説明

複合床構造体及びその施工方法

【課題】 軽量気泡コンクリート板等の軽量床材を床材とする床面の上面に、セルフレベリング材等の水硬性組成物を施工して複合床構造体を形成する場合に、施工した水硬性組成物の床面に、部分的に浮きが生じることを防止することのできる複合床構造体の施工方法を得る。
【解決手段】 軽量気泡コンクリート板床の上面に、ポリマー皮膜からなるプライマー層を設ける工程と、プライマー層の上面に水硬性組成物硬化体層を設ける工程とを含む、複合床構造体の施工方法であって、水硬性組成物硬化体層の材齢0日〜28日の長さ変化率が、−0.05%〜+0.03%の範囲である、複合床構造体の施工方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の床の上面に、水硬性組成物硬化体層を設けることにより得られる複合床構造体の施工方法及びその施工方法により得られる複合床構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の床の上面に、水硬性組成物硬化体層を設けることにより得られる複合床構造体として、例えば特許文献1には、床の上面とセルフレベリング材層との間に粘着シートが介在され、粘着シートは粘着剤層と布層とを両外層に有する少なくとも2層の積層シートであり、粘着シートの粘着剤層が床の上面に貼り付けられ、セルフレベリング材層が粘着シートの布層側に設けられることを特徴とする床構造体が開示されている。
【0003】
特許文献2には、複数のセメント系床パネルを配列して躯体に取り付けた床構造において、床パネルの周囲に形成された目地にセメント系セルフレベリング材を充填すると共に、床パネル上に同種のセメント系セルフレベリング材を流して床面とし、上記目地と床面を一体化させたことを特徴とする床構造が開示されている。
【0004】
特許文献3には、劣化した軽量気泡コンクリートパネル水平部材の上面に、水硬性材料を用いて、施工厚さ3〜30mmの水硬性材料層を形成することを特徴とする軽量気泡コンクリートパネル水平部材の補強方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−257855号公報
【特許文献2】特開2008−106570号公報
【特許文献3】特開平7−233620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
床材、例えば、軽量気泡コンクリート、タイル、大理石、人工石などの無機製材料、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルなどの樹脂製材料、コンパネなどの木製材料、鋼板などの金属製材料は、新設又は既設の床面用の材料として用いられている。特に、発泡剤で多孔質化した軽量気泡コンクリート板は、しばしば床材として用いられる。軽量気泡コンクリート板は、内部に無数の小さな気泡を含むため、軽量で施工しやすく、断熱性や耐火性に優れている。これらの床材の上面に、水硬性組成物硬化体層を設けることにより、複合床構造体を得ることができる。
【0007】
しかしながら、軽量気泡コンクリート板、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルなどの樹脂製材料及びコンパネなどの木製材料等の軽量の床材(本明細書において「軽量床材」という)の床面、並びにこれらの軽量床材が複数混在している床面に、セルフレベリング材等の水硬性組成物を施工する場合には、部分的に膨れや浮きが生じるという問題がある。
【0008】
なお、「浮き」とは、水硬性組成物の硬化後、水硬性組成物の硬化体と、軽量床材の床下地との間で、収縮や膨張による応力の発生や接着不良により剥離が発生してしまう現象をいう。特に床下地が軽量床材の場合、強度が低いために高い接着力が確保できず、剥離が発生し易い。
【0009】
そこで、本発明は、軽量気泡コンクリート板等の軽量床材を床材とする床面の上面に、セルフレベリング材等の水硬性組成物を施工して複合床構造体を形成する場合に、施工した水硬性組成物の床面に、浮きが生じることを防止することのできる複合床構造体の施工方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、鋭意努力の結果、セルフレベリング材等の水硬性組成物の寸法変化率及び収縮率と、施工後に発生する「浮き」との間に相関があることを見出した。本願発明者らの得た知見によると、セルフレベリング材等の水硬性組成物の寸法変化率及び収縮率が小さいほど、施工後に発生する浮きは小さいことを見出し、本願発明に至った。