説明

複合光電極および光電気化学反応システム

【課題】二酸化炭素を効果的に還元し、有機物を得る。
【解決手段】半導体電極12と、二酸化炭素の還元作用を呈する触媒18とが共存する。半導体電極12に光照射することにより生じた励起電子eが触媒18に移動することにより、触媒18を利用して二酸化炭素の還元作用を呈する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光励起電子を生じる半導体電極と、二酸化炭素の還元作用を呈する触媒とが共存する複合光電極および光電気化学反応システムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、TiOなどの半導体触媒の粉末を水に懸濁させ、二酸化炭素を通しながらキセノンランプや高圧水銀灯のような人工光源からの光照射を行うと、ホルムアルデヒド、ギ酸、メタン、メタノールなどが生成する技術が開示されている。
【0003】
特許文献1には、酸化ジルコニウム半導体の存在下に水に光照射し、光エネルギーを利用して水から効率的に水素と酸素を製造する方法、並びに水及び二酸化炭素から水の光分解触媒用触媒の存在下に光エネルギーを利用して水素、酸素と同時に一酸化炭素を製造しうる方法に関する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、水酸化塩溶液中のTiOなどの半導体電極と、炭酸水素溶液中のPd−Ru合金触媒を担持したガス拡散電極を短絡し、半導体電極側に光を照射してガス拡散電極側で二酸化炭素をギ酸に還元生成する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3には、可視光応答型光触媒である酸化第一銅と電子供与剤であるトリエタノールアミンの存在下で光を照射することで、水中の反応でメタノールを、アセトニトリル中の反応でギ酸を選択的に生成する技術が開示されている。
【0006】
また、非特許文献2には、高圧(40atm)で二酸化炭素を溶解させたメタノール溶媒中でp−InP光電極に光を照射して50mAの定電流を流すことで、一酸化炭素が89%の電流効率で生成する技術が開示されている。
【0007】
また非特許文献3には、二酸化炭素を溶解させたメタノール溶媒中で、鉛修飾したp−InP光電極に光照射することによりファラデー効率29.9%でギ酸が、銀修飾したp−InP光電極に光照射することによりファラデー効率80.4%で一酸化炭素が生成する技術が開示されている。
【0008】
また特許文献4には、金属−配位子間の電荷吸収バンドを紫外部から可視部に有する金属錯体から選ばれる光触媒と有機アミンから選ばれる電子供与剤とを溶解させた有機溶媒中に0.2−7.5MPaの高圧で二酸化炭素を導入し、その圧力下において光照射して二酸化炭素を選択的に一酸化炭素に還元することを特徴とする二酸化炭素の光還元方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許2526396号公報
【特許文献2】特開平6−158374号公報
【特許文献3】特開平7−112945号公報
【特許文献4】特許第3590837号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「Nature」 277 (1979) 637
【非特許文献2】「The Journal of Physical Chemistry」 102 (1998) 9834
【非特許文献3】「Applied Catalysis B : Environmental」 64 (2006) 139
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記非特許文献1ではホルムアルデヒド、ギ酸、メタン、メタノールなどの同時生成が、特許文献1では、水素のみ、あるいは水素と同時に一酸化炭素を生成する例が開示されている。光照射により水素を生成する、あるいは2種類以上の二酸化炭素還元物を同時に生成するのは無機半導体光触媒の特徴であるが、工業的な利用を考えた場合、生成物が高い選択性で得られることは重要である。特許文献2では酸化チタンへの光照射により生じた光電流の32%がギ酸に変換されており高い変換効率を示しているが、酸化チタンは紫外光応答型半導体であり、太陽光の利用効率が低いことが問題である。特許文献3は可視光応答型光触媒を利用しているが、二酸化炭素の還元反応と対になる酸化反応を促進させるために電子供与剤を必要とする。非特許文献2では、可視光応答型の光電極を用いて二酸化炭素を還元しているが、反応性を高めるために高圧で二酸化炭素を溶解させる必要がある。
【0012】
非特許文献3においても、可視光応答型の光電極を用いて二酸化炭素を還元し、高いファラデー効率でギ酸や一酸化炭素を生成しているが、−2.5V(vs Ag/AgCl)と高いバイアス電圧を印加しており、光電極材料を用いるメリットが生かされていない。
【0013】
