説明

複合成形用熱可塑性エラストマー組成物及び複合成形体

【課題】様々な樹脂との熱融着性に優れ、かつ成形性および耐油性に優れた複合成形用熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
複合成形用
【解決手段】(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体および/またはその水素添加物10〜75重量部、および
(b)極性エチレン系共重合体90〜25重量部
の合計100重量部、ならびに
(c)有機過酸化物0.01〜2.5重量部
を含有し、複合成形に用いられることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合成形に適した熱融着性熱可塑性エラストマー組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、実用上十分な物性を有しながら、様々な樹脂と熱融着することができる複合成形用熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車部材、建築部材、弱電製品、日用品、文具品において、異なる樹脂の複合成形体が使用されている。例えば自動車部材では自動車の窓枠、ランプパッキング、建材部材ではサッシの枠、弱電製品では電話、無線機、TVリモコン、VTRリモコンのプッシュボタン、日用品では歯ブラシ、文具品ではペングリップ等において、異なる樹脂の複合成形体が使用されている。
【0003】
異なる樹脂の複合成形体を得る場合、樹脂ごとに別々に成形した各成形体を接着剤を用いて結合したり、両樹脂を凹凸をもたせて成形し、嵌合させることが行われている。
【0004】
しかしながら、上記の接着剤を用いる方法は、接着剤の塗布工程の複雑さによりコストが高くなったり、接着剤を効果的に塗布するための熟練を要したりしていた。また、嵌合部分を設ける場合は、金型が複雑になるためコストも高くなり、さらに、嵌合工程が作業性を悪化させる、意匠性の高い成形品を得にくい等の欠点を有している。そこで、最近では、異なる樹脂を熱融着させて一体化させる、二色成形等の複合成形が行われている。
【0005】
一方、近年、ゴム弾性を有する軟質材料であって、加硫工程を必要とせず、熱可塑性樹脂と同様な成形加工性及びリサイクルが可能な熱可塑性エラストマーが、自動車部品、家電部品、電線被覆、医療用部品、履物、雑貨等の分野で多用されている。
【0006】
例えば、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体であるスチレン−ブタジエンブロックポリマー(SBS)やスチレン−イソプレンブロックポリマー(SIS)などのポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、柔軟性に富み、常温で良好なゴム弾性を有し、かつ、これらより得られる熱可塑性エラストマー組成物は加工性に優れており、加硫ゴムの代替品として広く使用されている。
【0007】
また、これらのエラストマー中のスチレンと共役ジエンのブロック共重合体の分子内二重結合を水素添加したエラストマー組成物は、耐熱老化性(熱安定性)および耐候性を向上させたエラストマーとして、さらに広く多用されている。さらに耐油性、加熱加圧変形率(圧縮永久歪み)や高温時のゴム弾性を改良するものとして、上記ブロック共重合体の水素添加誘導体を含む組成物を架橋させて得られる架橋体が提案されている。
【0008】
また、スチレン系熱可塑性エラストマーの加工性を改良するために、これにエチレン−酢酸ビニル共重合体を配合して架橋させた樹脂組成物も提案されている(例えば、特許文献1〜2)。この樹脂組成物が他の樹脂との熱融着性に優れることに関する記載はない。
【0009】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、耐屈曲疲労性、耐熱性、耐油性に優れるとともに、ポリエステル系樹脂などの極性樹脂との熱融着性に優れるため、上記複合成形において有利に使用され、自動車CVJブーツなどに有用である。しかし、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、高価である。また、吸水性を有しているため、成形時にシルバーストリーク、発泡、加水分解の懸念があり、成形前に乾燥工程が必要である。
【0010】
【特許文献1】特開平4−270746号公報
【特許文献2】特開平8−151453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、様々な樹脂との熱融着性に優れる安価な熱可塑性エラストマー組成物を得るべく鋭意検討した結果、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体および/またはその水素添加物および極性エチレン系共重合体を含む組成物を架橋して得られる熱可塑性エラストマー組成物が様々な樹脂との熱融着性に優れ、かつ成形性および耐油性にも優れることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体および/またはその水素添加物10〜75重量部、および
(b)極性エチレン系共重合体90〜25重量部
の合計100重量部、ならびに
(c)有機過酸化物0.01〜2.5重量部
を含有し、複合成形に用いられることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【0013】
好ましい態様として、
(2)(d)石油樹脂1〜60重量部
をさらに含有する上記(1)記載の複合成形用熱可塑性エラストマー組成物、
(3)(e)テルペン系オイル1〜30重量部
をさらに含有する上記(1)または(2)記載の複合成形用熱可塑性エラストマー組成物、および
(4)ポリカーボネート系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーおよびポリオレフィン系樹脂から選ばれる少なくとも1の樹脂との複合成形用である上記(1)〜(3)のいずれか1に記載の複合成形用熱可塑性エラストマー組成物
