説明

複合体及び前記複合体を有する造影剤

【課題】 本発明は、複数の抗体が結合していても凝集しにくい複合体を提供することを目的とする。
【解決手段】 2個以上4個以下の下記一般式(1)で表される化合物と、アビジン部とからなる複合体。


(ただし、一般式(1)のAは抗体部であり、一般式(1)のビオチニル基はアビジン部の結合サイトと結合している。アビジン部はアビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンのいずれかである。nは1から10のいずれかの整数である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体及び前記複合体を有する造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
病変部位に存在する抗原(病変マーカーなど)を検出するために、その抗原に特異的に結合する抗体に信号発生物質を結合させた化合物を用いた造影剤が知られている。また、抗体を複数有する抗原結合能力の高い化合物を用いた造影剤も知られている。なお、信号発生物質の代わりに治療用薬剤を抗体に結合させた治療剤も知られている。
【0003】
ここで、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンは、4つのサブユニットを有しており、各サブユニットは1分子のビオチンと強固に結合する。
【0004】
そこで、特許文献1には、薬学的作用物質が結合したストレプトアビジンに、ビオチンとストレプトアビジンの結合を介して、一本鎖抗体が4つ結合した、抗原結合能力の高い化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−524023
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の四量体は、一本鎖抗体とビオチンとの間にリンカー分子がない。そのため、ビオチンに複数結合している一本鎖抗体同士の距離が近く、一本鎖抗体同士が凝集してしまうおそれがある。その結果、この四量体は抗原結合能力が低くなるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、複数の抗体が結合していても、凝集しにくい複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る複合体は、
2個以上4個以下の下記一般式(1)で表される化合物と、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンのいずれかであるアビジン部とからなる。
【0009】
【化1】

【0010】
(ただし、一般式(1)のAは抗体部であり、一般式(1)のビオチニル基は前記アビジン部の結合サイトと結合している。nは1から10のいずれかの整数である)
【発明の効果】
【0011】
本発明は、複数の抗体が結合していても凝集しにくい複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る複合体を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例1において、発現タンパク質の精製前後におけるゲル電気泳動の結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例1において、精製された四量体化scFv(1)のゲルろ過クロマトグラムを示す図である。
【図4】本発明の実施例1において、四量体化scFv(1)3nM〜20nMについてのセンサーグラムを示す図である。
【図5】四量体化scFv(1)を投与したときのマウス全身の蛍光強度の経時変化画像を示す図である。
【図6】IgGを投与したときのマウス全身の蛍光強度の経時変化画像を示す図である。
【図7】hu4D5scFvC10を投与したときのマウス全身の蛍光強度の経時変化画像を示す図である。
【図8】下記式(2)で表される化合物とストレプトアビジンの複合体を投与したときのマウス全身の蛍光強度の経時変化画像を示す図である。
【図9】四量体化scFv(1)投与をしたときとIgG投与時を投与したときの蛍光強度の比(T/B)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について以下に説明する。
【0014】
本実施形態に係る複合体は、2個以上4個以下の下記一般式(1)で表される化合物と、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンのいずれかであるアビジン部とからなる。