特許文献4では、レニウム錯体を用いた例のみが示されている。レニウム錯体を用いた場合には、選択的に一酸化炭素が生成され易いという特徴はこの特許文献4が出願される以前から学術論文で報告されよく知られる。またレニウム錯体の場合、光触媒的な二酸化炭素還元反応を実現する場合には可視光の吸収域が可視光のうちでも450nm以下の比較的短波長側に限定されることも知られる。特許文献4では、その他の金属を用いた錯体についても記載されているが可能性のある金属元素の羅列にとどまり、これらについて実現されたという報告はない。また、ルテニウム錯体はその構成によっては、より長波長の光吸収が可能なことは色素増感型太陽電池において周知であるが、ルテニウム錯体のみでは光触媒的な化学反応は生じておらず、現状では通電した際の電気化学的な触媒反応のみが実現されている。このようにルテニウム錯体では光化学反応は生じず、電気化学的な反応しか実現されていない。しかし、この系では、高い生成物選択性で二酸化炭素からギ酸が生成されるという特徴がある。
【0014】
半導体光触媒上での反応生成物選択性が低い理由については以下のように推察される。半導体膜や粉体の表面は均一ではなく、多くの欠陥や原子レベルの構造的な段差などが存在する。従って表面上のサイトによって局所的な表面エネルギーが異なる結果、被反応物である二酸化炭素、プロトンや溶媒、ガス、ならびに反応中間体などの吸着性能が異なる。したがって、これらの物質に電子が渡される確率、速度などのプロセスは一定でないために、種々の反応生成物が生成するものと考えられる。
【0015】
また、錯体光触媒でより長波長の可視光の利用、ならびに光触媒的な制限が多い理由についても確定的ではないが、光励起された電子の寿命が短いため、錯体上の反応場に移動する確率が低く、光吸収しても反応までに至らないなどの理由が考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る複合光電極は、半導体電極と、二酸化炭素の還元作用を呈する触媒とが電子をやり取りできるように共存し、半導体電極に光照射することにより生じた励起電子が触媒に移動することにより、触媒を利用して二酸化炭素の還元作用を呈する。
【0017】
また、前記の二酸化炭素の還元作用を呈する触媒が、金属錯体であることが好適である。
【0018】
また、前記半導体電極に、バイアス電圧を印加することにより、電子供与剤を用いなくても前記触媒に励起電子を供給できることが好適である。
【0019】
また、前記の半導体電極が、二酸化炭素の還元作用を呈する触媒と比較して、より長い波長の光を吸収できることが好適である。
【0020】
また、本発明に係る光電気化学反応システムは、半導体電極と、二酸化炭素の還元作用を呈する触媒とが接合した構造を有し、半導体電極に光照射することにより生じた励起電子が触媒に移動することにより、触媒を利用して二酸化炭素の還元作用を呈する複合光電極と、前記半導体電極にバイアス電圧を印加するバイアス電圧源とを有する。
【発明の効果】
【0021】
このように、本発明によれば、半導体電極を用いて光エネルギーを利用して、触媒を利用した二酸化炭素の還元が行える。従って、比較的低電圧での還元反応が行える。また、触媒は、半導体電極から励起電子を受け取ることができるため、錯体自体が光触媒である必要はなく、電気的な錯体触媒を含む広い範囲から触媒を選択することが可能であり、高い反応生成物選択性で二酸化炭素から還元物を生成することが可能となる。また、半導体電極に電源から電子を供給することで、還元剤が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態のシステム構成を示す図である。
【図2】ルテニウム錯体の構成を示す図である。
【図3】GaPへ配位子を吸着させたサンプルのTOF−SIMS正イオンスペクトルを示す図である。
【図4】InPへ配位子を吸着させたサンプルのTOF−SIMS正イオンスペクトルを示す図である。
【図5】参照電極を省略した場合のシステム構成を示す図である。
【図6】ルテニウム錯体の構成を示す図である。
【図7】ピロール添加率とギ酸生成量の関係を示す図である。
【図8】塩化鉄(III)添加率とギ酸生成量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0024】
図1には、実施形態に係る光電気化学反応システムの構成を示している。バイアス電源10には、半導体電極12と、その対極である対極14が接続され、バイアス電源10が両者間の所定のバイアス電圧を印加する。また、図1の例では、バイアス電源10として、ポテンショスタットを利用しており、バイアス電源10には参照電極16も接続されており、参照電極16を基準として半導体電極12に電圧を印加できる。このように、このシステムでは、半導体電極12を作用極として、光電気化学測定を行うことができる。なお、参照電極16を設けなくても、所期の反応を生起することができるため、実際の装置においては、参照電極16を設ける必要はなく、対極14と半導体電極12の間の印加電圧を制御すればよい。
【0025】
そして、半導体電極12には、基材18が電子のやり取りができる状態で接触する。図示の例では、金属錯体(ルテニウム錯体)が基材18として利用されている。
【0026】
このようなシステムにおいて、半導体電極12に光が照射されると、ここで光励起電子eが発生し、この光励起電子eが基材18の還元触媒反応に利用される。この例では、二酸化炭素COがギ酸(HCOOH)に還元される。一方、対極14においては、水(HO)を酸素((1/2)O)に酸化する反応が生じ、ここで生じた電子eがバイアス電圧により半導体電極12に移動し、光励起電子の対として発生したホールと結合する。
