説明

複合材料の製造方法

【課題】2元系セラミックスを含有とする複合材料に比して強度および硬度に優れる複合材料を提供する。
【解決手段】Ti、Al、V、Nb、Zr、Hf、Mo、Ta、Cr、Wの群から選択される少なくとも2種の金属元素とN、さらにはCを構成成分とする多元系セラミックスと、Fe、Ni、Co、またはこれらのうち少なくとも1種の金属元素を構成成分とする合金との混合粉末を成形体とし、該成形体を焼結させることにより複合材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種以上の金属元素およびN、さらにはCを構成元素とする多元系セラミックスと金属とからなる複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子とセラミックス粉末がともに焼結されることにより製造される複合材料は、金属に由来する高靱性と、セラミックスに由来する高硬度および高強度とを兼ね備えており、種々の分野で広汎に使用されている。例えば、炭化タングステンとコバルトが焼結されてなる炭化タングステン−コバルト系超硬合金や、炭化チタンとモリブデンが焼結されてなる炭化チタン系サーメットは、切削工具の刃具として採用されている。これらには、炭化ニオブ等がさらに配合されることもある。
【0003】
ところで、上記したような複合材料は、それ自体で充分な硬度を有するものであるが、用途によってはさらに高硬度な複合材料が希求される場合がある。そこで、ダイヤモンドや正方晶系窒化ホウ素(c−BN)等、さらに硬度が高いセラミックスを含有する複合材料が用途に応じた形状で製造されることもある。
【0004】
しかしながら、ダイヤモンドやc−BNを含有する複合材料は、耐酸化性が良好ではなく、しかも、これらが高価であるので複合材料自体の価格も高騰してしまうという不具合がある。そこで、多くの場合、上記したような複合材料の表面を、物理的気相成長(PVD)法または化学的気相成長(CVD)法によりTiCやTiN等の高硬度物質からなる薄膜で被覆するようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PVD法やCVD法により薄膜を形成する場合、複合材料の製造コストが高騰してしまう。この理由は、PVD法やCVD法では、反応効率が低くかつ反応速度も遅いので、薄膜を効率よく形成することができないからである。また、PVD装置やCVD装置の反応室が所定の容積であるので、ワークの大きさや形状に制約を受けるという不都合がある。さらに、この薄膜は、高応力下では容易に剥離してしまう。
【0006】
このように、複合材料を高硬度化しようとすると、複合材料自体が化学的に不安定なものとなるという不具合や、また、製造コストの高騰を惹起するという不具合を招いてしまう。
【0007】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、2元系セラミックスを含有する複合材料に比して高強度および高硬度を有する複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、Ti、Al、V、Nb、Zr、Hf、Mo、Ta、Cr、Wの群から選択される少なくとも2種の金属元素およびNを構成元素とする多元系セラミックスと、Fe、Ni、Coまたはこれらのうち少なくとも1種の金属元素を構成元素とする合金の群から選択される金属とを含有することを特徴とする。すなわち、本発明に係る複合材料は、例えば、Ti−Al−NやTi−Al−V−Nb−Zr−N等のように表される、3元系以上の複合窒化物セラミックスを含有するものである。
【0009】
このような多元系セラミックスを含有する複合材料は、TiNやTiC、NbC等の2元系セラミックスを含有する焼結体に比して高硬度を示す。また、本発明に係る複合材料の相対密度は理想密度に近く、したがって、該複合材料は高強度かつ高靱性も示す。
【0010】
さらに、上記に加えてCを構成元素とするようにしてもよい。すなわち、本発明に係る複合材料における多元系セラミックスは、例えば、Ti−Al−Nb−(C,N)等のように表される複合炭窒化物セラミックスであってもよい。この場合、上記した複合窒化物セラミックスを含有する複合材料に比して一層高硬度を示すようになるので好適である。
【0011】