【0015】
【化2】

【0016】
(ただし、一般式(1)のAは抗体部であり、一般式(1)のビオチニル基は前記アビジン部の結合サイトと結合している。nは1から10のいずれかの整数である)
【0017】
ここで、本実施形態に係る複合体は、抗体部Aを複数有する多量体であるため、抗体部Aを1つのみ有する場合に比べて、抗原に結合しやすい。
【0018】
さらに、本実施形態に係る複合体は、上記の一般式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と略すことがある)を有している。化合物(1)はポリエチレングリコールを有しているため、水分子との親和性が高い。そのため、抗体部同士の間に水分子が存在しやすく、抗体部同士の距離が近くなりにくい。その結果、抗体部同士が凝集しにくい。
【0019】
本実施形態に係る複合体の一例について、図1を用いて説明する。
【0020】
本実施形態の一例は、抗体部101と上記の一般式(1)で表される化合物(1)102とアビジン部104と信号発生物質105とからなる複合体である。そして化合物(1)102のビオチニル基103がアビジン部104の有する4つの結合サイトに結合し、信号発生物質105がアビジン部に結合している。この複合体は4つの抗体部101を有するため、抗体を1つのみ有する化合物に比べて、抗原に結合しやすい。また、化合物(1)はポリエチレングリコール(Polyethylene Glycol、以下、PEGと略すことがある)を有するため、水分子が集まりやすく、抗体部同士の距離が近づきにくくなる。結果として、抗体部同士の凝集を抑制することができ、抗原結合能力の低下を抑制することができる。さらに、PEGは生体適合性が高いことが知られているため、本実施形態に係る複合体は生体内に投与する場合に好ましく用いられる。
【0021】
また、信号発生物質105を有するため、抗原部位を特異的に検出する造影剤としての利用が可能である。さらに、信号発生物質105がアビジン部に結合しているため、複数の抗体部101が立体傷害となり、信号発生分子と、周囲の物質(生体内では、血清アルブミンや酵素などのタンパク質)との相互作用を減らすことができる。その結果、信号発生物質105から発せられる信号の低下を抑制することができる。
【0022】
(抗体部)
本明細書において、抗体部とは抗体を有するポリペプチドである。抗体とは、特定の分子(抗原)に応答して免疫系により誘発されるイムノグロブリン(Immunoglobulin)ファミリーのタンパク質の総称であり、その抗原に結合する性質をもつ。イムノグロブリンファミリーとしては、例えばイムノグロブリンG(ImmunoglobulinG、以下IgGと略すことがある)などが挙げられる。ここで、抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。なお、抗体部は抗体以外にも、抗原結合能力を損なわない範囲で、任意のアミノ酸を有していてもよい。
【0023】
また、抗体は全抗体に限定されず、抗体フラグメントであってもよい。抗体フラグメントとは、特定の分子に結合する性質を維持したまま低分子化された、抗体の誘導体を指す。抗体フラグメントとしてはFabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)、重鎖可変(VH)ドメイン単独、軽鎖可変(VL)ドメイン単独、VHとVLの複合体、あるいはラクダ化VHドメイン、または抗体の相補正決定領域(CDR)を含むポリペプチド、抗体の重鎖可変(VH)領域と軽鎖可変(VL)領域とをペプチドからなるリンカーで連結したポリペプチドである一本鎖抗体(single chain Fv、以下scFvと略すことがある)などが挙げられる。抗体フラグメントは、全抗体に比べ、分子サイズが小さいため、高い組織浸透性や早いクリアランス速度を有する事から診断剤あるいは造影剤に好適に利用される。
【0024】
なお、抗体フラグメントとして、一本鎖抗体が好ましい。なぜなら、一本鎖抗体は、各種抗原に対応して安価に簡便に作製することができ、なおかつ、全抗体や一本鎖抗体以外の抗体フラグメントと比べて分子量が小さいため、体外へ速やかに排泄されやすく、又病変部位に到達しやすいからである。そのため、一本鎖抗体は病変部位の検出、又は治療に好適に用いられる。
【0025】
一本鎖抗体としては、以下のアミノ酸配列を含むポリペプチドからなることが好ましい。
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSS (配列番号1)
【0026】
