説明

複合多孔質膜の製造方法

【課題】 透過性に優れ、且つ機械的強度の優れた複合多孔質膜の製造方法の提供。
【解決手段】 中空組紐の支持体に第一及び第二多孔質層を設けた複合多孔質膜を製造するにあたり、支持体に、第一多孔質層を形成するポリマーを含有する第一製膜原液を、環状ノズルを用いて塗布する第一塗布工程と、塗布した第一製膜原液を凝固液中で凝固させて、第一多孔質層を形成する第一凝固工程と、第一多孔質層に、第二多孔質層を形成するポリマーを含有する第二製膜原液を、環状ノズルを用いて塗布する第二塗布工程と、塗布した第二製膜原液を凝固液中で凝固させて、第二多孔質層を形成する第二凝固工程と、を含む複合多孔質膜の製造方法であって、第二塗布工程において、第二製膜原液の塗布に先立ち、第二製膜原液よりポリマー濃度の低い希薄製膜原液を、第一多孔質層に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密濾過膜または限外濾過膜として水処理に適した中空糸膜等の複合多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染に対する関心の高まりと規制の強化により、分離の完全性やコンパクト性などに優れた濾過膜を用いた膜法による水処理が注目を集めている。このような水処理の用途において、濾過膜には分離特性や透過性能に優れているのみならず、これまで以上に高い機械的強度が要求されている。
【0003】
従来、透過性能の優れた濾過膜として、湿式または乾湿式紡糸法により製造されるポリスルホン、ポリアクリロニトリル、セルロースアセテート、ポリフッ化ビニリデン製などの濾過膜が知られている。これらの濾過膜は、高分子溶液をミクロ相分離させた後、その高分子溶液を非溶媒中で凝固させて製造される。このようにして製造された濾過膜は、緻密層と支持層とからなり、高空孔率で且つ非対称な構造をもつ。
【0004】
分離膜の素材としては、耐薬品性、耐熱性に優れたポリフッ化ビニリデン樹脂が好適である。しかしながら、これまでに提案されているポリフッ化ビニリデン中空糸膜は機械的強度が低いという問題がある。
【0005】
そこで、機械的強度を高める手法として、中空組紐を多孔質半透膜内に完全に埋設させた多孔質膜が提案されている(特許文献1〜3参照)。しかしながら、この多孔質膜には、組紐が多孔質半透膜内に完全に埋設されているがゆえに、透水性能が低いという問題があった。
【0006】
また、透水性能を上げるために、中空組紐表面層に多孔質膜を有する分離膜も提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、この分離膜には、組紐の表面のみに濾過材を配置しており、濾過材と組紐との剥離が起こりやすいという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開昭52−081076号公報
【特許文献2】特開昭52−082682号公報
【特許文献3】特開昭52−120288号公報
【特許文献4】米国特許第5472607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特に、濾過材となる多孔質膜を二層以上積層した複合多孔質膜を製造する場合には、先に形成された第一多孔質層に、後から第二多孔質層となる製造原液を塗布すると、製造原液に含まれるポリマーが、第一多孔質層の空隙に詰まり、透過性が低くなりやすい。
一方、第一多孔質層と第二多孔質層との接合が弱いと、第二多孔質層が剥離しやすく、機械的強度が低くなりやすい。さらに、第一多孔質層と第二多孔質層の間に隙間が広く開いていると、ポッティング樹脂が第一多孔質層や支持体まで十分に含浸しない場合がある。その場合、多孔質膜をポッティング樹脂に固定する機械的強度が弱くなり、多孔質膜がポッティング樹脂から抜ける等の破損が発生しやすくなる。
【0009】
そこで、本発明は、透過性に優れ、且つ機械的強度の優れた複合多孔質膜の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の複合多孔質膜の製造方法は、支持体に第一及び第二多孔質層を設けた複合多孔質膜の製造方法であって、支持体に、第一多孔質層を形成するポリマーを含有する第一製膜原液を塗布する第一塗布工程と、塗布した第一製膜原液を凝固させて、第一多孔質層を形成する第一凝固工程と、第一多孔質層に、第二多孔質層を形成するポリマーを含有する第二製膜原液を塗布する第二塗布工程と、塗布した第二製膜原液を凝固させて、第二多孔質層を形成する第二凝固工程と、を有し、第二塗布工程において、第二製膜原液の塗布に先立ち、第二製膜原液よりポリマー濃度の低い希薄製膜原液を、第一多孔質層に塗布することを特徴としている。
