説明

複合材料用ドリル並びにそれを用いた機械加工方法及び機械加工装置

【課題】繊維強化複合材料を少なくとも一部に含む被加工材の穿孔加工において、バリ及び層間剥離のほとんど発生しない高品質の穿孔加工を可能にする複合材料用ドリルを提供することを目的とする。
【解決手段】複合材料用ドリル1は、先端切れ刃5が形成された先端部と、先端部の後端側に連接して形成されるとともに先端側外径及び当該先端側外径よりも大径の後端側外径の径差でテーパ形状に形成されたテーパ部4と、テーパ部4の後端側に連接して形成されるとともにテーパ部4の後端側外径よりも大径の仕上げ加工径が形成可能となるように全体が同径に形成されたストレート部3とを有し、テーパ部4の外周には、螺旋状にねじれた外周切れ刃7が形成されて連続的に穿孔径が大きくなるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics;炭素繊維強化プラスチック)に代表される繊維強化複合材料等の複合材料の穿孔加工に好適なドリル、より詳しくは、1回の穿孔作業で加工部分にバリを生じることなく、穿孔加工面に層間剥離を発生させない高品位の穿孔加工を行うことができる複合材料用ドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
CFRPに代表される繊維強化複合材料等の穿孔加工では、ダイヤモンドコートしたストレートの超硬ドリルを用いて行う方法が公知である。
【0003】
しかし、この方法で一気に穿孔加工を行う場合、穿孔時の切削抵抗が大きく穿孔加工部分にバリが発生しやすい。バリの発生を抑える方法としては、例えば、特許文献1では、FPC(Flexible Printed Circuits;フレキシブルプリント基板)加工用のドリルについて、逃げ面を二番逃げ面及び三番逃げ面で形成し、三番逃げ面の逃げ角を33〜50°に設定することでチゼル刃よりも外周側の切れ刃の長さを短縮した点が記載されている。そして、その切れ刃によって生成される切屑の幅が小さくなることで切屑の排出性が向上し、排出性の悪化により発生するバリを抑制している。
【0004】
また、特許文献2及び3には、先端側に小径部を設けて貫通穴のバリを抑制するドリルが記載されている。特許文献4には、CFRP及びアルミ合金板の同時穿孔に適したドリルとして、先端角118°の一次切刃と先端角約30°の二次切刃を連ならせたダブルアングルドリルが記載されている。特許文献5には、CFRPの穿孔に適したドリルとして、下穴を加工する下穴加工部と仕上げ部を持つ形状で、仕上げ部と下穴加工部との径差を0.1mm以上2mm以下とした2段構造ドリルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−88088号公報
【特許文献2】特開2001−54810号公報
【特許文献3】実開平1−99517号公報
【特許文献4】実用新案登録第2602032号公報
【特許文献5】特開2008−836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
繊維強化複合材料、中でもCFRPは、軽量でありながら高い強度と剛性を備えており、航空機の構造材等に多用されている。航空機の構造材に用いられるCFRPは、品質に関する要求が厳しく、例えば、他部材との合わせ面等において突出するバリが生じておらず、CFRPの穿孔面で層間剥離が生じていないことが求められる。
【0007】
ところが、CFRPは、切断しにくい炭素繊維を含み、炭素繊維とそれを結合させるバインダーである樹脂材料とが層状に形成された構造であるため、穿孔加工では、樹脂材料又は金属材料の単独材料からなる被加工材よりも加工部分にバリが発生しやすく、加工時のスラスト抵抗により層間剥離が発生しやすい。こうした繊維強化複合材料の穿孔加工に関する課題に対して、上記の特許文献1及び2に記載された技術では実用面で十分な効果が得られない。ここで「スラスト抵抗」とは、ドリル加工における穿孔送り方向と反対方向にかかる抵抗力のことである。
【0008】
特許文献3では、特許文献2と同様にドリルの先端側に小径部を形成するだけの対応であるため、被加工材がCFRPの場合、特許文献3に記載された技術でもバリの抑制に関して満足な効果が得られない。
【0009】
