説明

複合トランス

【課題】 点灯回路基板上に搭載する部品点数を削減し、実装スペース及び製造コストを低減する。
【解決手段】 1本の巻軸22の両端と中間にブロックが設けられ、それら端部ブロック24,25と中間ブロック26によって巻軸が2つの巻線部に区画されているボビン20と、両巻線部に巻装される2種のコイルと、巻軸内に挿入される単一の棒状コア40と、棒状コアと組み合わされる2個の四角枠状コア42,43を具備し、各四角枠状コアは、2種のコイルのそれぞれを取り囲むと共に棒状コアに対して相対向する2辺で接触又は近接し、且つ中間ブロックの位置で間隔をあけて配置され、2つの独立した閉磁路が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種のコイルを単一のボビンに巻装し、共通の棒状コアと2個の四角枠状コアの組み合わせにより、各々独立した機能を有する2つの閉磁路を形成した複合トランスに関するものである。このトランスは、例えば液晶ディスプレイ装置のバックライトに使用するバランスコイル一体型インバータトランスなどに有用である。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビや液晶ディスプレイ装置などのバックライトには、複数本の冷陰極管が用いられている。例えば、32インチ型液晶テレビでは、16本の冷陰極管が液晶パネルの背面に適度の間隔で配置されて画面全体の輝度を保っている。複数の冷陰極管を点灯させたときに、各冷陰極管の輝度ばらつきを抑え、むらのない照明を実現するためには、個々の冷陰極管の管電流を一定に保つ必要がある。そこで、冷陰極管の並列点灯方式においては、2本の冷陰極管をバランスコイルを介してインバータ回路に接続する構成が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
バランスコイルを組み込んだ冷陰極管点灯回路の基本構成を図6に示す。冷陰極管点灯回路は、インバータトランス10とスイッチング駆動回路12を備えたインバータ回路、及びバランスコイル14、負荷となる2本の冷陰極管16などから構成される。そして、液晶パネルの大きさ(言い換えれば冷陰極管の配列本数)に合わせて、前記冷陰極管点灯回路を繰り返し展開することで点灯装置全体を構成している。そこで、実際には、インバータトランス10とスイッチング駆動回路12及びバランスコイル14などをユニット化し、複数のユニットを搭載した点灯回路基板を冷陰極管群の背面や側面に設置して各冷陰極管との必要な配線を行うことで液晶パネルを製造している。
【0004】
しかし、液晶パネルの大型化に伴い、必要とする冷陰極管の本数が増加し、点灯回路基板上に搭載される部品点数も増加し、実装スペースが大きくなるのみならず、製造コストが増加するなどの問題が生じている。
【特許文献1】特開平11−167993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、点灯回路基板上に搭載する部品点数を削減し、実装スペース及び製造コストを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1本の巻軸の両端と中間にブロックが設けられ、それら端部ブロックと中間ブロックによって前記巻軸が2つの巻線部に区画されているボビンと、両巻線部に巻装される2種のコイルと、前記巻軸内に挿入される単一の棒状コアと、該棒状コアと組み合わされる2個の四角枠状コアとを具備し、各四角枠状コアは、前記2種のコイルのそれぞれを取り囲むと共に前記棒状コアに対して相対向する2辺で接触又は近接し、且つ前記中間ブロックで間隔をあけて配置され、それによって2つの独立した閉磁路が形成されるようにしたことを特徴とする複合トランスである。
【0007】
ここで、棒状コア及び四角枠状コアの前記棒状コアに接触あるいは近接する部分の断面は矩形状をなし、中間ブロックには外方向の突出部が設けられ、該突出部によって2個の四角枠状コアの間隔が一定以上に維持されている構造が好ましい。また、端部ブロック及び中間ブロックには端子を装着しておき、巻線端末が接続されると共に該端子で基板に実装可能とする。
【0008】
