説明

複合シート

【課題】 本発明は、優れた熱伝導性及び絶縁性を有する複合シートを提供する。
【解決手段】 本発明の複合シートは、黒鉛化合物を薄片化してなる薄片化黒鉛を含む薄片化黒鉛層1と、層状珪酸塩を含む層状珪酸塩層2とが積層一体化してなることを特徴とするので、複合シートの厚み方向には絶縁性を有し、複合シートの面に沿った方向には高い熱伝導性を有すると共に、全体として無機成分が多いために耐熱性が高く、線膨張率も低く、更に、複合シートの機械的強度も高く且つ優れた屈曲性も有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素骨格を有し且つ形状異方性の高い物質として、黒鉛をその層面間で剥離し、層面(グラフェン)の重なりが数十層以下になるまで薄片化した薄片化黒鉛が注目されており、薄片化黒鉛は非常に大きな表面積を有するため、薄片化黒鉛の添加で各種機能が発現すると期待されている。
【0003】
電気部品又は電子部品などに用いられる熱伝導性樹脂シートには、高い熱伝導性及び絶縁性が求められている。このような材料としては、熱硬化性樹脂に無機充填材を充填した樹脂シートなどが提案されている。
【0004】
特許文献1には、熱伝導性樹脂シート中に、粒子径の大きい第一充填材と、粒子径の小さい第二充填材とを配合し、第一充填材の隙間を第二充填材で埋めてなる熱伝導性樹脂シートが開示されている。この熱伝導性樹脂シートは、飽和状態に近い状態で無機充填材を配合することができ、熱伝導性樹脂シートは高い熱伝導性を有していることが記載されている。
【0005】
しかしながら、熱伝導性樹脂シート中における無機充填材の充填率を高くすると、無機充填材の周囲の空間部に樹脂が回りこまずに空隙が形成されやすくなり、熱電導性樹脂シートの絶縁性が低下するという問題点を有する。
【0006】
そこで、上記問題を解決するために、特許文献2には、樹脂と、界面活性剤で被覆され、熱伝導性で且つ絶縁性の充填材とを備え、上記充填材は、上記樹脂中に分散されている熱伝導性樹脂シートが開示されており、窒化ホウ素や酸化アルミニウムなどの充填材の表面を界面活性剤で被覆することが記載されている。
【0007】
しかしながら、界面活性剤の絶縁層では電圧が大きくなると充分な絶縁性が得られないという問題点がある。
【0008】
一方、特許文献3には、金属及び/又は炭素からなる高熱伝導性粉末が電気絶縁性被膜で被覆されてなる高熱伝導性複合充填材が提案されている。しかしながら、上記高熱伝導性複合充填材は、粒子の被覆を完全にすることは難しく被覆の欠陥や破損に起因する絶縁性の劣化が生じるという問題点を有している。
【0009】
近年、電気部品又は電子部品の小型化、高密度化が進み、電子部品からの発熱をより効率的に放熱でき且つ絶縁性の高い熱伝導シートが要望されているが、上記技術では、充分な熱伝導性と絶縁性とを両立させることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−308576号公報
【特許文献2】特開2009−4536号公報
【特許文献3】特開平8−183875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、優れた熱伝導性及び絶縁性を有する複合シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の複合シートは、黒鉛化合物を薄片化してなる薄片化黒鉛を含む薄片化黒鉛層と、層状珪酸塩を含む層状珪酸塩層とが積層一体化してなることを特徴とする。
【0013】
薄片化黒鉛層を構成している薄片化黒鉛の原料となる黒鉛化合物としては、黒鉛、黒鉛層間化合物の何れであってもよい。なお、黒鉛に官能基が化学的に結合してしても、或いは、黒鉛に官能基が弱い相互作用により疑似的に結合していてもよい。
【0014】
黒鉛としては、粒子全体で単一の多層構造を有する黒鉛が好ましく、例えば、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、高配向性熱分解黒鉛などが挙げられる。天然黒鉛とキッシュ黒鉛は、各層面(基本層)が略単一の方位を有する単独の結晶であり、高配向性熱分解黒鉛の各層面(基本層)は異なる方位を有する多数の小さな化粧の集合体である。
【0015】
黒鉛層間化合物は、上記黒鉛の層面間にインターカレーターを挿入することによって形成されている。黒鉛層間化合物における黒鉛の層面間に挿入されるインターカレーターとしては、特に限定されず、例えば、酸、酸化剤、金属、金属塩、気体、ハロゲン化合物などが挙げられ、高圧条件を用いることなく黒鉛層間化合物を生成することができるので、酸と酸化剤との混合物が好ましい。インターカレーターは単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0016】
