説明

複合光学素子の製造方法と複合光学素子

【課題】フッ素系ガラス基材と樹脂との密着力を確保して耐熱性に富む複合光学素子を得る。
【解決手段】フッ素化合物を含有するガラスレンズ12と紫外線硬化型樹脂14とを接合してなる複合光学素子10の製造方法において、ガラスレンズ12をガラス転移点を越えない温度に加熱又は紫外線オゾン処理することによりガラスレンズ12の表面を酸化させて酸化層16を形成する工程と、形成された酸化層16の表面にSiO又はAl等の酸化膜18を形成する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系ガラス基材に樹脂を接合して構成される複合光学素子の製造方法と複合光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ベースとなるガラスレンズの光学機能面に非球面等の樹脂層を形成し、全体として収差補正の性能を向上させた複合レンズが提案されている。このような複合レンズは、単一の光学レンズでは得られない優れた光学性能を有する。
【0003】
しかし、ガラスと樹脂との線膨張係数の違いに起因する熱応力により、剥離しやすいことが欠点である。特に、フッ素系ガラスは、樹脂との密着性が悪いため、フッ素系ガラス基材と樹脂との密着力の向上が要求されている。
【0004】
このようなフッ素系ガラスと樹脂との接合に関し、例えば特許文献1では、フッ素系ガラスの表面にオゾン処理を行って表面のフッ素を遊離させる方法が提案されている。これにより、フッ素系ガラスとの密着力を上げて樹脂層を形成するというものである。
【特許文献1】特開平7−267691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、オゾン処理によりフッ素系ガラスの表面の酸化の程度は2%以下の変化でしかない。このため、レンズの表面酸素濃度を向上させるには至らない。よって、十分な密着力を得ることはできない。
【0006】
そして、レンズ表面の酸素濃度が十分でない場合、カップリング剤を塗布しても(或いはSiO等の酸化膜を施してからカップリング剤を塗布しても)、成形された複合レンズは十分な密着力が得られない。
【0007】
このため、熱衝撃試験において、低温時(例えば−30℃)にフッ素系ガラスと樹脂との間で剥離或いはそれに伴う樹脂割れ、又はガラス割れが生じる。
本発明は斯かる課題を解決するためになされたもので、フッ素系ガラス基材と樹脂との密着力を確保して耐熱性に富む複合光学素子の製造方法と複合光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、
フッ素化合物を含有するフッ素系ガラス基材と樹脂とを接合してなる複合光学素子の製造方法において、
前記フッ素系ガラス基材の表面に酸化層を形成する工程と、
形成された前記酸化層の表面に酸化膜を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記の複合光学素子の製造方法において、
前記酸化層の酸素濃度は、前記フッ素系ガラス基材の酸素濃度よりも5atm%以上多いことが好ましい。
【0010】
また、本発明は、上記の複合光学素子の製造方法において、
前記酸化層を形成する工程が、前記フッ素系ガラス基材のガラス転移点を越えない温度に加熱又は紫外線オゾン処理することで前記フッ素系ガラス基材の表面を酸化させて酸化層を形成する工程であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記の複合光学素子の製造方法において、
前記酸化層を形成する工程が、前記フッ素系ガラス基材の表面に酸素イオンを注入して酸化層を形成する工程であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、上記の複合光学素子の製造方法において、
前記酸化層を形成する工程が、ガラス型、または、成形面に酸化膜をコーティングした複数の型を用いて酸化層を形成する工程であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、上記の複合光学素子の製造方法において、
前記酸化膜を形成する工程が、前記酸化層の表面に、膜厚20nm以上のSiO又はAlの単層膜あるいはこれらを含む多層膜を形成することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る複合光学素子の発明は、
フッ素化合物を含有するフッ素系ガラス基材と、