また、さらに複合床構造体の施工方法において、軽量床材と、セルフレベリング材等の水硬性組成物との間にプライマー層(吸水調整用ポリマー皮膜層)を挿入することにより、施工後に発生する浮きを防止することを見出し本願発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、軽量気泡コンクリート板床の上面に、ポリマー皮膜からなるプライマー層を設ける工程と、プライマー層の上面に水硬性組成物硬化体層を設ける工程とを含む、複合床構造体の施工方法であって、水硬性組成物硬化体層の材齢0日〜28日の長さ変化率が、−0.05%〜+0.03%の範囲であり、長さ変化率が、長さ変化率(%)=(A−B)/B×100であり、Aが材齢28日の試料の長さであり、Bが材齢0日の試料の長さである、複合床構造体の施工方法である。本発明の施工方法により、軽量気泡コンクリート板床の上面に複合床構造体の施工した場合でも、施工後に発生する浮きを防止することができる。
【0012】
本発明の複合床構造体の施工方法の好ましい態様を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることができる。
(1)水硬性組成物が、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含む。水硬性組成物がこれらの三成分からなることにより、施工後の長さ変化率を小さくすることができので、施工後に発生する浮きを確実に防止することができる。
(2)水硬性組成物が、水硬性成分100質量%中、アルミナセメント20〜80質量%、ポルトランドセメント5〜70質量%及び石膏10〜45質量%の組成である。水硬性組成物が所定の割合の三成分のからなることにより、施工後の長さ変化率を小さくすることができので、施工後に発生する浮きをさらに確実に防止することができる。
(3)水硬性組成物が、水硬性成分と樹脂粉末とを含み、さらに無機粉末、細骨材、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上を含む。水硬性組成物がこれらの成分を含むことにより、水硬性組成物のモルタルの流動性、硬化時間等を調節することができる。
(4)水硬性組成物硬化体層表面のショア硬度が、モルタルを打設・施工したのち4時間後に10以上である。したがって、本発明の施工方法を用いるならば、短時間で十分な硬度を得ることができる。
(5)ポリマー皮膜層が、アクリル系又はスチレンアクリル系のポリマーエマルジョンを乾燥してなるポリマー成分を含む。この結果、施工後に発生する浮きをさらに確実に防止することができる。
(6)水硬性組成物硬化体層の上面に、張り床材敷設層、塗り床材硬化体層又は塗料塗布層を設ける工程をさらに含む。本発明の施工方法では、施工後に発生する浮きを防止することができるので、張り床材等が浮きによって剥がれるなどの問題が生じない複合床構造体を得ることができる。
(7)水硬性組成物が、自己流動性を有するセルフレベリング材である。この結果、水硬性組成物硬化体層の表面の平坦性を確保することができる。
【0013】
また、本発明は、複合床構造体の施工方法によって得られる複合床構造体である。したがって、本発明により得られる複合床構造体では、浮きの発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の施工方法によれば、軽量気泡コンクリート板等の軽量床材を床材とする床面の上面に、セルフレベリング材等の水硬性組成物を施工する場合、施工した水硬性組成物の床面に、浮きが生じることを防止することのできる複合床構造体を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の複合床構造体の一実施形態の部分断面図である。
【図2】セルフレベリング材の硬化時の長さ変化の一例を示す模式図である。
【図3】別のセルフレベリング材の硬化時の長さ変化の一例を示す模式図である。
【図4】別のセルフレベリング材の硬化時の長さ変化の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、本発明の施工方法により得られる複合床構造体の断面模式図を示す。本発明の複合床構造体1は、軽量気泡コンクリート板(ALC板)床等の軽量床材2と、水硬性組成物硬化体層4との間にプライマー層3を配置する構造である。本発明の施工方法に用いられる水硬性組成物の寸法変化率及び収縮率は小さく、かつプライマー層3を配置した構造なので、床材が軽量気泡コンクリート板床等の軽量床材2であるにもかかわらず、施工後に発生する浮きは小さい。以下、本発明の施工方法を詳しく説明する。
【0017】
本発明の複合床構造体の施工方法は、軽量気泡コンクリート板床等の軽量床材2の上面に、ポリマー皮膜からなるプライマー層3を設ける工程と、プライマー層3の上面に水硬性組成物硬化体層4を設ける工程とを含む。