を挙げることができる。
【0014】
また、本発明は、
(5)上記(1)〜(4)のいずれか1に記載の複合成形用熱可塑性エラストマー組成物と、ポリカーボネート系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーおよびポリオレフィン系樹脂から選ばれる少なくとも1の樹脂とから成ることを特徴とする複合成形体をも提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物は、様々な樹脂との熱融着性に優れ、かつ成形性および耐油性に優れており、熱融着による複合成形用として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物の各成分について説明する。
【0017】
成分(a):
成分(a)は、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム共重合体およびその水素添加物、ならびに芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体およびその水素添加物を包含し、これらを単独で、または2以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
これらの共重合体を構成する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレン等のうちから1種又は2種以上を選択でき、なかでもスチレンが好ましい。また共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等のうちから1種又は2種以上が選ばれ、なかでもブタジエン、イソプレン及びこれらの組合せが好ましい。
【0019】
(a−1):芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム共重合体およびその水素添加物
上記ランダム共重合体は、芳香族ビニル化合物を3〜60重量%、好ましくは5〜50重量%含む。数平均分子量は、好ましくは150,000〜500,000、より好ましくは、170,000〜400,000、更に好ましくは200,000〜350,000の範囲であり、分子量分布は好ましくは10以下である。
【0020】
上記ランダム共重合体の具体例としては、スチレンとブタジエンとの共重合体(SBR)等が挙げられる。
【0021】
上記ランダム共重合体の水素添加物は、上記ランダム共重合体を水素添加処理して製造される。水素添加率は任意であるが、共役ジエン化合物の炭素-炭素二重結合の少なくとも90%、好ましくは100%が水素添加されたものが好ましい。
【0022】
上記水添添加物としては、例えばJRS(株)からダイナロン1320P(商品名)として市販されている、上記SBRの水素添加物(H−SBR)が挙げられる。
【0023】
(a−2):芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体およびその水素添加物
上記ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの少なくとも2個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個とからなるブロック共重合体である。例えば、A−B−A、B−A−B−A、A−B−A−B−A等の構造を有する芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体を挙げることができる。上記ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を5〜60重量%、好ましくは20〜50重量%含む。
【0024】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAは、芳香族ビニル化合物のみからなる重合体か、芳香族ビニル化合物と50重量%未満の共役ジエン化合物との共重合体であってもよい。また、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、共役ジエン化合物のみからなる重合体か、共役ジエン化合物と50重量%未満の芳香族ビニル化合物の共重合体であってもよい。
【0025】
上記ブロック共重合体の数平均分子量は、好ましくは5,000〜1,500,000、より好ましくは、10,000〜550,000、更に好ましくは100,000〜400,000の範囲であり、分子量分布は好ましくは10以下である。ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらの任意の組合せのいずれであってもよい。
【0026】
また、これらの芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックA、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBにおいて、分子鎖中の共役ジエン化合物又は芳香族ビニル化合物由来の単位の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組合せでなっていてもよい。芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックA又は共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBがそれぞれ2個以上ある場合には、各重合体ブロックはそれぞれが同一構造であっても異なる構造であってもよい。
【0027】
上記ブロック共重合体の具体例としては、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)等が挙げられる。
【0028】