【0027】
このように、本実施形態では、光照射により半導体電極12内部で生じた光励起電子eが、二酸化炭素の還元作用を呈する基材18の反応サイトに移動することにより二酸化炭素の還元反応が行われる。特に、光励起電子を利用するために非半導体電極材料よりも低電圧で二酸化炭素を還元し、有用な有機化合物を高効率かつ高い反応生成物選択性で合成できる。
【0028】
「半導体」
ここで、半導体電極12に用いる半導体は、その伝導帯の最下端のエネルギー準位の値から、後に記載される基材の電子によって占有されていない分子軌道のうち最もエネルギーの低い準位の値を引いた値が0.2電子ボルト以下である材料とする。例えば、酸化タンタル、窒化タンタル、酸窒化タンタル、ニッケル含有硫化亜鉛、銅含有硫化亜鉛、窒素ドープ酸化タンタル、硫化亜鉛、リン化インジウム、リン化ガリウム、酸化鉄、炭化ケイ素、銅の酸化物とすることができる。
【0029】
窒化タンタル及び酸窒化タンタルは、酸化タンタルを、アンモニアガスを含む雰囲気で加熱処理することによって生成することができる。アンモニアは非酸化性のガス(アルゴン、窒素等)によって希釈することが好適であり、例えば、アンモニアとアルゴンとをそれぞれ同じ流量で混合したガス流中に酸化タンタルを配して加熱することが好適である。加熱温度は500℃以上900℃以下が好ましく、さらには650℃以上850℃以下がより好ましい。処理時間は6時間以上15時間以下が好ましい。アンモニア処理する前の酸化タンタルは市販の結晶性を有するもの、または、塩化タンタル等のタンタル含有化合物溶液に加水分解処理等を施すことによって得たアモルファス状のものなどが使用できる。
【0030】
また、ニッケル含有硫化亜鉛は、ニッケル含有水和物と亜鉛含有水和物とを溶解させ、そこに硫化ナトリウム水和物を溶解させた水溶液を投入して撹拌し、遠心分離及び再分散を行い、上澄みを除去したうえで乾燥させることによって得ることができる。ニッケル含有水和物は、例えば、硝酸ニッケル(II)六水和物等とすることができる。亜鉛含有水和物は、例えば、硝酸亜鉛(II)六水和物等とすることができる。ここで、ニッケル源として、その他に塩化ニッケル、酢酸ニッケル、過塩素酸ニッケル、硫酸ニッケル等が使用可能である。また、亜鉛源として、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、硫酸亜鉛等が使用可能である。
【0031】
同様に、銅含有硫化亜鉛は、銅含有水和物と硝酸亜鉛水和物とを溶解させ、そこに硫化ナトリウム水和物を投入して撹拌し、遠心分離及び再分散を行い、上澄みを除去したうえで乾燥させることによって得ることができる。銅含有水和物は、例えば、硝酸銅(II)二・五(2.5)水和物とすることができる。亜鉛含有水和物は、例えば、硝酸亜鉛(II)六水和物等とすることができる。ここで、銅源として、その他に塩化銅、酢酸銅、過塩素酸銅、硫酸銅等が使用可能である。また、亜鉛源として、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、硫酸亜鉛等が使用可能である。
【0032】
「基材」
基材18は、その空軌道のエネルギー準位値が上述した半導体電極12の半導体の伝導帯の最下端のエネルギー準位の値よりも低い或いは0.2Vまで高い物質とする。基材18は、金属錯体とすることができ、例えば、カルボキシビピリジン配位子を有するレニウム錯体((Re(dcbpy)(CO)P(OEt))),((Re(dcbpy)(CO)Cl)),Re(dcbpy)(CO)MeCN,Re(dcbqi)(CO)MeCNや、Ru錯体[Ru(dcbpy)(bpy)(CO)2+(bpy=2,2’−bipyridine,dcbpy=4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridine)が利用される。
【0033】
また、半導体電極12と基材18とを、電子のやり取りが可能なように共存させる。例えば、基材18を電解液中に浮遊させておいてもよいし、基材18を溶媒に混合しておき、ここに半導体電極12を挿入して、表面に基材18を付着させる。そして、これを乾燥させることによって半導体電極12の表面上に、基材18を接合した光電極を得る。溶媒は、有機溶媒とすることができ、例えば、アセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトン等を適用することができる。
【0034】
なお、基材18は、電子を利用することにより二酸化炭素還元活性を示す化合物であれば何でもよく、特に限定されない。金属錯体の場合は、周期律表第VII族金属、第VIII族金属から選ばれる少なくとも一種の金属の錯体が挙げられ、例えば、ルテニウム、レニウム、マンガン、鉄、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金などの金属と配位子との錯体を挙げることができる。
【0035】
配位子としては、特別な制約はないが、典型的な主配位子としては、含窒素複素環化合物、含酸素複素環化合物、含硫黄複素環化合物等を挙げることができる。また補助配位子としてCO、ハロゲン、ホスフィン類などを挙げることができる。補助配位子は反応の過程でCO、塩基、または水と接触して一部解離して以下の副配位子へ変換してもかまわない。副配位子へ変換することにより、CO還元活性が発現する。副配位子としては種々の溶媒分子、例えばアセトニトリル、DMF、水などが挙げられる。これらの配位子は1種または2種以上の組合せで用いることができる。