本発明に係る複合トランスの典型的な例は、バランスコイル一体型インバータトランスである。2種のコイルの一方は、2巻線よりなり、その2巻線を囲み、棒状コアの上面と四角枠状コアの対向する2辺の底面が接触するように該四角枠状コアを配置することで閉磁路構造としたバランスコイル部を構成している。2種のコイルの他方は、一次側の低圧巻線と、2次側の複数に分割巻きした高圧巻線からなり、インバータトランス部を構成している。インバータトランス部における四角枠状コアと棒状コアの組み合わせは、バランスコイル部寄りの辺では互いに接触し、それと反対側の辺ではギャップが設けられている片側ギャップ構造とするのがよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、単一のボビンを用い、単一の棒状コアと2個の四角枠状コアの組み合わせを使用しており、ボビンと一方のコアを共有化しているため、部品点数の削減と低コスト化を図ることができる。ここで、2個の四角枠状コアを互いに一定距離以上離間させて配置しているため、両方の磁気回路が互いに独立し磁気的干渉を最小限に抑えた小型の複合トランスが構成できる。また、単一のボビンに全てのコイルを巻線する構成であるために、巻線作業が一度で済み作業効率も改善される。これらによって、バランスコイル部とインバータトランス部が一体化された複合トランスが得られ、液晶パネルの薄型化あるいは小型化に貢献できる。
【実施例】
【0010】
本発明に係る複合トランスで用いるボビンの一例を図1に示す。ここで示す例は、バランスコイル部とインバータトランス部とが一体になった複合トランスで用いるボビンである。図1において、Aはボビンの上面を表し、Bはそのx−x断面を、Cはy−y断面を表している。このようなボビンは、例えば合成樹脂を射出成形することによって一体的に作製される。なお、各コアは、磁性材料、例えばフェライトなどからなるが、各コアは同じ材質でもよいし、異なる材質でもよい。
【0011】
ボビン20は、1本の巻軸22と、その両端に位置する端部ブロック24,25と、中間に位置する中間ブロック26を有し、それら端部ブロック24,25と中間ブロック26によって前記巻軸22がバランスコイル部28用の巻線部とインバータトランス部30用の巻線部とに区画されている。巻軸22の各巻線部は、図1のB(断面x−x)に示すように、四角筒状をなし、内部は棒状コア(後述する)が丁度挿入できる形状になっており、外周には両端のフランジ32が、また中間部には必要に応じて1枚以上の仕切り板34が配設されている。バランスコイル部28用の巻線部は、中間の仕切り板34で2領域に分けられており、インバータトランス部30用の巻線部は、仕切り板34で一次側(p領域)と2次側(s領域)に分けられると共に、2次側は更に多数の仕切り板34aで細かく分けられている。ここではインバータトランス部30の2次側(s領域)がバランスコイル部28寄りに設けられる。従って、バランスコイルとインバータトランスの巻線作業は、ボビン20を巻線機にセットすることにより一度で済ますことができる。
【0012】
図1のC(断面y−y)に示すように、中間ブロック26(端子ブロック24,25も同様)の部分では、巻軸22は上面が開放された状態であり、棒状コア(後述する)を挿通したときには該棒状コアの上部が露出するような樋形状になっている。また、2個の四角枠状コア(後述する)を一定距離以上離間させるため、前記中間ブロック26の上面には適当な厚さGのスペーサ36が突設されている。更に、端部ブロック24,25及び中間ブロック26には端子38が装着されて、巻線端末が接続されると共に、該端子38で基板に実装可能になっている。
【0013】
このようなボビン20と組み合わせるコアの形状の例を図2に示す。棒状コア40は、断面矩形状で前記ボビン20の巻軸22内に丁度嵌入する寸法であり、前記ボビン20の全長よりもやや短めの長さL1に設定されている。Aに示す例では、両方の四角枠状コア42,43(42:バランスコイル用、43:インバータトランス用)は、共に両側部が比較的厚く、それに直交する辺は比較的薄い形状である。両方の四角枠状コア42,43の薄い2辺の下面が前記棒状コア40の上面に接触又は近接するように組み合わされる。但し、バランスコイル用の四角枠状コア42の長さL2の方が、インバータトランス用の四角枠状コア43の長さL3よりも短い。