該フッ素系ガラス基材の表面に形成された酸化層と、
該酸化層の表面に形成されたSiO又はAlの酸化膜と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フッ素系ガラス基材の表面に酸化層を形成し、該酸化層の表面に酸化膜を形成しているので、フッ素系ガラス基材と樹脂との密着性を確保して耐熱性に富む複合光学素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、本実施の形態における複合光学素子の断面正面図である。
【0017】
この複合光学素子10は、両凹レンズのガラスレンズ12と、非球面を有する紫外線硬化型樹脂14と、によって構成されている。ガラスレンズ12の表面には、酸化層16、酸化膜18、シランカップリング剤20、が順に形成されている。そして、ガラスレンズ12は、酸化層16と、酸化膜18と、シランカップリング剤20と、を挟んで、紫外線硬化型樹脂14に接合されている。
【0018】
ガラスレンズ12は、フッ素化合物を含有するフッ素系ガラス基材である。
なお、フッ素系ガラスとは、リン酸やケイ酸を主成分とし、さらにフッ素若しくはフッ化物が含まれているようなガラスをいう。このようなガラスは、フッ素元素の特性により高アッベ数、低屈折率、正の異常分散性を示すといった特徴がある。フッ素系ガラスは、この性質を利用して特殊なレンズ等に用いられる。
【0019】
このようなフッ素系ガラスとして、例えば以下のものが知られている。
FPL51(OHARA製): 屈折率1.49700 アッベ数81.6
FPL53(OHARA製): 屈折率1.43875 アッベ数95.0
FSL5 (OHARA製): 屈折率1.48749 アッベ数70.2
FCD1 (HOYA製): 屈折率1.497 アッベ数81.61
本実施形態では、フッ素系のガラスレンズ12としてFCD1(HOYA製)を用いた。
【0020】
シランカップリング剤20は、1分子中に有機官能基と加水分解基を持っている。このため、シランカップリング剤20は、無機物と有機樹脂とを結びつけて強固に接着することができる。なお、無機物と有機樹脂を結びつけることができるのであれば、シランカップリング剤20に代えて、通常の接着剤等を用いても構わない。
【0021】
ここで、ガラスレンズ12は、フッ素化合物を含有するフッ素系ガラス基材であるため、シランカップリング剤20と反応するSiOやAlの成分(無機物)が少ない。このため、ガラスレンズ12にシランカップリング剤20を塗布したとしても、ガラスレンズ12と紫外線硬化型樹脂14(有機樹脂)の密着性を確保できない。
【0022】
また、単にSiOやAlをガラスレンズ12にコーティングするだけでは、ガラスレンズ12とコーティング膜(酸化膜18)との密着性を確保できない。前述したように、ガラスレンズ12の表面には、フッ素が多く残存しているためである。
【0023】
そこで、本実施形態では、ガラスレンズ12の表面に酸化層16、酸化膜18(無機物)形成すると共に、シランカップリング剤20を用いることで、ガラスレンズ12と、紫外線硬化型樹脂14(有機樹脂)との密着性を強化した。
【0024】
次に、複合光学素子10の製造方法について、具体的に記載する。
まず、このガラスレンズ12の表面を加熱又はOプラズマ処理等により酸化させて、ガラスレンズ12の表面に酸化層16を形成する。フッ素化合物を含有するガラス表面は、多くのフッ素で覆われている。そこで、酸化させることでフッ素原子を遊離させてガラス表面におけるフッ素の含有率を低くしている。
【0025】
次いで、この形成した酸化層16の表面に、さらに酸化膜18を所定厚さにコーティングする。ここで、酸化膜18としては、SiO(二酸化ケイ素)、TiO(酸化チタン)又はAl(酸化アルミニウム)等が挙げられる。
【0026】
この場合、ガラス表面を酸化させて酸化層16を形成したことで、コーティングされるSiO又はAl等と、ガラスレンズ12と、の密着性は高められる。
そして、このコーティングした酸化膜18の表面に、シランカップリング剤20を塗布してシランカップリング処理を行なう。これは、酸化膜18と樹脂層(紫外線硬化型樹脂14)との接着強度を増大させるためである。
【0027】
そして、シランカップリング剤20の表面にエネルギー硬化型樹脂(液状)を滴下する。次いで、金型の成形面を、ガラスレンズ12対して、所定の距離まで近接させてエネルギー硬化型樹脂(液状)を所望の形状に成形する。さらに、ガラスレンズ12の下方からエネルギー硬化型樹脂に紫外線を照射し、固化させてガラスレンズ12に接合する。