【0036】
含窒素複素環化合物としては、例えば、ピリジン、ビピリジン、フェナントロリン、ターピリジン、ピロール、インドール、カルバゾール、イミダゾール、ピラゾール、キノリン、イソキノリン、アクリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリンなどを、含酸素複素環化合物としては、フラン、ベンゾフラン、オキサゾール、ピラン、ピロン、クマリン、ベンゾピロンなどを、含硫黄複素環化合物としては、例えば、チオフェン、チオナフテン、チアゾールなどを例示することができる。このような配位子は単独、もしくは2種以上の組合せで用いることができる。
【0037】
ここで、半導体電極12と基材18は連結基によって、化学的に結合していることが好ましい。この連結基は、化学的に結合すれば特に限定しないが、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、シラノール基、およびこれらの誘導体を挙げることができる。ここで、連結基は、半導体電極12と連結した状態では、プロトンが脱離した構造、または金属と酸素原子が配位している構造であってもかまわない。これらの連結基は、1種または2種以上の組合せで用いることもできる。また、複数個の使用であってもかまわない。
【0038】
また、半導体電極12と基材18の連結方法は、半導体と基材が化学的に結合していれば良く、特に限定しない。例えば、(1)配位子に連結基を導入した金属錯体を半導体に吸着させる、(2)連結基を導入した配位子を半導体に吸着させた後に直接錯体を形成させる、(3)連結基を導入した半導体に金属錯体を結合させる、等が挙げられる。
【0039】
基材18の被覆率は、半導体電極12の表面積に対して1%以上、90%以下であることが好ましい。基材18の被覆率が1%より少ない場合は、基材量が少なすぎるため、十分な二酸化炭素還元活性が発現しない。逆に90%より多い場合は、半導体表面へ多くの金属錯体が被覆されるため、半導体の可視光吸収が阻害される、あるいは半導体の酸化サイトが被覆されてしまうために、光電極性能が低下する。
【0040】
特に好ましい組合せとしては、半導体が金属酸化物の場合は、連結基がリン酸基、GaPやInPのような化合物半導体の場合はリン酸エステルなどの連結基が挙げられる。
【0041】
また、電気化学的にRu錯体を半導体電極12上に析出させてもよい。例えば、[Ru{4,4’−di(1−H−1−pyrrolypropyl carbonate)−2,2’−bipyridine}(CO)Cl]を溶解させた電解液中に半導体電極12と、対極14を浸漬し、電析によりRu錯体を半導体電極12上に結合させることができる。このように、ルテニウム錯体(Ru錯体)を半導体電極12上に電解重合により固定化することで、半導体電極−錯体間の電子移動が促進され、反応性が向上する。これについては、実施例5に示す。
【0042】
また、Ru錯体は化学重合法によっても半導体材料上にポリマー化して固定化することが可能である。化学重合法の利点は、電解重合過程で溶解・変質するような不安定な半導体電極上にもRu錯体の固定が可能なことである。これについては、実施例8〜10に示す。Ru錯体にピロールと塩化鉄(III)を添加することでRu錯体の半導体電極上での重合が進み、半導体電極上にRu錯体をポリマー化して固定することができる。
【0043】
「対極、参照電極」
対極14は、陽極として溶け出さないものを使用することが必要であり、炭素の他白金などが用いられる。また、参照電極16には、基準となる電位を維持できるものとして、銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極や、ヨウ素電極などが利用される。
【0044】
このようなシステムにおいて、例えば各電極12,14,16を二酸化炭素が溶解した水中に浸漬し、所定の電圧を印加するとともに、光を照射する。これによって、上述したように、基材18における還元触媒反応によって、水中の二酸化炭素からギ酸が生成され、対極14において、水が酸素ガスに酸化される。なお、基材18を選択し、適正な環境で触媒反応を生起することで、ギ酸に限らず、アルコールなどの有用な有機物を二酸化炭素から合成することが可能となる。
【0045】
[実施例」
このような図1のシステムにおいて、電気化学アナライザー(BAS)を使用し、半導体電極12、対極14、参照電極16を用いる三電極方式で光電気化学測定を行った。セルには円筒型のパイレックス(登録商標)ガラスセルを用いた。また、光源には、300Wのキセノンランプ(朝日分光、MAX−302)を用い、λ>422nmのカットオフフィルターを用いて可視光のみを照射した。ここで、可視光のみを照射したのは、可視光での動作を確認するためであり、現実の動作では紫外光を照射してもよいし、太陽光、蛍光灯からの光などが照射される。光電気化学測定に伴う生成物の評価にはイオンクロマトグラフ(DIONEX、ICS−2000オートサンプラーAS付)を使用した。カラムにはIonPac AS15を、溶離液にはKOH溶離液を用い、検出器は電気伝導度検出器を使用した。
