoothの単体のアンテナ特性を加算するよりも、第1および第2パッチアンテナ4および5が互いに相互作用の存在する実用的範囲で適切な距離だけ離間して配置した方がより最大利得を良好にできることがわかる。すなわち、大幅に良好な利得向上が見込まれることがわかる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1グランド板4aと第2グランド板5aとの距離が、距離相互作用によりアンテナ利得特性が良化する0を超えたWiMAX帯内の波長λ1に応じた所定距離(例えばλ1/4+λ0、または、3×λ1/4+λ0、または、5×λ1/4+λ0、…:但しλ0は0〜λ/8〜λ/4未満の所定波長)に設定されていると、アンテナ利得を向上できる。
【0052】
また、第1グランド板4aと第2グランド板5aとの距離が、距離相互作用によりアンテナ利得特性が良化する0を超えたBluetooth帯内の波長λ2に応じた所定距離(例えばλ2/4+λ0、または、3×λ2/4+λ0、または、5×λ2/4+λ0、…:但しλ0は0〜λ/8〜λ/4未満の所定波長)に設定されていると、アンテナ利得を向上できる。これにより、たとえWiMAX通信時に使用する第1周波数帯(2535[MHz]〜2630[MHz])とBluetooth通信時に使用する第2周波数帯(2402[MHz]〜2480[MHz])とが近接していたとしても、アンテナ利得特性を向上できる。
【0053】
また、第1パッチアンテナ4、第2パッチアンテナ5を同時に送受信アンテナとして機能させたときに、それぞれのパッチアンテナ4、5単独の特性を超える諸特性とすることができる。この実施形態に示したように、所定間隔Wを選択した場合には通信性能を向上できる。
【0054】
(第2実施形態)
図8ないし図12は、本発明の第2実施形態を示すもので、前述実施形態と異なるところは、第1パッチアンテナと第2パッチアンテナとの間に導電体を構成したところにある。以下、前述実施形態と同一部分については同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。
【0055】
図8(a)〜図8(c)は複合アンテナの構造を示しており、それぞれ図2(a)〜図2(c)に対応した図面である。図8(c)に示すように、導電体としての導電柱9は、複合アンテナ6を構成する第1パッチアンテナ4の第1グランド板4aと第2パッチアンテナ5の第2グランド板5aとの間に位置して構成されている。
【0056】
図9は車両内の配置例を示しており、図3(b)に相当する図面である。この図9に示すように、支柱8aが導電柱9を兼ねていると良く、この支柱8aは第1パッチアンテナ4および第2パッチアンテナ5の取付用途を兼ねていると良い。
【0057】
図8(c)に示す配置例では、導電柱9は車両C内に上下方向に延設された態様で構成されている。この導電柱9は、第1パッチアンテナ4の偏波方向と同方向に沿って設置されている。導電柱9は、1辺約0.1波長程度の正方形断面を有した角柱により構成されていても良いし、円柱により構成されていても良い。このような設置態様を考慮すると、以下に示すシミュレーションを用いて複合アンテナ6の周辺の導電柱9の設置位置を決定すると良い。
【0058】
図10(a)は第1パッチアンテナのzx面内の垂直偏波の指向性を示しており、図10(b)は第2パッチアンテナのzx面内の水平偏波の指向性を示している。これらの図10(a)および図10(b)には、各グランド板間に導電柱9が存在する場合と導電柱9が存在しない場合の比較を示しており、導電柱9が存在しない場合と導電柱9が存在した場合とで最も特性が悪化する場合も合わせて示している。また、図10(c)は、第1グランド板4aおよび第2グランド板5aから導電柱9の中心までの距離に応じた最大利得特性を示している。
【0059】
図10(c)に示すように、導電柱9が、第1グランド板4aおよび第2グランド板5aの中央から第1グランド板4aよりの距離が4.7[mm]となる位置に設置されていると、特に最大利得特性が悪化してしまうことがわかる。図10(a)に示すように、この4.7[mm]のときには、特性がかなり悪化していることが判明している。
【0060】
また、図10(c)の特性に示すように、導電柱9が、第1グランド板4aおよび第2グランド板5a間の中央から第1パッチアンテナ4よりの所定距離(例えば1.87mm=臨界距離)の位置から第2パッチアンテナ5のグランド板5a側に設置されていると、導電柱9無しの特性に比較して良化した特性が得られることがわかる。なお、ここで示した1.87[mm]の臨界距離は導電柱9無しの特性と比較した距離であるが、この臨界位置は一例を示している。このような設置形態を適用することにより、第1パッチアンテナ4および第2パッチアンテナ5の特性を共に良好にすることができる。
【0061】
