説明

複合材料中間材用樹脂組成物

【課題】 耐熱性と靱性のいずれにも優れる複合材料を得られる中間材用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)〜(D)を必須成分とする複合材料中間材用樹脂組成物である。
(A)20〜60モル%のビスフェノールF型エポキシ樹脂、20〜50モル%のp−アミノフェノール型エポキシ樹脂、20〜50モル%の化学式(I)で示されるフェノール化合物を予備反応して得られるオリゴマー15〜60質量部
(B)化学式(II)で表されるナフトールグリシジルエーテル構造を有するエポキシ樹脂10〜40質量部
(C)その他の2〜4官能エポキシ樹脂15〜75質量部
(D)ジアミノジフェニルスルフォン…理論当量の90〜175%当量

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性と靭性に優れる複合材料を与える複合材料中間材用樹脂組成物に関する。この複合材料中間材から得られる複合材料は航空機、自動車、一般工業等に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来複合材料用マトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂がその接着性や高剛性のために多用されてきたが、複合材料に対する要求性能が年々高度になるにつれ、その要求の全てを満足することが困難になっている。即ち複合材料に要求される主な特性は耐熱性と靱性であるがこの2つの特性は一般に相反する傾向を示し両立するのは極めて困難な状況にある。
【0003】
例えば耐熱性が要求される用途にはN,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)を主成分とし、ジアミノジフェニルスルフォン(DDS)を硬化剤とするエポキシ樹脂組成物が広く使用されてきたが、この組成物は耐熱性、剛性等には優れるものの、樹脂の靱性が低い為、靭性の要求される用途にはほとんど適用出来ない。又靱性を付与する為にビスフェノールA型エポキシ樹脂に代表される2官能のエポキシ樹脂を主成分として用いた場合には耐熱性が低下し、要求性能を満足しない場合が多い。
【0004】
これらを解決するためにN,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)/アミン系硬化剤系で種々検討がなされているが耐熱性を保持しつつ高い靭性をもつ樹脂組成物は得られていない(特許文献1−3)。
【特許文献1】特開昭60−28420号公報
【特許文献2】特開昭60−28421号公報
【特許文献3】特開昭60−58419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは従来技術では困難であった耐熱性と靱性のいずれにも優れる複合材料中間材を開発すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は下記(A)〜(D)を必須成分とする複合材料中間材用樹脂組成物である。
【0007】
(A)20〜60モル%のビスフェノールF型エポキシ樹脂、20〜50モル%のp−アミノフェノール型エポキシ樹脂、20〜50モル%の化学式(I)で示されるフェノール化合物を予備反応して得られるオリゴマー15〜60質量部
【化5】

【0008】
〔式中Xは水素原子及び/またはメチル基を示す〕
(B)化学式(II)で表されるナフトールグリシジルエーテル構造を有するエポキシ樹脂10〜40質量部
【化6】

【0009】
(C)その他の2〜4官能エポキシ樹脂15〜75質量部
(D)ジアミノジフェニルスルフォン…理論当量の90〜175%当量
そして、成分(B)としては化学式(III)で表されるエポキシ樹脂、あるいは化学式(IV)で表されるエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【化7】

【0010】
本発明の(C)成分は、全体の物性バランスをとるため成分(B)に応じて適切に選択される必要がある。(B)が化学式(III)で表されるエポキシ樹脂である場合は(C)としてN,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンが好ましく、(B)が化学式(IV)で表されるエポキシ樹脂である場合は、(C)としてN,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンおよびビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。
【化8】

