説明

複合半透膜

【課題】 高い耐酸性を有する複合半透膜を提供する。
【解決手段】 微多孔性支持膜上に、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなるポリアミド分離機能層を形成させることにより複合半透膜を製造した後、複合半透膜を環状硫酸エステルに接触させる処理を行うことによって得られる複合半透膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な複合半透膜に関する。本発明によって得られる複合半透膜は、例えば海水やかん水の淡水化に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして膜分離法の利用が拡大している。膜分離法に使用される膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などがあり、これらの膜は、例えば海水、かん水、有害物を含んだ水などから飲料水を得る場合や、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などに用いられている。
【0003】
現在市販されている逆浸透膜およびナノろ過膜の大部分は複合半透膜であり、多孔性支持膜上にゲル層とポリマーを架橋した活性層を有するものと、多孔性支持膜上でモノマーを重縮合した活性層を有するものとの2種類がある。なかでも、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる分離機能層を多孔性支持膜上に被覆して得られる複合半透膜(特許文献1〜4)は、透過性や選択分離性の高い分離膜として広く用いられている。
【0004】
しかし、複合半透膜を使用し続けると、使用経過時間とともに膜表面に汚れが付着し、膜の造水量が低下する。そのため、ある期間運転後に逆洗や酸などによる薬液洗浄が必要である。したがって、長期間にわたって安定な運転を継続するために、酸などの薬液洗浄前後に膜性能の変化が少ない複合半透膜が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−147106号公報
【特許文献2】特開昭62−121603号公報
【特許文献3】特開昭63−218208号公報
【特許文献4】特開2001−79372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高い耐酸性を有する複合半透膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、以下の構成をとる。
(1)微多孔性支持膜上に、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなるポリアミド分離機能層を形成させることにより複合半透膜を製造した後、複合半透膜を環状硫酸エステルに接触させる処理を行うことによって得られる複合半透膜。
(2)環状硫酸エステルがエチレングリコール環状硫酸エステルおよび/または1,3-プロパンジオール環状硫酸エステルであることを特徴とする(1)に記載の複合半透膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い耐酸性を有する複合半透膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜に関し、微多孔性支持膜上に多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合によってポリアミド分離機能層を形成する工程、および前記ポリアミド分離機能層に環状硫酸エステル溶液を接触させる工程を有する。
【0010】
本発明において微多孔性支持膜は、実質的にイオン等の分離性能を有さず、実質的に分離性能を有する分離機能層に強度を与えるためのものである。孔のサイズや分布は特に限定されないが、例えば、均一で微細な孔、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きな微細孔をもち、かつ、分離機能層が形成される側の表面で微細孔の大きさが0.1nm以上100nm以下であるような支持膜が好ましい。
【0011】
微多孔性支持膜に使用する材料やその形状は特に限定されないが、例えばポリエステルまたは芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも一種を主成分とする布帛である基材により強化された多孔性支持体が用いられる。多孔性支持体の素材としては、ポリスルホンや酢酸セルロースやポリ塩化ビニル、あるいはそれらを混合したものが好ましく使用され、化学的、機械的、熱的に安定性の高いポリスルホンを使用するのが特に好ましい。
【0012】
具体的には、次の化学式に示す繰り返し単位からなるポリスルホンを用いると、孔径が制御しやすく、寸法安定性が高いため好ましい。
【0013】
【化1】

【0014】
例えば、上記ポリスルホンのN,N−ジメチルホルムアミド(以降、DMFと記載)溶液を、密に織ったポリエステル布あるいは不織布の上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数10nm以下の微細な孔を有する微多孔性支持膜を得ることができる。
【0015】
上記の微多孔性支持膜の厚みは、複合半透膜の強度およびそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、50〜300μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは100〜250μmの範囲内である。また、多孔性支持体の厚みは、10〜200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは30〜100μmの範囲内である。
【0016】
微多孔性支持膜の形態は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡、原子間顕微鏡により観察できる。例えば走査型電子顕微鏡で観察するのであれば、基材から微多孔質支持体を剥がした後、これを凍結割断法で切断して断面観察のサンプルとする。このサンプルに白金または白金−パラジウムまたは四塩化ルテニウム、好ましくは四塩化ルテニウムを薄くコーティングして3〜6kVの加速電圧で、高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR−FE−SEM)で観察する。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡は、日立製S−900型電子顕微鏡などが使用できる。得られた電子顕微鏡写真から多孔性支持体の膜厚や表面孔径を決定する。なお、本発明における厚みや孔径は平均値を意味するものである。
【0017】
本発明において、分離機能層を構成するポリアミドは、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成することができる。ここで、多官能アミンまたは多官能酸ハロゲン化物の少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。