上記抗体あるいは抗体フラグメントの例として、EGFRファミリー、VEGFファミリー、VEGFRファミリー、PSA、CEA、マトリックスメタロプロテアーゼファミリー、EGFファミリー、インテグリンファミリー、セレクチンファミリー、エンドグリン、又はMUCファミリーからなる群より選ばれた病変マーカーに結合する抗体、さらにはHER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2、以下HER2と略すことがある)に結合する抗体、ガン胎児性抗原(Carcinoembryonic antigen、以下CEAと略すことがある)に結合する抗体などを挙げることができる。
【0027】
ここで、病変部位で多く発現する抗原の例として、HER2やCEAを挙げることができる。なお、HER2はErbB2、c−Erb−B2、p185HER2といわれることもある。HER2はEGFRファミリーであり、チロシンキナーゼ型受容体の一つである。HER2は乳癌、前立腺癌、胃癌、卵巣癌、肺癌などの腺癌で遺伝子増幅及び過剰発現するタンパク質である。CEAは、糖タンパク質であり、内胚葉由来の消化系上皮腺がん、および乳がんや非小細胞肺がんなどにおいて多く発現している。
【0028】
なお、抗体又は抗体フラグメントは、ヒト、マウス、ラット、ラクダ、鳥、等、由来は問わず、さらにはキメラ体であってもよい。
【0029】
(アビジン部)
本実施形態において、アビジン部とは、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンのいずれかであり、いずれも4つのサブユニットを有している。各サブユニットはビオチニル基と強固に結合することのできる、結合サイトを有する。そのため、アビジン部とビオチニル基の結合を介して二量体、三量体あるいは四量体を形成することができる。なお、本明細書において、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンとは、その誘導体も含む。
【0030】
(信号発生物質)
本明細書において、信号発生物質とは、外部から電磁波(光)、音響波、超音波などのエネルギーを受けて、あるいは、電場、磁場などの影響を受けて、放射性信号、磁場信号、超音波信号、蛍光信号などの物理的な信号を発生する物質を意味する。あるいは、外部からエネルギーを受けることなく自ら上記の物理的な信号を発生する物質を意味する。信号発生物質は原子、分子でもよいし、複数の原子、複数の分子からなる錯体、複合体、粒子などであってもよい。例えば、放射性ハロゲン、放射性同位元素、常磁性金属イオン、酸化鉄粒子、金ナノ粒子、マイクロバブル、蛍光性化合物、燐光性化合物などが挙げられる。
【0031】
信号発生物質を有していることにより、病変部位とその他の部位とのコントラストを強調するための造影剤としての利用が可能である。
【0032】
自ら放射性信号を発生する分子として例えば、123I、124I、125I、131I、75Br、76Br、77Brおよび82Brなどの放射性ハロゲンが挙げられる。また、99mTc、111In、203Pb、66Ga、67Ga、68Ga、161Tb、72As、113mIn、97Ru、62Cu、64Cu、67Cu、52Fe、52mMn、51Cr、186Re、188Re、77As、90Y、169Er、121Sn、127Te、142Pr、143Pr、198Au、199Au、109Pd、165Dy、149Pm、151Pm、153Sm、157Gd、159Gd、166Ho、172Tm、169Yb、175Yb、177Lu、105Rh、111Ag、47Sc、140La、211At、212Bi、213Bi、212Pb、225Ac、223Ra、224Ra、227Thなどの放射性同位元素を用いることも可能である。
【0033】
磁場の影響を受けて、磁場信号を発生する分子として例えば、Gd3+、Fe3+、Eu3+、Dy3+、La3+、Yb3+、Mn2+などが挙げられる。
【0034】
電磁波のエネルギーを受けて、蛍光信号を発生する分子としては蛍光色素が挙げられるが、その中でも人体の透過性の比較的高い近赤外蛍光色素が好ましい。近赤外蛍光色素の例としては、Alexa Fluor(invitrogen社 登録商標)750、Alexa Fluor790、Vivotag(invitrogen社 登録商標)680(Invitrogen)、Vivotag−S(VisEn Medical社 登録商標)680、Vivotag−S750、AminoSPARK(VisEn Medical社 登録商標)680、AminoSPARK750(VisEn Medical, Inc.)、DyLight(Thermo Fisher Scientific社 登録商標)680、DyLight750、Dylight800(Thermo Fisher Scientific, Inc.)、IRDye(LI−COR Biosciences社 登録商標)700DX、IRDye800CW、IRDye800RS(LI−COR Biosciences, Inc.)、Cy(GE Healthcare UK社 登録商標)5.5(GE Healthcare UK Ltd.)などが挙げられる。