【0028】
こうして、ガラスレンズ12に紫外線硬化型樹脂14が接合された複合光学素子10が得られる。
本実施形態によれば、ガラスレンズ12の表面に酸化層16を形成し、さらにその表面に酸化膜18を形成したことにより、ガラスレンズ12と紫外線硬化型樹脂14との十分な密着力を備えた複合光学素子10を得ることができる。
[第2の実施の形態]
図2A〜図2Eは、複合光学素子の製造方法の工程説明図である。なお、第1の実施の形態と同一又は相当する部材には同一の符号を付して説明する。
【0029】
図2Aに示すように、フッ素化合物を含有するフッ素系ガラス基材として、フッ素系ガラス(FCD1(HOYA製))を成形したガラスレンズ12を用いる。このガラスレンズ12は、光学機能面12a,12bの曲率半径が夫々異なる両凹レンズである。そして、このガラスレンズ12の一方の光学機能面12aに、紫外線硬化型樹脂14を形成する場合について説明する。
【0030】
一般に、フッ素系ガラスの表面にカップリング剤を用いて表面処理を行って樹脂を貼り付けても、前述したように、ガラスと樹脂との密着力は弱い。しかし、界面(接合面)に酸化膜を作成すると密着力を高めることができる。
【0031】
そこで、図2Bに示すように、このガラスレンズ12を加熱炉内に入れて最高温度450℃に加熱する。この温度(450℃)は、ガラスレンズ12の基材であるフッ素系ガラスのガラス転移点(Tg=460℃)を超えない温度である。この加熱により、ガラスレンズ12の表面に酸化層16が形成される。
【0032】
このときの酸化層16の厚さは、例えば100nm程度である。そして、この酸化層16の酸素濃度は、ガラスレンズ12の酸素濃度よりも5atm%以上多いことが好ましい。酸化層16の酸素濃度が低いと、フッ素の含有率が多く、ガラスレンズ12とコーティング膜(後述する酸化膜18)との密着性を確保できないためである。この加熱後、ガラスレンズ12を徐冷する。
【0033】
なお、このように両凹レンズを高温加熱して酸化層16を形成する場合に限らず、例えば、短波長紫外線照射(オゾン処理)等の手段によりガラスレンズ12の表面に酸化層16を形成してもよい。
【0034】
表−1に、450℃で加熱した後のガラスレンズ12の表面の元素分析結果を示す。
なお、この元素分析では、X線光電子分光分析法(XPS)を用いた(日本電子製光電子分光分析装置(JPS−90MX))。
【表−1】

【0035】
この装置は、試料の固体表面から数nmの深さ領域に関する元素及び化学結合状態の分析に用いられる。例えば、光電子の運動エネルギーを測定することにより、エネルギーのピークから元素の同定を行うことができる。また、光電子の量(強度)を測定することにより、元素の比率等の定量分析が行える。
【0036】
同表−1によれば、加熱前のガラスレンズ12の表面の酸素濃度は34atm%であったのが、加熱後のガラスレンズ12の表面の酸素濃度は51.7atm%に上昇している。
【0037】
また、フッ素が遊離された結果、加熱前のガラスレンズ12の表面のフッ素含有率は24.6atm%であったのが、加熱後のガラスレンズ12の表面のフッ素含有率は3.2atm%に低下している。すなわち、ガラスレンズ12の加熱によって、表面の酸素濃度が増え、フッ素含有率が低下している。
【0038】
次に、図2Cに示すように、酸化層16を設けたガラスレンズ12の表面に、SiOの酸化膜18(250nm)をコーティングする。なお、SiOの酸化膜18の替わりにAlの酸化膜をコーティングしてもよい。
【0039】
次に、図2Dに示すように、酸化膜18の表面にシランカップリング剤20(KBM503(信越化学製))を塗布する。この塗布したシランカップリング剤20を100℃で加熱して、後述する紫外線硬化型樹脂14と酸化膜18との密着性を向上させる。
【0040】
次に、図2Eに示すように、シランカップリング剤20の表面に、液状の紫外線硬化型樹脂14(エネルギー硬化型樹脂)を滴下する。次いで、ガラスレンズ12の上方から、不図示の金型の成形面を、ガラスレンズ12に対して、所望の距離まで接近移動させる。
【0041】
次いで、この液状の紫外線硬化型樹脂14に紫外線を照射し、固化させて複合光学素子10を得る。この複合光学素子10は、紫外線硬化型樹脂14の中心樹脂厚は0.7mmである。
【0042】