【0018】
分離機能層の厚みは、十分な分離性能および透過水量を得るために、通常0.01〜1μmの範囲内、好ましくは0.1〜0.5μmの範囲内である。
【0019】
ここで、多官能アミンとは、一分子中に少なくとも2個の一級および/または二級アミノ基を有するアミンをいい、例えば、2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合したフェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸などの芳香族多官能アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族アミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、1,3−ビスピペリジルプロパン、4−アミノメチルピペラジンなどの脂環式多官能アミン等を挙げることができる。中でも、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の一級および/または二級アミノ基を有する芳香族多官能アミンであることが好ましく、このような多官能芳香族アミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m−フェニレンジアミン(以下、m−PDAと記す)を用いることがより好ましい。これらの多官能アミンは、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。
【0020】
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。例えば、3官能酸ハロゲン化物では、トリメシン酸クロリド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4−シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物では、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は多官能酸塩化物であることが好ましく、また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸塩化物であることが好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリドを用いるとより好ましい。これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。
【0021】
次に、本発明の複合半透膜の製造方法について説明する。
【0022】
複合半透膜における分離機能層は、例えば、前述の多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する、水と非混和性の有機溶媒溶液とを用い、微多孔性支持膜の表面で界面重縮合を行うことによりその骨格を形成できる。
【0023】
ここで、多官能アミン水溶液における多官能アミンの濃度は0.1〜20重量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5〜15重量%の範囲内である。この範囲であると十分な塩除去性能および透水性を得ることができる。多官能アミン水溶液には、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や有機溶媒、アルカリ性化合物、酸化防止剤などが含まれていてもよい。界面活性剤は、微多孔性支持膜表面の濡れ性を向上させ、アミン水溶液と非極性溶媒との間の界面張力を減少させる効果がある。有機溶媒は界面重縮合反応の触媒として働くことがあり、添加することにより界面重宿合反応を効率よく行える場合がある。
【0024】
界面重縮合を微多孔性支持膜上で行うために、まず、上述の多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜に接触させる。接触は、微多孔性支持膜面上に均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜にコーティングする方法や微多孔性支持膜を多官能アミン水溶液に浸漬する方法を挙げることができる。微多孔性支持膜と多官能アミン水溶液との接触時間は、1〜10分間の範囲内であることが好ましく、1〜3分間の範囲内であるとさらに好ましい。
【0025】
多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜に接触させた後は、膜上に液滴が残らないように十分に液切りする。十分に液切りすることで、膜形成後に液滴残存部分が膜欠点となって膜性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、例えば、特開平2−78428号公報に記載されているように、多官能アミン水溶液接触後の微多孔性支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの気流を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させて水溶液の水分を一部除去することもできる。
【0026】
次いで、多官能アミン水溶液接触後の微多孔性支持膜に、多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒溶液を接触させ、界面重縮合により架橋ポリアミド分離機能層の骨格を形成させる。
【0027】
有機溶媒溶液中の多官能酸ハロゲン化物の濃度は、0.01〜10重量%の範囲内であると好ましく、0.02〜2.0重量%の範囲内であるとさらに好ましい。0.01重量%以上とすることで十分な反応速度が得られ、また、10重量%以下とすることで副反応の発生を抑制することができるためである。さらに、この有機溶媒溶液にDMFのようなアシル化触媒を含有させると、界面重縮合が促進され、さらに好ましい。
【0028】
有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ多官能酸ハロゲン化物を溶解し、微多孔性支持膜を破壊しないものが望ましく、多官能アミン化合物および多官能酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであればよい。好ましい例として、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカンなどの炭化水素化合物が挙げられる。
【0029】
多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液の多官能アミン化合物水溶液相への接触の方法は、多官能アミン水溶液の微多孔性支持膜への被覆方法と同様に行えばよい。
【0030】