【0018】
軽量床材2は、無機製材料、樹脂製材料、木製材料及び金属製材料などから選ばれた少なくとも一種の軽量の床材であり、これら材料が複数混在している床でもよく、新設でも、既設でもよい。無機製の軽量床材は、軽量気泡コンクリート板、レンガ、タイルなどから選ばれた少なくとも一種の無機製材料である。樹脂製の軽量床材は、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリアミド及びポリエステルなどから選ばれた少なくとも一種の軽量床材である。また、木製材料の軽量床材は、コンパネ及びフローリングなどから選ばれた少なくとも一種の軽量床材である。金属製の軽量床材は、銅板などの銅材などの金属部材から選ばれた少なくとも一種の金属製材料である。本発明に用いることのできる軽量床材2は、軽量気泡コンクリート板(ALC板)であることが好ましい。
【0019】
本発明の複合床構造体の施工方法は、軽量気泡コンクリート板床等の軽量床材2の上面に、ポリマー皮膜からなるプライマー層3を設ける工程を含む。ポリマー皮膜からなるプライマー層3は、建材又は建築用のプライマーを塗布・乾燥することにより形成することができる。プライマー層3を配置することによって、水硬性組成物が硬化して水硬性組成物硬化体層4となる際の軽量床材への水分の吸収による界面の硬化不良による接着性の低下を緩和し、軽量気泡コンクリート板床等の軽量床材2との間に生じる浮きの発生を防止することができる。
【0020】
本発明の施工方法において、プライマー層3を形成するためのプライマーとしては、公知の建材又は建築用のポリエステル系、ポリアクリル系、エポキシ樹脂系、エチレン−酢酸ビニル系などのプライマーを用いることができる。具体的には、プライマー層3を形成するためのプライマーとしては、アクリル−スチレン共重合樹脂やエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とする市販のプライマーを用いることができ、特にアクリル−スチレン共重合樹脂を主成分とするものを好適に用いることができる。複合床構造体の浮きの発生を防止することを確実にする点から、プライマー層3は、アクリル系又はスチレンアクリル系のポリマーエマルジョンを乾燥してなるポリマー成分を含むポリマー皮膜層であることが好ましい。
【0021】
また、複合床構造体の浮きの発生を防止することをさらに確実にする点から、プライマー層3は、アルミナセメントを含む水硬性成分と、細骨材と、消泡剤と、アクリル系又はスチレンアクリル系のポリマーエマルジョンを乾燥してなるポリマー成分とを含むポリマー皮膜層であることが好ましい。
【0022】
本発明の施工方法において、プライマー層3を形成するために用いるプライマーは、軽量床材の床と水硬性組成物硬化体層4とを強固に接着するため、及び、スラリー状の水硬性組成物(例えばレベリング材スラリー)を打設した際に、スラリー中の水分が軽量床材の床へ浸透する作用を防止するために用いることができる。
【0023】
プライマー層3は、必要に応じて塗布、吹き付け、散布などの方法で軽量気泡コンクリート板床等の軽量床材2の上面に形成することができる。
【0024】
プライマーの塗布量は、プライマーに含まれる樹脂固形分として、良好な接着強度を安定して得るために、10〜80g/mを塗布することが好ましく、20〜40g/mを塗布することがさらに好ましい。プライマーの塗布作業は、前記の塗布量を1回の処理で塗布することができ、また、プライマーを2回〜3回の作業で前記の塗布量を塗布することもできる。
【0025】
プライマー塗布後、温度条件や通風条件に応じて適宜選ばれる乾燥時間によって乾燥することができる。乾燥時間は、通常、夏季には1時間〜4時間、冬季には3時間〜6時間とすることが好ましい。
【0026】
本発明の複合床構造体の施工方法は、プライマー層3の上面に水硬性組成物硬化体層4を設ける工程を含む。
【0027】
水硬性組成物硬化体層4を形成するための水硬性組成物としては、例えば、JASS 15M103に規定のセルフレベリング材を用いることができる。セルフレベリング材としては、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の三成分の水硬性成分を含み、必要に応じて高炉スラグ及びフライアッシュなどの無機粉末などから選択される少なくとも1種を含むものを用いることができる。セルフレベリング材のフロー値(JASS 15M103基準)は、190mm以上のセルフレベリング材を用いることができる。セルフレベリング材の硬化時間は、30分から4時間、好ましくは45分から3時間、さらに好ましくは1時間から2.5時間が工期短縮のために好ましい。
【0028】