上記ブロック共重合体の製造方法としては数多くの方法が提案されているが、代表的な方法としては、例えば特公昭40−23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒又はチーグラー型触媒を用い、不活性媒体中でブロック重合させて得ることができる。
【0029】
また、上記ブロック共重合体の水素添加物は、上記ブロック共重合体を水素添加処理することにより製造される。水素添加処理は、公知の方法により、例えば、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下に行うことができる。
【0030】
上記ブロック共重合体の水素添加物における水素添加率は任意であるが、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBにおいて、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは60%以上である。また、そのミクロ構造は、任意であり、例えば、ブロックBがブタジエン単独で構成される場合、ポリブタジエンブロックにおいては、1,2−ミクロ構造が好ましくは20〜50重量%、特に好ましくは25〜45重量%である。また、1,2−ミクロ構造を選択的に水素添加した物であっても良い。ブロックBがイソプレンとブタジエンの混合物から構成される場合、1,2−ミクロ構造が好ましくは50%未満、より好ましくは25%未満、更に好ましくは15%未満である。また、 ブロックBがイソプレン単独で構成される場合、ポリイソプレンブロックにおいてはイソプレンの好ましくは70〜100重量%が1,4−ミクロ構造を有し、かつイソプレンに由来する脂肪族二重結合の好ましくは少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
【0031】
上記ブロック共重合体の水素添加物において、重合体ブロックAは、成分全体の5〜70重量%の割合で存在するのが好ましい。さらに、上記水素添加物の重量平均分子量は、350,000以下が好ましく、より好ましくは30,000〜250,000である。重量平均分子量が350,000を超えると、成形性が悪化する。
【0032】
上記ブロック共重合体の水素添加物の具体例としては、スチレン−エチレン・ブテン共重合体(SEB)、スチレン−エチレン・プロピレン共重合体(SEP)、スチレン−エチレン・ブテン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体(スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体の部分水添物:SBBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体の部分水添物、スチレン−イソプレン・ブタジエン−スチレン共重合体の部分水添物等を挙げることができる。
【0033】
成分(a)として、成分(a−2)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体またはその水素添加物を使用するのが、機械的特性および耐油性の点で好ましい。
【0034】
成分(b):
成分(b)は極性エチレン系共重合体であり、熱融着性を付与し、また流動性付与により成形性を向上させる機能を有する。成分(b)は、(b−1)エチレンと下記式(I)又は(II)で示される単量体との共重合体、および(b−2)エチレン系アイオノマー樹脂を包含し、これらを単独で、または2以上を組み合わせて使用することができる。
CH2=C(R1)−COOR2 …(I)
CH2=C(R1)−OCOR2 …(II)
(式中、R1は水素又はメチル基を表し、R2は水素又は炭素数1〜10個のアルキル基を表す。)
【0035】
(b−1):エチレンと式(I)又は(II)で示されるモノマーとの共重合体
上記式(I)又は(II)で示されるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸ブチル等が挙げられる。
【0036】
成分(b−1)における、式(I)又は(II)で示される単量体の含有量は10重量%以上が好ましく、より好ましくは10〜50重量%であり、さらに好ましくは20〜50重量%であり、特に好ましくは20〜40重量%である。式(I)又は(II)で示されるモノマーの含有量が10重量%未満では十分な熱融着性が得られない。50重量%を超えた場合は、ドローダウンが激しくなり、製造性及び複合成形体の成形性が著しく悪化する。
【0037】
(b−2):エチレン系アイオノマー樹脂
エチレン系アイオノマー樹脂は、エチレン/α、β−不飽和カルボン酸共重合体又はエチレン/α、β−不飽和カルボン酸/α、β−不飽和カルボン酸エステル共重合体のカルボキシル基の一部が金属イオンにより中和、架橋されているものである。
【0038】
上記共重合体を構成するα、β−不飽和カルボン酸としては、好ましくは炭素数3〜8個のものが使用され、より好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸等が使用される。また、α、β−不飽和カルボン酸エステルとしては、好ましくは炭素数4〜8個のものが使用され、より好ましくはアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸ブチル、フタル酸ジメチル等が使用される。α、β−不飽和カルボン酸として、特に好ましくはアクリル酸、メタクリル酸が使用され、α、β−不飽和カルボン酸エステルとして、特に好ましくはアクリル酸イソブチルが使用される。
【0039】
上記金属イオンとしては、1〜3価の原子価を有する金属イオン、とくに元素周期律表におけるI、II、III、IV及びVII族の1〜3価の原子価を有する金属イオンである。例えば、Na+、K+、Li+、Zn++等が挙げられる。これらの金属イオンは、2種以上の混合成分であってもよく、アンモニウムイオンとの混合成分であってもよい。これらの金属イオンの中で、特にZn++、Na+が好ましい。