このため、CFRPの穿孔加工において高品位の加工処理が求められるときには、特許文献4に記載されているような専用のドリルが採用されているが、特許文献4に記載されたダブルアングルドリルは耐久性に問題があり、30〜40穴の加工回数で加工部分にバリが発生して新しいドリルとの交換が必要となる。
【0010】
特許文献4に記載されたドリルは、下穴加工部と仕上げ加工部を有する2段構造のドリルであり、下穴加工部で発生したバリを仕上げ加工部で取り除く加工形態をとっている。しかし、仕上げ加工部と下穴加工部との間の径差を大きくした形状で、切削機構は通常のドリル加工と同じで、むしれやバリの抑制を根本的に解決するものではない。
【0011】
このため、特許文献4では、ねじれ角を小さくし切屑排出性を良くすることで、切屑づまりによるバリの発生を抑える対策を行っている。しかし、加工部を直線状の切り刃構造とするだけでは、加工時のスラスト抵抗の低減を図ることができず、工具刃先の耐摩耗性向上にはつながらないため、特許文献4に記載された技術でも満足な効果が得られない。
【0012】
特許文献5では、下穴加工部が複数の段状構造であるため、拡径時のドリルが受けるスラスト抵抗が大きく、工具刃先の耐摩耗性向上に問題がある。
【0013】
本発明は、こうした従来技術の課題を鑑みてなされたものであって、テーパ形状を有するテーパ部及びストレート部を備えたドリルによる複合加工を行うことで、被加工材にバリや層間剥離をほとんど発生させず高品位の穿孔加工を1工程で行うことができるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る複合材料用ドリルは、繊維強化複合材料を少なくとも一部に含む被加工材に穿孔する複合材料用ドリルであって、先端切れ刃が形成された先端部と、前記先端部の後端側に連接して形成されるとともに先端側直径及び当該先端側直径よりも大径の後端側直径の径差でテーパ形状に形成されたテーパ部とを有し、前記テーパ部の外周には、螺旋状にねじれた外周切れ刃が形成されて連続的に穿孔径が大きくなるように設定され、また前記テーパ部の後端側に連接して形成されるとともに前記テーパ部の前記後端側直径よりも大径の仕上げ加工径が形成可能となるように全体が同径に形成されたストレート部を有していることを特徴とする。さらに、前記テーパ部には、前記外周切れ刃に沿って螺旋状にねじれた切屑排出溝が形成されていることを特徴とする。さらに、前記テーパ部は、その先端側外径及び後端側外径に接する外径線とドリル軸中心線との間のテーパ角を45°以下に設定していることを特徴とする。さらに、前記先端部の前記先端切れ刃は、60°〜140°の先端角を有しており、前記テーパ部の前記外周切れ刃は、前記先端切れ刃と連続して形成されているとともに前記テーパ部のランド外周に接する円錐面に対してすくい角又はすくい角及び逃げ角が形成されていることを特徴とする。さらに、前記先端部、前記テーパ部及び前記ストレート部は、同軸状に一体化されていることを特徴とする。さらに、前記ストレート部は、丸ランドドリル状又はリーマ状に形成されていることを特徴とする。さらに、前記先端部、前記テーパ部及び前記ストレート部の軸心を回転軸心に合致させていることを特徴とする。さらに、前記テーパ部及び前記ストレート部の間の連接部は、前記ストレート部の先端側外径が前記テーパ部の後端側外径に向けてテーパ状に縮径して連接していることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る機械加工方法は、上記のドリルを用いて繊維強化複合材料を少なくとも一部に含む被加工材に穿孔する機械加工法であって、前記先端部の前記先端切れ刃及び前記テーパ部の前記外周切れ刃により前記被加工材に下穴加工を行い、形成された下穴に前記ストレート部により仕上げ加工を行って穿孔することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る機械加工装置は、上記のドリルを保持するとともに前記ドリルの中心軸を中心に回転駆動する駆動手段と、繊維強化複合材料を少なくとも一部に含む被加工材を支持する支持手段と、前記ドリルを前記被加工材に対して穿孔加工を行うように前記駆動手段及び/又は前記支持手段を相対的に移動させる移動手段とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る複合材料用ドリルは、下穴をテーパ部で切削抵抗を低く抑えながら拡径して穿孔加工でき、加工部分にバリが生じにくく、さらに被加工材に対して穿孔加工方向にかかるスラスト抵抗も低減し、複合材料内の境界面に対する剥離力も減少するため層間剥離が生じにくい。また、仕上げ加工を行うストレート部をテーパ部と同軸に設定して連接一体化した構成で行うため、高精度の穿孔加工を行うことができる。