本発明の施工方法に用いる水硬性組成物としては、水硬性組成物の水硬性組成物硬化体層4の材齢0日〜28日の長さ変化率が、−0.05%から+0.03%までの範囲であり、
長さ変化率が、
長さ変化率(%)=(A−B)/B×100
(但し、A:材齢28日の試料の長さであり、B:材齢0日の試料の長さである。)であるものを用いることができる。材齢0日〜28日の長さ変化率が−0.05%から+0.03%までの範囲であることにより、水硬性組成物の水硬性組成物硬化体層4の浮きの発生を防止することができる。なお、水硬性成分の各成分の配合量並びに必要に応じて無機粉末及び細骨材の配合量を調整することにより、水硬性組成物硬化体層4の長さ変化率を上記所定の範囲とすることができる。水硬性組成物の成分のうち、水硬性成分、無機粉末及び細骨材の配合量以外の成分(「混和剤」という)の配合量を調整しても、水硬性組成物硬化体層4の長さ変化率に対する影響はそれほど大きくない。
【0029】
本発明の施工方法に用いる水硬性組成物の水硬性成分は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の三成分を含むことができる。本発明の施工方法に用いる水硬性組成物は、自己流動性を有するセルフレベリング材であることが好ましい。水硬性組成物(セルフレベリング材)は水硬性分の他に、必要に応じて高炉スラグ、フライアッシュなどの無機粉末を含むことができ、これらの成分は目的に応じて適宜単独又は2種以上混合して用いることができる。水硬性組成物(セルフレベリング材)の具備すべき重要な要件の一つは、適度な急硬性を有することであるが、急硬性は第一義的に、含まれる水硬性成分の種類に依存する。ポルトランドセメント系では硬化速度が遅く、乾燥収縮が大きいという欠点を有しており、一方、速硬性セメント系では硬化速度面では改善されるものの、流動性が低く、強度が低いという欠点を有している。
【0030】
本発明の施工方法に用いる水硬性組成物として、アルミナセメント及び石膏の水硬性成分と、高炉スラグの無機粉末とを含む組成物、又はアルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の水硬性成分と、高炉スラグとを含む組成物を使用することにより、上記の互いの欠点を補うことができるために好ましい。
【0031】
本発明の施工方法に用いる水硬性組成物は、水硬性成分100質量%中、アルミナセメント20〜80質量%、ポルトランドセメント5〜70質量%及び石膏10〜45質量%の組成であることが好ましく、アルミナセメント23〜50質量%、ポルトランドセメント20〜60質量%及び石膏15〜40質量%の組成であることがより好ましく、アルミナセメント26〜45質量%、ポルトランドセメント30〜55質量%及び石膏20〜30質量%の組成であることがさらに好ましい。
【0032】
アルミナセメントは、潜在的に急硬性を有しており、硬化後は耐化学薬品性、耐火性に優れた硬化体を与える。また、潜在水硬性を有する高炉スラグの存在により、その欠点である硬化体強度の経時的な低下も抑制される。アルミナセメントは鉱物組成が異なるものが数種知られ市販されており、いずれも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であるが、強度及び着色性の面からは、CA成分が多く、かつCAF等の少量成分が少ないアルミナセメントを用いることが好ましい。
【0033】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントなどを用いるができる。水硬性成分としてポルトランドセメントを用いることにより、コスト低減に効果が認められ好ましい。なお、ポルトランドセメントの添加量が多すぎると流動性が低下する場合があり、白華発生の原因となることがある。
【0034】
石膏は、無水、半水等の各石膏がその種を問わず1種又は2種以上の混合物として使用できる。石膏は急硬性であり、また、硬化後の寸法安定性保持成分として働くものである。石膏の添加量は、少なすぎると寸法安定性が低下する場合があり、多すぎると耐水性が低下し、水による異常膨張が起こる場合がある。
【0035】
本発明の施工方法に用いる水硬性組成物は、無機粉末として高炉スラグを含むことができる。高炉スラグは、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めるだけでなく、アルミナセメントの硬化体強度を向上させる効果も有している。高炉スラグの添加量は、アルミナセメント100質量部に対して50〜350質量部とすることが好ましい。高炉スラグの添加量は、少なすぎると収縮が大きくなり、多すぎると強度低下を招くことがある。高炉スラグは、JIS・A6206:1997に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上ものを用いることができる。
