説明

複合材料、および工業用内視鏡

【課題】調製が容易で、ゴム弾性を有し、耐ガソリン性、耐オゾン性、帯電防止性に優れた複合材料、および該複合材料を用いた工業用内視鏡の提供。
【解決手段】ニトリル基含有共重合ゴムと、ポリエステル系熱可塑性ポリウレタンと、金属塩を含むポリアルキレンオキサイドとを含有する複合材料であって、前記金属塩がアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩であり、かつ、前記ニトリル基含有共重合ゴムとポリエステル系熱可塑性ポリウレタンの合計100質量部に対して、前記金属塩を含むポリアルキレンオキサイド中の金属塩の含有量が0.5〜3.0質量部であることを特徴とする複合材料、および該複合材料を成形した部材を備えることを特徴とする工業用内視鏡。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料、および工業用内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム弾性を有する柔軟材料は、押出成形や射出成形等の成形加工が容易であるため、様々な分野で使用されている。
特に、各種機械、原子炉等の内部の傷や腐食等の観察および検査を行う際に用いられる工業用内視鏡や、自動車部品などの部材に用いられる柔軟材料には、耐ガソリン性に優れることが求められる。また、柔軟材料には、オゾンによって劣化しにくいこと(耐オゾン性)も求められることがある。
【0003】
耐ガソリン性と耐オゾン性に優れた柔軟材料としては、ニトリル基含有共重合ゴム(例えばニトリルゴム(NBR)など)と、アクリル樹脂とを含有するポリマーアロイ(特許文献1)や、NBRとウレタンゴムとを含有するポリマーアロイ(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−91506号公報
【特許文献2】特開2004−59695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のポリマーアロイは帯電防止性に劣るため、静電気を帯びやすく、放電の際に発生する火花によって引火の原因となることがあった。これは、ポリマーアロイに含まれるアクリル樹脂が、炭素骨格を有することで電子移動が困難となり、絶縁性に優れることが原因であると考えられる。
また、特許文献2に記載のポリマーアロイは、NBRとウレタンゴムを混合して調製されるが、ゴム同士を混ぜ合わせるには高い技術が必要であり、調製が困難であった。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、調製が容易で、ゴム弾性を有し、耐ガソリン性、耐オゾン性、帯電防止性に優れた複合材料、および該複合材料を用いた工業用内視鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の複合材料は、ニトリル基含有共重合ゴムと、ポリエステル系熱可塑性ポリウレタンと、金属塩を含むポリアルキレンオキサイドとを含有する複合材料であって、前記金属塩がアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩であり、かつ、前記ニトリル基含有共重合ゴムとポリエステル系熱可塑性ポリウレタンの合計100質量部に対して、前記金属塩を含むポリアルキレンオキサイド中の金属塩の含有量が0.5〜3.0質量部であることを特徴とする。
また、前記ポリエステル系熱可塑性ポリウレタンと金属塩を含むポリアルキレンオキサイドとが架橋していることが好ましい。
また、本発明の工業用内視鏡は、前記複合材料を成形した部材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、調製が容易で、ゴム弾性を有し、耐ガソリン性、耐オゾン性、帯電防止性に優れた複合材料、および該複合材料を用いた工業用内視鏡を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
[複合材料]
本発明の複合材料は、ニトリル基含有共重合ゴムと、ポリエステル系熱可塑性ポリウレタンと、金属塩を含むポリアルキレンオキサイドとを含有する。
【0010】
<ニトリル基含有共重合ゴム>
ニトリル基含有共重合ゴムは、分子内にニトリル基を有するゴムであり、高分子鎖同士の架橋点が少なく、高分子鎖が自由に動けるため、柔軟性に優れる。