【0011】
このように、本発明の複合多孔質膜の製造方法によれば、第二製膜原液よりもポリマー濃度の薄い希薄製膜原液を塗布する。これにより、希薄製膜原液を第一多孔質層に容易に含浸させることができる。このため、第一多孔質層と第二多孔質層との接着性を高めることができる。その結果、第二多孔質層の剥離の発生を抑制することができ、機械的強度を向上させることができる。
また、第一多孔質層の空隙中に占める第二多孔質層のポリマー濃度は、希薄製膜原液のポリマー濃度と同程度の低いものとなる。このため、濾過時の複合多孔質膜の透過性を高く保つことができる。
【0012】
また、本発明において好ましくは、第二塗布工程において、第一多孔質層が形成された中空組紐の支持体を、環状ノズルの通路に流通させ、希薄製膜原液を、通路の周囲に環状に開口した第一吐出口から吐出させ、第二製膜原液を、上記通路の第一吐出口より下流側に環状に開口した第二吐出口から吐出させる。
このように、環状ノズルを使用すれば、第一多孔質層が形成された中空組紐の支持体に、希薄製膜原液及び第二製膜原液を順次に容易に塗布することができる。
【0013】
また、本発明において好ましくは、第一又は第二塗布工程において、第一又は第二希薄製膜原液は、有機溶媒としてのジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシドに溶解した、ポリマーとしてのポリフッ化ビニリデン又はポリビニルピロリドンを含む。
ポリマーとしてポリフッ化ビニリデンを含めば、高い耐薬品性及び耐熱性を得ることができる。
【0014】
また、本発明において好ましくは、第二塗布工程において、希薄製膜原液のポリマー濃度は、0.1〜12質量%の範囲である。
ポリマー濃度が12質量%以下であれば、希薄製膜原液を第一多孔質層に十分に含浸させることができる。より好ましくは、ポリマー濃度は、10質量%以下であるのがよく、さらに、7質量%以下であるのがよい。一方、透水性を向上させる観点から、ポリマー濃度が0.1質量%以上であるのがよい。
【0015】
また、本発明において好ましくは、第二塗布工程において、希薄製膜原液の粘度は、10〜300mPa/secの範囲である。
希薄製膜原液の粘度をこの範囲とすれば、希薄製膜溶液を第一多孔質層に容易に含浸させることができる。
【0016】
また、本発明において好ましくは、第一塗布工程において、第一製膜原液の塗布に先立ち、第一製膜原液よりポリマー濃度の低い希薄製膜原液を、支持体に塗布する。
このように、第一塗布工程においても、希薄製膜原液を第一製膜原液より先に塗布すれば、希薄製膜原液を支持体に容易に含浸させることができる。このため、支持体と第一多孔質層との接着性を高めることができる。その結果、第一多孔質層の剥離の発生を抑制することができ、機械的強度をより一層向上させることができる。
また、支持体の空隙中に占める第一多孔質層のポリマー濃度は、希薄製膜原液のポリマー濃度と同程度の低いものとなる。このため、濾過時の複合多孔質膜の透過性をより高く保つことができる。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明の複合多孔質膜の製造方法によれば、透過性に優れ、且つ機械的強度の優れた複合多孔質膜を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の複合多孔質膜の製造方法の実施形態を説明する。
まず、実施形態の複合多孔質膜の製造方法に使用する環状ノズルの構造の一例について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明に使用する環状ノズルの一例を示す断面図である。環状ノズルは、分配プレート10と、分配プレート10に隣接して組み立てられる第一分配ノズル9と、さらに第一分配ノズル9に隣接して組み立てられて管状ノズルの先端部をなす、第二分配ノズル8との3つの部材から構成される。これらノズルの各部品の材質は、サビ等の腐食の発生を防止する観点からステンレス製が好ましい。また、加工精度を上げる観点から、環状ノズルの大きさは3〜5cmが好ましい。