上述したように、多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を接触させて界面重縮合を行い、微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成したあとは、余剰の溶媒を液切りするとよい。液切りの方法は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法を用いることができる。この場合、垂直方向に把持する時間としては、1〜5分の間にあることが好ましく、1〜3分間であるとより好ましい。短すぎると分離機能層が完全に形成せず、長すぎると有機溶媒が過乾燥となり欠点が発生しやすく、性能低下を起こしやすい。
【0031】
上述の方法により得られた複合半透膜は、40〜100℃の範囲内、好ましくは60〜100℃の範囲内で1〜10分間、より好ましくは2〜8分間熱水処理する工程などを付加することで、複合半透膜の溶質阻止性能や透水性をより一層向上させることができる。
【0032】
次に、本発明では、環状硫酸エステルを、製造後の複合半透膜に接触させる。接触させる方法は特に限定されず、たとえば、複合半透膜全体を環状硫酸エステルの溶液中に浸漬しても良いし、該溶液を複合半透膜表面にスプレーしても良く、ポリアミド分離機能層と環状硫酸エステルが接触するならば、その方法は限定されない。
【0033】
硫酸エステルは環状である必要があり、縮合されるアルコールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサン−1,2−ジオールなどが挙げられる。中でも、エチレングリコールまたは1,3−プロパンジオールが好ましい。すなわち、環状硫酸エステルの中でも、エチレングリコール環状硫酸エステルおよび/または1,3−プロパンジオール環状硫酸エステルが好ましい。
【0034】
硫酸エステルと芳香族アミンとの反応により、芳香族アミノ基がアルキル化することが知られている。そのため、本発明では環状硫酸エステルとポリアミド分離機能層中の未反応のアミノ末端とが反応すると推測され、硫酸エステルが環状であることにより、ポリアミド分離機能層中の未反応のアミノ末端を架橋することができると推測される。
【0035】
環状硫酸エステルとポリアミド分離機能層中の未反応のアミノ末端とが反応した結果、硫酸が発生するため、該反応を持続させ、また該反応の反応率を高めるために、該反応により発生する硫酸を中和することが好ましい。そのため、環状硫酸エステルとポリアミド分離機能層中の未反応のアミノ末端との反応系中に環状硫酸エステルの2当量以上の塩基を含有させるなどして、系中のpHを塩基性へ調整しておくことが望ましい。ここで使用される塩基としては、反応により発生する硫酸を中和できる化合物であれば特に限定されず、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二ナトリウム、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどを使用することができる。また、該反応を効率よく行うという観点から、本発明では環状硫酸エステルと塩基とを溶媒に溶解させpHを塩基性へ調整した溶液を用いて、ポリアミド分離機能層中に未反応のアミノ末端を有する複合半透膜と接触させる方法が好ましく採用される。
【0036】
ここで使用できる溶媒は、複合半透膜を破壊しないものが望ましく、水、有機溶媒が挙げられ、それらの混合溶媒であってもよい。なかでも水が好ましい。
【0037】
さらに、上述の方法により得られた複合半透膜を、40〜100℃の範囲内、好ましくは60〜100℃の範囲内で1〜10分間、より好ましくは2〜8分間熱水処理させることで、複合半透膜の溶質阻止性能や透水性をより一層向上させることができる。
【0038】
このように形成される本発明の複合半透膜は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0039】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0040】
流体分離装置の操作圧力は高い方が塩除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、1.0MPa以上、10MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると塩除去率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上、45℃以下が好ましい。また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0041】
本発明に係る複合半透膜によって処理される原水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L〜100g/LのTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」あるいは「重量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5〜40.5℃の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【0042】
なお、本発明の複合半透膜は、高い耐酸性を有することを特徴とするが、耐酸性の指標については、pH1の硫酸水溶液への耐性を指標とするのが適当である。pH1の条件は、膜ろ過運転における酸洗浄時のpHよりも強い酸性条件であるため、pH1の硫酸水溶液に耐性を示せば、酸洗浄を複数回行っても膜が劣化しにくいことが担保されるためである。
【実施例】
【0043】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0044】
比較例、実施例における複合分離膜の各種特性は、複合半透膜に、温度25℃、pH6.5に調整した海水(TDS濃度約3.5%)を操作圧力5.5MPaで供給して膜ろ過処理を行ない、透過水、供給水の水質を測定することにより求めた。
【0045】
(脱塩率(TDS除去率))
TDS除去率(%)=100×{1−(透過水中のTDS濃度/供給水中のTDS濃度)}
(膜透過流束)
供給水(海水)の膜透過水量を、膜面1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)でもって膜透過流束(m/m/日)を表した。
【0046】
(ホウ素除去率)
供給水と透過水中のホウ素濃度をICP発光分析装置(日立製作所製 P−4010)で分析し、次の式から求めた。
ホウ素除去率(%)=100×{1−(透過水中のホウ素濃度/供給水中のホウ素濃度)}
(耐酸性)
pH 1の硫酸水溶液浸漬前後の膜の特性比は、以下の式により求めた。
TDS SP比=(100−浸漬後のTDS除去率)/(100−浸漬前のTDS除去率)
膜透過流束比=浸漬後の膜透過流束/浸漬前の膜透過流束
ホウ素 SP比=(100−浸漬後のホウ素除去率)/(100−浸漬前のホウ素除去率)