複合材料がニトリル基含有共重合ゴムを含有することで、優れたゴム弾性を発現できる。
ニトリル基含有共重合ゴムは、不飽和ニトリル単量体と、該不飽和ニトリル単量体と共重合可能な他の単量体とを共重合してなる。
【0011】
不飽和ニトリル単量体としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
ニトリル基含有共重合ゴム中の不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、30〜50質量%が好ましく、30〜40質量%がより好ましい。不飽和ニトリル単量体単位の含有量が30質量%以上であれば、耐ガソリン性が向上すると言う利点がある。一方、不飽和ニトリル単量体単位の含有量が50質量%以下であれば、低温特性(耐寒性)が向上するという利点がある。
【0012】
他の単量体としては、共役ジエン単量体、非共役ジエン単量体、α−オレフィン、芳香族ビニル単量体などが挙げられる。
共役ジエン単量体としては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられる。
非共役ジエン単量体としては、例えば1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどが挙げられる。
α−オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−メチルペンテンなどが挙げられる。
芳香族ビニル単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。
【0013】
ニトリル基含有共重合ゴムとしては、柔軟性に優れ、後述するポリエステル系熱可塑性ポリウレタンと容易に混ざり合う点で、アクリロニトリルと1,3−ブタジエンの共重合体(ニトリルゴム:NBR)が好ましい。
NBRとしては、アクリロニトリル含有量(結合AN量)が42%以上のNBR(極高ニトリルNBR)、36%以上42%未満のNBR(高ニトリルNBR)、31%以上36%未満のNBR(中高ニトリルNBR)、25%以上31%未満のNBR(中ニトリルNBR)、25%未満のNBR(低ニトリルNBR)のいずれを用いてもよい。NBRは、結合AN量によってその性質が変わるため、複合材料の用途に応じて使い分ければよい。例えば各種機械、原子炉等の内部を検査する工業用内視鏡や、自動車部品(特にエンジン周辺)などの部材に複合材料を用いる場合には、結合AN量が高いNBRが好ましく、低温環境下で使用される部材に複合材料を用いる場合には、結合AN量が低いNBRが好ましい。
【0014】
ニトリル基含有共重合ゴムは、公知の方法により不飽和ニトリル単量体と他の単量体とを共重合させて得ることができる。
また、ニトリル基含有共重合ゴムとしては、市販品を用いることができる。例えばNBRとしては、JSR株式会社製の「JSR」シリーズ、日本ゼオン株式会社製の「Nipol」シリーズなどが挙げられる。
【0015】
ニトリル基含有共重合ゴムの含有量は、複合材料100質量%中、50〜90質量%が好ましく、60〜80質量%がより好ましい。ニトリル基含有共重合ゴムの含有量が50質量%以上であれば、得られる複合材料のゴム弾性を良好に維持できる。一方、ニトリル基含有共重合ゴムの含有量が90質量%以下であれば、後述するポリエステル系熱可塑性ポリウレタンや、金属塩を含むポリアルキレンオキサイドの割合を十分に確保できるので、得られる複合材料の耐ガソリン性、耐オゾン性、低温特性、帯電防止性を良好に維持できる。
【0016】
<ポリエステル系熱可塑性ポリウレタン>
ポリエステル系熱可塑性ポリウレタン(以下、「ポリエステル系TPU」という場合がある。)は、分子内に化学的に強固なウレタン結合(−NHCOO−)を有するため、結合力のある多数の分子間水素結合を有し、耐ガソリン性に優れる。また、分子構造中に炭素−炭素二重結合がないため、オゾンにより分子構造が変化しにくく、耐オゾン性に優れる。加えて、低温特性をも有する。
複合材料がポリエステル系TPUを含有することで、優れた耐ガソリン性、耐オゾン性、および低温特定を発現できる。
なお、ポリエステル系TPUの代わりに、例えばエーテル系熱可塑性ポリウレタンを用いた場合、複合材料の耐ガソリン性が低下する。
【0017】