【0018】
また、先端切れ刃を有しテーパ部のランド外周に接する円錐面に対してすくい角又はすくい角及び逃げ角が形成された外周切れ刃と、それに連接したストレート部を備えているので、切削抵抗を低減させ、バリや層間剥離をほとんど発生させず高精度の穿孔加工が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る第一実施形態に関する側面図である。
【図2】図1に示すドリルの先端部に関する正面図である。
【図3】図1のA−A線矢視の断面図である。
【図4】図1のB−B線矢視の断面図である。
【図5】本発明に係る第二実施形態に関する側面図である。
【図6】図5に示すドリルの先端部に関する正面図である。
【図7】図5のC−C線矢視の断面図である。
【図8】図5に示すドリルの外周切れ刃に関する拡大断面図である。
【図9】外周切れ刃を形成するテーパ部のテーパ角及び加工時に加わるスラスト抵抗についてモデルを用いた説明図である。
【図10】従来のストレートツイストドリルと本発明のドリルの切削作用との違いに関する説明図である。
【図11】本発明に係るドリルを用いた場合の機械加工方法に関する説明図である。
【図12】本発明に係るドリルを用いた機械加工装置に関する外観斜視図である。
【図13】切削試験における測定結果を示す表である。
【図14】貫通穴付近のバリの発生の有無に関する観察結果を示す表である。
【図15】貫通穴付近のバリの発生の有無を撮影した写真を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について、本発明を二つのねじれ溝を有する2枚刃ドリルに適用した場合について、第一実施形態としてストレート部をリーマ状に形成したもの、第二実施形態としてストレート部を丸ランドドリル状に形成したものの二形態について図面を参照して説明する。
【0021】
本発明に係る第一実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。図1は、第一実施形態に関するドリル1の側面図である。図2は、図1のテーパ部を先端側から後端側に向かって見た正面図である。図3は、図1のA−A線矢視の断面図である。図4は、図1のB−B線矢視の断面図である。
【0022】
本実施形態に係るドリル1は、2枚刃ドリルであって、シャンク2の先端にリーマを形成するストレート部3を連接し、ストレート部3の先端にテーパ部4を一体に連接してなる。テーパ部4の先端には、先端部である先端切れ刃5が形成されている。
【0023】
先端切れ刃5は、被加工材に対して最初に食付きを行い、切削加工を行う切れ刃で、テーパ部4に形成された外周切れ刃7による拡径加工を誘導するものである。また、その先端角を60°〜140°の範囲で形成することでドリルの食付き性および求心性が向上し、ドリルの回転ぶれが低減する。
【0024】
図1に示すように、ローソク研ぎ形状の刃立て面中央部の突起部と切り刃面との軸方向段差長さL1は、0.5mm以上に設定される。刃立て面中央部を切り刃面よりも突出させることで、下穴加工時の求心性が良くなる。先端切れ刃5の先端角α1は、90°の角度に設定することで、ドリル先端の剛性と求心性を向上させ、先端切れ刃5の切れ味が良くなる。
【0025】
テーパ部4は、先端側外径D1と後端側外径D2の径差で形成されるテーパ状の形態をなし、その後端側にはストレート部3が一体に連接されている。ストレート部3は、テーパ部4よりも大径に形成されている。ここで、「テーパ」とは、先端側外径及び後端側外径に接する直線とドリル中心軸との間に所定の角度が設定されている形状を意味する。
【0026】
テーパ部4は、図2に示すように、ローソク研ぎ形状とし、先端切れ刃5と連続して形成される2枚の外周切れ刃7を有する。先端側外径D1から後端側外径D2まで形成されるテーパ状外周には、螺旋状にねじれた外周切れ刃7が形成されて連続的に穿孔径が大きくなるように設定され、外周切れ刃7に沿って螺旋状にねじれた切屑排出溝6が形成されている。
【0027】