【0014】
図2のBに示す例では、一方の四角枠状コア(インバータトランス用)43は、Aの例と同様、両側部が比較的厚く、それに直交する辺は比較的薄い形状であるが、他方の四角枠状コア(バランスコイル用)44は、4辺全てが比較的薄く同じ厚さの(上下面が平行平面となる)形状としている。一方の四角枠状コア43の薄い2辺の下面、及び他方の四角枠状コア44の対向する2辺の下面が前記棒状コアの上面に接触又は近接する。
【0015】
四角枠状コアの配置において、Aの例では、2個の四角枠状コア42と43(Bの例では四角枠状コア43と44)とは、一定の間隙G(図1参照)が生じるように離間させて配置する。従って、棒状コア40の長さ寸法L1は、2個の四角枠状コア42,43の長さ寸法L2,L3の和よりも前記間隙G以上長くなるように(即ち、L1≧L2+L3+G)設定する。
【0016】
組み立てた状態を図3に示す。以下、図2のAに示すコアを用いた場合について説明する。ボビン20のバランスコイル部28用の巻線部の2領域に、同一の線径の線材を同一の巻数となるように巻線し、インバータトランス部30用の巻線部のp領域に1次側を巻線し、s領域の複数に仕切られた部分に2次側を分割巻きする。巻線端末は、端子に絡げて半田付けすることなどにより接続する。ボビン20の巻軸22に棒状コア40を挿入して、接着などにより固定する。このとき、両方の端部ブロック24,25と中間ブロック26の部分では、棒状コア40の上部が露出した状態となっている。そこで、2個の四角枠状コア42,43を被せて固定する。バランスコイル部28では、四角枠状コア42と棒状コア42は接触し、インバータトランス部30では四角枠状コア43と棒状コア40とは僅かなギャップが介在(通常、ギャップシートを挟む)しており近接している。
【0017】
このようにして、バランスコイル部28とインバータトランス部30が一体化された複合トランスが得られる。ここで、バランスコイル部28とインバータトランス部30は、個別の四角枠状コア42,43を使用し、且つ互いに離間して構成されているので、それぞれ独立した磁路を形成し、互いの磁気的干渉が最少となるように抑止している。それを保証するため、中間ブロック26の上面にスペーサ36を設けており、その厚み分G以上の間隙が2個の四角枠状コア42,43の間で確保できるようになっている。
【0018】
このような複合トランスにおけるギャップと磁路の関係を図4に示す。Aに示す例は、インバータトランス部30において、対向する両辺の部分にギャップを設けた(例えば、厚み100μm程度のギャップシートを介装させる)両側ギャップ構造である。それに対してBに示す例は、インバータトランス部30において、対向する2辺の一方のバランスコイル部30寄りの辺ではギャップシートが無くコアが接触し、他方の辺(バランスコイル部とは反対側の辺)のみにギャップを設けた(例えば、厚み200μm程度のギャップシートを介装させる)片側ギャップ構造である。
【0019】
図4のAに示すような両側ギャップ構造は、通常の単一構造のトランスでは一般的であるが、本発明のような複合トランスの場合は、インバータトランス部30で発生する漏れ磁束(矢印50で示す)がバランスコイル部28に悪影響を与え、磁気的な干渉が生じるおそれがある。なお、白抜き矢印はインバータトランス部30における磁束を示す。これを避けるためには、2個の四角枠状コア42,43同士の間隙Gを大きくしなければならない。それに対して図4のBに示すような片側ギャップ構造にすると、インバータトランス部30のバランスコイル部28寄りの位置では棒状コア40と四角枠状コア43が接触しているので漏れ磁束が発生し難く、そのため磁気的な干渉が生じず、2個の四角枠状コア42,43同士の間隙Gをより一層狭くすることができる。
【0020】