図11(a)、図11(b)は、導電柱として角柱を適用し、当該角柱の断面縦横サイズを変更したときの利得変化を示している。この図11(a)は導電柱9の角柱サイズを15[mm]×15[mm]四方で長さλ1/2とした場合の特性を示しており、図11(b)は導電柱9の角柱サイズを10[mm]×10[mm]四方で長さλ1/2とした場合の特性を示している。これらの図11(a)および図11(b)に示すように、導電柱9のサイズに応じて利得が良化する距離が僅かにずれることが確認されているものの傾向は変化しない。したがって、導電柱9として角柱を適用したとしても、当該導電柱9を適切な位置に挿入することでアンテナ利得特性を良好にできることがわかる。
【0062】
図12は、導電柱として円柱を適用し当該円柱の断面サイズを固定したときの円柱位置を変えたときの利得変化を示している。この図12に示すように、図10に示す特性とは大きく変化することはない。したがって、導電柱9として円柱を適用したとしても、当該導電柱9を適切な位置に挿入することでアンテナ利得特性を良好にできることがわかる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1および第2グランド板4aおよび5a間には導電柱9が構成されているため、アンテナ利得特性を良好にすることができる。
また、導電柱9は、その中心位置が第1グランド板4aと第2グランド板5aとの中間から第1グランド板4aよりの1.87[mm]を臨界距離として第2グランド板5a側の位置に設置されていると、導電柱9を設けない複合アンテナ6の特性よりも良好にできる。
【0064】
この1.87[mm]の臨界距離は、グランド板4a、5aの大きさ、設置環境などに応じて様々に変化することが推定されるが、導電柱9が第1パッチアンテナ4側よりも第2パッチアンテナ5側に設置されていれば、アンテナ利得を向上できる。
【0065】
なお、前述実施形態に示した図6(a)〜図6(c)の実験結果は、第1グランド板4aおよび第2グランド板5a間に導電柱9を挿入していない場合を考慮しているが、本実施形態に示したように、導電柱9を第1グランド板4aおよび第2グランド板5a間に挿入するとアンテナ利得が向上する傾向があるため、前記の所定の周期的条件を適用し実用的範囲で調整すると良い。
【0066】
(第3実施形態)
図13および図14は、本発明の第3実施形態を示すもので、第1実施形態と異なるところは、第1パッチアンテナおよび第2パッチアンテナを互いに傾斜して設置したところにある。
【0067】
図13は、複合アンテナを構成する第1パッチアンテナ4および第2パッチアンテナ5を互いに傾斜して設置した場合の互いの設置関係を示しており、図14(a)〜図14(c)は複合アンテナの第2パッチアンテナ指向性特性とその条件を示している。なお、図14(c)は、この特性を測定したときの複合アンテナ6の形状を示しており、前述の導電柱9を非挿入の条件にてシミュレーションした結果を示している。
【0068】
図13に示すように、複合アンテナ6のうち、第1パッチアンテナ4と第2パッチアンテナ5とのグランド面の角度をθとしたとき、図14(a)に示すように、角度θに応じて指向性の主方向が僅かにずれる。また、図14(b)に示すように、傾き角度θに比例して最大利得が得られる角度が変化することがわかる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1パッチアンテナ4および第2パッチアンテナ5を傾斜して設置した場合の特性を考慮しているため、様々な実用的な設置形態を考慮して設置できるようになる。
【0070】
(他の実施形態)
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に示す変形または拡張が可能である。
【0071】
前述実施形態では、第1グランド板4aおよび第2グランド板5aはそれぞれ正方形状に成形され、第1グランド板4aはその一辺の長さが、WiMAX帯(2535[MHz]〜2630[MHz])、Bluetooth帯(2402[MHz]〜2480[MHz])、または、第1周波数帯および第2周波数帯間(2480[MHz]〜2535[MHz])における所定波長の4分の1の長さに形成されていると良い。特に、第1グランド板4aは、その一辺の長さがλ1/4(=2.88[cm])、λ2/4(=約3[cm])に成形されているとアンテナ利得特性を良好にできる。
【0072】
2.4GHz〜2.5GHz帯のBloutooth、WiMAX通信システムを複合した通信システムに適用した実施形態を示したが、これに限定されるものではなく、例えば、通信周波数帯の中心周波数が近接した2つの通信システムを複合した通信システムを適用し、これらの複合通信システムの第1周波数帯、第2周波数帯の通信用の複合アンテナに適用しても良い。
【0073】