【0036】
本発明の施工方法に用いる水硬性組成物は、細骨材を含むことができる。細骨材としては、珪砂、石灰石などを用いることができる。細骨材は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは120〜400質量部、より好ましくは140〜300質量部、さらに好ましくは160〜250質量部が好ましい。
【0037】
本発明の施工方法に用いる水硬性組成物は、減水剤(流動化剤)を含むことができる。減水剤(流動化剤)は、ナフタレン系、メラミン系、ポリカルボン酸系などを用いることができ、ポリカルボン酸系を用いることが好ましい。減水剤(流動化剤)の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して0.01〜2質量部、さらに0.02〜1.8質量部、特に0.05〜1.5質量部が好ましい。
【0038】
本発明の施工方法に用いる水硬性組成物は、増粘剤を含むことができる。増粘剤は、セルロース系、スターチエーテル等の加工澱粉系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などを用いることができ、特にセルロース系などを用いることができる。増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して0.05〜0.6質量部、さらに0.05〜0.5質量部、特に0.05〜0.4質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、流動性の低下を招く恐れがあり好ましくない。増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、セルフレベリング材としての特性を向上させるために好ましい。
【0039】
本発明の施工方法に用いる水硬性組成物は、消泡剤を含むことができる。消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系、鉱油系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることができ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、2質量部以下、さらに1.5質量部以下、特に1質量部以下の添加量であることが好ましい。消泡剤の添加量は、上記より多く添加する場合、消泡効果の向上が認められない場合がある。
【0040】
本発明の施工方法に用いる水硬性組成物は、凝結調整剤を含むことができる。凝結調整剤は、凝結促進を行う成分である凝結促進剤、凝結遅延を行う成分である凝結遅延剤などを用いることができる。
【0041】
凝結促進剤としては、公知の凝結促進剤を用いることができる。凝結促進剤の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸などの、無機リチウム塩や有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることができる。特に炭酸リチウムは、効果、入手容易性、価格の面から好ましい。凝結促進剤としては、特性を妨げない粒径を用いることが好ましく、粒径は50μm以下にすることが好ましい。特にリチウム塩を用いる場合、リチウム塩の粒径は50μm以下、さらに30μm以下、特に10μm以下であることにより、リチウム塩の溶解が容易になり、解け残りが小さくなり、斑点等の発生による美観への悪影響が小さくなるため好ましい。
【0042】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることができる。凝結遅延剤の一例として、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸二ナトリウム)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどのオキシカルボン酸類を代表とする有機酸やそのナトリウム塩、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウムなどの無機ナトリウム塩類などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることができる。オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。
【0043】
オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