なお、CとNとの原子比は、C/N<1であることが好ましい。C/Nが1以上であると、多元系セラミックス粉末の種類によっては複合材料の硬度が低下することがあるからである。
【0012】
いずれの複合材料においても、多元系セラミックスの割合が60〜97重量%であり、かつ前記金属の割合が40〜3重量%であることが好ましい。多元系セラミックスの割合が60重量%未満であると、耐摩耗性や強度に乏しい複合材料となるからである。また、多元系セラミックスの割合が97重量%を超えると、複合材料の強度および靱性が低下し、かつ応力拡大係数が大きくなってしまうからである。
【0013】
上述された本発明の目的、特徴および効果は、本発明の好適な実施の形態を例示する添付図面と明細書の下記の記載からより一層明確となるであろう。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、2種以上の金属とN、さらにはCを構成元素とする多元系セラミックスを含有しているので、TiCやWC等の2元系セラミックスを含有する複合材料、すなわち、従来技術に係る複合材料に比して高強度および高硬度を示すという効果が達成される。
【0015】
この複合材料は、例えば、チップやバイト等の切削加工用刃具または金型等として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る複合材料につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
本実施の形態に係る複合材料は、多元系セラミックスと金属とを含有する。
【0018】
ここで、本実施の形態においていう多元系セラミックスとは、2種以上の金属元素とNとを構成元素とする複合窒化物セラミックス、または、2種以上の金属元素とNとCとを構成元素とする複合炭窒化物セラミックスである。
【0019】
多元系セラミックスを構成する金属元素は、Ti、Al、V、Nb、Zr、Hf、Mo、Ta、Cr、Wの群から選択された2種以上である。これらは、互いに窒化または炭窒化可能な合金を構成する。
【0020】
Nは、上記した金属元素の2種以上を構成元素とする合金が焼成処理される際の雰囲気ガスに含まれた窒素ガスを源として供給されたものである。すなわち、前記金属元素の2種以上を構成元素とする合金を窒素ガスで窒化することにより複合窒化物セラミックスが得られる。
【0021】
Cをさらに構成元素とする複合炭窒化物セラミックスの場合、Cは、カーボンブラック等の粉末炭素材を源として供給される。複合炭窒化物セラミックス成分を含有する複合材料は、複合窒化物セラミックス成分を含有する複合材料に比して一層高硬度を示す。
【0022】
なお、Cを構成元素として含む場合、CとNとの原子比がC/N<1であることが好ましい。C/Nが1以上であると、多元系セラミックス粉末の種類によっては複合材料の硬度が低下することがあるからである。より好ましい原子比は、0.4<C/N<0.9である。
【0023】
一方、複合材料を構成する金属としては、Fe、Ni、Co、またはこれらのうち少なくとも1つの金属元素を構成元素とする合金が選定される。合金の場合、これら以外の構成元素としては、Cr、Mo、V、Mn、Ti、Al、W、Si、Ta等が例示される。すなわち、例えば、Feに代替えしてFe−Mo合金を金属としてもよい。勿論、FeおよびFe−Mo合金をともに金属としてもよい。
【0024】
このような金属は高融点であり、かつ高靱性である。したがって、これらを金属として含有する複合材料は、耐熱性および高靱性を示すようになる。
【0025】
ここで、複合材料においては、多元系セラミックスの割合が60〜97重量%であり、かつ前記金属の割合が40〜3重量%であることが好ましい。多元系セラミックスの割合が60重量%未満でありかつ金属の割合が40重量%を超えると、複合材料としては、耐摩耗性や強度が乏しいものとなるからである。また、多元系セラミックスの割合が97重量%を超えかつ金属の割合が3重量%未満であると、複合材料の強度および靱性が低下し、かつ応力拡大係数が大きくなるからである。この理由は、焼結する際に多元系セラミックス粉末の緻密化が進行し難くなり、このために相対密度が低い複合材料となるからである。
【0026】
この複合材料は、以下のようにして製造することができる。
【0027】