【0046】
以下、具体的な実施例について説明する。
【0047】
<実施例1>
半導体電極12には、p型半導体である亜鉛ドープ−リン化インジウム(p−InP−Zn)のウェハー(8mm×20mm)を用い、対極14にはグラッシーカーボン電極、参照電極16には銀/塩化銀電極を使用した。電解液にはルテニウム錯体(Ru(bpy)(CO)) 3mgをアセトニトリル250μlに溶解させた後、蒸留水5mlを加えた溶液を使用した。20分ほどアルゴンガスを溶液中にバブリングして溶存ガスを除去した後、10分ほど二酸化炭素ガスを溶液中にバブリングしてから二酸化炭素ガス雰囲気下で測定を行った。電位は参照電極に対して−0.6V印加した。
【0048】
実施例1では、半導体電極12に基材18を固定することなく、液中の基材18が半導体電極12の表面に接触する際に電子が基材18に供給される。半導体電極12には亜鉛ドープ−リン化インジウム(p−InP−Zn)を用いている。
【0049】
<実施例2>
半導体電極12にはp型半導体である亜鉛ドープ−リン化ガリウム(p−GaP−Zn)のウェハー(8mm×20mm)を用い、対極14にはグラッシーカーボン電極、参照電極16には銀/塩化銀電極を使用した。電解液にはルテニウム錯体(Ru(bpy)(CO)) 3mgをアセトニトリル250μlに溶解させた後、蒸留水5mlを加えた溶液を使用した。20分ほどアルゴンガスを溶液中にバブリングして溶存ガスを除去した後、10分ほど二酸化炭素ガスを溶液中にバブリングしてから二酸化炭素ガス雰囲気下で測定を行った。電位は参照電極に対して−0.6V印加した。
【0050】
実施例2では、半導体電極12に亜鉛ドープ−リン化ガリウム(p−GaP−Zn)を用いた点で実施例1と異なっている。
【0051】
<実施例3>
半導体電極12にはp型半導体である亜鉛ドープ−リン化インジウム(p−InP−Zn)のウェハー(8mm×20mm)を用い、対極にはグラッシーカーボン電極、参照電極には銀/塩化銀電極を使用した。電解液にはルテニウム錯体(Ru(bpy)(CO)) 3mgをアセトニトリル250μlに溶解させた後、水酸化ナトリウム水溶液(pH 9) 5mlを加えた溶液を使用した。20分ほどアルゴンガスを溶液中にバブリングして溶存ガスを除去した後、10分ほど二酸化炭素ガスを溶液中にバブリングしてから二酸化炭素ガス雰囲気下で測定を行った。電位は参照電極に対して−0.6V印加した。
【0052】
実施例3は、水酸化ナトリウム水溶液を用いることで、実施例1と異なっている。
【0053】
<実施例4>
半導体電極12には亜鉛ドープ−リン化ガリウム(p−GaP−Zn)のウェハー(8mm×20mm)を用い、対極14にはグラッシーカーボン電極、参照電極16にはヨウ素電極を使用した。電解液にはルテニウム錯体(Ru(bpy)(CO)) 約2mgをアセトニトリル5mlに溶解させた後、蒸留水250μlを加えた溶液を使用した。20分ほどアルゴンガスを溶液中にバブリングして溶存ガスを除去した後、10分ほど二酸化炭素ガスを溶液中にバブリングしてから二酸化炭素ガス雰囲気下で測定を行った。電位は参照電極16に対して−0.8V印加した。
【0054】
実施例4では、実施例2に対し、アセトニトリルを主溶媒として用い、参照電極にヨウ素電極を使用して、参照電極16に対する半導体電極12の電圧を変更している。
【0055】
<実施例5>
亜鉛ドープ−リン化インジウム(p−InP−Zn)のウェハー(8mm×20mm)を用いてルテニウム錯体[Ru{4,4’−di(1−H−1−pyrrolypropyl carbonate)−2,2’−bipyridine}(CO)Cl]を含む溶媒中で電析を行い、亜鉛ドープ−リン化インジウム表面にルテニウム錯体のポリマーを堆積させた。半導体電極12には上述のルテニウム錯体ポリマーが堆積した亜鉛ドープ−リン化インジウムの半導体電極12を用い、対極14にはグラッシーカーボン電極、参照電極16には銀/塩化銀電極を使用した。電解液には蒸留水5mlを使用した。20分ほどアルゴンガスを溶液中にバブリングして溶存ガスを除去した後、10分ほど二酸化炭素ガスを溶液中にバブリングしてから二酸化炭素ガス雰囲気下で測定を行った。電位は参照電極に対して−0.6V印加した。
【0056】
上述のルテニウム錯体[Ru{4,4’−di(1−H−1−pyrrolypropyl carbonate)−2,2’−bipyridine}(CO)Cl]の構造を図6に示す。
【0057】
実施例5では、亜鉛ドープ−リン化インジウムの半導体電極12上にルテニウム錯体を電析させて堆積させている点で実施例1と異なっている。
【0058】
<実施例6>
亜鉛ドープ−リン化ガリウム(p−GaP−Zn)へジフォスフォネートエチルビピリジン配位子(dpebpy)を有するルテニウム錯体[Ru(dpebpy)(bpy)(CO)2+(図2)を以下の方法で吸着させた。テフロン(登録商標)製容器に2mM [Ru(dpebpy)(bpy)(CO)2+のジクロロメタン/メタノール混合溶液1mlとp−GaP−Znのウェハー(5mm×5mm)を入れ、室温で一晩放置した。翌朝、膜を取り出し、溶媒(ジクロロメタン/メタノール)による洗浄操作を2回行い、40℃で真空乾燥した。半導体基板への配位子の吸着の有無は飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)により分析した。