なお、この複合光学素子10に対しては、カメラ規格である−30℃〜80℃の熱衝撃試験を行った。この熱衝撃試験では、25℃で30分→−20℃で30分→25℃で30分→80℃で30分を1サイクルとして、複合光学素子10が載置された場所の、環境温度を変化させる試験を、10サイクル繰り返した。
【0043】
次に、比較例1〜比較例3を示す。
(比較例1)
比較例1として、フッ素系ガラスFPL52(OHARA製)のガラス基材に対し、紫外線オゾン処理を5分間行い、紫外線硬化型シリコン系樹脂を滴下してガラスレンズを接合した。
(比較例2)
比較例2として、フッ素系ガラスFPL52(OHARA製)のガラス基材に対し、紫外線オゾン処理を5分間行い、紫外線硬化型シリコン系樹脂を滴下しPMMA(アクリル樹脂)のレンズを接合した。
(比較例3)
フッ素系ガラスFPL52(OHARA製)のガラス基材に対し、紫外線オゾン処理を5分間行い、シランカップリング剤を塗布し、ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂を滴下し、中心樹脂厚100μmで複合レンズを成形した。
【0044】
これら比較例1〜比較例3では、前述した熱衝撃試験において、いずれもレンズ投入数20枚に対し、20枚に樹脂又はガラスの破損(剥離)が確認された。
これに対し、本実施形態では、前述した熱衝撃試験において、レンズ投入数20枚に対し、いずれのものにも樹脂又はガラスの破損(剥離)が確認されなかった。
【0045】
本実施形態によれば、ガラスレンズ12と紫外線硬化型樹脂14との十分な密着力を確保して耐熱性に富む複合光学素子を得ることができる。すなわち、紫外線硬化型樹脂14の中心樹脂厚を0.7mmとしても、カメラ規格である−30℃〜80℃の熱衝撃試験において、紫外線硬化型樹脂14とガラスレンズ12との剥離、樹脂割れ、ガラス割れの不具合が生じなかった。
[第3の実施の形態]
図3A〜図3Eは、複合光学素子の製造方法の工程説明図である。なお、第1の実施の形態と同一又は相当する部材には同一の符号を付して説明する。
【0046】
図3Aに示すように、フッ素化合物を含有するフッ素系ガラス基材として、フッ素系ガラス(FPL52(OHARA製))を成形したガラスレンズ12を用いる。このガラスレンズ12は、光学機能面12a,12bの曲率半径が夫々異なる両凹レンズである。そして、このガラスレンズ12の一方の光学機能面12aに、紫外線硬化型樹脂14を形成する場合について説明する。
【0047】
前述したように、フッ素系ガラスの表面にカップリング剤を用いて表面処理を行って樹脂を貼り付けても、ガラスと樹脂との密着力は弱い。しかし、界面(接合面)に酸化膜を作成すると密着力を高めることができる。
【0048】
そこで、図3Bに示すように、このガラスレンズ12の表面に酸素イオン(Oイオン)30を注入して該表面に酸化層16を形成する。
この場合、Oプラズマをベースにした三次元のイオン注入法(PBII)(Plasma Based Ion Implantation)を用いる。これは、Oプラズマ中にガラスレンズ12を入れ、このガラスレンズ12に電圧を印加する。すると、酸素イオン(Oイオン)は、その電圧により加速され、ガラスレンズ12に注入される。このため、ガラスレンズ12の表面だけに酸化層16が形成されて表面を改質することができる。
【0049】
次に、図3Cに示すように、酸化層16を設けたガラスレンズ12の表面に、多層膜18をコーティングする。多層膜18は、SiO又はAlを含む多層膜である。また、このとき、最下層にMgFをコーティングしてもよい。
【0050】
次に、図3Dに示すように、シランカップリング剤(KBM503(信越化学製))20を塗布する。このシランカップリング剤20を100℃で加熱して、後述する紫外線硬化型樹脂14との密着性を向上させる。
【0051】
次に、図3Eに示すように、シランカップリング剤20を塗布したガラスレンズ12の表面に、液状の紫外線硬化型樹脂14(エネルギー硬化型樹脂)を滴下する。次いで、ガラスレンズ12の上方から、不図示の金型の成形面を、ガラスレンズ12に対して、所望の距離まで接近移動させる。次いで、この液状の紫外線硬化型樹脂14に紫外線を照射し、固化させて複合光学素子10を得る。この複合光学素子10は、紫外線硬化型樹脂14の中心樹脂厚は0.7mmである。
【0052】
本実施形態によれば、フッ素系のガラスレンズ12と樹脂との密着力を確保して耐熱性に富む複合光学素子を得ることができる。すなわち、紫外線硬化型樹脂14の中心樹脂厚を0.7mmとしても、カメラ規格である−30℃〜80℃の熱衝撃試験において、紫外線硬化型樹脂14とガラスレンズ12との剥離、樹脂割れ、ガラス割れの不具合が生じなかった。