テーパ部4の外周に設けられる切屑排出溝6は、ねじれ角α3をもつ溝として形成される。切屑排出溝6のねじれ角α3は、先端角の大きさや被加工材の材質にもよるが、切れ刃が鋭くなりすぎて欠け易くなることを防止するために、60°以下に設定することが好ましく、60°以下に設定することで複合材料の繊維材料を含んだ切屑を速やかに排出できる。
【0028】
図3に示すように、外周切れ刃7は、マージン8及び切屑排出溝6の交差稜で形成されており、テーパ部4のランド外周に接する円錐面に対して正のすくい角α4を10〜30°に設定した切れ刃として形成される。このように形成することで、刃先の角度が鋭くなり切れ味を著しく向上させることができる。
【0029】
図1に示すように、テーパ部4の先端側外径D1及び後端側外径D2の径差から生じるテーパー角α2は、45°以下に設定される。テーパ角α2が45°より大きくなるとスラスト抵抗が回転力を上回るため、大きいバリが発生してストレート部で確実に除去することができなくなる。テーパ部4の先端側外径D1から後端側外径D2までの長さL2は、テーパ角α2で決定される。
【0030】
図3に示すように、テーパ部4の外周にはマージン8が形成されており、10〜30°の正のすくい角α4を有する切れ刃として設定される。
【0031】
図1及び図4に示すように、ストレート部3の先端にはテーパ部4が連接され、ストレート部3の後端にはシャンクが連接される。特に、テーパ部4とストレート部3との連接部においては、極端な段差形状を無くすために、ストレート部3の先端側がテーパ状に加工されている。
【0032】
ストレート部3は、下穴加工を行うテーパ部4によって切り残された部分を整形加工するためにリーマ状に形成されており、テーパ部4の後端側外径D2よりも0.01mm〜0.1mm大径の仕上げ加工径D3に形成されている。先端切れ刃5、テーパ部4及びストレート部3の軸心を回転軸心に合致させ、テーパ部4及びストレート部3の間の連接部は、ストレート部3の先端側外径がテーパ部4の後端側外径に向けてテーパ状に縮径して同軸度0.01の公差で連接されて加工を行うことで、バリを発生させず加工品質の良い穿孔加工が可能となる。また、先端切れ刃5、テーパ部4、ストレート部3及びシャンク2についても、同軸度0.01の公差で連接されている。
【0033】
ドリルの素材としては、超硬合金、ハイス、工具鋼などが挙げられるが、下穴加工を行うテーパ部4及び先端切れ刃5には超硬合金を使うのが望ましい。また、テーパ部4及びストレート部3は、それぞれ異なる素材で構成してもよい。
【0034】
繊維強化複合材料の穿孔加工では、ドリル刃先のチッピングや磨耗が激しいため、ドリル表面をダイヤモンド薄膜やDLC膜でコーティングすることが望ましい。
【0035】
ドリル1は、公知の機械加工装置に装着され、被加工材として複合材料の穿孔加工に用いられる。複合材料としては、繊維強化複合材料の穿孔加工に好適であり、特に繊維が層状に積層した複合材料に好適である。繊維強化複合材料としては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、ガラス長繊維強化プラスチック(GMT)、ボロン繊維強化プラスチック(BFRP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP, KFRP)、ポリエチレン繊維強化プラスチック(DFRP)が挙げられる。なお、被加工材は、一部に繊維強化複合材料を含むものでもよく、特に限定されない。
【0036】
次に、本発明に係る第二実施形態を図5〜図8に基づいて説明する。図5は、本発明に係る第二実施形態に関する側面図である。図6は、図5に示すドリルの先端部に関する正面図である。図7は、図5のC−C線矢視の断面図である。図8は、図5に示すドリルの外周切れ刃に関する拡大断面図である。
【0037】
本実施形態に係るドリル10は、図5に示すように、先端部である先端切れ刃14、外周切れ刃16を有するテーパ部13、丸ランドドリル状に形成されたストレート部12及びシャンク11から構成され、それぞれが同軸上に連接一体化されて構成する。
【0038】
ドリル10は、2枚刃ドリルであって、シャンク11の先端にストレート部12を連接し、ストレート部12の先端にテーパ部13を一体に連接してなる。テーパ部13、ストレート部12及びシャンク11は、同軸度0.01の公差で連接される。
【0039】
テーパ部13は、先端側外径D4及び後端側外径D5の径差で形成されるテーパ状の形態をなし、その後端側にはストレート部12が一体に連接されている。ストレート部12は、テーパ部13よりも大径に形成されている。テーパ部13の先端側には、先端角β1を有する先端切れ刃14が連接されている。