まず、 図1に示されるフローチャートに従って、多元系セラミックスの粉末を製造する。
【0028】
最初に、メカニカルアロイング工程S1において、金属粒子、還元剤および窒化促進剤を混合する。金属粒子としては、Ti、Al、V、Nb、Zr、Hf、Mo、Ta、Cr、Wの群の中から少なくとも2種の粉末が選択される。これらは、メカニカルアロイングにより容易に合金を生成する。
【0029】
還元剤は、これらの金属の表面に形成された酸化物膜を還元するためのものである。すなわち、通常、これらの金属は、その表面が空気中の酸素で酸化されることにより形成された酸化物膜で被覆されている。還元剤は、焼成処理時に自身が酸化されることによってこの酸化物膜を還元する。
【0030】
このように機能する還元剤の好適な例としては、Mg、Ca、Sr、Baに代表されるアルカリ土類金属または粉末炭素材を挙げることができる。これらはともに上記金属に比して還元力が強く、したがって、上記金属に対して有効な還元剤となる。
【0031】
このうち、粉末炭素材を使用することが好ましい。粉末炭素材は取り扱いが容易であり、しかも、安価でコスト的に有利であるからである。また、粉末炭素材が酸化物膜と反応することによりCOまたはCO2が生成される。これらはガスであるので、焼成処理工程S2を行う際に容易かつ速やかに焼成炉外へと排出することができる。すなわち、酸化物が残留することはない。このため、高純度の多元系セラミックス粉末を得ることができるからである。さらに、粉末炭素材はC源としても作用するので、複合窒化物セラミックスに比して高硬度の複合炭窒化物セラミックスを生成することができるからである。
【0032】
なお、粉末炭素材の添加割合は、0.1重量%〜11.6重量%とすることが好ましい。0.1重量%未満では、還元剤としての能力に乏しい。また、11.6重量%を超えると、遊離炭素が生成されるようになる。また、例えば、金属としてAl粉末を選択した場合、Al4C3も生成されるようになる。このようなものを含有する焼結体は、硬度および靱性に乏しい。
【0033】
還元剤としてMg粉末を使用する場合、金属の粉末100gに対して0.1〜5gを添加するようにすればよい。また、Ba粉末を使用する場合、金属の粉末100gに対して0.5〜10gを添加するようにすればよい。
【0034】
窒化促進剤は、上記した金属の窒化を促進するためのものである。また、粉末炭素材が存在する場合、炭窒化をも促進する。
【0035】
窒化促進剤の好適な例としては、アルカリ土類金属、第VIIA族元素または第VIII族元素を挙げることができる。このうち、第VIIA族元素または第VIII族元素を使用することが好ましい。これらは、後述する酸処理工程S3により酸溶液中に溶出され易く、したがって、多元系セラミックスを高純度で得ることができるからである。なお、第VIII族元素としてはFe、Co、Niが例示され、第VIIA族元素としてはMnが例示される。このうち、上記金属の窒化または炭窒化を促進する作用に最も優れていることから、Mnを使用することが好ましい。
【0036】
窒化促進剤の好ましい添加割合は、窒化促進剤の種類によって異なるので一義的には決定されない。例えば、Mnを使用する場合には3重量%以下、Fe、Co、Niを使用する場合には5重量%以下とすることが好ましい。前記した割合を超えて窒化促進剤を添加すると、いずれの場合においても、未反応の窒化促進剤の残留量またはこれらの窒化物や炭窒化物の生成量が多くなる。したがって、酸処理工程S3でこれらを溶出することが容易ではなくなるので、焼結体の硬度を向上することが容易ではなくなる。
【0037】
ここで、還元剤および窒化促進剤としては、アルカリ土類金属、第VIIA族元素または第VIII族元素の純物質だけでなく、化合物も使用することができる。例えば、Fe、Niの粉末に代替してカルボニル鉄、カルボニルニッケルの粉末を使用するようにしてもよい。このような化合物粉末は、純物質粉末に比して粒径が著しく小さい。このため、混合粉末中に均一に分散されるので、純物質粉末に比して少ない添加量で窒化または炭窒化を促進することができる。したがって、省資源化を図ることができ、結局、コスト的に有利となる。
【0038】