【0040】
成分(b)としては、グリップ性の点から(b−1)の方が好ましい。
【0041】
成分(b)の具体例としては、好ましくはエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン・メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン・メタクリル酸共重合体(EMAA)、およびエチレン・メタクリル酸共重合体の分子間を金属イオンで架橋したエチレン系アイオノマー樹脂が挙げられる。中でも、ポリカーボネート系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレタン系エラストマーおよびポリエステル系エラストマーに対する熱融着性に優れることから、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)およびエチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)が特に好ましい。
【0042】
また、成分(b)のMFR(190℃、21.18N荷重)は、1dg/分以上であるのが好ましく、より好ましくは10〜50dg/分である。MFRが1dg/分未満であると、得られる組成物の射出成形性及び熱融着性が悪化する。MFRが50dg/分を超えると、得られる組成物の押出成形性及び圧縮永久歪みが悪化する。
ここで、MFRは、JIS K−6924(190℃、21.18N)に準拠して測定される値である。
【0043】
成分(b)の市販例としては、三井・デュポンポリケミカル株式会社製のEVAFLEX P−3307(EV150)(MFR30dg/分、酢酸ビニル含有量33重量%、引張強度9MPa)、P−2807(EV250)(MFR15dg/分、酢酸ビニル含有量28重量%、引張強度14MPa)、P−2805(EV260)(MFR6dg/分、酢酸ビニル含有量28重量%、引張強度22MPa)、P−2505(EV360)(MFR2dg/分、酢酸ビニル含有量25重量%、引張強度27MPa)およびP−1907(EV450)(MFR15dg/分、酢酸ビニル含有量19重量%、引張強度13MPa)、ならびに三井・デュポンポリケミカル株式会社製のA−713(エチルアクリレート含有量25重量%、MFR20dg/分、引張強度8MPa)、A−702(エチルアクリレート含有量19重量%、MFR5dg/分、引張強度14MPa)、A−719(エチルアクリレート含有量14重量%、MFR1dg/分、引張強度24MPa)およびA−707(エチルアクリレート含有量17重量%、MFR25dg/分、引張強度7MPa)が挙げられる。その中でもEVAFLEX P−3307(EV150)及びA−713が好ましい。
【0044】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物は、成分(a)および(b)を10〜75:90〜25、好ましくは20〜70:80〜30の重量比で含む。成分(b)の配合量が前記上限値を超えると成形性に劣る。成分(b)の配合量が前記下限値未満では、得られる組成物の耐油性、成形性および熱融着性が悪化する。
【0045】
成分(c):
成分(c)は有機過酸化物であり、成分(a)を架橋させ、耐油性を向上させる働きをする。
【0046】
有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5− ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3 、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert‐ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t―ヘキシルパーオキシ)−3,3、5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(4メチルベンゾイル)パーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ−2エチルヘキサネート、ジ−ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ジ(tert−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(tert−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(4,4−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、tert−ブチル−3,5,5−トリメチルヘキサネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(3−メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert―ヘキシルパーオキシベンゾネート、2,5−ジメチル−2,5−(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,2−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ブタン、ジ(2−tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ−tert−ヘキシルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどを挙げることができる。
【0047】
これらのうち、臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(t―ヘキシルパーオキシ)−3,3、5−トリメチルシクロヘキサンが最も好ましい。
【0048】