酸としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、カルボン酸、クロム酸、リン酸、ヨウ素酸などが挙げられる。酸化剤としては、例えば、硝酸カリウム、硝酸セリウムアンモニウム、過塩素酸、過マンガン酸塩などが挙げられる。金属としては、例えば、カリウム、ナトリウムなどが挙げられる。金属塩としては、例えば、塩化銅、塩化鉄、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸銅、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。気体としては、例えば、水素などが挙げられる。ハロゲン化合物としては、例えば、塩化ヨウ素、塩化臭素、臭化ヨウ素、フッ化ヨウ素、フッ化臭素、フッ化塩素、フッ素、塩素、塩化アルミニウムなどが挙げられる。
【0017】
黒鉛の層面間にインターカレーターを挿入して黒鉛層間化合物を製造する方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、黒鉛をインターカレーターの溶液に分散させて、分散液中において黒鉛とインターカレーターとを反応させて黒鉛層間化合物を製造する方法、黒鉛と気体状のインターカレーターとを高圧下にて反応させて黒鉛層間化合物を製造する方法、酸化剤を用いてHummers−Offeman法によって黒鉛層間化合物を製造する方法などが挙げられ、酸化剤を用いてHummers−Offeman法によって黒鉛層間化合物を製造する方法が好ましい。
【0018】
上述の要領で製造された黒鉛層間化合物に薄層化処理を施して原料黒鉛よりも薄層化させておくことが好ましい。黒鉛層間化合物に施す薄層化処理としては、例えば、黒鉛層間化合物にマイクロ波又は超音波を照射する方法、黒鉛層間化合物に物理的に応力を加えて黒鉛層間化合物を粉砕する方法などが挙げられる。
【0019】
黒鉛化合物において、レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%体積平均径として得られる値は、小さいと、黒鉛化合物を薄片化して得られる薄片化黒鉛において異方性が得られないことがあり、大きいと、黒鉛化合物の層面間に五員環を含有する環状化合物が侵入しにくくなり、黒鉛化合物の薄片化が進行しにくいことがあるので、0.1〜50μmが好ましい。
【0020】
なお、レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%体積平均径として得られる値が20μm未満である黒鉛化合物は、例えば、SECカーボン社から商品名「SNO−15」などのSNOシリーズにて、中越黒鉛工業所から商品名「CX−3000」にて、伊藤黒鉛社からCNP−シリーズにて、XGSience社から商品名「XGnP−5」にて市販されている。
【0021】
次に、黒鉛化合物を薄片化する方法としては、黒鉛化合物を構成している層面を剥離させて薄片化黒鉛とすることができれば、特に限定されず、例えば、(1)黒鉛化合物と、一級アミン、ヒドラジン及びアンモニアからなる群から選ばれた少なくとも一種の窒素化合物と、水とを混合してpHが10〜14である混合液とし、上記黒鉛化合物を薄片化する薄片化黒鉛の製造方法、(2)黒鉛化合物と五員環を含有する環状化合物とを含む被処理液を振とうさせて、上記黒鉛化合物を薄片化する薄片化黒鉛の製造方法、(3)黒鉛化合物とアルカリ金属の水酸化物と水とを混合してpHが7〜10である混合液とし、上記黒鉛化合物を薄片化する薄片化黒鉛の製造方法などが挙げられる。
【0022】
上記(1)の薄片化黒鉛の製造方法を説明する。窒素化合物としては、一級アミン、ヒドラジン及びアンモニアからなる群から選ばれた少なくとも一種の窒素化合物が用いられる。一級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エタノールアミンなどが挙げられる。なお、窒素化合物は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0023】