【0059】
半導体電極12には、上述のルテニウム錯体が連結した亜鉛ドープ−リン化ガリウム(p−GaP・Zn)のウェハー(8mm×20mm)を用い、対極にはグラッシーカーボン電極、参照電極にはヨウ素電極を使用した。電解液には、アセトニトリル5mlに蒸留水250μlを加えた溶液を使用した。20分ほどアルゴンガスを溶液中にバブリングして溶存ガスを除去した後、10分ほど二酸化炭素ガスを溶液中にバブリングしてから二酸化炭素ガス雰囲気下で測定を行った。電位は参照電極に対して−0.8V印加した。
【0060】
実施例6では、半導体電極12の表面にルテニウム錯体を連結基を用いて連結している点で実施例2と異なっている。
【0061】
<実施例7>
亜鉛ドープ−リン化インジウム(p−InP−Zn)へジフォスフォネートエチルビピリジン配位子(dpebpy)を有するルテニウム錯体[Ru(dpebpy)(bpy)(CO)2+(図2)を以下の方法で吸着させた。テフロン(登録商標)製容器に2mM [Ru(dpebpy)(bpy)(CO)2+のジクロロメタン/メタノール混合溶液1mlとp−InP−Znのウェハー(5mm×5mm)を入れ、室温で一晩放置した。翌朝、膜を取り出し、溶媒(ジクロロメタン/メタノール)による洗浄操作を2回行い、40℃で真空乾燥した。半導体基板への配位子の吸着の有無は飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)により分析した。
【0062】
半導体電極12には、上述のルテニウム錯体が連結した亜鉛ドープ−リン化インジウム(p−InP・Zn)のウェハー(8mm×20mm)を用い、対極にはグラッシーカーボン電極、参照電極にはヨウ素電極を使用した。電解液には、アセトニトリル5mlに蒸留水250μlを加えた溶液を使用した。20分ほどアルゴンガスを溶液中にバブリングして溶存ガスを除去した後、10分ほど二酸化炭素ガスを溶液中にバブリングしてから二酸化炭素ガス雰囲気下で測定を行った。電位は参照電極に対して−0.8V印加した。
【0063】
実施例7では、半導体電極12の表面にルテニウム錯体を連結基を用いて連結している点で実施例1と異なっている。
【0064】
<実施例8>
亜鉛ドープ−リン化インジウム(p−InP−Zn)光電極は、市販のp−InP−Znウェハー(住友電気工業株式会社製)を8mm×20mm角にカットし、端子の接続部として電極上端にInハンダを付着させた。p−InP−Znの光照射面の裏側にガラスを重ねてシリコンゴムで周囲を封止した。
【0065】
p−InP−Zn光電極のルテニウム錯体ポリマー修飾は下記の手順で行った。Ru錯体[Ru{bipyridiyl−4,4’−dicarboxulic acid di(3−pyrrol−1−yl)ester}(CO)(CHCN)] 0.25mgをアセトニトリル 0.25ml中に溶解し、ピロール溶液 5μl(Ru錯体に対するピロールのモル比は1.1%)を混合した後に、0.2M塩化鉄(III)溶液を5μl(Ru錯体に対する塩化鉄のモル比は3.1倍)添加した。ピロール溶液は、ピロール50μlをアセトニトリル 1mlで希釈し、塩化鉄(III)溶液は塩化鉄(III)六水和物 1.08gをエタノール 20ml中に溶解して調製した。塩化鉄(III)溶液を添加すると、溶液は徐々に黒色に変化した。この溶液 50μlをp−InP−Zn光電極上に塗布し、45℃のオーブンで乾燥した。溶液の塗布・乾燥を5回繰り返し、Ru−polymer(CP)/p−InP−Zn光電極を作製した。
【0066】
Ru−polymer(CP)/p−InP−Zn光電極を用い、光電気化学反応によるCO還元を行った。3時間の光照射によって、0.565Cの電荷が観測され、0.34mMのギ酸が生成した。ファラデー効率は58.3%であった。なお、実施例5と同様に電解液は水100%、ガスはCO、印加電圧は−0.6Vであった。
【0067】
<実施例9>
実施例8に示す調製方法において、Ru錯体量に対するピロール添加量の比率を0〜5.6%の範囲で変化させて、p−InP−Zn光電極上にポリマー膜を合成した。
【0068】
光電気化学反応によるCO還元を行った結果を図7に示す。このように、ピロール添加量が0.22〜0.56%の範囲でピロール無添加のサンプルよりもギ酸の生成量が増加し、1.1%以上添加すると反応性はピロール無添加のサンプルよりも低下した。
【0069】
なお、Ru錯体や塩化鉄(III)溶液を用いずに、ピロールのみを塗布した場合、ギ酸はほとんど生成しなかった。
【0070】
なお、Ru錯体(錯体)自体もピロール基を持つため、ピロールを新たに添加しなくとも、塩化鉄(III)を添加することで化学重合反応が進行し、光電極上に錯体のポリマー膜が形成され、ギ酸生成反応において高い活性を示す。一方、ピロールを添加することで、錯体の重合度が増し、錯体の酸素への耐久性が向上すると共に、光電極−錯体間の接触が改善されると推察される。また、ピロールの添加量が多すぎると、過剰生成したピロール膜が光電極への入射光を阻害するなどして活性が低下すると推察される。
【0071】
<実施例10>
実施例8に示す調製方法において、Ru錯体量に対する塩化鉄(III)添加量の比率を0〜15.4倍の範囲で変化させて、p−InP−Zn光電極上にポリマー膜を合成した。