以上の金属粒子、還元剤および窒化促進剤の混合は、選択した2種の金属同士がメカニカルアロイングにより合金を生成するような条件下で行う。具体的には、アトライタを構成する水冷容器内に金属粒子、還元剤、窒化促進剤および鋼球を収容して該水冷容器を封止し、該水冷容器内に挿入された回転翼を回転動作させる。これにより金属粒子同士が高エネルギ下で摩砕および圧接され、その結果、合金粉末が生成される。また、合金粉末中に還元剤および窒化促進剤が略均一に分散される。
【0039】
このようにして得られた混合粉末を、次いで、焼成処理工程S2において、窒素ガス存在下で焼成処理する。この際、粉末炭素材を含まない混合粉末においては合金の窒化が進行し、一方、粉末炭素材を含む混合粉末においては炭窒化が進行する。
【0040】
なお、窒素ガスは、合金を窒化または炭窒化可能な程度に雰囲気ガスに含まれていればよい。すなわち、窒素ガスのみを雰囲気ガスとしてもよく、窒素ガスと他の不活性ガス、例えば、アルゴンガス等との混合ガスを雰囲気ガスとしてもよい。
【0041】
また、焼成処理の温度は、1000℃〜1600℃とすることが好ましい。1000℃未満では窒化または炭窒化が効率的に進行しない。また、1600℃を超えても窒化または炭窒化の進行速度は向上しないので、多元系セラミックスの製造コストが高騰する。
【0042】
焼成処理工程S2においては、まず、合金の表面に形成された酸化物膜が還元される。すなわち、合金の表面は、該合金を構成する金属が空気中の酸素により酸化されて形成された酸化物膜で被覆されている。この酸化物膜が還元剤で還元され、活性な合金となる。
【0043】
還元剤として粉末炭素材を使用した場合、該粉末炭素材は、酸化物膜から酸素を奪取することにより自身は酸化されてCOまたはCO2となる。これらはともにガスであるので、雰囲気ガスに同伴させることにより反応炉外に容易かつ速やかに排出することができる。
【0044】
酸化物膜が還元されることにより、合金は、その表面が極めて活性な状態となる。このため、表面から内部に亘り容易に窒化される。なお、還元剤として粉末炭素材を使用した場合には、余剰の粉末炭素材がC源としても作用する。すなわち、この場合、合金は表面から内部に亘り炭窒化される。
【0045】
焼成処理工程S2に際しては、窒化促進剤も酸化されることがある。また、還元剤としてアルカリ土類金属を使用した場合、アルカリ土類金属は酸化物から酸素を奪取することにより自身が酸化され、酸化物として多元系セラミックス粉末中に残留する。すなわち、焼成処理工程S2により得られた多元系セラミックス粉末中には、未反応の還元剤および窒化促進剤、還元剤の酸化物および窒化促進剤の酸化物が不純物として混在している。これらの不純物が混在した多元系セラミックス粉末を原料として焼結体を製造した場合、該焼結体は低硬度を示すことがある。
【0046】
そこで、次に、酸処理工程S3において、不純物を多元系セラミックス粉末から分離除去する。具体的には、得られた多元系セラミックス粉末を酸溶液中に浸漬することにより、不純物を溶出する。
【0047】
この酸溶液には、フッ化水素酸またはホウフッ化水素酸が含まれていることが好ましい。これらは上記した不純物の溶解能に優れ、したがって、多元系セラミックス粉末から不純物を効率よく分離除去することができるからである。
【0048】
ろ過を行ってろ液と粉末とを分離した後、粉末を中和処理して水洗することにより、高純度の多元系セラミックス粉末が得られるに至る。
【0049】
次いで、このようにして得られた多元系セラミックス粉末と、金属粒子との混合粉末を調製する。金属粒子としては、Fe、Ni、Co、または上記したようなこれらを構成元素とする合金の粉末が選定される。この際、上記したように、多元系セラミックス粉末と金属粒子との重量比は、多元系セラミックス粉末:金属粒子=60:40〜97:3とすることが好ましい。
【0050】
最後に、この混合粉末に成形加重を加えて成形体を作製した後、該成形体を焼結させる。すなわち、多元系セラミックス粉末を粒成長させる。これにより、製品としての複合材料が得られるに至る。焼結温度や時間は、用いた多元系セラミックス粉末の種類にもよるが、1350〜1550℃で15分以上とすれば充分である。
【0051】
多元系セラミックス粉末および金属粒子を原料とする複合材料は、TiN、TiC、WC、MoC等の2元系セラミックスおよび金属粒子を原料とする複合材料に比して高硬度、高靱性および高強度を示す。多元系セラミックス自体が2元系セラミックスに比して硬度、靱性および強度に優れているからである。