[第4の実施の形態]
図4A〜図4Dは、複合光学素子の製造方法の工程説明図である。なお、第1の実施の形態と同一又は相当する部材には同一の符号を付して説明する。
【0053】
図4Aに示すように、フッ素化合物を含有するフッ素系ガラス基材として、ガラスプリフォーム(FCD1(HOYA製))を用いて成形したガラスレンズ12を用いる。すなわち、ガラスプリフォーム22を、対向配置された上型24及び下型26間に配置する。
【0054】
この上型24及び下型26は、スリーブ28の内部で、それぞれの成形面24a,26aが対向するようにスリーブ28の両端側から嵌挿されている。上型24の成形面24aは凸非球面形状をなし、下型26の成形面26aは凹非球面形状をなしている。こうして、メニスカス状のガラスレンズ12が成形される。そして、このガラスレンズ12の一方の光学機能面12aに、紫外線硬化型樹脂14を形成する場合について説明する。
【0055】
なお、成形面24a、26aは、成形するガラスレンズ12の形状に応じて、球面形状であってもよい。
この場合、成形型としてガラス型、又は成形面24a,26aに酸化膜をコーティングした上型24及び下型26を用いる。
【0056】
ガラスは、酸化物である。従って、ガラス型を用いる場合は、成形時にガラス型を加熱することにより、成形されるガラスレンズ12の表面に酸化層16が形成される。
一方、ガラス型でない成形型を用いる場合は、型が酸化されるのを防止するため、不活性ガス中で成形される。
【0057】
従って、このような成形型を用いて、成形時に成形型を加熱してもガラスレンズ12の表面には酸化層16は形成されない。このような場合、酸化膜をコーティングした上型24及び下型26を用いることで、成形面24a,26aの酸化膜により、ガラスレンズ12の表面に酸化層16が形成される。
【0058】
次に、図4Bに示すように、成形されたガラスレンズ12の表面に、SiOの酸化膜18(膜厚250nm)をコーティングする。なお、SiOの酸化膜18の替わりにAlの酸化膜をコーティングしてもよい。
【0059】
次に、図4Cに示すように、シランカップリング剤(KBM503(信越化学製))20を塗布する。このシランカップリング剤20を100℃で加熱して、後述する紫外線硬化型樹脂14との密着性を向上させる。
【0060】
次に、図4Dに示すように、シランカップリング剤20の表面に、液状の紫外線硬化型樹脂14(エネルギー硬化型樹脂)を滴下する。次いで、ガラスレンズ12の上方から、不図示の金型の成形面を、ガラスレンズ12に対して、所望の距離まで接近移動させる。
【0061】
次いで、この液状の紫外線硬化型樹脂14に紫外線を照射し、固化させて複合光学素子10を得る。この複合光学素子10は、紫外線硬化型樹脂14の中心樹脂厚は0.5mmである。
【0062】
本実施の形態によれば、フッ素系のガラスレンズ12と樹脂との密着力を確保して耐熱性に富む複合光学素子を得ることができる。すなわち、紫外線硬化型樹脂14の中心樹脂厚を0.5mmとしても、カメラ規格である−30℃〜80℃の熱衝撃試験において、紫外線硬化型樹脂14とガラスレンズ12との剥離、樹脂割れ、ガラス割れの不具合が生じなかった。
[第5の実施の形態]
図5A〜図5Eは、複合光学素子の製造方法の工程説明図である。なお、第1の実施の形態と同一又は相当する部材には同一の符号を付して説明する。
【0063】
以上の各実施形態では、ガラスレンズ12を加熱するか又はガラスレンズ12に酸素イオンを注入することでその表面を酸化させる場合について説明した。しかし、例えばエキシマ光を用いてガラスレンズ12の表面を酸化させることもできる。
【0064】
図5Aに示すように、フッ素化合物を含有するフッ素系ガラス基材として、フッ素系ガラス(FCD1(HOYA製))を成形したガラスレンズ12を用いる。このガラスレンズ12は、光学機能面12a,12bの曲率半径が夫々異なる両凹レンズである。そして、このガラスレンズ12の一方の光学機能面12aに、紫外線硬化型樹脂14を形成する場合について説明する。
【0065】
一般に、フッ素系ガラスの表面にカップリング剤を用いて表面処理を行って樹脂を貼り付けても、ガラスと樹脂との密着力は弱い。しかし、界面(接合面)に酸化膜を作成すると密着力を高めることができる。
【0066】