黒鉛化合物と窒素化合物と水とを混合して混合液を作製する方法としては、特に限定されず、例えば、黒鉛化合物を水に分散させて黒鉛化合物分散液を作製すると共に、窒素化合物を水に溶解させて窒素化合物水溶液を作製し、黒鉛化合物分散液と窒素化合物水溶液とを均一に混合して混合液を作製する方法、窒素化合物を水に溶解させて窒素化合物水溶液を作製し、この窒素化合物水溶液に黒鉛化合物を添加して均一に混合して混合液を作製する方法などが挙げられる。
【0024】
黒鉛化合物と窒素化合物と水とを混合させて混合液を作製するにあたって、得られる混合液のpHが10〜14となるように黒鉛化合物と窒素化合物と水の混合割合を調整する必要がある。
【0025】
混合液をpH10〜14に調整する理由は明確には解明されていないが、黒鉛化合物の層面間に窒素化合物を挿入させることによって、窒素化合物の有する非共有電子対間の静電反発力によって黒鉛化合物の対向する層面を互いが離間する方向に変位させることにより黒鉛化合物の層面間の間隔が拡がり、黒鉛化合物における層面間の剥離の進行を促進し黒鉛化合物を薄片化して薄片化黒鉛の製造を効率的に行うことができると考えている。そして、混合液をpHが10〜14となるように調整することによって、黒鉛化合物の層面間への窒素化合物の進入が容易となり、その結果、上述の作用によって黒鉛化合物の層面間における剥離が円滑に行われて黒鉛化合物を薄片化して薄片化黒鉛を効率良く製造できると考えられる。
【0026】
上述のように、黒鉛化合物と窒素化合物と水とを混合させてpHが10〜14の混合液を製造した後、この混合液を静置することによって黒鉛化合物の層面間における剥離を進行させ、黒鉛化合物を薄片化させて得られる薄片化黒鉛が水中に安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液を得ることができる。
【0027】
次に、上記(2)の薄片化黒鉛の製造方法を説明する。先ず、上記黒鉛化合物と五員環を含有する環状化合物とを含有する被処理液を用意する。五員環を含有する環状化合物としては、特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、ピロール、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール又はこれらの誘導体が挙げられ、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドンが好ましい。なお、五員環を含有する環状化合物は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0028】
五員環を含有する環状化合物が官能基を有している場合、官能基の炭素数は、大きいと、黒鉛化合物の層面間に五員環を含有する環状化合物が進入しにくくなり、黒鉛化合物の薄片化が進みにくくなることがあるので、4以下が好ましい。
【0029】
被処理液中における黒鉛化合物と五員環を有する環式化合物との含有割合は、黒鉛化合物が少ないと、黒鉛化合物に対して多量の溶媒を使用することとなり、環境負荷が大きくなることがあり、黒鉛化合物が多いと、黒鉛化合物の層面間に五員環を有する環式化合物が進入しにくくなることがあるので、黒鉛化合物100重量部に対して五員環を含有する環状化合物100〜100万重量部が好ましく、1000〜10万重量部がより好ましい。
【0030】
黒鉛化合物と五員環を含有する環状化合物とを含有する被処理液を作製する方法としては、特に限定されず、例えば、黒鉛化合物を入れた容器内に五員環を含有する環状化合物を供給してもよいし、五員環を含有する環状化合物中に黒鉛化合物を供給してもよい。
【0031】
そして、被処理液を振とうさせて黒鉛化合物を薄片化して、薄片化黒鉛が五員環を含有する環状化合物中に分散してなる薄片化黒鉛分散液を製造することができる。被処理液の振とう方法としては、特に限定されず、例えば、被処理液を入れた容器を手で上下方向又は左右方向に振ることによって容器内の被処理液を振とうする方法、被処理液を入れた容器を振とう装置に配設して容器を振とうさせて容器内の被処理液を振とうする方法などが挙げられる。
【0032】
このように、被処理液を振とうすることによって黒鉛化合物が薄片化されて、薄片化黒鉛が五員環を含有する環状化合物中に分散してなる薄片化黒鉛分散液が得られる理由は明確には解明されていないが、黒鉛化合物が黒鉛である場合には以下のように推察される。五員環を有する環式化合物は、黒鉛化合物と分子構造が類似しているため、黒鉛化合物の層面間に進入し易く、五員環を含有する環状化合物が黒鉛の層面間に進入することによって、互いに隣接する層面間に働いているファンデルワールス結合を切断することができ、その結果、黒鉛の層面間同士の剥離を容易にし、黒鉛の薄片化を進行させているものと考えられる。