成分(c)の配合量は、成分(a)および(b)の合計100重量部に対して0.01〜2.5重量部、好ましくは0.1〜1.5重量部である。前記上限値を超えると、製造性が悪くなり、得られる組成物の成形性および熱融着性も低下する。前記下限値未満では耐油性を向上させる効果がない。
【0049】
成分(d):石油樹脂
成分(d)は任意成分であり、柔軟性を付与し、機械的特性を向上させる目的で添加され得る。
【0050】
成分(d)は、石油精製工業、石油化学工業の各種工程、特にナフサの分解工程で得られる不飽和炭化水素を原料として共重合して得られる樹脂を包含し、例えば、C5留分を原料とした脂肪族系石油樹脂、C9留分を原料とした芳香族系石油樹脂、ジシクロペンタジエンを原料とした脂環族系石油樹脂、並びにテルペン系樹脂およびこれらの2種以上を共重合した共重合系石油樹脂、さらにこれらを水素化した水素化石油樹脂などを例示することができる。上記水素化石油樹脂は、上記の樹脂を当業者に公知の方法により水素添加して得られる。
【0051】
成分(d)の具体例としては、出光石油化学(株)製のアイマーブ(水素化石油樹脂)、荒川化学工業(株)製のアルコン(水素化石油樹脂)、ヤスハラケミカル(株)製のクリアロン(水素化テルペン樹脂)、トーネックス(株)製のエスコレッツ(脂肪族系炭化水素樹脂)が挙げられる。
【0052】
成分(d)の配合量は、配合する場合、成分(a)および(b)の合計100重量部に対して1〜60重量部、好ましくは3〜30重量部である。前記上限値を超えるとタック性が顕著になり、成形性が悪化する。
【0053】
成分(e):テルペン系オイル
成分(e)は任意成分であり、柔軟性および成形性を向上させる目的で添加することができる。
【0054】
成分(e)は、主として北米や中国本土に産するアカマツやクロマツの立木から採取される生松脂を水蒸気蒸留して得られる精油、また同樹のパルプ生産の副生物のテレピン油、あるいはオレンジの皮から抽出される精油またはこれらの精油から異性化反応等により誘導されたオレンジ油等から得られる。具体的には、炭素数10からなるテルペン系炭化水素およびテルペンエーテルが挙げられる。
【0055】
炭素数10からなるテルペン系炭化水素としては、ミルセン(沸点167℃)、カレン(沸点167℃)、オシメン、ピネン(沸点155℃)、リモネン(沸点176℃)、カンフェン(沸点160℃)、テルピノレン(沸点187℃)、トリシクレン(沸点153℃)、テルピネン(沸点170〜180℃)、フェンチェン(沸点150〜155℃)、フェランドレン(沸点170〜175℃)、シルベストレン(沸点175℃)、サビネン(沸点163℃)、P−メンテン−1(カルボメンテン)(沸点176℃)、P−メンテン−3(沸点168℃)、P−サイメン、P−メンタン(沸点168℃)等が挙げられる。そのなかでも特に、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、P−メンテン−1、P−メンテン−3、P−サイメン、P−メンタンが好ましい。
【0056】
炭素数10からなるテルペンエーテルとしては、1,4−シネオール(沸点173℃)、1,8−シネオール(沸点173℃)、ピノール(沸点180℃)等が挙げられる。その中でも特に、1,4−シネオール、1,8−シネオールから選ばれた少なくとも1種類が好ましい。
【0057】
成分(e)の配合量は、配合する場合、成分(a)および(b)の合計100重量部に対して1〜30重量部、好ましくは3〜10重量部である。前記上限値を超えると臭気が顕著になり、また樹脂との熱融着性が低下する。
【0058】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分のほかに、本発明の目的を損なわない範囲で、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、ステアリン酸、シリコーンオイル等の離型剤、ポリエチレンワックス等の滑剤、着色剤、顔料、無機充填剤(アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ウァラステナイト、クレー)、発泡剤(有機系、無機系)、難燃剤(水和金属化合物、赤燐、ポリリン酸アンモニウム、アンチモン、シリコーン)などを配合することができる。
【0059】
酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−p−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル、トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン等のフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。このうちフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤が特に好ましい。発泡剤としては、エクスパンセルが好ましい。
【0060】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(a)〜(c)、および必要に応じて他の成分を、単軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等を用いて、混練温度160〜200℃で溶融混練することにより製造することができる。
【0061】