【0035】
特に本実施形態に係る信号発生物質として、下記の式(2)で表される化合物である、サクシニミジルエステル反応性色素が好ましい。なぜなら、この色素は、吸収極大波長及び蛍光極大波長が近赤外波長領域にあるからである。
【0036】
電磁波のエネルギーを受けて、音響信号を発性する物質として、酸化鉄粒子、金ナノ粒子、金ナノロッド、上記近赤外蛍光色素などが挙げられる。酸化鉄粒子を構成する酸化鉄はFe(マグネタイト)、γ−Fe(マグヘマイト)、またはこれらの混合物を用いることができる。
【0037】
(治療用薬剤)
本実施形態に係る複合体は、治療用薬剤をさらに有していてもよい。本実施形態に係る複合体は、治療用薬剤を有していることにより、病変部位周辺に治療用薬剤を到達させることのできる治療薬としての利用が可能である。
【0038】
(抗体部Aとの結合部位)
上記一般式(1)において、抗体部Aはマレイミド基と結合している。マレイミド基は抗体部の任意の箇所に結合することができる。好ましくは、抗体部のシステインに結合する場合である。これは、マレイミド基はシステインの有するチオール基と強固に結合することができるからである。
【0039】
また、マレイミド基は、抗体部のC末端に結合することが好ましい。これは、抗原結合部位に近い、抗体部のN末端に結合した場合、抗体部の抗原結合能力を損なうおそれがあるからである。
【0040】
(信号発生物質あるいは治療用薬剤とアビジン部の結合)
信号発生物質はアビジン部に結合していることが好ましい。信号発生物質がアビジン部に結合している場合、抗体部Aの立体障害により、信号発生物質は外部環境から物理的に遮蔽されるからである。その結果、外部環境に存在する血清タンパク質や酵素などの生体内分子と信号発生物質との相互作用が低減し、信号発生物質の機能が損なわれにくい。なお、信号発生物質とアビジン部との結合の様式は特に限定されず、直接結合していてもよいし、リンカー分子を介して間接的に結合していてもよい。
【0041】
同様に、治療用薬剤はアビジン部に結合していることが好ましい。抗体部Aの立体傷害によって、治療用薬剤は生体内のさまざまなタンパク質などとの相互作用が減り、治療用薬剤の薬剤としての機能が損なわれにくい。
【0042】
なお、信号発生物質は、アビジン部の有する官能基の一部に、従来周知の反応によって結合させることができる。例えば、アビジン部の有する官能基がカルボキシル基の場合は、カルボキシル基と反応性を示すアミノ基、チオール基あるいはヒドロキシル基を有する信号発生分子を結合させることができる。そして、アミノ基の場合には、アミノ基と反応性を示すカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシスクシンイミド基、アルデヒド基、チオール基、イソチオシアネート基、グリシジル基を有する信号発生物質を結合させることができる。ヒドロキシル基やチオール基の場合には、それらの基と反応性を示すカルボキシル基、スルホン酸基、ハロゲン、ジスルヒド、マレイミド基を有する信号発生物質を結合させることができる。
【0043】
信号発生物質が金属または同位元素の場合は、カルボキシル基、ホスホン酸基またはスルホン酸基を有する残基で置換された、ジエチレントリアミンもしくはポリアミン大員環から誘導されるキレート基をアビジン部に修飾し、その後、金属または放射性同位元素をキレート化できる。
【0044】
(造影剤)
本実施形態に係る造影剤は、上記本実施形態に係る多量体化合物と分散媒とを有する。
【0045】
ここで、分散媒とは、本実施形態に係る多量体化合物を分散させるための液状の物質であり、例えば生理食塩水、注射用蒸留水などが挙げられる。本実施形態に係る造影剤は、上記本実施形態に係る多量体化合物をこの分散媒に予め分散させておいてもよいし、本実施形態に係る多量体化合物と分散媒とをキットにしておき、生体内に投与する前に多量体化合物を分散媒に分散させて使用してもよい。
【0046】
(病変部位・病変マーカーの検出方法)
本実施形態に係る複合体を個体に投与、又は個体より得られた試料に添加し、信号を検出することにより、該個体中もしくは個体より得られた試料中の病変マーカーの存否を検出することができる。また、病変マーカーの存否から病変マーカーを産生する病変部位の存否を検出することもできる。
【0047】