【0040】
テーパ部13の先端側外径D4から後端側外径D5までに形成されるテーパ状外周には、螺旋状にねじれた外周切れ刃16が形成されて連続的に穿孔径が大きくなるように設定され、外周切れ刃16に沿って螺旋状にねじれた2条の切屑排出溝15が形成されている。ストレート部12は、下穴加工部であるテーパ部13によって切り残された部分を整形加工するために丸ランドドリル状に形成されている。
【0041】
図5に示すように、先端部である先端切れ刃14は、刃先の稜線17及び18で先端角β1が形成されており、先端角β1は、60°〜140°の範囲に設定されている。
【0042】
図5に示すように、テーパ部13及びストレート部12の外周には、切屑排出溝15がねじれ角β3で螺旋状に連続して形成されている。切屑排出溝15のねじれ角β3は、先端角の大きさや被加工材の材質にもよるが、切れ刃が鋭くなりすぎて欠け易くなることを防止するために、60°以下に設定することが好ましく、60°以下に設定することで複合材料の繊維材料を含んだ切屑を速やかに排出できる。
【0043】
下穴加工部であるテーパ部13の外周切れ刃16は、図3に示すようなマージン8が設定されておらず、図6に示すように、テーパ部13のランド外周に接する円錐面に対して、すくい角β5及び逃げ角β4をそれぞれ5°〜20°の範囲で設定しており、テーパ部13の外周縁に外周切れ刃16が形成されている。
【0044】
図5に示すように、テーパ部13の先端側外径D4及び後端側外径D5の径差から生じるテーパー角β2は、45°以下に設定される。テーパ角β2が45°より大きくなるとスラスト抵抗が回転力を上回るため、大きいバリが発生してストレート部で確実に除去することができなくなる。テーパ部13の先端側外径D4から後端側外径D5までの長さL5は、テーパ角β2で決定される。
【0045】
図7は、図5に示すC−C断面をストレート部12の後端側からテーパ部13方向に見たストレート部12の断面図である。ストレート部12は、丸ランド形状に形成され、テーパ部13の後端側外径D5よりも0.01mm〜0.1mm大径の仕上げ加工径D6に形成されている。先端切れ刃14、テーパ部13及びストレート部12の軸心を回転軸心に合致させ、テーパ部13及びストレート部12の間の連接部は、ストレート部12の先端側外径がテーパ部13の後端側外径に向けて縮径したテーパ形状で連接している。また、先端切れ刃14、テーパ部13、ストレート部12及びシャンク11は、同軸度0.01の公差で一体化される。
【0046】
ドリル10本体の表面は、図8に示すように、ダイヤモンドからなる被膜19に覆われている。被膜19は、例えば、周知のCVD法又はPVD法で形成することができ、DLC膜であってもよい。繊維強化樹脂材料等の複合材料の加工に特化したドリルでは、刃先を鋭くし切れ味を向上させることが必要で、ドリル母材に超微粒子超硬合金材料を使用することで、刃先先端半径を小さく整形することができる。また、刃先を鋭くした場合刃先先端の欠けや磨耗が発生しやすいため、ナノダイヤモンドコーティングで被膜19を形成することで、刃先先端半径の径を大きくすることなく、外周切れ刃の良好な切れ味を長時間維持することができる。また、刃先の磨耗等により切れ味が悪くなった場合でも、下穴加工時に発生したバリをストレート部12によって効果的に除去することができるので、高精度の穿孔加工を安定して行うことができる。
【0047】
図9は、外周切れ刃を形成するテーパ部のテーパ角及び加工時に加わるスラスト抵抗にについてモデルを用いた説明図である。テーパ部は、テーパ角α2(第二実施形態ではβ2)とし、穿孔加工時に加わる切削抵抗Fは、テーパ面中心から中心線に向かって引いた垂線との交点までをベクトルで表示する。そして、切削抵抗Fの垂直成分をスラスト抵抗H、Fの水平成分を背分力Uとする。
【0048】
図9(a)は、テーパ角α2が45°未満のモデルであり、図9(b)は、テーパ角α2が45°のモデルであり、図9(c)は、テーパ角α2が45°より大きいモデルであり、それぞれ切削抵抗F、スラスト抵抗H及び背分力Uについてベクトル表示している。図9(a)、図9(b)及び図9(c)をみると、テーパ角α2が大きくなるに従いスラスト抵抗Hが増加するようになっており、テーパ角α2を45°以下とすることでスラスト抵抗Hが小さくなってバリ及び層間剥離の発生の低減に寄与することができる。