【0020】
分配プレート10は円盤状の部材であり、その中心には支持体が通過する管路1が形成されている。塗布斑を少なくする観点から管路1の直径は2〜3mmが好ましい。また、分配プレート10は、管路1の周囲に、希薄製膜原液を供給するための第一供給口6と、製膜原液又は後述する緩凝固液を供給するための第二供給口7とを有する。
【0021】
第一分配ノズル9は、断面形状が概略T字状の部材であり、平面形状が円盤形状の部材である。その中心には、第二分配ノズル8内へと突出する突出管状部13が形成されている。この突出管状部13の内部は中空部であり、この中空部は管路1と連通して支持体通路100を形成している。第一分配ノズル9と分配プレート10とを同心状に重ねると、それらの中心に支持体通路100が形成される。
【0022】
第一分配ノズル9は、支持体通路100の周囲に、第一供給口6に連通する中空部と、第二供給口7に連通する中空部とをそれぞれ有する。分配プレート10及び第一分配ノズル9が同心状に重ねられた場合、第一供給口6に連通する第一液プール部11が形成されるように、分配プレート10及び第一分配ノズル9には溝が形成されている。また、分配プレート10及び第一分配ノズル9が同心状に重ねられた場合、支持体通路100の周壁の全周にわたって第一吐出口2が形成されるように、環状スリットが形成されている。この第一吐出口2は第一液プール部11と連通している。さらに、第一液プール部11と第一吐出口2とは連通している。
なお、塗布斑を少なくする観点から、吐出口直径は3〜4mmが好ましい。
【0023】
これにより、分配プレート10と第一分配ノズル9とを同心状に重ね、第一供給口6に液を供給すると、供給された液を第一プール部11に貯め、次いで第一吐出口2から支持体通路100に向かって液を吐出させることができる。
【0024】
第二分配ノズル8も円盤状の部材であり、その中心には第二液プール部12が形成され、さらに第二液プール部12と連通する中空部が形成されている。この中空部は、第一分配ノズル9に形成された第二供給口7に連通する中空部を介して、上記第二供給口7に連通している。
【0025】
第二分配ノズル8と第一分配ノズル9とを同心円状に重ねることにより、第一分配ノズル9の突出管状部13の周囲に第二液プール部12が形成される。具体的には、第一分配ノズル9の突出環状部13が設けられている端面と、突出管状部13と、第二分配ノズル8とで形成された空間が第二液プール部12となる。第二液プール部12は、第一分配ノズル9の突出管状部13の先端方向に向かってその断面積が小さくなるように形成されている。つまり、第二分配ノズル8の内壁が突出環状部13に向かって徐々に張り出している。そして、第二プール液部12の先端部には、突出管状部13の先端部の外壁と、第二分配ノズル8の内壁とによって、第二吐出口3が形成されている。ただし、突出環状部13の先端面、即ち、支持体通路100の先端面110は、第二吐出口3の先端面5、即ち、第二分配ノズル8の先端面5よりも環状ノズルの内方に位置する。第二吐出口は、第一吐出口より下流側に位置する。
【0026】
これにより、分配プレート10、第一分配ノズル9及び第二分配ノズル8を同心状に重ね、第二供給口7に液を供給すると、供給された液を第二吐出口3から吐出させることができる。
【0027】
支持体に第一及び第二多孔質層を設けた複合多孔質膜を製造するにあたり、
第一塗布工程と、
塗布した第一製膜原液を凝固させて、第一多孔質層を形成する第一凝固工程と、
上記第一多孔質層に、第二多孔質層を形成するポリマーを含有する第二製膜原液を塗布する第二塗布工程と、
塗布した第二製膜原液を凝固させて、第二多孔質層を形成する第二凝固工程と、
を含む複合多孔質膜の製造方法であって、
上記第二塗布工程において、第二製膜原液の塗布に先立ち、第二製膜原液よりポリマー濃度の低い希薄製膜原液を、上記第一多孔質層に塗布する。
【0028】
本実施形態では、上記の環状ノズルを用いて、糸状の支持体に2層の膜材を塗布した複合多孔質の中空糸膜を、(1)第一塗布工程、(2)第一凝固工程、(3)第二塗布工程、及び(4)第二凝固工程を経て製造する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0029】
(1)第一塗布工程