【0052】
要するに、複合材料の原料として従来から採用されてきた2元系セラミックスに代替えして多元系セラミックスを採用することにより、従来技術に係る複合材料に比して強度、靱性および硬度に優れる複合材料を構成することができる。
【0053】
なお、焼結を行う際の雰囲気は、窒素であることが好ましい。この場合、成形体中の多元系セラミックス粉末が一層窒化し、その結果、該多元系セラミックス粉末が丸みを帯びるようになる。このような形状の多元系セラミックスを含有する複合材料は、強度・靱性に一層優れるようになるからである。
【0054】
この複合材料は、チップやバイト等の切削加工用刃具または金型等として使用することができる。すなわち、多元系セラミックス粉末と金属粒子との混合粉末を所定の形状に成形した後に焼結させることにより、高強度、高靱性でかつ高硬度を有する切削加工用刃具や金型等を得ることができる。
【0055】
なお、前記成形体を仮焼して多孔質焼結体とした後、前記多元系セラミックス粉末の粒成長を促進する粒成長促進剤からなるコーティング膜を該多孔質焼結体の表面に形成するようにしてもよい。このコーティング膜の構成材料の好適な例としては、ホウ素化合物を挙げることができる。特に、h−BN(六方晶系窒化ホウ素)からなるコーティング膜は、容易にかつ低コストで形成することができるので好適である。
【0056】
コーティング膜は、例えば、キシレンやトルエン、あるいはアセトン等の溶媒にh−BN等のような粒成長促進剤が分散されてなる溶液を多孔質焼結体の表面に噴霧した後、溶媒を揮散除去することにより形成することができる。または、化学的気相成長(CVD)法や物理的気相成長(PVD)法により形成するようにしてもよい。
【0057】
焼結の際、コーティング膜(粒成長促進剤)の存在により、多元系セラミックス粉末の粒成長が促進される。したがって、相対密度が一層大きくなる。このため、得られた複合材料が高強度・高靱性を示すようになる。
【0058】
[実施例]
W−Ti−Nb−N−C系セラミックス粉末、W−Ti−Nb−Al−N−C系セラミックス粉末、W−Ti−Zr−Nb−Ta−Al−N−C系セラミックス粉末、またはW−Ti−Zr−Hf−Nb−V−N−C系セラミックス粉末と、Co粉末とを種々の重量比で混合した。なお、多元系セラミックス粉末の平均粒径は2.5μmであり、Co粉末の平均粒径は1.4μmであった。
【0059】
各混合粉末を150MPaの圧力で70mm×20mm×20mmの直方体に成形した。そして、W−Ti−Nb−N−C系セラミックス粉末を含有する成形体のみ927℃で15分仮焼した後、h−BNが分散されたキシレン溶液を仮焼体の表面にスプレー塗布した。さらに、この仮焼体を窒素雰囲気中において1400〜1500℃で60分焼成処理することにより焼結させて複合材料を得た。一方、これ以外の成形体については、仮焼もh−BNが分散されたキシレン溶液の塗布も行うことなく、窒素雰囲気中において1400〜1500℃で60分焼成処理することにより焼結させて複合材料とした。これらをそれぞれ実施例1〜4とする。
【0060】
また、比較のために、平均粒径2.5μmのWC粉末と平均粒径1.4μmのCo粉末を混合し、アルゴンと一酸化炭素の混合雰囲気中で焼成処理を行ったことを除いては実施例2〜4に準拠して複合材料を得た。これを比較例1とする。
【0061】
次いで、実施例1〜4および比較例の各複合材料を中央部で切断した後、その断面を鏡面研磨した。そして、この断面におけるビッカース硬度(Hv)を測定した。コバルトの割合とHvとの関係を 図2に示す。この 図2から、コバルトの割合に関わらず、実施例1〜4の複合材料が比較例の複合材料に比して著しく高硬度を示すことが明らかである。
【0062】
その一方で、実施例2〜4および比較例の各複合材料につきJIS規格に準じて抗折強度試験片を切り出し、抗折強度を測定した。コバルトの割合と抗折強度との関係を 図3に示す。この図3から、コバルトの割合の全範囲において、実施例1〜4の複合材料が比較例の複合材料に比して高強度を有することが明らかである。
【0063】
すなわち、実施例1〜4の複合材料は、比較例の複合材料に比して強度および硬度がともに優れる。また、コバルトの割合が同一であるので、実施例1〜4の複合材料の靱性が比較例の複合材料よりも低下することはない。換言すれば、本実施の形態に係る複合材料は、従来技術に係る複合材料に比して同等の靱性が確保されながら、硬度および強度が向上されている。