なお、SPとはSubstance Permeation:物質透過の略である。
【0047】
(比較例1)
ポリエステル不織布(通気度0.5〜1cc/cm/sec)上にポリスルホンの15.7重量%DMF溶液を200μmの厚みで室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって微多孔性支持膜を作製した。
【0048】
このようにして得られた微多孔性支持膜(厚さ210〜215μm)を、m−PDAの3.8重量%水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド0.175重量%を含むn−デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置した。次に、膜から余分な溶液を除去するために膜を1分間垂直に保持して液切りした。その後、90℃の熱水で2分間洗浄して複合半透膜を得た。このようにして得られた複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、TDS除去率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
【0049】
さらに、複合半透膜の耐酸性を評価するため、得られた複合半透膜をpH1に調製した硫酸水溶液に13日間浸漬した。浸漬後、複合半透膜をRO水で洗浄した。浸漬後の複合半透膜を評価したところ、硫酸水溶液浸漬後の膜透過流束、TDS除去率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。また、膜透過流束比、TDS SP比、ホウ素 SP比も同じく表1に示す。
【0050】
(比較例2)
比較例1と同様に、複合半透膜を作製した後、複合半透膜をジメチル硫酸20mM、酢酸ナトリウム40mMの水溶液に24時間浸漬した。膜をRO水で洗浄後、95℃熱水で2分間洗浄した。
【0051】
得られた複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、TDS除去率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
【0052】
さらに、複合半透膜の耐酸性を評価するため、得られた複合半透膜をpH1に調製した硫酸水溶液に13日間浸漬した。浸漬後、RO水で洗浄した。浸漬後の複合半透膜を評価したところ、硫酸水溶液浸漬後の膜透過流束、TDS除去率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。また、膜透過流束比、TDSSP比、ホウ素 SP比も同じく表1に示す。
【0053】
(比較例3)
ジメチル硫酸の代わりにジエチル硫酸を用いた以外は、比較例2と同様の工程により膜を作製した。
【0054】
得られた複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、TDS除去率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
【0055】
さらに、複合半透膜の耐酸性を評価するため、得られた複合半透膜をpH1に調製した硫酸水溶液に13日間浸漬した。浸漬後、RO水で洗浄した。浸漬後の複合半透膜を評価したところ、硫酸水溶液浸漬後の膜透過流束、TDS除去率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。また、膜透過流束比、TDS SP比、ホウ素 SP比も同じく表1に示す。
【0056】
(実施例1)
ジメチル硫酸の代わりにエチレングリコール環状硫酸エステルを用いた以外は、比較例2と同様の工程により膜を作製した。
【0057】
得られた複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、TDS除去率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
【0058】
さらに、複合半透膜の耐酸性を評価するため、得られた複合半透膜をpH1に調製した硫酸水溶液に13日間浸漬した。浸漬後、RO水で洗浄した。浸漬後の複合半透膜を評価したところ、硫酸水溶液浸漬後の膜透過流束、TDS除去率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。また、膜透過流束比、TDS SP比、ホウ素 SP比も同じく表1に示す。
【0059】
(実施例2)
ジメチル硫酸の代わりに1,3−プロパンジオール環状硫酸エステルを用いた以外は、比較例2と同様の工程により膜を作製した。
【0060】
得られた複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、TDS除去率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
【0061】
さらに、複合半透膜の耐酸性を評価するため、得られた複合半透膜をpH1に調製した硫酸水溶液に13日間浸漬した。浸漬後、RO水で洗浄した。浸漬後の複合半透膜を評価したところ、硫酸水溶液浸漬後の膜透過流束、TDS除去率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。また、膜透過流束比、TDS SP比、ホウ素 SP比も同じく表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
以上のように、本発明により得られる複合半透膜は、pH1の硫酸溶液への浸漬前後で、環状硫酸エステル未処理膜より膜透過流速比、TDS SP比、ホウ素 SP比の値が小さく、膜性能の変化が小さい。また、非環状硫酸エステル処理膜より膜透過流速比、TDS SP比、ホウ素 SP比の値が小さく、膜性能の変化が小さい。よって本発明により得られる複合半透膜は、高い耐酸性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の複合半透膜は、特に、かん水や海水の脱塩に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔性支持膜上に、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなるポリアミド分離機能層を形成させることにより複合半透膜を製造した後、複合半透膜を環状硫酸エステルに接触させる処理を行うことによって得られる複合半透膜。
【請求項2】
環状硫酸エステルがエチレングリコール環状硫酸エステルおよび/または1,3−プロパンジオール環状硫酸エステルであることを特徴とする請求項1に記載の複合半透膜。

【公開番号】特開2010−234284(P2010−234284A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85773(P2009−85773)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】