【0049】
図10は、従来のストレートツイストドリルと本発明のドリルの切削作用との違いに関する説明図である。図10(a)は、ストレートツイストドリルの切削作用に関する説明図であり、先端に設けられた直線状の刃が軸方向に回転して切削するようになっており、鉋で切削する場合と同様の切削作用である。図10(b)は、本発明のドリルによる切削作用に関する説明図であり、部分B2は、ストレートツイストドリルの切削作用と同様に切削するが、テーパ部に設けた外周切れ刃を誘導するための求心性向上の役割も担っている。部分B1は、テーパ部の外周切れ刃による切削作用を示し、テーパ部に設けた外周切れ刃は円弧状で螺旋状に形成され全体としてテーパ状に形成されているため、外周切れ刃及び被加工材は、点接触による切削が連続的に行われ、粉体状の切屑を生成し、外周切れ刃の磨耗低減に寄与する。また、外周切れ刃は、ねじれ角による傾斜とドリル回転に伴う外周面方向に沿う切れ刃の回転により、ナイフで切削する場合と同様の切削作用となり、鋭い切れ味が得られる。また、外周切れ刃は、螺旋状で全体としてテーパ状に形成されているため、拡径を行う切れ刃の総延長を長く取ることができるため、工具寿命の向上にも寄与する。
【0050】
図11は、本発明に係るドリルを用いた場合の機械加工方法に関する説明図である。図11(a)では、穿孔開始直前の状態を示しており、ドリル10の先端部が板状の被加工材Mに対して垂直に当接するように設定されている。次に、図11(b)では、ドリル10が回転しながら先端部の先端切れ刃が被加工材M(例;繊維強化複合材料)に対して最初に食付きを行い、テーパ部の外周切れ刃による拡径加工を誘導する。次に、図11(c)は、ドリル10が回転しながらテーパ部が被加工材Mに進入して外周切れ刃による拡径加工が行われる。この段階では、加工部分に層間剥離及びバリを発生させないで下穴加工が行われる。次に、図11(d)では、ドリル10が回転しながらストレート部が被加工材に進入して仕上げ加工が行われる。そして、ストレート部が仕上げ加工を行いながら被加工材Mから抜け出た後、ドリル10を引き上げて穿孔加工が終了する。
【0051】
図12は、本発明に係るドリルを用いた機械加工装置に関する外観斜視図である。機械加工装置100は、ボールねじ機構又はリニアモータ機構等によるXYZの3軸方向の可動機構並びにX軸及びY軸周りの回転機構を付加した5軸機構を備える移動手段を備えている。Z軸移動機構101は、スピンドル軸103に取り付けられたドリル104を支持して上下方向に移動させる。移動手段としては、ボールねじ機構又はリニアモータ機構が用いられる。また、Z軸移動機構101は、スピンドル軸103を回転駆動する駆動源を備えている。
【0052】
XY軸移動機構102は、X軸又はY軸あるいはXY複合軸に設置テーブルを移動させる。移動手段としては、ボールねじ機構又はリニアモータ機構が用いられる。設置テーブルには、バイス又は拘束治具等の支持具106が配置されており、支持具106に繊維強化複合材料等からなる被加工材105が載置固定されている。XY軸移動機構102は、ボールねじ機構又はリニアモータ機構により駆動される。
【0053】
そして、Z軸移動機構101及びXY軸移動機構102を制御して被加工材105に対してドリル104を回転駆動しながら穿孔加工が行われる。
【0054】
なお、支持具106としては、被加工材105の厚み方向又は面方向から挟む機能を有するものを用いてもよい。また、スピンドル軸をX軸又はY軸に配置するようにすることもできる。
【実施例】
【0055】
[実施例1]
図5に示すように、先端切れ刃を有する先端部並びに外周切れ刃が形成されたテーパ部及びストレート部を備えたドリルについて切削試験を行い、スラスト抵抗(ドリル軸方向にかかる力)測定した。
【0056】
切削試験では、外周切れ刃にマージンが設定されていない図5に示す4種類のドリル及び比較例として3種類のドリルの計7種類のドリルを使用した。
【0057】
図5に示すドリルとしては、ドリル母材を超硬合金、ダイヤモンドコーティングとし、ドリルの先端部の先端角β1=135°、ドリル全長103mm、テーパ部のテーパ角β2=2°、テーパ部の先端側外径D4=3.0mm、テーパ部の後端側外径D5=5.0mm、ストレート部の外径D6=5.0mm、シャンク径6.0mm、テーパ部の外周切れ刃の逃げ角β4=10°、テーパ部の外周切れ刃のすくい角β5=10°を共通仕様とし、切屑排出溝のねじれ角β3を、β3=20°(ドリルA)、β3=30°(ドリルB)及びβ3=40°(ドリルC)に設定した3種類ドリルA〜Cを使用した。また、ドリル母材をハイスとし、TiCNコーティングを行い、ねじれ角β3=20°(ドリルD)に設定し、それ以外はドリルA〜Cと同様に設定したドリルDの計4種類を使用した。