第一塗布工程では、環状ノズルを用いて、支持体に、第一多孔質層を形成するポリマーを含有する第一製膜原液を塗布する。
この支持体には、十分な機械的強度が必要とされる。これは、水処理用途では、膜透過の一次側の液を膜面に対して流動させる場合が多く、その場合、この膜面流により膜が揺動し、引っ張られる。このため、中空糸膜には、十分な機械的強度が必要とされ、この機械的強度は、主に支持体によって担われるからである。
【0030】
そこで、本実施形態では、そのような機械的強度を有する支持体として、組紐を使用する。組紐としては、例えば、8.6デシテックスのポリエステル繊維96フィラメント、トータル830デシテックスのマルチフィラメント16本を組紐機で10回転/分の速さで中空組紐状に編み織りして製作したものが挙げられる。
【0031】
本実施形態では、第一塗布工程において、第一製膜原液の塗布に先立ち、第一製膜原液よりポリマー濃度の低い希薄製膜原液を、支持体に塗布する。
【0032】
第一多孔質層を形成するポリマーとして、希薄製膜原液に含有されるポリマーの種類は、耐薬品性、耐熱性を向上させる観点から、フッ素系樹脂が好ましい。中でもポリフッ化ビニリデン樹脂が特に好ましい。
【0033】
そして、膜材を形成するポリマーの希薄原液中の濃度は、支持体中への含浸性を考慮すると、12質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下が更に好ましい。また、透水性を向上させる観点から、0.1質量%以上が好ましい。
このような濃度とすることにより、第一製膜液が支持体中へ容易に含浸することができる。その結果、膜材を十分な強度で支持体に付着させることができる。これに加えて、膜とした際に、支持体の空隙中に占める膜材のポリマー濃度が、希薄製膜液中のポリマー濃度と同程度になるため、濾過時の膜の透水性を高く保つことができる。
【0034】
また、希薄製膜原液の粘度(25℃)は、10〜300mPa・secの範囲であることが望ましい。希薄製膜原液の粘度をこの範囲とすれば、希薄製膜溶液を第一多孔質層に容易に含浸させることができる。
【0035】
さらに、予備及び第一製膜原液には、相分離を制御するための添加剤として、ポリエチレングリコールによって代表されるモノオール系、ジオール系、トリオール系、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマーを共に溶解させることが好ましい。親水性ポリマーの濃度下限は1質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。また、上限は20質量%が好ましく、12質量%がより好ましい。
【0036】
また、希薄製膜原液の溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としてはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどが用いられる。その中でも得られる多孔質体の透水流量が高いという点で、ジメチルアセトアミドがより好ましい。
【0037】
そして、このような希薄製膜原液を、環状ノズルの第一供給口6に供給し、一旦、第一プール部11に貯める。そして、希薄製膜原液を、第一吐出口2から支持体通路100を図面上から下に向かって通過する支持体に向かって吐出させる。
【0038】
ノズルから吐出する際の製膜原液の温度は、温度は20〜40℃の範囲が好ましい。その理由は、20℃未満であると、製膜原液が低温ゲル化するおそれがあるからである。一方、40℃以上であると孔径制御が困難であり、その結果大腸菌などの細菌や浮遊物質の透過を生じ実用的に好ましくないからである。
【0039】
次に、希薄製膜原液が塗布された支持体に、環状ノズルを用いて、第一製膜原液を塗布する。第一製膜原液に含まれるポリマー及び溶媒等の成分は、希薄製膜原液のものと同じである。
ただし、第一製膜原液のポリマー濃度は、複合多孔質膜とした際に、ボイド層が形成されにくく機械的強度を得るために、希薄製膜原液より高いポリマー濃度を有する。好ましくは、第一製膜原液中の膜材を形成するポリマー濃度は、12質量%以上、より好ましくは15質量%以上の範囲とする。一方、透過流量を上げるため、通常、ポリマー濃度は、25質量%を超えない範囲が好ましい。
【0040】