【0044】
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。
【0045】
凝結調整剤は、用いる自己流動性水硬性成分や水硬性成分組成に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結促進剤及び凝結遅延剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、水硬性組成物の可使時間を調整することができ、セルフレベリング材としての使用が非常に容易になるため好ましい。凝結調整剤は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜2質量部、さらに好ましくは0.30〜1質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0046】
本発明の施工方法に用いる水硬性組成物は、樹脂粉末を含むことができる。樹脂粉末としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アクリル系重合体などの乳化重合した高分子エマルジョンを噴霧乾燥して調製した樹脂粉末などを用いることができる。具体的には、酢酸ビニルベオバ系樹脂粉末を好適に用いることができる。樹脂粉末は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部、さらに好ましくは0.5〜2質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0047】
本発明の施工方法に用いる水硬性組成物は、収縮低減剤を含まなくてよい。但し、水硬性組成物に対して、その特性を損なわない範囲で収縮低減剤を配合することにより、硬化時のクラックの発生を抑制して圧縮強度を向上させることができる場合がある。したがって、本発明の施工方法に用いる水硬性組成物の特性を損なわない範囲で収縮低減剤を配合することができる。
【0048】
本発明の施工方法に用いる水硬性組成物に対して水を加え、流動性及び流動保持性を有するスラリー状として用いることができる。スラリー状の水硬性組成物(「モルタル」ともいう)は、1〜40℃、特に5〜35℃の温度範囲で使用することができる。水硬性組成物に対する水の添加量は、水硬性組成物100質量部に対し、18〜32質量部、さらに20〜30質量部、特に22〜28質量部加えて用いることが好ましい。
【0049】
スラリー状の水硬性組成物をプライマー層3の上面に打設し、硬化させることにより、水硬性組成物硬化体層4を設けることができる。上述の水硬性組成物を用いるならば、モルタルを打設(施工)したのち4時間後に、水硬性組成物硬化体層4表面のショア硬度が10以上であるものを得ることができる。
【0050】
本発明の複合床構造体の施工方法において、水硬性組成物硬化体層4の上面に、張り床材敷設層、塗り床材硬化体層又は塗料塗布層を設ける工程をさらに含むことができる。本発明の複合床構造体の施工方法を用いれば、浮きを防止することができるので、張り床材、塗り床材又は塗料を表面に有する複合床構造体を得る場合でも、張り床材等が浮きによって剥がれるなどの問題が生じない複合床構造体を得ることができる。
【0051】
以上述べたように、本発明の複合床構造体の施工方法によって、浮きの生じない複合床構造体を得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0053】
(1)長さ変化率の測定
長さ変化率の測定法:JIS・A1129−2:2001の「モルタル及びコンクリートの長さ変化試験方法−第2部コンタクトゲージ方法」に従い測定し、下記数式(1)に従い、長さ変化率を算出する。測定試料は、セルフレベリング材のモルタルを型詰めし、24時間後に脱型し、この時を材齢0日とする。測定条件は、20℃、RH65%の気中で行う。長さ変化率の(−)は収縮を意味し、(+)は膨張を意味する。
長さ変化率(%)=(A−B)/B×100 ・・・(1)
(但し、A:材齢28日の試料の長さであり、B:材齢0日の試料の長さである。)
【0054】
長さ変化率の膨張の測定法:JIS・A1129−2:2001の「モルタル及びコンクリートの長さ変化試験方法−第2部コンタクトゲージ方法」に従い、長さ変化率の測定法で作製した測定試料を用いて測定する。長さ変化率の膨張は、最も膨張したときの試料の長さ(C)であり、数式(2)に従い、算出する。
長さ変化率の膨張(%)=(C−B)/B×100 ・・・(2)
(但し、C:試料の最も膨張したときの長さであり、B:材齢0日の試料の長さである。)
【0055】