【0058】
比較例のドリルとしては、ドリル外周縁の外周切れ刃にテーパ角が付いていない(β2=0°)ドリルを比較対象とし、ドリル母材を超硬合金、ダイヤモンドコーティング、ドリルの先端角β1=118°、外周切れ刃のねじれ角β3=30°、ドリルの外径D4=D5=D6=5.0mm(ドリルE)、ドリル母材を超硬合金、TiCコーティング、ドリルの先端角β1=140°、外周切れ刃のねじれ角β3=30°、ドリルの外径D4=D5=D6=5.0mm(ドリルF)、ドリル母材をハイス、先端形状を特殊刃立て(ローソク形)、外周切れ刃のねじれ角β3=30°、ドリルの外径D4=D5=D6=5.0mm(ドリルG)の計3種類を使用した。
【0059】
切削試験は、以下の条件で行い、穿孔加工におけるスラスト抵抗(ドリル軸方向にかかる力)測定を目的として、炭素繊維強化プラスチックの切削加工を行った。
<切削速度>
ドリル母材が超硬合金の場合100m/min
ドリル母材がハイスの場合24m/min
<ドリルの送り速度>
ドリル母材が超硬合金の場合200mm/min
ドリル母材がハイスの場合150mm/min
<被加工材>
炭素繊維強化プラスチック(東レ製;型式T700)からなる板厚5mmの板状体
<切削油>
使用しない
<ドリル加工機>
株式会社松浦機械製作所製縦型MC(型式MC−510VF−Gr 型番BT40)
<切削抵抗測定機器>
キスラー社製切削動力計(型式9123C)
【0060】
図13は、外周切れ刃にマージンが設定されていない図5に示すドリルA〜D及び比較例のドリルE〜Gを使用した場合の切削試験における測定結果を示す表である。スラスト抵抗(単位;N)については、1穴〜5穴加工時の測定値の平均値を算出した。
【0061】
スラスト抵抗の値をみると、実施例ではすべて50N以下であり、比較例よりも低い値となった。また、一般に炭素繊維強化プラスチックの切削には不適とされる、母材がハイスからなるドリルDで切削した場合でも、比較例の超硬合金からなるドリルEよりスライス抵抗が低く、良好な切削特性を示している。
【0062】
以上の結果から、図5に示すように、先端切れ刃を有する先端部並びに外周切れ刃が形成されたテーパ部及びストレート部を備えたドリルは、スラスト抵抗の低減に効果があることがわかった。また、外周切れ刃のねじれ角を大きくすることでスラスト抵抗が低下することがわかった。
【0063】
[実施例2]
次に、実施例1と同様の7種類のドリルを用いて同様の切削試験を行い、被加工材(炭素繊維強化プラスチック)の貫通穴付近のバリの有無について肉眼で観察した。
【0064】
図14は、7種類のドリルによる貫通穴付近のバリの発生の有無について、10穴、40穴、80穴、120穴の加工数までそれぞれ加工した場合の観察結果を示す表である。
【0065】
観察結果をみると、実施例であるドリルA及びBについては、120穴の加工時においてもバリの発生は無かった。ドリルCについては、92穴目で折損した。ドリルCの折損は、切屑排出溝の角度であるねじれ角を大きくすることにより、ドリル心厚が細くなるとともに切屑の排出性の悪化が相乗して生じたと考えられる。一方、ドリルDについては、ハイス製のドリルでありながらドリルEとほぼ同等の効果を得ることができ、実施例のドリルは、バリ発生の抑制効果が大きいことがわかった。
【0066】
図15は、実施例であるドリルA及び比較例であるドリルE〜Gについて切削試験後のバリ発生の有無について、1穴、10穴、40穴、100穴の加工数までそれぞれ加工した場合における貫通穴を撮影した写真を示す表である。
【0067】
写真で示すように、比較例のドリルを使用した場合、1穴目からバリが発生して良好な加工ができなかった。
【0068】
以上の結果から、本発明に係るドリルのように、先端切れ刃を有する先端部、外周切れ刃を有するテーパ部及び仕上げ加工を行うストレート部を連接一体化した構造を備えることで、複合材料に対してバリ及び層間剥離の発生しない安定した切削加工を行うことが可能となり、簡易構造かつ低コストで高品位・高精度の穿孔加工を1本のドリルで実現することができた。