【0033】
又、黒鉛化合物が黒鉛層間化合物又は官能基を有する黒鉛である場合にも、インターカレーターが挿入されていない層面間や、官能基を有していない層面間において、上述の現象が生じる結果、黒鉛化合物の薄片化をより効率良く行うことができるものと考えられる。
【0034】
続いて、上記(3)の薄片化黒鉛の製造方法を説明する。アルカリ金属の水酸化物としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが挙げられ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ金属の水酸化物は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0035】
黒鉛化合物とアルカリ金属の水酸化物と水とを混合して混合液を作製する方法としては、特に限定されず、例えば、黒鉛化合物を水に分散させて黒鉛化合物分散液を作製すると共に、アルカリ金属の水酸化物を水に溶解させてアルカリ金属の水酸化物水溶液を作製し、黒鉛化合物分散液とアルカリ金属の水酸化物水溶液とを均一に混合して混合液を作製する方法、アルカリ金属の水酸化物を水に溶解させてアルカリ金属の水酸化物水溶液を作製し、このアルカリ金属の水酸化物水溶液に黒鉛化合物を添加して均一に混合して混合液を作製する方法などが挙げられる。
【0036】
黒鉛化合物とアルカリ金属の水酸化物と水とを混合させて混合液を作製するにあたって、得られる混合液のpHが7〜10となるように黒鉛化合物とアルカリ金属の水酸化物と水の混合割合を調整する。黒鉛化合物が黒鉛(黒鉛が官能基を有する場合を含む)である場合には、混合液のpHを8〜10に調整することが好ましい。
【0037】
混合液をpH7〜10に調整する理由は明確には解明されていないが、アルカリ金属の水酸化物由来のアルカリ金属イオンが黒鉛化合物の層面間に進入し、アルカリ金属イオンの有する正電荷同士の反発力によって、黒鉛化合物の対向する層面を互いが離間する方向に変位させることにより黒鉛化合物の層面間の間隔が拡がり、黒鉛化合物における層面間の剥離の進行を促進し黒鉛化合物を薄片化して薄片化黒鉛の製造を効率的に行うことができると考えている。そして、分散液をpHが7〜10に調整することによって、黒鉛化合物の層面間へのアルカリ金属の水酸化物由来のアルカリ金属イオンの進入が容易となり、その結果、上述の作用によって黒鉛化合物の層面間における剥離が円滑に行われて黒鉛化合物を薄片化して薄片化黒鉛を効率良く製造できると考えられる。
【0038】
上述のように、黒鉛化合物とアルカリ金属の水酸化物と水とを混合させてpHが7〜10の混合液を製造した後、この混合液を静置することによって黒鉛化合物の層面間における剥離を進行させ、黒鉛化合物を薄片化させて得られる薄片化黒鉛が水中に安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液を得ることができる。
【0039】
一方、複合シートの層状珪酸塩層を構成している層状珪酸塩としては、天然物であっても合成物であってもよく、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物や、バーミキュライト、ハロイサイト、膨潤性マイカなどが挙げられ、モンモリロナイト、膨潤性マイカが好ましい。なお、層状珪酸塩は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0040】
本発明の複合シートAは、図1に示したように、黒鉛化合物を薄片化してなる薄片化黒鉛からなる薄片化黒鉛層1と、層状珪酸塩からなる層状珪酸塩層2とが積層一体化してなる。図1においては、複合シートAは、複数の薄片化黒鉛層1及び層状珪酸塩層2が互いに交互に積層一体化されている場合を示したが、薄片化黒鉛層1と層状珪酸塩層2とは交互に積層一体化されている必要はない。又、複合シートAは、薄片化黒鉛層1と層状珪酸塩層2とを一層づつ有し、薄片化黒鉛層1の一面に層状珪酸塩層2が積層一体化されてなるものであってもよい。
【0041】
なお、同一の構成を有していない薄片化黒鉛層1同士は、互いに相違する薄片化黒鉛層1とし、同一の構成を有していない層状珪酸塩層2同士は、互いに相違する層状珪酸塩層2とする。
【0042】
又、薄片化黒鉛層1には、その熱伝導性を損なわない範囲内において、薄片化黒鉛以外の化合物が含まれていてもよく、このような場合、薄片化黒鉛層1中における薄片化黒鉛の含有量は、少ないと、複合シートの熱伝導性が低下することがあるので、50重量%以上が好ましく、80〜100重量%がより好ましい。