そこで、図5Bに示すように、このガラスレンズ12の表面にエキシマ光(ウシオ電機;波長172nmの真空紫外線)を2分間照射する。このエキシマ光32は波長が短い(エネルギーが大きい)ので、ガラスレンズ12の表面に酸化層16を形成することができる。例えば、キセノンガスを用いたエキシマ光は、波長172nmの真空紫外光で材料表面の光分解洗浄や光表面改質などに応用されている。なお、コロナ放電処理でも同じ酸化効果がある。
【0067】
次に、図5Cに示すように、酸化層16を形成したガラスレンズ12の表面に、Al(膜厚250nm)の酸化膜18をコーティングする。なお、Alの酸化膜18の替わりにSiOの酸化膜をコーティングしてもよい。
【0068】
次に、図5Dに示すように、シランカップリング剤(KBM503(信越化学製))20を塗布する。このシランカップリング剤20を100℃で加熱して、後述する紫外線硬化型樹脂14との密着性を向上させる。
【0069】
次に、図5Eに示すように、シランカップリング剤20を塗布したガラスレンズ12の表面に、液状の紫外線硬化型樹脂14(エネルギー硬化型樹脂)を滴下する。次いで、ガラスレンズ12の上方から、不図示の金型の成形面を、ガラスレンズ12に対して、所望の距離まで接近移動させる。次いで、この液状の紫外線硬化型樹脂14に紫外線を照射し、固化させて複合光学素子10を得る。この複合光学素子10は、紫外線硬化型樹脂14の中心樹脂厚は0.5mmである。
【0070】
本実施形態によれば、フッ素系のガラスレンズ12と樹脂との密着力を確保して耐熱性に富む複合光学素子を得ることができる。すなわち、紫外線硬化型樹脂14の中心樹脂厚を0.5mmとしても、カメラ規格である−30℃〜80℃の熱衝撃試験において、紫外線硬化型樹脂14とガラスレンズ12との剥離、樹脂割れ、ガラス割れの不具合が生じなかった。
【0071】
なお、第1から第5の何れの実施の形態においても、ガラス基材に接合される樹脂層として、紫外線硬化型樹脂14を用いたが、熱可塑性樹脂でもよい。
なお、第1から第5の実施の形態において、ガラスレンズ12は、両凹レンズとしたが、その形状は特に限定されない。
【0072】
なお、第1から第5の実施の形態において、酸化膜18は、単層であっても多層であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】第1実施形態における複合光学素子の断面正面図である。
【図2A】第2実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(ガラス基材の搬入)の説明図である。
【図2B】第2実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(450℃に加熱)の説明図である。
【図2C】第2実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(SiOのコーティング)の説明図である。
【図2D】第2実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(シランカップリング処理)の説明図である。
【図2E】第2実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(複合レンズの成形)の説明図である。
【図3A】第3実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(ガラス基材の搬入)の説明図である。
【図3B】第3実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(酸素イオンの注入)の説明図である。
【図3C】第3実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(SiOのコーティング)の説明図である。
【図3D】第3実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(シランカップリング処理)の説明図である。
【図3E】第3実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(複合レンズの成形)の説明図である。
【図4A】第4実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(ガラス基材の成形)の説明図である。
【図4B】第4実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(SiOのコーティング)の説明図である。