【符号の説明】
【0069】
1・・ドリル、2・・シャンク、3・・ストレート部、4・・テーパ部、5・・先端切れ刃、6・・切屑排出溝、7・・外周切れ刃、8・・マージン、10・・ドリル、11・・シャンク、12・・ストレート部、13・・テーパ部、14・・先端切れ刃、15・・切屑排出溝、16・・外周切れ刃、17・・刃先の稜線、18・・刃先の稜線、19・・被膜、100・・機械加工装置、101・・Z軸移動機構、102・・XY軸移動機構、103・・スピンドル軸、104・・ドリル、105・・被加工材、106・・支持具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化複合材料を少なくとも一部に含む被加工材に穿孔する複合材料用ドリルであって、先端切れ刃が形成された先端部と、前記先端部の後端側に連接して形成されるとともに先端側外径及び当該先端側外径よりも大径の後端側外径の径差でテーパ形状に形成されたテーパ部と、前記テーパ部の後端側に連接して形成されるとともに前記テーパ部の前記後端側外径よりも大径の仕上げ加工径が形成可能となるように全体が同径に形成されたストレート部とを有し、前記テーパ部の外周には、螺旋状にねじれた外周切れ刃が形成されて連続的に穿孔径が大きくなるように設定されていることを特徴とする複合材料用ドリル。
【請求項2】
前記テーパ部には、前記外周切れ刃に沿って螺旋状にねじれた切屑排出溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
前記テーパ部は、前記先端側外径及び前記後端側外径に接する外径線とドリル軸の中心線との間のテーパ角を45°以下に設定していることを特徴とする請求項1又は2に記載のドリル。
【請求項4】
前記先端部の前記先端切れ刃は、60°〜140°の先端角を有しており、前記テーパ部の前記外周切れ刃は、前記先端切れ刃と連続して形成されているとともに前記テーパ部のランド外周に接する円錐面に対してすくい角又はすくい角及び逃げ角が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のドリル。
【請求項5】
前記先端部、前記テーパ部及び前記ストレート部は、同軸状に一体化されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のドリル。
【請求項6】
前記ストレート部は、丸ランドドリル状又はリーマ状に形成されていることを特徴とする請求項5に記載のドリル。
【請求項7】
前記先端部、前記テーパ部及び前記ストレート部の軸心を回転軸心に合致させていることを特徴とする請求項5又は6に記載のドリル。
【請求項8】
前記テーパ部及び前記ストレート部の間の連接部は、前記ストレート部の先端側外径が前記テーパ部の前記後端側外径に向けてテーパ状に縮径して連接していることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載のドリル。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のドリルを備えた穿孔加工具。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載のドリルを用いて繊維強化複合材料を少なくとも一部に含む被加工材に穿孔する機械加工法であって、前記先端部の前記先端切れ刃及び前記テーパ部の前記外周切れ刃により前記被加工材に下穴加工を行い、形成された下穴に前記ストレート部により仕上げ加工を行って穿孔することを特徴とする機械加工方法。
【請求項11】
請求項1から8のいずれかに記載のドリルを保持するとともに前記ドリルの中心軸を中心に回転駆動する駆動手段と、繊維強化複合材料を少なくとも一部に含む被加工材を支持する支持手段と、前記ドリルを前記被加工材に対して穿孔加工を行うように前記駆動手段及び/又は前記支持手段を相対的に移動させる移動手段とを備えていることを特徴とする機械加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−104766(P2011−104766A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234838(P2010−234838)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【Fターム(参考)】