【0043】
層状珪酸塩層2には、その絶縁性を損なわない範囲内において、層状珪酸塩以外の化合物が含まれていてもよく、このような場合、層状珪酸塩層2中における層状珪酸塩の含有量は、少ないと、複合シートの絶縁性が低下することがあるので、50重量%以上が好ましく、80〜100重量%がより好ましい。
【0044】
特に、複合シートAとしては、薄片化黒鉛層1と層状珪酸塩層2とを有し、二層以上の層状珪酸塩層2を有しており、層状珪酸塩層2、2が複合シートAの両最外層を構成している複合シートAが好ましい。具体的には、図2に示したように、薄片化黒鉛層1の両面のそれぞれに層状珪酸塩層2、2が積層一体化されている複合シートAが挙げられる。
【0045】
このように、複合シートAの両方の最外層を層状珪酸塩層2、2によって形成することによって、電気部品や電子部品などのように、絶縁性が要求され且つ熱伝導性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0046】
次に、本発明の複合シートAの製造方法について説明する。複合シートAの製造方法は、特に限定されない。例えば、層状珪酸塩を分散媒体中に分散させてなる層状珪酸塩分散液をフィルター上に供給して層状珪酸塩分散液中の分散媒体をフィルターによって除去してフィルター上に層状に堆積した層状珪酸塩を乾燥させることによって、層状珪酸塩を含む層状珪酸塩層を作製する。
【0047】
続いて、フィルター上の層状珪酸塩層上に上述の薄片化黒鉛分散液を層状に塗布し乾燥させることによって、薄片化黒鉛を含む薄片化黒鉛層を層状珪酸塩層上に積層一体化する。しかる後、薄片化黒鉛層上に、層状珪酸塩を分散媒体中に分散させてなる層状珪酸塩分散液を層状に塗布し乾燥させることによって、層状珪酸塩を含む層状珪酸塩層を薄片化黒鉛層上に積層一体化させる。
【0048】
上述した、層状珪酸塩層上に薄片化黒鉛層を積層一体化させる要領と、薄片化黒鉛層上に層状珪酸塩層を積層一体化させる要領とを必要な回数だけ好ましくは交互に繰返し行い、層状珪酸塩層と薄片化黒鉛層とが積層一体化されてなる複合シートを製造することができる。なお、複合シートAの両方の最外層を層状珪酸塩層2、2によって形成する場合には、複合シートAの製造工程を、薄片化黒鉛層1上に層状珪酸塩層2を積層一体化させる工程で終了すればよい。
【0049】
又、層状珪酸塩を分散媒体中に分散させてなる層状珪酸塩分散液をフィルター上に供給して層状珪酸塩分散液中の分散媒体をフィルターによって除去してフィルター上に層状に堆積した層状珪酸塩を乾燥させることによって、層状珪酸塩を含む層状珪酸塩シートを作製する。一方、上述した要領で薄片化黒鉛シートを製造し、層状珪酸塩シートと薄片化黒鉛シートとを所望の層数づつ、粘着剤や接着剤などの汎用の方法を用いて積層一体化して複合シートを製造してもよい。
【0050】
層状珪酸塩分散液を構成している分散媒体としては、層状珪酸塩を分散させることができれば、特に限定されず、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、プロピルアルコール、グリコールなどのアルコールなどが挙げられ、水が好ましい。
【0051】
上述では、薄片化黒鉛分散液として上述で得られた薄片化黒鉛分散液を用いた場合を説明したが、薄片化黒鉛分散液から薄片化黒鉛を分離し、この薄片化黒鉛を用いる場合は、薄片化黒鉛を分散媒体中に分散させて得られる薄片化黒鉛分散液を用いてもよい。なお、分散媒体としては、層状珪酸塩分散液を構成している分散媒体と同様であるのでその説明を省略する。
【0052】
上記薄片化黒鉛分散液中における薄片化黒鉛の含有量は、少ないと、複合シートの強度が不充分となることがあり、多いと、複合シートの製造が困難となることがあるので、0.1〜95重量%が好ましく、0.2〜50重量%がより好ましい。
【0053】
又、上記層状珪酸塩分散液中における層状珪酸塩の含有量は、少ないと、複合シートの強度が不充分となることがあり、多いと、複合シートの製造が困難となることがあるので、0.1〜95重量%が好ましく、1〜50重量%がより好ましい。
【0054】
複合シートAにおいて、薄片化黒鉛層1の厚みは、薄いと、複合シートの熱伝導性が低下することがあり、厚いと、複合シートの取扱性が低下することがあるので、0.01〜5mmが好ましく、0.05〜1mmがより好ましい。
【0055】