こうして得られる熱可塑性エラストマー組成物は、様々な樹脂との熱融着性に優れ、かつ成形性および耐油性に優れ、複合成形用として有用である。本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物と熱融着可能な樹脂(以下、「被着樹脂」と言う)としては、特に、ポリカーボネート系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂(PETG)、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、PETとPCTの共重合体(PCTG)、イソフタル酸変性ポリエステル系共重合体(PCTとポリシクロヘキサンジメチレンイソフタレートとの共重合体;PCTA)等の芳香族系ポリエステル、脂肪族系ポリエステル、液晶ポリエステル等)、ウレタン系樹脂、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーおよびポリオレフィン系樹脂(特にポリプロピレン、ポリエチレン)が挙げられる。中でも、ポリカーボネート系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系エラストマーおよびポリエチレンが好ましく、特に好ましくは、ポリカーボネート系樹脂およびウレタン系エラストマーである。なお、被着樹脂としてオレフィン樹脂を使用すると、複合成形体に柔軟な感触を付与することができる。
【0062】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物の熱融着性は、下記で述べる熱融着試験で測定される剥離強度によって示される。複合成形用としての使用に必要な剥離強度は好ましくは1N/mm以上、より好ましくは3N/mm以上である。
【0063】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物は、熱融着による種々の複合成形法、例えば複合押出成形法および複合射出成形法(インサート方式、二色方式、コアバック方式)を用いて複合成形体を製造することができる。
【0064】
複合押出成形法では、内側と外側、あるいは上側と下側の2層に分割された金型を用いて被着樹脂および本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物を押出成形して、複合成形体を得ることができる。また、第1の金型に被着樹脂を入れ、所望の形状に押出成形した後、この全部または一部を覆うような構造の金型に本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物を挿入し、押出成形して、複合成形体を得ることもできる。
【0065】
インサート射出成形法では、被着樹脂および熱可塑性エラストマー組成物のうち、いずれか一方を射出成形、押出成形、シート成形、フィルム成形などの成形法により成形し、賦形された成形品を金型内にインサートした後、前記成形品と金型との間の空隙に他方を射出成形することにより複合成形体を製造できる。インサート射出成形においては、金型内にインサートする成形品を可能な限り高温に予熱しておくことが好ましい。
【0066】
二色射出成形法では、二台以上の射出成形機を用いて、被着樹脂および熱可塑性エラストマー組成物のいずれか一方の成分を金型に射出成形し、金型の回転又は移動により、金型のキャビティを交換し、前記成形品と金型との間に形成された空隙に他方の成分を射出成形することにより複合成形体を製造できる。
【0067】
コアバック射出成形法では、被着樹脂および熱可塑性エラストマー組成物のうち、いずれか一方の成分を金型に射出成形し、金型のキャビティー容積を拡大させ、前記成形品と金型との間に形成された空隙に他方の成分を射出成形することにより複合成形体を製造できる。
【0068】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物は、射出成形に特に適している。
【0069】
この他に、キャビティスライド成形方法およびストリッパプレート回転成形方法を使用することもできる。キャビティスライド成形方法は、1次成形終了後、型開きを行い、キャビティをスライドさせ2次型で型閉めを行い、複合成形体を得る方法であり、水平方向と垂直方向との二通りがある。ストリッパプレート回転成形方法は、1次成形品をストリッパープレート(または中間プレート)に残し、このプレートを回転させ、2次成形を行って複合成形体を得る方法である。
【0070】
こうして得られた複合成形体は、例えば、建材パッキンやペングリップおよび工具グリップ等の各種グリップとして有用である。
【0071】
具体的な用途としては、グレージングチャンバー、ガスケット、はば木、周り縁、框(かまち)、エッジ、水回りのパッキン、目地材、風呂蓋、ワイヤープロテクター、二重窓(インナーウインドー、樹脂サッシ)等の建築用部材、冷蔵庫ドアパッキン、パンツプレス、エアコンパネル等の家電用部材、輸液用ゴム栓、混注可能管等の医療用部材等が挙げられる。
【0072】
グリップ用途としては、例えば、ドライバー、プライヤー、ペンチ、鋸、等の工具のグリップ類、工具箱グリップ、自動車部品としてパーキングブレーキカバー、ハンドル、ドア、シフトノブ、グラブレール、印鑑グリップ、ペングリップ等の文房具滑り止めグリップ類、手摺り滑り止め類、ドアノブ滑り止め類、シャワーグリップ、スキーストックグリップ、釣り竿グリップ、グリップシフト、グリップ等の自転車部品、ステッキグリップ、ハンドグリップ等の美容健康用品、カメラ・双眼鏡部品におけるグリップが挙げられる。
【0073】
次に本発明を実施例および比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例で用いた評価方法及び原料は以下の通りである。
【0074】
評価方法
(1)比重:JIS K 7112に準拠し、試験片として1mm厚プレスシートを用いて測定を行なった。
(2)硬度:JIS K 7215に準拠し、試験片として6.3mm厚プレスシートを用い、デュロメータ硬さ・タイプAにて測定した。
(3)引張強さ、100%伸び応力、伸び:JIS K 6301に準拠し、試験片は1mm厚プレスシートを3号ダンベル型に打抜いて使用した。引張速度は500mm/分とした。