ポリエステル系TPUは、ポリエステルポリオールと、ジイソシアネート化合物とを反応させて得ることができる。
ポリエステルポリオールとしては、例えばジカルボン酸(例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸等)とジオール(例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等)とを重縮合したもの、ラクトン類を開環重合したものなどが挙げられる。
ジイソシアネート化合物としては、例えばトリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソイアネートなどが挙げられる。
【0018】
また、ポリエステル系TPUとしては、市販品を用いることができ、例えば株式会社クラレ製の「クラミロンU」の1000番シリーズ、2000番シリーズ、3000番シリーズ、8000番シリーズなどが挙げられる。
【0019】
ポリエステル系TPUの含有量は、複合材料100質量%中、10〜50質量%が好ましく、20〜40質量%がより好ましい。ポリエステル系TPUの含有量が10質量%以上であれば、得られる複合材料の耐ガソリン性、耐オゾン性、低温特性を良好に維持できる。一方、ポリエステル系TPUの含有量が50質量%以下であれば、上述したニトリル基含有共重合ゴムや、後述する金属塩を含むポリアルキレンオキサイドの割合を十分に確保できるので、得られる複合材料のゴム弾性、帯電防止性を良好に維持できる。
【0020】
また、ポリエステル系TPUは、上述したニトリル基含有共重合ゴムとの質量比(ニトリル基含有共重合ゴム:ポリエステル系TPU)が50:50〜90:10となるように複合材料に配合されるのが好ましく、より好ましくは60:40〜80:20である。ポリエステル系TPUの割合が少ないと、複合材料の耐ガソリン性、耐オゾン性、低温特性が低下する傾向にある。一方、ポリエステル系TPUの割合が多いと、複合材料のゴム弾性が低下する傾向にある。
【0021】
<金属塩を含むポリアルキレンオキサイド>
金属塩を含むポリアルキレンオキサイドは、金属塩が電解質として作用するため、電気を通しやすくする。そのため、金属塩を含むポリアルキレンオキサイドはイオン導電剤の役割を果たし、複合材料に帯電防止性を付与する。帯電防止性を付与された複合材料は、帯電した静電気を逃し、静電気の発生を防ぐ。
金属塩を含むポリアルキレンオキサイドの主成分となるポリマー成分(ポリアルキレンオキサイド成分)としては、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、これらの共重合体(PEO−PPO)などが挙げられる。
【0022】
金属塩は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩である。
アルカリ金属塩としては、例えば過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、有機ホウ素錯体リチウム塩などが挙げられる。
アルカリ土類金属塩としては、例えば過塩素酸マグネシウム、過塩素酸カルシウムなどが挙げられる。
【0023】
金属塩を含むポリアルキレンオキサイドとしては、市販品を用いることができる。例えば日本カーリット株式会社製の「PEL」シリーズなどが挙げられる。
【0024】
金属塩を含むポリアルキレンオキサイドは、該ポリアルキレンオキサイド中の金属塩の含有量が、上述したニトリル基含有共重合ゴムとポリエステル系TPUの合計100質量部に対して、0.5〜3.0質量部となるように、複合材料に含有される。金属塩の含有量が0.5質量部以上であれば、導電性が発揮されるため、帯電防止性に優れた複合材料が得られる。一方、金属塩の含有量が3.0質量部を超えても導電性の向上は頭打ちになる。加えて、金属塩の含有量が増えるということは、必然的に複合材料中のポリアルキレンオキサイド成分の割合も増えることになるので、得られる複合材料がオイル状となり、所望の形状に成形することができなくなる。
金属塩の含有量は、1.0〜2.5質量部が好ましい。
【0025】
<架橋剤>