測定結果の一例を図5に示す。バランスコイル無しの場合に比べて本発明のような複合トランスに組み込んだバランスコイルを設けることによっも、大きな負荷ばらつき(図6で一方の負荷に対する他方の負荷のばらつき)に対する電流ばらつきを低く抑えることができる。このとき、両側ギャップ構造(図4のA)よりも片側ギャップ構造(図4のB)の方が、電流ばらつきは小さくなる。なお、測定では、両側ギャップ構造についてはギャップがそれぞれ100μm(両側で合計200μm)の試料を、両側ギャップ構造についてはギャップが200μmの試料を用いた。電流ばらつきが抑えられる理由は、インバータトランス部30のバランスコイル部28近傍側での磁気的結合が向上し、漏れ磁束が生じ難く、そのためバランスコイル部28への悪影響が生じ難くなるためである。このような片側ギャップ構造により、両側ギャップ構造に比べてインバータトランス部30とバランスコイル部28の磁気的な分離が可能となり、インバータトランスとバランスコイルの機能を十分に満足させることができる。なお、片側ギャップ構造の場合、図4のBでは極端に描いているために四角枠状コアが傾いて見えるが、200μm程度の高低差であるので、実際には殆ど傾きは生じず、安定に組み立てることができた。
【0021】
ところで、上記の実施例ではバランスコイル部の2巻線を同一巻数としているが、バランスコイル部の2巻線の巻数比を調整すると、それによってインバータトランス部からバランスコイル部に僅かに流れ込む磁束を打ち消すことができ、バランスコイルの性能をより一層向上させることができる。更に、四角枠状コア同士の間隔を適切に設定することでも、バランスコイルの性能向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明で用いるボビンの一例を示す説明図。
【図2】本発明で用いるコアの例を示す説明図。
【図3】ボビンにコアを装着した状態を示す説明図。
【図4】磁路の説明図。
【図5】負荷のばらつきに対する電流のばらつきの関係を示すグラフ。
【図6】冷陰極管点灯回路の一例を示す回路図。
【符号の説明】
【0023】
20 ボビン
22 巻軸
24,25 端部ブロック
26 中間ブロック
28 バランスコイル部
30 インバータトランス部
38 端子
40 棒状コア
42,43 四角枠状コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の巻軸の両端と中間にブロックが設けられ、それら端部ブロックと中間ブロックによって前記巻軸が2つの巻線部に区画されているボビンと、両巻線部に巻装される2種のコイルと、前記巻軸内に挿入される単一の棒状コアと、該棒状コアと組み合わされる2個の四角枠状コアとを具備し、各四角枠状コアは、前記2種のコイルのそれぞれを取り囲むと共に前記棒状コアに対して相対向する2辺で接触又は近接し、且つ前記中間ブロックの位置で間隔をあけて配置され、それによって2つの独立した閉磁路が形成されるようにしたことを特徴とする複合トランス。
【請求項2】
棒状コア及び四角枠状コアの前記棒状コアに接触あるいは近接する部分の断面は矩形状をなし、中間ブロックには外方向の突出部が設けられ、該突出部によって2個の四角枠状コアの間隔が維持されている請求項1記載の複合トランス。
【請求項3】
端部ブロック及び中間ブロックには端子が装着され、巻線端末が接続されると共に該端子で基板に実装可能になっている請求項1又は2記載の複合トランス。
【請求項4】
2種のコイルの一方は、2巻線よりなり、その2巻線を囲み、棒状コアの上面と四角枠状コアの対向する2辺の底面が接触するように該四角枠状コアを配置することで閉磁路構造としたバランスコイル部を構成している請求項1乃至3のいずれかに記載の複合トランス。
【請求項5】
2種のコイルの他方は、一次側の低圧巻線と、2次側の複数に分割巻きした高圧巻線からなり、インバータトランス部を構成している請求項4記載の複合トランス。
【請求項6】
インバータトランス部における四角枠状コアと棒状コアの組み合わせは、バランスコイル部寄りの辺では互いに接触し、それと反対側の辺ではギャップシートが介在することによりギャップが設けられている片側ギャップ構造である請求項5記載の複合トランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−147994(P2006−147994A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338781(P2004−338781)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】