【0064】
また、 図2および図3から、コバルトの割合が2.5重量%である場合と3重量%である場合とを比較すると、Hvおよび抗折強度に著しい差があることが諒解される。この理由は、前者の相対密度が95%程度であり、後者の相対密度が略100%であったことから、前者では緻密化が充分に達成されていないためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施の形態に係る複合材料の原材料である多元系セラミックス粉末の製造過程を示すフローチャートである。
【図2】実施例1〜4および比較例の各複合材料におけるCoの割合に対するビッカース硬度の変化を示すグラフである。
【図3】実施例2〜4および比較例の各複合材料におけるCoの割合に対するビッカース硬度の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti、Al、V、Nb、Zr、Hf、Mo、Ta、Cr、Wの群から選択される少なくとも2種の金属元素、NおよびCを構成元素とし、かつCとNとの原子比がC/N<1である多元系セラミックスと、
Fe、Ni、Coまたはこれらのうち少なくとも1種の金属元素を構成元素とする合金の群から選択される金属と、
を含有することを特徴とする複合材料。
【請求項2】
請求項1記載の複合材料において、前記多元系セラミックスの割合が60〜97重量%であり、かつ前記金属の割合が40〜3重量%であることを特徴とする複合材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti、Al、V、Nb、Zr、Hf、Mo、Ta、Cr、Wの群から選択される少なくとも2種の金属元素、NおよびCを構成元素とし、かつCとNとの原子比がC/N<1である4元系以上の複合炭窒化物セラミックスと、Fe、Ni、Coまたはこれらのうち少なくとも1種の金属元素を構成元素とする合金の群から選択される金属とを含有する複合材料の製造方法であって、
Ti、Al、V、Nb、Zr、Hf、Mo、Ta、Cr、Wの群の中から少なくとも2種の金属粒子をメカニカルアロイングによって合金粒子とする工程と、
前記合金粒子を、粉末炭素材および窒素ガス存在下で焼成処理することで炭窒化して複合炭窒化物セラミックス粉末とする工程と、
前記複合炭窒化物セラミックス粉末と、Fe、Ni、Coまたはこれらのうち少なくとも1種の金属元素を構成元素とする合金の群から選択される金属粉末とを混合して混合物とする工程と、
前記混合物を成形して成形体とする工程と、
前記成形体を焼成して複合材料とする工程と、
を有することを特徴とする複合材料の製造方法
【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、前記複合炭窒化物セラミックス粉末の割合60〜97重量%とし、かつ前記金属粉末の割合40〜3重量%として前記混合物を調製することを特徴とする複合材料の製造方法
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法において、前記2種以上の金属粒子の他に還元剤としてのアルカリ土類金属または粉末炭素材と、窒化促進剤としてのアルカリ土類金属、第VIIA族元素または第VIII族元素とを混合して前記メカニカルアロイングを行い、前記合金粒子を炭窒化して前記複合炭窒化物セラミックス粉末とした後に該炭窒化物セラミックス粉末を酸溶液中に浸漬して不純物を溶出することを特徴とする複合材料の製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−348386(P2006−348386A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199768(P2006−199768)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【分割の表示】特願2002−551492(P2002−551492)の分割
【原出願日】平成13年12月12日(2001.12.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】