又、複合シートAの層状珪酸塩層2の厚みは、薄いと、複合シートの絶縁性が低下することがあり、厚いと、複合シートの取扱性が低下することがあるので、0.01〜5mmが好ましく、0.05〜1mmがより好ましい。
【発明の効果】
【0056】
本発明の複合シートは、黒鉛化合物を薄片化してなる薄片化黒鉛を含む薄片化黒鉛層と、層状珪酸塩を含む層状珪酸塩層とが積層一体化してなることを特徴とするので、複合シートの厚み方向には絶縁性を有し、複合シートの面に沿った方向には高い熱伝導性を有すると共に、全体として無機成分が多いために耐熱性が高く、線膨張率も低く、更に、複合シートの機械的強度も高く且つ優れた屈曲性も有している。
【0057】
そして、上記複合シートにおいて、二層以上の層状珪酸塩と、薄片化黒鉛層とが積層一体化しており、最外層が共に上記層状珪酸塩層から構成されている場合には、優れた絶縁性及び熱伝導性を有しており、電子部品や電気部品などの幅広い用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の複合シートを示した模式断面図である。
【図2】本発明の複合シートの他の一例を示した模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
黒鉛化合物(SECカーボン社製 商品名「SNO−15」、レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%径として得られる値:15μm)を用意した。
【0061】
次に、pHが10のアンモニア水溶液を用意し、このアンモニア水溶液18gに上記黒鉛化合物0.05gを供給して均一に混合してpH10の混合液を製造し、この混合液を25℃にて60分間に亘って静置して黒鉛化合物をその層面間から剥離し薄片化して薄片化黒鉛を生成し、この薄片化黒鉛が水中に分散してなる薄片化黒鉛分散液を得た。
【0062】
なお、薄片化黒鉛分散液中には、黒鉛化合物と推定される沈殿物が残っていたので沈殿物のない上方部分を採取し、薄片化黒鉛分散液とした。薄片化黒鉛分散液は目視にて略無色透明であった。薄片化黒鉛分散液に波長532nmのレーザー光を照射したところ、散乱光が確認できたため、薄片化黒鉛分散液中には高度に薄片化された薄片化黒鉛が分散していると推定された。
【0063】
薄片化黒鉛分散液の上方部分から試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0064】
又、薄片化黒鉛分散液の上方部分から塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる薄膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる薄膜は、銀灰色で且つ透明性が高かった。
【0065】
一方、天然モンモリロナイトである層状珪酸塩(クニミネ工業社製 商品名「クニピアP」)5gを水95gに供給して均一に混合して層状珪酸塩分散液を作製した。
【0066】
そして、層状珪酸塩分散液をフィルター上に供給して濾過することによって水を除去し、フィルター上に層状に堆積した層状珪酸塩を乾燥させることによって厚みが0.2mmの層状珪酸塩層を形成した。
【0067】
次に、上記フィルター上に形成した層状珪酸塩層上に上記薄片化黒鉛分散液を層状に塗布して乾燥させることによって厚みが0.4mmの薄片化黒鉛層を形成した。
【0068】
続いて、上記薄片化黒鉛層上に層状珪酸塩分散液を層状に塗布して乾燥させることによって層状珪酸塩層を形成し、薄片化黒鉛層1の両面のそれぞれに層状珪酸塩層2、2が積層一体化されてなる複合シートAを製造した。
【0069】
(実施例2)
黒鉛化合物(SECカーボン社製 商品名「SNO−15」、レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%径として得られる値:15μm、ESCAにより測定した黒鉛化合物中の酸素原子の含有率:2.9%)を用意した。
【0070】
次に、テトラヒドロフランを用意し、このテトラヒドロフラン18gに上記黒鉛化合物 0.1gを供給して混合して被処理液を作製した。この被処理液を入れた容器を手で把持して上下方向に振ることによって容器内の被処理液を振とうさせて黒鉛化合物をその層面間から剥離し薄片化して薄片化黒鉛を生成し、この薄片化黒鉛がテトラヒドロフラン中に分散してなる薄片化黒鉛分散液を製造した。
【0071】
なお、薄片化黒鉛分散液中には、黒鉛化合物と推定される沈殿物が残っていたので沈殿物のない上方部分を採取し、薄片化黒鉛分散液とした。薄片化黒鉛分散液は目視にて透明度の高い黒銀色であり、薄片化黒鉛分散液中には高度に薄片化された薄片化黒鉛が分散していると推定された。