本発明の複合材料は、架橋剤をさらに含有することが好ましい。架橋剤を含有すれば、ポリエステル系TPUと金属塩を含むポリアルキレンオキサイドとが架橋するため、金属塩を含むポリアルキレンオキサイドがブリードアウトするのを効果的に抑制できる。従って、金属塩が複合材料中でより均一に、かつ安定して分散するため、導電性が長期間発揮されるようになり、複合材料の帯電防止性を長期間保てる。また、金属塩を含むポリアルキレンオキサイドがブリードアウトしにくくなるので、複合材料を成形した部材の外観も良好に維持できる。
【0026】
架橋剤としては、ポリオール化合物、イソシアネート化合物、イソシアヌル酸化合物などが挙げられる。
ポリオール化合物としては、例えばポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールなどが挙げられる。
イソシアネート化合物としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
イソシアヌル酸化合物としては、トリアリルイソシアヌレート、トリス−2−ヒドロキシエチルイソシアヌレート、トリスカルボキシエチルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレートなどが挙げられる。
【0027】
架橋剤の含有量は、上述したニトリル基含有共重合ゴムとポリエステル系TPUの合計100質量部に対して、3〜10質量部が好ましい。架橋剤の含有量が3質量部未満であると、ポリエステル系TPUと金属塩を含むポリアルキレンオキサイドとが十分に架橋しにくくなる。一方、架橋剤の含有量が10質量部を超えると、複合材料の成形加工性が低下する傾向にある。
【0028】
<調製方法>
本発明の複合材料は、種々の慣用の方法で調製することができ、例えばニトリル基含有共重合ゴムと、ポリエステル系TPUと、金属塩を含むポリアルキレンオキサイドと、必要に応じて架橋剤やその他の成分とを、二軸ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機で混合することで調製できる。また、予め架橋剤を用いてポリエステル系TPUと金属塩を含むポリアルキレンオキサイドとを架橋させて架橋物とし、該架橋物と、ニトリル基含有共重合ゴムと、必要に応じてその他の成分とを混合してもよい。
【0029】
ニトリル基含有共重合ゴムは、ポリエステル系TPUや、上述したポリエステル系TPUと金属塩を含むポリアルキレンオキサイドの架橋物と容易に混ざる。従って、特許文献2に記載のようにゴム同士を混ぜ合わせる場合に比べて、本発明の複合材料は調製が容易である。
また、ポリエステル系TPUと、金属塩を含むポリアルキレンオキサイド中のポリアルキレンオキサイド成分とは相性がよいため、これらは均一に混ざり合う。よって、金属塩を含むポリアルキレンオキサイド中の金属塩が複合材料中で均一に分散しやすく、優れた帯電防止性を発現できる。
なお、金属塩を単独で複合材料に配合しても、金属塩は複合材料中で均一に分散しにくいため、導電性が十分に発揮されず、帯電防止性が低下する。
【0030】
以上説明した本発明の複合材料は、ニトリル基含有共重合ゴムと、ポリエステル系TPUと、金属塩を含むポリアルキレンオキサイドとを含有するので、調製が容易で、ゴム弾性を有し、耐ガソリン性、耐オゾン性、帯電防止性に優れる。
【0031】
本発明の複合材料は、押出成形や射出成形等の通常の成形加工により、所望の形状に成形される。
本発明の複合材料は、各種用途に使用できるが、ゴム弾性を有し、耐ガソリン性、耐オゾン性、帯電防止性に優れるので、各種機械、原子炉等の内部の傷や腐食等の観察および検査を行う際に用いられる工業用内視鏡として好適である。また、自動車部品の部材(例えば燃料ホースなど)や、静電気対策を必要とする各種部材(例えば燃料タンクキャップ、チューブ、ホースなど)の材料にも適している。
【0032】
[工業用内視鏡]
本発明の工業用内視鏡は、上述した本発明の複合材料を成形した部材を備えたものである。
かかる部材としては、ゴム弾性を有することが要求されることから、工業用内視鏡のうち、被検体に挿入する挿入部を外装するチューブなどが好適である。
【0033】
本発明の工業用内視鏡は、耐ガソリン性、耐オゾン性、帯電防止性に優れた本発明の複合材料を成形した部材を備えているので、各種機械、原子炉等の内部、具体的にはボイラ、タービン、エンジン、化学プラント等の内部の傷や腐食等の観察および検査を行うための内視鏡として好適である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例で用いた原料、および評価方法は以下の通りである。