そして、このような第一製膜原液を、環状ノズルの第二供給口7に供給し、第二吐出口3から支持体通路100を図面上から下に向かって通過する支持体に向かって吐出させる。
なお、ノズルから吐出する際の製膜原液の温度は、希薄製膜原液の好適範囲と同じ範囲であるのがよい。
【0041】
このように、濃度が異なる希薄製膜原液及び第一製膜原液を順次に塗布することにより、支持体の主要部分に含浸させることができる。その結果、膜材の支持体からの剥離の発生を抑制することができる。
【0042】
(2)第一凝固工程
次に、第一凝固工程では、塗布した第一製膜原液を凝固させて、第一多孔質層を形成する。
本実施形態では、支持体上に塗布された製膜原液を所定時間空走させた後、凝固液に浸漬させることにより第一多孔質層を形成する。空走時間は0.01秒以下であると濾過性能が低くなり好ましくない。走行時間に上限はないが実用的には4秒あれば十分である。したがって、空走時間は0.01〜4秒の範囲が好ましい。
【0043】
凝固液としては、製膜原液に用いられる溶剤を含む水溶液が好適に用いられる。使用する溶剤の種類にも依存するが、例えば製膜原液の溶剤として、ジメチルアセトアミドを使用する場合、凝固液中のジメチルアセトアミドの濃度は1〜50質量%が好ましい。
【0044】
凝固液の温度は、機械的強度を上げる観点からは低い方が好ましい。しかしながら、凝固液の温度を下げすぎるとできあがった膜の透水流量が低下するため、通常、90℃以下、より好ましくは50℃以上85℃以下の範囲に選択する。
【0045】
凝固させた後、60〜100℃の熱水中で溶剤を洗浄することが好ましい。この洗浄浴温度は、第一多孔質層同士が融着しない範囲で、できるだけ高温にすることが効果的である。この観点から、洗浄浴の温度は60℃以上が好ましい。
【0046】
熱水洗洗浄の後、更に次亜塩素酸などで薬液洗浄を施すことが好ましい。次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用する場合、その濃度は10〜120000mg/Lの範囲であることが好ましい。次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度が10mg/L未満であるときはできあがった膜の透水流量が低下するため好ましくない。次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度に上限はないが、実用的には120000mg/Lあれば十分である。
【0047】
次いで、薬液洗浄後の膜を60〜100℃の熱水中で洗浄することが好ましい。その後、60℃以上100℃未満で1分間以上24時間未満乾燥させることが好ましい。60℃未満では、乾燥処理時間がかかりすぎ、生産コストが上昇するため工業生産上好ましくない。100℃以上では、乾燥工程で膜が収縮しすぎ、膜表面に微小な亀裂が発生する恐れが有るので好ましくない。
【0048】
乾燥後の膜は、ボビン又はカセに巻き取ることが好ましい。カセに巻き取るとエレメント加工が容易になるため好ましい。
【0049】
(3)第二塗布工程
次に、第二塗布工程では、第一多孔質層に、第二多孔質層を形成するポリマーを含有する第二製膜原液を塗布する。その際、第二製膜原液の塗布に先立ち、第二製膜原液よりポリマー濃度の低い希薄製膜原液を、第一多孔質層に塗布する。
本実施形態では、希薄製膜原液として、第一塗布工程において使用した希薄製膜原液と同じものを、環状ノズルを用いて同じ温度条件で塗布する。次いで、第二製膜原液として、第一塗布工程において使用した第一製膜原液と同じものを、環状ノズルを用いて同じ温度条件で塗布する。
【0050】
このように、濃度が異なる希薄製膜原液及び第二製膜原液を順次に塗布することにより、第一多孔質層の主要部分に含浸させることができる。その結果、第二多孔質層の第一多孔質層からの剥離の発生を抑制することができる。
【0051】
(4)第二凝固工程
次に、第二凝固工程では、塗布した第二製膜原液を凝固させて、第二多孔質層を形成する。
本実施形態では、第一凝固工程と同じ条件で、希薄製膜原液及び第二製膜原液を凝固させ、さらに、洗浄、乾燥、巻取りを行って、複合多孔質膜を得る。
このように、ポリマー濃度が異なる希薄製膜原液及び第二製膜原液を使用することにより、第一多孔質層の主要部分に含浸させることができ、膜材の第一多孔質層からの剥がれを改善できる。
【0052】