【図4C】第4実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(シランカップリング処理)の説明図である。
【図4D】第4実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(複合レンズの成形)の説明図である。
【図5A】第5実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(ガラス基材の搬入)の説明図である。
【図5B】第5実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(エキシマ光の照射)の説明図である。
【図5C】第5実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(Alのコーティング)の説明図である。
【図5D】第5実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(シランカップリング処理)の説明図である。
【図5E】第5実施形態における複合光学素子の製造方法の工程(複合レンズの成形)の説明図である。
【符号の説明】
【0074】
10 複合光学素子
12 ガラスレンズ
12a 光学機能面
12b 光学機能面
14 紫外線硬化型樹脂
16 酸化層
18 酸化膜
20 シランカップリング剤
22 ガラスプリフォーム
24 上型
26 下型
28 スリーブ
30 酸素イオン
32 エキシマ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化合物を含有するフッ素系ガラス基材と樹脂とを接合してなる複合光学素子の製造方法において、
前記フッ素系ガラス基材の表面に酸化層を形成する工程と、
形成された前記酸化層の表面に酸化膜を形成する工程と、を備える
ことを特徴とする複合光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記酸化層の酸素濃度は、前記フッ素系ガラス基材の酸素濃度よりも5atm%以上多い
ことを特徴とする請求項1に記載の複合光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記酸化層を形成する工程が、前記フッ素系ガラス基材のガラス転移点を越えない温度に加熱又は紫外線オゾン処理することで前記フッ素系ガラス基材の表面を酸化させて酸化層を形成する工程である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記酸化層を形成する工程が、前記フッ素系ガラス基材の表面に酸素イオンを注入して酸化層を形成する工程である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記酸化層を形成する工程が、ガラス型、または、成形面に酸化膜をコーティングした複数の型を用いて酸化層を形成する工程である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記酸化膜を形成する工程が、前記酸化層の表面に、膜厚20nm以上のSiO又はAlの単層膜あるいはこれらを含む多層膜を形成する工程である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合光学素子の製造方法。
【請求項7】
フッ素化合物を含有するフッ素系ガラス基材と、
該フッ素系ガラス基材の表面に形成された酸化層と、
該酸化層の表面に形成された酸化膜と、を有する
ことを特徴とする複合光学素子。

【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図1】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5D】
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【図5E】
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【公開番号】特開2009−249229(P2009−249229A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99119(P2008−99119)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】