【0035】
[原料]
<ニトリル基含有共重合ゴム>
・極高ニトリルNBR:アクリロニトリルと1,3−ブタジエンの共重合体(JSR株式会社製、「JSR N215SL」、結合AN量:49%)。
・中ニトリルNBR:アクリロニトリルと1,3−ブタジエンの共重合体(JSR株式会社製、「JSR N241」、結合AN量:29%)。
【0036】
<熱可塑性ポリウレタン>
・ポリエステル系TPU:ポリエステル系熱可塑性ポリウレタン(株式会社クラレ製、「クラミロンU8165」)。
・ポリエーテル系TPU:ポリエーテル系熱可塑性ポリウレタン(株式会社オカダエンジニアリング製、「ガムセンAR650」)。
【0037】
<アクリル樹脂>
・PMMA:ポリメタクリル酸メチル(帝人化成株式会社製、「パンライトL1250Y」)。
【0038】
<金属塩を含むポリアルキレンオキサイド>
・Li塩含有PAO:過塩素酸リチウムを10%含有するポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドの共重合体(日本カーリット株式会社製、「PEL−20A」)。
・Mg塩含有PAO:過塩素酸マグネシウムを約10%含有するようにポリエチレンオキサイドへ溶解させた高分子固体電解質。
【0039】
<架橋剤>
・ポリカーボネートポリオール:日本ポリウレタン工業株式会社製、「HC−231」)。
・ポリエーテルポリオール:DIC株式会社製、「パンデックスGCB−41」)。
【0040】
[評価方法]
<帯電防止性の評価>
試験片(縦150mm×横150mm×厚さ2mm以上)の帯電防止性を以下のようにして評価した。
絶縁性の板(縦300mm×横300mm×厚さ10mm以上)上に試験片を配置し、該試験片上に表面抵抗計(シムコジャパン株式会社製、「ST−3」)を設置して、試験片の表面抵抗値を測定した。表面抵抗値が小さいほど帯電防止性に優れることを意味する。
なお、上記の方法で表面抵抗値を測定できなかった試験片については、表面抵抗計の代わりに絶縁抵抗計(フルーク社製、「1507」)を用いて試験片の絶縁抵抗値を測定し、その測定値を表面抵抗値に換算した。
【0041】
<耐オゾン性の評価>
試験片(縦60mm×横10mm×厚さ2mm)の耐オゾン性を、JIS−K6259に準拠して、以下のようにして評価した。
オゾン濃度50pphm、温度40℃の空気中に、引張ひずみ(20%伸長)を与えた試験片を静的に曝露した。24時間、48時間、72時間、96時間経過した時の試験片の状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて耐オゾン性を評価した。
NC:クラックの発生が認められない。
A1、A2、・・・B1、B2、・・・C1、C2、・・・:クラックの発生が認められたが、試験片は切断していない。なお、アルファベットはクラック数を表し、Aに比べてBが多く、Bに比べてCが多く、・・・ことを意味する。また、アルファベットの後ろの数字はクラックの大きさを表し、数字が大きいほどクラックが大きいことを意味する。
Cut:クラックが大きくなり、かつ試験片が切断した。
【0042】
<低温特性の評価>
JIS−K6301に準拠して、試験片(縦60mm×横10mm×厚さ2mm)の脆化温度を測定した。脆化温度が低いほど低温特性に優れることを意味する。
【0043】
<耐ガソリン性の評価>
試験片(縦60mm×横10mm×厚さ2mm)の耐ガソリン性を、JIS−K6258に準拠して、以下のようにして評価した。
試験片をJIS1号ガソリン(25℃)中へ浸漬し、72時間経過した後の体積変化度(ΔV[%])を求めた。体積変化度が小さいほど耐ガソリン性に優れることを意味する。
【0044】
<ゴム弾性の評価>
試験片(縦150mm×横25mm×厚さ6mm)のゴム弾性を、JIS−K6260に準拠して、以下のようにして評価した。
○:亀裂なし、もしくは長さ1.0mm未満の亀裂あり。
×:長さ1.0mm以上の亀裂あり。
【0045】
[実施例1]
ニトリル基含有共重合ゴムとして極高ニトリルNBRを50質量部と、熱可塑性ポリウレタンとしてポリエステル系TPUを50質量部と、金属塩を含むポリアルキレンオキサイドとしてLi塩含有PAOを25質量部(金属塩の量:2.5質量部)とを二軸混練機を用いて混合し、複合材料を調製した。