さらに、このようにして製造した複合多孔質膜は、支持体の表面に、緻密層を有する第一多孔質層が形成され、第一多孔質層に隣接して、緻密層を有する第二多孔質層が形成されている。その結果、濾過材としての第一及び第二多孔質膜どうしの接着硬度に加えて、第一多孔質膜と支持体との接着強度が向上し、機械的強度に優れる。よって、各種水処理の用途などの過酷な使用条件においても使用可能となり、濾液の質を向上させることができる。また、透過性能が高いため、使用膜面積が少なくなり、設備をコンパクト化することができる。
【0053】
なお、複合多孔質膜を濾過に使用するにあたっては、通常は多孔質膜をポッティング樹脂でハウジング等に固定し、多孔質膜の一時側と二次側とを液密に仕切った多孔質膜モジュールとして使用する。
【実施例1】
【0054】
以下、本発明の実施例について説明する。
本実施例では、下記の表1に示すように、ポリフッ化ビニリデンA(アトフィナジャパン製、商品名カイナー301F)、ポリフッ化ビニリデンB(アトフィナジャパン製、商品名カイナー9000LD)、ポリビニルピロリドン(ISP社製、商品名K−90)、N,N−ジメチルアセトアミドを用いて、第一及び第二塗布工程に共通の、希薄製膜原液及び製膜原液をそれぞれ調製した。25℃における、希薄製膜原液の粘度は、100mPa・sec、製膜原液の粘度は、1560mPa・secであった。
【0055】
【表1】

【0056】
そして、第一塗布工程において、先ず、希薄製膜原液を、外径2.5mm、内径2.4mmの、30℃に保温した図1に示す構造の二重環状ノズルの第一の吐出口2から吐出させる。次いで、第二製膜原液を、ノズルの鞘部にある第二の吐出口3から吐出すると同時に、管路1にポリエステルマルチフィラメント単織組紐(マルチフィラメント;トータルデシテックス830/96フィラメント、16打ち)を導入して、組紐に第一及び第二製膜原液を塗布した。
【0057】
次に、第一凝固工程において、N,N−ジメチルアセトアミド5質量部、水95質量部からなる80℃に保温した凝固浴中に導き、第一多孔質層を形成した。
【0058】
次に、第二塗布工程において、外径2.9mm、内径2.8mm、である、30℃に保温した図1に示す二重環状ノズルの管路1に、第一多孔質層が形成された組紐を導入して、ノズルの第一吐出口2から、希薄製膜原液を吐出させた。次いで、製膜原液を、環状ノズルの鞘部にある第二吐出口3から吐出させ、第一多孔質層上に製膜原液を塗布した。
【0059】
次に、第二凝固工程において、N,N−ジメチルアセトアミド5質量%、水95質量%からなる80℃に保温した凝固浴中に導き、組紐上に第一及び第二多孔質層が形成された複合多孔質膜を得た。
【0060】
さらに、この複合多孔質膜を98℃の熱水中で3分間脱溶剤させた後、
(a)50000mg/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬させる。
(b)90℃のスチーム槽中で2分間加熱する。
(c)90℃の熱水中で3分間洗浄する。
以上の(a)〜(c)工程を2回繰り返した後、複合多孔質膜を85℃で10分間乾燥させ、ワインダーで巻き取った。
【0061】
得られた複合多孔質膜の外径/内径はそれぞれ約2.8/1.1mm、膜厚は850μm、組紐から表面までの多孔質層の厚みは400μm、バブルポイントは150kPa、透過性能は100m3/m2/h/MPaであった。また、エレメント加工工程にて、複合多孔質膜がす抜ける等のポッティングトラブルは発生しなかった。
【0062】
なお、最大孔径は、JIS K 3832(バブルポイント法)に従って、エチルアルコールを測定媒体として測定した。
【0063】
(比較例)
比較例における製造方法は、第二塗布工程において、希薄製膜原液を吐出させることなく、製膜原液を、環状ノズルの鞘部にある第二吐出口3から吐出し、第一多孔質層上に製膜原液を塗布した点を除いて、実施例1における製造方法と同じ条件である。
【0064】
比較例において得られた複合多孔質膜の外径/内径はそれぞれ約2.8/1.0mm、膜厚は800μm、組紐から表面までの多孔質層の厚みは350μm、バブルポイントは150kPa、透過性能は、わずか10m3/m2/h/MPaであった。このため、比較例で製造した複合多孔質膜は、透過性能が低いため、分離膜として使用できなかった。
【0065】