(4)射出成形性:型締め圧120トンの射出成形機を用い、成形温度220℃、金型温度40℃、射出速度55mm/秒、射出圧力600kg/cm2、保圧圧力400kg/cm2、射出時間6秒、冷却時間45秒で13.5cm×13.5cm×2mmのシートを成形した。デラミネーション、表層剥離、変形及び著しく外観を悪化させるようなフローマークの有無を目視により判断し、次の基準で評価した。なお、表2には、成形時に乾燥を必要とする組成物が含まれているため、乾燥を行わないで成形した場合(未乾燥)および成形前に80℃×2時間の乾燥を行った場合の両方について試験を行った。表1の組成物は何れも乾燥が不要であるので、未乾燥で試験を行った。
○:良い(変形及び著しいフローマークがない)
×:悪い(変形及び著しいフローマークがある)
(5)押出成形性:未乾燥で50mm×1mmのシートを押出成形し、ドローダウン性、表面外観や形状を観察し、次の基準で評価した。
○:良い(ドローダウンせず、表面にフィッシュアイが見られず、良好な形状を示す。)
×:悪い(ドローダウンする、表面にフィッシュアイが見られる、または形状不良を示す。)
(6)体積変化率(耐油性):JIS K 6258に準拠し、試験片は1mm厚プレスシートをダンベルで3号型に打抜いて使用した。パラフィンオイルを使用し、これに50℃×24時間浸漬した後の体積変化率を測定した。
(7)熱融着性:下記被着樹脂を芯材とし、下記実施例または比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物を表皮材として、下記に述べる複合射出成形法により複合成形体(幅25mm×長さ125mm×厚み8mmの短冊状試験片)を製造した。これを用いて、下記に述べる180度剥離試験(引張速度200mm/min)を行って芯材/表皮材の融着界面の剥離強度(N/mm)を測定した。
【0075】
被着樹脂:
PC(ポリカーボネート):IR2500(商標:出光石油化学株式会社製)、比重1.20、MFR8dg/分(300℃、1.2kg荷重)、曲げ弾性率2350MPa
APEL(飽和環状ポリオレフィン):APL 6509(商標:三井化学株式会社製)、比重1.02、MFR30dg/分(230℃、2.16kg荷重)、曲げ弾性率2700MPa
PET(ポリエチレンテレフタレート):1030(商標:クラレ株式会社製)、比重1.56、曲げ弾性率9810MPa
PETG(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート):Easter PETG 6763(商標:EASTMAN CHEMICAL社製)、比重1.27、曲げ弾性率2100MPa
TPU(熱可塑性ポリウレタン):T−8180(商標:DIC Bayer ポリマー株式会社製)、比重1.19、引張破断点強度34MPa、破断点伸度550%。
COPE(熱可塑性ポリエステルエラストマー):Hytrel3046(商標:東レ・デュポン株式会社製)、比重1.07、MFR10dg/分(190℃、2.16kg荷重)、引張破断点強度23.4MPa、破断点伸度1070%。
PP(ポリプロピレン):BC8(日本ポリケム株式会社製)、比重0.90、MFR1.8dg/分(230℃、2.16kg荷重)、曲げ弾性率1000MPa
PE(ポリエチレン):HJ490(日本ポリケム株式会社製)、比重0.957、MFR20dg/分(190℃、2.16kg荷重)、引張破断点強度29MPa、引張破断点伸度200%
【0076】
複合成形体の製造法
被着樹脂を、使用した樹脂メーカーの推奨射出条件に準拠して成形した。概略的には、下記の成形条件にて行った。
射出成形機:日精樹脂工業社製FS−120
成形温度:180〜200℃
金型温度:40℃
射出速度:55mm/秒
射出圧力:1400kg/cm2
保圧圧力:400kg/cm2
射出時間:6秒
冷却時間:45秒
このようにして作成した被着樹脂板を金型内にインサートし(なお、このとき図2にも示されているように、樹脂板の一部に紙を両面テープで貼り付けておく)、下記実施例または比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物を下記の成形条件で射出成形して、図1に示す平面および図2に示す断面を有する試験片を作成した。図2において、2は熱可塑性エラストマー組成物であり、3は被着樹脂であり、4は紙であり、Aは熱融着部分である。
【0077】
熱可塑性エラストマー組成物の射出条件は下記の通りである。
射出成形機:日精樹脂工業社製FS−120
成形温度:200〜210℃
金型温度:30℃
射出速度:55mm/秒
射出圧力:1400kg/cm2
保圧圧力:0kg/cm2
射出時間:6秒
冷却時間:45秒
被着樹脂毎に成形温度を変更した。又、保圧圧力は、剥離試験に影響を与えるため、保圧圧力を無し(0kg/cm2)とした。
【0078】
測定法
180度剥離強さの測定は、図3に示すように熱可塑性エラストマー組成物2を折り曲げ、被着樹脂3と熱可塑性エラストマー組成物2の両端をそれぞれ矢印の方向に引張ることにより行った。
【0079】
使用原料
成分(a):
(1)SEBS(スチレン−エチレン・ブテン−スチレン共重合体):クレイトンE−1818E(商標;クレイトンポリマージャパン株式会社製)、スチレン含有量30重量%、数平均分子量160,000、重量平均分子量200,000、分子量分布1.25、水素添加率90%以上
(2)SEEPS(スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体):SEPTON4077(商標;(株)クラレ社製)、スチレン含有量:30重量%、比重:0.91、溶液粘度300mPa・s(5重量%)
(3)水添SBR(水素添加スチレン・ブタジエンゴム、H−SBR):ダイナロン1320P(商標;JSR社製 )、スチレン含有量:10重量%、比重:0.89、MFR:3.5g/10分(230℃・2.16kg)、数平均分子量:227,000、重量平均分子量:295,000、分子量分布:1.31、水素添加率:90%以上
【0080】
成分(b):
(1)EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体):EV150(商標; 三井・デュポンポリケミカル株式会社製)、酢酸ビニル含有量33重量%、MFR30dg/分、比重0.96、硬さ67(HDA)