【発明の効果】
【0011】
本発明は高い耐熱性を維持しながら靭性に優れる複合材料中間材用樹脂組成物を与える。これを用いた複合材料中間材から得られる複合材料は航空機、自動車、一般工業等に有用に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における(A)成分は20〜60モル%のビスフェノールF型エポキシ樹脂、20〜50モル%のp−アミノフェノール型エポキシ樹脂、20〜50モル%の一般式(I)で示されるフェノール化合物を反応させて得られるオリゴマーである。
【0013】
(A)成分におけるビスフェノールF型エポキシ樹脂の比率が20モル%未満では十分な靱性が得られないし、60モル%を越えると最終組成物の耐熱性が低下する。より好ましい範囲は30〜40モル%である。
【0014】
(A)成分におけるp−アミノフェノール型エポキシ樹脂の比率が20モル%未満では十分な耐熱性が得られないし、50モル%を越えると予備反応時にゲル化を起こす可能性が有って好ましくない。より好ましい範囲は40〜50モル%である。
【0015】
本発明におけるビスフェノールF型エポキシ樹脂(a)はエポキシ当量が156〜180であることが好ましい。180を超えると硬化物の架橋密度が低下し、耐熱性、耐溶剤性が大幅に低下する。
【0016】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂、p−アミノフェノール型エポキシ樹脂、フェノール化合物の予備反応は加熱下、必要に応じて触媒の存在下で容易に実施できる。反応の条件は反応が比較的穏やかに進行し、かつフェノール性水酸基の80%以上が反応する条件を適宜設定すればよいが、反応後のオリゴマーには実質的にフェノール性水酸基が含まれないことが望ましい。一般に触媒を用いない場合は100〜150℃で5〜24時間、触媒を用いる場合は100〜130℃で2〜6時間が適当である。予備反応に用いる触媒はエポキシ基とフェノール性水酸基の反応を適度に促進するものであれば特に制限はないがトリフェニルホスフィンが特に好ましい。用いる触媒の量は反応がスムーズに進行する様に適宜設定すれば良い。
【0017】
本発明の(B)成分としては、化学式(II)で表されるナフトールグリシジルエーテル構造を有するエポキシ樹脂が用いられる。なかでも化学式(III)で表される2官能エポキシ樹脂や、化学式(IV)で表される4官能エポキシ樹脂が好適に用いられる。化学式(III)で表される2官能エポキシ樹脂としてはHP4032(大日本インキ化学製、分子量314)が、化学式(IV)で表される4官能エポキシ樹脂としてはHP4700(大日本インキ化学製、分子量648)が挙げられる。
【0018】
本発明の(C)成分は、全体の物性バランスをとるため成分(B)に応じて適切に選択される必要がある。すなわち、(B)が化学式(III)で表されるエポキシ樹脂である場合はN,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンが好ましい。(B)が化学式(IV)で表されるエポキシ樹脂である場合は、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンおよびビスフェノールF型エポキシ樹脂を併用することが好ましい。
【0019】
本発明における樹脂成分(A)、(B)、(C)の比率は下記の比率を満足することが必要である。
【0020】
(A)成分 15〜60質量部
(B)成分 10〜40 〃
(C)成分 15〜75 〃
各成分の比率が上記範囲を満足しない場合には、耐衝撃性か高温吸湿状態での機械特性のいずれかが低下し両者を満足することが困難となる。
【0021】
より好ましい範囲は、
(A)成分 20〜50質量部
(B)成分 20〜35〃
(C)成分 20〜60〃
である。
【0022】
さらに好ましい範囲は
(A)成分 43〜47質量部
(B)成分 23〜27〃
(C)成分 23〜38〃
である。
【0023】
本発明の(D)成分としては4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン等が用いられる。4,4′−ジアミノジフェニルスルホンが特に好ましい。
【0024】
本発明の(D)成分の使用量は次式から計算される理論当量の90〜175%当量が適当であり、100〜150%当量がより好ましい。(D)の使用量が90%当量未満では硬化が不十分となり満足すべき物性が得られず、逆に175%当量を越えると架橋密度が大幅に低下し、耐熱性、耐溶剤性が大幅に低下する。
【0025】
(D)成分の理論量=〔(A)成分の予備縮合に用いたエポキシ基のモル数の和〕−〔(A)成分の予備縮合に用いたフェノール性OHのモル数〕+〔(B)成分及び(C)成分のエポキシ基のモル数の和〕
本発明のエポキシ樹脂組成物は全体の物性バランスをくずさない範囲内で他のエポキシ樹脂を併用することもできる。他のエポキシ樹脂としては例えばノボラック型のエポキシ樹脂が挙げられる。これら(E)成分の使用量は全樹脂成分の20%以下が好ましい。
【0026】
本発明の樹脂組成物には両末端がカルボキシル基のブタジエン−アクリロニトリル共重合体等のいわゆるエラストマー成分、ポリエテールスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリビニルブチラート等の熱可塑性樹脂成分を目的に応じて併用しても良い。これらの成分の使用量は全体の物性バランスをくずさない範囲内で目的に応じて適宜設定すればよい。またシリカ粉末、アエロジル、マイクロバルーン、三酸化アンチモン等の無機化合物を目的に応じて含有してもよい。