【0072】
薄片化黒鉛分散液の上方部分から試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0073】
又、薄片化黒鉛分散液の上方部分から塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる薄膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる薄膜は、薄灰色で且つ透明性が高かった。
【0074】
上記薄片化黒鉛分散液を用いたこと以外は実施例1の要領で複合シートAを得た。
【0075】
(実施例3)
黒鉛化合物(XGSience社製 商品名「XGnP−5」、レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%径として得られる値:5μm)を用意した。
【0076】
次に、pHが9の水酸化ナトリウム水溶液を用意し、この水酸化ナトリウム水溶液18gに上記黒鉛化合物0.05gを供給して均一に混合してpH14の混合液を製造し、この混合液を25℃にて60分間に亘って静置して黒鉛化合物をその層面間から剥離し薄片化して、薄片化黒鉛が水中に分散してなる薄片化黒鉛分散液を得た。薄片化黒鉛分散液中には沈殿物は生じていなかった。
【0077】
薄片化黒鉛分散液から試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0078】
又、薄片化黒鉛分散液から塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる薄膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる薄膜は、薄灰色で且つ透明性が高かった。
【0079】
上記薄片化黒鉛分散液を用いたこと以外は実施例1の要領で複合シートAを得た。
【0080】
(比較例1)
天然モンモリロナイトである層状珪酸塩(クニミネ工業社 商品名「クニピアP」)1gを蒸留水60gに供給し攪拌して層状珪酸塩が水中に分散してなる分散液を得た。この分散液をトレイ上に供給した上で、このトレイをオーブン内に供給して50℃にて5時間に亘って乾燥させた後、1000℃にて24時間に亘って熱処理を行い、厚さが約0.3mmの層状珪酸塩のみからなる層状珪酸塩シートを得た。この層状珪酸塩シートの一面にカーボンペーストを塗布し厚さ0.1mmの黒鉛層を積層一体化した。次に、上述と同様の要領で層状珪酸塩シートを作製し、この層状珪酸塩シートを上記黒鉛層上に積層一体化して、黒鉛層の両面に層状珪酸塩シートが積層一体化されてなる複合シートを得た。
【0081】
得られた複合シートの熱伝導性及び絶縁性を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0082】
(熱伝導性)
複合シートの熱伝導度を熱伝導測定器(京都電子社製 商品名「LFA−502」)を用いてレーザーフラッシュ法によって測定した。
【0083】
(絶縁性)
複合シートの表面抵抗を抵抗測定器(三菱油化社製 商品名「ハイレスタ」)を用いて測定した。
【0084】
【表1】

【符号の説明】
【0085】
1 薄片化黒鉛層
2 層状珪酸塩層
A 複合シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛化合物を薄片化してなる薄片化黒鉛を含む薄片化黒鉛層と、層状珪酸塩を含む層状珪酸塩層とが積層一体化してなることを特徴とする複合シート。
【請求項2】
二層以上の層状珪酸塩と、薄片化黒鉛層とが積層一体化しており、最外層が共に上記層状珪酸塩層から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の複合シート。
【請求項3】
薄片化黒鉛層の両面のそれぞれに層状珪酸塩層が積層一体化されてなることを特徴とする請求項1に記載の複合シート。
【請求項4】
薄片化黒鉛層の一面に層状珪酸塩層が積層一体化されていることを特徴とする請求項1に記載の複合シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−189700(P2011−189700A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59715(P2010−59715)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】