上述した各実施形態においては、本発明を特定の条件で構成した例について説明したが、本発明は種々の変更及び組み合わせを行うことができ、これに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、第一塗布工程においても、先に希薄製膜原液を塗布したが、本発明においては、第一塗布工程では、希薄製膜原液を塗布しなくともよい。
また、上述した実施形態では、第一塗布工程と第二塗布工程とにおいて、互いに同一成分の希薄製膜原液を使用したが、本発明では、第一塗布工程と第二塗布工程とで、使用する希薄製膜原液の成分が互いに異なってもよい。
また、上述した実施形態では、第一多孔質層を形成する第一製膜原液と、第二多孔質層を形成する第二製膜原液とを同一成分とした例について説明したが、本発明では、第一製膜原液と第二製膜原液の成分が互いに異なってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の複合多孔質膜の製造方法に使用する環状ノズルの模式的縦断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 管路
2 第一吐出口
3 第二吐出口
4 液シール長
5 第二分配ノズルの先端面
6 第一供給口
7 第二供給口
8 第二分配ノズル
9 第一分配ノズル
10 分配プレート
11 第一液プール部
12 第二液プール部
13 突出管状部
100 支持体通路
110 支持体通路先端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に第一及び第二多孔質層を設けた複合多孔質膜の製造方法であって、
支持体に、第一多孔質層を形成するポリマーを含有する第一製膜原液を塗布する第一塗布工程と、
塗布した第一製膜原液を凝固させて、第一多孔質層を形成する第一凝固工程と、
上記第一多孔質層に、第二多孔質層を形成するポリマーを含有する第二製膜原液を塗布する第二塗布工程と、
塗布した第二製膜原液を凝固させて、第二多孔質層を形成する第二凝固工程と、を有し、
上記第二塗布工程において、第二製膜原液の塗布に先立ち、第二製膜原液よりポリマー濃度の低い希薄製膜原液を、上記第一多孔質層に塗布することを特徴とする複合多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
上記第二塗布工程において、上記第一多孔質層が形成された中空組紐の支持体を、環状ノズルの通路に流通させ、上記希薄製膜原液を、上記通路の周囲に環状に開口した第一吐出口から吐出させ、上記第二製膜原液を、上記通路の上記第一吐出口より下流側に環状に開口した第二吐出口から吐出させることを特徴とする請求項1記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
上記第一又は第二塗布工程において、第一又は第二希薄製膜原液は、有機溶媒としてのジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシドに溶解した、ポリマーとしてのポリフッ化ビニリデン又はポリビニルピロリドンを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
上記第二塗布工程において、上記希薄製膜原液のポリマー濃度は、0.1〜12質量%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
上記第二塗布工程において、希薄製膜原液の粘度は、10〜300mPa・secの範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
上記第一塗布工程において、第一製膜原液の塗布に先立ち、第一製膜原液よりポリマー濃度の低い希薄製膜原液を、上記支持体に塗布することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の複合多孔質膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−68710(P2006−68710A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258663(P2004−258663)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】