(製造方法)
本実施形態に係る複合体の製造方法について説明する。
【0048】
本実施形態に係る複合体は、まず、上記抗体部を用意する。抗体部は市販のものを用いてもよいし、アミノ酸1つ1つを連結して作製してもよいし、大腸菌などで培養することで作製してもよい。
【0049】
次に、上記一般式(1)で表される化合物のうち、抗体部Aを除いた化合物を用意する。
抗体部Aを除いた化合物は、市販のものを用いてもよいし、合成してもよい。そして、この化合物と抗体部とを結合させることで、上記一般式(1)で表される化合物を得る。
【0050】
次に、上記一般式(1)で表される化合物をアビジン部の有する結合サイトに結合させる。
【0051】
このようにして、本実施形態に係る複合体を製造することができる。
【0052】
なお、この複合体に信号発生物質を結合させることが好ましく、この複合体のアビジン部に信号発生物質を結合させることがさらに好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例では具体的な試薬や反応条件を挙げてはいるが、種々の変更が可能であり、それらもまた本発明の範囲に包摂されるものとする。従って以下の実施例は、本発明の理解を助けることが目的であり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0054】
(hu4D5scFvC10の調製)
はじめに、HER2へ結合するIgGの可変領域の遺伝子配列を基に、scFvの遺伝子断片を作製した。
【0055】
作製した遺伝子のカルボキシル末端には、精製のためにヒスチジンが6残基連続したHistagおよび、リンカー結合のためのシステイン残基を配置した。この遺伝子断片を挿入したプラスミドpET−22b(+)(Novagen社)を用いて大腸菌(BL21株)を形質転換し、発現用菌株を得た。得られた菌株をLB−Amp培地4mLで一晩培養した後、全量を、250mLの2×YT−Amp培地に添加し、28℃、120rpmで8時間振とう培養した。その後、終濃度1mMとなるようにイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(Isopropyl β−D−1−thiogalactopyranoside、以下IPTGと略すことがある)を添加し、28℃で12〜20時間培養を続けた。IPTG誘導した大腸菌を8000×g、30分、4℃で遠心分離することで集菌し、上清の培養液を回収した。得られた培養液に80%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、塩析によりタンパク質を沈殿させた。塩析操作した溶液を2時間〜1晩4℃で静置した後、8000×g、30分、4℃で遠心分離することで沈殿物を回収した。得られた沈殿物を20mMTris・HCl/500mMNaCl緩衝液20mLで溶解し、1Lの同緩衝液へ3回透析した。透析後のタンパク質溶液を、His・Bind(R)Resin(Novagen社)を充填したカラムへ添加し、Niイオンを介した金属キレートアフィニティークロマトグラフィーのゲル電気泳動によって精製した。精製して得た物資のアミノ酸配列は以下の通りであった。
MDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSSAAALEHHHHHHGGC (配列番号2)
【0056】
このアミノ酸配列で表されるポリペプチドのことを以下では、hu4D5scFvC10と略すことがある。
【0057】
この発現したタンパク質、hu4D5scFvC10を精製する前後の物質についてSDS−PAGEの結果を図2に示した。レーン1は、分子量マーカー(BenchMark(登録商標) His−Tag スタンダード(Invitrogen社製))、レーン2は精製前のタンパク溶液、レーン3は精製後のhu4D5scFvC10タンパク質溶液である。この結果より、hu4D5scFvC10はシングルバンドを示し分子量は約28kDaであることを確認した。
【0058】
(四量体化scFv(1)の調製)
前節により精製したhu4D5scFvC10を、20倍量のトリ(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)によって、4時間、25℃で還元した。この還元型hu4D5scFvC10を、35倍量のMaleimide−PEG−Biotin(Pierce Biotechnology,Inc.社製)及び、Maleimide−PEG11−Biotinと、2時間、25℃で反応させた。反応後、PD−10カラムを用いて、各溶液から過剰量のMaleimide−PEG−Biotinを除去した。その結果、hu4D5scFvC10のC末端のシステインにMaleimide−PEG−Biotinが結合した物質(以下、hu4D5scFv−PEG−Bと略すことがある)と、hu4D5scFvC10のC末端のシステインにMaleimide−PEG11−Biotinが結合した物質(以下、hu4D5scFv−PEG11−Bと略すことがある)を回収できた。