【0072】
光電気化学反応によるCO還元を行った結果を図8に示す。このように、塩化鉄(III)を添加しないサンプルのギ酸の生成量は0.04 mMと非常に低く、塩化鉄(III)を添加することでギ酸の生成量は向上し、Ru錯体に対して塩化鉄(III)を6.2倍添加した場合にギ酸の生成量が0.4 mMまで増加した。
【0073】
なお、塩化鉄(III)を15.4倍添加すると反応性は低下した。Ru錯体やピロールを用いずに、塩化鉄(III)のみを塗布した場合、ギ酸はほとんど生成しなかった。
【0074】
錯体自体もピロール基を持つが、塩化鉄(III)を添加しないと化学重合反応が進行しないため、塩化鉄(III)無添加の場合はギ酸生成反応における活性は低い。塩化鉄(III)を添加することで化学重合反応が進行し、光電極上に錯体のポリマー膜が形成され、ギ酸生成反応において高い活性を示す。また、塩化鉄(III)の添加量が過剰になると、過剰な塩化鉄(III)が水酸化鉄、酸化鉄などの状態で光電極上に堆積し、光電極への入射光を阻害するなどして活性が低下すると推察される。
【0075】
ここで、錯体の化学重合において、塩化鉄(III)と同様に酸化剤として機能するものとして、
(i)硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、過塩素酸鉄(III)などの鉄イオン(III)を含む化合物、
(ii)塩化銅(II)、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)、過塩素酸銅(II)などの銅イオン(II)を含む化合物、
(iii)過硫酸アンモニウム、過酸化水素、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ヨウ素などの酸化剤、
などが挙げられる。
【0076】
<比較例1>
実施例1において二酸化炭素ガスをバブリングせずに、アルゴンガス雰囲気下で測定を行った。
【0077】
<比較例2>
実施例2において二酸化炭素ガスをバブリングせずに、アルゴンガス雰囲気下で測定を行った。
【0078】
<比較例3>
実施例1において作用極をグラッシーカーボン電極に変更して測定を行った。
【0079】
「実験結果」
実施例1では、二酸化炭素ガス雰囲気において20時間で0.19mMのギ酸が検出されたのに対して、比較例1のアルゴンガス雰囲気においては20時間で0.01mMのギ酸しか検出されず、錯体とリン化インジウム電極の共存する水溶液中(水95%)において二酸化炭素のギ酸への還元が示唆された。実施例3では二酸化炭素ガス雰囲気において20時間で0.42mMのギ酸が検出され、蒸留水を用いた実施例1よりも生成量が増加した。アルカリ性の水溶液を使用したことで、溶解する二酸化炭素の濃度が増加したことが反応性向上の一因と考えられる(表1)。
【0080】
実施例2では二酸化炭素ガス雰囲気において9.7時間で0.07mMのギ酸が検出されたのに対して、比較例2のアルゴンガス雰囲気においては光を19時間照射してもギ酸が検出されず、錯体とリン化ガリウム電極の共存する水溶液中(水95%)において二酸化炭素のギ酸への還元が示唆された(表1)。
【0081】
比較例3では二酸化炭素ガス雰囲気においてグラッシーカーボン電極に−0.6V(vs Ag/AgCl)の電圧を20時間印加してもギ酸が検出されなかったことから、実施例1ならびに実施例2においてリン化インジウム電極ならびにリン化ガリウム電極が光エネルギーを利用して低電圧でギ酸の生成を可能にしていることが示唆された(表1)。
【0082】
実施例4では二酸化炭素ガス雰囲気において8.8時間で0.06mMのギ酸が検出され、錯体とリン化ガリウム電極の共存するアセトニトリル溶液中(水5%)においてもギ酸の生成が確認された。
【0083】
実施例5では二酸化炭素ガス雰囲気において20時間で0.7mMのギ酸が検出され、最も多くのギ酸の生成が確認された。リン化インジウム電極表面に触媒作用を呈する錯体をポリマーとして固定化したことで、半導体電極−錯体間の電子移動が促進され、反応性が向上したと考えられる(表1)。
【0084】
【表1】

【0085】
実施例6において、TOF−SIMS測定の結果からルテニウムイオンに相当するスペクトルが観察され、GaP基板上にルテニウム錯体が吸着していることが判明した(図3参照)。
【0086】
光電気化学測定では、二酸化炭素ガス雰囲気において20時間で0.2mMのギ酸が検出され、実施例4よりもギ酸の生成量が増加した。リン化ガリウム電極表面に触媒作用を呈する錯体を配位子で連結したことで、半導体電極・錯体間の電子移動が促進され、反応性が向上したと考えられる(表1)。
【0087】
実施例7において、TOF−SIMS測定の結果からルテニウムイオンに相当するスペクトルが観察され、InP基板上にルテニウム錯体が吸着していることが判明した(図4参照)。
【0088】
光電気化学測定では、二酸化炭素ガス雰囲気において20時間で0.3mMのギ酸が検出された(表1)。
【0089】
「システム構成」
実施形態としては、図5に示す、二電極方式の光電気化学反応セルが主体となると考えられる。バイアス電源10の陰極には半導体電極12が接続され、陽極には対極14が接続されている。従って、図1における参照電極16を省略した形になっており、バイアス電源10に単なる直流電源が採用された構成となっている。