得られた複合材料を、射出成形機を用いて所定の大きさに成形し、成形品(試験片)を作製した。得られた試験片について、帯電防止性、耐オゾン性、低温特性、耐ガソリン性、ゴム弾性を評価した。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例2〜5、比較例1〜7]
各成分の配合組成を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして複合材料を調製し、得られた複合材料を用いて試験片を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1中、「金属塩の含有量」とは、ニトリル基含有共重合ゴムと熱可塑性ポリウレタンの合計100質量部に対する、金属塩を含むポリアルキレンオキサイド中の金属塩の量のことである。
また、帯電防止性の評価結果については、表面抵抗値[10Ω]の「□」に当てはまる数値を表1に記載した。例えば実施例1の場合、試験片の表面抵抗値は106.1Ωであったため、表1には「6.1」と記載した。
【0049】
表1から明らかなように、各実施例で得られた複合材料の成形品(試験片)は、ゴム弾性を有し、耐ガソリン性、耐オゾン性、帯電防止性に優れていた。また、いずれの複合材料も容易に調製できた。
また、実施例1、4を比較すると、結合AN量の少ない中ニトリルNBRを用いた実施例4で得られた複合材料の成形品の方が、脆化温度が低く、低温特性により優れていた。
また、実施例1、5を比較すると、金属塩の含有量が多い実施例1で得られた複合材料の成形品の方が、表面抵抗値が低く、帯電防止性により優れていた。
【0050】
一方、ポリエステル系TPUを配合しない比較例1で得られた複合材料の成形品は、耐オゾン性、低温特性、耐ガソリン性に劣っていた。
ニトリル基含有共重合ゴムを配合しない比較例2で得られた複合材料の成形品は、ゴム弾性に劣っていた。
熱可塑性ポリウレタンとして、ポリエステル系TPUの代わりにポリエーテル系TPUを用いた比較例3で得られた複合材料の成形品は、耐ガソリン性に劣っていた。また、耐ガソリン性の評価後の試験片を確認したところ、一部に溶解が認められた。
金属塩の含有量が0.1質量部と少ない比較例4で得られた複合材料の成形品は、表面抵抗値が高く帯電防止性に劣っていた。
金属塩の含有量が10.0質量部、または5.0質量部と多い比較例5、7で得られた複合材料は、ポリアルキレンオキサイド成分が過剰となったためオイル状となり、成形できなかった。
ポリエステル系TPUの代わりにアクリル樹脂を用いた比較例6で得られた複合材料の成形品は、耐オゾン性に著しく劣っていた。また、表面抵抗値が高く、帯電防止性にも劣っていた。これは、ポリエステル系TPUの代わりに用いたアクリル樹脂が、炭素骨格を有することで電子移動が困難となり、絶縁性に優れるため、成形品の表面抵抗値が高くなったものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリル基含有共重合ゴムと、ポリエステル系熱可塑性ポリウレタンと、金属塩を含むポリアルキレンオキサイドとを含有する複合材料であって、
前記金属塩がアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩であり、
かつ、前記ニトリル基含有共重合ゴムとポリエステル系熱可塑性ポリウレタンの合計100質量部に対して、前記金属塩を含むポリアルキレンオキサイド中の金属塩の含有量が0.5〜3.0質量部であることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記ポリエステル系熱可塑性ポリウレタンと金属塩を含むポリアルキレンオキサイドとが架橋していることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
請求項1に記載の複合材料を成形した部材を備えることを特徴とする工業用内視鏡。

【公開番号】特開2013−18880(P2013−18880A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153643(P2011−153643)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】