第1パッチアンテナ4の第1グランド板4aと、第2パッチアンテナ5の第2グランド板5aとが互いに平行に構成され、第2パッチアンテナ5による電波信号の主指向方向が、第1パッチアンテナ4による電波信号の主指向方向とは真逆方向となっている実施形態を主に示しているが、前記実施形態に限定されるものでなく、実用的範囲内でグランド板4a、5aが互いに傾斜して設置されていても良い。
【0074】
グランド板4aおよび5a間の導電柱9は必要に応じて構成すれば良い。すなわち、複合アンテナ6の設置環境に合わせて構成すれば良い。
前述した導電柱9がグランド板4aおよび5a間に挿入されている場合、その他、グランド板4aおよび5a間の適切な距離は設置環境に応じて実験的に確認すれば様々に変化することが想到できる。したがって、導電柱9は、第1グランド板4aおよび第2グランド板5a間に実用範囲で適宜設置されていれば良い。
【0075】
また、本発明、本実施形態に係る周期的条件は、前記した実施形態にて説明した所定の周期的条件に限定されるものではない。
前述実施形態では、第1グランド板4aおよび第2グランド板5a間の距離を、例えばλ1/4+λ0、または、3×λ1/4+λ0、または、5×λ1/4+λ0…などの波長λ1(=3×108/2610×106[m])に応じた所定距離に設定した実施形態を示したが、Bluetooth帯の波長λ2(=3×108/2440×106[m])に応じた所定距離(例えば、λ2/4+λ0、または、3×λ2/4+λ0、または、5×λ2/4+λ0…など)の波長λ2に応じた所定距離に設定しても良い。
【符号の説明】
【0076】
図面中、1はWiMAX−Bluetooth通信システム、2は制御装置、3aは第1通信部、3bは第2通信部、4は第1パッチアンテナ、5は第2パッチアンテナ、4aは第1グランド板、5aは第2グランド板、4bは第1誘電体板、5bは第2誘電体板、4cは第1パッチ素子、5cは第2パッチ素子、6は複合アンテナ、7は搭載ボックス、8はルームミラー、9は導電柱(導電体)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の通信システムが使用する第1周波数帯および他の通信システムが使用する第2周波数帯が互いに近接している複数の通信システムにおける送受信用の複合アンテナにおいて、
第1パッチ素子および当該第1パッチ素子の第1方向に離間して配置された第1グランド板を有し第1周波数帯で送受信する第1パッチアンテナと、
前記第1グランド板から前記第1方向とは逆方向の第2方向に離間して当該第1グランド板に対向した第2グランド板、および、前記第2グランド板から前記第2方向に離間して配置された第2パッチ素子を備え、前記第1周波数帯とは異なると共に当該第1周波数帯に近接した第2周波数帯にて前記第1パッチアンテナの逆側の方向に主指向性を有する第2パッチアンテナとを備え、
前記第1周波数帯内の波長を第1所定波長、前記第2周波数帯内の波長を第2所定波長としたとき、
前記第1および第2グランド板は、その互いの距離が前記前記第1所定波長および前記第2所定波長に基づく距離相互作用に応じてアンテナ利得特性が良化する0を超えた所定距離に設定されていることを特徴とする複合アンテナ。
【請求項2】
請求項1記載の複合アンテナであって、
前記第1グランド板および前記第2グランド板はそれぞれ正方形状に成形され、
前記第1グランド板および前記第2グランド板間の間隔は、前記第1所定波長から前記第2所定波長までの長さの4分の1の奇数倍、または、当該長さの4分の1の奇数倍に位相シフトを考慮した所定の周期的条件を満たした間隔に形成されていることを特徴とする複合アンテナ。
【請求項3】
請求項1または2記載の複合アンテナであって、
前記第1グランド板および前記第2グランド板はそれぞれ正方形状に成形され、
前記第1グランド板は、その一辺の長さが、前記第1所定波長から前記第2所定波長までの長さを4分の1した長さまたはその周辺の長さに形成されていることを特徴とする複合アンテナ。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れかに記載の複合アンテナであって、
前記第1および第2グランド板間には導電体が構成されていることを特徴とする複合アンテナ。
【請求項5】
請求項4記載の複合アンテナであって、
前記第1パッチアンテナはWiMAX通信規格の周波数の電波信号を伝播するものであり、前記第2パッチアンテナはBluetooth通信規格の周波数の電波信号を伝播するものであり、
前記導電体が第1パッチアンテナ側よりも第2パッチアンテナ側に設置されていることを特徴とする複合アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−70156(P2012−70156A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212251(P2010−212251)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】