長さ変化率の収縮の測定法:JIS・A1129−2:2001の「モルタル及びコンクリートの長さ変化試験方法−第2部コンタクトゲージ方法」に従い、長さ変化率の測定法で作製した測定試料を用いて測定する。長さ変化率の収縮は、試料の最も膨張したときの長さを基長として、数式(3)に従い、算出する。
長さ変化率の収縮(%)=(A−C)/B×100 ・・・(3)
(但し、A:材齢28日の試料の長さ、B:材齢0日の試料の長さであり、C:最も膨張したときの試料の長さである。)
【0056】
図2、図3及び図4は、セルフレベリング材の硬化時の試料の長さ変化の一例を模式的に示す図である。
【0057】
図2では、測定試料の材齢0日(a点)を基長として、硬化と共に膨張し、b点で最も膨張し、その後次第に収縮し、材齢28日(c点)の長さとなる。数式(1)〜数式(3)において、Bはa点の試料の長さであり、Cはb点の試料の長さであり、Aはc点の試料の長さである。
【0058】
図3では、測定試料の材齢0日(a点)を基長として、硬化と共に膨張することなく、次第に収縮し、材齢28日(c点)の長さとなる。数式(1)〜数式(3)において、BとCはa点の試料の長さであり、Aはc点の試料の長さである。
【0059】
図4では、測定試料の材齢0日(a点)を基長として、硬化と共に収縮することなく、次第に膨張し、材齢28日(c点)の長さとなる。数式(1)〜数式(3)において、Bはa点の試料の長さであり、AとCはc点の試料の長さである。
【0060】
(2)硬化体表面のショア硬度
モルタル打設後からの所定の経過時間の後に、硬化した表面の硬度をスプリング式硬度計タイプD型((株)上島製作所製)を用いて、任意の4カ所の表面硬度を測定し、そのスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値をその時間の表面硬度とした。本発明の実施例及び比較例の場合は、4時間後のショア硬度を測定した。
【0061】
(3)浮きの発生
軽量気泡コンクリート(ALC)板床の上面に、プライマーを塗布することにより、ポリマー皮膜からなるプライマー層を形成した。プライマーは、30g/mとなるように塗布した。プライマー塗布後、2時間乾燥した。プライマー乾燥後、セルフレベリング材スラリーを厚さ10mmで流しこみ、施工してから4時間後のショア硬度及び28日後の浮きの発生について評価した。
【0062】
上記ALC板床材は、下記のものを用いた。
・ALC板(旭化成建材製)
【0063】
プライマーは下記のものを用いた。
・レベリング材用プライマー : 宇部興産社製、UプライマーQ
【0064】
水硬性組成物の原料は以下のものを使用した。
1)水硬性成分
・アルミナセメント(フォンジュ、ラファージュアルミネート社製、ブレーン比表面積3100cm/g)。
・ポルトランドセメント(早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g)。
・石膏:II型無水石膏(ブレーン比表面積4500cm/g)。
3)無機粉末:高炉スラグ(リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g)。
4)珪砂(細骨材)
・6号珪砂(高野商事社製 6号珪砂)。
【0065】
5)混和材
下記の成分を含む混和剤を用いた。
・混和剤A: 流動化剤a=5質量%、流動化剤b=18質量%、増粘剤a=3質量%、凝結遅延剤a=8質量%、凝結遅延剤b=2質量%、消泡剤a=22質量%、及び樹脂粉末a=41質量%、を含むもの。
・混和剤B: 流動化剤a=8質量%、増粘剤a=23質量%、凝結遅延剤c=19質量%、凝結遅延剤d=22質量%、凝結促進剤a=4質量%、凝結促進剤b=14質量%、及び消泡剤b=10質量%、を含むもの。
・混和剤C: 流動化剤a=8質量%、増粘剤a=20質量%、凝結遅延剤c=22質量%、凝結遅延剤d=25質量%、凝結促進剤a=4質量%、凝結促進剤b=12質量%、及び消泡剤b=9質量%、を含むもの。
・混和剤D: 流動化剤c=13質量%、増粘剤a=13質量%、凝結促進剤c=14質量%、消泡剤b=14質量%、収縮低減剤a=2質量%、及び樹脂粉末a=43質量%、を含むもの。
・混和剤E:流動化剤c=13質量%、増粘剤b=7質量%、凝結促進剤c=21質量%、消泡剤b=6質量%、及び収縮低減剤a=53質量%、を含むもの。
【0066】
混和剤として含まれる成分は、下記のものを用いた。
・流動化剤a:ポリカルボン酸系流動化剤
・流動化剤b:リグニンスルホン酸系流動化剤
・流動化剤c:ポリカルボン酸系流動化剤
・増粘剤a:ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤
・増粘剤b:ヒドロキシプロピルメチルセルロース系増粘剤