【0090】
前述の実施例に挙げられたGaPの伝導帯最下端のエネルギーは、標準水素電極電位すなわちNHEを基準として、−2.4V、InPのそれは−1.7Vである。これに対し、実施例1のルテニウム錯体の最低空軌道のエネルギーはおよそ−0.7V、また実施例5のルテニウム錯体の最低空軌道のエネルギーはおよそ−0.8Vである。
【0091】
本実施形態の効果は、このように半導体の伝導帯最下端のエネルギーが錯体の最低空軌道のエネルギーよりも高い位置、すなわちより真空準位に近い位置にある方が好ましい。より具体的には、伝導帯最下端のエネルギーから錯体の最低空軌道のエネルギーを引いた値がプラス0.2電子ボルトかそれ以下であることが好適である。
【0092】
例えば、その他の例として、p型半導体である。窒素ドープ酸化タンタルの場合には、伝導帯最下端のエネルギーは−1.5Vであり、実施例1および実施例5の錯体を触媒として使用して本実施形態の効果を発現することができる。
【0093】
このような構成においても、電解液中に基材18と電子をやり取りする半導体電極12と、対極14が浸漬される。基材18は、半導体電極12上に固定しても、溶液中に浮遊していてもよい。そして、半導体電極12には、光が照射される。これによって、光励起電子が半導体電極12において発生し、これがルテニウム錯体に移動して、溶液中の二酸化炭素をギ酸に還元する触媒反応に利用される。このシステムでは、バイアス電源10から電子が供給されるため、電子供給のための還元剤が不要となり、光電気化学反応を用いるため効率的な還元処理を行うことができる。
【0094】
「本実施形態の効果」
本実施形態によれば、光エネルギーを利用することで、非半導体電極材料を用いた場合に比べ、より低電圧で、二酸化炭素から有用な有機化合物を高い反応生成物選択性で合成できる。すなわち、光照射により半導体内部で生じた光励起電子が、二酸化炭素の還元作用を呈する触媒の反応サイトに移動することにより二酸化炭素の還元反応が駆動する。本発明では、光励起電子を利用するために非半導体電極材料よりも低電圧で二酸化炭素を還元し、有用な有機化合物を高効率かつ高い反応生成物選択性で合成できる。
【0095】
また、半導体の吸光波長範囲が錯体よりも広い場合、光利用効率が錯体単体の場合と比較して向上する。すなわち、上述した実施例における半導体は可視光により光励起電子を発生する。従って、このようにして半導体の光励起電子を利用することで、光触媒作用を呈しない錯体や紫外線でしか光触媒作用を呈しない錯体を反応生成物選択性の高い触媒として利用できる。
【0096】
また、半導体電極を用いることで、バイアス電圧の印加が可能となり、電子供与剤を用いなくても光励起で生じた電子・正孔の分離が促進される。
【0097】
半導体電極を用いることで流通反応系の構築が可能となり、生成物を容易に反応系外に分離できる。特に、半導体電極12に基材18を固着すれば、二酸化炭素を溶解した電解液を流通させて、生成した有機物(例えばギ酸)を含有した溶液を得ることができる。
【0098】
このように、本実施形態によれば、半導体内部で生じる光励起電子を金属錯体などの触媒に移動させることにより、高効率かつ高い反応生成物選択性を有することを特徴とする二酸化炭素などを還元する機能を有する複合光電極が得られる。従って、太陽光や人工光を用いて二酸化炭素を有用な有機化合物に変換することができる。
【符号の説明】
【0099】
10 バイアス電源、12 半導体電極、14 対極、16 参照電極、18 基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体電極と、二酸化炭素の還元作用を呈する触媒とが共存し、
半導体電極に光照射することにより生じた励起電子が触媒に移動することにより、触媒を利用して二酸化炭素の還元作用を呈する複合光電極。
【請求項2】
請求項1に記載の複合光電極において、
前記の二酸化炭素の還元作用を呈する触媒が、金属錯体である複合光電極。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合光電極であって、
前記半導体電極に、バイアス電圧を印加することにより、電子供与剤を用いなくても前記触媒に励起電子を供給できる複合光電極。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の複合光電極において、
前記の半導体電極が、二酸化炭素の還元作用を呈する触媒と比較して、より長い波長の光を吸収できる複合光電極。
【請求項5】
半導体電極と、二酸化炭素の還元作用を呈する触媒とが接合した構造を有し、半導体電極に光照射することにより生じた励起電子が触媒に移動することにより、触媒を利用して二酸化炭素の還元作用を呈する複合光電極と、
前記半導体電極にバイアス電圧を印加するバイアス電圧源と、
を有する光電気化学反応システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−82144(P2011−82144A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177530(P2010−177530)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】