【0059】
次にストレプトアビジン(Streptavidin、以下SAと略すことがある)を、4〜20倍量の割合で上記の式(2)で表される化合物と混合し、1時間、25℃で反応させた。反応後、PD−10カラムを用いて、溶液から過剰量の上記式(2)で表される化合物を除去した。その結果、上記式(2)で表される化合物が結合したSA(以下、標識化SAと略すことがある)が得られた。
【0060】
作製したhu4D5scFv−PEG−Bと標識化SAを6:1の割合で混合し、4時間、4℃で反応させた。同様に、作製したhu4D5scFv−PEG11−Bと標識化SAを6:1の割合で混合し、4時間、4℃で反応させた。
【0061】
反応させた各複合体溶液を、Superdex200カラムへ添加し、ゲルろ過クロマトグラフィーによって精製した。
【0062】
その結果、1個の標識化SAに対して、4個のhu4D5scFv−PEG−Bが結合した複合体(以下、四量体化scFv(1)と略すことがある)及び、1個の標識化SAに対して、4個のhu4D5scFv−PEG11−Bが結合した複合体(以下、四量体化scFv(2)と略すことがある)が得られた。
【0063】
(クロマトグラフィーによる精製)
精製した四量体化scFv(1)をクロマトグラフィーで精製した結果を図3に示した。図中で、黒線は波長280nmにおける吸光度、灰色線は波長700nmにおける吸光度を示す。精製した四量体化scFv(1)は、溶出体積12.2mLにシングルピークを示し分子量は約170kDaであることを確認した。
【0064】
(四量体化scFv(1)のバイオセンサー分析)
調製した四量体化scFv(1)と抗原であるHER2との相互作用をBiacore Xシステム(GE Healthcare社製)により表面プラズモン共鳴を利用して分析した。Recombinant Human ErbB2/Fc Chimera(R&D Systems,Inc.社製)をメーカーの推奨に従って、CM−5チップ表面のカルボキシメチルデキストラン鎖へのアミンカップリングにより第1フローセルに固定化した。固定化量は、約1000RU(Resonance Unit)であった。一方、第2フローセル表面は活性化後、注入を行う際のリファレンスとして用いる為に非活性化した四量体化scFv(1)をPBS−T(2.68mMKCl/137mMNaCl/1.47mMKHPO/1mMNaHPO/0.005%Tween20 pH7.4)に透析し、10〜100nMの一連の5つの異なる濃度に希釈して流速20μL/分で両フローセルへ注入した。測定時間は、注入時間(結合)120秒、注入停止後経過時間(解離)120秒であり、フローセル表面の洗浄は1サンプル測定毎に50mM水酸化ナトリウム水溶液を用いてセンサーグラムがベースラインに戻るまで適量注入した。結合速度論解析実験においては、BIAevaluation3.0.2ソフトウェア(GE Healthcare社製)の1:1ラングミュアフィッティングモデルを用いてセンサーグラムを分析した。図4に結果のセンサーグラムを示した。ここで、二点鎖線は3nM、一点鎖線は7nM、実線は12.5nM、点線は20nMで得られた結果をそれぞれ表している。示された結合曲線から四量体化scFv(1)はHER2と結合し、その解離平衡定数(K)は0.026nMであると算出することができた。scFvの親抗体であるIgGのKは1nM程度であることから、scFvとSAを有効なリンカーを介して四量体化することで、抗原であるHER2との結合がおよそ40倍上昇した。
【0065】
同様に、四量体化scFv(2)についてもHER2への結合を確認した。そして、その解離平衡定数(K)は1nMであると算出することができた。PEGリンカーがPEG11リンカーより有利であった理由は、リンカーが長くなることによりscFvの配向性が低下してHER2へ結合しにくくなったためであると考えられる。
【0066】
(四量体化scFv(1)を用いたin vivoイメージング)
(担癌部位での蛍光強度の変化)