(2)EEA(エチレン−エチルアクリレート共重合体):A−713(商標; 三井・デュポンポリケミカル株式会社製)、エチルアクリレート含有量25重量%、MFR20dg/分、比重0.94、硬さ77(HDA)
(3)EMA(エチレン−メチルアクリレート共重合体):XG−500S (商標; 三菱化学株式会社製)、メチルアクリレート含有量20重量%、MFR15dg/分、硬さ33(HDD)
(4)EMMA(エチレン−メチルメタアクリレート共重合体):アクリフトWH401(商標; 住友化学工業株式会社製)、メチルメタアクリレート含有量20重量%、MFR20dg/分、比重0.94、硬さ91(HDA)
【0081】
成分(c):
有機過酸化物:パーヘキサTMH(商標;日本油脂株式会社製)、(1,1−ビス(t―ヘキシルパーオキシ)−3,3、5−トリメチルシクロヘキサン、比重0.91、引火点20.5℃、発火点389℃
【0082】
成分(d):
石油樹脂:アイマーブP−140(商標;出光石油化学社製)、C5−芳香族系完全水添石油樹脂、軟化点:140℃、平均分子量:910、密度:1.03
【0083】
成分(e):
テルペン系オイル:ウッディリバー#10(ヤスハラケミカル(株)製)、比重:0.80、粘度(25℃):1.14cP、沸点:167〜170℃、引火点:41.5℃
【0084】
成分(f):
酸化防止剤:HP2215(商標;チバスペシャリティケミカルズ社製)、ヒンダードフェノール/フォスファイト/ラクトン系複合酸化防止剤成分
【実施例1】
【0085】
実施例1〜8および比較例1〜5
表1および2に示す量(重量部)の各成分を混練温度200℃で、二軸押出機を用いて溶融混練して熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。得られたペレットを用いて上記(1)〜(7)の試験を行った。結果を表1および2に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
表1から明らかなように、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物は各種樹脂との熱融着性に優れ、かつ成形性および耐油性に優れる。
【0089】
一方、表2から明らかなように、成分(b)の配合量が本発明の下限未満である比較例1の組成物は、樹脂との熱融着性および耐油性に劣り、射出成形性及び、押出成形性も悪い。成分(b)の配合量が本発明の上限を超える比較例2の組成物は、成形性に劣る。また、成分(c)の配合量が本発明の下限未満である比較例3の組成物は、耐油性に劣る。成分(c)の配合量が本発明の上限を超える比較例4の組成物は、成形性が悪く、樹脂との熱融着性も悪い。
【0090】
比較例5は、熱可塑性エラストマー組成物としてポリエステル系熱可塑性エラストマー(プリマロイA1600N(商標:三菱化学株式会社製)、比重1.00、MFR5dg/分(230℃、2.16kg荷重)、引張破断点強度8.7MPa、引張破断点伸度910%)を使用した例である。ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、比重が高く、また機械的特性に劣る。さらに、未乾燥時の成形性が劣る。これは、成形前に乾燥工程が必要であることを意味する。これに対して、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物は、そのような乾燥工程を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】熱融着試験で用いた試験片を説明する平面図である。
【図2】熱融着試験で用いた試験片を説明する断面図である。
【図3】熱融着試験を説明する図である。
【符号の説明】
【0092】
2 熱可塑性エラストマー組成物
3 被着樹脂
4 紙
A 熱融着部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体および/またはその水素添加物10〜75重量部、および
(b)極性エチレン系共重合体90〜25重量部
の合計100重量部、ならびに
(c)有機過酸化物0.01〜2.5重量部
を含有し、複合成形に用いられることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
(d)石油樹脂1〜60重量部
をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の複合成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
(e)テルペン系オイル1〜30重量部
をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の複合成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
ポリカーボネート系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーおよびポリオレフィン系樹脂から選ばれる少なくとも1の樹脂との複合成形用であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合成形用熱可塑性エラストマー組成物と、ポリカーボネート系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーおよびポリオレフィン系樹脂から選ばれる少なくとも1の樹脂とから成ることを特徴とする複合成形体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−131686(P2006−131686A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319817(P2004−319817)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】