・凝結遅延剤a:リン酸Na系凝結遅延剤
・凝結遅延剤b:グルコン酸Na
・凝結遅延剤c:L−酒石酸Na
・凝結遅延剤d:重炭酸Na
・凝結促進剤a:炭酸Li
・凝結促進剤b:硫酸Al
・凝結促進剤c:硫酸K
・消泡剤a:ポリエーテル系消泡剤
・消泡剤b:ポリエーテル系消泡剤
・樹脂粉末a:酢酸ビニル・ベオバ共重合体樹脂粉末
・収縮低減剤a:ポリプロピレングリコール系収縮低減剤
【0067】
(実施例1〜3、比較例1及び2)
(セルフレベリング材の調整)
表1に示す水硬性成分、無機粉末、珪砂及び混和剤を、粉体混合用高速ミキサーを用いて混合して水硬性組成物を調整した。
長さ変化率については、この水硬性組成物(総量:1.5kg)にさらに水390gを加えてケミスターラーを用いて3分間混練して得たモルタルを用いて測定した。この水硬性組成物及びモルタルの調整は、温度20℃、湿度65%の雰囲気下で行った。
構造体形成時のショア硬度及び浮きの発生評価については、水硬性組成物を連続混練ミキサーにて水と混練して得られたモルタルを、圧送ポンプにてプライマー処理済の軽量気泡コンクリート床板上に流し込み、硬化して得られた床構造体を用いて評価した。
【0068】
表2から明らかなように、比較例1及び2の長さ変化率、長さ変化率の膨張及び長さ変化率の収縮率は大きく、この結果、材齢28日において浮きの発生が認められた。これに対して、実施例1〜3の場合には、水硬性組成物硬化体層の材齢0日〜28日の長さ変化率が、−0.05%〜+0.03%の範囲であり、材齢28日において浮きの発生はなかった。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【符号の説明】
【0071】
1:複合床構造体
2:軽量床材
3:プライマー層
4:水硬性組成物硬化体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量気泡コンクリート板床の上面に、ポリマー皮膜からなるプライマー層を設ける工程と、
プライマー層の上面に水硬性組成物硬化体層を設ける工程とを含む、複合床構造体の施工方法であって、
水硬性組成物硬化体層の材齢0日〜28日の長さ変化率が、−0.05%〜+0.03%の範囲であり、
長さ変化率が、
長さ変化率(%)=(A−B)/B×100
であり、Aが材齢28日の試料の長さであり、Bが材齢0日の試料の長さである、複合床構造体の施工方法。
【請求項2】
水硬性組成物が、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含む、請求項1に記載の複合床構造体の施工方法。
【請求項3】
水硬性組成物が、水硬性成分100質量%中、アルミナセメント20〜80質量%、ポルトランドセメント5〜70質量%及び石膏10〜45質量%の組成である、請求項1又は2に記載の複合床構造体の施工方法。
【請求項4】
水硬性組成物が、水硬性成分と樹脂粉末とを含み、さらに無機粉末、細骨材、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合床構造体の施工方法。
【請求項5】
水硬性組成物硬化体層表面のショア硬度が、モルタルを打設・施工したのち4時間後に10以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合床構造体の施工方法。
【請求項6】
ポリマー皮膜層が、アクリル系又はスチレンアクリル系のポリマーエマルジョンを乾燥してなるポリマー成分を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合床構造体の施工方法。
【請求項7】
水硬性組成物硬化体層の上面に、張り床材敷設層、塗り床材硬化体層又は塗料塗布層を設ける工程をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合床構造体の施工方法。
【請求項8】
水硬性組成物が、自己流動性を有するセルフレベリング材である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合床構造体の施工方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合床構造体の施工方法によって得られる複合床構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−208371(P2011−208371A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74468(P2010−74468)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】