in vivoイメージング実験においては、雌の非近交系BALB/c Slc−nu/nuマウス(購入時6週齢)(日本エスエルシー株式会社)を用いた。マウスに担癌させる前の1週間、標準的な食餌、寝床を用い、自由に食餌および飲料水を摂取できる環境下でマウスを順応させた。イメージング実験の約2週間前に2×10個のN87ヒト胃癌細胞(ATCC#CRL−5822)を、マウスの左肩に皮下注射した。実験時までに、腫瘍は全て定着しており、マウスの体重は17〜22gであった。担癌させたマウスを、投与する物質別に4つのグループに分けた。そして、下記(i)から(iv)をそれぞれ200μLのPBS溶液としてマウスの尾部に静脈注射した。
(i)(hu4D5scFv−PEO2)−SA 40μg
(ii)親抗体であるIgG 100μg
(iii)hu4D5scFvC10 18μg
(iv)上記式(2)で表される化合物とストレプトアビジンの複合体
ここで用いたIgGは上記式(2)で表される化合物を用いて予め1分子あたり平均4個の近赤外蛍光色素を結合させた。同様にhu4D5scFvC10は、上記式(2)で表される化合物を用いて予め1分子あたり平均0.6個の近赤外蛍光色素を結合させておいた。
【0067】
投与後いかなる視覚的問題も無いことから、全注射が良好に耐容されたと判断した。上記の物質を投与したマウスの全身蛍光像を、IVIS(登録商標)(XENOGEN社製) Imaging System 200 Series(XENOGEN社製)を用いて、投与15分後、1時間後、3時間後、5時間後、7時間後、1日後、2日後に撮影し、マウス全身の蛍光強度を測定した。なお、IgGについては、5時間後、1日後、2日後のマウス全身の蛍光強度を測定した。結果を図5、6、7、8に示した。○で囲んだ位置が癌細胞を移植した部位である。
【0068】
図5から図8によって、次のことがわかった。まず、四量体化scFv(1)を投与したマウスにおいては、投与3時間後から担癌部位特異的に蛍光強度が上昇した。これに対してIgGを投与したマウスにおいては、1日後および2日後から担癌部位の検出が可能となった。scFvおよび上記式(2)で表される化合物を投与したマウスにおいては、N87ヒト胃癌細胞担癌部位に特異的な蛍光強度の上昇が確認されなかった。
【0069】
(四量体化scFv(1)と全抗体(IgG)の性能比較)
マウスに四量体化scFv(1)を投与してから5時間後における、担癌部位(Tumor)とバックグラウンド(マウスの太腿の付け根部位)(Background)の蛍光強度の比(T/B)を計算した。同様にIgGについても5時間後におけるT/Bを計算した。これらの結果を図9に示す。図中の1は四量体化scFv(1)のT/Bを、2はIgGのT/Bをそれぞれ表す。
【0070】
IgGに比較して四量体化scFv(1)は有意にT/Bの値が大きく、プローブ投与後短時間で明瞭に担癌部位を検出できることを確認した。
【符号の説明】
【0071】
101 抗体部
102 化合物(1)
103 ビオチニル基
104 アビジン部
105 信号発生物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個以上4個以下の下記一般式(1)で表される化合物と、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンのいずれかであるアビジン部とからなる複合体。
【化1】


(ただし、一般式(1)のAは抗体部であり、一般式(1)のビオチニル基は前記アビジン部の結合サイトと結合している。nは1から10のいずれかの整数である)
【請求項2】
前記複合体がさらに、信号発生物質を有することを特徴とする請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記信号発生物質が前記アビジン部に結合していることを特徴とする請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
前記抗体部Aが、一本鎖抗体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の複合体。
【請求項5】
前記抗体部Aが、配列番号1のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の複合体。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれかの複合体と分散媒とを有することを特徴とする造影剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−6846(P2012−6846A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141936(P2010−141936)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】