【0027】
本発明の樹脂組成物は複合材料のマトリックス樹脂として優れたものであり、耐熱性、耐水性、耐衝撃性等の諸物性に優れた複合材料が得られる。複合材料の補強材としては炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維等が用いられ、これらはミルドファイバー状、チョップドファイバー状、連続繊維、各種織物等の形態で用いることができるが引張強度450MPa以上、引張伸度1.7%以上の高強度・高伸度の炭素繊維が連続繊維状又は各種織物状の形態で最も好適に用いられる。本発明の樹脂組成物と補強用繊維とから複合材料中間体を得る方法については特に制限がなく通常用いている方法がそのまま利用出来る。
【実施例】
【0028】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。実施例中でモル比の計算に用いたエポキシ樹脂の平均分子量は次式より算出した。
【0029】
〔エポキシ当量〕×〔1分子あたりの平均官能基数〕
実施例中における物質名の略称は以下の通りである。
【0030】
jER807 :ジャパンエポキシレジン社製 ビスフェノールF型エポキシ樹脂(平均分子量335)
jER630 :ジャパンエポキシレジン社製 p−アミノフェノール型エポキシ樹脂(平均分子量290)
BXP :三井化学製 4,4′−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)] ビス(2,6−ジメチルフェノール) (分子量403)
HP4032 :大日本インキ化学工業製 ナフタレン型2官能エポキシ樹脂(分子量314)
HP4700 :大日本インキ化学工業製 ナフタレン型4官能エポキシ樹脂(分子量648)
jER604 :ジャパンエポキシレジン社製 N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(平均分子量480)
DDS :和歌山精化製 4,4′−ジアミノジフェニルスルホン (分子量248)
(実施例1,2)
jER807 390g、jER630 260g、BXP 350gを反応容器に仕込み100℃で1時間反応させた後、トリフェニルフォスフィン10gを加えてさらに100℃で3時間反応させて予備反応を完了させ、オリゴマー(A)を得た。
【0031】
(A)成分に対して、(B)成分としてjER807、(C)成分としてjER604、(D)成分としてDDSを表1に示す比率で配合し、60℃で全体が均一になるまで十分に混合した。得られた混合物をガラス板に挟み、180℃で2時間硬化して樹脂板を得た。
【0032】
得られた2mm厚の硬化樹脂板についてASTM D790に準拠して3点曲げ試験を実施し、強度、弾性率、破断伸度を算出した。
【0033】
硬化樹脂の耐熱性は以下のように評価した。レオメータ(レオメトリックス社製RDA−700)にて5℃毎に3分間保持したのち10ラジアン/秒の応力をかけて測定された貯蔵弾性率G’を縦軸に、温度を横軸にグラフ上にプロットし、G’の平坦部と転移領域の接線が互いに交叉する点を硬化樹脂のガラス転移温度とした。また損失弾性率と貯蔵弾性率の比tanδが最大となった温度をtanδmaxとした。
【0034】
結果を表1に示す。いずれも以下に挙げた比較例より高い耐熱性を示した。
【0035】
(比較例)
成分(B)を含まぬ以外は実施例と同様にして、表1に示す比率にて樹脂板を得た。結果を表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(D)を必須成分とする複合材料中間材用樹脂組成物。
(A)20〜60モル%のビスフェノールF型エポキシ樹脂、20〜50モル%のp−アミノフェノール型エポキシ樹脂、20〜50モル%の化学式(I)で示されるフェノール化合物を予備反応して得られるオリゴマー15〜60質量部
【化1】

(B)化学式(II)で表されるナフトールグリシジルエーテル構造を有するエポキシ樹脂10〜40質量部
【化2】

(C)その他の2〜4官能エポキシ樹脂15〜75質量部
(D)ジアミノジフェニルスルフォン…理論当量の90〜175%当量
【請求項2】
請求項1において、(B)が化学式(III)で表されるエポキシ樹脂である複合材料中間材用樹脂組成物。
【化3】

【請求項3】
請求項1において、(B)が化学式(IV)で表されるエポキシ樹脂である複合材料中間材用樹脂組成物。
【化4】

【請求項4】
請求項2において、(C)がN,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンである複合材料中間材用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3において、(C)がN,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンおよびビスフェノールF型エポキシ樹脂である複合材料中間材用樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−242585(P2009−242585A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90793(P2008−90793)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】